携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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その鱗粉はふぶきに似て

 

 

「『はかいこうせん』ッ!」

 

 

 なんとしてでも先手を取る、その意志のもと下された指示に応じたルリちゃんが放ったのは、かつてミュウツーに向かって使われたそれよりも遥かに威力を増した、銀と薄桃で彩られた破壊エネルギーだった。

 

 

「――『はかいこうせん』」

 

 

 対するフラダリの指示も、同様の「はかいこうせん」。

 ルリちゃんと対照的に赤黒く染まったそれは一拍遅れてルリちゃんの攻撃と衝突するが、二つの光線はわずかな競り合いの後に中程で拮抗し、相殺された。

 

 

(……「フェアリースキン」ありの全力攻撃にタメ張るってどうなってんのよ!?)

 

 

 内心の困惑こそ表に出さないものの、言葉にせずともその異質さはユヅキにもすぐに伝わった。

 特性「フェアリースキン」によってフェアリータイプ技として最適化された「はかいこうせん」の威力は言うに及ばず、あくタイプに変化したメガギャラドスへの確かな優位性を備えた今の一撃を相殺するなど、まともな所業ではない。

 

 

「ロン、『ニードルガード』!」

「ヘルガー、『れんごく』!」

「ギャラドス、『はかいこうせん(・・・・・・・)』」

「!」

 

 

 違和感を覚えたユヅキが行った指示は、とにかく自身とルリちゃんを守ることだ。

 続けざまに放たれたフラダリの指示は再びの「はかいこうせん」。まさか、と思いつつも目を向ければ、ギャラドスは先の攻撃の反動など無いも同然のように二発目を放ってのけた。

 

 

「リガァァァァッ……!」

 

 

 エネルギーの盾を用い、を正面から受けるでも弾くでもなく、アキラやユヅキ譲りの巧みさでとにかく威力を「流す」防御法。しかし、それでも耐えきれずロンの外殻がジリジリと焼ける音が届く。

 

 

そういう(・・・・)ヤツなわけね……!」

 

 

 そこでヒナヨの脳裏に浮かんだのは、彼女が以前戦ったゲーチスのサザンドラだ。三つの首がそれぞれ別の技を使えるという特異な才能を有していたことで、ゲーチスにとってのエースの座に君臨し続けていたが、このギャラドスもその類型。単にゲーチスのサザンドラと比べ鍛え抜いているというのにも留まらず、「はかいこうせん」の反動を一切受けない……というように、地味ではあれど特異個体の一種ではあるのだろうと推測した。

 

 

「『はかいこうせん』!」

 

 

 二射、三射。――攻撃が途切れない。

 いかに防御能力に優れたブリガロンと言えど、何度も「はかいこうせん」を受け流し続けるのは至難の業だ。「ニードルガード」を警戒して近接戦闘を仕掛けてくることもない。

 だったらここで攻撃に出るほか無い、と考えたのは、ユヅキだった。

 

 

「殴りに行く。ナっちゃん、援護して」

「……わかった」

 

 

 寄ってこないなら、こちらから寄って行ってタコ殴り。

 実にシンプルで、しかし、敵の能力を思えば多少ならず躊躇が生じる選択だ。が、彼女は絶対にここで引くことが無い。ならば相方のヒナヨが躊躇するのは、作戦の成功率を著しく下げるだけに終わってしまう。迷いは一瞬にも満たない時間だけで終わった。

 

 

「ルリちゃん、壁お願い!」

「サナ!」

「ロン、全速前進! お姉んときの模擬戦と同じで!」

「ブロォ!」

 

 

 ひとつ指示を送ると、ロンは地面を拳で叩いて前方――「はかいこうせん」を撃ち続けるギャラドスを一瞬、見据えた。

 ――次の瞬間、緑色の防御エネルギーの残光のみをその場に落とし、ロンの姿がかき消えた。

 

 

「!」

「ギャラ……!」

 

 

 トレーナーの指示を適切に受けるため、普段無意識的にかけているリミッターを外した、真の全力機動。ポケモンであるギャラドスはともかく、フラダリがそれを視認することはできなかった。

 対して、ユヅキははじめからその戦法を前提とし、「気」によって道筋を把握している。

 ギャラドスの顔面横へと到達したロンの腕が深緑に輝く。事前に贈っていた指示は一つ。あの物理的にデカい顔面(ツラ)したギャラドスに一撃(ウッドハンマー)をお見舞いすることだ。

 

 

「リッガアアァァァァッ!!」

 

 

 充分に鍛え上げられたくさタイプであるロンの放つその一撃の威力は、爆風と音響によってより明確に表された。

 普通のポケモンならまともに当てれば確実にノックアウトするだろうという一撃だ。

 だが――倒れない。

 揺るぎはした。頭蓋が軋むほどの威力は発揮した。だが、一瞬で切り返すことで即座に体勢が戻り、まるでダメージを感じさせないままその牙に冷気を纏わせる。

 

 

「――やれてない! ロン!!」

「ッ、ガアアアアアアアアア!!」

「ゴオアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

 ギャラドスの牙が眼前に迫る。その刹那に彼は「ばかぢから」で顎自体を閉じられないよう拳を叩きつけるが――ギャラドスは、それを一切意に介さず、噛み砕いた。

 ばきん、と凄絶な音が響き渡り、ロンの外殻が圧潰する。ボールの保護機能が働かなければ確実に命が奪われていただろう一撃に、わずかに背筋が凍る。

 

 

(こいつ……!!)

 

 

 同時に、そこでヒナヨは先の推論が誤っていることを悟る。

 はっきり言ってしまえば、あれはただ「はかいこうせん」の反動を意に介する必要が無いほど単に肉体的に頑丈なだけ(・・)なのだと。

 筋力と常識はずれの骨密度でもって、本来ならポケモンに一身にかかる反動を完全に制御し、抑え込む。たったそれだけのこと。極めてシンプルに「強い」からこそ、可能な芸当だ。

 才能と言うのなら、あのギャラドスに備わった才能は即ち肉体的強さそのもの。その在り方は、伝説のポケモンのそれに似る。

 

 

「あいつ、気がおかしい。まさか……!」

「気付くか。……そうだ。このギャラドスには、生命エネルギーを極限まで注入している。ゼルネアスを使ってな」

 

 

 あの少女はいいヒントを与えてくれたよ、とフラダリは皮肉げに小さく笑った。

 普通の人間と比べて数倍以上の生命エネルギーを秘めていたことで、人間離れした身体能力を有していたアキラは、生命力をオーバーフローさせることによってどうなるかというモデルケースとして最適だった。

 

 

「けど、同じことは何度もできなかった。違う?」

「…………」

 

 

 ヒナヨの指摘に、フラダリは沈黙で返した。しかしその沈黙こそが雄弁な回答となる。

 人間程度の生命力ならともかく、ポケモン、それもいち組織のボスの切り札ともなれば元々の生命力が桁違いだ。試しにとやってみてその有用性についても実証はできたのだが、そこでゼルネアスのエネルギーが尽きて一度休ませる必要が出てきた。結果、二度目、三度目の試験は行うことができずに現在に至る……という状況なのだろう。

 そう考えるとなるほど、準備期間を置かず速攻で勝負をつけようとしたアキラの判断がここで更に活きてくる。本人の意図したところとはやや違うとはいえ。

 

 

「じゃ、やっぱここを乗り切れば終わりってことだよね。ルル!」

「ガルルルルァッ!!」

 

 

 次いで、ボールに戻ったロンの代わりに出てきたのはルル。出現と共にメガシンカの光がその身を包み、溶解していた角と千切れた尾を補うようにして火炎がそれらを形作る。

 この日、戦闘中二度目のメガシンカ。小さくない負担が襲い脂汗が浮くが、その負担もユヅキは無視した。アキラが以前行使した同時メガシンカという理外の負担にまでは及ばないものの、それでもそれなりの負荷にはなる。

 とはいえ、それで何かが変わるというわけではない。実のところ、ユヅキもヒナヨも残るポケモンはそれぞれ最終進化を迎えていないドララ、ハミィ、そしてコスモウムのみ。追い込まれたのはどちらも同じ。かつ、タイプ相性もそれほど良くはない。

 

 

(かくとうタイプ技ならどっちにも効果抜群、だけどルルは覚えないしルリちゃんが覚えてるのは『きあいだま』一つ、単体相手にしか撃てない以上……どっちにしたって今やるべきことは一つ!)

 

 

 ヒナヨは親指と中指を立ててハンドサインを示す。それを目にしたルリちゃんが動き出し、ユヅキはルルと共に前に向かって駆け出した。

 

 

「トレーナーが前に――ヘルガー!」

「グラァァアッ!!」

「ギャラドス!」

「ギャアアアアァアッッ!!」

 

 

 トレーナーが前に出る――それは既に以前、アキラがやってみせたことだ。

 実際にそれを目にしているパキラやフラダリにとって、そうした意表を突く形での奇襲など予想できている。そして、ポケモンたちがいるなら、人間の突撃などまるで意味をなさないというのが実情である。

 ――本来なら。

 

 

「焼け死になさい! 『ねっぷう』!」

「『ストーンエッジ』!」

「ルリちゃん!」

「サナッ!」

 

 

 地面から生じる棘のような水晶体。そして、迫りくる火炎混じりの風。ルルはそれを目にしてなお、一瞬たりとも足を止める様子を見せはしなかった。

 当然、それらを食い止めなければルルはともかく生身のユヅキはまず間違いなく死ぬ。それを知っているが故の、「サイコキネシス」。エスパータイプの技では効果が無いルルではなく、その下の地面を足場として浮かすことで「ストーンエッジ」を躱し、前方に岩を隆起させることで盾にした極めて強引な突撃だ。

 こじ開けられた空間へと分け入ったそのタイミングで、ルルは全力で咆哮(「バークアウト」)した。

 

 

「ガアオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

「ぐっ!」

「うっ……」

 

 

 物理的威力を伴う咆哮。それはトレーナーを守りに入ったヘルガーとギャラドスに僅かなダメージを負わせることそのものには成功した。

 だが、現状はそこまで。同じあくタイプの二匹には当然ながら大きなダメージにはなりえず、トレーナー自身へのダメージは絶無。

 それでも、「バークアウト」の衝撃は前方にのみならず、側方……ユヅキがしがみついていた側にも、ごく小さなものが発生した。しっかりとそれを宙で蹴ったユヅキは勢いのままに加速。人間になしうる限界ギリギリの速度でパキラへと肉薄する。

 

 

「ッ」

「卑怯とは言わないよね」

 

 

 ぱし、という軽い音の直後、一拍遅れてパキラの顎が右にブレる。その一見ごく弱い一撃で、彼女の意識は断ち切られた。

 

 

「ゼルネアス! ……ゼルネアス! 何故回復しない!?」

「生命力をいくら回復したところで、脳からの信号が断ち切られれば意識なんて戻らないでしょ」

 

 

 それは、アキラが実際にフレア団と戦った経験からユヅキに伝えたある種の対策だった。

 彼女が以前フレア団と戦った際は、なんとしてでもイベルタルをボールに戻してもらわなければならなかったため、フラダリの意識を留めた上で脅すという形を取らなければならなかった。しかしジガルデが押さえている現在はその心配も無く、意識を断っても何ら問題はないのだ。

 どれだけ意志が強かろうとも、脳を揺らされれば生物として意識を保つことは不可能だ。ダメージの蓄積によって長時間昏睡状態に陥ったアキラの例からも分かるように、生命力をどれほど高めようが、意識が戻るのは自然の成り行きに任せねばならない。

 

 

「グルル、ガァァッ!!?」

「ガオアア、グアアアアアァァゥ!!」

 

 

 そして、パキラの意識が落ちるのと共にヘルガーのメガシンカも解除される。

 すかさずルルはその喉元に噛みつき、なんとしてでも戦闘不能に追い込まんとする。

 

 

「――『アクアテール』」

「!」

 

 

 そこへ、叩き込まれる一撃があった。

 まずい、と思った時には既に遅い。味方であるはずのヘルガーをも巻き込んだ一撃がルルを捉え、空中で二度も三度も回転するほどのダメージを与えてボールへと強制送還した。

 

 

「『はかいこうせん』っ!!」

「サナァァッ!!」

 

 

 そして結果的にではあるが、ギャラドスはその瞬間に大きな隙を見せることとなる。

 ルルが戦闘不能となったことで状況こそ悪化しはしたが、これこそが最大の好機だ。特性による最適化と練度によって高まった威力で、周囲の瓦礫をも含めまとめて消し飛ばすほどの威力を見せたそれは、(しか)とギャラドスの横腹に叩き込まれた。

 

 

「これなら……っ!」

 

 

 「フェアリースキン」を上乗せしたメガサーナイトの「はかいこうせん」の威力は、ゲームにおけるポケモンの歴史を紐解いても有数の威力を誇る。いかに生命力の極まったメガギャラドスと言えど無事では済むまい。

 

 

「ナッ……!!?」

 

 

 ――しかし、その希望は次の瞬間、土煙の向こうから放たれた赤と黒の光線に撃ち抜かれたルリちゃんを目にすることで、無情にも打ち砕かれることとなる。

 無意味ではない。無意味ではないが……戦闘不能には陥っていない。今にも倒れそうなほどにふらついてこそいるが、それでもなお倒れる様子が無い。加えて未だ「はかいこうせん」の威力に減衰するような様子が無いというのも問題だ。

 

 

(あとは……もう、これしかない、か)

 

 

 諦念に似た感情の中、ヒナヨはユヅキと共に前方に向かってボールを投げた。

 現れたのはドララと――ハミィ。既にこの二匹しか残っていないという状況にあってなお戦意が衰えていない二人に、フラダリは表情を歪めた。

 ここまで来てしまったのなら、もはや無駄に苦しむだけではないか。なぜそこまで。そう考える彼に、ヒナヨはひとつ指を突きつける。

 

 

「言っとくけど、私らにとってこの子たちが本当の意味で最後の切り札(・・・・・・)。出すって決めた時点であんたの負けは決まったも同然だから」

「大きく出たものだ」

 

 

 何もヒナヨと言えど、何の根拠も無しにこうした言葉を口にするわけではない。

 ドララの才覚は、以前ちょっとシャルトの進化を目にした程度でそれを模倣し、自らも進化して見せることではっきりと示された。あれからしばらく特訓も行い、最終進化を行える最低限のレベルには達しているだろう。あとは他のポケモンの進化を目にすればまず間違いなく進化できる。

 そして、ヒナヨがロトムから聞いて把握している限り、ハミィは既に進化条件を(・・・・・)満たしている(・・・・・・)

 

 その上で進化していないのは、ひとえにユヅキとハミィのわがままではあるのだが――進化させることを避けたいという気持ちは、ヒナヨにも理解できる。

 ユキハミというポケモンは大量の食料を必要とする。それは単に食べるのが好きだから大食いだというだけではなく、それ以上に成長のためのエネルギーを欲しているからだ。そしてユキハミの食性は蚕のそれと似て、成虫になった際にはほとんど食料を必要としなくなる。

 食べないわけではないが、それこそスプーン一匙程度食料だけで十分。カイコガと同じように一週間で死に至るようなことは無いだろうが――進化すれば寿命を縮めるのは間違いない。

 だから、ハミィを進化させる気は、彼女には本来、毛頭無かった。いつか平和になった時、姉や仲間やポケモンたちを含めたみんなでいろいろなものを食べよう、と決めていたのだ。

 けれど、もはやそんなことを言っていられる状況ではない。

 そんな状況に追い込んだフラダリに、ユヅキは強烈な怒りを抱いた。

 

 ――そして彼女は、姉と同様強い感情を力に変えられる才能を有した稀有な人種である。

 

 

「――行くよ、ハミィ」

「ふわっ、ふわわわわ……!」

 

 

 次の瞬間、ハミィの体が進化の光に包まれる。

 それを片側の頭で捉えたドララは、肌で覚えたその感触を一つ残さず再現し――己の体をもまた、進化の光で包んだ

 

 

「何!?」

 

 

 その光景に対して、フラダリは強い驚きを示した。

 あまりにも稀有な才能と言うほか無い。たったひと目見ただけで進化の感覚を掴み、それを自ら再現するなど正気の沙汰ですらない。

 現れたのは、途方も無いオーラと冷気を撒き散らすサザンドラ、そしてユキハミの進化系である――モスノウ。

 くるるる、とハミィの声が鳴る。それが戦闘再開の合図となった。

 

 

「『むしのさざめき』!!」

「スゥゥゥ!!」

「グゥギャアアアァッ!!」

「ぬうっ!!」

 

 

 前方、ギャラドスとフラダリを含む広範囲を対象とした音波攻撃。むしタイプのエネルギーが込められた音波はギャラドスの体に引き裂くようなダメージを与えた。

 進化した直後でこの威力――ギャラドスの体力が尽きかけているというのもあるが、それ以上にただ強い。進化の際に生じる余剰エネルギーを全力で全身に回すことができている今でしかできない全力全開。鍛え続けることでいずれこの位階に辿り着くこともありうるだろうか。言わば後に辿り着く能力の先取り――仮に狙ってやっているのだとすれば、大したものである。

 

 

「ドララ、やれるわよね!?」

「ドラァァッ!」

 

 

 進化したドララを目にして、きっとやれる(・・・・・・)のだろう、とヒナヨは確信していた。

 なぜなら実際に「それ」を目にしている。戦っている。血を引いている。そして何より鮮烈なまでの才能がある。

 躊躇うこと無く、彼女は指示を送った。

 

 

「――『シグナルビーム』、『チャージビーム』、『きあいだま』ァ!!」

「ドォラアァアッ!!」

「何っ!?」

 

 

 ドララが放ったのは、三つ(・・)の技。全くの同時に射出されたそれが寸分狂わずギャラドスがさらけ出した横腹に突き刺さると、三種類のエネルギーが相互に作用しあい大爆発を起こした。

 三つ首という特徴を最初に昇華して見せたのは、ゲーチスのサザンドラだ。そしてそれを成し遂げたポケモンの血を引いているとなれば、ドララにもそれが模倣できない理由はない。はずだ。

 そうして推論を組み立てたところ、実際にそれができた。一発一発の威力はやや低いが、それでも成功はした。ならば戦術の組み立ても容易になる。

 

 

「くっ、ギャラドス、『はかい――」

「『ふぶき』!」

「グアアアッ!!」

「ぬっ、ぐう!!」

 

 

 もうコレ以上攻撃はさせない!

 未だギャラドスの攻撃能力は減衰しておらず、今のハミィやドララでは一発受けただけでも戦闘不能になりかねない。ユヅキは確固たる意志のもと、最適のタイミングで指示を投げる。

 暴風と冷気、そして大気中の水分が凍結した雪が襲いかかることでフラダリの視界が閉ざされる。まずい、と思ったのは一瞬のこと。直後、彼の顔面を強い衝撃が襲い、強く地面に頭を打つ。

 

 

「がはっ!!?」

 

 

 ――衝撃!? 痛み……攻撃!? これは!

 

 困惑が脳内を占めていく。まさかと思い目を見開いたフラダリが目にしたのは、全身を「ふぶき」に晒しながらも猛然とフラダリへと駆けるユヅキの姿だ。

 味方の攻撃さえも利用して、自らが傷つくことすら厭わず、烈火の如き怒りを拳に込める。その在り方はやはり、一度はフラダリを追い詰めかけた白い少女(アキラ)のそれに似る。

 そして、その行動もまた同じく。

 

 

「くおおっ!」

 

 

 ここで自分もパキラと同じように意識を落とされてはならない! その一心でフラダリは腕を顔の前で固めた。

 しかしユヅキは、そうすることをこそ待っていた。意識を刈り取ることができるならそれで十分。だからこそ、それだけは避けようとするというのは容易に予測できる。

 故に彼女の狙いは、はじめから腕……もっと言うなら、指。そこに嵌められたキーストーンだ。

 

 

「獲ったよ」

「がぁっ!!」

 

 

 わずかに開いている指の隙間をこじ開け、逆向きにヘシ折って強引にキーストーンの指輪を奪取。直後、ギャラドスの姿がキーストーンとの繋がりを断ち切られ元に戻る。

 待っていましたとばかりに、ヒナヨは声を張り上げた。

 

 

「ドララ! 『チャージビーム』、撃ちまくって!」

「ドラララララララララァッ!!」

「グギャッ、ガアアアアアアッ!!」

「っ、ギャ、ラドス!! まだだ! 撃てェッ!!」

「ゴアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 雨のように降り注ぐ「チャージビーム」の中、それでも瀬戸際で倒れないギャラドスは、己の意地を示すように全力の一撃を放った。

 血を吐くような色合いと、そして凄まじい威力の「はかいこうせん」。命を削るかのような一撃だ。攻撃中であることで回避もできないドララだが、その前方に躍り出る白い影がある。

 ――ハミィだ。羽を拡げ、大きくなったその体格を存分に活かして「はかいこうせん」を受け止める。しかしギャラドスの攻撃は生半可なものではない。このままドララごと押し切れるとフラダリは確信していた。

 

 

「スノッ、スォオオオオオ……!!」

 

 

 ハミィは、それを覆して見せた。

 全推力で「はかいこうせん」に抗い、理外の威力を秘めているはずのそれを逆に押し返す。

 ありえない光景だった。計算の上では、どう考えてもこのポケモンがそれを為すことができると思えない。

 と、その時。不意にフラダリの目にハミィの羽からこぼれる白い鱗粉が目に映る。

 

 

「――――『こおりのりんぷん』だと!?」

 

 

 特性、「こおりのりんぷん」。常時撒き散らされる鱗粉によって特殊攻撃を減衰する、ユキハミ・モスノウ固有の特性だ。

 これにより、本来耐えられるはずのなかったハミィはごくわずかに体力を残すことに成功してみせた。更に、ユヅキはそこへ最後の指示を送る。

 

 

「『ミラーコート』!」

「スゥゥ!!」

 

 

 瞬間、ハミィの全身が輝きに包まれる。氷によって形作られた鑑によって光線が反射し、ハミィの放つ冷気と混合し更に倍の威力となりギャラドスへと帰っていく。

 ――それだけではない。上空を見れば、無数の流星。ただ一点、ギャラドスに向かって墜ちるその一撃(りゅうせいぐん)は、紛れもなくドララにとって最大最強の攻撃である。

 

 

「これで……」

「とどめぇぇぇっ!!」

 

 

 そして、閃光と爆音が、ギャラドスを包み込んだ。

 

 

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