「いけ! イオラ!!」
呪文を唱えると、二つの光球があばれザルの群へと向かって飛んでいく。
不思議な事に手から離れてもホンの少しだけ軌道修正が可能となっていたりする。
って、ズレタ!?。
余計な事を考えたせいか光球同士が近付き過ぎた。
爆発範囲が重なり合う部分を多くするより、爆発範囲を広くさせたかったんだけど仕方ない。今更軌道修正は不可能だ。
間も無く、アジトの周りで寛ぐあばれザル達の中心付近に着弾した光球が『ドォーン』と爆音上げて炸裂し、土煙を巻き上げた。
土煙に混じって巻き上がった樹の欠片が″パラパラ″と降ってくる。
多分、イオラの巻き添えでアジトも破壊されているのだろう。
だけど問題は無い。
奪い返すのが目的であって、奪い返した結果アジトが壊滅していても構わないそうだ。
使い物に成らなくなったアジトを奪い返しても意味が無いと思うんだけどな。
悪党の考える事は、よく解らない。
″チャリーン、チャリーン、チャリーン″
土煙の向こうで硬貨のぶつかり合う音が聞こえる。
何体か倒せたようだ。
ま、爆発範囲が重なり合う部分に居たあばれザルは即死して当然か。
「マネーだで!」
「ダメよ! 今行ったら危ないから音の鳴った場所を覚えておくのよ!」
俺の背後で、ずるぼんとへろへろが緊張感の無いやり取りを行っている。
コイツらまさか、ゴールドを拾いに此処まで来たんじゃないだろな?
一応、危ないと認識しているし、隣にカンダダ子分の一人が控えているし、とりあえず大丈夫…なのか?
もの凄く不安だ。
やっぱ、連れてくるべきじゃなかったんだよな・・・でも、目を離すのも心配だし・・・はぁ、早く成長してくれないかなぁ。
暫くすると土煙が風に流され、見通しがよくなる。
爆心地付近のあばれザルは地に伏している。
ピクリとも動かないモノもいれば、ビクピクしているモノもいる。
爆心地から離れる程、瀕死を免れており、数体がその場で跳び跳ねたり、胸を叩き雄叫びを上げたりしているが、殲滅を期待していたわけでもないし、先制攻撃は見事に決まったと言える。
その上で、魔物の群は″おどろきとまどっている″様だし、こんなチャンスは見逃せない。
「突っ込むぞ!」
「おう!」
「任せな!」
もう一発イオラを放とう構えをとるも、それより早く3人のカンダダ子分が攻撃を開始した。
俺に与えられた役割は、『イオラによる先制攻撃』であり、本格的な戦闘参加ではない。
役割を見事果たした後は逃げても良いことになっている。
でも、単発イオラなら後何発か撃てるし協力するのは吝かじゃない。
馬鹿正直に真っ正面から突っ込むのは追撃のイオラを放った後でも良いだろうに、契約に忠実なのか、それとも単なる蛮勇なのか?
暫く、お手並み拝見するとしよう。
と、上から目線で考えてみても、乱戦になればイオ系は使い難いから、見守るか逃げるしか無いのが実際のところだったりする。
ゲームと違って、普通に味方を巻き込むのがイオ系の欠点だ。
◇◇
3人のカンダダ子分と7体のあばれザルで始まった戦闘は、終始カンダダ子分が有利のまま繰り広げられられている。
戸惑うあばれザル達の中でも特に弱っているものは、攻撃開始と同時にカンダダ子分達によって1体づつ切り伏せられた。
これで早くも3対4。
その後、あばれザル達が攻撃に転じるものの、子分達は巧みに交わし、攻撃後の隙を突いては的確にダメージを与えていく。
こうやって遠くから観ているとよく判る。
あばれザルがイオラの余波で弱っているのを差し引いても、子分達は強い。
多分、魔法抜きの俺じゃ相手に成らないだろう。
ルイーダが″うちの男共じゃ坊やに勝てない″なんて言ってたが、出鱈目も良いとこだ。
アレは結局、アルキーナの神童がイオラを使えると調査済みのルイーダが、室内でイオラを使わさない様にする為についた方便だったんだよな。
考えてみたら、イオラを使える子供とか恐すぎる。猿にダイナマイトを持たせてる様なモンだ。
下手に刺激して俺がイオラをぶっ放せば、大惨事になると考えたルイーダは、虚実交えた口先八丁で俺を落ち着かせるのに成功したって感じだ。
この世界のご多分に漏れず、俺もチョロい一員だったって訳だ。
・・・思い出したら悔しくなってきたぞ。
いつの日かルイーダを″ぎゃふん″と言わせてやる。
「そこだで!」
「いっけぇ!」
戦闘が佳境に入り、闘技場でも観るような雰囲気で見物しているずるぼん達の応援にも熱が篭る。
子分Aが真一文字に切り払い、子分Bは大上段からを振り抜いた。
″チャリーン、チャリーン、チャリーン″
ゴールドのぶつかり合う音が響く。
ドロップ率100%の思わぬ副作用、ゴールドが落ちれば絶命の合図になる。
これで、残る敵は後2体。
最早、勝利は目前だ。
「へっ。手間かけさせやがって」
「カンダダ一味を舐めた落とし前はキッチリつけて貰うぜ!」
「俺達にチョッカイを掛けた迂闊さを、あの世とやらで後悔するんだな!」
カンダダ子分達も勝利を確信したのだろう。
残る2体のあばれザルを取り囲み、切っ先を向け饒舌に語り出した。
いくら語っても理解されてると思えないが、これで彼等の気が晴れるならこれも必要な儀式なんだろう。
「あーぁー。緑色のお猿さんも見たかったなぁ」
残念そうなずるぼんが、足元に転がる根っ子の欠片を蹴っ飛ばしている。
「ちょっ!? そんな事言ったらダメだって!」
此処に来たのはアジト奪還が目的であって、モンスターの殲滅じゃない。
緑が居ないならそれに越したた事はないんだ。
アジト周辺のあばれザルを蹴散らして、子分達がアジトに入ると同時に「このアジトを放棄する」と小芝居すれば目的達成なんだ。
小芝居する意味が解らないけど、わざわざ強敵っぽいのとやり合う必要も無いんだ。
余計なフラグを立てることなんかない。
「はっはっは。君はどうにも心配性の様だね。見てごらんよ? このアジトは見張らしが良いからここに作られたんだ。どこに亜種が居るって言うんだい?」
いや、見晴らしが良い場所にアジトってどうなのさ!?
俺の護衛として戦闘には参加せず近くに居た門番の男が、両手を広げて周囲の安全をアピールしているけど、そういうのがヤバいんだって。
「なんか降って来ただ」
ほら、みたことか!
へろへろがあんぐり口を空けて空を指差している。
「あっー!! 緑のお猿さんだぁ!」
空から降って来た緑のあばれザルがアジトの屋根、てか、世界樹の根っ子の上に着地すると、そのまま屋根を突き破り″ズゥン″と地響きを発生させた。
茶色いノーマルタイプに比べてふた周り以上デカく見えた…てかマジで何処から降って来たんだ?
空を見上げる。
かなり高い位置に世界樹の枝葉が伸びている。
まさか、あんな所から飛び降りて来たのか!?
ゆうに100メートルは有るだろ!?
「これは…ちょっと不味いかな…」
門番の男が冷や汗を掻いている。
『ウォォオォぉぉ!!』
緑のあばれザルがアジトの中で雄叫びを上げているようだ。
「くそっ!? どうなってやがる!?」
「コングは居なくなったんじゃないのか!?」
「何でも良い! 先に残りのあばれザルを片付けるぞ!」
いや、何でも良くない。
余裕綽々で余計な口上を述べていたのが悪いと思うぞ。
『クェーーっ!!』
ん?
鳥の鳴き声に釣られて再び顔を上げる。
″バサバサ″と羽ばたきながら巨大な鳥が頭上を旋回している。
「しまったぁ!! でろりん君! アイツを倒してくれ!!」
焦りの表情を浮かべた門番の男が、上空の鳥を指差している。
「え? いや、無理ですって。あの高さに届く魔法は持ってません」
雷を落とす″デイン系″でも使えれば何とかなるが、メラやギラでは届かない。
いきなり振られた無理難題に答えていると、巨大な鳥からキラキラ光る粉の様なモノが降注ぎ、カンダダ子分とあばれザル達の周囲を包みゆく。
『クえっクエー』
巨大な鳥が鳴き声上げて羽を広げたポーズを取ると、更に「くえっ」と、一声鳴いて飛び去った。
キラキラ光る粉が強く輝く。
ん?
アレッて″ガルーダ″か?
てか、ホイミの光?
「疲れが消えていく…だと!?」
カンダダ子分が驚くと同時に地に伏していたあばれザルが″ムクッ″とゾンビの様に起き上がる。
「嘘だ!? アレってまさか″ベホマラー″!?」
ベホマラーはドラクエ3以降に登場する範囲回復魔法だ。
しかし、″ダイの大冒険″には登場しなかったし、そもそもこの世界のホイミは患部に触れる必要があるんだ。
離れた距離から多数に回復可能だなんて、この世界だとチートすぎる。
なんであんな鳥が使えるんだ!?
勝ったと思ったのも束の間、一気に形勢が不利へと傾いた。
起き上がったあばれザルは4体、俺のイオラで瀕死だった奴等だ。
生き残りと合われば、あばれザルが6体。
そこに緑の″コング″と呼ばれた個体を合わせると、戦闘開始時と同じ7対に逆戻り。
しかも、敵の体調は万全になったとみて良いだろう。
「でろりん君、君達は逃げるんだ」
どうすべきか悩むより早く、門番の男が険しい顔で逃げを薦めてきた。
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あまりの多さにちょっとビビってます。
期待に添えるよう頑張りたいと思います。