でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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「あ、ありえねぇ……」

 

 あのタイミング、あの輝き……俺の裂光拳は確かに決まったハズだ。

 

 それなのに、何故?

 

 放物線を描いて背中から打ち付けられた俺は、大地を転がり自身を焼く炎を消すと、剣を杖代わりに″ヨロヨロ″と立ち上がる。

 

「その籠手、アバンめと同じモノを授かっておったか……ならば、この様な剣では仕止め切れぬも道理か」

 

 超魔爆炎覇の負荷と黄金の籠手との衝突に耐えきれなかったのか、中程で折れた剣を見てハドラーが呟き勝手に納得している。

 実際は真逆で、俺がアバンに貸出したのだが訂正する事でも無いだろう。

 

 それよりも、思い出せ。

 

 あの激突の瞬間……俺は籠手で剣を受け、ハドラーも裂光拳を左手で受けた。

 その直後、ハドラーの剣が折れ、俺の籠手は砕け、そして……裂光拳を受けたハドラーの左腕から金属音が聞こえ、光が拡がった。

 

 まさかっ!?

 右腕に仕込んだ剣は紛い物でも、左手に仕込んだ盾は″本物″ということか!?

 それならば何時もより眩しく光った理由も説明が付く。

 

「て、テメェっ……左腕に何を仕込んでやがる!?」

 

 確認を兼ねてハドラーを問い詰める。

 

 恐らくは″シャハルの鏡″……呪文を反射するオリハルコンで創られた伝説の盾だ。

 コレのせいで俺のマホイミは弾かれ輝き、本来の威力を発揮しなかったのだろう。

 

「気付きおったか? 如何にも、俺のこの左腕にはあらゆる呪文を反射する伝説の盾″シャハルの鏡″が埋め込まれておるのだ! その黄金の籠手にも劣らぬ一品よ!!」

 

 ドヤ顔のハドラーが左手の甲を俺に向ける。

 

 くそっ。

 良く見れば刺々しい右腕と違い、左腕は丸みを帯びてるじゃねーか……もっと冷静に観察すれば気付けたハズだ。

 違うと知りつつも先入観から″超魔ハドラーとはこういうモノ″と決めてかかった俺のミス、か……。

 

「な、にが、劣らぬ、だ……なら、この籠手と交換してくれよ?」

 

 ハドラーがゆっくりと迫りその背後では、ダイの動きを封じるアストロンに細かなヒビが入っている。

 

 嘆いている暇は無い。

 

 軽口を吐いて立ち上がった俺は、残りの魔法力を費やして回復に励む。

 

「減らず口を叩いて回復の隙を伺うか? 卑怯にも見えるその油断ならぬ闘いぶり、先程のマホイミ……そして、その眼……アバン同様、貴様は生かしておけぬわ」

 

「おーーい、ダイ! 良かったなぁ、お前等は見逃してくれるってよぉ? 余計な真似はするんじゃねーぞぉ!?」

 

 ハドラーが口走った言葉をすかさず利用して、遠くのダイにノーテンキな声色で呼び掛ける。

 

「貴様!? 何を?」

 

「あん? テメェが言った事じゃねーか? ″貴様は生かしておけぬ″ つまり、他は生かしておけるって事だろ? 元、魔王様ともあろう御方が自らの発言を簡単に翻すってのか?」

 

「屁理屈を捏ねおって……だが、良かろう。アバンと貴様が命懸けで護ろうとする存在、放っておけば我が魔王軍の脅威となるやも知れぬ。しかし、ハナタレ小僧共がどう成長するのか興味があるわ……成長した小僧共が魔王軍に歯向かうならば、その時こそオレの手で葬ってくれよう」

 

「べ、別に命懸けで護ってねーし! 三流魔王なんざ俺が今からブッ飛ばすっつーの! 勝手に勝った気になってんじゃねぇ!!」

 

 何故だ?

 何故、見抜かれる?

 ダイ達が必要以上に注目されては俺の痛みは無駄になる。

 

 誤魔化してみたが、上手くいっただろうか?

 

「ふ、ははははっ! 何処までも楽しませてくれる男よ! そうこなくてはな? さぁ、来るがよい!!」

 

 一瞬呆けたハドラーが、折れた剣を仕舞い拳を握り締めて構えをとる。

 

 来い、と言われても俺にはもうコイツと闘うだけの力は残されていない。

 魔法力は尽き、籠手は砕け、所々に穴の空いた服は焦げ、全身に鈍い痛みが残っている。

 キメラの翼で逃げたら……って、ダメだな。

 ハドラーがダイ達を見逃す条件に、俺が闘い死ぬ事が入っている。

 

 なんだこれ?

 

 俺は命が惜しくて足掻いて来たのに、その命を棄てなきゃダイ達の命が助からず、ダイ達が助からないと先々の俺の命が危うくなる……そもそも目の前のハドラーを何とかしないと、俺の命は無いに等しい。

 まさに俺の命は風前の灯火……一体、何処で間違えた?

 

「どうした? 来ぬのか?」

 

「うるせー! 今、考えてんだっ!」

 

 命、か……。

 

 俺が何より護りたかったモノ。

 

 全ての生命に等しく一つ与えられた、死ねば失われる尊いモノ。

 

 しかし、この世界では少し違い、失われても蘇り、使えば武器にもなる前世以上に不可思議なモノ。

 

 そうだ・・・どうせ死ぬなら命を使え。

 

 使うにしてもメガンテは論外……俺はっ、命を使って生き延びるんだ!

 遣り方は判らねぇ……だが、原作において未熟なノヴァですら使っていた。

 其ほど難しいとも思えない……要は、覚悟の問題だろう。

 

 覚悟を決めろ……命の価値を誰より知る俺になら、使えるハズなんだ!

 

 今を生き延びる為に、命を燃やすんだ!!

 

「ほぅ? 無茶な真似をしおる……其ほどにあの小僧共は大事とみえる」

 

 魔法力とは違う蒼白いオーラに包まれた俺は、今迄に無い力を感じていた。

 

 イケる!

 

 コレならば、ハドラーに一矢報い裂光拳をぶちこめる!

 

「行くぞっ! ハド、ラぁ!?」

 

 ハドラー目掛けて飛び掛かろうとした瞬間、後頭部に衝撃が走り、俺は、意識を刈り取られるのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ハドラー!! って、痛っ!?」

 

 ″ガバッ″と身を起こした俺は、痛む後頭部に右手を添えて擦った。

 

「良かったぁ! 気が付いたんだね!?」

 

「アンタ、ホントに右利きなんだな?」

 

「やれやれ、何とか成った様じゃわい……」

 

 俺の周りを心配そうなダイと、憎まれ口を叩くポップ、そして、冷や汗浮かべたブラスが囲んでいた。

 

「・・・何がどうなった? 何故、俺は生きている?」

 

 ダイが暴れたにしても、あの状況下で俺が生き残れるとは思えない。

 

 周りを探る。

 

 特徴的な火山が目に映るここはデルムリン島か? いや、それ以前に意識を失った場所から移動もしていない様だ。

 目立った損傷の見られないダイがブラスをこの場に呼び寄せた、といったところか?

 

「変な服を着た男がイキナリ現れて、背後からでろりんを倒したんだ。そしたらハドラーと何か話して二人とも何処かに行っちゃったんだ」

 

「変な服!? どんな奴だ!?」

 

 ダイの両肩を″ガシッ″と掴んで乱暴に揺らす。

 

「落ち着けよ! ハドラーの野郎は″ミストバーン″とかって叫んでたぜ? それにしても、アンタもダラシねぇよなぁ……真後ろに回られても気付かないなんてよぉ」

 

 やはり、ミストバーン。

 しかし、何故だ?

 何故ミストバーンが俺を助ける?

 そういや、フレイザードの時も結果的に助かった……考えられるのは肉体の予備候補、か?

 

 いや、パラメーター的に見れば俺は大して強くねぇ……リスクを負ってまで確保する程の肉体じゃない。

 じゃぁ、何故だ?

 

「お、おい!? そんな落ち込まなくても良いだろ!? アンタもまぁ、結構頑張ったぜ」

 

「ポップぅ〜。そんな言い方ないだろ!? でろりんが居なきゃオレ達は死んでたかもしれない、って言ってたじゃないかぁ」

 

「ば、バッキャロー! 余計な事をチクッてんじゃねーよ! コイツがもっと早く来てりゃぁ先生は死なずにすんだんだよ!」

 

 考え込んだ俺を見て落ち込んだと勘違いしたポップが慌てだし、呆れたダイがため息吐いて諌めている。

 

 原作初期に良く見られた光景だが、太陽の傾き具合から考えてもアバンの自爆から一時間と経ってない。

 僅かな時間で表面上は平常に戻っているんだから大したもんだ。

 

「あー……その事なんだけどな?」

 

「な、なんだよっ?」

 

 不安と期待の入り交じった瞳をポップが向ける。

 

「いや、やっぱイイわ」

 

 ″生きている″と伝えかけたが思い止まる。

 ポップのアバンへの依存度は原作以上に高く、自立を促すにはアバンには死んだ振りを続けて貰うのが良さそうだ。

 原作において、アバンが自らの生存を明かさなかったのは、正しかったのだろう。

 何より、生存確認はまだ出来ていない。

 適当に会話を切り上げてアバンを探す必要がある。

 

「なんだよ? 言いかけて言わないなんて、そんなのズルいよ!」

 

「そうか? まぁ、大人はズルいんだが特別に教えてやる。例え俺がいち早く駆け付けてもアバンのメガンテは止められねぇ」

 

「な、なんでだよ!?」

 

「アバンがそういう性分だからだよ。お前等何か言われたんじゃねーのか?」

 

「うん……強くなって大魔王を倒してくれって」

 

「だろ? 俺が居たって同じ事だ……庇う対象が2人から3人に増えるダケ、3人纏めてアストロンって寸法だ。俺を責めるより、アバンが自爆に走った意味を考えろ……お前にならもう判ってんじゃないのか? ポップ」

 

「う、うるせぇー! 大体テメェは先生の何なんだよ!?」

 

「そ、そうだよ! 本当にでろりんも先生の弟子なの!?」

 

「そう改めて聞かれると困るな……俺はお前等と違って卒業のしるしを貰ってねぇからなぁ」

 

「ほ、ほら見ろ! やっぱり嘘じゃねーか!」

 

「でも、海波斬を使ってたし」

 

「はいはい。仲良くしろっての。まぁ、アバンの弟子かどうかなんて俺にはどうでも良いんだ。弟子かどうかはお前等が勝手に決めろ……大事なのは大魔王を倒す事だっ、違うか?」

 

「どうでも良いだって!? オレにゃぁ先生が一番大事だったんだ! 大魔王こそ関係ないやい!」

 

 拳を握り″ワナワナ″震えたポップが立ち上がってソッポを向いた。

 

 先生が大事なら遺志を継いでやれ、と思わなくもないが俺が言わなくともポップなら自ら気付く……そういう性分だ。

 アバンが自己犠牲に走りハドラーが武人化していた様に、人の性分は変わらないのだろう。

 

「ふんっ……そう思うなら好きにすれば良いさ。俺は俺のやり方で大魔王を倒す。お前等は一晩ゆっくり考えて、どうするか決めれば良いんだ……命が惜しいのは誰だってそうだ。何を選んでも誰に責められる事でもない。俺なんか世界中の誰よりも命が惜しいと自負してる位だ」

 

「だ、だったら何で闘うんだよ?」

 

「闘わなきゃ死ぬからだ。死にたくねぇから闘う……簡単な理屈だろ?」

 

「でろりん……オレやるよ! 先生の意思を継いできっと大魔王をっ」

 

 流石の猪突猛進。

 ダイの性分も変わらないらしい。

 

「ん? あぁ、好きにしろよ……でも、一晩はゆっくり考えろよ? 勢いだけで決めて良い事じゃねぇ……それでも行くってんならロモスだ。そのついでにネイル村に立ち寄るのをオススメしてやるよ……それから覇者の冠はどうした? 額を護るアレは良い防具だ。知ってるか? 人間の頭には″脳″と呼ばれる臓器がある。これを傷付けられれば人はいとも簡単に死ぬんだ。だから、装備に頼り護るべき所は護る。俺があのハドラーと渡り合えたのもこの籠手が、」

 

「長いって!!」

 

「ぷっ……ホントだ。でろりんって先生みたいだ」

 

「はぁぁ!? アバンと一緒にすんじゃねぇ! お前等が知らねぇダケでアイツは酷い奴なんだぞ」

 

「先生の何処が酷いってのさ!?」

 

「そうだ! いい加減な事を言いやがったら只じゃおかねぇからなっ」

 

「アバンはなぁ……アイツは、女を待たせて世界を放浪してんだ!」

 

「えぇっ!?」

 

「う、嘘言えっ!」

 

「ハッハッハ! 何にも知らない様だな? アバンはカールの王女を待たせて世界を旅してんだ! 例えるならダイがレオナを待たせる様なモンだな?」

 

「ど、どうしてレオナの名前が出るんだよ!?」

 

「そ、そいつはイケねぇ……じゃねーよっ!! なんでお前がそんな事を知ってるんだよ!」

 

「さぁなぁ? 知りたきゃカールにでも行くんだな? そんな事よりハドラー達は他に何か言ってなかったか?」

 

「ごめん……何を話していたのか聞こえなかった。でもハドラーは″大魔王様の午前で待つ″って言い残していたよ」

 

 御前、ねぇ……最終ハドラーの台詞に近いな。

 ハドラーはもう前線に出て来ないとみて良いのか?

 

 しっかし、ハドラーも報われねぇ男だな……心酔する大魔王に爆弾を埋め込まれてんだからな。

 タネを明かせば寝返ってくれまいか?

 

 ……ダメだな。

 

 明かした瞬間、黒のコアが大爆発する未来しか見えねぇ。

 戦力的に考えて、なんとかしてやりたいがリスクがデカすぎる。

 

「そうか……んじゃ、俺はもう帰るわ」

 

 立ち上がった俺は、軽い目眩いを覚える。

 

 命を燃やした代償か?

 それとも単なる疲労の影響か?

 

 まぁ、どうだって良い事だな……俺もコイツらも今こうして生きている。

 今日のところはソレだけで充分だ。

 

「ま、待てよ! オレ達を置いてくのかよ!?」

 

 立ち上がった俺を見たポップが狼狽え、手を伸ばしてくる。

 

 マズイな……原作よりもヘタレかも知れない。

 これからの数ヶ月で大魔王相手に啖呵をきれるまでに成長出来るのか?

 

 なんか、すげぇ心配だが、ポップは甘やかしたら駄目なんだよなぁ。

 

 はぁ…仕方ねぇ。

 

「あん? 俺は忙しいんだ……お前等の面倒なんか見てられねぇっつーの。大体、アバンの弟子じゃない俺が面倒を見てやる理由がねぇ……違うか?」

 

「て、テメェっ……そうかい、そうかい! やっぱりお前は偽物のウソつき野郎かよ!」

 

「はんっ、何とでも言いな……お前が何をしても良いように、俺も何をしたって良いんだよ。何時までもアバンに甘えて駄々捏ねてんじゃねぇ!」

 

「な、なんだとぉ!?」

 

「魔王軍は駄々を聞いてくれるほど甘くない……死にたくなけりゃせいぜい頑張るんだな?」

 

「うん、頑張るよ……ありがとう、でろりん。また、闘いに行くんだね?」

 

 何故かポップじゃなくダイが答えている。

 

 まぁ、ダイが頑張ればその分ポップも頑張るし、とりあえずこれで良しとするか……。

 

「当然だ……大魔王を倒すまで俺の闘いは終わらねぇ……俺は、アルキードでお前等が来るのを待っている。お前等が無事にアルキードに辿り着いたその時こそ、反攻の時だ!」

 

「うん!!」

 

「お、オレは行くなんて言ってねぇかんな!」 

 

 太陽の様な笑顔で答えるダイと、嫌がりながらもきっと闘いに身を投じるポップ。

 

 危うく死にかけたがソレだけの価値がコイツらにはある。

 

 そして、俺は今日の闘いで何かを掴んだハズだ。

 あの時の感覚……アレを自在に操れるように成れば、コイツらと肩を並べて最後まで闘える。

 

「いいか? 行くならロモスだぞ! 王家を救って覇者の剣を貰え! それから、ネイル村も忘れるなっ」

 

 徐々に浮き上がった俺は、ダイ達に進むべき道を伝えアバンを探しに西の海へと飛ぶのだった。

 













 

変に引いてますがアバンは普通に生きてます。
「午前」はダイ君のミスになっています。

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