携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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じだんだ踏むほど物分かりは悪くなく

 

「正座」

「はい」

 

 

 戦いを終えて、オレたちがまず始めたのは本日の反省会だった。

 出席者は、左腕と顔半分が包帯でぐるぐる巻きになったオレと、ヨウタと小暮さん。それとオレの腕にベベノム。場所は工場付近のテント。

 東雲さんは今回救出した人たちを安全な場所に誘導する手伝い。朝木はそれについていって、健康状態に問題が無いかのチェックと治療ということになっている。

 

 その一方でオレは地べたに正座である。

 オレ、一応今回の功労者兼怪我人ってことになってると思うんだけれども。

 

 

「……釈明を……聞きたいと、思います」

「……何があったのか、聞いていい?」

「Q(急に)B(ベベノムが)K(来たので)」

「僕をおちょくってるのか」

「違うって! 工場の中覗いてたら、本当に急に出てきたんだよ!」

「アキラのことだから、どこかで拾ったけどボールが無かったから言い出せなかったって線もありうると思うよ僕は。そんなに懐いてるし」

「……先日の食料の件も、それで辻褄は合います……から」

「ホントに知らないです……」

 

 

 はっきり言って完全に初対面だ。あの場面で邪魔された分むしろ印象としてはマイナスとすら言えるだろう。

 小さな疎ましさを隠しきれずにベベノムにやや鋭さを持った視線を向けると、彼(?)はひどくショックを受けたように目に涙を溜めた。

 

 

「あっ、泣かせた」

「ひどい……」

「えっこれオレが悪い流れ……?」

 

 

 悪いのか。悪いんだろうな。ばーちゃんも言ってた。「子供を泣かせたら泣かせた人が一番悪い。そういうものよ」って。

 子供は感情で動く生き物だ。ベベノムもアーゴヨンの幼生という生態である以上、子供と言っても差し支えない……だろう、多分。だったら邪険にしたオレも悪い。そういうことだろう。

 

 ともかく、ベベノムに謝って機嫌を取りながら話を続ける。

 

 

「ていうか小暮さん、直前まで一緒にいたんだから状況は知ってるじゃないですか!」

「……索敵を行っていたのは……アキラさん、ですよね……? 気付けなかったのは……どういう……」

「リュオンはあくまで『悪意』を感じ取っていたので……」

「ベノ~」

「……こういう、悪意がまるで無い相手は、ちょっと……」

 

 

 頭をオレのお腹にこすりつけてくるベベノム。当たり前みたいな顔して懐いてきてるけどキミ、ギルとかと違ってそれに足るバックボーンとか無い……はず、だよな?

 ……いや、それを確かめるために何としてでも連れて帰ろう、ってことで連れて帰ってきたんだけど。なんというかその、それはそれとして困る。

 

 

「じゃあそれはそれで置いといて」

「はい」

「何であれだけ壊したのか聞かせてほしいんだけど」

「Q(急に)B(ベトベトンが)K(来たので)」

「喧嘩売ってるのか!?」

「ヨ……ヨウタくん……抑えて……」

 

 

 これほぼマジな話なんですけど!

 

 エアームドと戦ってる時までは、まだオレだって多少は遠慮というか躊躇というか……機材を気に掛ける余裕は多少あった。

 けど流石にベトベトンが出てきて、ハガネールと連携して民間人を襲いだしたんだから、どっちかを速攻で沈めるために他のことを気にかける余裕が無かったんだ……ということを説明すると、二人とも肯定とも否定ともつかない表情をしてみせた。

 

 なんせ状況が状況だ。民間人の保護は優先しておきたいというのはみんなの共通認識としてあるだろう。

 ヨウタなら機材をなるべく傷つけずに戦えるかもしれないが、そもそも潜入ができるかというとまた別問題になってくる。

 というか当初の予定だとバトルなんてなるべくせずに、工場の責任者――バショウとブソンを闇討ちしてしまおう、という段取りだったんだ。どこをどうしたらこんなにも予定(チャート)が狂ってしまうのか。これが分からない。

 

 

「じゃあそこは百歩譲っていいとして」

「はい」

「この怪我は?」

「……ベトベトンの攻撃の囮になって」

「それでよくその程度で済んだね!?」

 

 

 あれ。怒られるよりも先に驚いて心配された。

 小暮さんは完全に呆れてるみたいだけど。

 

 

「普通は?」

「最悪死ぬね。悪くいけば失明と腕の切断。良くても即入院だよ。アキラはちょっと頭の病院に行った方がいいかもしれないけど」

 

 

 半年通院してコレだが?

 ……なんて煽ることはせず、今は黙っておいた。オレも大概自分の行動がおかしいのはわかってるし……。

 

 

「それにしたってちょっと頑丈過ぎない? いくらアキラでも、あんな毒の塊に接触したんなら高熱くらい出てもおかしくないと思うんだけど」

「対策はしてたんだよ。ホラ、波動」

「波動」

「……リュオンさんの……?」

「それです。出会って手持ちに入ってもらってからずっと訓練してたんだ。で、今日ようやく使えるようになって」

 

 

 言って、右腕で波動の蒼い雷を披露する。

 ヨウタも小暮さんも、「うわぁ、こいつまた人間から遠ざかったなあ……」なんて遠い目をしていた。

 オレだってそう思う。誰だってそう思う。

 

 対照的に、ベベノムはその雷光を目にしてキャッキャとはしゃいでいるようだった。キミ神経太いな。

 

 ともかく。

 

 

「これで全身保護してたからなんとかなったってコト」

 

 

 多分、二日もあれば治るだろう。前の時みたく行動不能になるまでボコボコになってたわけでもないし。

 が、当然にと言うか、ヨウタは納得いってない表情だ。

 

 

「だからってトレーナーが前に出て自分からケガしに行くなんて、大バカもいいところだよ。何のためにポケモンたちがいると思ってるのさ」

「ポケモンたちは、レインボーロケット団を倒したいってオレのわがままに付き合ってくれてるだけじゃないか。本当なら傷つく必要だって無いのに、代わりに傷ついてもらうってんじゃ筋が通らないだろ」

「アキラはポケモンより遥かに弱いだろ」

「うぐ」

「役割分担なんだよ。ポケモンたちが前に出る。僕らトレーナーは指示を出す。そうして『一緒に戦ってる』んだ。それができないって言うんじゃよっぽど道理が通らないよ」

「けど、オレがやった方が早い部分もあるし、何より連戦になったらってこと考えたら……」

「多少は気に掛けるべきかもしれないけど、アキラが怪我して指示できなくなったらそれこそ勝てないじゃないか。それじゃあまるで、ポケモンたちのことを信頼してないみたいだ」

 

 

 ――――オレが?

 ポケモンを、信頼してない?

 

 

「そんなわけないだろ! ふざけるなよ!」

「何だよ急に! トレーナーとして客観的な事実を言っただけじゃないか!」

「オレは……そういうつもりなんて無い! そんなこと、絶対……!」

「でも、だったら一方的に守ろうとなんてしないじゃないか! 自分『だけ』が傷つけばいいなんて傲慢だよ!」

「……ヨウタくん、アキラさん。一度……落ち着きましょう」

「でも……! ……はい」

「………………」

 

 

 違う、と言いたい。けど、はっきりと否定できるのか?

 今までの状況から、自分の言動から――もしかして、自分が気付いていないだけで。

 全幅の信頼と親愛を向けてきたつもりだった。けど、それは伝わっていたのか? いや、それとも、仮に伝わっていたとしても、本当の意味でちゃんとした愛情を注げていたのか……?

 

 オレは。

 わたし(・・・)は。

 

 

「……少し、整理しましょう」

 

 

 と。心の奥底に深く沈み込みかけた思考を、澄んだ声が呼び戻す。

 小暮さんはこちらに向かってピンと指を立てて言葉を続けた。

 

 

「……ヨウタくんは……ポケモンのことを、どう思っていますか……? その、手持ちの」

「友達で、相棒(パートナー)です」

 

 

 ヨウタは、一切淀みなくそう言い切った。

 オレも、同じように言えるだろうか。自分のポケモンたちの目を見て、強く、はっきりと――。

 

 ……無理だ。

 違う。違う。何かが――違う。部分的には違わない。友達、かもしれない。パートナー、かもれない。けれど何かが違う。どこかが違う。根本的な部分が、少し、違う。

 

 

「……アキラさんは?」

「…………しっかり、固まってるわけじゃない、です。けど」

 

 

 信頼はしてる。親愛も注いでる。けど、オレの思ってるそれは……みんなに対して抱いている感情は。

 失いたくない。傷ついてほしくないと願う心の源泉は――――。

 

 

「――家族、だと……思いたい」

 

 

 徐々に言葉が尻すぼみになっていくのが、自分でも分かる。

 けどこれ以外に表現することばが思い浮かばないんだ。時間の積み重ねが無いことは分かる。だってまだ皆、出会って十日も経ってないんだ。それなのにこんなことを言いだすのは、いっそ愚かしいとすら思える。

 けど、オレにとって――損得勘定抜きの全幅の信頼と無償の愛情を注げる相手というのは、その言葉以外に思い浮かばない。

 

 

「……記憶、無くしてからばーちゃんしか頼れる人いなくて……でも、ポケモンたちはそういう引け目とか体質とか関係なく接してくれて、信じられる相手だから……」

「……えっ……と」

「…………」

 

 

 ヨウタと小暮さんは、二人して押し黙っていた。

 想定外の答えだったらしく、特に小暮さんは何やらフリーズしていた。目が「え、これ聞いていい話ですか?」と痛切に訴えかけている。

 しまった。小暮さんに詳しいこと話してない。

 

 一方のヨウタには何とか思いが伝わってくれたのか、気を取り直したように顔を上げた。

 

 

「――ごめん、僕も言い過ぎた」

「いや、いい……オレも、無鉄砲だったのは分かってる」

「そうだね。……ポケモンのことを想ってるのは良いことだと思う。けど、アキラがポケモンたちのことが好きなように、ポケモンだってアキラのことが好きなんじゃないかな」

 

 

 オレ、だけじゃなくて。

 

 

「傷ついてほしくないっていうのは、お互いに一緒だよ。戦いになる以上怪我は避けられないけど……トレーナーが怪我して動けなくなったり、喋れなくなったり……死んじゃったりしたら、ポケモンたちも怪我どころじゃ済まないと思うんだ。それは、忘れないで」

「……ん」

「……あ、え、えっと……そ、そういうことですね……」

 

 

 あ、小暮さん復活した。

 ……ま、まあどうあれ、これで今回の反省点はある程度洗い出せたと言ってもいい、かな?

 うん。次は気をつけよう。何をするにしても。

 

 

「……あ、そ、そうだ。レイジさんが、まだ応急処置だけしかしてないから精密検査に来てくれって」

「あ、ああ。じゃあ、うん。行ってくる」

 

 

 正直、大した症状が出てるとも思えないけど、朝木以外にも医療関係者はいるそうだし……やらないよりいいか。前からの怪我、本当の意味でちゃんと治ってるかも分からないし。

 オレは二人に軽く手を振って、治療や検査をしているという一角へと歩いて向かった。

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

 精密検査の結果、特に異常は確認されなかった。

 骨密度や筋肉量などなど、別の意味で異常な数値は確認されたがそれはそれとして置いといて、ともかく精々微熱とちょっとした頭痛程度しか異常は見られなかった。

 

 その後やったことはと言えば、基本的に地下工場のガレキの撤去だ。

 機材も床も壁も何もかも破壊してしまうほどの戦闘ではあったものの、元々の目的はこの工場からアイテムを回収することだ。壊れず残ったアイテムも少なくはないだろうということで、人間ポケモン問わず動ける者を総動員してガレキを掘り起こしていったのだった。

 

 結果、モンスターボールも薬品も結構な数を入手することに成功した。とはいえ、レジスタンスは非戦闘員含めても百人近くが所属する大規模組織である。

 戦わない人でも自衛や作業の補助、時によっては単に仲良くなったということで手持ちポケモンを増やしていく人もいるため、オレたちの方で何個も何個も持っていくわけにはいかない。

 

 というわけで、確保できたのは一人当たり三つほど。レジスタンスの方で製造データを確保したという事情もあってできる限りこっちに回してはくれたみたいだ。

 製造機器に関しても、あの場にあったものだけが全部じゃあない。メンテナンスや突然修理が必要になった時のためなどと思われる予備パーツが、別室で発見された。ある程度は新造しなければいけないものの、それでもこれまでと比べれば雲泥の差だという。

 

 怪我人は、車で十分ほどの位置にある診療所までとりあえず運んでいる。一応本職の医療関係者や介護・看護関係の職員の方もいるらしいので、基本的にはそちら任せだ。落ち着いたら、動かせるなら安全そうな場所に一旦移動するようには頼んである。

 怪我は負っていないという人も多いが、そちらはそちらでレジスタンスに合流するともどうするとも決められないとのこと。先に挙げた怪我人の人たちと同じように安全そうな場所に逃げておくという人もいれば、一旦レジスタンスに同行してこの場所を離れるという人もいた。こちらは、工場近くに設けたテントで過ごしてもらっている。

 

 で。

 それから休みを挟んでしばらく経って、再び深夜。作業は明日も続くが、今度は工場付近に停めたトラックの方に集まって作戦会議だ。

 

 

「一応、次のレジスタンス本拠地には伊予市を推薦しといた」

 

 

 現状のレジスタンスは根無し草だ。元は香川、今は四国中央。必要に応じて大人数で各地を転々としているが、アイテムを製造するとなったらちゃんと腰を落ち着けられる場所が必要になる。

 そういうわけで、今後とも協力関係を築くならということで、オレは宇留賀さんの方にそう言っておいたのだった。

 というのを聞いて、朝木はわずかに顔をしかめる。

 

 

「また伊予かよ。アキラちゃん地元だからって贔屓しすぎてねえ?」

「そういう部分があるのは否定しないけど、別にそれだけじゃない。自衛隊の人たちにもあっちに行ってもらうように伝えてるし……戦力は、できるだけ合流させといた方がいいだろ?」

「加えて重鉄鋼業の分野での作業が必要になる事態です。協力者はできるだけ多い方がよいでしょう」

「まあ、言われてみりゃそうか……」

「……加えて、地元ということで……アキラさんのおばあ様の伝手を辿ることができるようで……工業関係の方の協力も、期待できます……」

「そっか。……何で当然のように小暮ちゃんいんの?」

「ウルガさんが連絡役に連れて行ってほしいって」

「ほーん」

 

 

 半分は……お目付け役の意味合いもあるだろうな。オレたち――というか特にオレだけど――監視してなければ何をしでかすか分からないだろうし、何かあってから対応するんじゃ遅い。工場潜入の時の土壇場の対応力を見れば、適任ではあると思う。

 あと、性別的な兼ね合いもあるかな。オレたち今のところ、(肉体的には)男3に対して女1という構成だし、気を遣った部分はありそうだ。

 

 

「じゃあそっちはいいとして……どういう経路で……ナルト? だっけ? に行こうか?」

「たしか高松はフレア団が牛耳ってんだろ。つったってあっちを経由しないと讃岐山脈と剣山の間を抜けてかないといけなくなる」

「……丸亀から主要道路を避けて……讃岐山脈の方に抜けて、山脈沿いに東かがわを経由、そこから鳴門市へ……という経路は、いかがでしょうか」

「それならば、観音寺市手前から県境沿いに山中を行くべきでは?」

「いえ……それですと……天候によっては進めなくなりますので……そろそろ梅雨も近いことですし、避けた方がよいかと……」

酷道(こくどう)険道(けんどう)死道(しどう)だからな……無理だわ」

 

 

 まあ、大雨でも降り出すとそれこそ土砂崩れとか起きかねないしな。

 トラックも相当重量があるし、ちょっと運転ミスったらみんなまとめて……いや、オレは無事か。じゃなくても四人はほぼほぼ確実に死人が出るからマズいだろう。

 見つかりにくいのは確かだけど、それはレインボーロケット団側も迂闊に山に入れないからだ。割と真面目な話、普通にしてたって事故の確率は低くないのに、ポケモンたちまで突然飛び出すようになってしまった現在、山道を行くのは分の悪い賭けなんてもんじゃない。自殺行為そのものだ。

 

 

「……まあ、ここ何年か梅雨なのに雨降らないこと多いですけど」

「……今年は……そうじゃないということもありますし……」

「ですよね」

「まあ、そこは安全策でいいんじゃないかな。幹部級までなら対処できるだろうし」

「ただ、ダークトリニティと戦った時のこと考えるとな……」

「あの人たちはアキラと同レベルの達人だしそう簡単に出てこないでしょ」

「逆だろ。あいつらあの場できっちり倒せたわけじゃないんだし、オレたちも最優先目標だろ? いつまた襲ってきてもおかしくないぞ」

「そうかな……そうかも……」

 

 

 あいつらほぼほぼニンジャだし、絶対執念深いぞ。

 今となったらある程度以上に戦える自信はあるが……あの連中はなぁ……何してくるかって部分ではとっくにネタは割れてるけど、じゃあ対処できるかって言うと別問題だからな……。

 

 

「……先に対策を立てておきましょう……その、ダークトリニティという方々は……」

「逃げの一手がいいと思いますけど。囲まれたら多分誰か死にますし」

「え、守ってくれない系……?」

「三人相手とキリキザン三体、場合によってはここにコマタナが加わるんだ。流石に守れない」

「あ、守ってはくれる系……」

「では……」

「その時は僕とアキラでなんとか。倒せるなら倒しますけど」

「あいつら逃がさずになんとかなるか……?」

「そこは作戦で……」

 

 

 作戦か……作戦か。

 オレどうせ戦うくらいしかできないだろうし、敵倒すことだけ考えて丸投げしとこ。

 

 

「『丸投げしとこ』とか考えてるでしょ」

「丸投げする」

 

 

 ばーちゃんは言っていた。「下手の考え休むに似たり」。

 同じ休むなら精神的な部分も休めた方がいいだろう。

 当然の如く、みんな微妙な表情をして見せた。

 ごめんなさい。

 

 

「今回の一件は不測の事態が連鎖してしまったために起きた不幸な事故です。刀祢さんも、弁えないということは……恐らく、無いでしょう」

「無いです」

「ホントかよ」

「ほんとです」

「ホントにホントぉ?」

「ホントだっつってんだろやれベノン」

「ベノッ」

「眼がッッ!!」

「ベノノッ♪」

「何してんの!? ていうか手持ちにしたの!?」

「手持ちにした。懐いてるし」

 

 

 オレの手元で、ベベノム――ベノンはいたずらに成功したからか、けらけらと笑い声をあげた。

 ベベノムは種族単位でイタズラ好きな性格だ。攻撃用のそれと使い分けるような形で専用の毒を体内で分泌することができるらしく、今回使ったものはちょっと刺激がある水という程度の、毒性は無いものだった。

 

 

「あと、どこかで無くした記憶に繋がってる……かもしれない」

「うぐ、ぐお……べ、ベベノムが? それってことはつまりアキラちゃん、キミ、ベベノムのいた世界に行ったことがあるってことにならん?」

「……まあなるだろそりゃ。どんな問題が?」

「っつーことはそれ、あー……アニメで言えばなんかよく分からん世界で……ゲーム基準ならウルトラメガロポリスってことになるな。確かどっ――――」

 

 

 ――その瞬間だった。

 何かが弾け飛ぶような轟音と共に、トラックの荷台を強烈な突風が駆け抜ける。身体ごと吹き飛ばされそうなその威力に一瞬瞠目しつつも、心のスイッチは一瞬で切り替わった。

 

 

「敵襲……!?」

「戻れべノン! リュオン!」

「リオッ!」

「先に行って何があったか確認する!」

「分かっ……もう行ってる――――!?」

 

 

 緊急事態だ。ただのボヤ、あるいはガス爆発ということもありうるが、いずれにせよ時間をかけてはいられない。

 焦燥にかられながらも、波動の稲妻を放出。リュオンと共に音のした方向……工場近くに設けた難民テントの方へ超速で駆け抜ける。

 

 だが。

 

 

(――――ッ)

 

 

 波動を扱えるようになった影響か、頭に無数の感情が流れ込んでくる。

 苦しみ、痛み、悲しみ、怨み。マイナスの感情が渦巻くその中で、唯一異なる感情の波動を感じ取る。

 好奇心と……嗜虐心。複数の欲望がない交ぜになったような――紛れも無い「悪意」だ。

 

 走る。走る。走る……そうしてたどり着いた先で目にしたのは。

 

 

「フフヒヒヒャヒャヒャヒャ! 燃やせ燃やせヒードラン! 焼き尽くしてしまえ!」

 

 

 ――――浮遊する機械に乗った老人が、臨時テントを設置していた土地をポケモンに命じて焦土に変えている光景だった。

 

 

 








現在の手持ちポケモン


◆刀祢アキラ
チュリ(バチュル♀):Lv34
チャム(バシャーモ♂):Lv40
リュオン(ルカリオ♀):Lv38
ギル(バンギラス♂):Lv64
ベノン(ベベノム):Lv19

◆アサリナ・ヨウタ
ライ太(ハッサム♂):Lv77
モク太(ジュナイパー♂):Lv76
ワン太(ルガルガン♂):Lv75【たそがれのすがた】
ラー子(フライゴン♀):Lv72
ミミ子(ミミッキュ♀):Lv71
マリ子(マリルリ♀):Lv48
ほしぐも(コスモウム):Lv70

◆朝木レイジ
ズバット♂:Lv16
ニューラ♀:Lv20
ツタージャ♂:Lv17

◆東雲ショウゴ
カメール♂:Lv28
ワシボン♂:Lv26
クヌギダマ♀:Lv27

◆小暮ナナセ
あぶさん(アブソル♀):Lv31
しずさん(シズクモ♂):Lv26
まぐさん(マグマラシ♂):Lv29
もんさん(モンメン♀):Lv22

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