携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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 一部三人称です。




急転直下のすてみタックル

 

 

アキラ>ごはんなさい

アキラ>みつかやました

アキラ>ようとまうします

 

 

 ――その連絡を見た時、小暮ナナセは配管に掴まりながらも困惑した。

 送り主は白い拳鬼、レインボーロケット団から悪鬼羅刹・怪力乱神の異名を欲しいままにする刀祢アキラである。

 彼女が一時この場を離れて偵察に行く、と言って数分。周囲が騒がしくなってきた――と思ったら、コレである。騒ぎの原因が彼女であることは明白だ。

 大人しいナナセも流石に焦った。こんなことは一切予定に無い。それどころか、本来のアキラであれば絶対にやらないだろうという失態だ。グループチャットに流れてくる言葉も誤字だらけだ。

 

 

(……これは……ええと……「ご」の予測変換を誤って……「ごめんなさい」……フリック操作が上手くいかなくて、「みつかりました」……最後は……濁点を付けることができなかったのでしょうか……「ようどうします」……「陽動します」……)

 

 

 文章が崩れているため分かりづらいものの、内容そのものはごく平易なものだ。

 「敵に発見されたので、このまま陽動として動きます」――アキラの性格と能力を考えれば、妥当な判断だと言えるだろう。

 

 

「……しずさん」

「ク」

 

 

 状況は間違いなく悪化している。だが、悪化しているなら、悪化しているなりのやりようはある。

 ナナセはシズクモ(しずさん)に指示を送り、東雲から送られてくる情報をもとに自らも動き始めた。

 

 

(……恐らく……幹部はアキラさんへの対応に向かう……はず。となれば、まず先に警戒するのは……ヨウタくんになるはず……)

 

 

 アキラとヨウタの二人は、現状レインボーロケット団に対立している人間の中でも最高戦力と言える人間だ。

 片やこれまでの経歴とポケモンの能力のおかげで。片や極めて単純な身体能力のおかげで……と差異こそあるものの、脅威という意味ではどちらも変わらず脅威ではある。そんな二人が共に行動しているというのも、レインボーロケット団にとっては憂慮すべき事態だ。片方が現場に現れれば、もう片方も確実に近くにいる。今はいないにしても、いずれは現れるかもしれない。合流すれば、一方がもう一方の弱点を補ってより厄介になっていく。なら、合流させないためにも戦力を割かなければならない。

 

 そして重要なのは、注目されているのはアキラとヨウタの二人「だけ」という事実だ。

 レジスタンスは昨日今日ポケモンを手にしたばかりの有象無象だらけで、注目するような能力を披露してもいない。有体に言って、レインボーロケット団にとってナナセや東雲はノーマークなのだ。

 

 ナナセはこれをチャンスだと捉えた。

 そういう風に捉えざるを得なかった面もあるが、嘆いたところで何が変わるというものでもない。

 

 

(アキラさんの戦い方は、それほど丁寧では、ありません……工場設備の何割かは、確実に、壊れるはず……)

 

 

 あるいは全損か、それともわざわざ気を遣ってそれどころではなくなるか。

 いずれにせよ、どう転んでも問題が無いようにするためにも、工場のデータを確保するというのは急務だ。ナナセは、スマホを取り出してグループチャットへ接続した。

 

 

東雲ショウゴ>どうしますか?

ななせ>製品と製造機器のデータの回収に向かいます

ななせ>東雲さんはナビゲーションをお願いします

ななせ>アキラさんは戦闘を継続してください

ななせ>状況が状況ですので、周囲の被害は考えなくとも結構です

ななせ>とにかく勝つことを優先してください

 

 

 応答は無かったものの、「既読」が表示されると共にナナセは小さく頷いてそのまま前進を再開した。

 

 

 

 ●――●――●

 

 

 

「――――おい、どうするバショウ!? あのやべェ女、ほっといたら全部ぶち壊しやがるぞ!?」

 

 

 慌てた様子で管理室のゆったりとした椅子から腰を上げながら、レインボーロケット団特殊工作部員であるブソンはそんな不安を口にした。

 彼の眼下……工場の中では、片腕で白いポケモンを抱えながら文字通り縦横無尽に駆け回り、ポケモンと共に団員たちを殴り倒していく白い髪の少女の姿がある。

 どういった理由で彼女がやってきたのかは、今のところ誰にも分からない。だが、これ以前に少女の存在が確認された戦闘では、ほとんど確実と言っていいほどに幹部格のメンバーが戦闘不能、ないしは再起不能状態に陥っている。一度は彼女を重傷にまで追い込んではいるものの、それも一週間足らずで完全に回復している。

 

 

「下手な挑発です。放っておいた方が良いでしょう」

 

 

 そんなブソンを窘めたのは、彼にバショウと呼ばれた灰色の髪の優男だ。

 バショウは階下を見回すと、小さく溜息をついてアキラを見(くだ)した。

 

 

「人間の枠組みで考えれば怪物同然かもしれませんが、知能が伴っていると言えますか? 所詮はポケモンの一匹も存在していない程度の低い世界のメスオコリザルです」

「言うねえ。けど、そいつにやられた幹部連中は黙って無いんじゃないか?」

「手順さえ誤らなければ勝てる相手だったと――正直に申し上げますよ」

 

 

 バショウはそう嘯くと、手元のコンソールを操作して通信用のチャンネルを開いた。

 対象は、工場作業を監督していた複数人の下っ端たちだ。

 

 

「監督官へ通達します。民間人を(・・・・)殺しなさい(・・・・・)

『は! ……は!?』

「おいおい、貴重な労働力じゃないのか?」

「面白い冗談ですね。彼らに生贄以上の価値はありませんよ」

 

 

 驚きを口にする監督官を尻目に、バショウは冷徹に言葉を続ける。

 

 

「我々の世界では既に徹底した自動(オートメーション)化が進んでいます。彼らを働かせているのは、いわば見せしめ。我々に逆らえばこのような目に遭うのだと、分からせるための措置です。それと同じで――『やる時はやる』ということをはっきりさせるためにも、ここで殺します」

「それで、あのお姫様に守らせようってハラか」

「手傷の一つでも負ってくれれば儲けものと言う程度ですがね」

「バンギラスを出して守ってきたりはしないのか?」

「あちらとしては、我々の設備は出来る限り無傷で手に入れたいところでしょう。あれだけの設備を生み出すだけの技術力も無いでしょうからね。まず出さないと見ていい……何を呆けているのです。やりなさい」

『は……はっ!』

 

 

 無感情に言い放つバショウに小さくない畏怖を抱きながら、監督官のレインボーロケット団員は鋭く返事を返した。

 再びバショウたちが階下を見下ろせば、依然として目にも留まらないほどの速度で駆け回りながら、なんとかして民間人を避難させようと奮戦する少女の姿があった。

 

 

「窮屈そうなことだ」

 

 

 その戦いぶりを見て、バショウはどこか勿体なさを覚えた。

 周囲の機材に気を配り、人質を守って戦い方を制限する。民間人から見ればその戦い方は頼もしいと言えるのだろうが、これまでの戦闘データを分析して見る限り、彼女の本領というのはそこではない。

 

 

(本来なら、早期にバンギラスを出して全て巻き添えにするつもりで攻撃すれば、こちらも危うかった。しかし、そうはしなかった。倫理などというくだらないものに縛られている彼女が我々に勝てるはずもない)

 

 

 彼女は人知では計り知れないだけの能力があり、それによってポケモンの力を最大限に発揮できる。

 ならば、被害を考慮することなく最初から全力で攻撃を行っていれば、民間人の被害は避けられずとも、バショウとブソンの二人は確実に撃破できていたことだろう。

 既にこの一連の戦いは、この世界の人間とレインボーロケット団との戦争に近い。副次的被害(コラテラル・ダメージ)を許容できないなどという甘い考えでは、勝利など到底掴めはしない――バショウは、そう内心で嘲った。

 

 

「狙えぇーっ!」

 

 

 やがて、工場区画から声が上がった。

 ポケモンがいるとはいえ、監督官も無防備ではない。懲罰や見せしめ、示威行為の一環としてこちらの世界で強奪した拳銃を所持している。

 特別な訓練を積んでいないとはいえ、その数はそれなりに多い。四方八方から狙われ、かつポケモンと同時に攻撃を行えば、到底無事で済む者などいはしないだろう。

 

 わ、と悲鳴が上がる。

 絶大な混乱の最中、凶弾が民間人を貫かんと放たれた。

 

 

 ――――直後、少女はその辺の床材を引っぺがし、その人間離れした膂力で振り回すことで弾丸の全てを叩き落した。

 

 

「――――――」

「…………は?」

 

 

 到底ありえないはずのその行為に、ブソンが思わず声を上げ、バショウが閉口する。

 そんな馬鹿な、と言う間も、彼らには与えられなかった。勢いよく振り回された床材はそのまま宙を飛び、尋常ではない速度で下っ端たちの顔面や腹部を打ち据えて吹き飛ばす。そして直後、光が走った。少女がその全身から紫電を迸らせ、銃を手にした下っ端を狙って一人ひとり、殴り、蹴り倒していく。

 その最中、管理室を見上げる少女の雷光の如き眼光が、バショウを貫いた。

 

 

(――――見られた! マズい!)

 

 

 そう確信したのは、半ば本能的なものだったのだろう。ジャングルの中で丸腰の状態で猛獣(ポケモン)と出会ったような怖気(おぞけ)を感じたバショウは、腰のモンスターボールを急いで手に取った。

 そうして次の瞬間――少女は既に、そこにいた。

 

 バショウの思惑は正しい。少なくとも、アキラのような考え方の人間――正しいことに固執する彼女には、特に効果が大きいはずだった。

 しかし、それ故に彼女が「どれほど」常識の埒外にある存在であるかを測り違えていたと言える。

 

 

降りてこい(・・・・・)って言ったぞ」

「ッ――ハガネール!!」

 

 

 貫手によって強化ガラスを貫き、まるで張り付くようにして現れた彼女は、渾身の蹴りによって轟音と共にガラス窓を突き破る。空いた片手にはハイパーボールが握られ、既に室内へと投げ込む体勢が整っていた。

 それを視認すると、バショウは応じるようにして、即座に自身のモンスターボールを投げ放った。

 二つのボールが同時に光を放ち、その内に宿した巨獣を解き放つ。

 

 そして――――レインボーロケット団四国中央市製造工場の地下管理室は、崩壊を迎えた。

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

「くそッ!」

 

 

 途轍もないギルの巨体と、生態として元来巨大な体を持つハガネールとの激突の直後、その衝撃に耐えきれずに部屋は完全に崩壊した。

 落下していく瓦礫の上を跳び回り、周囲の様子を見回しながら状況を頭の中で組み立てる。

 割と完璧なタイミングの奇襲だったと思うんだが、これで対応してくるかよ。

 

 

「ハガネール、『かみくだく』攻撃!」

「ギル、『かえんほうしゃ』! 開けた口の中にぶち込め!」

 

 

 落下していく最中、攻撃のためにがばん、と開いた口の中へ、ギルの吐き出した火炎が放り込まれる。

 しかしハガネールに意に介した様子はなく、ジリジリという鉄板が熱されるような音を立てているにも関わらず、そのまま強引にギルを挟みこもうと口を閉じてきた!

 

 

「だったら――『ばかぢから』!!」

「ぬ……!?」

「グオオオアアアアアアアアアアッ!!」

「ギイイイイイイイイイイ!」

 

 

 そこで取った手は、その勢いを利用すること。閉じゆく口を上から勢いよく押さえつけ、ハガネールの上顎を下顎へと叩きつける一撃。

 自分自身の自慢の牙をそのまま利用してやったかたちだ。効かないはずはない。

 

 

「ええい……ブソン!」

「分かってる! 行け、エアームド!」

「エアッ!」

「!」

 

 

 そうしてる間にも、もう一人の敵……ブソンと呼ばれた男はどうやら奇襲の衝撃から持ち直したようで、自身のポケモンと思しきエアームドに乗って、灰色の髪の男と共に崩落から逃れて行った。

 オレはオレで、飛び移る瓦礫が無くなったのでそのまま機材の上へと着地する。と同時に、横からベベノムがふよふよと浮いてやってきた。

 

 

「ベノノ?」

「げっ……お前、まだいたのか!? 離れてろって言っただろ!」

「ベノ……? ベベノノ……?」

「だぁぁ、泣きそうな顔しないでくれよ!」

 

 

 ああもう調子狂うな、今戦闘中だぞ!?

 そもそもベベノムってもっとイタズラ好きで、遠慮なしに人に毒液ぶっかけてくるようなヤツじゃなかったっけ!? 何で初対面でいきなり懐いてんだよ!

 アニメでピカチュウの「10まんボルト」だかを見た時みたく、電磁発勁の光に反応してるのか? だとしてもあれだけの光量じゃなかっただろ。光ってるけど!

 

 ――それとも、もしかして初対面じゃない(・・・・・・・)のか?

 ベベノムはウルトラビースト、オレは「Fall」。あるいは、異世界ってのはこのベベノムがいた世界ってことも……。

 

 

「エアームド、『エアカッター』!」

「! ギル、『すなあらし』!」

「ガウッ!」

 

 

 一瞬反応が送れたものの、放たれた空気の刃は同じく空気の流れを操る技である「すなあらし」によってせき止められた。

 本当なら天候操作技なんだけど……いや、細かいこと言いっこ無しだ。そういう技なんだと覚えとけばいい。

 

 気になって視線を横に向けると、そろそろ民間人の人たちはこの場所からはいなくなりつつあるが……。

 

 

「エアームド、続けて『はがねのつばさ』!」

「ハガネール、『アイアンテール』!」

 

 

 くそ、まだ攻撃が激しい! まだこいつらに対処するしかないか……!

 

 

「ギル、止めてくれ! 『だいちのちから』! と……チャム、頼む! 『かえんほうしゃ』!」

「ガアアアアアアアゥ!!」

「シャモモモォッ!!」

 

 

 床下から突き出した岩が二匹の攻撃を押し留め、チャムの吐き出す火炎が二匹をジリジリと焼いていく。

 効果の有無はともかく、リュオンが民間人の誘導をしてくれている今は、まだあいつらを押し留める必要がある。とはいえ、ギルとの技にも力負けしないこの二匹相手にどう戦うか……!

 

 

「ベーノっ!」

「な、何ッ!?」

「あ、こら!」

 

 

 と、技と技同士が激突しているその最中、不意にベベノムが怒ったような顔で前方の二匹……エアームドとハガネールの方に攻撃を放った。紫色の光弾――「ベノムショック」だ。

 しかし、どくタイプの技ははがねタイプには効果が無い。そもそもベベノムはレベルアップでは「とどめばり」くらいしかどくタイプ以外の技は覚えられない。加勢してもらえるのはありがたいけど、今は意味が無い……!

 そう思った時だった。

 

 

「ガネェェ……!」

「何をしている、ハガネール! 押し返しなさい!」

「こいつは……!」

「……!?」

 

 

 ――ベベノムの技がチャムとギルの放つ技に加わり、ハガネールたちをより押し返している。

 不可解な現象に戸惑いが生まれ、小脇に抱えたベベノムへと視線が向かう。そこでようやく、ベベノムの身体から立ち上る赤い波動――いや、「オーラ」の存在に気付いた。

 

 

「これって……」

 

 

 もしかして……ウルトラホールから現れたウルトラビーストに特有の、能力値がアップするオーラか!

 だからこれ、一緒になって押し返せてる理屈は「技の威力」じゃなくって「噴射の勢い」ってことか!?

 思えば確かに、ゲームでもぬしポケモンといいウルトラビーストといい、妙に強かったが……そういう方向の強化アリかよそれ!

 

 

「おいバショウ、あのポケモン……いや、オーラを纏ってやがる。ありゃウルトラビーストだ!」

「あなたも気付きましたか、ブソン。しかもこれまでに見たことが無い……新種です。捕獲してサカキ様に献上しなくては……!」

 

 

 くそ、あっちも気付いたか!

 ウルトラビースト、ベベノム……やりようによっては色んな悪だくみに使われかねないポケモンだ。

 特にアーゴヨンに進化した時、その毒の砲撃の飛距離は一万メートルとも言われてる。どう考えても悪の組織に渡していいポケモンじゃあない!

 

 それに、初対面であるにも関わらずオレに何でか懐いてるこいつを、見捨てていくわけにはいかない。

 レインボーロケット団は潰すって決めてるんだ。元から渡す気なんてサラサラ無いけどな!

 

 

「させるわけないだろ! お前らにだけは渡さない!」

「ふん……全てのポケモンは、我らがレインボーロケット団のためにあるのですよ」

「それに、そいつはどうやら『野生』だ。『おや』でもないのに『渡さない』ってのは、傲慢じゃあねえか!」

「傲慢だろうが知ったことか! 渡さないって何度も言わせんな耳腐ってんのか!」

「顔の割に口の悪いお嬢ちゃんだ……!」

「侵略者に優しい口利いてやる義理なんざあるかよ!」

 

 

 改めて、その身を守るためにベベノムをしっかりと抱き寄せる。

 オレ個人にとしても、無くした記憶に繋がるかもしれない手がかりなんだ。絶対に、何があろうとヤツらにだけは渡せない!

 

 

「『誰か』が好きにしていいものなんて、この世に一つだって無いんだ。そんな子供でも分かる理屈が分からないってんなら、骨身に沁みるまで叩き込んでやる!」

 

 

 









 アニメオリジナルキャラ等の紹介

・バショウとブソン
 テレビスペシャル「ポケットモンスタークリスタル ライコウ雷の伝説」にて登場。ロケット団特殊工作部に在籍。クリスタルシステムを実際にアニメで運用していたのはこの二人。
 名前の由来は松尾芭蕉と与謝蕪村と思われる。どちらも結構な実力者で、最終進化ポケモンを相手に2対3、という数的不利の状況でも押し返してたし、ライコウがいなかったら普通に勝っていた。
 アニメロケット団にあるまじきガチさのため、彼らについては賛否両論の声がある。アニメにはこれ以降登場していないようだが、彼らの上司は後の映画「マナフィ」でレックウザを捕獲していた。

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