でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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 太陽が西の彼方に沈み始め海が紅く染まった頃、大海原を漂うアバンの発見に成功する。

 前世に比べ視力も大幅に強化されているが、思ったよりも時間が掛かってしまった。

 いや、寧ろ完全な日没を迎えるまでに、この広い海原で一人の人間を発見出来たのはラッキーだ、と言うべきか?

 

「まったく……世話の焼ける″先生″だぜ……」

 

 砕けた″カールの守り″を胸に、仰向けでプカプカ浮かんでいた上半身裸のアバンを背負い上げた俺は、低空飛行でデルムリン島の″裏手″へと向かう。

 

 背中を通してアバンの心音が聴こえる。

 メガンテを唱えた相手と場所が違っても原作通り生きている様だ。

 少し不思議な感じもするが、重要なのは鍛え上げた肉体と″カールの守り″、この二つなんだろう。

 

 アバンを背負って飛ぶこと十数分、デルムリン島の岩礁地帯へ到達する。

 手頃な岩にマントを敷いてアバンを横にした俺は、ベホイミを唱え″ぺちぺち″とアバンの頬を叩いてみたが起きる気配がない。

 

「ちっ……″ザメハ″も覚えとけば良かったか……さて、どうすっかな……?」

 

 胸を小さく上下に揺らすアバンを見ながら暫し考える。

 

 原作的にアバンがメガンテのダメージから目覚めるのは一夜明けてからになる……このまま待ち続けるのもアリだが、世界樹防衛の負担をマリンに強いている以上、一度アルキードに戻り防衛戦の顛末を確認しておく責任もある。

 

 熟考の末、アルキード帰還を選択した俺は、手頃な岩に書き置き刻み、魔法の聖水を残してキメラの翼で飛ぶのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 村は魔王軍を退けた喜びに沸いていた。

 

 ″太陽が沈めば魔王軍は消える。″

 

 理由は解らない。

 解らないが三日目とも成れば、誰もがそう認識し生き延びた喜びを噛み締めている。

 しかし、心持ち浮かない表情なのは気のせいだろうか?

 

「でろりんじゃない? アンタ何処ほっつき歩いてたの、……よ?」

 

 キョロキョロしながら歩く俺を逸早く見付けたずるぼんが、腰に片手を当て人差し指を立てながら″ツカツカ″と迫ってくる。

 

「そうよ! 貴方がいないせいで大変だったのよっ!」

 

「えぇっ!? 昨日の″アレ″はでろりんさんの影響だったのですか?」

 

「そうだぜっ。リーダーのお陰でマネーは落ちるっ」

 

「如何にもその通りじゃ。これ程までに変わるなら一部を請求してもバチは当たらぬやも知れぬわい、どうじゃ?」

 

 ずるぼんの声で俺に気付いたマリン達が″ワラワラ″と集まり、微妙に意味の解らない事を言ってくる。

 

 輪に成った俺達を遠巻きに兵士達が囲み、「流石、強欲」とか「強欲もここまでくれば立派」だとか「バカッ居なくなったらどうする!」だとか口々に言っている。

 

「はぁ〜? 意味が解らねぇよ……何がどう大変で、誰に何を請求するんだ?」

 

 マリンだけなら俺が居ない影響で、ゴールドのドロップが悪くなっているボヤキに聞こえるが、周りの兵士達までザワつく理由が解らない。

 

「そんなのどうだって良いわ……アンタ、顔色悪いわよ? 服もボロボロだし何処で何してきたのよ? ホイミかけたげよっか?」

 

 神妙な顔付きで心配するずるぼんが俺の頬に左手を添えてきた。

 ホイミの効果が薄かったのは昔の話で、今じゃこの村でも二、三を争う回復呪文の使い手だ。

 

「えっ!? あ……回復呪文なら私がやるわ!」

 

 俺を見て″ハッ″としたマリンが名乗りをあげる。

 

「ん? あぁ、ちっと派手に修行しすぎたんだ……回復は済ませてある。そんなことより、マリン……」

 

 適当に誤魔化した俺はマリンに右手を向ける。

 

「な、何かしら?」

 

「金をくれ」

 

「な、何よソレっ!? 他にもっと言う事があるでしょ!? 大丈夫か、とか、無事で良かったとか!!」

 

「無事なのは見れば解るじゃねーか? 装備がぶっ壊れたから大至急金が要るんだよ。訳あって後払いが出来ないんだよ!」

 

「やはり、でろりんさんの装備はミリオンゴールド製でしたか」

 

 俺とマリンの喧嘩腰の会話が始まりかけた処に、シタリ顔のノヴァが割り込んで″待った″をかける。

 

「ん? あぁ、良く判ったな? ホントはオリハルコンが良かったんだが、アレは簡単に手に入る代物じゃないからな?」

 

「ミリオンゴールドだってそう簡単に手に入る代物じゃないですよ? バラン様が″もしや″と言っていたのを思い出したんです……その黄金の装備の全てがミリオンゴールド製なら、常軌を逸している、とも言ってましたね」

 

 脈々と続く竜の騎士の闘いの記憶に照らしても、俺の装備は常識外れらしい。

 

 だが、ちょっと待ってほしい。

 俺の装備は日本円に換算して五億程度、甲羅の盾ですら三十億に満たない。

 前世の記憶に照らしてみれば、10億を軽く越える兵器はザラにあった。

 戦車なんかがそうだ。

 それは一重に命を護る為の値段であり、俺の装備は殊更オカシイとも言えないハズだ。

 

「……え? ミリオンゴールドって百万Gコインの事よね?」

 

「そうじゃのぅ」

 

 マリンが呆気に取られ、肯定したまぞっほがニヤニヤしながら見ている。

 

「もしかして、このロッドも……?」

 

「ソレだけじゃないぜっ。俺のゴールデンハンマーもそうだぜっ」

 

「勿論、あたしのロッドもそうよ」

 

 マリンの呟きに鼻息を荒くしたへろへろがハンマーを振るって答え、ロッドを伸ばしたずるぼんが自慢気に胸を張っている。

 

 クソ高い装備をしている自覚は有ったらしい。

 

「貴方……何考えてるの?」

 

「何って……強い装備に金を惜しまないのは当然だろ?」

 

「お主の場合はやり過ぎじゃがのぅ……じゃが、お陰で助かっとるわい」

 

「そうよっ、限度ってモノがあるでしょ!? それに、ソレだけのお金が有ればお城を建てて国を興す事だって出来るわ!」

 

「あん? なんで俺がそんな面倒な事をしなきゃなんねーんだよ?」

 

 あ、しまった……。

 

 そういや俺は、テロ紛いの思想の持ち主だった。

 

「貴方ねぇっ! 国家論を語り姫様に何をしたか忘れたとは言わせないわよ!?」

 

「国家論とな? 初耳じゃわい」

 

「マリンの姫ってレオナちゃんかしら? アンタ何したのよ?」

 

「あー……すまん、忘れてた。そんなことより、ノヴァ……何がどう大変だったんだ?」

 

 尚も何か言いたそうなマリン達を無視して、ノヴァから事情を聞く事にする。

 この中だとノヴァに聞くのが確実そうだ。

 

「戦闘そのものは問題有りませんでした。強敵と呼べる敵の襲来も無かったですね。死者の数も0とはいきませんが、昨日に比べると減少傾向にあります」

 

 見込んだ通りノヴァは簡潔に、俺の知りたかった情報を述べている。

 

「じゃぁ、何が問題なんだ?」

 

「ゴールドのドロップです。僕は気にしていなかったのですが、戦士の中にはゴールドを求めてこの地にやって来た人もいる様です」

 

「ワシ等も知らなんだが、どうもお主の加護はこの世界樹全体に影響を与えていた様じゃわい」

 

「汚ねぇヤツラだぜっ。リーダーの恩恵を利用して黙って荒稼ぎしてやがった」

 

 ノヴァの説明を補足するように、まぞっほとへろへろが憤っているが、金に目が眩んで死地に来てくれるなら俺的には大歓迎だ。

 

 別に俺の懐が痛む訳でもない。

 

「そう言う訳です。世界樹に来ればゴールドが稼げる……三日目にしてそんな噂が水面下では拡がっていた様です」

 

「んで、噂と違ってゴールドが落ちないからガッカリしてる連中が居るって訳か?」

 

「その様ですね……本来ならそんな連中の力は借りたくないのですが、この巨大な世界樹を護る為には彼等の力も必要なんです」

 

 悔しそうにノヴァが唇を噛んでいる。

 

 原作と違い素直なノヴァだが、その潔癖とも言える高潔な精神は変わらないらしい。

 

「別に良いだろ? どんな連中でも戦力は戦力だ。金に目が眩むバカでも俺としては助かる。寧ろ問題なのはドロップしないときの士気の低下だな……」

 

「そう、ですね。バラン様もそれを気にしてました……その件で話したい事があるから王宮に顔を出すように言付かってます」

 

「うげっ、マジで……? この後、予定があるんだけど?」

 

 予定が無くてもバランの呼び出しとか勘弁して欲しい。

 真相がバレる前にダイを紹介するのも一つの手だが、今は未だその時ではないだろう。

 

「良いじゃない? 王宮に招待してくれるなら行きましょうよ? でもディアナ姫にまで手を出したら赦さないわよ!」

 

 王宮大好きのずるぼんが聞き捨て成らない事を言っている。

 

「はぁ? ″ディアナ姫にまで″って、……何だっ!?」

 

 訂正しようとしたその時、危険を告げる黄色の信号弾が上がる。

 

『て、て、敵だぁー!!』

 

 切羽詰まった叫びが聞こえる。

 誤射の類いでは無いらしい。

 

「なんと……早くも″裏″をかいてきおったか?」

 

 まぞっほの言う裏とは″日没後の攻撃は無い″との思考の油断だろう。

 

 しかし、そうだとすると、この時期、この時間なら早すぎる。

 バランを除く最高戦力が勢揃いしている今なら、フレイザードにだって負けやしない。

 

「どうだろうな……兎に角、行ってみりゃ判る! 行くぞ!!」

 

 俺の掛け声に頷いた頼もしき面々と共に、割れた人の合間を駆け抜け現場に急行するのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ようやくお出ましか? どいつがでろりんさんだぁ?」

 

 現場に駆け付けた俺達が目にしたのは、蒼白い光沢を放つ巨大な″兵士の駒″に群がる戦士達の姿だった。

 

「ノ、ノヴァ様!? お逃げ下さい! アレには魔法も剣も全く効きません!」

「まぞっほ殿!? バラン様をお呼びしましょう!」

 

 俺達に気付いた戦士達が駒から目を離して此方を振り返る。

 

「ぐはぁ!?」

「ぐぇ!?」

 

 駒から人の姿に変形した″ヒム″が周囲の戦士達を殴り飛ばした。

 

「つまらねぇ真似をしてくれるな……ソイツが来れば退散しなきゃならねぇだろ?」

 

「き、貴様!? 皆、下がるんだ! コイツの相手は僕達でやる!!」

 

 背中の剣を引き抜いたノヴァが険しい視線でヒムを睨んでいる。

 

 ずるぼん達もミリオンゴールド製の武器を構え、真剣な表情をしている。

 

 そして、俺は……。

 

「よぉーし!! ノヴァ! チャンスだぁ!! あの野郎の腕をブッタ切れぇ! お前になら出来る!!」

 

 降って沸いた″幸運″の意味も考えずに、人目も憚らずハイテンションになるのだった。

 












アバンは普通に寝ています。

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