でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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「ネェちゃん、大丈夫?」

 

 ずるぼんに小さく声をかけた俺は、内心で激しく後悔していた。

 

 俺にとってはある意味で予定通りと言える状況であっても、ずるぼんにとってはそうじゃない。

 強気で我が儘、高飛車で気儘であっても所詮は素朴で平凡な村で12年生きただけの少女だ。

 野蛮な男が大声上げて暴れる状況で平然としていられる訳がないんだ。

 

 くそっ。

 どうしてこんな簡単な事を見落とした。

 アルキードの消滅を阻止し家族を護るとお題目にしても、その為に護るべき家族を怯えさせたら本末転倒だろ…。

 

 次からはもっと考えて行動しなくちゃいけない。 

 しっかり反省しないといけないが、今は兎に角、この状況を切り抜けるのが先決だ。

 

 残る敵は5人、いや、女将を入れると6人か。

 10000Gはカウンターの上に置いたまま、へろへろもリュックを床に降ろしている。

 幸い、外への道を遮るモノはないし荷物と10000Gを諦めれば逃げる事は出来そうだ。

 

 どうする?

 

 俺1人ならヤリ合っても負ける気はしないが、ずるぼんにこれ以上の心労をかけさせたくない。

 お金なんかモンスターを倒せば幾らでも手に入るし・・・よし!逃げよう。

 

 一寸悩んで行動に移そうとした、その時。

 

「ヤるじゃないか。流石はアルキーナの神童だねぇ」

 

 前髪をかき上げてキセルを吹かせる女将がカウンター内で声を発した。

 先程迄とはガラリと雰囲気が変わっている。

 

 やっぱりコイツが黒幕か!? でもどうして俺の事を知ってるんだ。

 

 背中にずるぼんを庇い女将を睨み付ける。

 

「はんっ、そんな警戒しなくても何もしやしないから安心おし」

 

 女将はカウンターの10000Gを手に取ると、こっちに投げてきた。

 

「・・・こうやって油断させる作戦ですか?」

 

 ″パシッ″とメダルを受け取るが女将から目を離さない。

 

「あん? 素直じゃないねぇ。ガキがどうやったらそんな捻くれちまうのさ?」

 

 小首を傾げた女将は「全く、世も末だねぇ」と呟き煙を吐いた。

 

「姉御、コイツ等どうしやす?」

 

 男の声に振り替えると、5人の男達が倒れるチンピラを指差している。

 

「その辺に捨ててきておくれ」

 

 女将は面倒そうに″しっしっ″と手首をスナップさせている。

 

 「へい!」と返事をした5人の男達はチンピラABCを抱えて店外へと消えていった。

 

「・・・仲間じゃないんですか?」

 

「冗談は止しとくれ。アンナ奴はただの見習いさ」

 

「オバサン…悪い人なの?」

 

 男達が去り少しは落ち着いたのか、ずるぼんが恐る恐る口を挟んでくる。

 

「そうさ、あたしゃ悪党さ」

 

「おで達殺されちまうだか」

 

「止しとくれ。子供に手を出すなんて悪党の風上にも置けないよ。 それに、そこの坊やがそんなことを許しちゃくれないよ」

 

「何故そんなことが言えるんですか?」

 

「″眼″が教えてくれるのさ。うちの男共じゃアルキーナの神童に勝てやしないよ」

 

 目、か。

 ″目は口ほどにモノを言う″と言うけれど、原作の大魔王やマトリフしかり、あやふやなモノに自信持ちすぎだろ。

 

「どうして俺の事を知ってるんですか?」

 

「ここに書いてるじゃないか」

 

 呆れ顔の女将が掲げた宿台帳には、ずるぼんの汚い字で、

 アルキーナ でろりん

   〃   へろへろ

   〃   ずるぼん

 

 と記されていた。

 俺の名を先に書く辺り一応はリーダーとして視てくれている様だ。

 俺が絵画に注目していた時にでも書いたのだろう。

 

「この酒場はパーティーの出会いを提供してるのさ。 見込みの有りそうな奴は調べて当然だと思わないかい?」

 

「…そうですね」

 

 てか、俺の噂って王都に迄届いていたのか。

 因みに、″アルキーナ″とは俺が生まれ育った村のことだ。

 

「質問は終わりかい? だったら次はこっちの番だねぇ」

 

「何かしら?」

 

 椅子に座り直したずるぼんが足をブラブラさせ、女将と向かい合う。

 

「そのメダルをどうやって手に入れたのさ?」

 

 女将がメダルを指したキセルの先を揺らして聞いてくる。

 

「狙いはメダルの入手経路って訳ですか」

 

 やはり油断できない。

 短絡的に10000Gを狙ったチンピラとは格が違う様だ。例えるなら、金塊ではなく金山の情報を聞き出すって感じだな。

 掌に炎を生み出し警戒レベルを引き上げる。

 

「はんっ、まったく可愛いげのない坊やだねぇ。 アバンといい″勇者″って人種は食えない連中しかなれないのかい?」

 

「おばさん勇者アンパンを知ってるだか?」

 

 勇者はアバンだって。

 てか、へろへろもずるぼんに並んで椅子に腰掛けたし、俺だけが突っ掛かてるみたいに成ってきたぞ。

 

「よーく知ってるよ。ソコに描かれてるだろ?」

 

「へー? アレッて勇者アバンなんだ? 中々良い男じゃない」

 

 ネェちゃん…。

 勇者に対する感想がソレッてどうなんだよ。

 まぁ、ずるぼん節全開だし取り敢えず安心か。

 あれ?

 アバンと一緒に描かれてと言うことは、女将の事は信じても大丈夫か?

 勇者アバンの真の恐ろしさはその人物眼だと思うんだな。なんたってヘタレにしか見えない″ポップ″の資質を見抜いた位だ。

 そんなアバンと一緒に描かれるオバサンはアバンのお眼鏡に叶った人物ということになる。

 マジもんの悪党ならアバンが放っておかない筈だ。

 

 ずるぼんもへろへろもリラックスしている事だし、俺も警戒を解くか…掌の炎を消すことにした。

 

「なんだい? もうツンケンしなくて良いのかい?」

 

「えぇ。オバサンが信用出来るって解りましたから」

 

「…? おかしな坊やだねぇ? まぁいいさ、さっきの質問に答えとくれ」

 

「モンスターを倒して手に入れたゴールドを重ねたダケです」

 

「そりゃオカシイね。モンスターがゴールドを落とすのは滅多有ることじゃないよ」

 

「そんな事ないわよ! でろりんが倒したらいっぱい落とすわ」

 

「そうだで、兄貴に付いていったらマネーいっぱいだで」

 

 へろへろは両手を広げてアピールしているが、出来れば止めて欲しいぞ。

 

「変だねぇ? ″偽勇者″ってのは商売の神に愛されてんのかね?」

 

「え? 偽勇者ってなんですか?」

 

 内心で″ドキッ″っとしながら惚けてみせる。

 てか、″商売の神に愛される″ってなんだ?

 

「坊やの″職業″さ。この″眼″は特別製でね。 人の強さや職業が観えるのさ」

 

 なんだそりゃ!?

 チートか? チートなのか!?

 

「何よそれ!? そんなのズルいじゃない!」

 

 良いぞ、ずるぼん。

 もっと言ってやれ。

 

「あっはは! そうかい、ずるいかい。

 だけどこんな眼でも無けりゃぁこの酒場の店主は勤まらないから許しとくれ」

 

 成る程。

 そのチートアイで確認した強さを元に、仲間を求めるパーティーに紹介しているんだろう。

 でもチートはチートだ。

 

「赦してあげる代わりにあたしの強さを教えなさいよ」

 

「あっはっはは…そうかい赦してくれるかい。

 ホントはお金を取るんだけど特別に見てあげるよ」

 

 何が楽しいのか愉快そうに笑った女将は、前髪をかき上げ右目を閉ざした。

 

「お嬢ちゃんは、ずるぼん…レベルは4…なんちゃって僧侶…力、9…素早さ、11…体力、7…賢さ、は、凄いじゃないか20もあるよ。運の良さ…は嬢ちゃんも低いねぇ、うちの男共といい一体全体どうしちまったんだい」

 

 それは多分バランのせいです。消滅する地に居る時点で不幸のドン底だ。

 やっぱり消滅を防いだ暁には″真魔剛竜剣″を要求しよう。

 例え装備出来なくても、変わり者の魔族に渡せばそれ相応の装備と交換してくれるだろう。

 

 それはさておき、なんちゃって僧侶ってなんだよ。

 

「ふーん? アタシってば運が悪いの? 闘うのはでろりんだから、他は別にどうでも良いわね」

 

 いや、ネェちゃんも戦えよ。

 

「あっはは。面白い嬢ちゃんだねぇ。運は日によって変動するから気にしなくたって大丈夫さね。 男に闘いを押し付けるのは良い考えだねぇ」

 

 いや、余計な考えを教えないでくれ。

 

「俺ってどうなんですか?」

 

「聞きたきゃお金を払っとくれ」

 

 確かにこの情報には金を払う価値が有るけど、なんだか納得いかないぞ。

 

「いくらですか?」

 

「10000Gだよ」

 

「何よそれ! ダメよ、絶対ダメだからね」

 

 俺の手からメダルを取り上げたずるぼんは、それをしっかり小脇に抱えて俺を睨みつける。

 

 百万円か…。

 安く無いけど情報の価値からして不当な値段設定とも言えないな。

 金は無いけど何とかして教えてもらいたい。

 ずるぼんにあげたメダルはずるぼんのモノだから俺の都合で使うわけにいかないし、どうしたものか。

 

 ・・・よし!

 

「先ほど、貴女の部下に襲われて姉が怖い思いをしました。慰謝料として、10000Gを請求します」

 

「あっはは! この坊やは何処でそんな難しい言葉を覚えてきたんだい? いいさ、慰謝料代わりに教えたげるよ。

 坊やは偽勇者

 レベルは13

 ちから…28

 素早さ…31

 体力……17

 おかしいねぇ? 賢さと運の良さが見えないねぇ」 

 

「…………え?」

 

「そんな落ち込む必要はないさ、この眼でも希に見えない奴もいるのさ」

 

 いや、違う。

 そうじゃないんだ。

 

 俺ってそんな弱かったのか!?

 おかしくね? かれこれ5年は修行したし、力なんか村の大人以上にあるんだぞ!?

 なんでそんなに弱いんだよ!?

 

 アレか?

 表現方法が違うのか?  うん、そうだ、そうに違いない。

 

 

「勇者と付くだけあって先が楽しみな坊やだよ。いずれはアバンみたいに100を越えていくかも知れないねぇ」

 

 ぐはっ。

 100が上限でも無いのか。

 所詮俺は偽勇者″でろりん″でしかないのか…。

 

 死刑宣告を受けた気分になった俺は、その後のやり取りを放心状態のままで流れに任せてやり過ごした。

 

 

 余談になるが、チンピラを捨てて戻ってきた男達が設えた宿泊用の部屋に入った俺は、ずるぼんに小一時間叱られた。

 ずるぼんが震えていたのは、いきなり暴れだした俺が怖かったから、らしい。

 

 見た目は子供、中身はハタチ。そんな俺が12の少女に叱られる情けなさ。

 

 それこれも全部バランのせいだ。

 未だ会った事もないバランへの怒りで我を取り戻した俺は、明日こそは色々情報を仕入れよう! と決意を固めて眠りに就くのだった。

 

 


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