携帯獣異聞録シコクサバイバー   作:桐型枠

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地下の闇にこころのめを開き

 

 

 アキラはかろうじて叫び出さなかった自分を褒めてやりたくなった。

 秩序(ちつじょ)ポケモン、ジガルデ。ゼルネアスとイベルタルと並んで語られる、カロス地方の伝説のポケモンである。

 現在彼女の視線の先に存在するジガルデは東洋の竜に似た姿をしていた。これは50%フォルムと呼ばれ、ジガルデにとって全力(100%)を出すために必要とする半分ほどの量の細胞体(セル)と合体した、基本と呼べる姿だ。

 

 

(嘘だろ……!?)

 

 

 当然ながら、常識的に考えれば伝説のポケモンがこんな場所にいるはずは無い。

 ないのだが、果たして現状は常識で語って良いものだろうかと彼女は考える。じゃあ有りうるのだろうか。

 

 

「集合。静かに」

「何よ」

「何かあったんだね?」

 

 

 何かが起きたことを前提にしないでくれと言いたいアキラだったが、実際途轍もない事態になっているので何とも言い辛い。

 丁寧に穴を埋め直して向こう側に声が届かないようにしてから、アキラは二人を呼び寄せて軽く顔を近づけた。

 

 

「絶対に大声を出さないこと」

「今度は何なの?」

「僕もう流石に驚くこと無いと思ってるんだけどそんなに?」

「……壁の向こうにジガルデがいる」

「はッ…………!!!!!!」

 

 

 思わず大声を出しかけたヒナヨの口を、ルリちゃんがサイコパワーで塞いだ。

 ヨウタもひどく驚いているが、その表情は激烈に苦くて渋くその上硬いバコウのみの皮の塊でも噛み潰したように嫌そうな表情だ。

 またかこいつという感情がにじみ出していた。

 

 

「わたしのせいじゃない」

「そりゃそうだろうけど」

「……ぶへっ! 静かに、ね? ああ、もう、分かってるわよ、でもマジでマジでどうなってんのよおぉぉぉぉ……」

「で、どんな様子?」

「王。って感じ……」

「何言ってんの?」

「ちょっと見せてもらっていいかしら」

「デオキシス、頼む」

「▽▽」

 

 

 その指示に合わせ、穴に詰めた石が音も無く外れる。そこに顔を近づけてその先の光景を目にしたヒナヨは、しばらく言葉を失って唖然としていた。

 しかし、しばらくそうしていると、なんとはなしに状況を整理することができてきたのか、徐々に表情が真剣味を帯びていく。

 数分ほど周囲を見回した彼女はやがて結論を得たのか、先程のアキラと同じように穴を塞いで再び二人のもとに戻った。

 

 

「アキラの言う通りだったわ。確かにジガルデと……ポケモンがたくさんいる」

「何か分かった?」

「推測だけど」

「構わない」

「……やっぱりさっきの予想通り、レインボーロケット団の連中、実験に使ったポケモンをここの穴に『廃棄』したんだと思う」

「そうか? それにしては、なんていうか……普通だぞ、あいつら。ちょっと体がデカかったりするけど、普通のポケモンの範疇だ。波動にもおかしなところはない」

「そう、問題はそこ。ヨウタくん、ジガルデの能力って何?」

「え? ……細胞体(セル)の数によって戦闘力を上げること。100%ならそれこそ災害みたいな相手でも、一方的に倒しきれるくらい強くなる……かな?」

 

 

 ジガルデの100%(パーフェクト)フォルムは、生態系を乱すほどの力を持つ者を、更に武力で鎮めることができるだけの力を持つ。

 ゼルネアスやイベルタルをも圧倒し、「全てを消し去る」と言うほどの凄まじいエネルギーを秘めてすらいる。

 しかし、ヒナヨはそれに納得がいかなかった。

 

 

「そうね。けど、それで秩序守れてる?」

「どういうことかな。守れてるんじゃないの?」

「……そうか。ジガルデって、生態系が崩れると(・・・・)姿を現すポケモンだ」

「あ……」

 

 

 即ち、ジガルデが出てくるのは生態系が壊れた「後」のこと。一度被害が起きた後、対症療法的に生態系を破壊した者を圧倒的武力で鎮める――というのがジガルデの役割だ。

 そうなると生態系を「守れている」とは言い難い。結局のところ、彼が現れた時点で生態系は破壊され終わっている。全ては終わっている以上、守るも何も無いのだ。

 

 

「たしか『X』とルビーの図鑑だったと思うけど、私これずっと不思議だったの。警察みたいに何か起きた後じゃないと動けないのかなって思うと、まあ『秩序』ポケモンって分類には納得はしてたんだけど……いややっぱおかしいわね守り切れてないしポケモン相手じゃ力による抑止力とか関係無いのに秩序守るって何よ」

「本題に入ってほしいんだが」

「……ごめん。とにかくそういう感じだから、生命力を与えるとか奪うとかしてる特殊能力の極みみたいな連中が相手なのに、上から力でぶん殴るだけのジガルデが秩序の守護者なんてちゃんちゃらおかしいこと言ってんじゃねーわよとか前は思ってたのよ」

「言い方」

「けど、もしかすると……もしかするとよ? 目に見えるような形じゃなくても、私たちには分からないような形で顕在化している能力もあるかもしれない。例えば――」

 

 

 言って、ヒナヨは先の光景を思い返しながら土壁を振り返る。

 

 

「――生態系を『元に戻す』力とか。生物をフラットな状態に戻す力、とか」

 

 

 ヨウタは納得の声を上げた。やや荒唐無稽な感は否めないものの、状況だけを見ればそう読み取る他無い。

 対してアキラはやや納得いっていないらしく、首を傾げている。

 

 

「理屈は分かるし実際そうなってるのも分かるんだが……ヨウタ、セル集めてたよな? わたしたちよりジガルデについては詳しいだろ」

「うん。だから、僕もそんな能力があるなんて不思議で……図鑑にも載ってないし。デクシオさんやジーナさんにそういう話は聞いたこと無い」

「個体差でしょ? 三鳥だって、文字通り世界を滅ぼしかねないアーシア島の個体もいる一方で、なんか元無人発電所の隣でぽつんとしてるのもいるじゃない」

「言われてみりゃそうか……? ……いや、何だアーシア島とか元無人発電所とかって……」

「何で知らないのよ!! たかだか二十年前の映画*1と十年前のソフト*2よ!?」

「わたしらが生まれる更に前じゃねーか」

 

 

 アキラも存在を知らないわけではないが、踏み込んだ内容までは知らないというのが正直なところだ。

 そもそもそこまで知っていてかつ覚えているヒナヨがややおかしいと言えるのだが。

 

 

「だいいちこの世界の生態系なんてヤバヤバのヤバよ。ゼルネアスとイベルタルがあの極まったレイシストでポケモン不要論者のフラダリの手の内なんだから。私たちの知らない能力が生えてきてもおかしくないくらい本気になってるってことだと思うわよ」

 

 

 普段のそれよりも遥かに回る口に押されつつ、アキラもとりあえずは納得したように頷いた。

 

 

(……ポケモンにとっての生態系の守護神という話で括るなら、そうするのが適切か)

 

 

 ジガルデは生態系の守護神と言ってもいい存在だが、同時に、ジガルデ自身もポケモンであるためか、その立場はどちらかと言えば野生動物であるポケモンの守護者寄りだ。

 この世界におけるポケモンの生息域は、現在のところ四国四県のみ。環境を激変させるだけの力を持つ伝説のポケモンも、そのほとんどがレインボーロケット団の手中にあり、彼らの気まぐれひとつで四国は至極容易に壊滅する。現在は世界侵略の第一歩として統治の真似事をしているだけであり、必要となればこの世界を脱出するついでに四国全域を滅ぼしてから去っていくということもありうるだろう。

 

 思想だけを見ても充分に生態系にとっての脅威となりうる存在なのだが、彼らはその上実際にポケモンを乱獲し、改造を施した上に失敗した者は廃棄して死なせるという蛮行まで行うようになってすらいる。監視を主目的として据えた上で、副目的として傷ついたポケモンたちを救っているのだとしたら、アキラたちの見た光景もある程度まで納得のいくものではあった。

 

 

「それで、どうする? 正直わたしはあんまもう動きたくない」

「動くと事態が悪化しそうだから?」

「そうだよ」

「ほーん。それってやっぱり拗ねてるってことじゃないの~?」

「……は? 拗ねてないが? 戦略的判断だが?」

「それはマジなやつよね?」

「マジもマジだが?」

「明らかに機嫌が悪くなってるんだが?」

 

 

 何せ今度こそはと思った策がこの有様である。今回に限っては幸運と言えなくもないが、予定していた侵入路である地下空洞が塞がれているのだ。

 下手にデオキシスの「テレポート」を用いた場合、少なくともタワー内部に潜入したということをミュウツーに感知される可能性がある。そのため、アキラは地下から物理的に潜入することを考慮していたのだが、それも頓挫したことになる。機嫌のひとつも悪くなろうというものだった。

 

 

「それは置いといて。ジガルデと……他にポケモンがいるんだったよね? できれば全員ここから連れ出してあげたいと思うんだけど、どう思う?」

「それは当然わたしもそう思う。ヒナ、ボールはどのくらい残ってる?」

「ごめん、ほとんど街の人に渡しちゃって手元に残ってないわ」

「そこも含めて調達しないといけないか……分かった、ちょっとやり方を変えよう。わたしは当初の予定通り潜入して必要なものを調達する。二人はジガルデたちにこっちが味方だってことを伝えてほしい」

「だいぶ無茶ぶりしてきたわね……」

「何なら外に追い出すだけでもいい。とにかくこの場にいることだけは避けたいんだ」

「そうだね。何ならジガルデまで相手の手の内ってことになりかねないからね……」

 

 

 ルギアの一件は、彼らが思う以上に強く深く突き刺さっていた。

 そういった意味で言うならば、敵に先んじて伝説のポケモンと接触を持てることは、間違いなく不幸中の幸いと言えよう。外に逃がしさえすれば、レインボーロケット団に捕まることはそうは無い。自分たちの戦力が増えずとも、敵の戦力が増えるのを目の前で見過ごしてしまったり、そもそも敵の戦力が増えたということを把握できなかったりするよりはよほどマシだった。

 

 

「で……肝心の侵入方法は?」

「このまま上に向かって掘り進んでくよ。基礎か床にでも行き当たったらそこから侵入する」

「どうやって? あ、破壊するの?」

(これ)で……」

 

 

 優れた内気功の使い手は木剣で鉄を貫くという。ならば達人の域にあるアキラが合金製の居合刀を持てば鉄を斬る程度はわけもないことだが、それはそれとしてヒナヨは自分の中の常識が揺らぐのを感じた。

 

 

「もしかしてゆずきちもできるの……?」

「え。いや、ユヅはまだ(・・)できないんじゃないか」

 

 

 親友がそこまで人外の域に至っていないことに安心したヒナヨだが、裏を返せばいずれできるようになる可能性が高いことを悟った彼女は頭を抱えたくなった。

 この姉妹だけ明らかに別の摂理法則のもと生きているような印象さえ受ける。できて当然のスキルのように斬鉄剣を語るな。

 

 

「とにかく、行ってくる。そっちは任せた」

「ギララ」

「あ、うん」

「そっちもねー」

 

 

 いっそ何の気負いも無いのではないかと言うような語調でそう告げると、アキラはギルたちと共にその場を去っていった。

 二人はそれを見送ると、小さく溜息をついた。頼まれた以上二人としてもやる気でこそいるが、相当な重責であることには変わりない。カプ・コケコという対抗可能なポケモンこそいるが、相性が良いわけではないし、戦いになれば苦戦は必至だ。

 できるだけ穏便に、という点を心掛け、少しでも友好な存在であることをアピールするため、ヨウタはラー子、ヒナヨはルリちゃんの近くからなるべく離れないようにしながら、土壁を叩いて自らの存在をアピールしながら外に出た。

 

 

「! グルルルル……」

「ッギャウッ! フゥゥ……!」

「……メチャメチャ見てるわよ」

「だろうね」

 

 

 グラエナ、ヘルガー、ラムパルド、ドラピオン、ゲンガー……最終進化にまで達している数々のポケモンたちの敵意に満ちた視線が、ヨウタたちを射抜く。彼らの中でも特に大きな威圧感を放っているのは、その中央に坐するジガルデだ。

 しかし、ジガルデからは威圧感こそ発せられているが、敵意や殺意といった強烈な感情は発せられていない。ただ、意識を向けているだけだ。それはヨウタとヒナヨが、生態系を乱す存在には未だ当たらないと感じ取っているからか、あるいは敵意を向けるにすら値しないと感じているからか。

 

 

「――僕たちは君たちを害するつもりは無いよ」

 

 

 ヨウタは、敵意が無いことをアピールするために大きく両腕を掲げた。ヒナヨもそれに倣うようにして手を挙げると、しばらく訝しげに二人の様子を見つめていたポケモンたちだが、彼らに敵意や悪意が無いことを悟ると、しかし気を許す気は無いとでも言うように、フンと軽く鼻を鳴らしてその場に座り込んだ。

 ポケモン世界の住人らしい慣れた対応にヒナヨが感心していると、彼はポケモンたちと向かい合うように、一定の距離を取って向かい合う。

 

 

「何してるの?」

「目線を合わせてる」

 

 

 相手の目線に立って話をする――というのはコミュニケーションの原則だが、これは何も精神的なものに限った話ではない。実際に目線を合わせることで、その感情の揺らぎもまた相手に伝わっていくものだ。

 感情を持つ生物にとって、「相手から好かれている」と感じるのは心を開くための第一歩となる。無論、警戒心の強い者にはより強い警戒を抱かせてしまう場合もあるが、それでも好意を寄せられていると知って邪険に扱える者は少ないだろう。

 人と同じように感情を持っているポケモンにも、同じようなことが言える。相手から嫌がられているかもしれないと感じた時には時に目を逸らし、受け入れてくれると感じれば再び目線を合わせる。これを繰り返していくことで、コミュニケーションを行うための土台を作っていくのだ。

 

 

「フラー」

 

 

 ラー子もまた体を寝そべらせ、彼と同じようにポケモンたちとコミュニケーションを取ろうとしていた。

 ポケモンとの接し方のいろはを知らないヒナヨから見た時、それは一見するとあまりに悠長な接し方にも映る。しかし、最終的にこの場にいる全てのポケモンたちを外に逃がし、ジガルデに悪印象を与えないまま協力を頼む――というところまでやることを考えると、遠回りではあっても決して不合理なものではなかった。

 

 

(私は……どうしようかしら)

 

 

 ヒナヨもそれに追随するべきか悩んだが、彼女は何もしないことに決めた。彼女はポケモンのことが好きだが、その接し方にはやや一方的なものがあるという自覚がある。付け焼刃のモノマネでは、相手に警戒心を抱かせてしまうだけだ。

 そこで、彼女は彼女なりの誠意を持って、ルリちゃんを伴ってジガルデに向かって行った。

 

 

「ヒナヨ?」

「大丈夫よ。ちょっと考えてることがあるの」

「――――――」

 

 

 近づいてくる少女に対して、ジガルデは僅かに興味を示したように首を動かした。

 テレパシーなどは――伝わってこない。アニメで見られるような個体とは違うという点にやや落ち込んだものの、それは一旦脇に置いてヒナヨは何かを決意した様子でボールを取り出し、ジガルデに差し出す。

 

 

「ルリちゃん、ジガルデに私の思いを届けてくれる?」

「サナ」

「ありがと。――ジガルデ、お願いがあるわ」

「――――」

「私の家族を……正気に戻してほしいの」

 

 

 そのボールの上部からうっすらと見えるのは、一匹のマンムー――彼女が最初に出会ったポケモンであるむーちゃんの姿。

 ダークポケモンと化し、その自我を失ったむーちゃんを元に戻すこと。

 自分たちの絆を示し、敵でないことを理解させること。

 これは、その二つを同時に為すための一案だった。

 

 

 

*1
ルギア爆誕(1999年公開)

*2
ハードゴールド・ソウルシルバー(2009年発売)を指す。金・銀・クリスタル(1999年発売)ではサンダーはいない。










〇設定等紹介

・ジガルデ
 初出はポケットモンスターX・Y。当然ながら特殊能力の存在は本作オリジナル。
 でも単純なパワーだけでゼルネアスとイベルタルに対抗するって何なんだろうと思うので、原作などでも実は無効化能力などがあったりするのかもしれない。無いかもしれない。
 少なくともアニメでは何だかよく分からないがごん太な木の根をこれでもかと言うほど操っていたので生命を操る力くらいはあるかもしれない。
 ゼルネアスとイベルタルを同時に相手どらなければいけないため、より特異な個体である本作のジガルデがやってきた……という設定。


・アーシア島の三鳥
 映画「ルギア爆誕」に登場するファイヤー・サンダー・フリーザー。
 極めて特殊な個体のようで、三匹のうちの一匹が欠けるだけで自然界のバランスが崩れ、災害が頻発するほどの力を持つ。映画本編ではルギアによって調停され、災害も抑制された。個人の欲望のせいで世界滅亡の危機を呼び込む辺りジラルダンの科学力がヤバい。
 何故かサンダーはファイヤー不在の隙を突いて火の島を奪おうとするなどやけに好戦的だったりするのだが、これほど気性の荒いポケモンが自然界のバランスを担っていて大丈夫なのだろうか。


・元無人発電所(カントー発電所)のサンダー
 「金・銀・クリスタル」及びリメイク「ハートゴールド・ソウルシルバー」にて登場。
 本来この場所はカントー・ジョウト間の行き来ができるようにするために部品を届けにいく……というイベント専用の施設だったのだが、なぜかリメイク版にて発電所表の玄関脇にサンダーが配置された。本当にぽつんと配置されてるだけでイベントなどは一切無い。
 もしやあれは色違いのオニドリルだったのでは? ゴールド(仮称)は訝しんだ。

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