携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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あくびをしている暇も無し

 

 

 ……相手は、武器を構えている様子はない……ように見える。殺意や敵意なども感じられない。どうやら敵というわけではないらしい。

 無視して通り抜けてもいいが、彼らは別に敵対者ってわけじゃない。雰囲気こそ剣呑だが、それは戦う者特有のそれであって、決してこちらと敵対しようとしてるわけじゃないんだと思うが……。

 

 どうする? と意見を仰ぐようにヨウタに視線を送ると、ヨウタは彼らを見ながら一つ頷きを返した。話してみよう、ということらしい。荒事は避けたいと見える。朝木は彼らが亡霊か何かかと思ってるのか、顔を蒼褪めさせて涙目になっている。

 

 

「少し、よろしいですか?」

 

 

 先頭にいた壮年の男が、丁寧な語調で話しかけてくる。やけにゆったりとした、どこか作ったような声音は、彼が市民に優しく接することを心掛けているからか。

 となると、まあ、やっぱり市民の味方と思って間違いないだろう。礼儀として、応じる意思があることを示すためにも、オレはヘルメットを取って彼らに素顔を晒すことにした。

 同時に自衛隊員たちの中から「おおっ」などと声が上がったが、その人物は直後に隣にいた女性隊員に頭を殴られていた。

 

 

「構いません。あなた方は?」

「我々は松山駐屯地の生き残りです。壊滅した部隊を再編するため、こちらに退避してきておりました。市民の救助や避難誘導も兼ね、松山市へ向かわないようこちらで呼びかけているのです。あなた方何を?」

 

 

 なるほど、幽霊とかじゃないらしい。行動目的も咎めるようなもんじゃないが……あんまり良くないぞ、これは。よろしくない。

 何を、と聞かれても、こっちはその松山に行く気満々なんだ。朝木は行きたくなさそうにすさまじくムカつく顔してこっちを見てるが、行かなきゃどちらにせよオレたちが生きられる場所が無くなるってことを理解してるんだろうかコイツ。

 

 

「松山に」

「……は? ごほん。いえ失礼。その松山が大変危険なのです。あなた方も放送は見られたと思いますが……」

「はい。ですので、これからその連中を倒しに」

「……? ……???」

 

 

 おっと。おじさんこれは明らかに気狂いを見る目ですよこいつは。

 いや、まあ、ね? オレだって分かってるんだよ、無茶苦茶言ってるのは。明らかに行っちゃいけないところに行こうとしてる子供がいるなら、そりゃあ職務以前に人として止めるだろうって。

 

 

「松山に、行ってはならんと、言っているのですが」

「知っています。それでも行かなきゃいけないんです」

「詳しくお話をうかがっても?」

「勿論。ヨウタ」

「ああ、うん……僕が説明するんだね……」

 

 

 ごめん。そこは本当にお任せだ。

 オレ、こういう説明しようとして分かってもらえなかったりすると、イライラしてどうしても喧嘩腰になりそうになるし、多分そもそも向いてない。朝木は論外。

 

 その点、ヨウタは穏やかだし、何より当事者だ。ロトムっていう解説役もいるし、オレや朝木よりは確実に説明役に向いているはずだ。

 あっちとしても、ポケモン世界の悪役がこちらの世界にやってきたとか、ポケモンがこっちにやってきた……くらいの事情は把握してるはずだし、そこでヨウタからちゃんとした説明を受ければ、正確な状況も把握してくれることだろう。

 

 

「福徳泉公園で炊き出しなどを行っています。そちらに移動しましょう」

「分かりました。車って停められます?」

「ええ、大丈夫です。誘導しますのでこちらへ」

 

 

 とりあえず、そういうことにした。

 オレたちとしても、ちゃんと味方になってくれる人がいるかもしれないのわけだから断る理由は無い。

 

 ……ただ、古今東西、混迷した状況に乗じて他人の足を引っ張って利益を得ようとする人間は、少なからずいるわけで。

 味方になってくれるかもしれない、市民の味方かもしれない――と思いつつ、余計な落とし穴が待っていたりしないか、やや警戒しながら話し合いに臨むことになった。

 

 

 

 ●――●――●

 

 

 

 レインボーロケットタワー中層、会議室。そこでは六人の頂点(ボス)たちが一堂に会していた。

 マグマ団の頭領(ボス)、マツブサ。

 アクア団の代表(ボス)、アオギリ。

 ギンガ団のBOSS(ボス)、アカギ。

 プラズマ団の創始者(ボス)、ゲーチス。

 フレア団の指導者(ボス)、フラダリ。

 そして、ロケット団の首領(ボス)、サカキ。

 四国に影を落とす六人の「悪」。彼らは部下から上げられてきた情報をもとに、この日の情報共有を行っていた。

 

 

「トクシマでは大きな問題はありません。しいて言うなら『整形』する以外にも何割か陸地を沈めておくべきでは、というところでしょうか」

「戯けたことを抜かすなよアオギリ。計画の障害になるならお前から始末してもいいんだぜ」

「マツブサ……貴様に言われるまでもありませんよ。そちらこそ、無意味に余計に海を埋め立てているのではありませんか?」

「フンッ」

 

 

 マグマ団とアクア団は、元から敵対関係にある組織だ。数ある並行世界においても、それは変わらない。しかしこの二人については、通常考えられるそれを明らかに逸脱するほどに険悪な仲だった。

 それは、両者が「自分の勝利した世界」から来たからに他ならない。故に互いが互いを軽んじる。それが伝わることで更に仲が険悪になる……ということを繰り返しているのだ。

 

 そのような彼らを意に介した様子も無く、アカギが口を開く。

 

 

「コウチは問題無い。だが――ディアルガとパルキアの力は依然回復していない。しばらく大規模な行動は起こせないだろう」

 

 

 四国を外部から隔離し、分断した時空断層は、およそ通常のポケモンでは破壊も突破もできないほどの強度と持続力を誇る。伝説のポケモンが作り出したこともあって非常に安定しているが、それだけのものを作り出すには、相応のエネルギーが必要であった。

 本来のディアルガとパルキアであれば、この程度のものは造作も無く作ることができただろう。しかし、アカギの操る二匹は、既に一度アカギの望む「新世界」を作り出したことで多くのエネルギーを消費していた。そのような状態ではこの程度(・・・・)のことすらも大きな負担となってのしかかる。

 

 

「仕方がないな。『赤い鎖』の調子はどうかね?」

「修復はしているが、いつ完全に亀裂が消えるかは分からない。運用には問題が残るだろう」

 

 

 ごく冷静に、無機質とすら言えるほど平坦な声音で、淡々とアカギは自身の現状を述べた。

 伝説のポケモンの中でも限りなく「神」に近い権能を有するディアルガとパルキアは、ただ単にボールに収めただけでは命令を一切受け付けない。その二匹を強制的に操るためには、「赤い鎖」というカギが必要になる。

 が、今日この日までに幾度となくその力を行使した結果、肝心要の「赤い鎖」に亀裂が生じたのだ。やけに激しいエネルギー消費も併せて、ディアルガとパルキアが抵抗している証だとアカギは考えていた。マスターボールに収めただけで只人に従うほど、彼らもプライドは低くないのだ。

 

 次いで、赤毛の男――フラダリが切り出した。

 

 

「カガワの支配には時間がかかる」

「君にしては珍しい。何かあったのか?」

「反乱分子だ。もっとも、殲滅にはそう時間はかからないはずだ。そちらが終われば選別(・・)に取り掛かる。場合によってはそちらの方が時間がかかるかもしれないな」

「分かった。では引き続き、侵略活動は任せよう」

「…………」

 

 

 鷹揚に言葉を返すサカキに、フラダリは鋭い視線を向ける。命令するようなその口調に対して、彼は反感を抱いていた。

 そもそもを言えば、フラダリはサカキのような「悪人」を毛嫌いして――自分も同類とはいえ――いる。そのような人間に命じられて行動するというのは、内心はらわたが煮えくり返る思いだろう。

 

 しかし、それに異論を差し挟むことは無い。いや、差し挟めない。

 彼らは、同盟関係にはあるがそこに上下の差はない――そのはずだった。

 

 

「では、続いて最大の脅威であるアサリナ・ヨウタとその同行者について、お伝えしておきましょう」

 

 

 その図式を覆した原因たる男――ゲーチスが話し出したのを見て、マツブサとアオギリ、フラダリの忌々しげな視線が飛んだ。

 

 ゲーチスは、事実上レインボーロケット団のナンバー2である。

 本来、彼ら六組織のトップは、ほぼ同数の伝説のポケモンを保持していることもあってほとんど対等な関係であった。しかし、ゲーチスはその図式を好まなかった。

 彼の目的は、自分以外の全ての人間がポケモンを持たない世界。それによってより確実、かつ盤石な支配を行うことである。そのために、彼はより扱いやすい、自身の手足となって動く駒……あるいは、裏から操って利用できる、都合のいい「組織のトップ」というものを求めた。その対象に選ばれたのがサカキだ。

 

 曰く、「純粋な悪の思想を持った目的の分かりやすい人間」。ゲーチスはその下につくことで、自身の存在を目立たせず、それでいてサカキが有利になるように様々な陰謀を巡らせ、組織の版図を書き換えた。

 実際に、この目論見は成功だった。

 虚無的で厭世的なアカギを除く他の三人は、我が強く、いざとなれば反逆も厭わない人間だ。だが、伝説のポケモン4体を相手にするとなれば、迂闊なことでは動けない。

 いくら強力なポケモンを持っていたとしても、同格の相手が複数いて勝てると思えるほど、彼らは自惚れてはいなかった。

 

 

「彼らはイヨシティを解放した後、マツヤマ方面へと向かったことが報告されています。マツブサさん。あなたの支配区域になりますね」

「……おうヨ」

「アサリナ・ヨウタですが……彼は要りません。抹殺し、ウルトラビーストを奪ってしまいなさい」

 

 

 露悪的な提案に、思わずマツブサは顔をしかめた。

 彼は邪魔者には容赦しないが、人殺しという手段を積極的に採ることができるほど狂ってもいない。そもそもを言えば、マグマ団の目的はあくまで陸地を増やして人類の発展に寄与すること――立場としてはむしろヒューマニストに近い。

 

 

(下衆め)

 

 

 マツブサは内心で毒づいた。奇しくも、彼のもっとも嫌うアオギリも同様の感情を示していたが、そのことにマツブサが気付くことは無かった。

 

 

「同行者の少女、彼女は可能なら捕らえてタワーへ送ってください」

「相当厄介な存在だと聞き及んでいるが?」

「手足の二、三本も切り落とせば抵抗もできないでしょう。生きてさえいれば構いません」

「……では、そのようにしよう」

 

 

 フラダリは内心でゲーチスを粛清対象のリストの最上位に記した。

 彼も手段は選ばない人間だが、ならば子供を傷つけ、殺すことに忌避感が無いかと言えば嘘になる。

 

 

「確かもう一人いたはずですが?」

「彼は路傍の紙屑のようなものです。適当に始末すればそれでよろしい」

「…………」

 

 

 ゲーチスは曲がりなりにも「七賢人」と呼ばれた人間の一人である。人間観察力に長け、一を聞くだけで十を知る程度には知恵と経験に溢れていた。

 その上で、彼は朝木レイジという青年には何の価値も見いだせなかった。戦いに参加できるでもない。十全なサポートができるわけでもない。弁が立つわけでもない。放っておけば戦いに巻き込まれてそのうち死ぬだろう。それがゲーチスの結論だ。

 

 アオギリは僅かに目を伏せた。聞いておいてこれだが、いささか辛辣すぎはしないか。ゲーチスは彼に何か怨みでもあるのだろうか。

 

 

「方針はそのようなところだ。各地域の支配に着手しながら、抵抗勢力の排除を頼む。必要とあらば該当地域に我がロケット団の精鋭幹部を送り込もう」

「それでは、本日はこれにて。解散しましょう」

 

 

 その後、三つ四つほどの連絡事項を伝えた後、ゲーチスとサカキの締めの言葉が発せられ――マツブサ、アオギリ、アカギ、フラダリの姿が消失した。

 会議室に設置された、巨大ホロキャスターの機能だ。各地域にいる人間の姿を投影することで、疑似的に「その場に立ち会う」形での会議を成立させる。フラダリの技術は見事に有効活用されていた。

 

 数十秒ほどが経ち、誰の姿も無いことを確認したゲーチスが、赤い液体の入った小瓶を手にサカキへと近づく。そのことに気付いたサカキは唇の端を僅かに歪めると、その小瓶を大事そうに受け取った。

 

 

「サカキさん、これを」

「早いな。もう手に入れたのか」

「ええ。優秀な部下を向かわせたものですから。ですが数十倍に希釈してその量です。サンプル程度には使えるかとは思いますが……」

「それでいい。まだ実験段階だ。いずれ現物を手に入れれば問題は解消される」

「そうですか。では、私はこれにて……」

 

 

 恭しい態度で下がるゲーチスとは対照的に、笑みを深め思索するサカキ。

 夜が深まっていくように、彼らの策謀もまた暗く、深い場所へと沈んでいく。

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

 結論から言うと、自衛隊員の人たちはすんなりと事情を理解してくれた。

 そもそも、状況が状況だ。伝説のポケモンに襲われた上にレインボーロケット団が電波ジャック、加えて外を出歩けば野生のポケモンだ。

 ちょっと異世界人が紛れ込んでたり、それがポケモントレーナーだったりしても、その程度のことならすんなり受け入れられる。市民の味方ってことなら尚更だ。

 もっとも、あちらの警戒の色は薄れていないし、どうにも後ろの方でこちらを見ながら何か話し合いをしているあたり、企んでいることは何かありそうだが……。

 

 

「……お話は分かりました」

 

 

 ヨウタからの説明が終わった後、自衛官の男性は複雑そうな表情をして見せた。

 

 

「詳しく話を進めたいところですが、この時間です。まずは一度休憩して、翌朝話し合いましょう。皆さんも疲れていることでしょう」

「そう……ですね。分かりました」

「良ければ、こちらで休んでいかれますか。女性もおられるようですし……」

「? ……あ、そうで」

「お構いなく。車があるのでそちらで休みます」

「しかし……」

「アキラ、折角言ってくれてるんだし」

「保護されてる人たちも、急に知らない人間が割り込んだら気を遣うでしょ」

 

 

 あと、オレが気を遣う。そういう意図を示すために、隠れて軽くオレの方を指差すと、察してくれたのかヨウタも渋々同意をしてくれた。

 

 

「では、駐車スペースに案内します。こちらです」

「はい」

 

 

 と。そうして案内されようとする直前、不意にオレたちの視界に、この場にいるとは思えなかったあるポケモンの姿が数匹目に入る。

 そいつは……そいつらは、自衛官さんを見つけると、すぐに駆けよってきて整列を始めた。

 

 

「ゼニゼニっ!」

「夜間哨戒ご苦労、ゼニガメ曹長」

「ゼニガメ……そうちょう?」

「ああ、すみません。総員、敬礼!」

「ゼニッ!」

 

 

 びしっ、と……やや不揃いなところはあるが、それでも見事に敬礼をしてみせるゼニガメたち。モンスターボールに入ってもないポケモンが軍隊行動……? と圧倒されていると、横から朝木が口を出す。

 

 

「は、はは……なんだかゼニガメ消防団みたいだな……」

「何ですか、それ?」

「昔、アニメでやってたんだ。イタズラ者のゼニガメの話でさ。思ったよりずっと社会性あるんだな……」

「それ、どの話だ?」

「え、確か、無印の最初の方*1……」

「……どれくらい前だっけ」

 

 

 そう聞くと、朝木は頭を抱えた。強いジェネレーションギャップを感じたらしい。

 隊員の人も目頭に手を当てて何やら考え込んでいるようだった。そういうつもりじゃなかったんです。ホントすみません。

 

 

「……彼らは我々が逃げてくる時に保護したゼニガメたちです。駐屯地横の池に落ちてきたようでして」

「なるほど、それでこんなに懐いてるんですね」

「懐いて……いるかは分かりませんが、野生のポケモンから守ってくれています。頼もしい限りです」

 

 

 経緯はオレとチュリの時と似たような感じになるのか。本気で命の危険があったようだから、比べられるもんじゃないが……。

 まあ何にせよ、ポケモンと人間がお互いに信頼してるってのはいいものだ。

 

 

「ともかく、こちらに駐車をお願いします」

「はい、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。興味深い話をありがとうございます」

 

 

 それでは、と去り際に帽子を取って挨拶していく自衛官の人。丁寧な対応に、こちらも感謝しきりだ。

 朝木は車に戻り、この場所まで移動。それから改めて、オレたちは車内のスペースで顔を突き合わせていた。

 

 

「あの人ら絶対腹に一物抱えてるぞ」

「ブーッ!!」

「汚ぇ!!」

「ご、ごめん! ごめんなさい!!」

 

 

 口に含んでたもん吹きだすんじゃねえ! どっかの探偵じゃねえんだぞ!!

 くそっ、もしかして何も考えてなかったのかよこいつ! ヨウタも流石に苦笑してるぞ! 

 

 

「気持ちは分からないわけじゃないけど、確証はないよ」

「今から確認しに行く」

「悪い人には見えないけど……」

「責任感が暴走してやらかすヤツなんて、いくらでも例はあるぞ」

 

 

 悪人だから害をなそうとするとは限らない。善人だからこそ、害をもたらすことだってありうるんだ。

 今の状況でレインボーロケット団に対抗するためには、ポケモンが絶対に必要になる。それを「子供に戦わせるわけにはいかないから」って理由でオレたちから取り上げるってこともありうるだろう。ポケモンに対する知識が無きゃ尚更だ。よかれと思いつつも、兵器扱いして無茶なことしてもありえないことじゃない。

 

 

「オレだって別に、ああいう人たちをぶちのめす気は無い。もし何かありゃ適当に逃げるさ」

「悪人だったらぶちのめすこと前提の行動はやめてくれないかな」

「……ぶちのめすものだろ?」

「頭スカル団かよ」

「スカル団よりはギリギリ善人寄りかな……」

 

 

 何だお前ら二人して悪くいいやがってちくしょう。

 最短ルートじゃんよぉ。

 

 

「……それで、あの……寝床、どうするんだ……?」

「雑魚寝でいいだろ」

「よくないだろォ!?」

「良くないと思うよ本当にそこは」

「は? ……ああ」

 

 

 ああ、そういうことか。こんな状況で考えなくてもいいだろ普通。

 朝木に至っては顔真っ赤になってる……一方で青くなりかけてもいる。紫色だ。暴力を振るわれないかが心配なんだろうか。

 

 

「いいよ、オレは外で寝る」

「こっちで寝ろよ!?」

「こっちで寝た方が良いよ、僕ら外か運転席に行くから」

「いいよ。体は丈夫だ」

 

 

 そりゃあ、普通の女だったら遠慮なくそうしてたかもしれないが、オレの身体は特別製だ。ちょっとやそっとじゃ風邪なんて引かないし、虫の歯も通らない。もう随分暖かい季節だ。大したことは無いだろ。

 

 

「そういうのも想定してコート着たりしてるんだ。チュリに糸出してもらってハンモックにでもして、一人と二匹(さんにん)で寝るよ」

「話だけだと牧歌的だな……」

「チャムを抱いて?」

「ああ。湯たんぽ代わりに」

「ゆたんぽ」

 

 

 摂氏千度の火を出せると言っても、それを制御できないわけでもない。体温は高いが、別に持ってられないわけでもないんだ。寝る前に羽繕い(グルーミング)の真似事もしてやりたいしな。

 

 

「ともかくそういうこと。じゃ、オレはちょっとあっち見てくる」

「あ、そうだ。アキラ。あの人たちにボールを分けてあげたいんだけど、いいかな? ゼニガメの数と、あと一つ」

「……ヨウタが決めたことならいいぞ」

 

 

 一瞬、考え込んだ。

 モンスターボールはギリギリ10個超えた程度の数しかない。正直に言って滅茶苦茶惜しい。けど、仕方ないか。

 ゼニガメたちも、いつまでもあのままではいけないだろう。いくら心が通じ合ったからって言っても、まだ「野生のポケモン」であることには変わりないんだ。自衛隊の人たちが保護してる民間人を怖がらせることにもつながりかねない。それに、あの人たちにとって、もうゼニガメ部隊は仲間だ。仮の住まいにも緊急避難場所にもなるモンスターボールがある方が安心できるだろう。

 

 ……それに、自衛隊の生き残りの中に工作が得意な人がいれば、そういう人にモンスターボールを複製してもらえるかもしれない。あわよくばここで増やしていける。

 情けは人のためならず。巡り巡ってこっちに返ってくるかもしれないと思えば、それもいいさ。

 

 

 

*1
12話。1997年放送。






 ①からあげ
 ②チャム
 ③ゆたんぽ ←New!


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