携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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 三人称です。



旅のみちづれ

 

 

 レジスタンスが借りているイベントホールから徒歩で十分ほどの位置に、国領川という河川が流れている。

 その国領川を辿り、車で上流へと向かうこと、更に十分。その程度の時間で、朝木と東雲は山中へと足を踏み入れることになっていた。

 

 四国の山は、近い。

 アキラの祖母の現住地のように、道を隔てて山と海が隣接しているということも少なくない。そうでなくとも、街を走っていたというのに五分で山中に入って遭難しかけたという話が相次ぐほどである。日常生活において言うなら、若干の不便さがあることは否めないだろう。

 しかし、その欠点は裏を返せば「ポケモンの生息地が近い」という利点にもなりうる。

 

 街にも当然ポケモンは存在しうるが、生活圏を守るためにレジスタンスの面々によって追い払われていて周辺には殆ど生息していない。そのため、自然と彼らは山の方に足を運ぶことになってしまっていた。

 

 

「はひぃ、ひぃ、ま、待ってくてよぉ……」

「…………」

 

 

 そして、その中で朝木は東雲との体力の違いを見せつけられていた。

 現役自衛官とフリーターである。その体力には大きな差があって当然だ。東雲は生来の気質もあってそれに文句を言う気は一切無いのだが、一方であまり戻るのが遅くなってはヨウタやアキラに迷惑がかかるとの思いもあり、振り返ったり立ち止まったりというのはそこそこの頻度に抑えていた。

 

 

「ポケモンの姿はありますか?」

「い、いや……ぐえっほ、ごえ……やっべ……現役自衛隊員速すぎだろ……」

「そうまで仰るほどでは」

「俺が遅いのか!? 俺がスロウリィ!?」

「…………」

「……」

「すみません。どういったお話なのでしょう」

「悪かったよ……」

 

 

 朝木は僅かに肩透かし感を覚えていた。これがアキラなら、きっと切れ味鋭く突っ込んでくるだろう。

 近年の自衛隊員は、外出のための手間が大きく、給料も貯まりやすいため、休日に暇を持て余した結果オタク趣味に傾倒する人間が多いという。しかし当然、中には東雲のような真面目一辺倒の人間も存在するのだと、この時朝木は改めて思い知った。

 

 

「東雲君はノリが悪いな」

「……すみません、生来のもので」

「いや分かってるよ。俺もそんな良い方じゃないけど……」

「改善は、試みているのですが」

「あ、そうなの?」

「もっとも、刀祢さんのような方には甚だ不評でして……」

「あの子はそりゃそうなるだろうな……」

 

 

 あれは女項羽(しろいゼラオラ)だ。他人にも自分にも厳しい猛虎だ。硬派を通り越して化石のような価値観をしているとすら、朝木は評している。

 なんだかんだと朝木に対してもそこそこに歩み寄りを見せている彼女だが、軟弱なところを見せれば容赦なく檄が飛ぶ。拳が飛んで来たり電気が飛んで来たり指を折ってきたりしないだけマシ――という納得の仕方は、危うくそれらを経験しかけた朝木特有のものだが――彼にとっては未だ恐怖が薄れない相手でもあった。

 

 

「ゼニゼニ!」

「お、帰ってきた」

「ご苦労だった、ゼニガメ陸士」

「ゼニニッ!」

「クリアか。了解した」

「めっちゃ軍隊ナイズされとる」

 

 

 確かな安全確認(クリアリング)は、このような見通しの悪い場所では必須になる行為だろう。

 が、ポケモンであるゼニガメがそれを完璧に遂行できるほどに訓練する必要はあるのだろうか? それ以前にもっと優先すべき訓練がありはしないか? 朝木は訝しんだ。

 

 

「それにしても、なかなか出てこないもんだな」

 

 

 周囲を見回しながら、朝木はそんなボヤきを漏らす。それを聞いて、東雲はある程度当然のことでしょう――と、頷いて返した。

 

 

「どういうこった?」

「四国の総人口は約四百万人。これは静岡県の人口とほぼ同じですが、それに対して面積はと言うと、四国は静岡の二倍以上あります」

「密度か」

「はい」

 

 

 ポケモンがこの世界にひとつの種として定着しきるのは時間の問題だが、裏を返せば「今はまだ」定着していないということでもある。

 ポケモンたちがこの世界に来て一週間と経っていない今、繁殖や育児を行うにはあまりにも時間が不足しているのだ。現在はまだ、サカキがウルトラホールを通じて呼び込んだポケモン程度しか生息していない。

 

 四国には、たとえ数億のポケモンが来訪しようとも、それを受け入れられるだけの土壌――文字通り――が、ある。広大な土地があり、山や森、川、海……そうした自然に溢れているというのはそういうことだ。大きすぎるキャパシティに対し、ポケモンの数がやや少ないのだ。

 

 

「街の方には結構出てきてるみたいだったけどなぁ」

「そういったポケモンは、他の生物に対して警戒心を持っていない若い個体や……それだけ強力な個体が多いようです」

「熊とか猪みたいな扱いか、今」

「恐らく」

 

 

 であるからこそ、レジスタンスの面々は逐一それを追い返しているのだ。

 ポケモンが一般的なものになり、モンスターボールが普及し、民間人が自衛の手段を手に入れ――何よりも、レインボーロケット団がいなくなりさえすれば、山から降りてきたポケモンにも適切な対処ができる。穏便に山に返すなり、捕まえるなり、だ。

 しかし、過渡期たる現在はそれが許されるような状況では決してない。レジスタンスの対処は、間違いなく状況に即しているものだろう。

 

 惜しむらくは、その人里に降りてきそうなポケモンの方が朝木や東雲にとって、捕獲するのに手頃であるということだ。

 

 

「作戦立てた方がいいかもなあ……東雲君、ポケモンどのくらい知ってる?」

「プラチナまででしょうか」

「んじゃ、山の中だし……ツチニンとか……か?」

「……申し訳ありません、ポケモンの名前を言われてもパッとは出てこなくて……」

「あ、いや、だーなぁ……」

 

 

 ポケモンは、実際にプレイしていたとしても、その全種類を正確に記憶しておくことは難しい。

 東雲の言う「プラチナ」――いわゆる第四世代ポケモンの時点で、既に493種のポケモンが存在しているのだ。対戦や収集といったやり込み要素に手を出すことが無ければ、そうそう全種類を覚えていることは無い。

 そして第七世代に到達した現在は、既に807種類を記録しており、第八世代に到達すれば更に増える見込みでもある。一般的には、最初の151匹を言えるというところが限度だろう。

 

 

「朝木さんは……覚えているのですか?」

「…………いいか、東雲君。就職諦めたフリーターってな……死ぬほど暇なんだよ」

 

 

 求職者ですらなかった男は、そう告げた。

 あまりに悲しく、そして哀れな言葉だった。

 

 

「話を戻しましょう」

「うん……」

「作戦を立てる必要があります」

「そうだな。罠でもかけるん?」

「ゼニ、ゼニガー」

「あまり推奨できないようです。やはり、ポケモンの側も強引にというのは抵抗があるものかと」

「ほーん。で……あの、また地道に?」

「ええ。探しに行きましょう」

 

 

 ですよね。そう呟きながら、朝木は遠い目をした。

 既に彼の足は生まれたての子鹿の如く震え切っている。もっとも、彼には子鹿のような愛嬌は無く、ただ見苦しいだけではあるが。

 

 

「少し周囲の見回りをしてきます。朝木さんはこちらで待機を」

「お、おう!」

 

 

 それを察して放たれた東雲の一言で、朝木は露骨に元気になった。

 軽く苦笑しながら、ゼニガメを連れて森の中へと一歩踏み出す――と、その瞬間のことだった。

 

 ――ぼとり、と。木の上から落下してくるものがある。

 青緑の松かさに似た外殻を持ったポケモン。その名は――――。

 

 

「く、く、クヌギダマだぁぁぁぁあ――――!!」

「知っているのですか、朝木さん?」

「早く離れろ東雲君! 『じばく』するぞォ!!」

「!?」

「ゼニッ……!?」

 

 

 クヌギダマ。その最大の特徴は、かの「はかいこうせん」、「ギガインパクト」を超える破壊力を持つ「じばく」を、レベル6という超早期に習得することである。

 更に、その特性は「がんじょう」。あらゆる攻撃を受けても必ず一度は耐えきれるという極めて優秀な耐久能力の持ち主でもあった。

 彼らに出会うということはつまり、ほとんどの場合においてほぼ確実に「じばく」、ないしは「だいばくはつ」の猛威に晒されるも同然でもある。

 

 

「身を守れゼニガメ! 朝木さ――」

「問題なァい!!」

「あ、はい」

 

 

 朝木は、東雲が指示を出すよりも先に当然のように地面に伏せていた。

 あまりに迅速すぎる行動に思わず素に戻る東雲だが、事は急を要する。彼自身もまたその場に伏せ、衝撃を待った。

 

 

 ――――しかし、衝撃はいつまで経っても訪れることが無かった。

 一分か二分か経った頃、東雲は顔を上げて周囲を見回した。そうして彼が見たのは、クヌギダマが「じばく」している姿ではなく――せっせと「どくびし」を撒いている姿である。

 そしてまるで「この先に進むのは許されない」とでも言うように、クヌギダマは二人と一匹(さんにん)の前に立ちふさがっていた。

 

 

「……?」

「どういう……ことだ……?」

 

 

 これに困惑したのは「じばく」を警戒した二人だ。ビリリダマやマルマインのように、遭遇即自爆というような気質ではないまでも、クヌギダマも「じばく」「だいばくはつ」の使い手である印象が強い。「まきびし」や「どくびし」、「ステルスロック」を扱う設置技の名手でもあるのだが、野生の個体にそこまでの戦術を組むことは通常、不可能だ。

 二人はその姿に、違和感を覚えずにいられなかった。

 

 

「……ど、どうする? 逃げっか?」

「いえ……」

 

 

 朝木の言葉に首を振り、東雲は考察する。クヌギダマの行動の真意。この場面で出てきたことの意味。そして、何よりクヌギダマのようなポケモンたちから見た、東雲ら人間のことを考えると……。

 

 

(俺たちは、住処を荒らす外敵か)

 

 

 現状では推測でしかないにせよ、その考えは正鵠を射ていると言えるだろう。

 加えて言うなら、彼らは突然この世界に呼び出された直後だ。元の住処に戻れず不安に思っているとしても致し方ない。そこに突然やってくる人間――となれば、警戒しない方がおかしい。

 クヌギダマが「じばく」を使わないのは、ここで並外れた大きな音を立てて仲間を怖がらせないためか、あるいは後に控えるポケモンがいないためだろうと東雲は推測した。

 

 

「……ならば」

 

 

 もう一つ考えて――改めて、東雲は前に出た。

 

 

「お、おい!」

「クヌ……!」

「ゼニ!?」

 

 

 目前にはばらまかれた「どくびし」がある。触れないよう、そしてクヌギダマを刺激しないようにゆっくりと近づいた東雲は、なるべくクヌギダマと目線を合わせるべく片膝をついた。

 とはいえ、東雲自身は身長180cmを超える長身だ。恵まれた体格が邪魔をして、しっかりと目線を合わせることはできない。しかし東雲の心は伝わったか、クヌギダマもまた応じるように「ステルスロック」を応用し、足場を作って彼と目線を合わせた。

 

 

「俺たちは、戦いに来たわけじゃあない。ただ、仲間になってくれるポケモンを探しに来ただけだ」

「ヌ……?」

「ゼニゼニゼニ、ガーメ」

「ヌヌ……」

 

 

 困惑しながらも、なんとか東雲の言葉を噛み砕いて飲み込んでいくクヌギダマ。彼に続くように、ゼニガメもクヌギダマを説得するように鳴き声を発する。

 やがて根負けしたように、クヌギダマはその場に撒かれた「どくびし」を片付けた。

 

 

「ヌッ」

「ゼニッ!」

「……感謝する」

「お、おお……すげ」

「クヌッ!」

「あいっでぇ! 何で俺には攻撃してくんだよ!」

 

 

 言うなればそれは信頼の差である。

 誠心誠意、自分の思いを言葉にして伝えようとした男と、便乗して侵入しようとしている男。後者の方が遥かに心証が悪いというのも、当然のことと言えよう。

 

 

「すみません、朝木さん。しばらくここでお待ちいただけますか?」

「あーうん、いいよいいよ。しゃーねえ」

「ゼーニ」

 

 

 一礼した東雲とゼニガメを見送ると、朝木はその場に腰を下ろした。

 しばらくすると、彼のスマホに着信が入る。ヨウタからのものだ。自分たちと合流したいという彼の言葉を、朝木は一も二も無く受け入れた。

 そうして、ほんの数分ほど。朝木はラー子に乗って最短距離でやってきたヨウタを若干羨ましく感じながら、彼を迎え入れた。

 

 

「やーよく来てくれたよ! マジで! 割と心細かったわこの状況」

「ははは……」

 

 

 あまりに現金な態度に、流石のヨウタも苦笑を禁じ得なかった。

 それにしても、なぜこちらに来たのかと朝木が尋ねると、ヨウタはアキラがダウンしたから――と簡潔に答えた。

 

 

「また?」

「うん、ちょっと傷が開いて」

「あのバンギラス、そんな手ごわかったのか……」

「あ……いや…………あー……いっか、それで」

 

 

 語弊が無いとは言い難いが、ある意味では事実でもある。別段否定する要素も無いので、ヨウタはそれ以上何も言わないことにした。

 別に間違ってはいない。それどころか実際アキラの傷が開いている。ならもうそれでいいんじゃないだろうか。

 

 

「それで、こっちはどうなってるの?」

「あー……んと」

 

 

 かいつまんで現状を語ると、ヨウタは表情を明るくした。

 

 

「それなら、もうほとんど大丈夫だね」

「そうなのか?」

「ポケモンたちが自分の住処に招いたってことはそういうことだよ」

 

 

 少なくとも東雲が信用に足る人間である、とポケモンたちが認識したはずだ。

 ゼニガメの口添えがあったとはいえ、間違いなく幸先のいい出だしと言えるだろう。

 

 

「ヨウタ君は、まだ捕まえてないよな?」

「ううん、僕はさっきここに来る前に」

「早っ」

「まあ、年季が違うからね」

 

 

 得意げな顔をして見せるヨウタを、なんとなし朝木は微笑ましく感じた。

 今日までずっと緊張感に満ちた表情ばかり見ていた少年だ。こういった年相応の表情が見えると、それだけ心理的に余裕があることが分かると言うものだ。

 同時に、今の自分はこんなに純真な表情をできるだろうか……などと考えて、その差に30手前の男は死にたくなった。

 

 

「どうしたのレイジさん!?」

「俺は……今までなんて無駄な時間を……」

「え!? え、いや……ほら、無駄なことなんて何も無いよ。経験したことは、何かでその人の役に立ってくれるものだよ!」

「眩しっ」

「え、ええ……?」

 

 

 薄汚れたアラサーにとって、夢と希望にあふれた少年の言葉は「ノーガード」と「じわれ」を併用するようなものだった。

 

 そうこうしてしばらく経てば、半死半生に成り果てたアラサーも徐々に回復し、それを見計らったかのように東雲が戻ってくる。

 彼が引き連れていたのは、クヌギダマを含め、ワシボンとツタージャの三匹……ちょうど、彼らが求めていた数のポケモンである。これには思わず、朝木も元気を取り戻した。

 

 

「うおっ、すげえ! ワシボンにツタージャじゃないか!」

「ご存じなのですか?」

「そりゃもう、珍しいポケモンだしな」

「え?」

「えっ」

「僕らの世界じゃどっちもそれなりにポピュラーだよ?」

「なん……だと……」

 

 

 朝木の言うことも、決して間違いとは言い切れない。

 事実として、ゲームにおいてツタージャは野生で出現することは無く、ワシボンもごく限られた地域にしか生息していない。

 

 しかしヨウタが言うのは、現実に即した彼らの世界――ゲームではない世界での話だ。

 そこにいわゆる「御三家」と呼ばれる括りは存在しないし、飛行ポケモンの活動領域も相応に広い。ヨウタはイッシュ地方には行ったことが無いが、それでも資料や経験から、ほぼ間違いなくそうであろうということは知っていた。

 

 

「よろしいか」

 

 

 意見のすれ違いを起こして、頭に大量の疑問符を浮かべる二人に割り込むように、東雲が咳ばらいをした。

 

 

「我々のことを話したところ、この三匹(さんにん)が協力してくれることになりました。振り分けを行いたいのですが」

「ん、あー……と、どうしたらいい?」

「フィーリングでいいと思うけど」

 

 

 大切なのは、いかに互いの感性が合致するかだとヨウタは考えている。

 

 例えば、リーグチャンピオンを目指して日々研鑽を重ねるヨウタだが、手持ちポケモンたちも皆その夢に共感し、意志を重ねている。

 平和を取り戻すために奔走するアキラには、その気質と性質に色々な意味で適した仲間が集まった。

 そういう風に、トレーナーとポケモンはある種、なるべくしてパートナーになるのではないか……ヨウタの世界においても理想主義に近い考え方だが、ヨウタ自身はそういう考え方の方が好きだった。

 

 実際に、ゼニガメにしろ、ニューラとズバットにしろ、何かしら相通ずるものがあるからこそ、今のトレーナーである彼らと出会ったのではないか……と、ヨウタは結論づけていた。

 

 

「どうかな、みんなはどうしたい?」

 

 

 ヨウタの言葉に応じるように、まずワシボンが東雲の肩に止まった。

 続いてクヌギダマが、それに続くようにして東雲の足元に転がっていく。残るはツタージャ一匹だけだ。

 二匹を見てしばらく考えると、ツタージャは仕方なさげにニヒルな笑みを浮かべ――ヨウタの足にぽん、と触れた。

 

 

「何でだよッ!!?」

「は、ははは……ツタージャ……? あの、僕の方は今いる仲間たちで手一杯だし、この人に協力してほしいんだけど……」

「タージャ……」

 

 

 ツタージャは、「やれやれ仕方ないなぁ」とでも言いたげに軽く首を振ると、やや横柄な態度で朝木の足元に腰を下ろした。

 

 

「コイツ……!」

「…………」

 

 

 主人の頼りなさに憤り、反逆の翼を翻すズバット。

 文字通り人の尻を叩いて動かそうとするニューラ。

 そしてここにきて、この横柄なツタージャだ。ある種の一貫性を感じながら、ヨウタは苦笑した。

 

 

「では、そろそろ移動しましょう。訓練もしなくては」

「だーな。ところでヨウタ君、車で移動しないか?」

「ううん、僕はラー子に乗せてもらって移動するよ」

「……一緒に歩こうぜ?」

「遠慮します」

 

 

 なお、仮にヨウタが首を縦に振ったとしても、ダウンするのは朝木一人である。

 そうして仕方なさげに腰を上げた、その瞬間のことだった。

 

 

「大変ロト!」

 

 

 盛大に警告音(アラーム)を響かせながら、ロトムがヨウタのカバンの中から飛び出した。

 その音は、ヨウタにとってはここ数日の中ではいっそ不自然なまでに聞かなかった――しかし、聞きたくもなかったものだ。

 

 

「何ぞ?」

「アサリナ君、これは?」

「……ウルトラホールが……開いた?」

 

 

 初日、サカキが「こちら」にポケモンを送り込んできて以来聞かなかった音が、ついに発せられた。その事実に東雲は目を見開き、朝木は白目を剥いた。

 即座にマップを用意するロトムへ、ヨウタは叫ぶように問いかける。

 

 

「場所は!?」

「ここロト! 北に約4キロ!」

 

 

 ロトムによって示された地点は、ヨウタもよく知る……それこそ、自分がつい先ほどまでいたような地点だった。

 

 

「――――イベントホール横の広場! アキラのいる場所ロト!」

 

 

 


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