でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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「は……? 誰だよ、それ」

 

「そんなの私が知りたいわよ!」

 

「俺はもっと知りたいんだけどな? 名前とか聞いてないか?」

 

「な、名前? そんなの聞いてないわよっ。でも、不死騎団の団長とか言ってたわね……も、もしかしてでろりんの知り合いかしら?」

 

 エイミはモジモジしたかと思うと目を輝かせた。

 

 まさかと思うが既に惚れているのか?

 原作で相性の良かった組み合わせは、この世界でも相性が良いのは解ってる……俺とまぞっほやへろへろしかり、ダイとレオナやポップしかりだ。

 エイミが惚れる不死騎団の団長とくれば、ヒュンケルとみて良いだろう。

 黒髪の剣士がヒュンケルだとすれば、暗黒闘気が髪色に影響を与えたと考えられるが……哀しい眼ってなんなんだ?

 闇堕ちしながら正気も保っているのだろうか?

 

 ・・・

 

 よしっ、考えるより会う方が早い。

 公式チートのヒュンケルなら、矛盾しててもおかしくない。

 言葉さえ通じればなんとかなるし、予定通り地底魔城に行くとしよう。

 

「知り合いってか、関係者の可能性があるんだ……俺はソイツを探しに地底魔城に行くつもりだが、エイミはどうする?」

 

「えっ? 私は……」

 

『敵襲ーっ!! 皆の者、配置につけぇ!!』

 

 野太い声が平野に響き渡ると、武具を手にキビキビと整列した兵士達が、太陽を背にして北を向いて身構える。

 

 タイミングが良いのか悪いのか、北方向から不死騎団が現れた様だ。

 

「いけないっ……少し待ってくれるかしら?」

 

「ん? あぁ、別に良いけど、俺は待ってれば良いのか?」

 

「そうよっ、重装歩兵はそのまま前進!! 魔法兵、弓兵は側面の高台に周り込んで下さい!!」

 

 矢倉の上から身を乗り出したエイミが大声で指示を出すと、それに合わせて人の群が動き始める。

 

 盾を構えて横並びになった兵の前進する様は、壁が移動しているかの様であり、比較的軽装な兵達は軽やかに走り、僅かに隆起した丘の上へと移動する。

 

「エイミは行かないのか?」

 

「私は数で押せない敵が現れた時に備えているのよ。でろりんもそうでしょ?」

 

 本物の強者には、強者でしか対抗出来ない。

 それがこの世界の理不尽な基本ルールであり、これを覆すにはそれ相応の数が必要になってくるが、数が有限な人類サイドではこの手は打てない。

 故に、弱者には弱者をぶつけ、強者には強者をぶつけるのが犠牲を少なくする基本的な戦術となる。

 その一方で、弱者に強者をぶつけて数を減らすのが容易いのも又事実であり、上手くいけば被害0で大打撃を与えられる。

 しかし、弱った強者に強者をぶつけられては、一気に形勢が悪くなるリスクがあったりなかったりで、色々と難しい。

 

 つまり、何を言いたいかというと、絶対強者のバランを数で押さえ込むなんてのは、大魔王ならではの異常な戦術ということだ。

 

「一理有るな……だが、この戦術では犠牲者が出るぞ? 人の命は替えが利かない……解っているのか?」

 

「でろりんって、意外に甘いのね? 戦争してるんだから犠牲は覚悟の上よ……私も、皆も!」

 

「ふーん……甘かったエイミも昔の話か」

 

 そうこう言っている内に、不死騎団の先鋒と思われる骸骨剣士の集団が姿を見せ、盾を構えた重装歩兵の″壁″にぶつかった。

 

「魔法兵、今よ!!」

 

 エイミの合図で高台へと移動した魔法兵が一斉にメラミを唱えた!

 幾つもの火球が飛んでいくと、重装歩兵によって行軍を遮られた骸骨の群が炎に包まれる。

 

「弓兵、構えっ! ・・・放て!!」

 

 魔法兵と入れ替わる様に前に出た弓兵が、狙いも定めず矢を放つ。

 放物線を描いた矢が骸骨剣士の頭上から降り注ぐ。

 

「へぇ……こんな戦い方もあるんだな」

 

 地の利と数を活かし、更には敵の弱点を突いた実に効果的な戦術に思える。

 エイミの号令で一糸乱れぬ動きをみせる兵士達は、集団でありながら″一個″である……そんな印象だ。

 

 その一方で、不死騎団がこんな進軍を続ける理由がサッパリ分からない。

 パプニカ勢の攻撃が面白いように決まる最大の理由は、無策で突っ込む不死騎団にこそあるだろう。

 ここから観る限り、指揮官らしき人物も見当たらず、これでは丸で″倒してくれ″と言っている様じゃないか。

 不死騎団は、いや、ヒュンケルは一体何をしたいんだ?

 

「一列目、後退!! 二列目、前進!! ・・・アルキードは違うの?」

 

 次々と指示を出すエイミが振り返らずに、小声で話し掛けてくる。

 

「アルキードは世界樹を護る関係上、戦場を選べないからな……世界樹の根が邪魔で組織的な行動も取れないし、迫る数も桁違いだし、空にもガストが配置されてるしで……まぁ、パーティー単位を基本にヤるしかないじゃないか? 難しい事は解らねぇよ」

 

「そう……噂通り大変な様ね……ってそんな所に姉さんを置いてきたの!?」

 

「マリンも大事だけど、馬鹿な兄弟子をほっとくと色々厄介なんだよ」

 

「え…? 兄弟子って、あの人の事かしら?」

 

 振り替えって確認してくるエイミの顔が仄かに紅いのは、戦闘指揮の緊張のせいだと思いたい。

 

「まぁ、そんな感じだ……よしっ、見てるだけってのは性に合わねぇし、マリンの分まで俺が闘ってやるよ!」

 

 詳しく話す気も無い俺は、矢倉のヘリに立つと戦闘参加を宣言する。

 

 この戦場はどう見ても俺向きであり、俺が闘えば余計な死者は最小限に抑えられるハズだ。

 

「えっ!? ちょっと待ってよ! でろりんが闘うと色々マズイのよ!」

 

 何故か制止しようとするエイミを振り切った俺は、矢倉から飛び立ち戦場へと向かうのだった。

 

 

◇◇

 

 

「ハッハッハ! いくらでも来いっ! イオラぁ!!」

 

 骸骨剣士の群れ目掛けてイオラをぶん投げる。

 

 ″ドォーン″と爆音が鳴り響き、″チャリンチャリン、チャリーン″とゴールドの落ちる音が鳴る。

 

 なんというハメ技。

 

 重装歩兵が盾となる事で知性無き不死騎団の行軍は遮られ、上空を旋回して骸骨の″溜まり場″を見付けてはイオラを放つ。

 たったコレだけで20を超える骸が砕けゴールドを落とす。

 

 安全かつ一方的な何とも俺好みな戦術により、不死騎団は宝の山にしか見えなく成っている。

 

「でろりん! もう良いわっ!! 十分よ!」

 

 戦況を確認しようとエイミの立つ矢倉に近付くと、何故か焦った表情で止めにくる。

 

「ん? 粗方片付いたけどまだ残ってるぞ?」

 

「えぇ、解ってるわよ! でも、後はパプニカの者に任せて頂戴! これ以上アルキードの勇者の手を借りる訳にはいきません!」

 

「はぁ? くだらねぇ事を言ってんじゃねぇよ! お前らは専守防衛、骸骨を逃がさない様に誘導してくれりゃぁ良いんだ! 俺がヤれば誰も死なずに済むだろうがっ!?」

 

「アナタの言いたい事も分かるわ……でも、私達はこんな日に備えて訓練を積んできたのよ! パプニカの民はパプニカの兵が護ります! それが私達の誇りでもあるの」

 

 エイミは真剣な眼差しで宙に浮く俺を見詰める。

 

 負けじと睨み返すも、エイミの瞳は俺の知る女のソレに近いものがある。

 

「ちっ……くだらねぇ……勝手にしなっ」

 

 根負けした俺は軽く両手を上げると、矢倉の上で待つエイミの横に並び立つ。

 

 俺にとってはくだらなくとも、エイミ達にとっては重要なんだろう。

 元より部外者の俺がこれ以上口出ししても、余計な軋轢しか産み出さない。

 

「ありがとう・・・皆さん! 各小隊長の指示に従って各個撃破に当たって下さい!!」

 

 小さく御礼の言葉を述べたエイミは、直後に大きな声で最後になるであろう指示を出す。

 

「ふんっ……お前らは馬鹿だぜ……だけど、誇りだナンだって言う奴には、言うだけ無駄だからな? 馬鹿は勝手に死にやがれ」

 

「えぇ、そうね……馬鹿かも知れないわ。でも、でろりんがアルキードの勇者である以上、私の一存だけで闘ってもらう訳にもいかないのよ」

 

「は? なんだそりゃ?」

 

「なんだ、ってでろりんはアルキードの勇者に成ったんでしょ? アナタが闘えばアルキードに借りが出来るわ」

 

「はぁぁ? 俺は俺だろうがっ、アルキードなんざ関係ねぇ」

 

「ハァ……でろりんは気楽で良いわね? アナタがどう思っていようとも、あのアルキード王が自国の勇者だって喧伝しているのよ? こんなに堂々と闘われたら後で何を言われるか分かったモノじゃないわ」

 

「くだらねぇ……国がどうとか言ってる場合じゃねぇだろ!」

 

「でろりんが国のシガラミに無頓着すぎるのよ……姉さんが世界樹に行くのだって揉めたんだから」

 

「はぁ? マリンは金を稼ぎに来たんだろ?」

 

「それもあるけど、そんな簡単な話じゃないわ。知ってるかしら? 私達はパプニカ三賢者と呼ばれそれなりに責任ある立場なの」

 

「あぁ、そういやそうだな? それがどうした?」

 

 人間の決めた格付けなんか、大魔王相手には何の役にも立たないのが解らないらしい。

 

 そして、大魔王相手に役に立たない格付けなんてモノは、俺にとっても価値がない。

 

「ハァ……どうして分からないの? 姉さんがアルキードに行けば貸しを作れる反面、パプニカは手薄になるのよ? だけど、バラン様の力が本物である以上、魔王を倒した後はアルキードの発言力が増すのは間違いないわ。その辺りの事を考えればどうするのがパプニカの国益に叶うのか……難しい問題だと思わない?」

 

「何を長々言うかと思えば……俺にはくだらねぇ問題だとしか思えないぞ? というか、お前らもしかして、大魔王に勝てるとでも思ってるのか?」

 

 エイミの言う″難しい問題″とは大魔王後に他ならず、それはつまり、国のお偉方は大魔王を簡単に倒せるとでも考えているのだろう。

 原作においても人類が国の垣根を越えて協力したのは中盤以降になってからだし、大魔王ともあろう者が舐められたモノである。

 どうやら、一度滅ぼされないと大魔王の怖さが判らないらしい。

 

「……勝たないといけない戦いだと思っているわ」

 

 俺の苛立ちを察したのか、一瞬考えを巡らせたエイミが模範的な回答を口にする。

 

「つまり、負けると思ってないんだな?」

 

「当たり前よっ、負けると思って戦場に出る人なんていませんっ! もしも命を落としたとしても、それはパプニカの勝利の為の礎になるわっ」

 

 そう言い切るエイミは凛々しく、美しい。

 

 国に仕える者としては、決して間違っていないのだろう。

 ある意味で本気なのも間違いなく、文句を付ける考えでもないのだろう。

 

 だが……。

 

 俺とは相容れない……なんとなく、三賢者と反りが合わなかった理由が判った気がする。

 

 いや、三賢者だけじゃない。

 もしかしたら、価値観の違う俺は他の誰とも合わないのかもしれない。

 

 それでも、俺は……この世界を生き抜く為にヤれるだけの事をヤるしかない。

 

「そうかよ……ま、せいぜい頑張りな。 それで? 俺は地底魔城に行くが、エイミはどうするんだ?」

 

 反りが合おうが合わなかろうが、エイミの協力は必要不可欠だ。

 主に、リレミト的な意味で。

 

「そう、ね……魔王軍も撃退出来たし行くわ。行ってあの人の本心を確かめましょう!」

 

 こうして、不死騎団を片付けた俺達はルーラで地底魔城へと飛ぶのであった。

 


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