携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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迅速なかいふくしれい

 

 

 お茶を飲んで一通り話したおかげで、落ち着いて自分の状態を考える余裕もできた。

 ……おかげで今のオレが、体中砂まみれな上に海水でべとべとだってことを思い出した。その辺はバチュルもそうだったな。

 シャワーを浴びたい。が……あいつ、水濡れ大丈夫なんだろうか。いや大丈夫か。海に落ちてたし。

 でも気にはなるな。一応、専門家の意見をあおいでみるか。

 

 

「オレもあいつもだいぶ汚れたし、バチュルと一緒にシャワー浴びてこようと思うんだけど……何か注意点とかってあるか?」

「ん? んー……ベトベターでもない限り、ポケモンって基本的に綺麗好きだから嫌がりはしないだろうけど……嬉しかったり楽しかったりしたら、つい、こう……ビリッといっちゃうこともあると思う」

「ビリッと?」

「ビリッと」

 

 

 嬉ションか何かか。

 

 

「小さめの桶にぬるめのお湯を張って、自分で水浴びしてもらうのがいいと思うよ。変な触り方とかすると、怒って放電したりすることもあるかもしれないから、満足して出てくるまで待っててあげて」

「分かった。サンキュ」

 

 

 風呂場への行きがけに、コンセントの前で座っていたバチュルに呼びかけると、嬉々とした様子でオレの頭の上まで駆け上がってきた。

 パラパラと砂が落ちてきてちょっと痒い。

 

 風呂場について服を脱ぎ捨てたら、まずはバチュルの浴場づくりだ。

 ぬるめに調整したお湯をプラスチックの桶に注ぐ。だいたい高さは5センチ程度で溺れないように。

 桶の縁に手をかけてしばらく待つと、恐る恐るといった様子で、腕を伝ってバチュルが桶の方まで降りて行った。一度、二度、と軽く前脚を浸けて様子を見ていたが、特に問題無いと見ると、すぐにそのまま着水。身体を浮かべることにしたようだ。

 あのふわふわの毛。見た目通り、毛と毛の間に多く空気を含むようになっているらしく、それなりに浮力はあるらしい。本来の目的は、多分あれを擦り合わせて静電気を作り出すことなんだろうが……面白い副産物だなあ。

 

 うちの風呂場は、普通の住宅と比べると広い。足をゆっくり伸ばせる程度の大きさの浴槽に対して、L字型に空間があるような構造だ。旅館なんかにあるような、小さめの共同浴場のそれに似てるかもしれない。じーちゃんが存命だったころ、とにかく風呂は広くしたい……と言っていたとかなんとか。

 とりあえず、オレはオレで汚れを流していく。どうせ晩飯食べた後にちゃんと風呂に入る予定だし、とりあえずでも砂を落とせればいいや。

 

 そんな中、ふとバチュルの方に目線をやると、器用に前脚を使って毛と毛の間に入り込んだらしい砂を洗い落としていた。どうやら本当に清潔な方が好きらしい。

 

 

(そうだ)

 

 

 だったら、と軽く石鹸を泡立てて作った泡玉をバチュルの前に置いてやる。

 何に使うのか、と困惑している様子だったが、同じものを作って体を洗って見せると、同じように体につけて汚れを洗い落とし始めた。

 本当に賢いな。

 

 こうして改めてバチュルを見てると、ヨウタたちの世界でポケモンが愛されている理由も分かる。

 彼らは言葉を喋ることができないだけで、人間と同じくらいには賢く、情緒豊かだ。

 ペット――ではなく、隣人。主従――ではなく、友人。そういう風に捉えて真摯に接することができれば、ポケモンはトレーナーに対して強い信頼でもって応えてくれる。

 

 ……じゃあ、何でそんな相手を使ってバトルなんてしてんだ、という考え方もあるだろうが、それは正当な批判じゃない。根幹的な設定として、そもそもポケモンには強い闘争本能と、進化への欲求が備わっているからだ。前にネットか何かで見た。

 トレーナーに従っているのは、彼らと一緒に戦うことで、より効率よく、安全に闘争本能を満たすことができるからだ。また、戦う機会も多くなるので、それだけ進化も早くなる。

 ヨウタたちの世界もそれと同じなら、ポケモンと人間はそういう複雑な関係の上で成り立っているのだろう。

 

 とはいえ、時には戦いを嫌がったり、進化するのを嫌がったりするポケモンもいる。前者は、時々ゲームなどで表現されることがあったと思う。後者は……アニメのピカチュウ……いや、ピカチュウさんが有名か。あのピカチュウさん、めっちゃバトルしてるけど。そこはまあいい。

 ともかく……ポケモンの本能にも、個体差はあるという話だ。人間だって、本能にそのまま従って生きてる人間なんてそうそういないだろう。いやいるが。一般的に社会に生きてる人はそうでもないはずだ。理性で上手く自分を律している人もいるだろう。それはポケモンも同じだと考えられる。

 

 

 ……で、そこまで人間と同じなら、彼らも同じように、それぞれのポケモンが多様な価値観のもと生きているとも考えられる。

 群れの中にあって、孤独を好むようなポケモンもいるだろう。本能を律することができずに、暴れ狂うようなポケモンもいるだろう。時には悪事に魅力を感じ、傾倒するようなポケモンもいるかもしれない。

 そして、人間と同じなら、教育によってその価値観を善性にも悪性にも近づけられる。ポケモンカードにも「わるい」ポケモンってのが昔あったし、ある漫画だと、アクア団の手持ちのマリルリがやたら凶悪なツラで人を溺れ殺そうとしてたし。

 それとは逆に、ポケモンカードでも「やさしい」ポケモンってのがいるし、一般的なポケモントレーナーに育てられたポケモンというのは、だいたい優しいものだ。

 

 ポケモンも、賢いからこそ――環境や育て方によって善にも悪にもなる。

 だから悪の組織に戦力として目をつけられるという点もあったりも、するのかもしれない。

 

 

「お前はそうはなるなよー」

「ヂッ……?」

 

 

 怪訝そうに、「何言ってんだお前」とでも言いたげな表情が向けられた。

 いや分かるよ。けどちゃうねん。教育が大事だからそうはならないようになってくれっていう祈りなんだよ。分かれ。分かってくれ。

 分かるわけねえだろオレの頭の中で考えてただけのことなんだから。

 

 ……そんな言い訳を脳内で行いながら、泡でもこもこになったバチュルの身体を洗い流してやった。

 

 

「……随分貧相な見た目になったな?」

「…………」

 

 

 バチュルのふわふわの毛は水に濡れ、時々画像で見る、風呂に入った後の猫みたいな見た目になっていた。

 ……ドライヤーで乾かしてやった方がいいだろうか。貧相って言われてるの、ちょっと不満そうだし。

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

「上がったぞー」

「あ、うん。おか――――」

 

 

 少し、遅くなってしまった。

 バチュルを乾かすだけなら良かったんだが、あいつ、オレの頭に乗りたがるから、濡れたままだとマズいってことでオレの方も乾かすことになったからな。

 ばーちゃんに、「髪を短くしすぎると、周りから変に思われるよ」ってアドバイス通りに、そこそこ程度に髪を伸ばすことになってたのも、更に時間がかかった原因だろう。

 

 ……待たせちまって悪いなー、とは思ってるが、そんなに言葉を途中で止めるほど怒ってたんだろうか?

 やけにヨウタの顔が赤い。

 

 

「ちょっ……何で服ちゃんと着てないの!?」

「え? あ、悪い」

 

 

 そういやバチュルの方にばっかり意識がいってて、オレ、自分の服いつもので出て来ちまったな。男に戻る日がいずれ来るか、そのうち成長するだろと思って買った大きめのやつ。もし女ものの、今の身体にフィットするやつを着てる時に元に戻ったら目も当てられねえなー……と見越して買ったから、これ、ちょっと動いたら肩とか平気で出るんだよな。

 

 

「まあ気にすんな。オレは男だ」

「男!?」

「いやまあ、今は女になってるけどな?」

「「!!??」」

 

 

 わけのわからないものでも見るような視線が突き刺さる。気分はさながら、性別比率の違いのせいで♀→♂になってしまったルリリ→マリルってところか。凄まじい困惑が伝わってくる。

 ……そういや、オレの昔の話って全然伝えてなかったっけ。

 

 

「オレ、二年前までは男だったんだ」

 

 

 そう切り出してから話を始めると、ヨウタもロトムも苦虫を噛み潰したような顔をして見せた。

 こいつら狂人でも相手にしてるつもりなんだろうか。いや、客観的に見ればあまり変わりないか。オレだって、もし同じ立場なら何言ってんのか分からないがとりあえず病院に行こう、頭のな。くらいは言う。

 ただ当事者側としては由々しき問題なんだ。今のところまでオレが調べたこと、知ってること、あと知ってることがあったら教えてほしい旨を伝えると、ヨウタは目を白黒させたまま虚空を見つめ、ロトムはオーバーヒート*1して真っ赤になっていた。

 

 

「……というわけなんだけど何か知らないか?」

「特殊過ぎて分からないよ!?」

 

 

 どっちの意味の「特殊」にかかってるんだろう。いや、自分の知ってる分野じゃないって意味だろうが。

 しかし、参ったな。ポケモンとかウルトラホールとか、こっちの世界の法則で語れないような特殊なものがこっちに流れ込んじゃってるんなら、もしかしてオレの異常も……と思ったんだが、そう簡単にはいかないか。

 

 

「アキラは『Fall(フォール)』って知ってるロ?」

「……何だっけそれ?」

 

 

 と思っていると、予想外のところから予想外の言葉が飛んできた。

 ええと……「Fall」……どこかで聞いたことがある気はするが。

 

 

「ウルトラホールは、ごく稀に自然発生するこトがあるの。Fallは文字通り、そこに落ちた(Fall)人のことだロ。もしかしたら、アキラはそういうところで……」

「なるほど。『そういう』ことがありうる異世界に行って、帰ってきたと」

「確実なことは言えないロ。ごめんロ~……」

「いや、いいよ。手がかりが見つかる希望が出てきた」

 

 

 それだけでも、足踏みを続けてきただけのこれまでと比べると雲泥の差だ。

 元に戻れる。――かもしれない。そう。それだ、オレはその可能性が欲しかった!

 

 今までだと本当に文字通り「何も無かった」んだよ。それこそ、性転換手術でもすれば? くらいのものだった。ハナっから方法なんて無くて、原因なんて分からない。そこで諦める以外の方法が見えてこなかったんだ。

 それが、「他の世界に渡る手段が存在する」という確証と、「他の世界ならもしかしたら今の状態を改善する手段があるかもしれない」っていう可能性が同時に生まれた。これ以上に嬉しいことがあるか! なんなら今すぐ跪いて靴を舐めたっていいぞ!

 

 

「それで、ヨウタはどうするんだ? 風呂」

「みんなを治してあげないといけないから、その後にするよ。清潔な場所、少し借りてもいいかい?」

「ああ。うちの風呂場広いし、二匹くらいなら多分出せるだろ。手伝おうか?」

「手伝ってくれるなら助かるけど……いいの?」

「正直ポケモン見てみたいし触りたい思いがある」

「ああ、そういう……」

 

 

 苦笑して返すヨウタ。

 キャラじゃないことは認めるが、オレだってポケモンやってるし好きな方だし、本物のポケモンに興味が無いわけがない。

 

 風呂場に案内すると、ヨウタがボールを六つ取り出す。

 そこに収められているのは、ハッサム、ジュナイパー、「たそがれのすがた」のルガルガン、フライゴン、ミミッキュ……あと、キテルグマの六匹。外からは薄く中の様子が透けて見えるが……「ひんし」の状態になっているのだろう。いずれもぐったりとした様子だ。

 アニメの影響もあって、ちょっとキテルグマは……その……アレだ。つい身構えてしまうが、大丈夫だろうか。色んな意味で。いや怖がっててもしょうがないな。よし、ちゃんと向き合おう。

 

 

「こんな状態で悪いけど、先に紹介するね。左から、ライ太、モク太、ワン太、ラー子、ミミ子、クマ子」

「うん。……うん?」

「みんな進化する前からの付き合いロ。ニックネームもそれに準じてるの」

「……ああ、なるほど……」

 

 

 ストライクの♂だからライ太、モクローの♂だからモク太、イワンコの♂だからワン太。それと、ナックラー♀でラー子、ミミッキュ♀のミミ子、ヌイコグマ♀でクマ子か、よし、分かった。

 しかしやけに安直な……いや、こういう名前ってものは安直なくらいの方がいいのか。覚えやすいし、あんまりヒネった名前だとポケモンの方が覚えられず、指示が通らないこともありうるし。

 

 

「アキラはライ太とワン太をお願い。僕は……ちょっと危ないからミミ子たちの方を。これ、薬。分からないことがあったらロトムに聞いてね」

「おう」

 

 

 ヨウタから二つのボールを受け取って、開閉スイッチを押し、邪魔にならないような場所に放る。出てきたのはハッサムのライ太だ。

 特に警戒した様子は見せない。よっぽど人慣れしてるのもあるだろうし、オレみたいな見た目の相手を警戒する必要も無いってこともあるだろう。

 そういう風に思われてることはちょっと複雑だが、しょうがない。

 

 ヨウタから渡されたのは、「まんたんのくすり」と思われるスプレー。ポケモン世界のものだなあと強く実感すると共にちょっとした感動が湧いてくる。

 いや、それどころじゃないな今は。よし、まずは……。

 

 

「えーっと……これを……吹き付けるといいのか?」

「その前に汚れを洗い落とした方がいいロ。バイ菌が入っちゃう」

「あ、そっか。えーっと……」

 

 

 シャワーノズル一つしか無いんだよな……桶使うか。

 

 

「ヨウタ、そっちの方がシャワー近いから使ってくれ」

「いいの?」

「オレ、桶使うから」

「そっか。ありがとう」

 

 

 じゃあ、浴槽に軽く水を張って……と。汲みだしたぬるめのお湯をかけて、ライ太の体表の砂や埃、血を洗い落としていく。

 鳴き声の一つも上げないあたり、我慢強い子だ。

 

 

「薬は、2~30センチくらい離して軽く吹き付けるくらいがいいロ。痛がるから手で塗り込んだりしないように気をつけるロト」

「オッケー」

 

 

 ライ太は「はがね」タイプらしく、体表はやや金属質だ。メッキとまではいかないまでも、光沢がある。

 そんな甲殻には、大小様々な傷が見て取れた。サカキのポケモンと戦ったことでついた傷なのだろう。妙に痛々しいこの捻じれた感じは……ミュウツーの念動力だろうか? でも、確かメガミュウツーXってどっちかっていうと「攻撃」の能力に特化した形態だったよな?

 ……考察は今はいいか。先に治療からだ。

 

 

「……大人しくしててな」

「…………」

 

 

 ライ太は文句ひとつ言わずに薬液を吹き付けられていく。

 まるで武人が瞑想するかのようなその物腰に、武士か、あるいは剣士か……見ていてどことなく、そんな印象を覚えた。元々ストライクだった時にそういう気質が強かったのかもしれない。

 

 

「ロトム、これ吹き終わったらどうするんだ?」

「ここはメディカルマシーンが無いロ? だったら、自然治癒に任せなきゃいけないロ。ガーゼと包帯ってある?」

「ん……ちょっと取ってくる。消毒液とかは要るのか?」

「きずぐすりには消毒作用も含まれてるロ~」

 

 

 これで全身に一通り薬液を吹き付けられた。あと、必要なのは……清潔なタオルもかな。

 一旦戻ってタオルを数枚とガーゼ、包帯を取ってくる。戻った時にはもうヨウタの方はミミ子の方の治療に移っていた。

 

 ……あの「ばけのかわ」の上から治療するなんてことは無いよな? 無い……はずだよな? あれ布だろ、だって。

 ちょっと見ていたいが、邪魔になるな。オレの方はライ太とラー子をタオルで拭いておこう。

 

 

「ヨウタ、これ」

「ああ、ありがとう」

 

 

 ヨウタの方に残りのタオルを投げ渡す。ガーゼと包帯は近くの濡れない場所に置いてと。

 ……「フライゴン」って聞いてあんまり意識したこと無かったけど、まさしく「ドラゴン」って感じだな。全身すべすべの肌のようにも見えるが、実際には細かな鱗が見て取れる。若干、蛇にも近いだろうか? 軽く触れて見ると柔軟性があるようにも感じる。それでいて一枚一枚は頑丈だ。この鱗のおかげで砂嵐の中でも傷つくことなく自在に飛行できるということだろう。

 その鱗を貫いてダメージを与えているあたりに、サカキのポケモンの精強さがうかがえる。

 

 さて、まずはライ太だな。変形してしまった甲殻を覆うようなかたちで包帯を巻く。幸い、こちらはそこまで出血している個所が多くないため、あくまで固定するだけに留めておく。

 ラー子は、鱗の剥がれや出血が目立つ。こちらはガーゼを多めに使っておこう。早いうちに出血も止まればいいのだが。

 二匹ともに一応の処置が終わると、そのままボールに一旦戻ってもらう。次はワン太だ。

 

 

「……っと」

 

 

 これは――思ったより傷が深い。狼……は見たことが無いが、犬はたまに見るし、見てて比較してしまうのもあって、やけに痛々しく見える。

 傷口を洗い流すためにお湯をかけると、苦悶の声が漏れてきた。凄まじい罪悪感だ。

 ……獣医って、こういうのをいくつも見ることになるんだよな……いや、人間相手の医師もそれは同じだけどさ。応急処置とは言っても、こうして自分が治療するような立場に立ってみると、改めてそういった職業に就いてる人たちの偉大さがよく分かる。見ててつれぇわ……。

 

 

「頑張ったよな……ゆっくり休めよ……」

「……ワフッ」

 

 

 返事がほぼほぼ犬だ。

 待ってくれ。待ってくれ。本当に待ってくれ。オレこういうの本当に弱いんだよ。テレビ番組見てても犬の特集とか犬との別れとかだいたい泣きそうになるし。早く良くなってくれ。本当に。このまま弱って……とかイヤだからなオレは。長生きしろよ!

 

 それからしばらく、涙目になっているオレを怪訝そうに見つめるワン太とヨウタ……という謎の構図で応急処置を続け、ようやく一区切り。

 六匹にそれぞれ「げんきのかけら」を投与したら、においで索敵ができるワン太を残して、他の五匹はボールの中へと戻ることになった。

 ともかく、これであとは回復を待つだけだ。

 

 

「完治までどのくらいかかる?」

「メディカルマシーンがあるならともかく、何も無い状態だと二日、三日……場合によっては一週間は見ないとダメかな」

 

 

 思ったよりは早いな。きっと、生命力にあふれてるんだろう。

 とはいえ、怪我しないに越したことはないだろうけどな。

 

 

「ほしぐもちゃんは……ちょっと難しいかもしれない」

「何でだ?」

「この世界はウルトラホールが開きにくいロ。今のほしぐもちゃん……『コスモウム』は強いエネルギーを受ければ、元のソルガレオに戻ることができるんだと思うんだけど……そのためには、ウルトラホールから降り注ぐエネルギーが最適だと思うロ」

「そのエネルギーって、確か……何だっけ。ぬしポケモンのオーラとかそういうやつの大元だっけ?」

 

 

 たしかそういう設定があったはず。

 

 

「うん。ウルトラビーストも、ウルトラホールを通って現れる時に、このエネルギーを受けてる。多分、アローラならもっと早く元のソルガレオに戻ってくれるんだろうけど……この世界、良くも悪くも安定してるから、ウルトラホールが開きにくいみたいなんだ。完全復活はもっと先かな」

 

 

 苦笑するヨウタの表情からは、あまり焦燥感や危機感というものを読み取れない。

 焦ると焦った分だけ損だと割り切ったのだろうか。実際、変に回復を急いでも、生物の体なのだからどうしようもない部分はあるな。

 

 オレは……どうしてようか?

 ヨウタはしばらく回復に努めることにした。その期間ずっと何もしてないってのは無駄の極みだろう。

 そうだな……この世界のメタ知識は絶対のものじゃないが、多分、ある程度までは通用するだろう。ポケモンの覚えてる技、タイプ相性、進化の系譜やその条件。特にミュウツー対策は急務か。サカキとの戦いに備えて、ロトム図鑑にこういった情報をインストールさせてもらうのも手っちゃ手か?

 

 そう考えだしたところで、勝手口が開いたような音が聞こえた。どうやらばーちゃんが外から戻ってきたようだ。

 挨拶に行っとくか、とヨウタを誘って勝手口の方に。柱から覗いてばーちゃんの影を確認すると、声をかけた。

 

 

「ただいまばーちゃん。電話で言ったけどちょっと一人泊まらせるよ」

「あれ、まあ。そうだったねえ」

「すみません、お邪魔します」

「ええ、ええ。ゆっくりしていきなさい」

 

 

 朗らかに笑うばーちゃん。オレのそれとはまた違った雰囲気の白髪(しらが)に曲がった腰。歳の割には肉体的にも足取りもしっかりしていて、物腰からはあまり年齢を感じさせない。

 その右手には肉切り包丁が握られていて、左手には、オレンジ色の羽毛を持った鳥――アチャモのトサカが握られていた。

 

 

 

「それじゃあ、今夜はからあげにしようねえ」

「「そのからあげはダメだぁぁぁぁ――――――ッ!!」」

 

 

 

*1
威力130/特攻ががくっとさがる。





 ※ からあげ(仮)は無事回収されました。


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