でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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作中の戦術論は適当です。


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「もうすぐ魔軍指令ハドラーが、アンタを殺しにやって来るからだ」

 

「どうして貴方がソレをご存知なのかは一先ず置いておくとしまして……魔軍司令ハドラーですか……それは由々しき事態ですね。私はハドラーが蘇ったとばかり考えていましたが、更に上がいる……と、いうコトで宜しいでしょうか?」

 

 ハドラーの肩書きの違いから″更に上″が存在すると悟るアバンの理解力が凄いのは解ったが、イチイチ探りを入れてくるのは止めてもらいたい。

 

「何故俺に聞く? ハドラーがアンタを狙うと知るのは、昨日倒した将軍から聞いたダケだ」

 

 無論、嘘だ。

 今更誤魔化しても意味がないとは解っちゃいるが、ここでアバンと長々話している暇は無い。

 今、この瞬間にハドラーが来ないとも限らないのである。

 

「そう言うことにしておきましょうか。時間が無いのは分かりました……ですが、貴方の言葉を信じる為にも、二つばかり聞いておかなければなりません」

 

 ピースサインを俺に向けたアバンの表情は真剣そのもので、ふざけている訳では無さそうだ。

 

「何だよ? 手短に頼むぞ。ハドラーが此処に来る分には構わねぇが、ダイ達と出会ったら厄介だ」

 

「それならば心配は無用です。あの二人ならば魔王ハドラーにも遅れはとりませんよ……しかし、急ぐ理由がダイ君達でしたか。ヤハリ貴方は優しい心をお持ちの様ですね。安心しました」

 

「違うっての……これは戦略だ。それで? 聞きたい事はなんだよ?」

 

「戦略、ですか? ……どうやらでろりん君は私よりも広い視野をお持ちのようですね。そんな貴方に聞く必要もなさそうですが念のためにお聞かせ下さい……貴方は何の為に闘うのでしょうか?」

 

「……生き延びる為だ」

 

「それでしたら魔王軍と闘わなければ宜しいのでは? 生きるダケならば魔王軍に寝返る、というのも非常に有効な手段です。 でろりん君ともあろうお方がこの様な簡単な理屈に気付かないとは思えません。 余り考えたく有りませんが貴方が既に寝返っており、スパイとして人類サイドに与しているなら脅威です。納得のいく理由を聞かせて頂きたいモノです」

 

 アバンは両手を後ろで組んで口をへの字に結んでいる。

 

 俺の事情を察しているであろうアバンなら、スパイだなんて考えてもいない筈がコレである。

 例え嘘でもこう言われてしまえば、話を進める為に答えない訳にはいかない。

 

「ちっ……俺は……自分が生き延びる為にやってんだよ……こんなの誰だってそうだろ? 但し、俺は我が儘だから自分ダケが生き残った世界は嫌なんだ……今在る世界で家族や仲間に囲まれて生きる! 俺はその為に闘うんだよ……これで満足か?」

 

「貴方も困った人ですね〜。それは、つまり″世界を護る為に闘う″……と、言う事ではありませんか?」 

「……俺にはそう言う資格が無いんだよ」

 

 見方を変えればアバンの指摘は当たっているかも知れない。

 だが、本来なら俺が闘わなければ世界は存続したんだ……破壊の危機を自らの行いで招いておいて″世界の為に闘う″なんて、マッチポンプもいいとこだ。

 そんな事は冗談でしか言えない。

 

「でろりん君・・・よく、解りました。では次の質問にしましょう。貴方はこれから先どうなさるおつもりでしょうか?」

 

 目を細めたアバンがそのまま目を閉じて何かを考えたかと思えば、再び明るい声で詰問を開始する。

 

「そうだなぁ……俺はもう悪目立ちしているから影で動くのは無理だし……基本は世界樹で死なない程度に闘い、魔王軍の注意を引き付ける、」

「そして、私はダイ君の存在を隠して指導に励む……謂わばダイ君は人類の切り札……そう言うことで宜しいでしょうか?」

 

 俺の言葉を遮ったアバンが頼みたかった事の半分を口にする。

 

 勿論、最後まで隠し通せるなんて思っちゃいない。

 そもそもポップは兎も角ダイが黙って隠れているとか考えられない。

 要は、魔王軍の総攻撃を確実にはね除けられる力が身に付くまで隠せれば充分なのだ。

 魔王軍だって馬鹿じゃないが、俺とバランで暴れまくり注意を引き付ければ相対的にダイ達は軽視されるのである。

 

「惜しいな……隠すのはダイとポップだ」

 

 ニヤリと口元を上げて短く告げた俺は、悪人面をしていただろう。

 

 この後、少しの問答を重ねたアバンは、ノリノリで″とある呪文″を俺に唱えて修行へと戻っていくであった。

 

 アバンの装備は原作通り心許ないモノであったが、右の籠手とロン・ベルク作の剣、オマケに魔法の聖水も渡しておいたし、まぁ、大丈夫だろう。

 

 ダイに関してもある程度の理解は得られたし、あとはハドラーがノコノコ現れるのを待つばかりだ。

 

「武人ハドラーに会ってみたかったんだがな・・・奴にはここで退場してもらう」

 

 ここでハドラーを倒せれば厄介なフレイザードも消える筈だ。

 

 決意をひとりごちた俺は、レムオルを唱えて姿を眩ませると宙に浮いてダイ達の修行見物に向かうのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

「オッホン……それでは通常の特訓を行いたいと思います……皆さん、アーユーレディ?」

 

「「はい!」」

 

 座学は特訓じゃねーだろ?

 

 姿を眩まし木陰に隠れて内心で突っ込む俺の視線の先で、朝食を終えたダイ達が姿勢を正して席に着いたところでアバンの青空教室が始まった。

 ハドラーの襲撃に備えて力を温存する意味もあるのだろうが、この状況下でやるべき事なのか、正直疑問符が付く。

 

「本日は、様々な武器の取り扱いについて説明をしたいと思います」

 

 そう言ったアバンは、木製の剣や槍等の様々な武器を並べてみせた。

 

「はい、先生! 俺は魔法使いなので寝てても良いですか?」

 

「ダメだよぉ…俺だって剣しか使わないのに聞くんだからさぁ」

 

「二人ともバッドですねぇ……良いですか? これはダイ君にも言える事ですから良く聞いて下さい。己の扱う武器以外を知るという事は、それは即ち、身を護る術を知る事に繋がるのです! 例えば槍です。剣に比べ遠くの相手を攻撃出来る反面、懐に入られたら少々動きにくくなります。つまり、剣を持つダイ君なら槍を持つ相手には懐に飛び込むで優位に闘えます。魔法使いのポップならば、剣を持つ相手以上に慎重に距離を保たなければならないのです」

 

「相手に合わせて闘えば良いのですか?」

 

「そうではありません。大切なのは、己の力量を知り、相手の力量を見抜き一番効果的な手段を講じる事です。炎で出来たモンスターにメラの炎は効果が無いように、剣が得意な相手に剣で挑む必要も無いのです。 扱えなくても構いません。様々な武器に精通しておけば、それだけで相手の力量を見抜く手助けとなるのです」

 

 おいおい…孫子かよ?

 

 前世の知識を持つ俺にとっては当たり前の価値観だが、個人の力が大きいこの世界では兵法は殆どない。

 鍛え上げれば絶大な力になるこの世界では、誰しもが知らず知らずに己の得意な戦法に頼りがちだ。

 その最たる例が″職業″だろう。

 一芸に秀でるのが悪いとは言わないが、戦士だから剣で闘う、僧侶だから大剣は持たない。

 この様な価値観の元で可能性を狭めている。

 

 この世界で自我を持っての15年で気付いた事がある……前世と同じく、心の持ちようで人は何にだって成れるのだ。

 出来ると信じ、成りたい自分を目指して頑張れば大抵の事は身に付く……俺が良い例だろう。

 恐らく、出来ると信じ努力を重ねれば、いつかは″ギガデイン″だって使える筈だ。

 だが、竜の騎士しか使えないとの先入観が消えない限りは使えない……そんな感じだ。

 

 俺がこれ等に気付けたのは、前世という比較対象があったからだ。

 それを、独学で気付き兵法を産み出すアバンは、この世界において異質な力の持ち主と言えよう。

 大魔王がアバンを畏れたのはこの辺りの価値観が原因だろう。

 

 こうして、和やかな雰囲気の中で実演も交えたアバンの講義は続いていき、木陰に隠れた俺も時折頷いては聞き入るのであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

「地震!?」

 

「……来ましたか」

 

 太陽が南天に差し掛かる前に、デルムリン島に激震が走る。

 

 アバンが此方をチラリと伺い小さく頷いたのを待って、俺は宙へと身を隠す。

 

「ダイ君、ポップ……これから私にお客さんが来ます……あなた方は少し、静かにしていて下さい」

 

 そう告げたアバンは魔法の聖水を飲み干すと、剣を腰に差し籠手の感触を確かめる様に右手を握っては開いている。

 

「せ、先生…」

 

「なんか……ヤバくないっすか?」

 

 ハドラーの放つ威圧感か、ダイとポップもただならぬ雰囲気を感じとった様だ。

 

「大丈夫ですよ……私達は負けません。あなた方はソコを動かないで下さいね」

 

 アワアワと慌てるポップの頭を″ポン″と撫でて落ち着かせたアバンが、実演用の広場へと1人で歩を進める。

 動かない、というより″動けない″2人がアバンの背を見送っている。

 アバンの見立てでは2人の実力は魔王ハドラーにも引けをとらない様だが、初の実践だと考えればこんなもんだろう。

 兄弟子を励ます弟弟子の図を眼下に見ながら、俺は高度を上げて更に待つ。

 

 馬鹿正直に正面から向かい討つ気は更々ない。

 卑怯と罵られようが″あの日″のマトリフの様に上空から様子を伺い、隙有らば急降下して確実に殺す……それが俺の役割だ。

 

 程無く長い金色の髪を靡かせたハドラーが現れた。

 

 魔軍司令″ハドラー″……15年前に世界を席巻した魔王。アバンにとっての仇敵であり、ダイにとっての最大の好敵手。

 尤も、好敵手と呼ぶにはハドラーに成長が必要であり、現時点のハドラーは魔王の使い魔に成り下がった三流魔王に過ぎない。

 原作におけるアバンとハドラーのこの闘いはハドラーに勝利に終わり、師の仇として″アバンの使徒″と幾度となく闘い、その度に互いが成長していったのである。

 紆余曲折を経て大魔王と袂を別つハドラーは、武人としてダイの前に立ちはだかり、最期はポップを助けアバンの腕の中で死を迎える事になる人物である。

 

 だが、この世界ではそうはならない。

 元々この時点でアバンが敗北したのは、ダイの指導で多大な魔法力を消耗した事による影響が大きい。

 互いに万全ならばそう簡単に勝負は決まらないハズである。

 そんな事を考える俺の眼下では、ハドラーと対峙するアバンの剣が抜かれ、今にも闘いが始まろうとしている……と思いきや、アバンはハドラーに背を向けダイ達の元に向かったかと思うと、アストロンと思われる呪文を唱えた。

 

 は……?

 

 何故そうなる?

 一体どんなやり取りがあったのか? 声の聞こえない高度に身を隠したのが裏目に出たか?

 

 困惑する俺を余所に、アバンはダイ達の首に何かを掛けると、輝く六芒星のアクセサリーの前で力強く両腕を組んだハドラーに近寄って行く。

 

 ……ん?

 

 あの姿……ハドラーに違いはないが強化ハドラーか!?

 俺は、ハドラーの視界に入らない様に気を配りながら上空を旋回して正面に回り込む。

 

「嘘だろ……?」

 

 己の目に移ったモノが信じられず、思わず声に出して呟いてしまう。

 

 強化ハドラーどころじゃねぇ…。

 

 アレは……超魔ハドラーかっ!?

 

 だが、何故だ!?

 何がどうなったらこうなる!?

 俺は色々やってきたが、ハドラーとの接点なんか無い筈だぞ!!

 大体、参考にすべき竜魔人を見ていないのに何故できる!?

 

「ベ・ギ・ラ・マァ〜!」

 

 俺が驚き頭を抱えていると、アバンの先制攻撃から戦闘が開始された。

 

 右腕を伸ばしたハドラーが、悠々と掌でベキラマの炎を受け止めた。

 

 なんだ、それ?

 反則だろ?

 

 ベキラマの熱線に変わって黒い炎を纏ったハドラーは、右腕から出現させた剣に炎を伝わらせると、アバン目掛けて一直線に突き進む。

 

 マズイ!?

 いきなりの最強攻撃か!?

 

 最早、隙を伺うなんて悠長な事は言ってられない!

 

 左手の爪を出現させた俺は、ハドラー目掛けて急降下を開始する。

 

「超魔爆炎破!!」

 

 籠手に闘気を集め受けようとするアバン。

 

 間に合え!

 

 ″キィッン″と金属のぶつかり合う音が二つ響き渡る。

 

 超魔爆炎破を受けたアバンが炎に焼かれながら吹き飛び、俺の爪は、ハドラーの影から現れた″人形″に防がれた。

 

 そうか……コイツか。

 コイツが動いてやがったのか……。

 コイツなら竜魔人を見たことがあってもおかしくない。

 

「貴様は……アバン!?」

 

「アバン先生が二人ぃ!?」

 

 人形の攻撃でレムオルの解けた俺は、イタズラ半分に掛けられた″モシャス″によって、アバンの姿形でその姿を現すのであった。

 


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