携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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なまける術を知らぬ心

 

 

 朝木が目を覚ましたのは、月も高く昇った深夜のことだった。

 

 

「んがっ……」

 

 

 全身に走る痛みが現実感を急速に呼び起こし、先に自分たちの身に起きた事態を想起させ、急激に彼の顔から血の気を引かせた。

 朝木は思わず胸元に手を当て心臓の鼓動を確認した。早鐘を打つ鼓動が自身の生を実感させる。

 

 アキラの「特訓」は、誇張抜きに死者が出かねないほどに過酷なものだった。何度か実際に心臓が止まったのではないかと感じるほどに不自然な記憶の空白があったほどだ。

 しかし、なぜ「何度か仲間に殺されたかもしれない」などというあまりに殺伐とした懸念を抱かなければならないのか。朝木は渇いた笑いを漏らす他無かった。

 

 

(真剣なのは分かんだけどな……)

 

 

 真剣だし、真面目だ。だが同時に本気すぎるし、何より余裕が無さすぎる。

 顔は極めて整っているが、険しい表情以外をほとんど見たことは無い。常に殺気立っていて冷静・冷徹な性格であることから、整いすぎている容姿との相乗効果で、その印象は人斬りの妖刀や断頭台の刃かと言うほどに鋭利で冷ややかだ。あれならいっそ木石の方がよっぽど人間味がある――などと、何度考えたことか。

 時折覗かせる柔らかい表情のおかげでかろうじて人間かなぁと思わされるが、いっそ擬人化した刀か何かと言われた方がよっぽどしっくりくるのがアキラだった。伊達に刀祢などという苗字ではない。問題は同じ苗字のユヅキが感情豊かな方だということだが。もしや彼女は妹に感情を吸われているのではなかろうかと、益体も無い妄想が浮かんだ。

 

 

「……腹減った」

 

 

 ふと、状況が落ち着いて来ると、彼は唐突に空腹感を覚えた。極度の疲労感のせいで何か食べる前に眠ってしまったせいだ。

 いや、そもそも果たして「眠った」と表現していいものかどうか。気絶か、あるいは死亡一歩手前の意識喪失状態だったのではなかろうか。

 

 

(ヨウタ君たちまでダウンしてんのはシャレんなんねーなぁ……)

 

 

 驚くべきなのは、ヒナヨはともかく、普段の訓練で人一倍よく動いて鍛えているはずのヨウタでさえ、尋常ではない過負荷に耐えかねてダウンしてしまった点だ。

 もっと驚くべきは、顔色ひとつ変えず――流石に汗くらいはかいていたが――訓練を終えたアキラだが、彼女は存在そのものが理不尽に片足を突っ込んでいることもあって、朝木にとってはスルーすべき対象でもある。

 

 痛む体を起こせば、全身の骨がバキバキと異様なほどに音を立てる。折れてはいないが、それでもその寸前の状態ではなかろうかと小さな不安が募った。

 

 

「バッ……」

 

 

 唐突に、朝木の背後から声が発せられる。同じく特訓で疲れ切って眠っていたはずのクロバットだ。

 元が夜行性のポケモンであるため、鋭敏になった感覚で朝木の発した声や音を聞きつけたのだった。彼も朝木と同じく食事の前に眠ってしまったからか、物欲しそうな目つきで朝木をじっと見ている。

 

 

「……何か食うか」

「クロバッ」

 

 

 提案に応じてはばたき始めたクロバットは、一メートルほどの間隔をあけて朝木の後について飛んだ。

 先日までは三メートル以上は離れていたのが、この進歩だ。朝木は嬉しくなると同時に、少しだけ気恥ずかしくなった。

 

 

「男のツンデレの需要は限定的だぞ」

「ババッ」

「いってぇ!」

 

 

 彼の口にはワックスが塗られていた。

 

 ともあれ、食事である。とはいえ基本、キャンプ用具などはトラックに積み込んでいるため、この場で自炊はできない。

 戦闘の長期化もあって、食事のほとんどはインスタント食品か冷凍食品に限られる。しかし今日、彼らの目に映ったものはそれらと趣が異なっていた。

 

 

「ん……ん、何だ?」

「バッ?」

 

 

 彼らが普段食卓として利用している折り畳みの机、その上に見慣れない大皿が複数あったのだ。

 中身はいずれも茶色く、彩りには欠ける。しかし、炊き込みご飯で作られたらしいおにぎりやシンプルな肉団子は、一度眠って極度の空腹状態に陥った朝木たちにはひどく魅力的で、栄養を考えての取り合わせと思しきナスとインゲンの煮物などは、今すぐにでも手をつけてしまいたくなるほどだ。

 

 

「ババッ!」

「待てクロバット!」

「クロバッ?」

「何でコレがこんなところにあるんだ? 勝手に食べたらヤバいやつかもしれん。アキラちゃんが明日の朝飯のために用意したとか……」

「バッ……」

 

 

 と言うよりも、消去法で考えれば彼女以外にそれができる人間がいない。

 加えてこのあからさまなほどに手作り感溢れる料理。自宅も近いのだから、ついでに持って来たと考えるのが自然だ。

 そうなると、勝手にこれに手を出すことは憚られる。仲間に対して甘い彼女であっても、その辺りの線引きははっきりとしているため、怒られる、ないしは凄まじい修行に巻き込まれて大変な目に遭うことは確実だ。

 

 

「まずはアキラちゃんに確認を取ろうぜ。寝てたりしたら、まあ、しょうがないし……ちょっとだけ貰って後で謝ろう」

「クロババッ」

 

 

 そもそもが相当に遅い時間だ。流石に彼女も眠っている可能性が高い。

 多少空腹であっても眠ることはできるが、それも度が過ぎれば寝つきは最悪になる。質の良い訓練のためには質の良い休息が必要だなどということはアキラもよく分かっているはずだった。食べ尽くしたというわけでもなければ、流石の彼女もそう悪く言いはしないだろう。

 

 ふたりは周囲を見回した。当然ながら、夜の山中に人影などは見られない。

 そのはずだったのだが。

 

 

「……オイオイオイ」

 

 

 まるで当然のように、アキラは訓練を行っていた。

 朝木たちが休憩していた場所からは相当に離れた場所だ。クロバットが空から発見できていなければ、まず間違いなく見落としていたことだろう。

 彼女が利用しているのは、昼間に引き続いてデオキシスの作った「壁」を応用した即席の高重力空間だ。内部こそ透けて見えるが、音が漏れることは無い。それは隠密性に気を遣ったと言うよりも……。

 

 

「俺らが寝てるから起こさないようにしてんのか?」

 

 

 彼女の性質からすれば、ありえないことではない。

 生真面目で融通のきかない、極めて不器用な堅物。同時に確かな優しさを内に秘めているが――秘めているだけで滅多なことでは表に出さない。

 その様は人間としてあまりに武骨で、「人らしさ」が損なわれているようにも感じられた。そのあり方は正義の味方……という温かみのあるものではない。「正義」そのものだ。人としての正道に拘泥しすぎ、それ故に人としてあるべき情や欲というものを切り捨ててしまってすらいる。少なくとも朝木にはそういう風に見えていた。

 

 

「……ババッ」

「だよなぁ」

 

 

 しかし、それとこれとは別に、朝木もクロバットもなんとなく、彼女の行動に対して小さな反感を持った。

 

 

「うぉぉぉぉーい」

「うわああああぁぁっ!!?」

 

 

 そこで彼は、その場に展開している壁にへばりついた。

 淡く発光しているとはいえ、基本的には透明な壁面だ。何が――あるいは誰がやってきたのか、何をしているのか、という点はすぐに分かる。あまりに唐突にやってきた朝木に、流石のアキラも驚きを露にした。

 まして今は既に深夜だ。いっそホラーじみてすらいるその姿は、アキラを戦慄させるのに十分な威力を秘めていると言えよう。いくら歴戦の猛者と呼んでも過言ではない彼女とは言えど、怖いものは怖い。

 

 

「な、ななっ」

 

 

 想定外の闖入者だ。理解が及ばずに訓練の手を止めた彼女に向かって、朝木はジェスチャーでこの「壁」を一時的に消して自分たちを内部に入れるよう呼びかける。

 

 

「い、いやいやいや……」

 

 

 アキラは(かぶり)を振った。随分と離れた場所にいるはずなのに、どうして朝木はこの場所のことをかぎつけてきたのか。そしてなぜ、よりにもよってここで中に入ろうとしてきているのか。様々な疑問が浮かんで混乱に支配されかける彼女を置いて、デオキシスが代わるように「壁」を開く。

 これ幸いと入り込んだ朝木は、「じゅうりょく」が解除されたらしき空間の中、困惑しきりのアキラの前にどっかりと腰を下ろして目線を合わせ――ようとして、先程までチャムの攻撃で熱されていたらしい地面の恐ろしいまでの熱にやられて中腰になった。あまりにも格好がつかない。

 

 

「な……何やってるんだ、こんな時間に……?」

「こっちの台詞だぜそりゃ。一人で何をしてるんだよ」

「特訓だよ。何か問題でもあるか?」

「『こんな時間』なんだから寝ろよマジで。疲れ残してたらなんもできねーぞ」

 

 

 朝木の言葉に、アキラは小さく「ぐぅ」とうめき声を漏らして不満げな顔を浮かべた。

 こういったところは年相応な部分があるのだ。内容はともかく。

 

 

「それが嫌なら俺らも混ぜろ」

「は……はぁ!? いや、そういうわけにいかないから、一人で……だって、みんな疲れてるし……」

「疲れてんのはアキラちゃんだってそうだろ」

「そこまでじゃ……」

「『そこまで』ってことは疲れてることには変わりねえんだろ。自分では気づけてねえだけだぜ、それ。断言してもいいけど、何かの拍子にカクンと行くぞ」

「…………」

 

 

 何故だか妙に実感の込められた言葉に、アキラは返す言葉が浮かばなかった。

 

 

「それに、もうちょっと気を楽に……ってのは無理だろうけどよ、そこまで根詰めない方がいいだろ。逆に能率落ちるぞ」

「む……無理をしてるわけじゃない」

「本当かよ。俺にはなんか焦ってるように見えるが」

「………………」

 

 

 その指摘に心当たりでもあったのか、彼女は反論まではしなくとも、そのまま朝木から目を逸らした。

 気まずくなった雰囲気をかぎ取ったためか、ギルがアキラを庇うようにして前に出ようとする。そういうつもりじゃない、と朝木はビビり倒しながらそれを手で制した。

 

 

「何かあったか?」

 

 

 そう問えば、アキラは少しだけ考えた後、ぽつりと小さく呟くように応じた。

 

 

「今のままじゃ、ミュウツーに勝てない」

「悪り、ちょっと話のレベルが高すぎて聞き逃した。なんて?」

「ミュウツーに勝てない……」

「正気かよ」

「正気だが」

 

 

 朝木は現実味の薄いその言葉にドン引きした。

 少なくともミュウツーは朝木の知る限り、アルセウスなどの規格外を除けば最強と呼んでいいポケモンだ。弱点はあるし、ヨウタが追い詰めた実績もある。しかしそれでもまだ揺るがず「最強」の座に君臨していることには間違いない。

 それでも、アキラ自身はミュウツーを超えることは絶対条件だと考えていた。

 

 

「ミュウツーは二匹いるんだぞ」

「え……あっ」

「ヨウタが片方を抑えられても、もう片方が止まらない。それに、万が一……万が一だけど、三匹目や四匹目がいたらどうするんだよ。多分、技術自体はあるぞ」

 

 

 ミュウツーは人工的に遺伝子操作を施されて生まれたポケモンだ。科学技術によって生まれた以上、その誕生に至るまでの詳細な手順を残しておくべきものだし、規則性と再現性は必ず存在している。もし仮にサカキの手元に無かったとしても、異世界のどこかにはあるだろう。

 異世界に行って捕獲してくるということもありうる。いずれにせよ増える可能性があるのだ。ミュウツーが。

 

 

「……で、そのミュウツーは誰が扱えるんだ?」

「サカキと……サカキと……」

 

 

 思い当たらなかったようだ。

 懸念そのものは間違っていないが、その可能性自体は低い。

 ミュウツーはその狂暴性もあって、本来、極めて扱いにくいポケモンだ。まともに運用するためにはそれこそサカキと同レベルのトレーナー能力が必要になる。

 どこまで行っても「できるからと言ってやろうとしたら組織自体が物理的な意味で崩壊しかねない」という極めて高いリスクを背負うことになる。必要性は薄い。

 

 

「直に一度戦ってどんだけ強いのか分かったからっつっても、そんな調子じゃじきに心の方が潰れちまう。敵を倒せても、普通の生活が送れなくなるぞ」

「映画みたいな……」

「ランボーみたいにな。だから今日はもう寝ようぜ」

 

 

 実際、彼女の心は今、奇跡的なバランスの上に成り立っている。崩壊していないのが不思議なほどだ。

 そしてこんな状態では、たとえ平和になったとしても日常に溶け込めるかは怪しい。

 

 

「デオキシス」

「▼▼▼▼……」

 

 

 アキラの指示に合わせて、デオキシスは壁を消した。

 夜の澄んだ空気が吹き抜ける。そこに僅かな日常感と安心を覚えたか、彼女は小さく息をついた。

 

 

「その普通の生活に、誰一人欠けててほしくないから、頑張ってるんだけどな……」

「そこにアキラちゃんもいなきゃ、意味ねえよ」

 

 

 以前の朝木なら絶対に口にもしなかっただろうカラッとした言葉に、アキラはフイと顔を背けた。

 まるで、朱に染まった頬の色を見られまいとするように。

 

 

 

 〇――〇――〇

 

 

 

 翌朝、ヨウタたちは長時間の睡眠でなんとか疲労の取れた状態で、ようやく食事にありついていた。

 もそもそと口に運んでいるのは、炊き込みご飯のおにぎり――ではなく、中華ちまきをおにぎりにしたものだ。

 

 

「これアキラの手作り?」

「まあ」

 

 

 朝木は驚愕した。どこにそんな体力があったというのだろう、この娘は。

 

 

「てっきり俺はアキラちゃんのおばあさんが作ってくれたもんとばかり……」

「そっちの煮物はばーちゃんが作ってくれたやつ」

「だろうね」

「全体的に茶色いわ……生野菜が欲しい……」

「野菜自体の供給が無いし……」

 

 

 既に二十日近く、四国は封鎖され続けている。当然ながら食料は四国内部で補う他無い。土地柄、畑などが多いこともあって多少は野菜の供給もできているが、それでもその量はたかが知れている。冷凍や加熱などして加工して消費期限を引き延ばすかというのが、現状では最も有効な対策だろう。

 よってサラダなどの生野菜を利用した食品は滅多なことでは口に入らない。ヒナヨだけでなく、実を言えばアキラとしてもその辺りは不満であった。

 

 

「そんなにサラダ欲しいかな?」

「俺はあんまり」

「カーッ! これだから男子は! ねえ!?」

「わたしに聞くな」

「お野菜の煮物めっちゃ食べてるじゃない」

「これは……ばーちゃんが作ってくれたから……」

 

 

 アキラにとっての好物は基本、祖母の作ってくれたものだ。

 味覚の変化も多分にあるが、それ以上に単に久しぶりの祖母の煮物に舌鼓を打っているというのが実情である。

 

 

「おばあちゃんっ子か」

「多分僕が知ってる中で一、二を争うレベルでそうだよ」

「それはいいだろ。それより戦況!」

 

 

 露骨な話題逸らしに、三人は苦笑いした。

 

 

「ユヅちゃんたちの方針は?」

「おとといから同じ。とりあえず心当たりを回ってもらってる」

「……ってのは流石に不親切すぎるから私の方で方針は示したわ。今目指してもらってるのはいわゆる『霊地』ってやつね」

「霊地? またなんかどっかのファンタジーチックな……」

「実際この状況自体がファンタジーよ。で、必要なことは何か分かる? はいヨウタくん」

「えっ。あー……っと、ウルトラホールが開きそうな場所?」

「半分正解。厳密にはウルトラホールが『かつて開いたかもしれない』場所よ」

 

 

 言うと、ヒナヨは三人に示すように手をひらりと振って、指を一本立てる。

 彼らが探しているのがウルトラホールの開く場所という点では間違いないが、そこにはまず共有しておくべき認識があると判断したためだ。

 

 

「まずこれは大事な話なんだけど、何でRR団(あいつら)剣山を本拠地にしたの? 『知らない』とか『興味ない』はナシね」

「……四国が人口少ないから支配するのに都合よくて、剣山がこの辺じゃ高くて目立つからじゃねえの?」

「それもあるけど、私は『最初にあの場所に来たから』だと思うの」

「剣山にウルトラホールが開いたって?」

「ええ、可能性だけれど。知ってる? 剣山の大蛇の伝説」

 

 

 ――曰く、それは1970年代のこと。剣山にて全長10メートルはあろうかという青黒い大蛇を発見したという。

 当時はそれなりのニュースとなったようだが、最終的には這った跡以外何も見つかることは無く、現在に至るまで未確認生物……UMAとして扱われている。

 

 

「それがポケモンだって?」

「私はそうだと思ってる。それだけじゃないわ。剣山って昔から色んな伝承があるらしいのよ」

「伝承ってかそれMMRとかのヨタ話じゃ……」

「明確に否定する根拠も無い。そうでしょ?」

「無敵かこいつ」

「悪魔の証明じゃねーか」

 

 

 とはいえ現在の情勢そのものが、彼女の推測を裏付けるものとなっている。

 それはない、と言いつつも、朝木やアキラも明確に否定するだけの材料は持ち合わせていなかった。

 

 

「とにかく今は藁でも何でも掴まなきゃいけないのよ。で、そういう『かつてウルトラホールが開いた場所』をアンカーにしてこっちに来たと考えられるわけ。はい。じゃあ次の問題。これを踏まえて考えると、パワースポットって何? はいアキラ」

「……ウルトラホールが開いてオーラが降り注いでる場所?」

「ってことと推測できるわ。ここで質問。四国で一番有名なパワースポットは?」

「そりゃあオメー八十は……お、おいまさか」

「察しの通り――今ゆずきちたちは八十八か所巡りをしてるのよ!!」

「この状況でかよ!?」

「この状況だからよ!」

「……それってどれだけ変なことなの、アキラ?」

「この状況下で島巡りするくらい」

「それでも島巡りならやりそうな気がするよ」

「……あ……うん……」

 

 

 八十八か所参りがある種の伝統行事であることを考えると、立ち位置としてはそのようなところだろうとアキラは考えていた。

 もっとも、ヨウタの中では重要性はかなり異なる。様々な意味で将来に関わってくる島巡りがイベントとしてやや異質というのもあるのだ。最終的に何だかんだ言って島巡りが中止されることは無いんじゃないだろうかと彼は考えている。ヨウタは半目で微妙な顔をして見せた。

 もしかしてヨウタは、島巡りそのものにはあまり良い思い出が無いのでは? アキラは訝しんだ。

 

 

「僕らはその間、伝説のポケモン探し?」

「いや、アイテム探し優先した方がいいんじゃないか?」

「うん、回復もままならないもの。とりあえず、アキラのおばあちゃんのところにメディカルマシンとか置いてはきたけど」

「アレも自衛隊の人たちに使ってほしいしな……」

 

 

 何度か行われた「いやしのはどう」による治療ですっかり体調の戻ったヨウタの問いかけに、ヒナヨとアキラは難色を示す。

 やはり、伝説のポケモンを探すというのは当面の目標としては間違いないが、それ以上に物資の不足の方がよほど深刻だった。

 

 

「だから基地襲撃して嫌がらせして回るのよ」

「言い方をもうちょっとさぁ」

「でも戦術の真理だって小暮さん言ってたぞ」

「オブラートに包めって言ってるんだよ僕は」

「取り繕っても変わらないんだから放火して略奪するでいいじゃないか」

「オブラートに包めって言ってるんだよ!」

 

 

 言い方が最悪である。これでは火事場泥棒だ。

 実質的にやっていることはもっとタチの悪いことだが、しかしこれが有効な手段であることも否定できない。

 外聞を気にしないアキラはあっけらかんと言ってのけていた。

 

 

「ああ、まあ、なんだ。その辺のことは任せるよ。俺はちょっと別行動していいか?」

「え、何で?」

 

 

 そこで、三人に向けて朝木が遠慮がちに提案を告げる。

 この中で唯一医療技術に秀でる彼が抜けるというのは、少なくない戦力低下を引き起こすことになりかねないことだ。

 

 

「考えがあるんだ。伝説のポケモンを引き入れられるかもしれねえ」

「だったら誰かと一緒に」

「いや、一人じゃなきゃダメ(・・・・・・・・・)だ。これはマジで。アキラちゃんたちが、ってか東雲君たちもだけど、俺以外の誰かが混ざってたら状況が変わりそうだ」

 

 

 首を傾げる三人に、朝木は続けて、僅かに緊張した面持ちで告げた。

 

 

「――けどうまく行けば、ゲーチスを再起不能に追い込める」

「すぐやりなさい」

 

 

 食い気味のヒナヨの言葉に押され、朝木の提案はその場で即座に可決された。

 

 







 いつも誤字報告など助かっております。
 朝木のターン続きだったので次回あたりいったん他面子の描写挟んで計画の全容を次々回あたりで描ければと思ってます。



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