携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

69 / 127

 三人称です。



それはあくむの黒い旋風(かぜ)

 

 

 アキラにとって初めての「敵」と呼べる存在は、間違いなくランスという男だった。

 戦略眼に優れ、その場に応じた戦術を組み立て、最低限の自衛の手段を持つ。アキラが戦って勝ったというのもあくまで奇襲戦法ありきの結果であって、当時の彼女では正面から戦っては逆立ちしても勝つことは不可能だっただろう。

 「そうしなければ勝てない」と断じている時点で、間違いなくアキラはランスを現場指揮官として、あるいは幹部として一定以上に評価していた。

 

 対するランスにとって、アキラ――本名は知らない――という少女は、紛れもなくトラウマの象徴だ。通りすがりついでに片手間のように作戦を破壊して、ランス自身にも文字通り深い傷を刻み込んだ、悪鬼のような存在だ。恐怖感を拭うというのは難しい。

 鍛え直してなお、アキラの強烈な印象はランスの奥深いところに突き刺さっていた。若干の女性不審に陥るほどの鮮烈な経験だ。見た目に惑わされるということは今後一切無いだろうと彼自身も自認していた。

 

 多少の差異こそあれ、二人にとって自分の目の前にいる相手は紛れもなく「油断ならない強敵」だ。

 故に、交錯する視線には少なからず緊張感が伴っていた。

 

 

「――遠足の引率か?」

「見ての通りですよ」

 

 

 そう言うと、ランスは自身の服を示した。以前とは異なる、黒い色の制服だ。

 

 

「貴女のおかげで幹部の座から降ろされました。今は行動隊長……このどうしようもない人たちの上司になっています」

「落ちぶれたものだな」

「お陰様でね。そちらはまた、壮健なようで」

 

 

 皮肉に対して、ランスが動じるような様子は無い。逆に、アキラのポケモンたちの成長具合をしっかりと把握するほどに、ランスには余裕があった。

 

 

「……何をしに、ってのは愚問か?」

「私はただ、この敗北者たちを回収に来ただけですよ。フーディン、『テレキネシス』」

「フッ」

 

 

 ランスに続いて現れたのはフーディン――以前、アキラが目にしたケーシィが進化したものと思われるそれだった。

 三人もの人間を抱えて疲れ気味だったクロバットの翼から、氷見山たちが浮かび上がる。更には、戦闘中だったマッシブーンや橋上に突っ伏していたテッカグヤまでもがボールに戻される。これで、ほぼ完全に一対一の状況となった。

 

 

「はいそうですか、と逃がすと思うか」

「ウルトラビーストとの連戦で消耗している貴女たちが、今まともに戦えると?」

「そんなヤワな鍛え方をした覚えは無いな」

 

 

 少なくとも、アキラのポケモンたちは今だ絶えず闘志を見せている。リュオンのメガシンカは解除されておらず、ギルも威嚇を続け、チャムの四肢から噴き出す炎も衰えることを知らない。

 連日の激戦は、間違いなくアキラを含めた全員に地獄のような苦しみと痛みを与えてきたが、それらを乗り越えたことで、ポケモンたちには激戦の連続を耐え抜くだけのスタミナが備わっていた。

 

 チリチリと空気そのものが焼けつくような感覚の中、先に動いたのは――リュオンだ。

 波動によって指示すら出す必要の無いアキラとリュオンにとって、奇襲と隠密行動は最も得意とするところだ。選択した技は、軽減できるタイプの少ないゴーストタイプの「シャドーボール」。音も無く発せられた一撃だが。

 

 

「『エアスラッシュ』」

 

 

 次の瞬間に、クロバットによって放たれたによって空気の刃によって霧散させられた。

 それを見届けたランスは、クッ、と一つ喉を鳴らしてアキラと氷見山を見比べた。

 

 

「貴女もそこの戦闘狂(バトルマニア)と同じ類でしたか?」

「戦いに快も楽もあるものか。イカれた脳内麻薬中毒者(ジャンキー)と一緒にするな――チャム、跳べ! 『かわらわり』!」

「シャァァァッ!!」

「愚問でしたか。フーディン! 『サイコキネシス』!」

「フゥァアァッ!」

 

 

 フーディンがその意識を集中すると共に、チャムの進行方向の空間が歪み始める。着弾までわずかコンマ一秒ほど。その刹那の間にアキラは攻撃の矛先を見切り、口を開きかけた。

 チャムが視界の端で捉えたのはその一動作(ワンアクション)だが、彼にはそれだけで充分だ。軸足の指先に強い力を込めることで進行方向を調節。空間のねじれを回避して見せた。

 

 

「不可視の念力までもを……!」

「見えないからどうした」

 

 

 現象を起こしているのがポケモンの生体エネルギー……一種の波動である以上、アキラにそれが見えない道理は無い。

 習得そのものはごく最近のことでありながら、彼女の波動使いとしての力量は戦場の中で研磨され続けている。ある意味で言うなら、彼女の技量が高くやけに容赦が無いのは、無用にレインボーロケット団がストレスと苦難と逆境を与えすぎたせいと言えよう。

 

 

「バッ、シャァァァァッ!!」

 

 

 裂帛の気合と共に、「ひかりのかべ」が砕け割れた。それに伴ってランスの体勢が崩れかけるが、直後にフーディンが再度「テレキネシス」を使用したことで、彼らは再び空中に浮かび上がりかける。

 

 

「フーディン、我々を地上に降ろしなさい!」

「ディンッ」

 

 

 しかし、空中に戻ってもそこに壁は無い。戦術的優位を取ることも難しいと考えたランスは、即座にその思考を却下。地上に戻ることを選択した。

 だが当然、そのまま降りるのでは迎撃される可能性が高まるだけだ。ここで手札の一つを切ることは避けたいのがランスの本音だったが、そうして隙を見せればアキラは即座にランスの顔面を潰しに来ることだろう。今は手札を晒してでも彼女から離れることが先決だった。

 

 

「行きなさい、ジバコイル!」

「コォ――――」

「ギル、頼む!」

「グルルルルアァッ!!」

 

 

 ランスが選択したのは、新たに手持ちに加えたジバコイルだ。クロバットやフーディンなど、これまでに見せていたポケモンの進化系とは異なる一匹に、アキラも僅かに驚きを見せた。

 が、それはそれだ。彼女が切ったのは最強の一手。容赦無く、正面から叩き潰すというこれ以上ないまでの明確な意志だった。

 

 

「『ばかぢから』!」

「『ラスターカノン』……!」

 

 

 全身の筋肉を隆起させたギルの圧力すら伴うほどの突進と、生体エネルギーに由来する光を集約したレーザーとが激突する。

 ギルは元より破滅的なほどの威力を備えた技を放つが、ジバコイルのそれも相当な威力を秘めている。しかし、互いの攻撃が拮抗していたのは一秒にも満たない間だけだ。

 力強い踏み込みで強引に前に出たギルが、ジバコイルの鋼鉄の身体を掴んで地面に叩きつけ、全力の握撃を見舞った。

 

 

「ギギッ、ジ――――!」

「グィラアアアアッ!!」

 

 

 ミシミシとジバコイルの身体が悲鳴を上げる。ギルの体表にも幾多の傷がついているが、未だその体力が尽きる様子は見られない。

 

 

「『すなおこし』というのは、厄介なものですねえ……」

 

 

 通常なら、タイプ相性が勝っていることもあってジバコイルの使用した「ラスターカノン」はまだ効果を発揮していたはずだ。

 が、周囲に散らされている砂粒がレーザーを屈折させ、減衰して威力を軽減させている。これでは倒れないというのも無理はない。

 

 

(もっともそれ以前に、レベルが随分違うというのもありますが……!)

 

 

 ランスの経てきたトレーニングは、その多くがレインボーロケット団員を相手にしたものだ。時には伝説のポケモンなども相手にするが、それでは「実戦経験」と呼ぶにはやや不足がある。

 対して、彼の視線の先にいる少女は、常に命懸けの戦場で圧倒的格上相手にでもしのぎを削ってきた。スタートこそランスの方が先に切っているが、濃密すぎる実戦経験によってポケモンの実力に小さくない差が生じても仕方がない。

 

 ランスは小さく身震いした。恐怖である。

 彼は武人でもなければ戦いを楽しむ性質(たち)でもなかった。

 

 

「アレで倒れないのかよ……!」

 

 

 対して、アキラもまた小さな困惑があった。

 ギルは幼くも、パワーや体力という面で見ればヨウタのポケモンたちにも劣らないほどのものを持つ。身体の大きさという絶対のアドバンテージもあり、正面から当たれば幹部格のポケモンでも「ひんし」に追い込むほどの戦闘能力がある。

 だと言うのに、ジバコイルはそれに耐えた。未だ戦闘可能ということは、少なくともそれに足るだけの鍛え方をしているということだ。

 

 

(ポケモンの強さって部分が唯一の付け入る隙だったってのに……!)

 

 

 アキラは、長期的視野を必要とする戦略においてランスに遠く及ばない。戦術面では勝っているが、それだけでは大勢に影響はしない。

 彼女が食らいつけているのはひとえにその類稀な戦闘力のおかげだ。それが通じなくなれば、勝ち目はどこにも見いだせなくなる。

 急成長を遂げているのはアキラも同じだが、これでもしも彼が伝説のポケモンを運用できるようになればどうなることか――。

 

 

 ――――ここから逃げなければ!!

 

 ――――ここで仕留めなければ!!

 

 

 二人の思考の向きはまったくの正反対だったが、それ故に相手の思考は手に取るように分かった。

 

 

 

「マタドガス!」

「リュオン!」

 

 

 パートナーの名を呼んだのは、ほぼ同時。アキラたちは橋の下に隠れていた伏兵(マタドガス)の存在を読み切った上で。ランスはそれすらも織り込んだ上で、指示を発する。

 

 

「『インファイト』!」

「ルァッ!」

 

 

 先んじて指示を口に出したのはアキラだ。マタドガスのほとんどの技はどくタイプのもの。はがねタイプのリュオンには効果が無い。視界を塞ぐ「スモッグ」のような技も波動でものを視ている以上通じない。

 ジェット噴射のように手足から波動を放出し、瞬時にマタドガスに肉薄したリュオン。特性「てきおうりょく」によって強化された拳撃の嵐がマタドガスを襲い――次の瞬間、両者は同時(・・)にその身を地面に横たえた。

 

 

「なっ……『みちづれ』か!?」

「御明察。ですが五秒遅い! マタドガス!」

「!」

 

 

 次いでランスが出してくるのも、またマタドガスだ。

 当然だが、トレーナーの中には同じポケモンを複数匹手持ちに組み込む者もいる。理由は、個人的な拘りでタイプを統一していたり、趣味嗜好の一環であったり、ポケモンとトレーナーの相性だったり……というものが挙げられる。

 レインボーロケット団に関しても、同じポケモンを使用するパターンは多い。ダークトリニティなどはその筆頭だ。

 そうしたパターンを踏まえた上でアキラが目にしたのは、マタドガスのようでマタドガスとは異なる……だが、マタドガスであることには間違いのないポケモンだった。

 

 その双頭からは、SLの汽笛筒やシルクハットにも似た噴出孔が突き出している。口から吐き出した煙はヒゲや眉のように滞留しており、どこか英国紳士然とした姿を思わせる。

 

 

(――リージョンフォーム!)

 

 

 どの地方か、という点はともかくとしても、その姿は紛れもなくリージョンフォーム。そうなれば、アキラの思うマタドガスとは根本のタイプからして異なる可能性があった。

 「みず」、「じめん」のようにチャムとギルの弱点を共に突くことができるタイプになっているとすれば、確実に戦線は破綻するだろう。そのことを察したアキラは、一瞬攻め入ることに躊躇する姿を見せた。

 

 ――そして、当然、それを見逃すランスではない。

 

 

「フッ……『ワンダースチーム』!」

 

 

 次の瞬間、ランスたちを覆うようにして、虹色の濃密な蒸気がマタドガスの口内から放たれた。

 

 

(っ、蒸気(スチーム)……みずタイプか!?)

 

 

 確認したことの無いリージョンフォームだ。少なくとも今、アキラにそのタイプを知る術は無い。

 ただ、現状と技の名前から、彼女はそれをみずタイプの技であると推測した。

 

 

「チュリ、『エレキボール』!」

「ヂヂヂヂッ!」

 

 

 となれば、最も効果的なのは霧の水滴に通電することで広範囲に効果を発揮するでんきタイプの技である。

 勢いよく放たれた小さな弾丸は――しかし、蒸気の壁に小さな穴を穿つにとどまった。

 

 

「みずタイプじゃないのか!?」

「……流石にこのマタドガスは知らなかったようですね……!」

 

 

 蒸気の中、ランスは大粒の汗を流しながら深く安堵の息をついた。

 はっきり言えば、これは彼にとっても賭けだった。マタドガスのリージョンフォーム――「ガラルのすがた」の存在をアキラが知っていれば即座に破綻し、かつ、見破ることができなかったり知らなかったとしても、「とりあえず」全力で攻め込んで来られればそれでも破綻しかねない作戦だ。

 これまでの戦いでアキラがそれなりにクレバーな考え方をしていると知っているからこそ、ここで慎重にならざるを得ないと踏んでの賭けである。

 

 ランス自身、トラウマが再発しかけていたため、決してそれだけを頼りにしているわけではないが。

 

 

「――今日のところはこれで失礼させてもらいましょう」

「『クモのす』!」

「『テレポート』!!」

 

 

 逃走を図るために糸よりも早くその場から「テレポート」で消え去るランスたち。彼らが次に現れたのは、今アキラのいる撫養橋に隣接した小鳴門橋だった。

 距離にしておよそ30メートルほど。この微妙な距離で、かつ海を挟んでいるとなれば、迂闊に手を出せばその時点で再び「テレポート」されるだろう。アキラは小さく舌打ちした。

 

 

「今回は痛み分けとしましょう。しかし、次は私が勝利します」

「次だと?」

「私も今や行動隊長、矢面に立たねばならない立場です。……戦う機会は必ずやってくる」

「お前ともう一度戦う……?」

 

 

 アキラは心底嫌そうな顔をして見せた。同時に、ランスも心底嫌そうな顔をした。

 できるならコイツとだけは戦いたくないという思いが多分に溢れ出していた。

 

 

「拒否させろ、この陰険野郎」

「私だって拒否できるものならしていますよ、暴力少女」

 

 

 組織というものに所属する以上、上司の命令には従わなければならないという悲哀があった。

 

 

「それよりも、私などに構っている暇があるのですか?」

「何だと?」

 

 

 言うと、ランスは別方向……アキラたちが本来(・・)目指しているはずの島田島の方角を指差した。

 そうした次の瞬間――黒い旋風(かぜ)が吹き荒れ、轟音と共に衝撃波が駆け抜ける。

 

 

「ッ、今のは――――!?」

「ひとつ、ヒントを差し上げましょう。この敗北者たちが我々に従うようになったのは侵略を始めたごく初期のこと。この世界に住む人間から我々が情報を集めていないとお思いですか?」

「――まさか!!」

 

 

 その言葉を耳にした瞬間、アキラはチュリ以外全てのポケモンをボールに戻し、弾かれたようにバイクの方に向かって走り出した。

 

 

「察しが良くて実に結構」

 

 

 ランスは、心底安心したようにもう一度息をついた。仲間を優先して行動しないのであれば、あのまま橋から橋に飛び移って殴りかかってきかねないと思ったためだ。

 ともあれ、レインボーロケット団が動かしたのは、実験中とはいえ現状では最高戦力に匹敵するであろう一匹だ。いかにこれまで生き抜いてきた彼らとはいえど、無事では済まないだろう。

 

 しかし、ランスには奇妙な確信があった。これから先、少なくともあの少女か、アサリナ・ヨウタのいずれかと再び矛を交える機会はあるだろう、と。

 これまで生き延びてきたということは即ち、それに足るだけの生存能力があるということだ。どれほどの窮地に追い込んでもなお死ななかったからこそ、今の彼女らがある。

 

 心の底から再び出遭いたくないと感じながら、ランスはフーディンに「テレポート」を命じた。

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

「――なんか暗くね?」

 

 

 最初にその事実に気付いたのは、奇しくも下ばかり見つめていたはずの朝木だった。

 彼は車の中で何をしていても割と酔わないタイプの人間である。医学書を読み耽っていたこともあり、むしろ明かりの有無には敏感だったというのもあるだろう。言われてみれば、とユヅキたちが顔を上げた時、車の外は夜闇に包まれたように暗くなっていた。

 

 

「あれ、ホントだ。何だろ」

「雨?」

「にしちゃ暗すぎだろ」

 

 

 空を見上げても、星や月などは見えない。万が一、突然時間が進んで夜になったということであっても、そうであれば空にはオーロラが見えるはずだ。それが見えないということは――――。

 

 

「ヤバいかも」

「ぁえ?」

「レイジくん、東雲さんとナナセさんの方に言って。敵来たかも」

「え……ゆずきち、それ本当?」

「間違ってたらその時! でも、急いだほうがいいかも。これ『あまごい』とか『あられ』じゃなさそうだし」

「それってどういう……」

「さあ?」

 

 

 ウチのはただの勘だもん、と言って、ユヅキはけらけらと笑った。

 波動使いのアキラなら正確なところは分かるだろうが、ユヅキは気くらいしか分からない。それも感覚でやっているものだから、何が起きるかを正確に推測して語ることなどできるはずもないのだ。むしろ、ポケモンの知識に詳しい二人の方がよほど正確な情報が読み取れるだろう。

 

 

「むしろナっちゃんの方が何か知らない?」

「えっ、わ、私に聞く!? って言われても、こんなの……」

 

 

 と、そう言いかけたところで何かに思い当たったのか、ヒナヨは軽くこめかみに指を当てた。

 ポケモンにおける変化技というものは、上げていけば枚挙にいとまがない。状態の変化もまた然りだ。時と場合によっては一作のみに登場する状態や状況の変化もある。その中から僅かに引っ掛かる「何か」を探し当てるのは決して容易なものではなかったが――わずかにでも引っ掛かってくれば、答えは比較的簡単に引き出せた。

 

 

「――『くらやみ』状態……?」

「何それ」

「何だっけそりゃ」

 

 

 ユヅキと朝木は共に首をかしげた。そんな状態なんて聞いたことは無い。

 

 

「闇の探検隊?」

「じゃなくて! 何て言ったらいいのかな、コレ……コロシアム、知ってる?」

「スタジアムじゃなくってか? 俺昔だいぶやってたぞ」

「じゃなくって、ゲームキューブの」

「あー……なんか……あったような、無かったような……」

「ゆずきちは知らない前提で進めるわよ。昔、ポケモンコロシアムってシリーズがあったの。その中で出てきたダークポケモンってのが」

「ルル?」

「ヘルガーとデルビルの分類じゃなくて!」

「心を閉ざして戦闘マシンになったポケモンのことよ!」

「何それ怖い!」

「あ、あーっ! なんか聞いたことあるぞそれ! 敵のポケモン奪うやつだ!」

 

 

 そこでようやく、朝木も納得いったように手を打つ。しかし、ではなぜこの場でそのような話が必要になるのか?

 そうして考えたところで、彼は顔を蒼褪めさせた。

 

 

「まさか」

「ダークポケモンには『ダークウェザー』って技があるの。それを使うと場が『くらやみ』状態になる……」

 

 

 

 その事実を告げた次の瞬間、車外から大きな音が響く。

 何事か、と外を見た三人と、助手席から窓の外を見たナナセが目にしたもの、それは――――。

 

 

「――――黒い、ルギア?」

 

 

 その巨体に備わった翼を羽ばたかせて空に飛び出した、異質な黒いルギアの姿だった。

 

 アキラたち一行にとって、敵対組織がレインボーロット団であるということは既に語るまでも無い事実である。

 ポケットモンスター第七世代マイナーチェンジ版「ウルトラサン・ウルトラムーン」の存在がその事実を彼ら彼女らに強く印象付けている。実際に姿を見せた「悪の組織」の首領の人数が合致していることからも、そのイメージをより強固なものにしている。

 

 そして同時に――それは、「それ以上の戦力はいない」ものと、彼らに印象付ける結果となってしまっていた。

 レインボーロケット団。つまり、ロケット団、マグマ団、アクア団、ギンガ団、プラズマ団、フレア団……この六組織だけ(・・)が統合した結果生まれた組織なのだと、無意識のうちに決めつけてしまっていたのだ。

 

 

「――ッ、逃げろォォォォォ!!」

 

 

 我知らず、朝木は叫び出していた。

 間に合わないかもしれない。いや、そんなことはどうでもいい。早くここから離れなければ!!

 

 全霊の叫びを耳にしたかどうか、というタイミング。いずれにせよ東雲は、次の瞬間にはアクセルを踏み込んでいた。

 首を天に向けた格好の黒いルギアは大きな呼吸音(・・・)を上げている。そうして、その規格外の肺機能で空気を取り入れ続けて――数秒。

 

 

 トラックに向けて、破滅的な威力を誇る黒い竜巻(ダークブラスト)が放たれた。

 

 

 









独自設定等紹介

・ダークポケモン
 「ポケモンコロシアム(2003年発売)」及び「ポケモンXD(2005年発売)」にて登場。外部要因で心を閉ざされ、戦闘マシンと化したポケモンたちのことを言う。
 ダーク技と呼ばれる特殊な技を覚えるが、それ以外の技を一切覚えない。これらの技はあらゆるタイプに対して「効果は抜群」になるという特性を持っている。
 しかしながら、わざマシンによって新たに技を覚えることはできず、レベルも上がらず、進化すらしないためポケモンとしてはデメリットが大きい。
 ダークポケモンは特殊なオーラ(UBなどのものとは異なる)を纏っているようだが、これは普通の人間では見ることはできない。なお「コロシアム」、「XD」作中ではオーラを見ることができるヒロインが登場したり、オーラを見ることができるようになる装置などが開発された。
 一部のポケモンもこのオーラを見ることができるという設定があるらしく、ダブルバトルなどを嫌がるとか。本作では波動使いがこの「オーラを見ることができる者」に該当する。
 リライブという儀式を経ることでダークポケモンから元の普通のポケモンに戻すことができる。


・ダークウェザー(「くらやみ」状態)
 「XD」に登場した技。5ターンの間、フィールドの天候を「くらやみ」状態に変更する。
 この状態になるとダーク技の威力が1.5倍になり、ダークポケモン以外のポケモンは毎ターン終了時に1/16分の体力が減る。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。