携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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おいかぜは誰に吹く

「ルリちゃん!」

 

 

 選んだのは、ルリちゃんだった。メガシンカを含めて考えれば、ジガルデを除きヒナヨにとっては最高戦力と言えるポケモンだ。

 横目で彼女が視線を送ると、ユヅキはそれに腕を掲げて応じた。

 

 

「キーストーンよ!」

「お願い!」

 

 

 片や、謳い上げるように。片や、端的に信頼のみをその声に乗せて、光として放つ。

 それはポケモンたちの持つメガストーンと結びつくと、虹色の光となって彼らの全身を包み込み、見る間にその姿を変えさせた。

 

 

「淀みないメガシンカ……これほどの絆を紡ぐ人間を始末するのは、やはり……惜しい」

「ボス、それでも彼女らは理解を示さない獣同然の存在です」

「勿論、理解している。私は……もはや迷うこともできないのだと」

「自己陶酔浸ってんじゃねーわよ殺人鬼が……」

 

 

 半ばキレたような声音を出しつつも、ヒナヨは冷静に数歩下がる。

 ポケモンたちの能力上、ここまで一対一を二つ作るような状態が適してはいたが、最前線での殴り合いが得意なメガメタグロスと、優れた念動力による間接攻撃が得意なメガサーナイトが揃ったとなれば話も変わる。連携を重視し、前衛と後衛に役割を分担することでより効率的に戦闘を行える――はずだ。

 

 

「ルリちゃん、『サイコキネシス』!」

「サァァッ……!」

 

 

 ダメージがあるならこのまま押し切る。そう決めたところで、ルリちゃんはヒナヨの思考を読み、彼女の指示が発せられるよりも早く念動力の暴風を巻き起こす。

 簡単な小細工だ。パキラは小さく舌打ちをした。指示とタイミングをズラすことで、相手の防御、回避といった対処の手を更にズラす。単純であるが故に効果は高い。

 戦闘の技術といい、強く絆を紡いだメガサーナイトといい、パキラはヒナヨの在り方には自然とある存在を幻視させられる。彼女が元いた次元のチャンピオン――カルネだ。

 

 否応なく、強い殺意が引き出される。

 戦闘中であるが故にヒナヨに揺らいだ様子は見られないが、パキラはそれ故に更に苛立ちを感じさせられた。ボス(フラダリ)の傍らに立つ女を自称する彼女にとって、殺意で揺るがない人間というのはどうしてもプライドが刺激されるのだ。

 ヒナヨにとってみれば、殺意や殺気などアキラと一緒に戦っていれば嫌でも浴びせられてしまうもので、そう驚くようなものでもないのだが、だからこそそれが更に気に入らない。ヒナヨ本人が関与しない内に生じていた悪循環の中で向けられる視線は、それこそ射抜くような鋭いものだった。

 

 

「コータス、『オーバーヒート』!」

「コォォォォォ!」

 

 

 そうして反撃にと繰り出される一撃は、手負いにしてはあまりに高い火力を有していた。

 

 

(――お姉んとこのチャムより弱い!)

 

 

 ――が、壁のようにして迫る莫大な密度の火炎を目にして、ユヅキはそう判断する。

 それはあくまで、メガシンカを果たしたチャムの「ブラストバーン」よりマシ程度の評価だったが、特訓の中で幾度となく技の打ち合いをした以上恐れは皆無。

 対処法も、またシンプルだ。

 

 

「『てっていこうせん』!!」

 

 

 炎の壁を貫いたのは、鮮烈なまでに眩い光の束だ。

 単純なタイプ相性だけはゼルネアスの時と比べて真逆。しかし、今はルリちゃんの後押しもある。ペルルのように限界を超えるほどの出力ではないため突き抜けるまでは行かなかったものの、その光線は確かに「オーバーヒート」を相殺しきってのけた。

 

 

「コォォ――――!!」

 

 

 まだだ、と言わんばかりにそこへ飛び込んできたのはコジョンドだ。土煙を突き抜けて高速でやってくると共に、その脚に強烈な火炎を纏わせ振り上げる。

 思わず(「ブレイズキック」なんて覚えたっけ!?)と内心困惑するヒナヨだが、ユヅキは即座に指示を下した。

 

 

「『サイコカッター』!」

 

 

 メロの四本の腕の先に念動力の刃が伸びる。ブゥン、と調子を確かめるかのように空を斬ると、爆発的な推進力をもって即座に向かい来るコジョンドと交錯した。

 

 

「コジョ……!!」

「グゥォオオオオオ!!」

 

 

 コジョンドの「ブレイズキック」は、たしかにメロの顔面を捉え、砕いた。しかし同時に、彼はそれにも構わず四本の光の刃をコジョンドへと叩きつけ、完全に戦闘不能にまで追いやることに成功していた。

 

 

「ナっちゃん!」

「――!」

 

 

 ユヅキの声に応じてヒナヨは即座に思考を組み立てる。それを読み取ったルリちゃんは「サイコキネシス」による念動力の嵐を一部メロへと向けた。

 対するメロは背からわずかに念力を放出しそれを捉え――双方向の力が衝突したことにより、衝撃波が生じる。

 それはメロの背を押し更なる推進力として機能することとなり、瞬時にコータスへと肉薄することに成功した。が――。

 

 

「コォォォ!!」

「う……!?」

 

 

 最後の瞬間、甲羅から炎を吹き上げたコータスは、()()うの体とはいえメロを道連れにしてのけた。

 いちポケモンとしては天晴なことだが、彼、あるいは彼女はいずれ自分が始末されるだろうことを理解しているのかとヒナヨは小さな不安を抱いた。

 

 

(次は……!)

 

 

 フラダリとパキラ、残るポケモンは共に二匹。一匹が言わば切り札的な存在と言うなら、二人が次に出すポケモンは自ずと絞られる。

 ヒナヨは自身の知識を総動員して推測を固め、それをルリちゃん経由でユヅキへと無言で伝える。廃人故の無意味な情報量の多さにユヅキは一瞬目眩を覚えるが、なんとか情報を整理してロンのボールを投じる。

 

 

「ガロォォ……!」

「ドンカラス!」

「ファイアロー!」

「カァァ!」

「クェェェェェッ!!」

 

 

 対して、フラダリとパキラが選択したのは――ひこうタイプの二匹。

 くさ・かくとうタイプのロンは、みず・あくタイプに変化するメガギャラドスに対する最大のカウンターになりうるはずであった。が、特にほのお・ひこうタイプであるファイアローは相性が最悪、そして制空権を取られているとなれば状況はより悪化する。

 そしてこの状況は――――。

 

 

読み通り(・・・・)――――!!)

 

 

 ポケモンバトルではなく、本物の戦いを通してヒナヨが感じたのは、思ったよりもポケモンを交代する隙が無いということだ。

 いわゆる補助技にしても発動は数秒も必要無いし、その間にポケモンを戻し、ボールを投げるという一連の動作を終えることは難しい。ボールを投げた先に攻撃を入れられて終わりだろう。

 あちらの世界の住人にとってそれはごく自然のことで、戦術に組み入れていない例の方が珍しい。だからタイプ相性で劣るポケモンであっても、ある程度強引に押し込んでいく必要が出てくるのだ。

 そしてそれ故に、絶対的な相性の有利というのは小さな油断を生む。その一瞬の油断は、たとえ特性「はやてのつばさ」であっても届かない指示の遅れを生むのだ。

 

 

「――『ハードプラント』!!」

「ブロオオオォ!!」

 

 

 生命エネルギーを多量に含んだ拳を地面に叩きつけ、開放する。爆発的な勢いで木の根が伸長し、空を駆ける二匹を地に墜とさんと振るわれた。

 が。

 

 

「そんなもの……!」

 

 

 二匹のひこうタイプポケモンにとって、その速度はやや緩慢なものだった。

 急上昇と旋回、急下降。鳥ポケモン特有の高速機動を捉えきれず、植物はその成長を止めやがて動きが止まりかけていく。

 そこに待ったをかけるのが、ルリちゃんだ。念動力で木々を捻じ曲げ、追撃をかけたのだ。

 

 

「ドンカラス、切り刻め!」

「ファイアロー、燃やしなさい!」

 

 

 ムチのようにしなる巨木。だが、それはドンカラスの「つじぎり」によって切り刻まれ、ファイアローが全身から炎を発して「やきつくす」。

 いかに究極技と言えども、その性質は「木」のそれを大きく逸脱するほどではない。空を行く者に必ずしも届くわけではなく、仮に届いたとしても力が強ければ伐り倒されることもある。そしてエネルギーの相性の問題で、燃やされればどうしようもない。

 ――それ故に、フラダリは違和感を覚える。

 ヒナヨはここまで様々な策を弄してフレア団を翻弄してきた。戦術的な読みなら、ユヅキの野性的勘による修正を含めても二、三手は先を行かれていることは確かだ。俯瞰的にフラダリとフレア団を知っている彼女が、明らかな悪手となる仲間の一手を見逃すはずは無い。

 ならば。

 

 

「ドンカラス! 『あくのはどう』!」

「っ!」

 

 

 そこでフラダリは、巨木を駆け上がってくる影を見た。

 「ハードプラント」を撃ったのは、空を飛べないポケモンたちがひこうタイプのポケモンたちに肉薄するための「道」を作ることが最大の目的だったのだ。

 加えて、他の究極技とやや性質が異なり物質化した巨木を異常成長させる「ハードプラント」は、ある程度先にエネルギーを注入さえすれば一定のところまでは勝手に成長する。無論、反動を受けてロンは身動きが取れなくなっているが、だったらボールに戻せばいいだけのこと。ゲームじゃない(・・・・・・・)からこその強引な解法だ。

 

 代わって現れたのは、ジャック。奇襲のため可能な限り音を立てずに動いていた彼は、フラストレーションを開放するようにガァン! と鱗を打ち鳴らした。

 ドラゴンタイプのエネルギーを満載にした音波攻撃――「スケイルノイズ」だ。

 タイミングは、間違いなく完璧だった。しかし完璧であるが故に前もって二度、三度と奇襲を行っていたことでフラダリには予測されてしまっていたのだ。

 二つのエネルギーが空中で激突し、弾けて衝撃を撒き散らす。思わず、小さく舌打ちが漏れた。

 

 

「しぶっとい!」

「しぶとくもなる……! これまでに出た犠牲を無駄にしないためにも! 争いの無い美しい世界のためにも! 私は負けるわけにはいかんのだッ!!」

「腐臭塗れで綺麗事ばっかりほざいてんじゃないわよこの大量殺人鬼がぁっ!!」

 

 

 ヒナヨの叫びに合わせて、刹那の間に極めて細い銀色の光がドンカラスの翼を貫いた。

 「ムーンフォース」――それを目にしたフラダリは、その弱さ(・・)に顔をしかめる。

 ダメージは、小さい。視認性を低めたことで照射される範囲が狭まり、ただ単純に破壊力を低める結果になってしまったからだ。

 しかし、彼が目を疑ったのはその直後。ルリちゃんの掌の先に念力によって展開された、月の光の如き銀色の円盤から立て続けに数十発もの極小の光線が追撃に放たれた。

 

 

「サナァァァァッ……!」

「カアアアァァァ!?」

 

 

 次いでルリちゃんが行ったのは、腕を振ることで照射し続けている光線を用いてドンカラスを薙ぐことだ。エネルギーの抵抗によってその体は思い切りルリちゃんが腕を振った方へと押し出され、やがて大樹に激突する。

 しかし、それでも「ムーンフォース」の出力は落ちることなく、むしろより一層高まり、本来あるべき一本の光線へと変じドンカラスの体を横薙ぎしていった。

 

 

「フラダリ様! っ……『ブレイブバード』!」

「ジャック、『ソウルビート』! ――から、も一ぱあぁぁつ!!」

「ジャララアアァッァッ!」

「クワアアアァァアァッ!!」

 

 

  ジャラランガのみに許された、特殊な音波をもって自らの能力を引き上げる音色。それを打ち鳴らすことでジャックはわずかにその体力を削りつつも、上がった速力をもって強引にファイアローがルリちゃんへと攻撃を放つ直線上へと躍り出る。

 攻撃の相性は、有り体に言って最悪だ。かくとうタイプのジャックにとって、ひこうタイプの「ブレイブバード」は効果が抜群……一度でも受けてしまえばその時点で趨勢は決したも同然だ。

 だが、ジャックは全身全霊をもって、その一撃に耐えた。「ひんし」となりうる威力であったのは間違いではない。しかし同時に、信頼するトレーナーへの想いと強い精神力が一瞬肉体を凌駕し、ほんの一発、技を放つだけの猶予が生じた。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

 ――「いわなだれ」。

 現出した岩を広範囲に渡って叩きつける一撃をもって、ジャックはドンカラスとファイアローをまとめて撃破してのけた。

 

 

「あと……」

「……一匹!」

 

 

 残るフラダリとパキラのボールは、あとひとつずつ。いずれも切り札だということは疑う余地も無いだろう。

 怒りを滾らせるパキラに対し、フラダリの表情は一見冷たいものが感じられる。しかし、パキラよりも更に強い感情を抱えているのは、間違いなくフラダリだ。

 もっとも、そのベクトルは怒りとはやや異なる。悲嘆と苦しみの入り混じったその強い感情は、まっすぐにヒナヨたちへと向けられていた。

 

 

「この世には救われるべき人間と同時に、救われてはならない(・・・・)人間もまた存在する……救いの手を必要とする者へ伸ばすためにも! 救われるべきものを救うためにも……! なぜそれが分からない……!!」

「分かるわけないでしょ!!」

「結局のところそれ、おじさんの胸三寸でしかないじゃん」

 

 

 対する二人の答えは、完全な拒絶。

 少なくとも彼女たちにとって、フラダリの言葉は戯言にしか捉えられなかった。

 

 

「上から目線で救うだの何だの、思い上がったことばっかり言うな!! 挙げ句救わないとか救えないとか!! 王族の血筋だか何だか知らないけど、あんたなんてただの狂った独裁者じゃない!! 美しい世界以外見たくなきゃ理想のために人殺す前に一人で勝手に死ね!!」

「ナっちゃん言い過ぎ」

「死ね!!!!!!」

「ナっちゃん」

「他に言いよう無いでしょ!? あいつの理想なんて世界のどこにもありゃしないわよ!!」

 

 

 ヒナヨは、それはもう怒りで荒ぶっていた。

 勝手な言い分に、人の命を軽んじている――と少なくとも彼女には感じられる――言動。最初から許す気は欠片も無かったが、だからと言って言葉も手も緩めてやれるわけもない。

 もっとも、ユヅキも似たようなことは考えている。姉と同じく、安易に人の生き死にを直接的に言葉に出したがらないだけで。

 

 

「そうじゃないわ……これから作るのだもの。あなた達のような子供では、未来のビジョンなど浮かべることなどできはしない……!」

「未来が見えてないのはそっちだよ、おばさん。いずれ切り捨てられる(・・・・・・・・・・)相手によくそこまで付き合ってられるね」

「……なんですって?」

「――邪魔者をこれだけ殺してる人が、邪魔になった味方を殺さないと思える? ちょっと自分と考え方が違うってだけの人を、あれだけ殺してそれを無茶苦茶な理論で正当化してる人が、たかが味方を粛清することを躊躇すると思うの?」

 

 

 ――ありえないよ。

 再びその場にロンを出しながら発したユヅキの冷たい言葉が、パキラの耳朶を打った。

 

 

「『美しい世界』に生きるべき人間を定めてるのは、そこのおじさんの独断と偏見だけ。ちょっと『救われるべきじゃない』人間として認定されればいつ死んだっておかしくない。もし自分がいつまでもフラダリの傍らに立つことができると思ってるなら……想像力が足りないよ」

「ゆずきち、それよその人の台詞」

「ごめん」

 

 

 それを聞いた瞬間のパキラの脳を埋め尽くしたのは、ユヅキに対する――以上に、自らに対する憤怒だった。

 一瞬でも、絶対の忠誠を誓っているはずのフラダリに対して疑いを抱いてしまったからだ。ただ単純にユヅキが相手の心を煽ることに長けていたというのもあったが、何よりもそれに揺れてしまった自分を恥じた。

 

 

「――ヘルガー」

「ギャラドス」

 

 

 これ以上の会話を必要としないと定めた彼女の返答は、無言で最後の切り札となるポケモンをその場に出すこと。

 フラダリも応じるように色違いの赤いギャラドスをボールから出し――同時にその腕を掲げた。

 

 

「「メガシンカ!!」」

 

 

 二匹のポケモンが、虹色の繭に包まれ姿を変える。

 最終、最後の本当の意味での切り札。ヒナヨにとってその紅の色彩は絶対に目にしたくなかったものの一つだが、大丈夫だと己の心を落ち着かせる。

 

 

「……これが最後よ、ゆずきち! ルリちゃん!」

「サナナッ……!」

「うん、わかってる。ロン!」

「ガロオォ!!」

 

 

 ロンが己の拳同士を打ち付け、ルリちゃんが全身から念動力を発する。

 

 残りは、たった一匹。

 ――されど、それは彼女たちが相対する中では確実に「最強」の一匹であることは間違いない。

 

 

 






○ フラダリの赤いギャラドス
 アニポケに登場。単騎でXY&Z時代のサトシさんの手持ちを4タテした。
 加えてあのサトシゲッコウガメガリザードンXを同時に相手にしてまともにやりあえる途轍もない戦闘力を持つ一匹。ヒナヨはこのことをよく知っているので青いギャラドスであるよう祈っていた。結果は案の定赤かった。
 流石にアニポケそのもののギャラドスではないが……?


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