携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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頭にかかったしろいきり

 

 

 

 休養五日目。この日の訓練は、オレとヨウタの本気のぶつかり合いから始まることになった。

 場所は、集会所から更に離れたとある空き地。その辺で拾った棒で引いた線で作った簡易的なバトルフィールドの中で、途方もない巨体のギルと、恐ろしく小さなミミ子とが向かい合っていた。

 周囲には、攻撃の跡の岩、岩、岩。ミミ子は既に「ばれたすがた」になっているがほぼ無傷。一方のギルは傷だらけだ。

 

 

「面攻撃しかないか……ギル、『いわなだれ』!」

「ミミ子、よく見れば隙間が――上、『シャドーボール』!」

 

 

 体高4メートルを超えるギルの攻撃は、その大きさに相応しい規模と威力を誇る。

 生態的な問題でアクジキングに通用はしなかったし、本(ポケ)の気質もわんぱくながら泣き虫な子供……ではあるものの、強い闘争本能と高い適応能力を兼ね備えている――総合的に見て、「戦闘の才能」というものは、他のポケモンと比べても一歩抜きんでている。

 

 対して、ギルの欠点はその幼さと戦闘経験の少なさに起因する「雑さ」だ。

 攻撃の狙いは甘いし、一つの行動に集中しすぎるせいで、行動の後が続かない。

 現に。

 

 

「ギュウ――――」

「ギラッ!?」

 

 

 岩と岩の隙間を抜け、自身に当たりそうなものだけを「シャドーボール」で弾き飛ばしていくミミ子。対して、ギルはそれに驚くばかりで次の行動を起こせていない。

 当然ながら、それをフォローしに動くのがトレーナーの役割なのだが――。

 

 

(「じしん」――いや、ここじゃダメだっていつも言ってるだろ! だったら「いわなだれ」で追撃……いや、それだと今と同じだ。なら「あくのはどう」、「でんげきは」、「れいとうビーム」……)

 

 

 ――ここで、オレはどうにも決め切れない。

 技のデパートと称されるニドキングほどではないにしろ、バンギラス(ギル)の技のレパートリーだって相当なものだ。対応力を高めるためにヨウタの技マシンを借りて色々と技を覚えさせてみたり、オレが個人的に技教えの真似事をしてでんきタイプの技だったりかくとうタイプの技だったりを覚えさせてもみたのだが……それが裏目に出た。

 結果、指示もワンテンポ遅れることになる。

 

 

「……迎撃だ! 『あくのはどう』!」

「ミミ子、懐に潜り込めば躱せる! 『ウッドハンマー』!」

 

 

 ギルの眼前に浮かんだエネルギー球が、前方に向かって黒い波動を放射する。

 しかし、体が小さくすばしっこいミミ子は、その前に攻撃の死角となるギルの懐に潜り込んでいた。

 

 

「ギギギギュギュッ!」

「グルルァ!?」

 

 

 ドゴン! と、砲弾を撃ち込んだような轟音と共に、ギルの顎が跳ね上がる。

 口を封じられた!

 だが、顎をカチ上げられたとなるとそれはそれで好都合だ。この勢いを利用すれば……と息巻くものの、次の瞬間、脳裏に複数の選択肢がよぎる。

 

 ① ストーンエッジ

 ② しっぺがえし

 ③ シャドークロー

 ④ ドラゴンテール

 ⑤ アイアンテール

 ⑥ げきりん

 ⑦ アクアテール――――

 

 

(長いよ!!)

 

 

 対処法は即座に思いついた。しかし、その量が尋常じゃない。そもそも一部は効果が無い。そこから派生して可能になる体術というのも無数に頭に思い浮かんでくる。

 だがそれは重要じゃない、むしろ思考の邪魔だ。より効果的……より効率的な行動を即座に絞り込まないと、次のミミ子の行動が……。

 

 

「『じゃれつく』!」

「あ」

 

 

 ――結局、思考は間に合わず。

 体高僅か20センチのミミ子の「じゃれつく」を受けて、ギルは仰向けにダウンすることとなった。

 

 

「そこまで!」

 

 

 ギルの背が地面についたと同時に、東雲さんの放った鋭い声でオレたちは動きを止めた。

 

 

「お疲れ様。大丈夫か?」

「グルルルル……」

 

 

 ギルの方に駆け寄ると、不満げな表情で喉を鳴らされた。まだやれる、と言いたいのだろう。

 個人的にもそれは同じだが、潜入一日前となると疲れを残させるわけにはいかないので、手でそれを制する。

 

 ……もっとも、見たところそれだけじゃなく、お腹の上で勝ち誇ったようにぴょんぴょん跳ねるミミ子にちょっと腹が立ってるのもあるんだろうけど。

 

 

「どうだった?」

 

 

 ミミ子を抱いて降ろしたヨウタが、そんなことを聞いてくる。

 オレは寝ころんだままのギルの頭を撫でながら、肩をすくめて応じた。

 

 

「反省点だらけだよ。いつもと勝手が違うのもあるけど」

 

 

 言いつつ、周囲を――やや窮屈に感じるバトルフィールドを見回す。

 これは、ヨウタに教えてもらってみんなで引いた、あっちの世界のリーグ公認のバトルフィールド……を再現して引いた線だ。

 本場のフィールドはもっと……例えば「じしん」のような、広範囲にわたって被害を及ぼしかねないような技に耐え、観客に被害が及ばないように設計されているとも聞くが、今オレたちの周りに引いてるのはただの線だ。当然、そんな効果なんて無い。

 

 で、この場合の「いつも」というのは、つまるところルール無用の殺し合いを指す。

 そんなもんがいつものことであってほしくない思いは強いが、残虐ファイトとトレーナー狙いの横行する現状がそれを許さない。まあ両方とも主にオレがやってるんだが……人質取ったりとか、ポケモンを持ってない弱者や、そもそもポケモンのいないこの世界を狙って侵攻して来てるあたり、あっちも大概ルール無用だからオレにできる手段で応じてるだけだし……。

 ……よし、言い訳タイム終了。話を戻そう。

 

 

「正直、一緒に前に出てる時の方がアタマが冴えてる」

 

 

 今回、訓練を行うにあたって一つ、ルールが追加されている。「アキラは線の内側に入って来ないこと」だ。

 最初は意味が分からなかったが、こうして模擬戦をしてみるとそうした理由が見えてくる。なるほど、単純な指揮能力を見ると、オレは大したことないかもしれない。

 腕組みしながら、オレたちの模擬戦を見守っていた東雲さんが口を開いた。

 

 

「極端に本番に強い、ということだろうか」

「……確かに……アクジキングと戦っていた時は、即断即決されていたようでした……」

「うん。最初の……ほら、ランスとの戦いの時も、もっと的確な判断ができてたと思うんだけど。今、どんな感じなの?」

「どんなって言われてもな。技の選択肢がバラッと湧いてきて、そこからまた更にどう行動するかの選択肢がバーって……」

「戦ってる時は?」

「別にんなこと無い。パッと思い浮かんだらすぐ動いて終わりだよ」

 

 

 問題はそこなんだ。

 今まではできてた。なのに今はできない。東雲さんの言う通り、単に極端に本番に強いと言うにしても、限度はある。

 技の範囲が増えて考えるのが遅くなった……とか、そういうのじゃない。オレも一緒に戦ってるって状況の方が、よっぽど取れる選択肢は多いんだ。

 

 

「判断力が鈍ってるのかな……」

「数日で鈍りすぎでしょ。いくらなんでも流石にそれは無いと思うよ」

「分からないぞ。若年性アルツハイマーとかもありうる」

「アキラちゃん今適当に言ったろ」

「適当じゃねーよ。オレだって自分の身体のこと、分かってないんだ。脳のことなんて特にだ。もしかしたらって可能性だってあるだろ」

 

 

 一度記憶のほとんどを無くしてるんだ。もしかしたらという可能性は否定できるものじゃない。

 もっとも、それならもっと明確に不調になってると思うけど。

 

 

「ゾーン入ってんじゃね?」

「ゾーン……?」

「マキシマムドライブ?」

「エターナルじゃねえよ」

「ゾーンだぞーん」

「「「「…………」」」」

「僕が悪かったからこっち見ないで……」

「……あの……スポーツ漫画などでよくある……」

「そそ、それ。超集中状態とも言われてる」

 

 

 どうやら、複雑……というわけではないにしろ、やや専門的な知識のようだ。オレと東雲さん、ヨウタはなかなかピンと来ていない。

 一方の朝木もやや確信には欠けるらしく、言葉にしていいものかどうかとしきりに首を傾げながら、少しずつ説明を始めた。

 

 

「極度の興奮状態や緊張状態に置かれると、アドレナリンとか、βエンドルフィンといった脳内物質が分泌されるんだ。一般には脳内麻薬とか言われてるけど……痛みを抑える機能があるんだから、似たようなもんか」

「それがどう関係してくるの、レイジさん?」

「説明長くなるけど」

「できれば結論だけ頼む」

「脳内物質の働きでリミッターが外れて脳も体も超パワーアップ」

「だいたい分かった」

 

 

 逆に言うと、オレはそういう状態に入らないとまともに戦えもしないのか。

 この体になって初めて知った新事実だ。もしかして素のオレって実は相当能力低いのでは? そう思っていると、どこか釈然としない様子で、朝木が口を開いた。

 

 

「でもそれだけじゃない気がするんだよなぁ」

「……や、それだけだろ?」

「いや違うんだよ。じゃなくってさ、なーんてーのかな……アキラちゃん、さっき無数に選択肢が湧いてくるとか言ってたじゃん? それ、具体的にどのくらい? 技範囲だけでいいんだけど」

「全部だよ」

「じぇんぶ」

「全部。言ってけばいいか?」

「言わなくていいです」

 

 

 ギルを例に出せば、今覚えてる技は全部言える。まあ五十種類以上全部言ってくのは、流石に時間がかかりすぎるし面倒か。

 

 

「ヨウタ君はどう?」

「いや、全部は無理だよ……普段主に使う技くらいで精いっぱい。だいたい……使える技全部のうちの、二、三十種類くらいじゃないかな」

「東雲君や小暮さんは?」

「……まだ、技の総数が、多くありませんので……一応、そちらは、全て覚えています……」

「俺はアサリナ君と同程度です」

「……ま、まあ、一人同じくらいできてる人がいるからちょっと比較はできねーけど」

「おい」

 

 

 ……こうしてよく聞いて考えると、小暮さん滅茶苦茶スペック高いんじゃないか?

 小暮さんの手持ちポケモン全員をレベル20と仮定して……全員分、約四十種前後の技を全部記憶してて、かつポケモンの力を借りながらとはいえ三階以上の高層建築によじ登れる……って、これ、東雲さんと同じくらいのものはお持ちでは……。

 いや、話を戻そう。

 

 

「ともかく、アキラちゃん記憶力と地頭はメチャ良いと思うんだよ。なんだけど経験が足りなくて使いこなせてないとかそんな感じじゃね?」

「あー……なるほど」

 

 

 なんと。オレはもしかして結構なハイスペックマン(強調)だったのか。

 ハイスペックマン(強調)であるならなるほどこの食い違いも納得と言えるかもしれない。

 そう、オレは本番と窮地にめっぽう強いハイスペックマン(強調)……即ち秘密兵器……!

 

 

「この顔すごくアホっぽくないかな?」

「ここまで知性を感じないのはスゲェな……」

「ぶちころがすぞキサマら」

 

 

 正直自覚が無いとは言えないが。

 ぼんやりしてる時のオレを見た時のばーちゃん曰く、「口を閉じなさい」。

 アホっぽいことは否めなかった。

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

 さて。

 その後も東雲さんや小暮さん、朝木も交えて指揮のトレーニングということで模擬戦を続けた。

 結果分かったのは、平時の指揮能力はヨウタ>小暮さん>東雲さん≧朝木>オレ、という序列だ。

 あまりにも雑すぎる自分にちょっと凹む。

 

 ともあれ集会所の方に戻ってきたオレたちだが、そこでまず耳にしたのは、普段のそれとは明らかに異なる喧騒だった。

 あちらこちらをレジスタンスのメンバーの人たちが走り回っているようだ。

 

 

「何かあったのかな?」

「聞いてみるか。すみませーん!」

 

 

 通りかかった人を呼び止めてみると、一瞬迷惑そうな顔を浮かべながらも、オレたちだということを確認するとすぐに表情を一変させた。

 

 

「皆さん! 帰ってたんですか!」

「何かあったんですか?」

「それが……実は、食料が食い荒らされてて」

「……また、誰かが潜入しに来た……と……?」

「ではないか、と」

 

 

 なるほど、それでこんな蜂の巣をつついたような騒ぎになってるわけか。

 四国の外から食料を運び入れることもできない現状だと食品の在庫管理も重要だし、またしても侵入者がいると言うのなら、またウルトラビーストを送り込まれるような可能性もある。なんとかしないとなぁ……。

 

 

「じゃあ、捜すか。小暮さん、メンバー全員集めてください。ヨウタは空から誰か外に出ていくヤツがいないか監視」

「オッケー」

「……海の方から、出ていく人がいるかもしれません……しずさんと、あの……マリ子さんを、配置した方が良いかと……」

「じゃあそうしましょう。朝木と東雲さんは周辺警戒お願いします。小暮さんは人集め終わったら食べ物がどうなってるか確認お願いします」

「了解した」

「……はい……」

「……さっきの模擬戦でのグダグダっぷりはどこ行ったんだか……いやマジで」

 

 

 朝木の言ってることは無視しつつ、それぞれ行動を開始する。

 と言っても、戻ってきたからにはレジスタンスのメンバー全員を集めてくるのは難しくない。

 その上で、リュオンと一緒に集会所内を回って他の人がいないかを確認。外に出ていくような人もいないことを確認した上で、一人一人の波動と人相を確認。ほんの一時間ほどで、イクスパンションスーツ着用者も、メタモンで変装してる人間もいないと、確認できた。

 

 

「……あれ?」

「何だ、誰も問題無いのか?」

「みたいです……」

 

 

 訝しげに、屈んでこちらに視線を合わせながら宇留賀さんが首をかしげる。

 もしもレインボーロケット団の連中が波動を封じる手段を作ってきたのだとしたら、もう打つ手は無いが……流石に文字通りのゼロ距離で封じる手立てがあるとはあまり思えないし思いたくない。

 たしか、明確に波動封じの技術があったのは漫画だっけ。「エアスラッシュ」で真空状態を作り出すことで波動の伝達を封じて……だったはず。だったらここでは使えないだろうし、多分問題無い、はず、なんだけど。

 

 

「……すみません……」

 

 

 と考えていると、集会所の奥の方からとてとてと歩いて小暮さんがやってきた。どうやら保管してある食料の状態を見てきてくれたらしい。

 

 

「どうでした?」

「ポケモンフーズと通常の食品と、両方が満遍なく食べられていました……判別は、難しいところですが……恐らく、ポケモンが入ってきたのかと……」

「判断材料を教えてくれ」

「はい……主には、食いちぎられた跡……です。いずれも同じように、口と牙のみを用いて、包装を破った形跡と唾液の跡が見られます……」

「ってことは、ポケモンが入り込んだ?」

「なるほど、だとするなら辻褄は合うが……」

 

 

 誰の目にも留まらない、波動も感じられない、そんなポケモンがいるものだろうか?

 それとも、ゴーストタイプのポケモンだったらそういうこともありうるだろうか。壁を抜けて夜な夜な忍び込む……例えばゴースとか。

 

 

「口の大きさは?」

「推定ですが……開いて3~4センチ前後。それほど大きなポケモンではないようです……」

 

 

 じゃあゴースという説はハズレ。他の小さいポケモンが入り込んでると見るべきだろう。

 ありうるとしたら、すぐに思い浮かぶのは……例えば、家屋に入り込む……タヌキ。ジグザグマやオタチなんかかな。どこかしらの隙間に入り込んでるとしたら、見つけられなくとも仕方ない。

 

 

「いかがされます……か?」

「野生ポケモンなら、環境が整ってる場所に行くまで放置するしかないと思いますけど」

「うむ……退治する必要が出てきたら、我々がやろう。君たちは明日のことがある。怪我をしたり、後ろを気にするような余地を残したくない」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 

 ふう、と軽く息を吐くと、空気が弛緩した。

 ったく、連日連日この調子だと気の休まる暇も無い。明日の工場襲撃が反撃の狼煙になればいいんだが……どうだろうなぁ。別にみんなが満遍なく強くなったとかそういうわけじゃないんだし、戦力を揃えてくにもまだまだ時間はかかるし。

 

 そういえばあの工場、秘密工場だけあってまず確実に幹部クラスはいると考えられるんだよな。

 いるとしたら誰だろう。立地的に、フレア団の科学者連中か、それともロケット団旗下の本隊科学班か?

 

 ……ま、気を揉んでも仕方ない。

 幹部だ科学者だの何だの言ってるが、人間であることには変わりないんだ。だったら、殴れば倒れる。それでいいじゃないか。

 単純(シンプル)に行こう。隠れて近づいて殴る。以上。これで解決。暴力でもってことに当たる相手に対しては、何事も暴力で解決するのが一番だ。

 

 

「じゃあ、明日は頑張ってきます!」

「祈っているだけの身で申し訳ないが、よろしく頼む」

「……何故だか今から不安がぬぐい切れないのですが……」

 

 

 ……多分その不安は当たると思うので、個人的にはその辺のフォローも含めてお願いしたいなって。

 

 

 







 次回、潜入(スネーク)編開始。
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