でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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 土煙が収まると、直立したハドラーが姿をみせる。

 遠目に見るその姿は、ほぼ無傷である。

 

「バケモンかよ……」

 

 超魔ハドラーならコレくらい当たり前と言えるが、これから闘う身にもなってくれと言いたい。

 しかし、ボヤく相手も暇も無さそうだ。

 

 アストロンで固まるダイ達に視線を送ったハドラーが、右手の指先に炎を灯しゆっくりとダイ達に迫る。

 

 まごまごしている暇はない。

 

 僅かに浮き上がった俺は、低空を移動してハドラーの背後に周り込む。

 

「大丈夫だ……この爪なら……不意を付ければ……どんな強度だろうと撃ち貫ける……きっと、大丈夫だ」

 

 黄金の爪先を見詰めた俺は、自分に言い聞かせる様に呟きを繰り返す。

 その爪の輝きが、いつもより鈍って見えたのは俺の不安の現れだろう。

 

 ハドラーがダイ達の直前で立ち止まり、指先の炎が勢いを増した。

 

 行くしかない!

 

 高度を上げた俺は、ハドラー目掛けて爪を突き出して滑空する。

 これで回転を加えれば力が倍に成りそうだが、目が回りそうなので止めておいた。

 

 風をきってハドラーに一気に迫る。

 

 イケる!

 

 そう確信した次の瞬間ハドラーの首が右に動き、俺の爪は虚しく空を切り裂いて、鳩尾に激痛が走る。

 

「がはッ……何故…?」

 

 ハドラーの背後からおぶさる形に成った俺は、避けられ様に肘鉄をくらったらしい。

 

「卑怯者めっ。この俺が二度までも気付かんとでも思ったのか? ふんっ!」

 

 伸ばした左腕を極められ俺は、一本背負いの要領で力任せにぶん投げられる。

 ″ボキッ″と鈍い音が骨を伝わり耳に響き、左腕に激痛が走る。

 視界が目まぐるしく回転したかと思うと、何かにぶつかり大地に打ち付けられる。

 痛みと衝撃から″ポワン″と煙をあげてモシャスが解除された。

 

「でろりん!? どうして!?」

 

「テメェっ、あん時のニセ勇者! どうしてお前が先生の真似してんだよ!!」

 

「でろりん……だと? そうか…お前があの強欲者か」

 

 俺を見た3人が三様の感想を述べている。

 どうやらハドラーの耳にも俺の強欲振りは届いていたらしい。

 我ながら、どんだけ強欲だったんだ!? って話である。

 

「ようダイ。久しぶりだな? 何してんだ?」

 

 左肘を押さえて立ち上がった俺は、痛みに耐えてこの場に似つかわしくない声色を絞り出す。

 

 この時期のダイの紋章は怒りによって発現する……ここで怒りを増幅させればアストロンを自力で破り、ハドラーに紋章を披露する事になるのは想像に難くない。

 原作と違い″ダイは竜の騎士である″と隠す理由の無いハドラーにバレるのは、非常にマズイのだ。

 一代限りの竜の騎士の息子……そんなイレギュラーな敵をバーンが黙って見過ごすとは思えない。

 原作以上に狙われても不思議じゃなく、そんな事態は絶対に避けたい。

 

「何って……先生がっ、ハドラーで、メガンテに……でろりんが先生で・・・はっ!? どうしてデルムリン島にでろりんが?」

 

「っつ……落ち着けよ? 何言ってんのか分かんねーって……まぁ、俺はアバンから″空の技″でもバパッと教えてもらおうと思って来たんだ……そしたらコレだ……おー痛てぇ」

 

 痛む間接部を押さえベホイミをかけているが効果がみられない。

 ヤハリ、砕かれた間接を復元するには、意味が解らなくともベホマを使うしかなさそうだ。

 

「先生に空の技を!?」

 

 状況を飲み込めないダイが、おうむ返しに問うてくる。

 

「あぁ……俺の通常攻撃じゃ倒せない野郎が居るんだ……アイツを殺るには空の技が手っ取り早いらしいからな? そこの魔軍司令閣下をブチ殺しても良いんだが、少しバカリ難しそうだ」

 

 チラリと挑戦的な視線をハドラーに送るも、痛みから額に冷や汗が浮かぶ。

 こんなんじゃハドラーの興味を引けそうにない。

 

「大きく出るではないか? 敵の力量も見抜けぬ愚か者か……それとも大言を吐くだけの実力を備えておるのか? 強欲モノよ」

 

 実力に裏打ちされた自信に満ち溢れるハドラーは、卑怯モノの戯れ言、とばかりにマトモに取り合うつもりが無さそうだ。

 

「でろりんは強欲でも強いんだ! お前なんかでろりんがやっつけてやる!」

 

 強欲は否定してくれないのか? ってか勝てないっつーの。

 

 如何なアバンの教えでも、たった一回の講義では冷静に力量を見極める迄には至らない様だ。

 

「おい、ダイっ! 呑気に話してんじゃねぇ! 先生は……アバン先生は、俺達を護る為にメガンテを唱えたんだ……コイツが強いならっ、もっと早く来てれば先生は……死なずに済んだんだっ」

 

 泣きじゃくるポップが俺に怒りをぶつけてくる。

 これぞダイの大冒険七不思議の一つ! 泣きじゃくる鉄の像……なんて考えてる場合じゃないな。

 

 それにしても、俺に向けられるポップの敵愾心は何なんだ?

 アバンを亡くした動揺だけでは無さそうだ……後でアバンからじっくり聞く必要がある。

 

「愚かな弟子よな……其奴の様な卑怯者が現れたとて結果は変わらんわ! 貴様の様な弟子を護る為に死んだとなれば、アバンとて浮かばれまい」

 

 ポップを非難するハドラーであったが、その声に侮蔑の色は含まれておらず、どちらかと言えば諭すかの様な印象を受ける。

 悠然と佇むハドラーからは愚劣な印象も受けず、超魔化しているだけでなく精神的にも原作とは大きく違うと見るべきか?

 

 一体、ハドラーの身に何が起きたというのだろうか?

 

「あぁそうだ……コイツらは未熟者で俺は卑怯者だ……殺す価値なんてないぞ? ササッと帰って疲れを癒すのをオススメするぜ」

 

 ハドラーの変化も気になるが、ポップを侮り俺を見くびるなら好都合だ。

 別に戦闘で勝てなくたって、口からデマカセでハドラーを撤退させれば俺の勝ちになる。

 

 物は試しとばかりに、ハドラーに同意しつつ見逃しを提案してみる。

 ハドラーの精神が武人化しているなら、問答次第で何とかなりそうな気がしないでもない。

 

「そうはいかぬ……何処までも強くなるアバンの弟子は生かしておけぬわ」

 

「あん? 誰の事を言っている?」

 

 まさか、俺の事か!?

 

「小僧共が知る必要はあるまい……知ればきっと後悔するぞ。真実というのは時に残酷なモノよ……何も知らずに死なせてやるのが俺の情けと思うが良いわ」

 

「あぁ……不死騎団長の事か?」

 

 更なる情報を引き出す為にカードを切る。

 会話を続けるには其なりに意味深な台詞も必要になってくる。

 挑発だけでは会話も打ち切られると、今更ながらに学んだのだ。

 

「貴様っ!? 何故、ヤツの事を?」

 

「さぁな? それより情けがあるなら見逃してくれよ?」

 

「貴様は好きにするが良い……時にキサマ、道化はどうした?」

 

 道化はキルバーンの事だろうが、心配している風でもない。

 知らないうちに魔王軍内のパワーバランスに微妙な変化が見られる様だ。

 

「倒した」

 

「ほぅ……しかし、所詮は強欲者の愚かさか……道化を始末したなら逃げれば良いモノを……不意を付けば俺に勝てると有り得ぬ功績に目が眩んだか?」

 

 逃げる?

 

 俺が?

 

 ダイを置いて?

 

 確かにハドラーには勝てねぇ……一瞬掴まれたダケで絶望的な力の差を感じたさ……こうして向かい合うだけでも正直、震えが来る……命が惜しけりゃ逃げの一手だ。

 

 しかし……ダイ達を見捨て生き延びたとして、それで俺は余生を楽しく過ごせるのか?

 

 ・・・

 

 ・・・・・

 

「……クククッ……ハァーハッハッハッ!! それこそあり得ねーぜ!! 知らない様だから教えてやる! 俺こそがアバン・デ・ジニュアールⅢ世が二番弟子、でろりんだ!! アバンの弟子に弟分を見捨てる卑怯モノはいねーんだよ!」

 

 世間の評判は間違いじゃなかったらしい。

 俺は、ただ生きるダケじゃ満足しない強欲モノだ。

 

「ナニ? その言葉に嘘はあるまいな?」

 

 俺の言葉に然したる興味を示さなかったハドラーが食いついてくる。

 理由は判らないがこのハドラーにとって″アバンの弟子″は特別らしい。

 

「闘えば判る事だ」

 

 不適な笑みを浮かべる俺とハドラーの間にピリピリとした空気が漂い始めた。

 

「う、嘘付くんじゃねー! お前の事なんか先生は知らないって言ってたぞ!」

 

「あん? 護られてるだけのヒヨコは黙ってな」

 

「な、なんだとぉ? アストロンさえなけりゃ俺だってなぁ」

「黙れっ!!」

 

 自らの強さをアピールしようするポップを一喝して黙らせる。

 今のポップがどれだけ強いのか知らないが、超魔ハドラーに勝てるとは考えられない。

 勝算もなく、ただ自分の力に自惚れ軽々しく強者に挑むのは勇気でも何でもない……ただの蛮勇だ。

 

 しかし、今は単なる蛮勇でもポップはいずれ真の勇気に目覚める男だ。

 

 そう知るからこそ俺は今、闘えるんだ。

 

「良いか? アストロンがあるから闘えないんじゃない……アストロンをかけられた事がお前等の未熟の証だ。判りやすく言ってやるとだな……足手まといなんだよ! お前等は黙ってソコで見てりゃ良いんだ……アバンの仇は俺が討ってやるよ」

 

 と格好つけてみたものの、原作的に考えてアバンは生きているだろうし、どうにも気合いが入らない。

 万一ホントに死んでるなら、万回でもザオラルかけて無理矢理にでも生き返らせてやる。

 厄介事を俺に押し付けて自分勝手に早々にリタイアするなんざ、神が許しても俺が許さねぇ。

 

「でも、その怪我じゃぁ……いくらでろりんでも……」

 

 心配そうなダイは俺の事を過大評価しているらしく、ポップとは違う意味で厄介だ。

 

「こんなもんはベホマで癒せる!」

 

 俺のレベルは34にも達しているんだ……スリーの勇者ならベホマが使えておかしくないレベルだ。

 契約は成功している……後は俺の心構え一つでどうにでもなる、…ハズだ。

 てか、使えなきゃ普通に死ねる。

 マトリフに言われた様に自分を信じろ……伊達に10年を越えて修行に励んできたんじゃない!

 

 祈る様な気持ちで患部に回復呪文をかけ続ける。

 

 多量の魔法力と引き換えに痛みが和らいでいく。

 

「ほぅ? ベホマの光か……弟子と言うのも満更嘘では無いようだな」

 

「当たり前だ! そんな嘘付くメリットなんか無いっつーの! テメェはアバンを殺しただけじゃ満足せず、未熟な弟子も見逃さねーんだろ?」

 

 事実でも言いたくなかったのに、狙われるのが解ってて嘘を付く馬鹿など存在しないっての。

 

「その通りだ……アバンを倒したとて俺の勝利とは言えぬわっ……アヤツの力の本質とは受け継がれる意思にある! アバンを憎む″あの男″の中にさえもその教えは隠されておるわ……アバンの弟子を倒してこそ俺は真の勝利を掴み、生きた証を残す事になるのだ!!」

 

「ハドラー……アンタ?」

 

「無駄話はこれくらいで良かろう? 俺には時間が無いのだ……貴様がアバンの弟子を名乗るなら、託された力を持って掛かってくるが良い! 貴様がオレを倒せば目論見通りガキ共も助かろうて」

 

 それが出来るなら苦労はしない。

 俺に出来るのは一撃必殺、閃華裂光拳を撃ち込むダケだ……ってコレはアバン流じゃないんだけどなっ。

 

 こうして俺は、勝ち目の薄いガチバトルに挑むのだった。

 








二本の爪でもっと高く飛んで三倍速で回転すれば、12倍撃になったと思うのは気のせいでしょうか?

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