携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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幕間③

 

 

 レックウザの説得が終わったのは、かれこれ一時間ほどが経過してのことだった。

 デオキシスたちが念力やくさタイプの技を用いて破壊された山をある程度元に戻すのを待っていたという事情もあるが、大きな理由は、波動でなんとか骨折した部位を治そうと悪あがきしていたアキラにちょっとずつ話を引き延ばされてしまったせいだ。

 叱られるのが嫌なのだろう。そうした人間的な感性をちゃんと持ち合わせていることに小さな安心感を覚えはするが、それはそれとしてちゃんと叱られろ、とヨウタは内心でツッコんだ。

 「てっていこうせん」を二度使ったリュオンは、現在いわゆる「ひんし」の状態だ。そんなリュオンに「いやしのはどう」を使ってくれ、などと申し出るわけにもいかない。アキラは苦笑いで沙汰を待つことしかできなくなっていた。

 

 

「わたしは最善策を考えてただけで」

「その言い訳はレイジさんの前でやってくれ」

「ぐう」

 

 

 そう一言うめくと、アキラは大人しくなった。

 こいつアホだな、とでも言いたげなレックウザの視線に顔をしかめつつ、彼女はそのままレックウザをボールに収める。抵抗は無かった。

 面白い女だとでも思っているのかは、定かではないが。

 

 ともあれ、全ての要件を終えた以上、もう彼らがこの場にいる意味は無い。ほどなくして浮遊感がヨウタたちを包み――次の瞬間には、過去へ旅立つ前とほとんど変わらない空間に戻っていた。

 驚いたようにナナセがびくりと肩を跳ねさせ、東雲が片眉を持ち上げる。思わずと言った様子でヒナヨが「早っ」と呟くのを聞いて、ヨウタは過去に戻ってからそれほど、それこそほとんど時間が経っていないことを察した。ディアルガが気を利かせたか、単にそうする方が面倒が無いのだろう。相互の時間の流れをわざわざ合わせておく必要も無いのだから、措置としては当然と言える。

 

 そうして帰還したということはつまり、アキラの腕の状態が白日の下に晒されるということでもある。目ざとくそれを見つけたのはユヅキだった。

 あ、と声を発した瞬間にはもうアキラは腕を背中に隠していたが、瞬時にユヅキも距離を詰めて腕を取る。折れた手指では流石にそれをどうこうすることはできなかったらしく、アキラが体術で負けるという極めて珍しい光景が繰り広げられた後で、取り押さえられた彼女は渋い顔をした。

 

 

「やっぱり怪我して帰ったんだな!?」

 

 

 次いでこれに反応したのは朝木だ。彼は35kg近くあるはずのブロスターを抱えつつ、鬼のような形相でアキラに近づいてブロスターを――正確にはその砲口を――向けた。

 

 

「わ、悪かったよ……でも、行く前にそうなる可能性は承知してくれてたと思」

「『いやしのはどう』!」

「ブロロロッ」

「ぷぇ」

「はうッ」

「ハウ?」

 

 

 アキラの全身を「いやしのはどう」の優しい光が包む――が、直後、勢い全部で走ってきた朝木の腰が限界を迎えカクンと彼はその場に膝をついた。ぎっくり腰である。

 

 

「……朝木、あんた……」

「言わないでくれ……」

 

 

 どれほど心が強くなろうとも、体の脆弱さまではどうにもならないのだ。

 ブロスターは半目になりながら、死に体の朝木の腕から這い出た。

 

 

「本当にわざとやったわけじゃないんだな?」

 

 

 朝木に代わり、東雲がその質問を投げかけた。

 対するアキラはそれにしっかりと頷く。

 

 

「はい。コレは本当に必要があっただけです。……あとまだ前の感覚引きずってて、このくらいなら行けるなって……」

「そうか……いや、あれだけの能力を失って数日で合わせろというのも難しいか」

 

 

 正直に言ってしまえば、アキラは「まあ多少なら受け流せるだろう」とタカを括っていたのだ。相手は伝説だ。それ故に、脆弱な人間を追い払うのにそう大きな力を使うことも無い。本気で殺しにかかるなんて流石に無いだろう――などと、頭の片隅で少しでも甘く見ていた。その結果がこのザマである。

 

 

「それで、理由とは?」

「レックウザと、グラードン、カイオーガたちの違いです」

「違い?」

「グラードンやカイオーガはゲンシカイキ。対してレックウザは『メガシンカ』、この差異に何か理由があるんじゃないかと思って」

「……なるほど、そういうことか」

 

 

 それにいち早く反応を示したのはアカギだ。彼は先にカイオーガのゲンシカイキについても推論を立てていたため、アキラがそうした理由についても推測を立てることができていた。

 

 

「グラードンやカイオーガは『宝珠(たま)』を通じてゲンシカイキを行う。これを本当の意味で成功させるためには、強い心を持って、取り込まれないように抵抗しなければならない」

「うん。対してレックウザは『メガシンカ』。やれば体内のエネルギーだけでできるみたいだけど、本当の力を発揮するのは絆を結んだトレーナーとキーストーンが揃ってから、だと思うんです」

「ポケモンの力を借りて『押さえつける』のは逆効果と見たか」

「そうか……それで自分を危険に晒してでもと」

 

 

 それもまた心か、とアカギは頭に刻み込むようにして小さく頷いた。

 

 

「……ヒナ、アカギってキャラだいぶ変わってない……?」

「……知的好奇心がそっち向いてるなら、無いことは無いと思うけど……違和感はあるけどそこはそれ、私ら先入観があるからこそ、でしょ」

 

 

 彼は過去に置き忘れてきた精神的な成長を、今この場で取り戻しているのだ。そう考えれば彼の変化も不自然なことではない。

 アキラが数時間アカギを見ておらず、一時的にその印象がややフラットなものに戻っていたということもある。よりギャップを感じていたのだろう、とヒナヨは推測した。

 どうあれこれでほとんどの問題が解決したわけだが、それにあたってふと、ナナセはあることを思い出した。

 

 

「……そういえば、ほしぐもちゃんは……どうなりましたか?」

「あ、うん。そうだ、紹介しとくよ」

 

 

 そう言って投げたヨウタのボールから、次の瞬間眼が眩むほどの強烈な光が発せられる。

 やがて眼を焼くほどの光が途絶え、その影が獅子の姿を形作り――吼える。

 

 

「ラリオーナッ!」

「おお……!」

「――――」

「ヒナお前……わたしが気付かない速度で写真を……」

「動画よ」

 

 

 姿を現したのは、進化を果たしたソルガレオ(ほしぐもちゃん)だ。派手であるのと同時にどこか神秘的な登場に、思わずヒナヨはアキラですら気付かないほどの速度で動画を撮影していた。

 まるでゲームのタイトル画面のようだとアキラも個人的に思っていたが、現実にそれが起きているとなるとファンとしての心が疼くようだった。それで達人である彼女に反応を許さないほどの速度を出せるのは、いささかという以上におかしなことだったが。加速した精神が肉体を強制的に追従させている。

 

 

「ほしぐもちゃーん!」

「あっ、こら! ユヅ!」

「クゥルルル……」

 

 

 次に、しばらく面倒を見ていたこともあって強く思い入れがあったユヅキが、感極まってほしぐもちゃんに抱き着きに行く。

 ほしぐもちゃんはそれに不快感は持たなかったようで、むしろ逆にユヅキに顔をすり寄せて応じた。大元の元が無邪気な性格をしていたほしぐもちゃんである。先の登場についてもむしろ意図してノリノリで演出していた部分がある。「伝説」だからと言って畏敬の念を持たれたり、それで距離を置かれたりするのは、彼自身としても望んでいないと言えよう。

 むしろこうして積極的に抱き着きにこられるのは望むところで、ほしぐもちゃんは自ら体を低く伏せて、機嫌が良さそうに小さく鳴き声を発した。

 

 

「いいのか……」

「ほしぐもちゃん、むしろそういうの大好きだよ」

「ほしぐもちゃあぁーんッッ!!」

「お前からは邪な波動を感じるからダメだ」

「なぁんでよおぉー!」

 

 

 対して、なんとなく邪な思いを感じるヒナヨはその場でアキラに封じられた。決して悪意は無いが、それはそれとしてだらしない顔で走り寄るのは教育に悪いとアキラに思われたからである。

 同じく、アキラも自分が向かうことは戒めた。戦い戦いまた戦いでささくれ立った自分が教育に良い存在とは思えなかったからだ――という以上に、妹の前ではしゃぐのがみっともない気がしたからだ。本心を言えば

 東雲はそんな彼女の心持ちを察したように、小さく息を吐いてアキラの肩に手を置いた。

 

 

「アキラさんたちも遠慮する必要は無いだろう」

「ヒナはもうちょっと落ち着いたらいいですけど、わたしはいいです。ユヅにだらしない姿見せられないんで」

「だらしないなどということは無い。ポケモンたちに愛情を注ぐというのは、素朴だが眩く、美しい行為だと思う。何も恥じることは無いじゃないか」

「東雲さんさぁ……割とクサいこと言うわよね」

「クサ……!?」

「飾り気が無いっていうか……言葉が素直? っていうのも違うか。熱血?」

「いや、やっぱクサいでしょ。悪いことじゃないけど」

「クサい……」

 

 

 人の心に直接的に訴える飾り気の無い言葉というものは、時に古臭く、そして格好をつけすぎているように感じることがある。

 無論、東雲に格好をつけたいという意図は無いし、彼は感じたままの言葉を告げただけなのだが、ヒナヨにはどうしてもそれがやはり、いわゆる「クサい言葉」に聞こえてしまうようだった。

 

 

「ていうか実際アキラもそんな遠慮しないでいいじゃないのよ」

「いいんだよ、ガラじゃない」

「ガラぁ? そーやってクールぶるからとっつき辛く見えるのよ」

「別にわたしはとっつき辛くたって」

「良くない! 友達がそんな風だと私が嫌なの!」

「なっ……待っ……」

 

 

 ちょっと待て、だとか、あるいはお前わたしと六つは歳違うだろ――などと様々な文句が出てきかけるが、寸前で彼女はそれを止めた。

 年齢というならヨウタもいるのだから今更だ。そもそもヒナヨのことを嫌っているわけでもない。ただ、友達と言われたことが嬉しくも気恥ずかしかっただけである。

 思わぬところから出た素朴な言葉というものは、飾り気が無い分ストレートに人の心に染み入るものだ。アキラは気恥ずかしそうにしながらも、小さく顔をほころばせる。ヒナヨに腕を引っ張られるまま、傍らにユヅキのコスモウムを加えて、彼女たちはほしぐもちゃんを囲む輪の中へと入っていった。

 

 

 

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