携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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 三人称視点です。




げきりんに触れた者

 

 

 

 結局のところ、アケビに救出に行かない、という選択肢は残されていなかった。

 皮肉なことに、それはフレア団という組織内の「和」こそが原因である。

 

 ――このような非道を許しておけるか!

 ――野蛮な原住民に裁きの鉄槌を!

 ――我らの同胞を見捨ててはおけない!

 

 ――粛清せよ!

 ――粛清せよ!

 ――粛清せよ!

 

 と。

 「同志」を傷つけられた彼らの反応は、実に顕著だった。

 入団のために高い金を支払い、「最終兵器」による世界規模の粛清を超えた彼らフレア団員の結束は、固い。それは強く、大きな共通点――「自分たちは指導者(フラダリさま)によって選ばれた者なのだ」という選民思想に由来するものだ。

 先鋭化した思想は、自分たちの存在をこそ至上のものとして位置付ける。彼らにとっての他人とは常に見下されるべき者であり、立ち向かってくる敵は神に逆らう背教者の如き罪人……殺されるべき(・・・・・・)人種の悪人だ。

 

 香川のレジスタンスも、フレア団の――フラダリの――圧倒的な戦力によって、文字通りに塵と化した。

 故に、誰一人としてこの暴走めいた進撃を止めることは無かった。自分たちが負けるはずは無い、と確信していたからだ。

 

 

 ――かくして、彼らは「何」が待ち受けているのかも知らず、廃工場へとたどり着く。

 

 

 開け放された扉をくぐって突入した彼らがまず目にしたものは、腕を断ち切られ、乱雑な処置で止血され、なんとか「生かされている」状態のフレア団員の姿だった。

 しかし、敵の姿はそこには無い。疑問から周囲を見回す。とその直後、入り口の鉄扉が大きな音を立てて閉じた。人気も無いと言うのに、それが閉じた理由は――ポケモンだ。一切気配を感じさせずに彼らの背後に立ったそのポケモンは、ルカリオ。自らの波動を遮断することで外部に一切気配を漏らさないその隠密性は、アケビにこの状況が罠であることを確信させる。

 

 

()・チーム!」

了解(ダコー)!」

 

 

 当然、そのことはアケビも既に承知していた。呼び出された時点で「そう」なることは、むしろ自然、廃工場などという場所ともなれば、それは九分九厘罠が待ち受けていることだろう。

 故にアケビは、その対策チームを備えていた。数匹のコダックと、そこに混ざるようにゴルダックが現れて「しめりけ」を発する。およそ現状において完璧と言ってもいい「じばく」「だいばくはつ」対策だ。

 更に複数匹のポケモンが現れてその場に複数の影響を及ぼす。シュシュプが「アロマベール」による精神感応系の技を封じ、ペロッパフが「スイートベール」で「ねむり」状態を封じる。加えて「ひらいしん」を持つサイホーンがかみなりタイプの技を、「よびみず」を持つケイコウオ、ネオラントがみずタイプの技をそれぞれ封印する。

 

 盤石の備えだ。加えて、アケビの部隊は百人を超える大所帯。レジスタンス程度の集団であれば即座に押し潰すことができるだけの戦力は備わっていた。

 

 

「――雁首揃えてゾロゾロと。一人で来るのが随分と心細かったようだな? フレア団」

 

 

 そして、鈴の鳴るような声が「上」から降ってきた。

 つられて彼らが上を見れば、剥き出しの梁の上に一人、少女が座っているのが見える。

 月の光を思わせるような光を帯びた白髪。血を落としたような赤い瞳。全身に巻かれた包帯が、彼女の経た激戦の様子を否応なく思い浮かべさせる。その姿は紛れもなく、レインボーロケット団最大目標の一人……。

 

 

「白い少女……!?」

 

 

 彼らには、彼女がこの場に現れる理由が一切読めなかった。

 ありえない、どころの話ではない。彼女が行動を共にするアサリナ・ヨウタは今現在丸亀市で活動を行っている。

 その事実を踏まえて考えるなら、本来はここでヨウタたちが包囲網を敷いているべきだが――この場には彼女以外の人間がいるような様子はない。単独でこの場にやってきたとするなら、あるいは彼女を捕縛する大きなチャンスと言えるだろう。

 

 だからこそ理解できない。彼女は何故、このような場面で現れたのか?

 

 

「話があるんだ」

「話……? 何を言っているのかしら」

「何を、も何も。ただ聞いてみたいだけなんだ。『お前たちは、何で人を殺すんだ?』って」

 

 

 少女の目からは、一切の感情が失せて消えていた。その表情からもまた、感情はうかがえない。

 それ故に、アケビにはあのような手紙を書いて寄越すような人間には見えなかった。

 

 

「『何で人を殺す』……?」

 

 

 そしてアケビには、一瞬その言葉の意図が理解できなかった。

 

 

「ああ、あなたたちにとってこの世界の人間は『人間』なのね」

「何が言いたい?」

「アハハ! 私たちにとって、あなたたちは人間ですらない。何で人を殺すかって? 害虫がいたら、駆除するものでしょ。貴女、頭が悪いの?」

「そうか」

 

 

 レインボーロケット団……と言うよりも、フレア団員にとってみれば、いずれも変わらない。自分たち以外は、全て塵芥と同じものだ。

 この世界の住人は全て自分たちよりも劣る存在であり、排斥されて然るべき存在であり、弓引いたその時点で全ては罪人である――と。

 

 その言葉に対して少女が返したのは、あまりにも素っ気ない、感情の乗らない一言だった。

 その反応は、ともすると聞いているアケビからすれば不可解にすら映るものだ。他の人間、例えばレジスタンスなどであれば、こういった言葉に強く反応して怒りを露にしたものだ。こうも無反応だと、もしや彼女は自分たちに同調を示しているのでは――と感じるほどに情動が感じ取れない。

 

 

「この世界の人間がフラダリ様の望む『善き人間』であるならば、最初からこの地を我々に明け渡していたはずだ」

「ここは争いの無い美しい世界ではなかった。力と兵器が支配する薄汚れた世界だ!」

「殺されても仕方がない、いや殺されるべきだ!」

「――――……」

 

 

 言葉の渦の中で、少女は無感情に宙に視線を移す。

 ボールホルダーから取ったモンスターボールを中のポケモンと視線を交わすように目線の高さに掲げると、しばらく自身の感情と向き合うように目を瞑った。

 そうして数秒か、あるいは数瞬ほどのごく短い時間か……焦れたアケビは、嘆息して少女に声を投げた。

 

 

「それで、つまらない問答はそれで終わり? こちらも忙しいのよ」

「…………ああ」

 

 

 たっぷりと間を置いて、少女が返す。

 アケビの言葉を肯定も否定もしない、無感情な言葉。アケビはその反応に持論の正当性を確信し――――。

 

 

「終わりだ」

 

 

 直後、炸裂(・・)した殺意の渦に身を凍らせた。

 違う、と彼らが理解したのはその時だ。

 

 ――ああ、私たちは、何を悠長に観察などしていたのか。

 

 「あれ」は何も感じていなかったのではない。全ての感情を内側に溜め込んでいただけだ。その内面はおよそただの人間が溜め込み続けるには余りあるほどに荒れ狂い、殺意と憎悪が彼女自身の身をも焦がしていた。

 片目を伝う涙が、その瞳の色を映して血に染まる。

 

 

「少しでも、お前たちに人間の心を期待した()が愚かだった」

 

 

 彼女がてをかけた、鉄骨で造られた梁が悲鳴を上げる。

 それほどまでに凄まじい力がかけられているという事実に、フレア団員の中から小さく悲鳴が上がる。

 

 

「『もしかしたら』なんてものは、無かった。お前たちは、命という命を冒涜している存在だ」

 

 

 およそ、年頃の少女の放つ声ではなかった。血を吐くような声音に、自然と気圧される者が現れる。

 

 

「お前たちは、崇高な存在なんかじゃない。命という命を足蹴にして悦に入っている、ほかから奪うしか能の無い薄汚れた寄生虫だ。この世に存在してていい生き物じゃない」

 

 

 殺意が膨れ上がる。やがて、それに呼応するように外から咆哮が放たれ、工場を揺らす。

 そして。

 

 

「――だから、私が殺す。皆殺しだ。一人たりとも逃がすものか」

「!!?」

 

 

 少女の周囲をくりぬくようにして、天井が、鉄骨が、建材が音を立てて崩れ落ちた。

 およそ人間が耐えうるものではない超重量が襲い来る。

 

 

「まずい、()・チー……」

「『じしん』」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

 轟くような咆哮に合わせ、彼らの道行きを阻むように凄まじい衝撃が周囲を襲う。嘘だろ、と下っ端の一人が呟いた。

 ――あの少女は、本気で殺すつもりだ!

 

 

「くっ!!」

「潰れて死ね」

「ッ、パンプジン、クリムガン、グラエナッ!」

 

 

 あるいは、そこでわずかなりとも反応できたのは、アケビのトレーナーとしての直感ゆえのものであろうか。

 他の者が動き出すのに先んじてボールから出された三匹のうち、パンプジンが無数に張り巡らせるツタと「ヤドリギ」によってガレキを押し留める。更にそこへクリムガンが「はかいこうせん」を発射。押しとどめたそれらを砕き、グラエナの爪が切り刻んで、フレア団員の命に支障がない程度にまで細切れに変えてのけた。

 

 

「リュオン、『はどうだん』」

「クリムガン、前に出るのよ! 『ドラゴンテール』!」

「ル……!」

「クガアアァッ!」

 

 

 入り口付近から一気に飛び込んで来たルカリオの放った「はどうだん」を、クリムガンがその強靭な尾で打ち返す。あらぬ方向へ飛んでいってしまったそれは、細切れになった瓦礫を更に細かく砕いて夜空へと消えていった。

 

 

「アケビ様! ……サイホーン、『とっしん』だ!」

「あの悪魔を近づけるな! 倒せ! 『ハイドロポンプ』!」

「援護する! 『ハイドロポンプ』!」

「『ムーンフォース』!」

 

 

 遅れて、この場に集っていた百を超える下っ端のポケモンたちが少女に牙を剥く。勢いよく放たれた数条の光線、あるいは水流は――しかし、着弾前に少女が梁から飛び降りたことで、直撃には至らなかった。

 

 

(自滅!? いえ……)

 

 

 十数メートルの高さを飛び降りる、というのは一般人にとっては到底不可能なことだ。しかし、少女は一切躊躇なく飛び降りた。周囲の団員たちは驚きを露にしているが、そのようなことをしていることが命取りであることを彼らが理解したのは、一瞬後。

 

 

「ギル、突っ込め!」

「ギラアアアアアアアアアアッ!!」

「ぎゃああああああッ!」

「げ、えッ」

 

 

 見計らったかのように壁を突き破って、巨大なバンギラスが現れた瞬間だった。少女は勢いのまま背に飛び乗り、その進行方向を巧みに誘導することで立ち止まっていた団員を轢き潰していく。死にはしていないにせよ、すぐに戦線復帰は望めないだろう。

 

 

「ギル、『すなあらし』。リュオン、『かげぶんしん』。包囲しろ」

「ゴアッ!」

「リオッ!」

「ッ!」

 

 

 直後、廃工場に砂塵を伴う嵐が吹き荒れる。数匹の比較的軽いポケモンが宙を舞い、戦場から吹き飛ばされていくが、問題はそれ以上のことだ。

 

 

(見えない……!?)

 

 

 トレーナーの少女の姿が、消えた。

 バンギラスほどの巨体であれば見逃すはずは無い。しかし、その巨体を盾に、更に「すなあらし」による目くらましまでもを併用したとなれば、少女の姿を捉えることは非常に難しい。加えてそこに、波動――生体エネルギーを持った、「実像を伴った分身」が周囲を囲むことで少女の気配を失わせ、更にアケビたちの目を欺いていく。

 

 

「ぎ――ぎゃあああああっ!!」

「あゴッ!?」

「げはっ」

「!? まさか、くっ! クリムガン!」

「クグアアッ!!」

 

 

 次の瞬間、どさりと部下の身体がアケビの方へと転がる。驚いて見てみれば、その体には本来あるべき腕が存在しておらず、止めどなく血が流れだしていた。

 クリムガンが護衛に入るのが遅れていれば、アケビも同じ姿になっていたことだろう。その事実に気付いた彼女は、小さく身を震わせた。

 

 

「リュオン、『ボーンラッシュ』」

「「「ルオオオッ!!」」」

「! く、クリムガン! 『ドラゴン……」

 

 

 ――マズい、どれが本物か分からない!

 

 四方、八方から襲い掛かってくるルカリオの影は、そのいずれもが「実体」だ。一介の研究員であるアケビには気配を読み取る術をなど当然持ちえないし、仮に読めたとしてもその特性上本体だけを見抜くということは非常に難しい。

 一方でクリムガンの得意な戦術は、その強靭な筋力を活かした肉弾戦だ。一対多数の攻撃に向く技は、そう多く持ち合わせていない。よって一瞬、アケビに迷いが生じた。

 

 

「――『バークアウト』!」

「ギル、『ストーンエッジ』」

「!?」

 

 

 そして、クリムガンの音波がその全てを薙ぎ払った瞬間、思い知らされる。全て偽物(・・・・)だと。

 数十匹のルカリオの分身を突っ切って、その背後から怒涛の勢いで迫るバンギラス。技にも満たないただの「前進」だというのに、その巨体から繰り出されているというだけで、周囲には壊滅的な被害が広がる。

 クリムガンでは、体格の差もあって組み合うことは難しい。その上に、床を砕いて岩塊が隆起し、それに伴って建物の基礎が崩れていくために回避行動もままならない。

 

 ――勢いを殺すしかない!

 

 アケビの判断は、速かった。

 

 

「パンプジン、『タネばくだん』! クリムガン、『アイアンヘッド』!」

「プッジャ!」

「クルルルガアッ!」

 

 

 パンプジンの放つ硬質な殻を纏った爆弾が、バンギラスの眼前に着弾し――炸裂する。

 くさタイプのエネルギーが極限まで詰め込まれた文字通りの「爆弾」だ。相性の良いこの一撃ならば、確実に突進の勢いを殺すことができると確信したそれを。

 

 

微温(ぬる)い」

 

 

 炎が、消し飛ばす。

 一体、どのタイミングでボールを投げていたのか。バンギラスに先行するような形で現れたバシャーモが、その腕に紅の炎を纏わせて、「タネばくだん」のエネルギーをかき消していた。

 まっとうな神経の持ち主ができることでは、当然ありえない。「タネばくだん」が着弾し、起爆するその一瞬の間を見計らい、ボールを投げ入れる――。

 

 

(人間業じゃ……!)

 

 

 と、生じた思考の隙をこそ、「悪魔」は突き崩す。

 

 

「『落とせ(ブレイズキック)』」

 

 

 敵を示した指を二本、クイ、と下に向けるだけのごく簡素なハンドサイン。それ故にポケモンにとっても分かりやすい動作は、即座にバシャーモへとトレーナーの意を伝える。

 指示に応じたバシャーモは、勢いよく宙で身を回し、クリムガンの頭を押さえ込むように強烈な踵落とし(・・・・)を叩き込んだ。

 野生のままのポケモンの動きではありえない、単純、かつ明快なまでに研ぎ澄まされた体術。神経系の集約する脊椎を狙って放たれたそれによって、クリムガンの意識が一瞬、暗転し――直後、超重量によって押し潰された衝撃により、目を覚ます。

 

 

「『げきりん』」

 

 

 しかし、意識が戻ったのはその一瞬だけ。

 

 ――憤怒の化身がその目に映る敵全てを、蹂躙する。

 

 

 

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 

 手始めにクリムガンをアケビ諸共に叩き伏せたバンギラスは、目の前に躍り出たサイホーンを轢き潰す。逃げ惑うゴルダックを掴んで床に叩きつけ、ケイコウオやネオラントを腕を振るその勢いだけで弾け飛ばす。

 対処のできないシュシュプやフレフワンといったポケモンは、ルカリオが冷静に、ともすると冷徹とも取れるほどに鋭く「処理」されていく。

 

 やがて、数十秒か、数分か、あるいは一時間も経ったか。それだけの体感時間を経てようやく――暴力の嵐は消えて失せた。

 それに伴って、周辺が静寂に包まれる。静寂――とは、即ち。

 

 

(全……滅……)

 

 

 ――フレア団陣営の、文字通りの「全滅」を示していた。

 

 

微温(ぬる)い」

 

 

 少女は、バンギラスをボールに戻しながら、冷たい声音でそう呟く。そこには強い怒りと、憎悪と、わずかな失望とが覗いていた。

 

 

立て(・・)、外道ども。まだ手はあるだろう」

 

 

 砂嵐の晴れたその中に、夜闇に紛れて少女の影が揺らめいている。

 

 

「包囲しろ。数で攻めろ、押し潰せ。後ろから襲ってこい。人質を取ってみろ。狙撃しろ。巻き添えで自爆してみろ。どれもお前たちの十八番(おはこ)だろう。それとも伝説でも出すか? それもいいだろう。早くしろ」

 

 

 暗闇の中、煌々と輝く紅い血の雫が、鮮烈なまでの殺意を映す。

 

 

「――全て破壊してやる。細胞の一片たりとも残すものか」

 

 

 どうしてこんなことになってしまったのだろうと、パンプジンの下敷きになりながらもアケビは嘆きを露にした。

 敵の存在を侮ってしまったがためか。この少女の逆鱗に触れてしまったためか。あるいはそもそも、この世界に手出ししたことから、間違いだったか……。

 

 ――――チャキ。

 

 少女が手にする刀の鍔鳴りが、否応なしに恐怖を掻き立てる。

 

 

「抵抗しないなら、それでもいい。――ひとりひとり、残らず殺すだけだ」

 

 

 少女が、血にまみれた刀を抜き放つ。

 見せつけるようにしてフレア団員に向けてその刀身を掲げるのは――あるいは、そうやって恐怖を煽る意味合いもあるだろう。

 「同じ恐怖を味わわせる」、と。「お前たちが奪ったものと同じものを奪ってやる」、と――。

 

 

「うわああああああああああああっ!!」

 

 

 やがて、恐怖に耐えかね、恐慌状態に陥った者が、少女に向かって残ったポケモンをけしかけた。

 およそ育てることを怠り、未だ進化に至っていないフシデ。しかし、だからと言ってその毒性は弱いわけではない。自身よりも大きな鳥ポケモンでさえ痺れて動けなくなるほどの神経毒を持つその牙に侵されれば、いかに「悪魔」と言えど行動不能になることは必至だ。

 

 ――当たりさえするならば。

 

 

「メェェ~!!」

「な、なんだっ!? ポケモン!?」

「フシャァァ……!?」

 

 

 ルカリオもバシャーモも少女から離れ、およそ阻む者がいないであろう最適のタイミング。

 そこで放たれた致命の一撃は――あらゆる障害物をすり抜けてやってきた一匹の謎のポケモンによって、阻まれた。

 

 

「よくやった」

 

 

 そのポケモンの瞳もまた、小さくない怒りに燃えている。

 彼、あるいは彼女にとっても――レインボーロケット団、あるいはそこに含まれるフレア団とは、仇敵に他ならないのだから。

 

 

「仇は、私が討つ。他の誰にも、こんな奴らの血で手を汚させはしない」

 

 

 かつ、かつ、かつ、かつ――――と。死刑台に上がるまでの時を刻むように、足音が響き渡る。

 その音はアケビの視線の先、彼女が動かせない顔のその先……既に動くことのできないフレア団員の目の前で、止まった。

 

 それは――フレア団の代表たるアケビに、「奪われる側の気持ち」を、僅かにでも味わわせるために。

 そして。

 

 

「――――――――」

 

 

 断頭台の刃が、振り下ろされる。

 

 

 


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