携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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じたばたしなきゃ始まらない

 

 

 休養四日目、早朝。陽が昇るかどうかという時間に、オレは一人で集会所の近くにある埠頭にいた。

 潮風が生ぬるい。暦の上では、そろそろ初夏に差し掛かる頃だ。日ごとに気温も高くなっている。グラードンの時とはまた違うが、熱中症にも気を付けていかないといけないな、とふと思わされた。

 

 

「――――……」

 

 

 息を吐く。あえて全身の力を抜き、構え――突く。

 音の発せられない、緩やかな突き。身体の状態を確認するように突き出した腕が、空中で静止した。

 

 

「…………ふっ」

 

 

 続けて、全身の状態を確認するように、緩やかに(当社比)演武を行う。

 皮膚――つっぱりや違和感はない。ほぼ完治と見ていい。

 筋肉――断裂などは無いようだ。考えた通り、スムーズに動く。同じく、完治。

 練気――むしろ好調。ここしばらく、体を動かす訓練ができなかったので、こちらに時間を費やしていたおかげかもしれない。

 

 一挙一動ごとに速度と精度を高めていく。身体機能の精査から動きの調整へ。やがて鍛錬へ――となりかけたところで、オレは動きを止めた。

 

 

「……ヨシ!」

 

 

 前に突き出していた腕を天高く掲げ、大きく伸びをする。

 全く問題無し。オレ、完治!

 たった四日間のこととはいえ、よっぽど焦れてたんだろう。もう一か月も経ったような気分だ。けれど、これでいつも通り動けるはずだ。

 

 

 

 

「――――ってことで完治した」

「ふざけてんのかよその体」

 

 

 そんなこんなあって、一時間ほど体を動かした後で集会所に戻ってきたオレを迎えたのは、そんな呆れと驚きを含んだ言葉だった。

 いや、そう言いたい気持ちも分かるよ、オレも。けどオレの身体がおかしいというのはもういつものことなので、今日のところは「まあそういうもんだよな」という程度のやり取りに留まった。

 

 ただ、このやり取りに驚きを見せたのが小暮さんだ。小暮さん、アクジキングの事件があって以降は、(今の性別上は)女性であるオレがいることを気遣ってか、だいたいオレたちと行動を共にしてくれている。

 ……が、今日はなんというかバケモノでも見るような目でオレを見ていた。あなたこないだのアクジキング相手にした時だってそんな目してなかったのに何です急に。

 

 

「……本当に人類ですか……?」

「ひでぇ」

「でも気持ちは分かる」

「むう」

 

 

 でもあくまで「体質」である以上オレにはどうしようもないことなんだよな……とりあえず、小暮さんにはみんなと同じように「まあそんなもんか」という認識までたどり着いてもらいたいものだ。

 小暮さんもオレの身体能力は見てるし、そのうち理解してくれるだろう。だいいち、オレ自身が原因を知りたいくらいだし。

 

 

「んでさ」

「あ、うん」

 

 

 ヨウタの隣の席に腰を下ろしながら、今日の朝食の焼きおにぎりを手に取る。口に運ぶと、特有の塩辛さとにおいを感じた。どうやら酒盗を塗ってから焼いた……みたいだ。食べやすいように味は整えてあるけど、やっぱり独特には違いない。

 ……いや、それより本題だ、本題。

 

 

「今度の潜入だけどさ、オレだけじゃなくって東雲さんにも来てもらいたいんですけど」

「む……分かった。承ろう」

「アキラちゃんからそういうこと言うなんて意外だな」

「そか?」

「そうだな。君なら一人で充分だと言い出すと思っていた」

「ああ、言いそう」

「ええ……」

 

 

 マジか。オレそういう独断専行しがち……に、見える、な。まあ……。

 それを東雲さんにも指摘されたわけだし、そう思われてても仕方ないかもしれない。よく分かってらっしゃる。

 

 

「でも現実問題、一人じゃどうしようもないよ。機械知識とか無いし。潜入はできました。でも全部壊しました、じゃダメだろ?」

「まあ、そりゃそうだわな」

「だろ?」

 

 

 動けってんだよ!(ドボォ)ってやったら動く以前に壊れるし、この手以外知らない。

 あと、オレ電気を出すだけしかできないので、いわゆる電気系の超能力者みたく、特定の電気機器の操作とかもできない。つまり、一人で工場になんて潜入したらその時点で詰みなんだ。

 こっそり全滅させる……って方法もあることにはあるが、それをしようと思ったら非現実的な時間がかかる。オチとしては、全部やり切る前に異常を知られて、逃げられるか包囲されるか……ってところだろう。

 

 ――で、そこで頼りになるのが東雲さんだ。

 警備室を乗っ取ったり、そもそも連絡をさせないよう電気系統を掌握したり、設備を逆用したり……オレ一人じゃ絶対にできない戦術を取れる。

 いくらオレがニンジャめいた動きができるとは言っても、それだけでできることというのは限られているんだから。

 

 

「……では……私も同行させていただきたいのですが……」

「小暮さんも?」

「え、いややめとこうぜ……? 俺らじゃ邪魔になるだけだって」

「まあアンタは邪魔だが」

「ひでぇ」

 

 

 分を弁えていると言えば聞こえはいいが、朝木の場合はやれることすらやろうとしないからそれ以前の問題だ。

 

 

「何か考えがあるんですか?」

「考え……と言いますか……最前線にいないと、その、考える材料も……得られませんので……」

「あ、はい」

 

 

 もしかしてこの人、考えるより先に行動するタイプだったりするのか? この文学少女的な見た目で……?

 ……いや、人を見た目で判断するのは良くないんだけど。アクジキングとの戦いの時もそんなに機敏に動いてた感じでもなかったのに、潜入なんてできるのか?

 

 

「でも、大丈夫なんですか?」

「心得は……あります……」

「あるんですか」

「あるのか?」

「あるんです……」

 

 

 あるのか。

 じゃあいいか。いや良くはないか? 試した方がいいんだろうか。どうしよう。

 少なくとも集団行動に適性があるのは間違いないんだけど……。

 

 

「心得かぁ……」

「しかし、できることならそれができるのかどうか、試しておいた方が良いかと思います」

「でも、どうやって試せばいいんだろう?」

「かくれんぼでもするか?」

「いや、そんな単純な……」

「それがいいでしょう」

「マジかよ東雲君」

 

 

 提案したオレもなんだけど、そんなもんでいいものだろうか?

 

 

「偽装……いわゆるカモフラージュの訓練の簡略版だと思えば、決して効果が無いとは言えません」

「なるほど。じゃあ……」

「あ、ごめん。アキラは不参加でお願い」

「何でだよ!?」

 

 

 ここに来てそれは流石に生殺しが過ぎるだろ!?

 トレーニングに参加しなきゃって気持ちで必死に治したのに!

 

 

「だってアキラ、人の気配とか波動とか読んですぐに見つけそうだし……それに、それだけの身体能力があったら誰にも見つけられないような場所に隠れられるじゃないか」

「う――んんんんん」

 

 

 否定のしようが無かった。

 やれるかどうかで言えば間違いなくやれるし、訓練という前提があるなら、本気でやらないと意義に欠けるからだ。だから多分やる分にはオレは本気でやる。

 ……けどコレあくまで小暮さんがどれだけやれるかを確かめるためのものなんだよな。うーん……。

 

 

「逆に言うとオレから隠れられたりオレを見つけられたりしたら即戦力確定ってことじゃん」

「無茶を言う」

「い、言うほど無茶ってワケでもないだろ! 隠れる場所なんて限られてるし!」

「天井とか木の上とかならまだしも、アキラ絶対もっと複雑な場所に隠れるんじゃないの。配管の上とか機材の上とか荷物の上とか……」

「上ばっかか。逆に探しやすいじゃないか」

 

 

 もっとあるだろ! …………排水溝とか。

 そりゃまあ身体能力を活かすとなると、どうしても隠れたりよりは登ってく方向になるのは間違いじゃないんだけど。

 

 

「かくれんぼってそういうものじゃないだろ!? なあ!?」

「何なのさそのかくれんぼに対する尋常じゃない情熱」

「かくれんぼとか(記憶上)初めてなんだよ!」

「おお……もう……」

 

 

 みんなが一斉に頭を抱えるないしはそれに類する動作を取った。

 ちゃうねん。(突発的な関西(ジョウト)弁)

 ただ過去の記憶がほぼリセットされてるだけだから。多分やったことはあるはずだ。知識はあるし。

 

 

 

「……時間制限を設ければ、どれだけ隠れていても大丈夫でしょう」

「そそ! これも訓練だ。だったら実戦を想定しておくのは大事だろ? な!」

「必死すぎて笑えねえ」

「必死じゃねーし」

 

 

 必死じゃねーし。

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

 ところで、根本的なところでレジスタンスを含めたオレたち「こちらの世界」側の戦力は非常に少ない。

 人数は元より、ポケモンそのものの能力もまたそこまで高くない。例外はヨウタくらいのものだろう。必然的に採れる戦術というのも限られてくる。

 突発的かつ散発的な待ち伏せ・攪乱などの戦闘行為――要するに、ゲリラ戦術だ。

 

 隠蔽、偽装、奇襲……何でもアリだし、何でもしなければならない。

 で。

 

 

「……発見したか! ワシボン、『つばさでうつ』!」

「クェーッ!」

「見つかったか……! サワムラー、『まわしげり』!」

「サワッ!」

 

 

 気付いたら、こういう感じになってた。

 空から東雲さんのワシボンが強襲し、応じるように宇留賀さんのサワムラーが蹴りを放つ。空中で衝突した二匹のポケモンは、僅かに苦悶の表情を浮かべた後で互いに距離を取った。

 

 発端はごく簡単で、あるタイミングで小暮さんが「発見された時に戦闘するようにしたら、潜入だけではなく遭遇戦の訓練にもなりませんか」と――いつも通りややたどたどしく――言い出したことだ。

 で、じゃあこの際みんなでやった方がより質の良い訓練になるんじゃないか? という話になったことで、レジスタンスメンバーの半数を交えたかくれんぼもといゲリラ戦訓練ということになったのだった。

 

 ……ちなみに。

 

 

「小暮さん、どうやってここまで来たんです……?」

「しずさんに……手伝ってもらいまして……」

「ク」

 

 

 その小暮さんだが、本人の弁の通り――ある意味では当初の予想を覆し――隠れるのは得意らしく、ここまで、ほとんど見つけられていない。

 時に木の上に登ってみたり、自動車の下に潜り込んでみたり、見つかりそうになったらなったで機微に動いて場所を移り……と、その外見からは想像もできないような動きを見せていた。そして今回はオレと同じ場所、集会所の屋根の上だ。

 

 それができた理由は、しずさん――シズクモが吐いている糸にあることは、明白だ。

 もっとも、それを利用して屋根まで登ってくるあたり、小暮さんの身体能力は見た目と不相応なものなんだろう。

 

 

「……やべーですね」

「……アキラさんの方が……よっぽどだと思います」

「それはそうかもですけど」

 

 

 まあオレは特にポケモンの力借りずに素でやってるから、どっちがって言われたらオレの方がヤバいものなんだろうけど。

 と、そんな折、ふと思い出す。

 

 

「あ、そうだ。あの男、どうなったんです?」

「あの……?」

「潜入してきた」

「ああ……はい。……現在は、拘束の上……最終的には、法の判断に委ねるつもりで……」

「……えと。なるほど?」

 

 

 相当理性的な判断だな。こういう情勢下だから、どうしても倫理観が緩んでしまうかと思ったんだが。

 あの男が化けてた人――たしか、沢渡さん――は、今もまだ行方不明だ。死んでないといいんだが、状況を考えると絶望的だろう。

 必要以上の私刑とかもありうるんじゃないかと思ってたが……。

 

 オレが理解してないことを察したのか、少し考えて小暮さんは一つ指を立てた。

 

 

「私たちレジスタンスは……あくまで、民間人です。法律の専門家も……政治に通じているような方も、いません。RR団(かれら)と戦い終えた後のことを考えられる人も……いません」

「それは……そうでしょうね」

 

 

 オレたちもそうですし。そう一言付け加えると、小暮さんも頷いた。

 オレと朝木は元から割と論外。方向性は違うけど、そんなこと考える余裕が無い。ヨウタは別の世界の人間だから、そういうことを考えるような素地が無い。自衛隊は上意下達が基本だというから、その後のことに関して、東雲さんは上官の指示に従うだけだろう。

 

 

「少なくとも……今、四国にいる人は……みんな、そうだと、思います。……あの、レインボーロケット団を除いて……ですが」

「まあ……現状、勝つ見通しが立ってないですからね」

「……ですが、万が一を考えると……良くありません。勝てずとも……ええと……ディアルガとパルキアを何とかすれば………………何とかできるのでしょうか……」

「最後で突然弱気にならないでください」

 

 

 そこで弱気になっちゃダメでしょ。いや、ディアルガとパルキアの能力考えたら気持ちは分かるけど。

 

 

「やりようはありますから……」

「……で、では、そういうことで……もしあの二匹を対処できたら……外から、人が入って来られます」

「ですね」

「その場合、自衛隊や……米軍などが入ってくることも……ありえます。というよりも、現状を思うと……まず入ってくるかと……思います」

「……でしょうね」

「こういった防衛戦力が介入してくる場合……暴徒化している市民を見て、果たして守るべき相手だと思ってくれるでしょうか……」

「多分……まず、鎮圧されますね」

「ですので、特に規律が大事なんです……」

 

 

 なるほど。そう考えるとそういうところは大事だな。

 ……オレ、全然そんなの考えてなかったわ。

 

 いや、これはオレが特別アホなワケじゃ……ないこともないだろうけど……ともかく、それを考える余裕があるかどうかというのは別だ。

 連日連日、襲撃やら待ち伏せやら奇襲やらで心が休まる暇も無い。ここ数日だってトレーニングしなきゃって考えが頭から離れなかったし、ヨウタたちも暇があればトレーニングや模擬戦をしている。レジスタンスの人たちもそれに付き合っているし、オレなんかよりもよっぽどものを考える余裕は無いだろう。

 

 ……これだけ考えられるのは、本人曰く「後ろで見てるだけ」であるからこそ、だろうか。もっともその「見てるだけ」の内、どれだけ謙遜が含まれてるかは分からないが。

 

 

「なるほど」

 

 

 なんとなく、その理屈はスッと腑に落ちた。いつも「正しいことをしなさい」と言い聞かせてくれたばーちゃんの言葉に、少なからず実が伴ってきたような気がする。

 そうか。道義的・倫理的に正しいということは、世間的にその行為が認められやすいということでもある。必要なら何をするにも迷わないつもりではあるんだが、これからも可能なら人としての道は外れずに行動するべき、だろう。

 

 ……さて。

 

 

「えっと。変なこと聞いてすみません。ともかく今度の潜入、よろしくお願いします。オレ、考え足らずなので……フォローしてくれると嬉しいです」

「あ、いえ……こちらこそ。私は、その、直接的な戦闘が、あまり得意ではないので……頼りにしています」

 

 

 隠れて、小さく二人で握手を交わす。

 正直言うと、レジスタンスと合流した時は、今後……それこそ、裏切られたりするじゃなかって結構な不安があったが、こうして話して……数日接してみれば小暮さん、だけではなくてレジスタンス全体のスタンスも読み取れる。そうして少なくとも、こういう風に規律を守れるのなら、まず信用に値すると考えていいのではないかと思う。

 

 この分だと、自衛隊の人たちと協働することも不可能じゃないんじゃないだろうか?

 連絡は東雲さんができるはずだし、ちょっと相談してみようか。そう思った時のことだった。

 

 

「見つけたぁぁぁ――――!!」

「あ」

「……あ」

 

 

 ――――見上げると、そこにはラー子に乗ったヨウタがいた。

 

 ……まあ、これ実戦を想定した訓練だしね。そりゃ、乗れるポケモンがいるなら乗るよね。普通。

 

 

「やっぱり二人して屋根登ってるじゃないか! さっきは木の上! その前はパイプの間! 何でこう本気で見つけにくいところにばっかり行くかな!」

「いや本気で見つけにくいところじゃないと意味無いだろ」

「分かってるよ!」

「言ってること支離滅裂だぞ」

「……興奮されてますね……」

 

 

 そりゃそうなるな。ここまでやってまだ発見二回目だ。一回目は制限時間ギリギリだったし、実質これが最初の接触になる。

 ……さて、模擬戦とは言っても、それで手を抜いちゃ訓練にはならない。全力でやろう。

 と……一応聞いておくか。右手にハイパーボール、左手にモンスターボールを取り、掲げて見せる。

 

 

「どっちがいい?」

「今ここでギルを出したら建物が壊れるじゃないか。ナシだよナシ。それに――」

 

 

 と、モンスターボールを掲げながら、ヨウタは軽く笑みを浮かべる。

 

 

「――新しい仲間と、息を合わせる練習をしたいからね。できれば軽く手合わせできる方がいい」

「分かったよ。チャム!」

「シャモッ!」

「あ……では、私も……しずさん」

「ク」

「頼むよ、マリ子!」

「マリーっ!」

 

 

 そうして屋上に降り立ったのは、三匹のポケモンだ。ワカシャモのチャム、シズクモのしずさん――そして、新たにヨウタの仲間になったらしい、青く、丸々とした水風船のような外見のポケモン――青い悪魔(マリルリ)だ。

 子、と名付けられているということは♀なのだろう。彼女は自身の特性をはっきりと示すように、ヒレのような両腕を掲げて、力こぶを作るような姿勢をして見せた。

 

 

「……相性最悪じゃねーか!!」

「じゃ、そういう時のための訓練だね。マリ子、『アクアテール』!」

「くそっ、チャム! 正面からまともに当たろうとするな! 『かみなりパンチ』!」

「げ、迎撃します……しずさん、『クモのす』」

 

 

 マリ子が宙返りをするのに合わせて、多量の水分を蓄えた丸い尾がしなる。その進行を阻み、攻撃を妨害するようにして、しずさんが糸を放った。

 一方、「アクアテール」の直撃を避けるような体捌きを見せながら、チャムは右腕に灯した火炎をプラズマ化していく。

 

 

「マーリっ!」

 

 

 勢いをつけて振るわれた尾が屋根に叩きつけられると同時に、多量の水が飛沫となってチャムに襲い掛かった。

 しかしチャムは、そんな中にあってもなお冷静に対処していた。電気を纏っていない左腕を振るうことでダメージと影響を最小限に抑えつつ、突進する。

 

 

「シャモッ!!」

「マリリリリリリリッ!?」

 

 

 ――そして、チャムはその右腕をマリ子の柔らかに見える腹部へと突き込んだ。

 一瞬にして全身へと伝わる電流。みずタイプであるマリルリにとっては、当然ながらそのダメージは深刻である……はずだった。

 

 

「マリマリーッ!」

「え」

「モ」

 

 

 バシッ! と、気合を入れるようにして自身の顔をはたいたマリ子は、次の瞬間元の調子を取り戻していた。

 腹部のダメージも……無い。

 もしや、別に特性にはなってなくとも、マリルリって種族的な特長として、そもそも「厚い脂肪」を持っている……のでは? それで、電撃の威力はともかく、パンチそのものの威力は殺され……。

 

 

「やっべ……チャム、離れろ!」

「しずさん……糸で、引き上げて……」

「ク」

「逃がしちゃダメだ、マリ子、『じゃれつく』!」

「マリリーっ!」

 

 

 砲弾めいた猛烈な勢いで迫る青い球。ビビッてややヒいてるしずさんとチャム。「じゃれつく」とは名ばかりの途轍もない威力の突撃に、二匹の戦意は急速に萎びていくようだった。

 模擬戦だからいいけど、こりゃほぼ趨勢は決したようなモンだよな……。

 

 

 

 ……で、結論から言うと、交代を駆使することでその後ニ十分ほどは粘れたものの、脅威の新人マリ子のパワーに押され、オレたち二人は敗北。

 実は負けず嫌いなフシのあるヨウタは、ほくほく顔で今日の訓練を終えていったのだった。

 

 ちなみにあのマリルリ(マリ子)、前の拠点の近くの川にいたヌシ的なポケモンだったのだそうな。

 ヨウタのパーティ全体の平均から考えると大したほどではなかったのだが、周囲の環境と比較してあんまり強すぎるポケモンがいると、悪影響になりかねないからその対処も兼ねて仲間になってもらった……のだとか。

 ……じゃあ、模擬戦するならギルの方が良くなかったか? そう聞くと、ヨウタにはスイと目を逸らされた。

 くそう。

 

 

 





現在の手持ちポケモン

・ヨウタ
ライ太(ハッサム♂):Lv77
モク太(ジュナイパー♂):Lv76
ワン太(ルガルガン♂):Lv75【たそがれのすがた】
ラー子(フライゴン♀):Lv72
ミミ子(ミミッキュ♀):Lv71
マリ子(マリルリ♀):Lv45
ほしぐも(コスモウム):Lv70

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