携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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その心象は既にこごえるせかいでなく

 

 

 

 まばゆい光が視界を覆ったその直後、アキラは自分が何処とも知れぬ霧の中にいることに気付いた。

 足元に目を向ける。一見何の変哲もないアスファルトのようだが、アキラにとってはよく見慣れた久川町のそれに間違いなかった。戦闘の跡などは随所にみられるものの、経年劣化で自然と生じたヒビなどは、少なくとも彼女の知っているそれと変わりない。

 

 

(――現実を模した空間を作り出したか、現実の空間を隔離したか)

 

 

 恐らく後者なのだろう、と彼女はアタリをつけた。

 空間の複製まで行ってしまえば、それはパルキアの能力とは別の、特にエスパーポケモンなどの領分になってしまうからだ。

 アキラは確かに、パルキアとその背に乗ってやってきたアカギを見た。しかし、この場に彼の姿は無いし、悪意の波動を感じ取ることもできない。このような状況に陥る直前に「場を移そう」と発言していたため、何らかのそうするに値する事情があったのだろうが。

 

 

「皆は……? いや、そもそも何で誰もいない……?」

 

 

 周囲に何らかの気配こそあるが、それが何かまでは掴むことができない。人間の姿もポケモンの姿も見えず、困惑で首を傾げる。

 アカギは、「まずは」場を移すと発言していた。海の魔物を消したこと自体がまず不可解であるし、加えて直接的に危害を加えてこないという現状から考えると、当然、何らかの意図があって然るべきなのだが、アキラはそれが何なのかを知る術を持っていなかった。

 何を考えるよりもまず先に、レインボーロケット団なのだからとりあえず一度拘束してから話を聞くべきでは、という思いが浮かぶ。全面協力を申し出たマツブサは稀有な例ではあるが、何よりギンガ団はそもそも何を考えているか分からないのが特徴である。媒体によって描かれ方も異なり、最終的目標として「心の無い世界を作る」ということを掲げていることこそ共通しているものの、アカギ本人は改心したり初志を貫徹したりと結末もまた違う。

 

 確実に分かるのは、「あの」アカギが世界の新生を成し遂げ静寂な世界を作り上げた後のアカギであるということだ。

 世界二つが併存しているかどうかも分からないし、何なら既存の世界が滅びて全人類が死に絶えたとしても、彼は新たな世界を作り上げようとしたのだ。その信念の強さは驚嘆に値するが、アキラからすれば元の世界の人間があまりに不憫でならないし、迂闊なことをすればこの世界も諸共消滅させられかねないという危惧がある。いっそ首を刎ねてでも止めようという決意があった。もっとも、相手がいなければその決意にも意味は無いが。

 

 

「デオキシス、体力は?」

「△△△▲▲」

「そうか……けど、大丈夫と思ってる時が一番危険だ。しばらくボールに戻って体力を――」

 

 

 戻した方がいい、そう言葉にしようとした時、彼女は突如として霧の中から湧き出す気配を感じた。

 突然の事態に、しかし彼女の体は半ば脊髄反射的にそれに対処するべく動いた。沈むように姿勢を低くすると同時に手を上手く使って氷の上にでもいるかのように地面を滑る(・・)。直後、一瞬前まで彼女のいた空間を巨大かつ膨大な量の触手が埋め尽くした。

 

 

「▼▼!?」

「――――!?」

 

 

 想定外だったのは、これにデオキシスが対応しきれず呑み込まれてしまったことだろう。彼自身もまた、目とコアを明滅させて驚愕を示した。

 

 

(「テレポート」ができない……!?)

 

 

 その異常を、アキラはデオキシスとの精神リンクによって察することができた。そしてその理由についてもすぐに当たりはつく。パルキアが"空間"転移(テレポート)を妨害しているのだ。

 そういうものだと理解できたなら話は早い。伝達された思考によって急速に冷静になったデオキシスは、瞬時にその身をディフェンスフォルムへと変身(フォルムチェンジ)させ、自身にまとわりつく触手を「壁」によって弾き飛ばして見せた。

 

 

「戻れデオキシス! ベノン!」

「ギギィ……!」

 

 

 多少「テレポート」や固有能力であるところのワープホールが封じられようとも、デオキシスの能力は依然として規格外のそれだ。しかし、ここに至るまでにどれだけ活躍してもらったことか。デオキシス自身は戦闘はできると口にしてはいるが、アキラはこれ以上の酷使を避けたいと考えていた。

 彼女の意を察したように、ベノンは奮起して周囲に一度毒液を散らした。

 

 

「『ヘドロウェーブ』!」

「ゴァッ!」

「――――『しぜんのちから』」

 

 

 そして次の瞬間、アキラとベノンを蒼い炎のエネルギーが囲った。ベノンの放った「ヘドロウェーブ」――毒液の波は抑えきられることとなる。

 ドラゴンタイプの技に特有の高エネルギー体だ。くさ・ドラゴンタイプのポケモンの存在をアローラにいるナッシー以外にアキラは知らない。ナッシーも「まとわりつく」のような技を覚えるには覚えるが、だからと言って成人男性ほどの大きさがあるデオキシスの体全てを覆い隠すほどのものは出せないだろう。自然、その正体には察しがつく。

 

 

「……モジャンボか」

「ボォッボ」

 

 

 言葉にすると共に、霧の中から湧き出すようにして、青黒く巨大なポケモンがその身を蠢かせ現れる。

 なんとも名状し難いその姿形に、アキラは知らず小さな悪寒を覚えた。ゲームの画面などで見られるデフォルメした姿ならばいざ知らず、現実となったモジャンボの姿は、人知から外れた神話的な何某かとしか言いようのない、極めて太い青緑の根のような蔦のような触手に覆われた存在だ。アキラ自身自覚もしてなかった思わぬ苦手なものが判明したが、だからと言って逃げるわけにはいかない。

 加えて、問題はそこではない。殺気も気配も波動も一切感じなかったというのに、このモジャンボは突如として湧き出すようにして現れた。しかし、それはモジャンボが生物(ポケモン)である以上絶対にありえないことだ。

 まず第一に疑われるべきは、パルキアの能力の介在だろう。状況が状況だけにアキラは極限まで気を張って襲撃に備えていたし、デオキシスは念力の網を張っていた。これを掻い潜ろうと思えば、それこそエスパータイプのポケモンの能力を一切用いず、目の前に突然その場に出現しなければならない。

 

 

「驚異的な対応力ね」

 

 

 ――と、推測を重ねたその直後、再び湧き出すようにして女の声がアキラの耳に届いた。

 ベノンの尾先が声のした方を向き、外殻が擦れ合い撃鉄を上げたかのような硬質な音が響く。

 姿を見せたのは、長身の女だ。体にフィットした白と黒の衣装は、アキラに数か月前に観た映画に登場した女スパイを想起させた。

 

 

「ギンガ団か」

「三幹部が一人、ジュピター……参考までに聞かせてほしいのだけど、さっきの奇襲、どうやって避けたの?」

「空気の流れを読んだ。あとは経験からの推測だ」

 

 

 奇襲というのはおおむね死角から行われるものだ。人間の視界の狭さを考えれば、背後か上下というのが定石と言えよう。そこまで分析できれば、閉塞した空間に風が流れ込むとい一つの要因で相手がどこからやってくるかを予測することができる。

 ――言葉にすれば簡単なようだが、常人にできていいことではない。人間の感覚器はごく僅かな空気の揺らぎを受容することは難しいし、仮に認識できたとしても意識を戦闘に切り替えるのはもっと難しい。それを「当然のこと」になるほどに練り上げるのに、果たしてどれほどの修羅場をくぐったのか。そうでなければ生粋の戦闘者という名の異常者に違いない。ジュピターは脳内で彼女をそう評した。

 

 ゆらりと、幽鬼のようにアキラの体が揺れる。それに合わせて揺れた白い髪の間から覗く紅の瞳が、煌々と殺意を燃やしていた。

 ジュピターには彼女が、得体の知れない怪物のように見えた。

 ――が、直後、アキラは僅かに逡巡を見せる。常なら敵と見ればまず叩き潰しにかかるはずの彼女らしからぬ迷いだった。意気込むベノンを手で制し、そのまま彼女はジュピターへ言葉を投げ掛ける。

 

 

「それで、どういうつもりだ?」

「倒すつもりだと言ったら?」

「そのつもりがあるなら、何でこの空間に取り込んでる? あのまま海の魔物(アレ)に呑ませた方がより確実にわたしたちを殺せたはずだ」

「フ……海に沈んだところで死ぬとは思えない、だから確実に始末しに来た……とは考えないの?」

「だったら何でわざわざあの津波を止めた? 散々民間人を虐殺しておいて今更人道に目覚めたなんて言い訳が通じるわけないぞ」

 

 

 この問いかけを聞いて、ジュピターは一瞬答えに詰まった。

 ディアルガとパルキアという、他の伝説のポケモンと比べても一つか二つ桁の違う能力を持ったポケモンがいるのだから、そもそも異空間に閉じ込めて奇襲して殺す、などという迂遠な真似は必要ない。次元の狭間に落として消滅させるか、さもなければ空間を圧縮してそのまま圧殺すればいいだけなのだから。

 そうしないということは、つまりそれだけの理由があるとアキラは推察した。わざわざ奇襲してくるというあたりが考察を多少難しくさせるが、それでも可能性はいくつかに絞られる。アキラは首をすくめた。

 

 

「大方、わたしがいると暴れ出して話にならないから遠ざけてくれ、ってところか……じゃなきゃ、実戦形式の訓練のつもりじゃないのか?」

「……まったく、可愛げのない子供ね」

「肯定と見做す」

「それで結構」

 

 

 そうして一つ息をつくと共に、二人の間に漂っていた張り詰めた空気が弛緩した。

 ベノンの周囲に散らばっていた毒液――「ベノムトラップ」が消滅し、モジャンボが伸ばしていた触手の塊が元に戻っていく。その様子にやはり小さな悪寒を覚えつつ、アキラは続ける。

 

 

「敵のお前たちが、どういうつもりだ?」

「敵……ね」

「そうじゃないとでも?」

「じゃあ逆に聞くけど、もしBOSS(ボス)がこの島に次元断層を張らなかったらどうなっていたと思う?」

 

 

 アキラは基本的に敵に対して極めて苛烈な人間だが、敵の発言を一切気に留めないというわけではない。むしろ波動によって正誤の判断がより正確になっている分、正しいと分かったことであれば判断基準の一つとして考慮くらいはする。

 その上で、彼女はジュピターの言葉は一考に値すると判断した。

 

 実際に、万が一次元断層が発生していないとしたらどうなるだろうか。まずポケモンたちは世界中にその生息域を広げ、その人知を超えた能力で各地に混乱を巻き起こすだろう。レインボーロケット団もまた、世界中に散らばってその暗躍の手を広げるはずだ。それに伴って伝説のポケモンたちも各地で猛威を振るうことになる。

 伝説のポケモンたちは、奇襲だったとはいえ一切の抵抗を許さず自衛隊駐屯地を壊滅させたほどの怪物だ。そう遠からず、各国は軍事力を行使することになる。その果ての果てに世界各地でキノコ雲が上がるのをアキラは幻視した。

 流石に人類がそこまで愚かではないと思いたいところだが、人は過ちを繰り返すとも言う。複数の人間の共通認識の中にその可能性が挙がってしまえば、それはもう十分にその「最悪」の可能性もありえることだと言えた。

 

 

(その可能性を摘むだけでも、次元断層(アレ)に意味はあったってことか……)

 

 

 もっとも、そのせいで閉じ込められた四国住民は地獄を見せられているため、じゃあ許す……などとは口が裂けても言えるわけがない。

 結局のところ、落としどころとしては「許さないし許されるつもりもないが、これ以上お互いに追求しない」というところに収まった。

 

 

「それで? お前たちは、わたしたちに何をさせたいんだ?」

 

 

 話が早い、と。しかしやはり、可愛げが無い、と言いたげにジュピターは小さく鼻を鳴らした。

 

 

「おまえたちには、これから究極技を習得してもらうわ」

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

 時間は僅かにさかのぼる。

 アキラが町の道路に転送された一方、ヨウタたちは何処とも知れぬ山中にいた。

 これはいったいどういう状況なのか? 海の魔物は? アカギがいたはずでは? 胸中で無数の疑問が渦巻く一方、警戒心の強さから周囲を見回してまず初めに違和感に気付いたのは朝木だった。

 

 

「……アキラちゃんはどこ行った?」

 

 

 先程「テレポート」して合流したはずのアキラの姿が無い。

 分断されたのだろうということは容易に想像できるが、そもそも最大戦力のヨウタがいるのだから、彼女だけを分断したところで全く意味がない。

 そもそも、あのままいけば全員海の魔物に飲み込まれて死ぬはずだったというのに、わざわざ異空間に隔離する理由が分からないというのが全員にとっての正直なところだった。

 

 

「――さて」

「っ……!?」

「!」

 

 

 疑問に首を傾げるヨウタたちだったが、そんな彼らをよそに、凄まじい威圧感を伴う影が近づく。

 思わず、ヒナヨは息を呑んでいた。これまでに戦った敵に脅威を感じなかったわけではない。例えばサカキなどは、アキラと共にいて彼女に振り回されてなお、桁外れの闘気のせいで肌が粟立つほどの緊張感を覚えざるを得なかった。

 しかし、やってきた男――ギンガ団のトップであるアカギのそれは、それとはまた質が異なる。サカキの存在感が大地に根差した巨木のようだとするなら、アカギはさながら、天から落ちてくる巨大な岩塊だ。一切の敵意を放っていない中ですらこうなのだ。果たして本気で相対したらどうなることか。彼女は寒気を禁じえなかった。

 

 

「アサリナ・ヨウタ。お前とは、久方ぶりと言うべきか」

「アカギ……」

 

 

 その言葉に、当然ながらヨウタは訝しげな視線を向けた。久しぶりに会ったというのは事実だが、そもそも彼とアカギは敵同士であり、アローラの存亡をかけて矛を交えた仲だ。気軽に会話を交わすような間柄とは程遠い。

 しかしながら、アカギはそんなことは知らぬとばかりに一歩前に踏み出し、ヨウタたちとの距離を詰めた。

 

 

「何をしに来た?」

「何を……そうだな。助けに来た、と言って信じはしないだろうが」

「当たり前だ! 貴様はレインボーロケット団だろう!? この期に及んで、何を企んでいる!」

 

 

 声を荒げたのは東雲だ。グラードンを使役するという極大のストレスに晒されたこともあって非常に機嫌が悪く、衝動的に声を発してしまった形に近い。

 しかしながら、問いかけそのものは至極もっともな話である。彼らにとってギンガ団とはレインボーロケット団内の一組織という扱いでしかない。海の魔物を退けたことは間違いなくヨウタたちにとって利益となる行動ではあるのだが、だからこそ裏があると見るのは当然のことだった。

 アカギは東雲の発した激情を受け止めると、重々しく――本人はそうと意識していないが――頷いた。

 

 

「では、利害の話をしよう」

「……互いに、利のある話だと?」

「そうだ」

 

 

 ナナセは思わずユヅキに視線を送ったが、彼女は首を横に振った。

 嘘はない。その事実が逆に困惑を生む。

 

 

「あの怪物は未だに滅びていない。パルキアの能力で一時的に封印しただけだ」

「は? 封印って……どっかに飛ばしたとか、いっそ空間ごと消滅させるとか、できるんじゃないの?」

「今のパルキアに、空間をそのまま消滅させるほどの力は残っていない」

 

 

 その返答はある程度予測できていたことではある。ヨウタもまた、四国一帯を覆うほどの次元断層を作り出すなどという真似をした以上は、ディアルガとパルキアのエネルギーはそう多く残っていないのではないかと推測はしていた。

 

 

「そして、転移させることは悪手でしかない」

「どうして? 宇宙にでもポイしちゃえばいいのに。アニメでもよくやってるよ」

「それも一つの手だが――デオキシスのことは知っているな?」

「知ってるよ。けどそれが何……か……」

 

 

 素っ気ない返事を返そうとしたその直前、ヨウタの脳裏にデオキシスに関わるデータがよぎった。

 曰く、宇宙からやってきたポケモン。宇宙ウイルスが何らかの外的要因によって突然変異を起こして生まれたポケモン。

 ヨウタたちの世界でも、宇宙は未開のフロンティアと言って相違ないが、それはこの世界でも同様だ。デオキシスの「元」となった宇宙由来のウイルスが、この世界にも存在しないとは言い切れない。

 たとえそうでなくとも、ポケモンというものはその高い適応能力をもって、激変する地球環境を生き残ってきた。海の魔物もまた同様の形質を持つ可能性があるとすれば――あの規格外の質量が宇宙環境に適応し、やがては星を呑み込む怪物に「進化」する可能性すらありうる。

 同様の可能性に思い至ったためか、ヒナヨも頭を抱えた。

 

 

「つまり奴は今ここで倒さねばならない。敵も味方もなく、海に沈む前に」

「……だから、利害……ですか。私たちが戦力として有用であると……」

「だが、今のままでは足りない」

 

 

 言葉を返せる者はいなかった。

 ヨウタたちは自分たちにできる範囲で最善を尽くした。いざとなったら命を奪うということも考慮に入れて、それでもなお最終的に海の魔物が上回ったのだ。このまま戦っても大丈夫とは、誰も言えるわけがない。

 と、そこで痺れを切らしたように前に出てくる者がいた。朝木だ。

 臆病な彼にしては珍しいことで、ただそこにいるだけで強烈な威圧感を放ってくるアカギに対してすら、物怖じした様子はない。その額に浮かんだ青筋を見れば、更に珍しいことに彼が少なからず怒りに身を浸していることが見て取れた。

 

 

「御託はいいんだよ。それより先に俺らに言うべきことがあんだろーが」

「何のことだ?」

「ボケてんじゃねえ! アキラちゃんどこやったんだよテメェ! 仲間が今無事かどうかも分かんねえのに、黙って言いなりになれるわけねえだろ!」

 

 

 その剣幕は、先に海上でヨウタが見た時のもの以上だった。

 朝木レイジの以前の姿を知っている者ほど、その衝撃は大きい。彼は根本のところで利己的な自分を抑えきれず、臆病で余計なことを言いがちだ。そして恐らく六人の中で最もアキラのことを怖がっているはずだった。その彼が、アキラの姿が無いと知るや、圧倒的格上のはずのアカギにすら噛みついたのだから。

 唖然とする一向に対して、しかしアカギの対応は至極冷静なものだ。掴みかかってくる彼の腕を取って躱すと、背後から現れたパルキアに命じてその場の空間に別の空間の光景を投影した。

 

 

「彼女は少しの間、別の空間に隔離させてもらっている」

「何でそんなこと……」

「こうして言葉を交わす前に襲い掛かられるわけにいかないからだ」

 

 

 その主張を耳にすると、朝木はスンと気持ちを落ち着けた。普段のアキラの言行を見ていれば、一理ある。

 実際のアキラはそこまでの狂犬じみた行動を取ることは無いのだが、やはり敵と見ればまず斬りかかるという行動から入る姿をしょっちゅう目にしているだけに、否定することは難しい。納得しがたい表情をしているのはユヅキくらいのものだった。

 投影された空間に映し出されたアキラは、ジュピターと向かい合って何やら会話しているようだった。少なくとも今すぐに戦闘に発展するということは無いだろう。

 

 

「で……僕らに何をさせたいんだ?」

「究極技を習得しろ」

 

 

 これ以上無いまでに簡潔な回答だった。究極技は、以前ヒナヨから示されていた、海の魔物を倒した方法の一端である。習得することそのものに否やは無かった。

 だが、疑問は残る。

 

 

「……あなたは今の世界を作り直して、『心の無い世界』を作ることを目指してたはずだ。僕らを強くすることは、その邪魔になるんじゃないのか?」

「私の目的は、既に果たされている」

 

 

 アカギは、どこか悩ましげにそう呟いた。

 彼にとって理想の世界の構築は、既に終わったことでしかない。ディアルガとパルキアの力を用いて「心の無い世界」を作り出し――その直後に、あるいは直前に、何らかの干渉を受け、その果てにレインボーロケット団のもとに行きついた。

 

 

「レインボーロケット団での活動は元の世界に戻るためのものでしかない。その目的さえ果たせてしまえば、私はその――」

「?」

「――ロトムがいる世界に手を出すつもりは、無い」

 

 

 その言葉は皮肉なことに、彼のもっとも忌むはずの感情(こころ)が強く込められたものだった。

 

 

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