でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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モノローグからスタート。


57

 明けて翌朝。

 

『グォぉぉぉ・・・!!』

 

 獣王の雄叫びと思われる大きな声で飛び起きたのか、ダイ達が勢いよくやって来た。

 ノックもしないのは良いとして、いくら慌てていたとしてもパンツ姿はどうかと思うぞ、マァム。

 しかし、そんな事を暢気に指摘している場合でも無かったので、マントを外して投げ渡すに留めおいた。

 寝起きのダイ達とは対照的に俺達は準備万端、世界樹に向かう為に装備を整えていたのだ。

 冬が終わり春を迎えようとする季節柄、日ノ出がそれほど早くないのがせめてもの救いだが、こう連日早起きだと回復魔法に頼っても疲れを完全に取ることが出来ないでいる。

 

 そんな俺達の事情を知らないダイは、昨夜と違う俺達の装備姿を見て喜色を上げたが、ロモス王宮には行けない旨を冷徹に告げてやった。

 非難を浴びるかと思いきや、

 

『でろりんの分まで俺、頑張るよ!!』

 

 と、変な風に意気込んだダイが部屋を飛び出すと、ポップとマァムも続いて戻っていった。

 3人を追ってダイ達の部屋へと向かうと、逸早く着替え終えナイフを武器に飛び出したダイとすれ違う。

 余りの速業かつ、その猪突猛進振りに一同が呆気にとられてしまうも、なんとか我に返った俺は二階の窓からダイを呼び止め、ロンの剣を投げ渡した。

 ロンの剣ならばダイの竜闘気にも、少しは耐える事が出来るだろう。

 

 俺がそんなやり取りをしている間に、ヒュンケルは何処で調達したのか、ミステリアスな仮面を取り出して素顔を隠した。

 魔王軍に裏切りを悟られない為の小細工だと思われるが、無駄にキマっているのはナンなんだ?

 

『ダイの事は任せろ』

 

 魔剣を手にダイを追おうとするヒュンケルに、「分かってんだろな?」と念を押していると、着替えを終えたマァムが話に割って入り、魔弾銃をヒュンケルに手渡した。

 

『魔法の使えない貴方が持つのが一番良いと思うの』

 

 これが、一晩悩んだマァムの出した答の様だ。

 確かにベホマの籠った魔弾銃を不死身野郎に渡しておけば、これ以上ないくらい有効的に使えるだろう。

 パーティーが壊滅寸前に追い込まれてもムクリと起き上がって、ベホマ弾、発射! ……敵さんがちょっと可愛そうになるレベルである。

 だがこれは、マァムが自分の力の無さを認める行いでもあり、中々やれる事じゃない。

 

 感心の眼差しをマァムに向けていると、彼女はモタモタと着替え終えたポップを戦場に連れ出そうと説得を開始した。

 

 2人のやり取りを横に見ながら、俺達は俺達で身の振り方を相談し始める。

 今正に総攻撃を受けようとしているロモス王宮を見捨てるのは忍びないが、アルキードは既に毎日総攻撃を受けているのだ。

 俺達と同じく、兵士達の疲労も蓄積されつつある今、ここにいる5人が揃って抜ければどんな事態を招くか想像もつかない。

 

 世界樹優先。

 

 俺を残してアルキード行きが決まりかけたその時、

 

「巻き添えくって、死にたかねぇよ!!」

 

 ポップが魂の叫びを上げたのだった。

 

 その瞬間……″ボコッ″とマァムの右フックがポップの顔面を綺麗に捉える。

 

「何しやがるっ!?」

 

 壁に打ち付けられたポップが左頬を押さえて抗議の声を上げたが、涙を浮かべたマァムの追い討ちをかける言葉に、ぐぅの音も出なくなり俯いた。

 

「わたし……城下で闘ってきます。皆さんもお気をつけて」

 

 ペコリと頭を下げたマァムが、宿を飛び出して今に至る……ってか、なんで城下町?

 

 まぁ、いいさ……こんな事は些細な変化だ。

 大事なのはヘタレたポップがマァムにぶん殴られ、それをまぞっほが見ている事だ。

 これだけ原作と似通った展開ならば、見かねたまぞっほがお節介を焼くに違いない。

 原作では、まぞっほの説得を受けたポップがひと欠片の勇気に目覚め、コレからの待ち受ける過酷な戦いを乗り越えていくのだ。

 

 さぁ、まぞっほ! 後は任せたぞ。

 

「ふむ……凄まじいオナゴよな。 じゃが、自分の力、やるべき事をよーく判っとるわい……そっちの坊主とはエライ違いじゃの」

 

「別に良いでしょ? 魔王軍となんか誰だって闘いたくないわよ」

 

「だなっ。弱いヤツは隠れて震えてれば良いぜ」

 

「それもそうじゃの……さて、そろそろワシラも行くとするかの? ホレっ、流石のお主も武器が無くては闘えまいて」

 

 まぞっほが自分用のブラックロッドを俺に投げ寄越した。

 

「・・・・・・は?」

 

「何を惚けておる? 貸し与えるだけじゃぞ」

 

 いやいやいやいや、元々コレは俺のモン……じゃなくって、なんでポップに説教くれてやらないんだ?

 俺はあの名シーンを再現させる為に、ずっとこの宿をとってきたんだぞ。

 事前に打ち合わせれば嘘臭くなると思い、何も言わずにいたのが裏目に出たのか?

 

「ちょ、ちょっと待てよ。コイツどうすんだよ?」

 

 ダイ達の部屋から立ち去ろうとするまぞっほを呼び止め、手にしたブラックロッドの先でポップを指し示す。

 

 これは非常にマズイ。

 

 原作のまぞっほがポップに向けて何を言ったのか、何となくなら覚えている。

 覚えているが、それを口先だけで薄っぺらく真似てみても、おそらくポップの心には響かない。

 言葉とは不思議なモノで、同じセリフを同じトーン同じ声色で話しても、口にする人間次第で印象がガラッと変わるのだ。

 自分と同じ小悪党に堕ちかけるポップを救おうと、まぞっほが親身に話したからこそ響いた……って!?

 

 まぞっほ、小悪党になってねぇよ!

 

 世間的には俺のパーティーメンバーとして悪名も背負っているが、火事場泥棒の様な犯罪行為はしていない。ってか、する必要がなかった。

 

 くそっ……なんでまぞっほが小悪党になってないんだよ!?

 

 だからか?

 

 まぞっほは、自分と重ならないポップに然したる興味を抱いていない……だとしたら、手詰まりだぞ。

 

「放っておけば良いでしょ? アンタも勇者の弟子なら自分の身を護る位は出来るわよね?」

 

 ずるぼんは子供をあやすようにポップに話し掛けたが、その実、興味が無さそうだ。

 

「そうね。嫌がる子供を無理に闘わせるワケにいかないわ」

 

 やはり興味無さそうなマリンが尤もな事を言っている。

 対象がポップでなければ全面的に同意だが、コイツは無理矢理にでも闘わせる予定だ。

 

 さて、困ったな。

 

「ほっほっ……それは誰の影響かの?」

 

「もうっ、まぞっほさんったらっ茶化さないで下さい……それより急がないと」

 

 そんな事を言いながら頼もしきパーティーメンバーは去っていき、それほど広くない室内に俺とポップが取り残された。

 

 ・・・

 

 どうすんだ、これ?

 

 

 この戦いが終われば、無理やり拉致ってマトリフの元に連れてくか……?

 

 いや、それは下策だ。

 

 勇気に全く目覚めていないポップがあの地獄に耐え切れるハズもなく、逃げ出すのがオチだ。

 

 じゃぁ、どうする?

 

 原作と違う行動に出たマァムの様子も見に行かなきゃいけないし、時間をかけてる余裕はない……こうなったら俺が説得するしかないのだが、俺でポップを説得出来るのだろうか?

 

「……なんだよっ、言いたいことが有るならハッキリ言えよ!」

 

 項垂れるポップをジッと見ていると、口許を拭ってばつが悪そうに立ち上がった。

 

「ん? あぁ、そうだな……」

 

 俺は頬をポリポリ掻きながら言葉を濁す。

 

 普通に無理だ。

 

 勝てない相手に策も無く突っ込むのが勇気だとは思えない。

 こんな俺が″勇者とは勇気ある者!″とか叫んでも白々しく聞こえるだけだ。

 

 こんな時、アバンならどうする?

 

 ん? 

 

 待てよ?

 

 アバンか……そうかっ……別にまぞっほを真似なくても、ポップの強すぎるアバンへの依存を突いてやればイケそうだ。

 重要なのはポップが勇気を持って奮い立つ事であり、俺流に発破かけても結果が変わらなければ問題ない筈だ。

 

「何も無いなら早く行けよ! お前は俺と違って勇者なんだろっ」

 

「いや、俺は勇者じゃないぞ? 便利だから名乗ったりするけどな」

 

「テメッ……ホントに嘘つき野郎だな」

 

「なんとでも言ってくれ……まぁ、俺が嘘つきでもアバンの顔に泥を塗る臆病者よりマシだろ?」

 

「な、なんだとぉ?」

 

 顔を赤くして拳を握ったポップは、俺の言葉の意味が判っていない様だ。

 

「はぁ……やれやれだな……いいか? アバンは俺と違って本物の勇者なんだぞ? そんなアバンの弟子が有事の際に役に立たなければ、誰が何を言われるのか分かってんのか?」

 

「うるせーっ、出来損ないの弟子で悪かったなっ」

 

「残念、そうじゃない……″役に立たない弟子作りにうつつを抜かした″と、アバンが非難されるんだ。もっと他の事に時間を費やせば良かった……ってな? 嘲笑われるのはお前じゃなくってアバンなんだよ」

 

「う、嘘だっ」

 

「嘘だと思うなら逃げてみろよ? 真っ先に俺がアバンを笑ってやるぜ」

 

「き、汚ねぇぞっ」

 

 声を落として得意の悪人顔をしてやると、ポップは青い顔で苦し紛れの罵声を吐いている。

 

 予定通りだが、子供を精神的に追い詰めるのは辛いものがあるな。

 

「だが……お前が仲間を見捨てて逃げる事は有り得ない」

 

「ど、どうして、そんな事が言えるんだよ!? オ、オレは今……ダイを見捨」

「見捨ててないだろ? まだ闘いは始まってもない……躊躇う事は誰にだってある。俺だってそうだぜ? 自分のやってる事が正しいのか……分からないまま戦ってるんだ」

 

「あんた……」

 

「それにな? いくらアバンがお人好しでも、何の見込みも無いヤツに力を授けるワケがねぇ。ポップ……お前は、力を授けるに足る男だとアバンに見込まれたんだ。大好きな先生の顔に泥を塗りたくないなら、アバンの信じた自分を信じて頑張ってみろよ?」

 

 

「先生の信じた自分を信じる……?」

 

 アバンの名を出した効果は抜群らしく、ポップは自分に言い聞かせる様におうむ返しに呟いている。

 

「胸にひと欠片の勇気が有るなら逝ってこいよ……骨は拾ってやるぜ」

 

「マァム!!」

 

 止めとばかりに、まぞっほの台詞もパクってみたが聞いちゃいねえ。

 勢いよく駆け出したポップを二階から見ていると、マァムを追ってか城下町へと向かって行った。

 

 ・・・

 

 だから、なんで原作と違う行動をとるかな?

 

「あーぁ、あのガキ死んだな……」

 

「可哀想な事するじゃない? アバンの弟子だからって弱い子は闘わせなくても良いでしょ?」

 

「そうよ……子供を闘わせたくないのは嘘なのかしら?」

 

「そうではなかろう……恐らくじゃが、あの小僧も神託の告げる勇者の一人じゃろうて」

 

 俺とポップのやり取りを盗み見ていたのか、思い思いの事を口にしながら4人が顔を覗かせた。

 

「俺と違ってあいつも神託の告げる本物の勇者の一人だ……死にゃぁしねえよ。って、そんなことより、まぞっほ! なんで小悪党になってないんだよっ。おかげで俺が説教する羽目になったじゃねぇかっ」

 

「ほ? 藪から棒に何を言うとるんじゃ? 儂が小悪党から足を洗えたのはお主の影響に決まっておるではないか」

 

 

「俺の……?」

 

「そうじゃ……アレはもう十年以上も前になるのかの? 年端もいかぬお主が兄者の元、地獄という言葉すら生温い修行に励んでおったのは」

 

「やめてくれ。思い出しちまったじゃねーか。マトリフのシゴキに比べりゃ魔王軍の侵攻も可愛く思えるぜ」

 

「ほっほっほ……お主はそうやって口答えしながらも兄者から逃げなんだ。あの兄者相手に子供が励んでおったのじゃ……儂も少しは踏ん張ってみようと考えてもおかしくあるまい?」

 

「俺を見て踏ん張ったにしても、頑張ったのはまぞっほ自身だろ?」

 

「そうかもしれぬ。じゃが、儂が大魔法使いとして他者から一目置かれる様になったのは、お主のお陰と思うておるのじゃよ。寄せられる期待が辛い時もあるがの……悪くない人生じゃよ」

 

 大魔法使いと呼ばれているかは一先ず置いておくとして、そんな風に思われていたのか。

 

「まぞっほ……」

 

「お主が影で何をやっておるのか知らぬが、少なくとも小悪党じゃった老いぼれに良い影響を与えておるのは確かじゃよ」

 

「そうよ! アンタは自分でどう思っていても立派な勇者なんだから!」

 

 ずるぼんは相変わらず俺を勇者に仕立てあげたいらしい。

 ここぞとバカリに畳み掛けてくるが、当事者である俺は勇者に拘る気が無いんだよな。

 

「そうかぁ? 勇者とは勇気ある者なんだぜ? 打算で動く俺は勇気とは無縁のニセモンなんだよ」

 

 とりあえず、勇者でないのは確実だから否定しておこう。

 

「先を知る貴方が勇気より打算で動いてしまうのは仕方ないわ。だけどっ、私、貴方を見てると思うの……勇者とは他者に勇気を与える者なんじゃないか……って」

 

「俺が? 勇気を与えるだって!?」

 

「リーダーが現れたら野郎共はゴールドラッシュで元気百倍だぜ! がっはっはっ」

 

「金目的じゃねぇかっ」

 

「よいではないか……お主が打算で動こうと、兵士達が目的が金であろうと、世界樹で闘う者達がお主を頼りにしておる事に違いはあるまいて。お主は勇者である事を頑なに拒んでおるが、そろそろこれも役回りじゃと思うて受け入れてはどうじゃ?」

 

「役回りねぇ……」

 

 改めて考えてみると、まぞっほだけじゃなく俺達も小悪党とは言えなくなっているし、原作と異なる行動をとっているのは、ポップやマァムじゃなくて他ならぬ俺達自身か。

 

 ・・・

 

 って、今更か。

 

「そういえば、アンタの神託だとあたし達は何してたの?」

 

 いたずらっ子の様な表情を浮かべたずるぼんが、実に答えにくい思い付きを口にすると、まぞっほとへろへろ、マリンまでもが興味津々といった様相で俺の言葉を待っている。

 

「ふんっ。今とおんなじ勇者に決まってんだろ? さぁ……魔王軍は待っちゃくれねぇ。 百獣魔団をぶちのめしたら俺も直ぐに行くっ、それまで世界樹の事は頼んだぞ!」

 

 嘘っぱちだが、こんな嘘なら許されるハズだ。

 全うに生きるずるぼん達に、俺達の本性は小悪党! なんて伝える意味はない。

 なぜこうなっているのかイマイチ解らないが、人は選択の積み重ね次第で良くも悪くも変われると云うことだろうか?

 

「任されたわい。じゃが、いよいよ不味くなったら逃げさせてもらうぞい。ほっほっほっほ」

 

 そう言ってまぞっほが笑うと、ずるぼん達も同調する様に″ウンウン″と頷いている。

 

 逃げるのは賛成だが……やっぱ、本性は変わってねぇのかも。

 

 

 こうして、なんとかポップを説得した俺は、百獣魔団との戦いへと突入するのだった。

 


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