携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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剥がれた仮面の下のなみだめ

 

 

 

 その刃は。

 

 振り抜かれた一刀は。

 

 

 

 ――――雷電と共に現れた黄金色の外殻によって、受け止められた。

 

 

 

「――――……」

 

 

 絶句する。

 まさか、という表情で、アキラはそのポケモンを見据えた。

 

 

「……カプ……コケコ……」

 

 

 カプ・コケコ。遥か古からのポケモンの(・・・・・)守護神。その守護の在り方は人間よりもポケモンの方に遥かに高い比重が置かれている。ポケモンやその住処を害する者があるなら自ら誅罰を下しに行くほどのやや物騒な「神」。

 しかし、なぜ。

 ならば――なぜ。

 

 

「こんな奴を……何で庇った……!」

 

 

 激情に彩られつつも、彼女の声は困惑に満ちていた。

 当たり前のことだ。フレア団――ひいてはレインボーロケット団は、人間のみならずポケモンにとってもおよそ害悪しか生み出さない、人の世が生み出した悪性腫瘍と呼ぶべき存在だ。カプ神にとっては罰を下すべき存在でこそあれ、庇護するべき存在であるはずがない。

 ウルトラビーストの氾濫、レインボーロケット団の侵略という「ポケモンの生きる場を奪う」行為に対して、偶然に人間たちとの共闘が成し遂げられたが、それも奇跡のようなものだ。

 本質的に彼らは、人間の生き死にになど興味を持っていないのだから。

 

 

「…………」

 

 

 カプ・コケコはその意図など語らない。神は常にヒトにその意図を酌ませるものだからだ。

 理解しようとすらしない不逞の輩は、関わることすら値しない。

 

 永劫とも感じられるほどの数秒のにらみ合いの末、アキラは血振りをした刀を鞘に納めた。

 

 

「野放しにするわけにはいかないぞ」

「コケッコォ」

 

 

 当たり前だ、任せておけ――とばかりに頷くカプ・コケコ。その体から、周囲……廃工場を覆い尽くすほどに膨大な電気の力場が構築される。特性「エレキメイカー」によって張り巡らされたエレキフィールドだ。

 適度に調節が施された電気刺激が倒れたフレア団員たちの脳に作用し、この場に残った者を一人残らず昏倒させる。

 

 ポケモンであれば「ねむり」状態に陥らなくなる程度に適切な刺激だが、ヒトにとってはそういうわけではない。技として使用された場合に短時間しか展開されない理由はそこにある。

 もっとも、範囲内に入った人間たちを昏倒させるなどという芸当は、息をするようにエレキフィールドを展開するカプ・コケコにしかできないことだろう。彼自身は生粋の戦闘狂であるため、好んでこのようなことをするような性質(たち)ではないが。

 

 

「…………」

 

 

 苦渋に染めた表情で、アキラは鯉口を切り幾度か音を鳴らす。感じる波動……その質が下がってはいても、数が減ってはいない。つまりは、あれだけの猛攻の中、死者が未だ出ていないということを示している。

 感情のやり場が、どこにも無かった。膨れ上がった殺意は彼女自身の胸の(うち)を焼き、(はら)の底から溢れてくるドス黒い憎悪が喉を焦がす。

 ポケモンたちにあたってしまわないよう、アキラは外に出ていたポケモンたちをボールに戻した。

 

 と――そんな折、空を駆けて向かってくる気配がある。

 極限まで鋭化した神経が敏感に気配に呼応し、猛り狂う感情が突然の闖入者の頸に神速で刀を突きつける。

 

 突然の凶行に首の薄皮を裂かれた闖入者は、冷や汗を流しながら声を上げた。

 

 

「僕だよ!!」

「――――――」

 

 

 悲鳴にほど近いヨウタの(・・・・)声に、周囲に充満していた殺意の波動と淀んだ憎悪が霧散する。

 ばつが悪そうに「ごめん」と一言謝ると、アキラは顔を俯けて背を向けた。

 

 一方、ヨウタは疑問と困惑が溢れかえっていた。

 夜中になって突然いなくなったアキラが、一つ隣の市で何事か凶行を繰り広げているのだ。困惑しないはずもなかった。自然と、彼女に詰め寄るようなかたちで前に出る。

 

 

「『ごめん』じゃないよ、何だよいきなり! それになんなんだよこの有様は! 何してるんだよ!? それに……殺したのか!? 人を!」

「……殺せてない」

 

 

 その気はあったが、とアキラは続ける。

 

 

「何で、気付いた」

「ショウゴさんがアキラの様子がおかしかったって言ってた。昼間、戻って来てからも違和感があった。握ったもの壊すとか全然力加減できてないし、呼びかけても上の空で目が据わってるし!」

 

 

 アキラが異常な筋力を持っているのは周知の事実だが、同時に繊細なコントロールができるのもまた、周知の事実だ。

 少なくとも、これまではそれができていた。だというのに、今日に限ってそれができてない。言ってみれば「たが」が外れている。

 おかしいというどころの話ではなかった。ヨウタは帽子の隙間から手を差し入れ、頭を掻きむしる。

 

 

「もしかしたらとは思ったんだ、そしたら案の定だ! 考えたくもなかった、アキラが人を殺そうとするなんてこと! 何でこんなことを!?」

「何で……?」

 

 

 そして。

 ヨウタは、アキラの表情が――やけに幼いことに、気が付いた。

 普段のどこか済ましたような強気な表情でもなく、戦っている時の苦渋に満ちたような表情でもなく、ただ、泣きそうな子供のような幼い表情。それは、彼女の育ち切っていない内面を示しているかのようで。

 

 次の瞬間、ヨウタは肩を押されたことに気が付いた。

 

 

「何でも何でもあるか……! 考えたんだよ。考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて……! それでも犠牲がちょっとでも減る手段が浮かばなかった! 他に手があるなら言えよ、言ってみろ! 教えてくれよ! どうしたらいい!?」

 

 

 詰め寄る彼女の目じりには、大粒の涙が浮かんでいる。

 時折、アローラの友人に鈍感であると言われたりもするヨウタでも、ことここに至ってはアキラが苦しんでいることが、理解できないわけがない。だが――同時にヨウタは、なぜ、とも感じていた。

 

 どこまでいっても、自分たちは人間である。すくいきれない(・・・・・・・)命というものは――悲しいことだが、当然に、ある。香川にいながらにして高知で起きた殺人を止めることはできないし、その逆もまた然りだ。手が届く場所でなければ、どれだけ優秀でも、どれだけ強くても、何もできない。

 悔いてはいても、同時にそれは割り切るしかない事実だということを、ヨウタはよく理解していた。

 

 それ故に。

 

 

「目の前で、人が死んだんだ」

 

 

 互いの思いには、小さくないギャップが生じていた。

 

 

数時間前まで一緒に(しってる)夕飯食べてたレジスタンス(ひと)が焼け死んで、避難所を守ろうとしたおばあさん(しらないひと)も撃ち殺されて! 今だって、きっとどこかで人がゴミのように殺されてる! こんな、人を人とも思ってない連中をのさばらせておくなんてできるわけないだろ! 皆殺しにしなきゃ不幸な人が増えてくだけだ!」

「気持ちは分かるけど、極論だよそれは! 脅されて入団した人だっているかもしれないし、みんながみんな人殺ししたいと思ってるわけじゃないかもしれない! そういう人まで殺すって言うのか!?」

「人殺しをすると分かってて止めないヤツが、真っ当な人間なわけがあるか!! 人を殺すと分かってて、それを手助けするような人間も――」

「それ以上言うな!!」

「みんな死ねばいいんだ! 皆殺しにしてやる!!」

「――――こ、のッ」

 

 

 アキラが口にする言葉を耳にした瞬間、ヨウタは頭の中が真っ白になった。

 

 ――よりにもよって、君がそれを言うのか?

 

 誰より「正しさ」に拘泥していた彼女が、それ(・・)を口にしてしまったなら。

 後に残るのは、正しさから背を向けて殺戮を繰り返す、矛盾にまみれた悪鬼だけだ。

 

 それ故に、ヨウタもまた、気付けば激昂していた。

 それは、彼女のことが大事な友達だと……恐らくは、仲間の誰よりも感じていたからこそ。アキラを止めるためにも、拳を握りしめ――前に出た。

 

 

「分からずやがああああ――ああああああ痛ァァッ!!?」

「……!!?」

 

 

 基本的に、という話ではあるが。

 刀祢アキラは超人であると同時に、内気功を修めた達人でもある。極限まで気が立っているこの状況においてその肌は岩のように硬く、その骨は鋼鉄よりもなお頑強だ。

 どれだけ心が折れていたとしても、体だけは壊れない。怪我をする頻度が非常に高いことで耐久力は普通の人間並みだと勘違いされることもないではないが――ポケモンの爪や牙がそれすら貫くというだけで、普通の人間が殴れば、それは鋼鉄の塊を殴りつけるのと同じことであり。

 

 

「うおわああああああああああっ!!?」

「ヨウターッ!!?」

 

 

 ペキン――と。

 狙い過たず彼女の頬に突き込まれた拳……その指が、枯れた枝のような音を立ててヘシ折れた。

 

 旅に出始めたばかりの頃、スカル団に折られて以来の痛みだった。思わずその場で転がり回るヨウタに、流石のアキラも気勢を削がれた。

 冷静になってもみれば、仲間であるヨウタに当たり散らすというのは人間的に好ましい行いとは言えない。あまりの事態に、筋力と意地と、自分がやらなければという義務感と折れてはならない環境によって形作られた仮面が、剥がれはじめる。

 

 

「だ、大丈夫……?」

「うっさい!! 大丈夫に見えるかこれが!? 目腐ってんのか君は!!」

「えっ酷い」

「だいたいッ……何なんだよ、そんな重大なこと、一人で抱え込んで! 相談しろよ、仲間じゃないのかよ僕らは!!」

「な……仲間だから相談なんてできなかったんだろ!? 止められないわけがない……」

「当たり前だ、止めないわけがないだろ! 今君言ったよな、『人殺しをすると分かってて止めないヤツが真っ当な人間なわけがあるか』って! 僕らも『まとも』じゃない方がいいのか!?」

「あ……」

「勝手に考えが煮詰まった気になるなよ! 殺す殺すって、今のアキラはただ悪い感情が先行しすぎて殺すことありきでものを考えるようになってる!」

 

 

 立ち上がり、ヨウタは無事な左手でアキラの胸倉を掴み引き寄せた。

 

 

「本当ならもっとやれることがあるだろ君なら! それができる力と、頭くらいあるはずだ!!」

「買いかぶりだ! そんなの……わた、私は」

「『私』!? 自分のことそんな風に言わないだろ!」

「え……あ……!?」

 

 

 そこではじめて、自分の一人称が移り変わっていることに気付いたらしいアキラは、ひどく狼狽えたように顔を強張らせた。

 彼女にとって、「オレ」という一人称は、「刀祢アキラ」が男であったことを示す数少ない(よすが)だ。それが揺らいでいるということは、アキラ自身の自我が揺らいでいるということに他ならない。

 

 

「それが正常か!? まっとうな考え方ができる状態か!? 考え抜いたなんて妄言を吐いていいのは、普段通りにものを考えられるようになってからだろ! どうせアキラのことだから全員殺した後で自分も死ねば悪人はいなくなって解決なんて考えてたんだろ! ふざけるなよ!」

「な、なんで……」

 

 

 図星を突かれたように目を白黒させるアキラ。衝撃で身じろぎ一つできなくなった彼女を放し、ヨウタは指をつきつける。

 

 

「ランスの時、無謀な突撃をしてた」

「うっ」

「ビシャスに立ち向かって大怪我」

「あぅ」

「ポケモンを守るために自分が前に出てまた大怪我!」

「うっう」

「独断専行に自己犠牲のオンパレードじゃないか。君がそういう考えになっても全く不思議はない」

 

 

 けど、とヨウタはそこで一度言葉を切った。

 ――が、そこに言葉を重ねたのは、他ならぬアキラだ。

 

 

「――でも、他のやり方なんて知らない……!!」

 

 

 常の彼女なら、絶対にしない表情(かお)で。

 常の彼女なら、絶対に発しない声音で。

 堪え切れなかった涙を流しながら、言葉を紡ぐ。

 

 

「わたっ……お、オレ。他にどうしたらいいかなんてわからないよ……! おばあちゃんは、こんな時どうしたらいいかなんて言ってくれてない! 殺したらいけないなんてこと、分かってるよ。けどそれ以外できないんだ! 壊すしかできない! 暴力しか知らない! それ以外の使い道なんて知る時間も無かった! おばあちゃんは言ってたよ、『その力だってきっと正しいことに使える』って。オレだってそう思う。そう思いたかった……」

「…………」

「けど、誰も助けられてない……! 目の前で、死んじゃって……まだ体温だって感じるくらい……。

 これから先も殺される前に殺さなきゃ、きっと、たくさん人も、ポケモンも死ぬ……。けど他の誰かに手を汚してもらうなんてしたくない……ポケモンたちにだって、みんなにだって……! だったら、オレが、わたしが……やらなきゃ……いけなくって……」

 

 

 ヨウタには、アキラのそんな姿が想像できなかった。凛々しく、それでいて雄々しい姿しか、目にしていなかったというのもある。

 それは、二年というごく短い期間で祖母が築き上げた「理想的な自分」を演じ切っていたということだ。

 

 

 本当の「刀祢アキラ」とは――十数年の人生を失い、たった六年分の経験で理想を演じている。

 

 ただの、子供だ。

 

 

 ただ日常を送るだけならば、破綻などしなかっただろう。戦いになど身を投じなければ、ここまで自我が混濁などしなかっただろう。

 彼女の祖母の言葉が「悪」を憎むきっかけになり、やがて致命的な矛盾を起こして自死に至らしめることになりかねなかったというのは、確かだ。しかしその教育方針は決して間違っていない。ただ、時間が足りなかった。環境が悪かった。ここまで保っていたこと自体が奇跡的と言えるが、それを為したのはアキラの祖母の倫理教育だ。

 

 人の死と悪意を目にしてその心は歪み、怒りと憎悪で折れ、捻じれ、曲がり、内から湧き出る殺意の衝動によって突き動かされている。

 このまま進めば、取り返しがつかなくなると確信できるほどに。

 

 

「殺しちゃ、ダメだ」

 

 

 故に、ヨウタはその手を取った。

 

 

「許せないのは分かる。けど、それだけはダメだ。ただアキラが……違う。アキラだけじゃない。みんなが(・・・・)不幸になるだけだよ、それは」

「……みん、な……?」

「おばあさんとユヅは、きっとアキラが人を殺すなんてこと絶対にしてほしくない。レイジさんも人の命は大事に思ってるし、ショウゴさんとナナセさん、アキラの様子がおかしいのを見過ごしたって、すごく悔やんでた。ポケモンのみんなだってそうだよ。人殺しの手伝いなんてしたくないはずだ。僕だって人を殺すのを見過ごすなんて、絶対にできない」

 

 

 たとえ彼女自身が、そうは思ってないとしても。

 

 

「――友達だから。アキラが人を殺して自分も死ぬなんてこと、選んでほしくない」

 

 

 告げた一言は、あまりにも簡素なもの。

 根本的な解決策にすらならない、ただ個人的な気持ち。

 それでも、ただ一人でやるしかないと頑なになっていた彼女の心を溶かすには、十分なものだった。

 

 やがて決壊した感情が溢れ、一人の「子供」の泣き声が、夜闇に響いた。

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

「……ご迷惑おかけしました」

 

 

 腕の切断といった重傷を負ったフレア団員の処置のために朝木らが到着し、崩落した廃工場から場所を移してかれこれ約三十分。胸を貸したヨウタの服は、涙と鼻水とでびしょ濡れになっていた。

 本当だよ、と冗談めかして告げるとアキラは気落ちしたように肩を落とす。未だ錯乱の影響は根深いようだった。

 

 

「僕よりもショウゴさんたちに謝ってね。ロトムに連絡入れてもらったから」

「うん……ありがとう、ロトム」

 

 

 微笑みを向けてくる気遣いのできる図鑑に感謝を告げた後、アキラは気恥ずかしそうにヨウタから離れた。

 

 

「……ごめん、カッコ悪いところ見せて。わ……オレ、年上なのに」

「戸籍上だけじゃないか。実際のとこ、僕よりよっぽど年下でしょ」

「んなっ……こ、これでも今年十八だぞ」

「年齢でマウント取ろうとしてくるあたり、余計だよ」

 

 

 そうかな……そうかも……と、アキラは再び気を落とした。

 事実として、彼女はただ知識だけを持っている子供のようなものだ。そういう風に装えているというだけとんでもないことだが、ヨウタよりもその精神は未成熟なものとしても過言ではない。もっとも、この点に関してはヨウタが成熟しすぎている部分があるのだが。

 

 

「……でも」

 

 

 と、そこでアキラは思い出す。決して彼女の懸念が解消されたわけではない、と。

 結局のところ、敵が減らなければ四国の住人は常に生活を脅かされ続けるのだ。その点に関しては否定のしようもない。

 

 

「殺すのがダメなら、どうすればいいんだ?」

「無力化するんだよ。今までやってきただろ? それを突き詰めていくだけ」

「……でも、手加減なんかしたら、止められない。殺すくらいの勢いじゃないと……」

「腕斬れば?」

 

 

 ――と、ヨウタは、何の気なしという風に、あまりにもあんまりな答えを返して見せた。

 

 腕を、斬る。

 つまりは今回のような、両腕切断の重傷を負わせる、と。

 

 

「ざ、残虐じゃないか?」

「実際にやった君が言えることか?」

 

 

 返す言葉も無かった。そんなアキラに、そのくらいは仕方ないんじゃない、とヨウタは続ける。

 

 

「残酷かもしれないけど、命は残る。僕らの世界じゃ、重罪人にやる処罰って見方もあるけど……」

「処罰? 江戸時代の盗賊か何かかよ……」

「二度とモンスターボールを持たせない、って罰だよ。滅多なことじゃあ、無いけどね」

 

 

 人間によっては死ぬよりも重い刑罰と言えるだろう。

 とはいえ義肢技術のある昨今、それはまったくの不可逆的な措置というわけではなかった。

 

 

「命さえ残ってるなら更生の機会はある。あとは、それさえも棒に振るのかどうか、だよ」

「それは……まあ、それも、そうか」

「殺さなきゃ何をしてもいいっていうのは違うし……勿論、積極的にやれって話じゃないよ」

「わ、分かってるよ」

「やるなよ」

「……うん」

 

 

 あくまでそれは、殺されそうな人がいるような場合に限ってくれ――と、ヨウタは締めくくった。

 

 アキラの様子は、先程と比べれば幾分か落ち着いている。しかしそれはどちらかと言うと、「混濁したまま」落ち着いたというような状態だ。

 剥がれた仮面はそのままに、むしろ柔らかい心が剥き出しの状態で固定されてしまっているような状態だ。どのような場面で崩れてもおかしくはない。

 そんな懸念を抱いたその時だった。

 

 

「ロト……? ヨウタ、広域通信!」

「え? ……映して」

 

 

 激しくその身を震わせたロトムが、広域通信――周辺の電波に乗せられたテレビ電波を受信する。そうして映し出されるのは、赤髪に雄々しい髭をたくわえた大男。

 即ち――フレア団指導者(ボス)、フラダリ。

 

 

「……こいつ!」

「フラダリ……!?」

『――カガワの民よ。私はフレア団総帥、フラダリ。本日は諸君らに一つ、重大な報告がある。心して聞いてほしい』

 

 

 何をする気だ、と二人の表情が強張る。

 以前、サカキが四国全域に向けて行った放送においても、およそ考えうる範囲で最悪の状況に陥ったのだ。ヨウタとアキラにとっては、トラウマにも等しい状況である。

 

 

『これより我がフレア団は、このカガワ――タカマツにて民の浄化を行う』

「「!!?」」

『善き人間だけが生き残り、悪しき人間が滅び去る。諸君らが善良な市民であることを示す方法は、二つ。我々フレア団に忠誠を誓うこと。そして』

「!」

 

 

 言葉と共に、画面にいくつかの写真が並べられる。日本語で丁寧に作られたそれらが示しているのは、紛れもなく――レインボーロケット団への反抗勢力。何よりも、ヨウタたち六人の姿が、克明に映し出されていた。

 それらを大仰に指し示すと、フラダリは弧を描いた口で宣言する。

 

 

『――重罪人、反逆者たる彼らを、我々フレア団に引き渡すことだ』

 

 

 


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