携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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三対のいてつくしせん

 

 

 この世界で戦いを始めたのはある意味ではこの三人だった。

 砂浜でヨウタとサカキの戦いの結末をアキラが見届けたことが、旅を始めるきっかけになった。彼らの快進撃を知ったサカキが、戦いを激化させるきっかけを作った。

 だからこそ、この世界での戦いが終わらせるのはこの三人が揃った時なのだろうと、漠然とヨウタは考えていた。

 

 

「どのくらい来てくれた?」

「みんな」

「みんなって」

「声かけた文字通り()()()。リーリエもハウも、グラジオやグズマも、ルザミーネさんやキャプテンのみんなまで」

 

 

 道理で、とアキラは息を吐く。

 「できるだけ多く」と注文をつけたのはアキラだが、こちらの世界に戻ってくるだけならそこまで長く時間はかからないはずだ。

 時間がかかって余分に苦労したことも事実だが、そのおかげでレインボーロケット団の反攻を防ぎきれたのは事実であり、褒めこそすれ責められるいわれはどこにもなかった。

 

 

「ユヅキたちのとこにはグズマさんとハウ、ショウゴさんたちのとこにはルザミーネさんが行ってる。他の街にはキャプテンの皆が」

「下も騒がしいな」

「グラジオとリーリエが頑張ってくれてるよ」

 

 

 レインボーロケット団の大軍勢に比較すればごく微小な、しかし、これ以上無いと言える――それこそ笑ってしまうほどに頼もしい大増援だ。

 サカキに一度勝利しているヨウタまでもがこの場にいる。疲労で萎えかけていた気力がグンと湧いてくるのを、アキラは感じた。

 

 

「終わりだサカキ。とっとと諦めて降参しろ」

「仮にそうしたとして……減刑は考慮されるのかね?」

「知るか、法廷で言え図々しい奴が」

 

 

 刺すような殺気に当てられていてなお、サカキは揺るがない。

 その返答も、降伏勧告に対してどこか挑発的だ。ざけんな、とアキラは口の中で呟いた。

 そんな彼女を尻目に、サカキが手元の機械を操作すると、タワー近くの地面から巨大な物体がせり上がってくる。それが戦闘飛空艇と呼ばれるロケット団のテクノロジーだと理解したのは、ごく間近に接近してからのことだった。

 

 

「ここは戦うのに向いていない。ついてきたまえ」

「行く?」

「しかないだろ」

 

 

 飛行艇の長い首、その中間部分が展開し、形作るのは――ひとつの闘技場だ。

 バカみてぇな仕掛けしやがって、などと吐き捨てるアキラは、しかしいの一番にデオキシスのワープゲートを通って闘技場に降り立った。

 続くように、ヨウタたちもワープゲートをくぐり抜ける。外から見たよりも遥かにしっかりした作りのそれは、ロケット団が作ったものでなければ称賛していただろうというほどだ。

 

 

「戦況は?」

「朝木がなんとかしてくれた。あとは二匹のミュウツーしかいない、はずだ」

「切り札がありそうだね。ほしぐもちゃんは後ろで待機、サカキが逃げないか見張って」

「ガォ」

 

 

 ニドクイン、ニドキング、ドサイドン、そしてダグトリオ。一般的なポケモントレーナーの所有するポケモンが基本六匹までとなれば、残るは二匹のミュウツーのみだったはずだ。

 しかし、他でもないアキラたちが六匹以上のポケモンを常時保有しているため、その前提は通らないだろうということは理解していた。故に即答する。絶対何か隠し札がある、と。

 そして案の定、サカキは懐を開き――その隠し札を表に晒した。三つのハイパーボールだ。

 

 

「では、期待にお応えしよう」

「お応えすんな!」

「期待もしてないよ!!」

 

 

 二人はそこで新たにボールを取り出した。シャルトとラー子、ミミ子、そしてカプ・コケコ。それぞれ対応力と根本的な種族としての能力が高いポケモンたちだ。対して、サカキがくりだしたポケモンは三匹の鳥ポケモン。それを目にして二人は思わず目を疑った。

 その身に火炎を纏うもの。雷鳴と共に現れるもの。空気を凍てつかせるもの。それらのポケモンを示す名前自体は知っている。しかし、同時にそれらは、彼らの知る姿とはあまりにも異なっていた。

 

 

「サンダー、ファイヤー、フリーザー……か!?」

 

 

 電気を発することなく、空気を裂く雷鳴に近い音のみを響かせる橙色のサンダー。黒い体色の、炎のようなオーラを吹き出すファイヤー。そして、紫の羽を周囲に浮かし、冷徹な視線を周囲に振りまくフリーザー。

 しかし、彼らの名を冠する属性(もの)が、そこには無い。サンダーは雷鳴のような音を発するに留まり、ファイヤーは火炎のように揺らめくオーラしか発しておらず、フリーザーは凍えるような視線を放つが何も凍らせていない。

 

 

「ガラルのすがたロト! タイプが全然違うから、見た目に惑わされちゃダメ!」

「リージョンフォームか……!」

 

 

 厳密には、生態の差異から単に見た目が酷似しているだけの別種とも目されているが、状況を考慮すればそのような余談に触れる余裕はロトムには無かった。

 

 

「こちらもそう余裕はない。手早く済まさせてもらおう。ミュウツー!」

「早速か……! コケコ!」

「コケッコォォ!!」

 

 

 対策を練る時間をも与えぬとばかりに放ったメガミュウツーYのサイコパワーの嵐を、真正面からカプ・コケコが突き抜けていく。力技そのものでしかないが、それが逆に最速でメガミュウツーYへ肉薄する結果ともなった。

 だが、当然メガシンカを遂げた伝説のポケモンの攻撃だ。否応なくその体は傷つき最高のパフォーマンスを発揮するには至らなくなる。

 

 

「デオキシス、コケコのサポートに入ってくれ!」

「▲▲▽▽」

 

 

 そこで、更にもう一匹を投入する。

 メガミュウツーYはよりサイコパワーに特化したメガシンカだ。よって、メガシンカの恩恵を得られていないデオキシス一匹でそれに対抗することは難しい。だからこそ、一匹で当たることは何よりも避けなければならなかった。

 アキラのポケモンの控えは残り少ない。そのため、いざとなれば相討ち覚悟の「ミラーコート」なども考慮すべきだったが、ヨウタが来たことでそれも解消された。

 ネックがあるとすれば、それはカプ・コケコがあまりにも戦闘に熱中しすぎるきらいがあることと、場合によっては一対一にこだわるあまりにデオキシスをも敵と認識してしまいかねないことだ。

 普通のポケモンではそう上手くはいかないが、無数の手札を持ち、テレパシーによる超高速での情報伝達を可能とするデオキシスであればこの問題を比較的無視しやすい。

 

 

(今はあっちは任せて、三鳥の方を……!)

 

 

 アキラはそのまま、波動の応用でタイプを見極めようと三匹を視界に収めた。

 タイプのうちひとつは「ひこう」であることを確実視できるが、それ以外の目に見えて分かりやすい要素はと言えば、ファイヤーが発している「あくのはどう」と同質のエネルギー程度のものである。アキラは波動からぼんやりとそのタイプを推測した。

 フリーザーが発しているのはエスパータイプ特有のサイコパワー。逆に、サンダーにはそういった特異な性質は見受けられない。即座にアキラは順に三鳥を指差し叫んだ。

 

 

「『あく』、『エスパー』、『かくとう』!」

「ラー子はフリーザーを牽制! ミミ子、攻撃準備!」

「ギュギュッ」

「近寄らせると思うか! フリーザー、『ぼうふう』! ファイヤー、『もえあがるいかり』!」

 

 

 ミミ子が飛び上がったその瞬間、フリーザーは己の念動力を用い質量すら伴うほどの強風を生み出した。更に、ファイヤーの纏うオーラが爆発的に勢いを増し、火炎のように全方位から襲いかかる。

 

 

「様子見にこそうってつけではあれど、この状況でミミッキュは悪手だ……!」

 

 

 ミミッキュの特性は「ばけのかわ」。どれほど強力な攻撃であっても確実に一度は防ぎ切る破格の能力だ。

 しかしこれは、どのような攻撃であっても――たとえそれがどれほど弱い攻撃でも。

 「ぼうふう」は所詮牽制だ。風はフリーザーの能力の一部でしかなく、単なる余波と言ってもそう過言ではない。それで「ばけのかわ」の首をへし折ることができる。本命は「もえあがるいかり」――ですらなく。

 

 

(襲いかかってもらおうか、サンダー……!)

 

 

 上空から「らいめいげり」をもって急襲する、サンダー。

 

 

「誰が――」

「悪手だって!?」

 

 

 一方、ミミ子の行動は一手早かった。

 向かったのはラー子の背などの敵に襲いかかりやすい場所……ではなく、シャルトのカタパルト。

 ドラメシヤをマッハの速度で射出できるその穴から飛び出したミミ子は、雄叫びを上げながら()()()()()と飛びかかった。

 

 

「何……!?」

「『じゃれつく』!」

 

 

 技の「ふいうち」であればともかく、戦術的な不意打ちは波動の感知ができるアキラには通じない。

 ばけのかわの首を折られながらも、ミミ子は全身から薄赤色のオーラを発しながら勢いのままサンダーに襲いかかる。

 ゴーストタイプであるミミ子にかくとうタイプの「らいめいげり」は通じない。メキメキとサンダーの全身が悲鳴を上げるものの、そこで曲がれるほどガラルのすがたのサンダーは気が弱いポケモンではない。むしろ、この威力に心を踊らせたサンダーは、ミミ子にまとわりつかれたその状態のままに闘技場へ落下した。

 

 

「サンダー、『じごくづき』!」

「っ、『サイコ――」

「ファイヤー、『ふいうち』!」

 

 

 攻撃を受けた場合のトレーナーの対応というのは、実に千差万別だ。

 ヨウタはその点については臨機応変だが、攻撃的感情がより強いアキラは特にごくわずかな隙を見出しての反撃の技術に優れる。だからこそ、極めて強く刺さりやすいのが「ふいうち」だ。

 そして狙い過たず突き刺さったファイヤーの一撃は、シャルトの体力を大いに奪った。床から吹き出すドス黒い炎がその身を焦がししていく中、シャルトが見据えたのはフリーザーの姿だ。

 ――次の瞬間、サンダーの「じごくづき」を受け止めながらも、シャルトの姿は一時的に現世から消失する。

 

 

「『ゴーストダイブ』か――フリーザー、守りを固めろ!」

 

 

 狙いを別のポケモンにすることはありうる。まさにそうして意表を突かれたのが今だ。

 だが、ファイヤーを狙うことは確実にありえない。ゴーストタイプの攻撃は、あくタイプに対し効果が半減する。一瞬の攻防が求められるこの局面においてそのような愚を犯すわけがない。

 攻撃するならば、サンダーかフリーザーの二択。歴戦のトレーナーであるサカキの目はそれを見逃さない。

 ドラパルトの姿が。

 ドラパルトの姿は。

 

 

 ――――どこだ?

 

 

「ウッ!!?」

 

 

 その悲鳴は、はるか上空から響いた。

 よもや、とサカキは驚愕に目を見開く。なるほど、エスパータイプであれば効果が抜群なのは同様だ。そして、間違いなくメガミュウツーYは生命線のひとつである。常に防壁を張って一見防御は完璧なように見えていても、シャルトの特性「すりぬけ」がそれを許さない。

 戦神(カプ・コケコ)は、己の戦いに割って入ったはずのこの行為を咎めない。激戦の中、勝ちを拾うために必死で策を弄しこれを果たしたのだ。その心は確実に認めていた。

 この攻撃によって生じた隙に差し込むように、カプ・コケコの「ワイルドボルト」が突き刺さる。それでもなお、サイコパワーは衰えない。その場に作り出した嵐でもって、メガミュウツーYは追撃を振り払ってみせた。

 墜落したシャルトと同時に、振り払われたミミ子の体力が尽き強制的にボールに送還される。ここまでの戦いで消耗の大きいアキラのポケモンは残り少なかった。

 

 

「……ベノン!」

「モク太!」

 

 

 一瞬、レックウザを出すことが頭によぎるものの、アキラが選出したのはベノンだった。

 レックウザをメガシンカさせれば三鳥も、あるいはメガミュウツーYも打倒できる可能性はある。だが、ここまでに一度も姿を見せていないもう一匹のミュウツーの存在が彼女の頭によぎっていた。

 三鳥もとっておきだろうが、それだけとは到底思えない。レックウザは温存しなければならない――という、ある種の直感だ。

 

 

「次は僕らが前に出る。アキラたちは援護を!」

「分かった」

 

 

 闘技場に一匹残され、三匹の伝説のポケモンから攻撃を受け続けているラー子の消耗も激しい。「すなあらし」を展開して目をくらませ、いなすことはできても、一匹一匹の攻撃の隙をそれぞれがカバーすることで反撃を許すことはない。野生のポケモンにはできない完璧な連携だった。

 そこに一穴を穿つべく、モク太が飛ぶ。三匹の伝説の鳥ポケモンはいずれもひこうタイプを備え、相性は最悪だ。しかし、モク太はなまじ飛行能力があるおかげで、同じ飛行能力を持つ相手に対し繰り出されることが多く、ひこうタイプとの戦闘経験は豊富でもある。

 

 

「ジュァァッ!!」

 

 

 ――依然、戦闘に支障無し。それがフリーザーの横面に「かげぬい」を射掛けたモク太自身とヨウタの出した結論である。

 

 

(ホントはモク太の特徴は後ろからの援護の方が適してるんだけど……!)

 

 

 ベノンが……というよりも、アキラの体力に不安もあるため、その選択ははばかられた。彼女の体力そのものは極めて豊富だが、血を流しすぎている。今は少しでも体力を温存してもらわなければならなかった。

 ヨウタ自身は間違いなく戦局を決める一手だが、アキラもまた切り札のひとつ。体力切れで何もできずに終わる、などということは絶対に避けるべきだ。

 

 

「反撃だラー子! 『いわなだれ』!」

「止めろサンダー! 『らいめいげり』!」

 

 

 「すなあらし」に含まれる砂礫を利用して作り出された岩石に、サンダーが真正面から突っ込みその大半を破砕する。壁蹴りの要領で、稲妻の軌跡を描くかのように次々と破壊していったのだ。

 更にフリーザーがサイコパワーで岩を逆用する。反転した岩が叩きつけられるが、その直前にそれらを押し止めるのはベノンの「りゅうのはどう」だった。広く面を対象にした青い火炎じみたオーラにより、更に岩が勢いよく押し戻されていく。

 

 この機を逃すな、とヨウタの直感は囁いた。ここで確実に一匹でも減らさなければ、勝機は無い!

 

 

「何かが来る! ファイヤー、『もえあがるいかり』を放て! フリーザー! 『リフレク――」

「モク太! 『シャドーアローズストライク』ッ!!」

 

 

 その指示が届くよりも早く、モク太のエネルギーの充填は終わっていた。

 

 ――そして、黒い矢の旋風が、三匹の伝説を貫いていく。

 

 

 

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