携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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 短めです。



アサルト・トゥ・インファイト

 

 

 ――はっきりしたことを言ってしまうと、先の一連の奇襲はそれなりに有効な手段ではあった。

 幻のポケモンとはいえ、一匹のキャパシティを超えるほどの飽和攻撃というのは有効だ。本来ならばここで一同が総力を挙げて全身全霊で防がなければならない事態――だったのだが、アカギは律儀なことに、ここで「横槍を防ぐ」という指示を遂行するべく動いた。パルキアの「あくうせつだん」の一撃で空間の繋がりを断絶、爆発の衝撃を異空間に逃したのだ。

 余計な体力を使わせればそれだけ回復は遅れる。ディアルガの力を使って回復までの時間を稼ぐにしても、既に長時間能力を使っていた関係上、再使用にはどうしても制限が生じる。それ故の措置でもあった。

 

 その後の流れは単純だ。全員が集合したところで再度時間の流れが異なる空間を展開、ポケモンたちを回復させた後にデオキシスの黒い穴(ワープホール)によって、作戦通りに面々をそれぞれの目的地に送り出した――ということになる。

 その上で、アキラが選択したのは敵本拠地への強襲だ。それもただの強襲ではない。メガレックウザの力を借り、拠点そのものを壊滅させる一撃を叩き込むための全力の強襲だ。

 そしてその目論見は結実した。埋め戻された地下の土砂を予め転移させておき、黒い穴(ワープホール)によって開いた空間へ移動。そのままメガシンカを果たした後、超巨大隕石をも砕くほどの力を発揮するメガレックウザの「ガリョウテンセイ」が炸裂――。

 

 

「……当然、何の苦もなく通るとは思っちゃいなかったけどな……!」

 

 

 ――した直後、その一撃は半ばで止められ(・・・・)ていた。

 アキラたちの中では最高の威力を誇り、ともすれば究極技すらも凌駕するほどの威力を発揮するのが「ガリョウテンセイ」だ。それを止めたとなれば、相応の実力を有するポケモン以外ではありえない。

 

 

「フ……フフ……! 思い切りのいい奇襲だ。驚かされたぞ……!」

 

 

 即ち、同クラスの伝説のポケモン二匹による防御。

 中でもサカキは、ミュウツーのうち一匹をメガミュウツーYにメガシンカさせることでサイコパワーを増強、数十層にも渡る最高硬度の複合バリアを形成して「ガリョウテンセイ」を阻んだのだった。

 それでも殆どの防壁が薄布のように裂かれ、メガミュウツーYの腹部にメガレックウザの鋭い顎部が食い込んでいるのを見れば、いかにサカキと言えども冷や汗を禁じ得なかったが。

 アキラとしてはここで倒せるならばそれが最善ではあったが、そのような想定などはじめからしていない。

 

 

「――『はかいこうせん』!」

 

 

 続けざまに、黒い破壊エネルギーが帯となって放たれ光壁を完膚なきまでに破壊した。

 衝撃を和らげるためにメガシンカを行っていないミュウツーが防壁を張るものの、それでもなお威力に負けて押し返され距離が生じる。高揚を覚えたサカキは闘志を剥き出しにて口を開いた。

 

 

「随分な挨拶だ!」

「どの口が言う……!」

 

 

 もとを辿れば、「挨拶」と言うならばレインボーロケット団はその挨拶で四国全土を制圧してのけている。当然、アキラの返答は殺意のみだった。

 

 

「朝木!」

「お、おおお!!」

「む……!」

 

 

 そこで、サカキはレックウザの尾に一人の男がしがみついていることに気づく。存在感の小ささから気付けなかったが、彼は最初からこの戦場に割り込むために機を窺っていたのだ。

 何かはわからないが、何かまずい! 瞬時にそう判断を下すも先の攻撃で距離が生じていることもあって、即座に攻撃に移ることはできない。加えて、朝木はここに至るまでに既に一つ、指示を下していた。「ボールから出たら即座に攻撃しろ」と。

 

 

「ヒュラ――――」

 

 

 笛を吹くような、あるいは吹雪が吹き抜けるような声が響いた時にはもう、その攻撃は終わっていた。

 竜巻と化した冷気が地上に向かって叩きつけられ、崩壊していくタワーの瓦礫をも巻き込んでそこに新たな塔を形作る。この戦いに余計な横槍を入れさせないために雑兵を囚える氷の牢獄(こごえるせかい)だ。

 

 

「下は――ッ、回避!!」

「クアァッ!!」

 

 

 下は任せる。そう告げようとしたアキラたちの真横を掠めるように、凄まじい威力の雷撃が通り抜けた。

 外部電源を必要とするチュリでは及びもつかないほどの電力――どころか、ともするとカプ・コケコのそれを思い起こさせるほどのものだ。伝説のポケモンかそれと同クラスの技だと結論づけ、アキラは再び空を見上げる。

 そこには、巨大な空間の穴(ウルトラホール)があった。そこから姿を覗かせているのは、電飾にも似た姿の異形の獣(ウルトラビースト)――デンジュモク。

 3メートルを超える巨体が上から見下ろしてくるのを不遜とし、レックウザは強い怒りをもって吼え猛った。そして更に、続くように、あるいはサカキの盾になるように現れる人影にアキラも同じように強い闘志と深い殺意をもって睨む。

 

 

「ランス……ッ!! 邪魔だ!!」

「また――いえ、やはり(・・・)あなたですか……!!」

 

 

 互いに互いを苦手とする同士、緒戦で痛い目を見せられたことで二人の意志は奇しくも合致していた。

 

 

((こいつだけはここで倒す――!!))

 

 

 片や、敵の中核をなす最強の矛を封じるために。

 片や、策略の要である頭脳を斬り伏せるために。

 ――必滅、必殺の意志が衝突する。

 

 

「くっそ!」

 

 

 その瞬間に、再び上へと向かうよう朝木はキュレムへ指示を送った。狙いは当然、ランスの乱入によってフリーになってしまったサカキだ。

 アキラたちでなければ勝てると断言はできない。しかし――だからと言って戦わないという選択肢は取れない。彼とて、自分はアキラたちの仲間であるという矜持がある。既に朝木の中で、仲間の信頼に応えるというのは命をかけるに値することだった。

 肩越しに向けられる視線に、朝木は力強く返した。

 

 

「――俺が倒す!」

「できると思うのか、お前ごときが。このサカキに!」

「うるせェ!! やろうともしなきゃ最初から可能性はゼロだ!」

 

 

 恐怖に足が震え、脂汗が出てくるにも関わらず発した力強い啖呵を、サカキは笑って受け止めた。

 夢物語は描かれただけでは永遠に夢物語のままだ。だからこそ、行動しようと決めた……その結果がここにいるサカキでもある。

 朝木のその姿勢は紛れもなく、サカキにとって共感と評価に値するものだった。

 

 

「そうか……非礼を詫びよう。その心胆、このサカキが手ずから相手をするに相応しいと。全力で来い挑戦者(チャレンジャー)!」

「――ッ!!」

 

 

 油断しろや!

 朝木は胸中で悲鳴を上げた。

 

 明確な格上と戦うのはこれで何度目か。これまでの戦いにおいて彼は、必死にもがいて相手の油断を誘い、幸運も絡めてギリギリのところで戦略的勝利をもぎとってきた。しかし、個人単位での勝利は数えるほども無い。相手の油断を誘う事ができなければ、格上の敵を正面から敵を突破できないのが彼なのだ。

 朝木の強がりは、強がりであることをあえて見せることで敵の慢心を誘う戦術的な側面もある。彼にとっては現状は、手札の半分をもぎ取られたに等しい。

 

 

「――上等だァァ!! テメェそこから引きずり降ろしてやらあァァッ!!」

 

 

 それでも。

 男として大人として精一杯に意地を張って、朝木は自らを鼓舞するためにも声を張り上げた。

 

 

「キュレム!」

「ヒュララララ……」

 

 

 今、この場で戦うのは非常に難しい。朝木のポケモンで空中戦に対応できるのがクロバットとガブリアス、キュレムの三匹だからだ。

 対してサカキはミュウツーのみ。数の利に任せて押し切る戦法を取ることもできないではないが、基礎能力の差でミュウツーにはどうあっても勝てまい。

 故に、そこで思考を誘導する。朝木たちこちらの世界の住人にとって、戦闘と言えばルール無用の殺し合いを指す。しかしヨウタたちあちらの世界の住人となると、戦闘というのは「ポケモンバトル」を指すことが多いのだ。

 元、とはいえそこはサカキもジムリーダーだ。体に染み付いた習性というものはなかなか抜けない。加えて求道者気質――アキラはこれを武人気取りの狂人と吐き捨てたが――でもあるため、挑発を受けて場を整えられれば、サカキはまず応じる。そこで作り上げるのが、キュレムの能力による氷の闘技場だ。

 

 中央に向かって投げ込んだボールから現れたブロスターが、「みずのはどう」をサカキに向かって撃ち放つ。それが開戦の狼煙となった。

 

 

「…………!」

「今はいい」

 

 

 前に出ようとしたミュウツーを手で制し、サカキはボールを放る。そうして出てきたニドクインは――単純な腕力のみを用いて、「みずのはどう」を粉砕した。

 

 

「クイィィン!」

「……ッ」

 

 

 ふざけるな馬鹿野郎、と朝木は再び内心で叫ぶ。

 それなりの長期間修行に費やしたおかげで彼のポケモンたちも相当に鍛えられた。ヨウタにも認められるほどで、特に彼からは本気になったジムリーダー相手でもいい勝負ができるだろうと太鼓判を押されていた。

 それなのにまるで通用した様子がない。当然と言えば当然だ。ヨウタはあくまで「ジムリーダー」の範疇での話をしたのであって、チャンピオンを凌駕するほどの実力者を手にしてしまったサカキに敵うとはひとことも言っていない。

 

「ブロロロロロォッ!!」

 

 

 しかし、ブロスターはその力量差を理解してなお、強い意気込みのもと鋏を打ち鳴らした。

 だよな、と朝木は冷や汗を流しながらもその意志に応えて氷の闘技場へと降り立つ。ポケモンがやる気になっているのにトレーナーが逃げるわけにはいかない。

 そして何よりも……。

 

 

(旅を始めた頃のアキラちゃんは俺以上の絶望的な戦力差でも戦い抜いてた! それを一番近くで見てた俺が逃げたら……最低のクズだろうが!!)

 

 

 今、下で戦っている少女に格好の悪い姿を見せるわけにいかない。

 ごく単純で俗な行動原理に、朝木は軽く自嘲した。

 

 

 

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