FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm   作:水天 道中

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前回とは打って変わって、今回と次回は新しいキャラクターがバンバン登場します。サブプロットとしてそれぞれのキャラクターの説明は入れていく予定ですからご安心を。

※今回、挿絵(さしえ)あります。


第5話 スミレ山編[序章]橙鬼館

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「まずいな……」

 先頭を歩いていたエルザが呟(つぶや)く。

「どうしたの?」

 ルーシィが尋(たず)ねると、エルザは振り返った。

「このあたりは磁場が強いらしい。コンパスが壊れてしまった。これではどっちに行けばいいのか……」

 見ると彼女が持つコンパスの針は、くるくると回り続けている。

 ルーシィ達は、いまだに『スミレ山(やま)』の方角を判じかねていた。というのも、山はかなり大きな平たい円錐(えんすい)形になっているらしく、どっちに行けばカリンの言っていた東に進んでいることになるのか、体感ではわからないのだ。

 しかも視界を遮(さえぎ)るこの濃霧。状況は限りなく最悪に近い。

 しかしルーシィは、その言葉を受けて「ふっふっふ」と不敵に笑ってみせた。

「ルーシィ、どうした?」

 ナツたち男性陣が怪訝(けげん)な表情をするが、ここは無視して続ける。

「ようやくあたしの出番がきたってことよ」

 そういって腰(こし)の鍵束(かぎたば)から一本、銀の鍵を取り出す。それを掲(かか)げると、不可視の扉(とびら)に差し込むイメージと共に手首を捻(ひね)る。

「開け、羅針盤(らしんばん)座の扉──ピクシス!」

 するとルーシィの手を中心に金色の光が溢(あふ)れ出し、そのなかから頭にコンパスを載(の)せた、赤いペンギンのような生物が現れた。

「ピクー!」

 星霊界(せいれいかい)に通じる門(ゲート)を開き、契約(けいやく)した星霊を呼び出す。これがルーシィの使う魔法(まほう)、星霊魔法である。

「おぉ、こいつは大魔闘演武(だいまとうえんぶ)の時の」

 グレイの言葉に、胸を張って説明する。

「そう、羅針盤座の星霊・ピクシス。どんなときでも正しい方角を教えてくれるのよ」

 だが、当のピクシスはビクリと震(ふる)えると、そそくさとルーシィの背に隠れる。彼の視線を追うと、その先には、エルザ。

 ルーシィはすぐに状況を理解し、苦笑した。

 二年前の大魔闘演武予選で、ルーシィは立体迷路を攻略するためこの星霊を呼び出したのだが、その時エルザがコンパスを持っていたせいでなんの活躍もさせられず、星霊界に帰してしまったのだ。

 しかも星霊界はこの世界とは時間の流れが異なり、あちらでの一日はこちらの三ヶ月に相当する。まだトラウマが消えていないのだろう。

 一瞬(いっしゅん)きょとんとした表情をしたエルザも、さすがの察しの良さでコンパスを掲げてみせた。

「安心してくれ。これは壊れている」

 その言葉にピクシスは羽でバランスを取りながら前に進み出た。その様子を微笑を浮かべて見ていたルーシィは、改めて明るい声を出す。

「さぁピクシス、東はどっち?」

 ピクシスは頭のコンパスに両の羽を当て、「ピクピクピク……」と唸(うな)り始めた。高速で回転していた針は、ややもせずピタリと止まる。方向は進行方向やや右。

「ピクー!」

「あっちよ!」

 両の羽でビシッと東を差し示したピクシスとともにルーシィが指先を向けると、一行は軌道を修正、行軍(こうぐん)を再開した。

 それからしばらくして、地面に緩(ゆる)やかな勾配(こうばい)がついてきた。ようやく本格的に『スミレ山』を登り始めたらしい。

 と、その時、ルーシィが歩いていた脇の草むらが突然(とつぜん)がさりと鳴った。

「──ッ」

 ぎょっとして足を止めるが、他に異常はない。そう思ったのも束(つか)の間、今度は周囲の木々が一斉(いっせい)に大きく揺(ゆ)れ始めた。

「ちょっと、なによこれ!?」

 ルーシィの叫びに、ピクシスとウェンディも不安そうに身を寄せてくる。

「一体、なにが起こってやがる……」

 グレイが眉(まゆ)をひそめて呟(つぶや)いた数秒後、謎(なぞ)の怪現象は発生したときと同様唐突(とうとつ)に止(や)み、辺りには再び、耳が痛くなるほどの静寂(せいじゃく)が戻ってきた。

「止まった……?」

 ルーシィが呟くと、エルザが真剣な表情で振り返る。

「恐らく、いまのがカリンが言っていた現象で間違いないだろう。この先、なにが起こるかわからん。注意して進むぞ」

 その言葉に、顔を強張(こわば)らせながら各々(おのおの)頷(うなず)きあった。

 

 

 カリンは、昔受けた仕事の記録を読み返しながら、独り物思いに耽(ふけ)っていた。『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に渡す報酬(ほうしゅう)が思いのほか早く決まってしまい、手もちぶさたになっていたのだ。

 顔を上げると、セリナは正面の席で人形片手に大人(おとな)しく小説に視線を落としている。その表情を、カリンはいつしかじっと眺めていた。

 よく笑い、よく泣き、よく怒るセリナ。ここまで感情を見せてくれるのに丸々一年も費した。

 彼女と出会った頃(ころ)の事に思いが至ると、ちくりと胸を痛みが刺す。

 ラグリアの仲介で知り合った頃のセリナの、敵愾心(てきがいしん)と人間不信にすさんだ瞳(ひとみ)には面食らった。あれほど頑(かたく)なな拒絶を、カリンはこれまで味わったことがなかった。

 しかしいまでは、カリンとラグリアの二人共によくなついてくれており、少し活発過ぎるきらいはあるが、そんなところも含めてカリンはセリナのことが好きだ。無論年のはなれた妹、いや、口幅(くちはば)ったい言い方をすれば自分の娘(むすめ)のような──。

 そこまで考えてからふと我(われ)に返り、カリンは耳まで真っ赤(か)になった。同時に、計ったようなタイミングでセリナが顔を上げ、ばちりと視線が交錯(こうさく)する。

「ン? どしたのカリン?」

「う、ううん、なんでもないよ‼」

 首を傾(かし)げるセリナに慌(あわ)ててぶんぶんと首を振ると、俯(うつむ)いて滅茶苦茶(めちゃくちゃ)にページをめくり、強引に資料を読むふりをする。少ししてから僅(わず)かに目線を上向(うわむ)けると、セリナはもう読書を再開していた。

 内心で安堵(あんど)に胸を撫(な)で下ろすと、カリンも改めて視線を落とす。気づけば『スミレ山』の情報をまとめた箇所(かしょ)を開いていた。自然気持ちが切り替(か)わり、カリンは再び思考に没入する。

 そういえば、『妖精の尻尾』の面々はいま頃どうしているだろうか。

 ラグリアの『空間接続(ディストーションライン)』による転移(てんい)が成功していればそろそろ『スミレ山』に着く頃ではないか。そこまで考えて、カリンは思わず笑ってしまった。カリンとて、彼らの実力を知らないわけではないのだ。

 このフィオーレ王国が誇(ほこ)るイシュガル最強の魔導士(まどうし)ギルド、『妖精の尻尾』。彼らの名を知らない者は、もうこの大陸にはいないと言っても過言(かごん)ではない。それでもカリンが慎重(しんちょう)を期したのには、幾(いく)つかの理由がある。

 『スミレ山』を調査して、初めカリンは山自体に何らかの仕掛(しか)けがあると考えた。しかしその推測は、帰り際(ぎわ)に山頂の館に灯(とも)る明かりを見たことで、そこの住人の仕業(しわざ)だろうという、確信に近いものになっている。館の住人が宝石を守っているのであれば、それを狙(ねら)う侵入者を追い返すというのは至極(しごく)当然のことだ。

 そこでカリンは、はたと疑問に思う。

 では、館の住人は一体どうやって侵入者の存在に気づいている? 門番のような役割を担(にな)う者がいるとしても、相手が山に入った時点で気づくというのはいくらなんでも早すぎやしないだろうか。

 そもそも、霧で相手を混乱させるという方法からしておかしい。

 動揺(どうよう)を誘って追い返すことが目的ならば奇襲(きしゅう)をかける方がよっぽど効果的だし、自身も影響を受けてしまったのではむしろ逆効果になる。

 更に財宝を狙うような者はおおよそ盗賊(とうぞく)やトレジャーハンターであることがほとんどだ。霧が出たくらいで驚(おどろ)くような物好きの素人(しろうと)の方が少ないだろう。

 その時、脳裏(のうり)に電光が走り、カリンは思わずあっと声を上げた。右手で口を押さえ、椅子(いす)を鳴らして立ち上がる。セリナがぎょっとして顔を上げた。

「えッ、ちょっとカリン、ホントにどうしたノ!?」

 しかし、カリンにはその声ももう聞こえていなかった。急いでドレスのポケットから小型通信魔水晶(ラクリマ)を取り出すと、コマンドを叩(たた)き込んで耳に押しつける。

 やはり自分の直感は間違っていなかったのだ。もし仮にこの推測が正しかった場合、大変なことになる。

 ──私としたことが、こんな簡単なことに気づけなかったなんて……ッ。

 コール音が何度も鳴る間、カリンは必死に『妖精の尻尾』の無事を祈った。

 

 

 ラグリアは『妖精の尻尾』のバーのカウンター席に座り、看板娘(むすめ)ことミラジェーンとの雑談に花を咲(さ)かせていた。

「今日の昼も、見事に野菜炒(いた)めを黒焦(こ)げにされてしまってね」

「あらあら……」

 居候(いそうろう)の少女の所業に、ミラジェーンは苦笑する。

「それで、セリナにどうしたら野菜を食べてもらえるか、相談に来たんだ」

「そうねぇ……。野菜が見えてたら駄目なんだから、ハンバーグに混ぜるとか……」

 その時、ラグリアの通信用魔水晶(ラクリマ)に着信があった。「失礼」といって席を離れ、通話に応じる。

「どうしたんだい?」

『──大変なの、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の皆(みんな)が──ッ』

 切迫(せっぱく)したカリンの続く言葉に、ラグリアは耳を疑った。

「……なんだって……?」

 

 

 ようやく『スミレ山』の麓(ふもと)にたどり着いたルーシィ達は、順調に歩(ほ)を進めていた。

 その時、耳元で聞きとれるかとれないかの小さな声がした。

「…………去れ……」

「? ウェンディ、なにか言った?」

 隣(となり)を歩いていたウェンディは、きょとんとした表情で小首を傾(かし)げる。

「なにも言ってませんよ?」

 おかしいな、と首を捻(ひね)りつつ、なんとなしに周りに視線をやっていると、ナツがいきなりなにもない所で躓(つまづ)いた。

「うおッ。──おいグレイ、なにすんだ!」

「あぁ? なにがだよ?」

「とぼけんじゃねぇ、いま押したろ!?」

「知らねぇよ、自分でこけたんだろ」

「んだとコラ」

「やんのかテメェ」

「ちょ、ちょっと二人とも、やめなさいよ……」

 ルーシィが仲裁(ちゅうさい)に入ろうと手を伸ばした、そのときだった。

「──ナツ、グレイ、伏せろッ!」

「「ハイッ! ……って、え?」」

 エルザが、剣を振りかぶって二人に斬(き)りかかっていた。二人が慌(あわ)ててしゃがむと、水平に振り抜かれた剣がその上を通過する。

「お、おい、どうしたエルザ!?」

 ナツが叫ぶが、エルザは聞こえていないのか、周囲の森に視線をさまよわせている。そして、次の瞬間(しゅんかん)──。

「──ルーシィ、かわせッ!」

 今度はルーシィに向かって突っ込んできた。

「ひいぃッ! なに、なに!?」

 咄嗟(とっさ)に飛び退(の)くと、たったいまルーシィがいた位置に剣が振り降ろされる。

「ちょっとエルザッ? 止まりなさい!」

「エルザが壊れたぁッ!」

 シャルルとハッピーが叫ぶなか、当のエルザは再び油断なく構える。次に起こった現象は、ルーシィ達の理解を超えたものだった。

 エルザの剣がいきなり耳をつんざくような金属音を撒(ま)き散らし、その横腹からへし折れたのだ。折れ飛んだ剣の半身は、回転しながら宙高く吹っ飛び、上空できらりと陽光を反射したかと思うと、少し離れた地面に突き立つ。

 全員が唖然(あぜん)として見守るなか、それを見たエルザはなにかを確信したような顔になり、再び叫ぶ。

「何者だ、姿を現せ‼」

 しばしの静寂(せいじゃく)。そして──霧の中から、ルーシィが聞いたあの声が聞こえた。

「──まさか私の戦略が見破られるとはね……」

 見ると、霧がルーシィ達の背後に凝集(ぎょうしゅう)し、少女の顔をかたちづくった。その輪郭(りんかく)は周囲の霧に溶けるように同化して、顔以外にも霧が濃くまとわりついており判然としない。まるで石膏(せっこう)の壁に人の顔だけを彫(ほ)ったかのようだ。その位置から、彼女の身長がウェンディよりやや高いくらいだとわかる。伏せられていた瞳(ひとみ)が薄く開かれ、鋭(するど)い視線がこちらを射た。

「でも、それだけでやられる私じゃないわよ」

 再び霧が拡散して、少女の気配は掻(か)き消えていた。全員で背中合わせになり、新しい剣を出したエルザが虚空(こくう)に向かって叫ぶ。

「待ってくれ! 私たちは、お前たちと戦いに来たんじゃない!」

「じゃあなにが目的なの?」

 声は霧で拡散され、出所がわからない。

「この山にあるという宝石を探しに来た。盗(と)りに来たんじゃない、探しに来たんだ!」

 わずかに少女が考え込むような沈黙(ちんもく)。

「……害意はないのね?」

 エルザは構えを解き、剣を消す。ルーシィはぎょっとして彼女を見た。

「ちょっ、エルザ!?」

「あぁ、当然だ。これでいいか?」

 再びの沈黙。そして──。

 ──ルーシィ達を取り囲んでいた霧が、生物めいた挙動で退いた。

「詳しく聞かせてもらえるかしら?」

 気づくと、先ほどの少女がルーシィ達の三メートル前方に立っていた。その容姿を見て、ルーシィは息を呑(の)む。

 紺(こん)色の戦闘(せんとう)服に、ショートパンツ。さらさらとした黒髪はストレートのショートだが額(ひたい)の両側で結わえた細い房がアクセントになっている。くっきりとした眉(まゆ)の下で、ネコ科の動物を思わせる藍色(あいいろ)の大きな瞳(ひとみ)が、こちらを見据えていた。

 そして、彼女の頭には、上向きに伸びる左右非対称の流線形の、紺色の角(つの)。

 ──明らかに、人間ではない。

 皆(みんな)を代表してエルザが進み出る。

「私達は、魔導士(まどうし)ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』という。ある人物からこの『スミレ山』の情報を聞いて、調査しに来た」

 少女はそれに対し、感情の薄い声で応(こた)える。

「そう。私はミレーネ・カトラシア。この先に建つ橙鬼館(とうきかん)っていう館の門番をしている鬼よ」

「オニ…………って、悪魔とどう違う──ッ」

 ハッピーがなにかを言いかけたところでミレーネと名乗った少女が全身から凄(すさ)まじい殺気を放った。

「死にたいの、ネコちゃん? あなたくらいならウチのモンスターの餌(えさ)にもならないし、料理して私たちで食べようかしら」

「あうぅ、ご、ごめんなさい……」

 ミレーネは一度深呼吸すると、軽く首を振る。

「いいえ、こちらこそごめんなさい。このテの話題はどうも感情の抑(おさ)えが利かないの」

 改めてこちらを見て、ミレーネは一つ頷(うなず)いた。

「私達にとっては、敵意のない人間はお客さんなの。館に用事があるのよね? 案内しながら色々説明してあげるから、ついてきて」

 呆気(あっけ)に取られたルーシィ達が固まっていると、霧に溶けかけたミレーネが「早く」と急(せ)かす。

 慌(あわ)てて後に続くが、すぐに異変に気づく。ルーシィ達の周りだけ、綺麗(きれい)に霧が晴れているのだ。

「やはり、この霧はお前の仕業(しわざ)なのか?」

 エルザの問いにミレーネは前を向いたまま答える。

「『濃霧帯(ホワイトアウト)』。それがこの霧を出す技の名前よ。私たち鬼は、魔法(まほう)とは違う『武法(ぶほう)』という力を操るの」

 ミレーネは一拍(いっぱく)おいて続ける。

「他にも鬼には色んな特徴があるわ。まず、基本的に酒と勝負事が大好きで、嘘(うそ)と悪魔が嫌い。だからいまの私も正直に質問に答えてるわ。

 ちなみにウチにはあと何人か鬼がいるけど、彼女達の前では悪魔の話は基本タブーよ、気をつけてね。

 あと、身体能力や筋力、五感なんかも人間とは比べものにならないくらい優れているし、なによりこの角(つの)」

 ミレーネは自分の角を指差した。

「私を含めて、武法を使ったりして隠せるヒトもいるけど、やっぱりこれが一番の特徴ね」

 ミレーネは一度立ち止まり、今度は後方の森を差し示す。

「この森には、ウチのメイド達が飼い慣ら(テイム)したモンスター達が山ほどいるわ。さっき戦ってたのがあなた達よね?」

 そこでグレイが、おもむろに口を開いた。

「なぁ、一応俺(おれ)たちのことは信じてもらえたみてぇだけど、そんなに情報ペラペラ喋(しゃべ)っちまっていいのか? 俺たち、実質部外者だろ」

 すると、歩き出そうとしていたミレーネが再び動きを止め、半分だけ振り返る。さっきは藍に見えた瞳が、薄青く底光りしながらルーシィ達を射貫(いぬ)いた。

「言ったでしょ? ここにはモンスターが山ほどいるって。仮にあなた達が嘘を吐(つ)いていて、私から情報を抜き取ることが目的なら手遅れよ。──だってあなた達、もう囲まれてるもの」

「──!?」

 慌ててルーシィ達は視線を周囲に巡(めぐ)らせるが、どんなに集中しても気配はまったく感知できない。しかし鬼が嘘を嫌う種族であるというからには、ハッタリではないのだろう。

「自分達が置かれてる状況がようやく飲み込めてきたんじゃない? あなた達が私に敵意を向けた瞬間、森のモンスター達があなた達を狩(か)るのよ。仮に私を倒せたとしても、結果は同じ。いまは私がいるから攻撃(こうげき)してこないだけ。だから余り私の傍(そば)を離れないで。彼らの餌になりたくなければね」

 その言葉に、ルーシィ達は言葉もなくミレーネの後に続いて山を登っていった。

 

 

      2

 

 

「着いたわ。──ようこそ、私達の家、橙鬼館(とうきかん)へ」

 ルーシィ達がたどり着いたのは、見上げるほど巨大な門の手前だった。

 門の中央上部には、山の上に円があり、そこから放射状に角(つの)のようなものが三本生えたマークが刻(きざ)まれている。

 

【挿絵表示】

 

 ミレーネが門に手をかけると、案に相違して軽い音とともに奥手側に向かって開く。果たしてそこには、絵本の中のような光景が広がっていた。

 幾何学(きかがく)的に刈り込まれた庭木のある広大な庭園は、完全な左右対称(シンメトリー)になっており、その上を透(す)き通った緑色の翅(はね)の生えた十歳ほどの少女達が、飛び回りながらせっせと庭木に水をやっている。その姿からひと目で人間ではないのはわかるが、鬼でもなさそうだ。彼女達は一体……。

 不思議な光景の中をゆっくり歩いていくと、やがて館の正面玄関に突き当たる。

 再びミレーネが押し開けると、今度は左右に伸びる長大な通路が現れた。巨人の家に迷い込んだかと思うほど広い。

 しばらく歩いたところで、ミレーネがとんでもないことを呟(つぶや)いた。

「──私たち鬼は妖精(ようせい)をメイドとして雇(やと)って、色んな仕事をさせてるの」

 ミレーネの言葉に、ぎょっとして彼女を見る。

「妖精? あの水やりをしてた子達って、妖精なの!?」

 鬼の少女は、要領を得ない顔で振り返る。

「そうだけど、なに?」

「いや、だって……」

 妖精は実在したのか、そう喉元(のどもと)まで出かかる。ミレーネはルーシィの反応にはさして興味を示さず、すぐに前に向き直ると説明を続けた。

「妖精には色んな種類がいて、それぞれに得意分野があるわ。まず、武器(ぶき)の扱いと攻撃(こうげき)、火属性の魔法(まほう)に長(た)けた火妖精(サラマンダー)」

「はい?」

「え?」

 歩きながら再び思考停止するミレーネとルーシィ。

「……なに?」

「あ、いや、ちょっとね……ごめん」

 ──サラマンダーって、火竜(ナツ)じゃん。

「……次に、回復、水魔法と水中活動に長けた水妖精(ウンディーネ)、主に給仕(きゅうじ)係をしているわ。聴力と高速飛行、風魔法に長けた風妖精(シルフ)、さっき庭木に水をやってたのは彼女達。建築、採掘(さいくつ)、土魔法に長けた土妖精(ノーム)。

 それから、光がある程度あれば無限に飛べる光妖精(アルフ)。逆に闇夜でも飛べて暗視能力ももち、主にトレジャーハントをしている闇妖精(インプ)。敏捷(びんしょう)性に長け、飼い慣らし(テイミング)能力ももつ猫妖精(ケットシー)。楽器演奏と歌唱に長けていて、妖精達で楽団を結成している音楽妖精(プーカ)。鍛冶(かじ)やものの修理をこなす鍛冶妖精(レプラコーン)。……ざっとこんな感じね」

 ルーシィ達は、一気に脳に情報を流し込まれて軽い興奮状態に陥(おちい)っていた。しかし、一つだけ全員が共通して理解したことがある。

「妖精(ようせい)って、本当にいたんですね」

「うん、そうだね、ウェンディ」

「え? 私、なにも言ってませんよ?」

「え?」

 ルーシィはウェンディの隣(となり)を見る。そこには、先程まで確かにいなかった人物が平然と歩いていた。

 薄い桃色(ももいろ)のフリル付きロングドレスに裸足(はだし)、耳のような羽飾りを頭に着けた少女。

「「「「「「「初代ッ!?」」」」」」」

 ──『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』初代マスター、メイビス・ヴァーミリオン。

 五人と二匹、全員が叫んだせいで、今度こそミレーネが跳(と)び上がった。

「えッ、なに!? っていうかあなた達なんなの!? さっきから変なところで引っかかったり、いきなり大声出したり……」

 ミレーネに軽く謝罪し、なんとか言いくるめると、彼女は釈然(しゃくぜん)としないながらも前に向き直る。

 メイビスの体は幽体(ゆうたい)というわけではなく、れっきとした魔力(まりょく)による思念体(しねんたい)だが、ミレーネには見えておらず、声も聞こえていない。というのも彼女が指定した制約により、彼女の姿は『妖精の尻尾』メンバー以外の者には見えないのだ。

「初代、どうして……?」

 全員の気持ちを図(はか)らずも代弁(だいべん)したウェンディの言葉に、感動でだばだばと涙を流していた少女は袖(そで)でごしごしと目を擦(こす)ると、キラキラした大きな瞳(ひとみ)でルーシィ達を見上げる。

「暇(ひま)なので、来ちゃいました」

「来ちゃいました、って……」

 ルーシィは苦笑した。相変(あいか)わらず、この人は自由だ。

 メイビスは、前を向いたまま口を開く。

「スミレ山(やま)、面白いところですね。私、感動しました」

 その言葉に、誰(だれ)からともなく微笑(ほほえ)んだ。

 ──妖精に尻尾はあるのかないのか。そもそも妖精は本当にいるのか?

 ──ゆえに永遠の謎(なぞ)、永遠の冒険。

 それこそが『妖精の尻尾』初代マスター・メイビスの掲(かか)げたギルドの基本理念である。

 その時、「ぎゃあああああ!」という悲鳴が聞こえた。今度はルーシィがびくりとする。

「えッ、なに?」

「あー……。いつものことよ」

 ミレーネは前を向いたまま、呆(あき)れた声を出す。

 ほどなくして、数個前方の部屋から一人の女性が飛び出してきた。黄色から赤ヘと頭頂部からグラデーションのかかった派手なロングヘアーとは対照的に黒の多いシックなワンピースのメイド服を着こみ、頭には二本の円錐(えんすい)形の白い角(つの)。その容姿から、すぐに彼女が鬼だとわかった。

 女性は素早(すばや)く左右に視線を巡(めぐ)らせるとミレーネの姿を見つけ、見事なフォームでダッシュしてくると頭一つ分以上低い少女にすがりつく。

「うわあぁぁん、ミレーネさぁん、助けて下さいぃ。アイツが、アイツがまた出たんですうぅ」

「まったく……。バーナ、あなたねぇ、いい加減(かげん)自分で対処できるようになりなさいよ。ここに来て何年目だと思ってるの?」

「だって、だってぇ……」

「あのー、どうしたの……?」

 ルーシィが尋(たず)ねると、ミレーネはバーナと呼んだ女性をくっつけたまま呆れ顔で振り返る。

「まぁ、見てればわかるわ」

 バーナはすぐに立ち直ったらしく、ミレーネから離れると一緒についてきた。

 ミレーネは問題の部屋の前までくると右の掌(てのひら)をまっすぐ突き出す。

「『濃霧帯(ホワイトアウト)』」

 すると部屋全体が濃い霧に包まれる。

「この技で出す霧は私の触覚と連動していて、出した範囲内の地形なんかを動かずに知る事ができるの」

 少しして、ミレーネは閉じていた瞳(ひとみ)を開いた。

「そこ」

 ミレーネが部屋の一角に掌を向けると、霧がそちらに集まっていく。

 小さな球状になった霧に包まれて引きずり出されたのは、茶色がかった黒い虫──ゴキブリだった。隣(となり)に立つバーナが「うえッ」と漏らす。

「蒸発」

 そういってミレーネが右手を握(にぎ)ると、ジュッと音を立てて霧の球が蒸発。ゴキブリが死んで床に落ちる。

「はい、これでいいわね」

「え? し、処分は……」

「これで、いいわね?」

 ミレーネが発する不可視の圧力に、バーナががくりと項垂(うなだ)れた。

「はい……わかりました……」

 バーナは、持っていたちりとりと手箒(てぼうき)でゴキブリを処分した後、こちらに向かって歩いてこようとして、そこでようやくルーシィ達に気づいたらしい。

「あれ、ミレーネさん、その方達は?」

「人間のお客様よ。『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』っていう魔導士(まどうし)ギルドの人達だって」

 バーナは「へぇ」と一つ呟(つぶや)くと、ミレーネの隣まで歩いてきて折り目正しく礼をする。

「改めて、初めまして、バーナ・トールスです。この館のメイド長で、地下図書館の司書もしています。先程はお恥(は)ずかしい姿を晒(さら)してしまいました」

 後ろ頭を掻(か)くバーナの挨拶(あいさつ)に、それぞれ簡単な自己紹介で応(こた)える。

「それで、いまレンカのところに案内しようとしてるの」

 ミレーネの言葉で、バーナも状況を理解したようだった。

「そうですか。じゃあ私も、館の見回りがてらご一緒します」

 こうして、新たなメンバーが一行に加わった。

 

 

      3

 

 

 そこでミレーネがふと前方を見ると、口元を緩(ゆる)める。

「ちょうどいいところに、ちょうどいい子が来たわね」

 見ると、闇の中から溶明(ようめい)したのは、四(よ)つん這(ば)いでも高さ二メートル近くあるオオカミだった。白銀に輝く美しい体毛と剣歯虎(サーベルタイガー)めいた犬歯(キバ)をもっている。

 全員で思わず悲鳴をあげるが、すぐにオオカミの上から「おや?」という声。

 ルーシィ達が固まったまま見上げると、オオカミに誰(だれ)か乗っている。その人物は、その場で跳(と)び上がろうとして思い切り天井(てんじょう)で頭を打つと、「ここの天井低いんだよにゃ〜」といってずるずると降りてきた。

 両サイドを三つ編みにしたおさげの赤髪にネコ科の黒い耳と尻尾。身にまとうのは橙色(だいだいいろ)の戦闘(せんとう)服。背中からは透明な小麦色の翅(はね)が生えている。その容姿から、鬼とは明らかに違う雰囲気(ふんいき)を感じた。

 少女は人懐(ひとなつ)っこい笑みを浮かべて口を開く。

「やぁ、あたいは猫妖精(ケットシー)のリリス。皆(みんな)からは『迅狼(じんろう)使いリリス』とも呼ばれてるね。あ、あんた達のことは大体聞いてるから、自己紹介は結構(けっこう)だよ」

 そこでリリスと名乗った少女は、ルーシィ達の視線に気づいて苦笑する。

「あぁ、この子は『剣歯狼(サーベルウルフ)』。名前はフェンリルっていうんだ。見た目は怖いかもだけど、絶対噛(か)まないから安心しな」

 リリスがフェンリルと呼んだオオカミの下顎(したあご)を撫(な)でると、フェンリルは目を細めてされるがままになる。確かに、ルーシィたちを見ても唸(うな)り声ひとつ上げないことが、彼女の言葉を裏付けていた。

「ちなみにこの頬(ほお)のペイントはこの子との絆の証さ」

 にッ、と笑った少女の右頬には、大小二本の水色の牙状のペイントがあった。

 しかし、そこで一転、リリスは哀切(あいせつ)に訴える。

「ねぇミレーネさん、いい加減フェンリルの大浴場への出禁(できん)解除して下さいよ〜。皆(みんな)入った後、夜に入ればいいじゃないですかぁ」

「だーめ。あなたついこの間アシュリーがアレルギー起こして倒れたの忘れたの? 毛一本でも落ちてたら反応しかねないんだから」

「だって部屋の浴室じゃ狭(せま)いんですってば〜」

「駄目と言ったら駄目。これだけは譲(ゆず)れないわ」

「むうー」

「ま、まぁまぁ、ミレーネさん、そんなぴりぴりしなくても……」

 不穏(ふおん)な空気を感じ取り、バーナが仲裁(ちゅうさい)に入る。

 ルーシィ達が苦笑して手をこまねいていると、再びリリスがにやりと笑ってこちらを見た。

「あ、そうそう、森の小鳥たちから聞いたよ。あたいの可愛(かわい)い使い魔たち相手に、随分(ずいぶん)と暴れてくれたそうじゃないか」

 その言葉に、ルーシィはぎくりとする。

「あ、えッ、あのモンスター達ってあなたの……? あの、それは、ごめんなさい……」

 しかしリリスは笑って顔の前で手を振る。

「いやいや、怒ってるわけじゃないよ。『妖精の尻尾』だっけ? あんた達強いんだねぇ、って話さ。あたいの使い魔達があれだけやられたのは何年ぶりかねぇ」

 やけに年寄り臭い話し方をする少女の気に飲まれそうになりながら、ルーシィは口を開いた。

「あの、それで、『あたいの使い魔』って……?」

 リリスは、一瞬(いっしゅん)きょとんとした表情になる。

「ん? そのままの意味さ。この森の、あんた達が来た方角にいるモンスター達は皆あたいが飼い慣ら(テイム)したんだよ。あたいはハイレベルテイマーの一人だからね」

「へぇ……。……あ、そうだ。あたしたち、この山にあるっていう宝石を探しに来たんだけど、なにか知らない?」

 その言葉に、彼女は顎(あご)に手を当て考え込む。

「宝石……いや、知らないね」

「そう……」

 ミレーネも心当たりはなさそうだったし、となるとカリンが言っていた話は何だったのか。

 ルーシィが思考に没入しかけたとき、近くの部屋の大きめの扉(とびら)が内側から開かれた。

 出てきたのは十歳くらいの少女だった。ストレートロングの黒髪の下から、紫色の翅が生えている。

 少女は目を閉じたままこちらに向かってゆっくりと歩いてきながら、ぶつぶつと呟(つぶや)く。

「聞こえる……知らない声、知らない足音、知らない心音……。聞こえる……。あなた達は人間ですね?」

 目を薄く開いてこちらを見る少女にリリスが明るい声をかけた。

「おぉ、ルミネアちゃんか。この人達はね――」

 その時だった。

「──『探索の音色(サーチ・サウンド)』」

 唐突(とうとつ)に少女が技名を呟き、ルーシィ達は一拍(いっぱく)遅れて身構えた。しかし、なにかが起こるでもなく、少女が続ける。

「聞こえる……。……なるほど、大体理解しました。あなた達は魔導士ギルド『妖精の尻尾』。珍(めずら)しい宝石があるという噂(うわさ)を聞き、この山に探しに来た、と」

 ルーシィ達は、全員が残らず瞠目(どうもく)した。

「なんで……わかるの……?」

 ルーシィの呟きに答えたのは、リリスだった。

「あー、そっか、君には言葉での説明は不要だったね。紹介するよ。彼女は音楽妖精(プーカ)のルミネア。いまみたいに、人の心を読むことができるんだ」

「妖精楽団団長、ルミネアといいます。突然(とつぜん)のご無礼、お許しを」

 静かな声でリリスの言葉を引き取ったルミネアは、両手をこちらに差しのべる。

「お詫(わ)びに、私の能力の一部をお見せしましょう」

 すると、彼女の両手に淡(あわ)い光をまとったバイオリンが出現する。

「このように、私たち音楽妖精には魔力(まりょく)によって楽器を実体化する能力があります」

 そういって、おもむろにバイオリンを弾(ひ)き始める。穏(おだ)やかな音色が流れた。

 少しして演奏が終わりバイオリンを消すと、ルミネアは再び口を開く。

「動揺(どうよう)を落ち着ける音色を奏でました。いかがでしょうか?」

 ルーシィはハッとして手を開閉してみる。確かに、先ほど彼女が現れた時の動揺が去っている。

 ──これが音楽妖精の力……。

「ありがとう、ルミネアちゃん」

 ルーシィが笑いかけると、率直な物言いに慣れていないのか、ルミネアは頬(ほお)を染める。

「楽団の練習があるので」

 そういって、彼女は戻っていった。他の部屋よりも大きいあの部屋は音楽室かなにかだったらしい。

「さて、それじゃ、皆ついてきて。リリス、あんたはフェンリルの散歩よね、来る?」

 ミレーネが言うと、リリスは破顔(はがん)した。

「楽しそうだし、行きます」

 

 

 それからしばらく館の中を歩いていると、再び誰(だれ)かがこちらに向かって来たらしい。ミレーネが「あれは……」といって足を止める。

「──ちょっと文(あや)さん、そんなに急がなくても大丈夫ですってば」

「──なにを言いますかメープル、善は急げ、ですよ」

 騒(さわ)がしい話し声と共に、二人の女性が歩いて来た。一人はイヌ科の白い耳と尻尾をもち、もう一人は背中に鳥のような黒い翼(つばさ)が生えている。

 二人の頭には、いわゆる頭襟(ときん)と呼ばれる赤い物体が載(の)っていた。

 黒い翼の生えた女性が先にこちらに気づき、何やら意味ありげな笑顔を浮かべる。

「あややや、こんなところに人間とは珍しいですねぇ」

 ミレーネが、あからさまに嫌そうな顔をした。

「白々(しらじら)しい……。あんたこの人たちのこと、最初から見てたでしょ?」

「!?」

 ぎょっとしてルーシィが見ると、女性はにやにやと笑いながら続ける。

「何の話ですかねぇ? 私(わたし)はこれが初対面ですが?」

 そう言うと、こちらに向き直った。

「申し遅れました。私(わたくし)、鴉天狗(からすてんぐ)の疾風丸(はやてまる) 文(あや)といいます。新聞社の広報活動をしていますので以後、お見知りおきを」

「私(わたし)は白狼(はくろう)天狗、メープル・スプリンターといいます。森の中規模警備部隊、『白狼隊(はくろうたい)』の隊長を務めてい──にゃッ!」

 文と名乗った女性に続き、白いイヌ耳の女性が自己紹介していると、文がおもむろにメープルの尻尾を掴んだ。

 メープルは文をキッと睨(にら)む。

「尻尾はやめて下さいと言ってるでしょうが!」

 敬語の怪しくなった女性にも、文はのらりくらりと応じる。

「すいません、反応が面白いものでつい……」

「「まったく……」」

 呆(あき)れたメープルと、ミレーネの声がハモった。

 文は気を取り直すと、ポケットからペンとメモを取り出す。そこで彼女の腕(うで)がメープルの尻尾に引っ掛かった。

「にゃッ。……もうッ」

「えッ? あぁ、すいません、事故です事故。

 ……それでは、早速ですが、取材させて下さい! あなた達、魔導士ギルド、『妖精の尻尾』の方達ですよね?」

「私達のことを、知っているのか?」

 エルザが言うと、文は首が千切(ちぎ)れんばかりに頷(うなず)く。

「えぇ、勿論(もちろん)! そう言う貴女(あなた)は、エルザ・スカーレットさんですね? 『妖精女王(ティターニア)』の二つ名をもつ『妖精の尻尾』最強の女!」

「そう言われると、恥(は)ずかしいものだな」

「エルザ、流されちゃ駄目よッ」

 シャルルが注意するが、今度は彼女に矛先(ほこさき)が向く。

「貴女はシャルルさんですね。昨年変身魔法を覚えられた。

 そして貴方(あなた)は、ナツ・ドラグニルさん。『火竜(サラマンダー)』の二つ名をもつメンバーのエース!

 さらに貴女はルーシィ・ハートフィリアさん。昨年新しい魔法を覚えられたそうですが、それによって、かなり戦闘(せんとう)能力が向上されたとか。まだまだありますよ──」

「──にゃッ!」

「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」

 その時メープルが、唐突(とうとつ)に悲鳴を上げた。全員の視線が一斉(いっせい)に彼女に集中する。

「メープル? どうかしました?」

 文が視線を向けると、メープルは俯(うつむ)いてぶるぶると震(ふる)え、押し殺した声を出した。

「…………た、じゃ……」

「え?」

「『どうかしました?』じゃないですよッ! もう怒りました。覚悟(かくご)して下さい!」

 メープルが持っていた曲刀を振りかざし、文に斬(き)りかかった。文は危なげなくかわす。

「えッ、ちょ、ちょっと待って下さい、誤解ですって!」

「何が誤解ですかッ、いま私の尻尾また触ったでしょうが! 仏の顔も三度までって言葉知ってますか!?」

「いやいやいや、ホントになにも知りませんって! 待って、斬らないでぇッ!」

 逃げていく文とそれを追うメープル。事態の流れから完全に取り残されたルーシィ達が呆然(ぼうぜん)と見送る中、ミレーネだけが楽しそうにクスクスと笑っていた。

「あれッ、ミレーネさん、さっきからそこにいました?」

 バーナの指摘に、ミレーネは笑顔のまま顔を上げる。

「ん?」

「……。あ! さっきメープルさんの尻尾触ったの、ミレーネさんですねッ?」

 鬼の少女は、悪びれもなく応(こた)えた。

「だってメープル(あの子)の反応、可愛(かわい)いんだもの」

 その言葉で、全員が状況を理解した。

 ミレーネは、霧とは別に姿を隠(かく)す何らかの技をもっている。それを利用して人知れずメープルの背後に回り、文の仕業(しわざ)に見せかけて彼女の尻尾を触ったのだろう。

 ミレーネの思いがけないお茶目な行動に、全員が苦笑を漏らした。

 しかし次の瞬間(しゅんかん)、ミレーネの表情が峻厳(しゅんげん)なものに変わる。視線は右側、窓の外に向けられていた。

「──侵入者」

 彼女の言葉に、場の空気が一気に張り詰めた。

 

 

 




さて、それでは新しいキャラクターについて説明していきましょう。
ミレーネのイメージはSAOのシノン(ゲームのSAO対応アバターの姿)に、ポケモンのメガアブソルの角(つの)を生やした感じです。
バーナのイメージは東方Projectの小悪魔、性格は紅(ほん) 美鈴(めいりん)をイメージしました。
リリスのイメージは同作品の火焔猫(かえんびょう) 燐(りん)。服は新規ALOのシノン。
ルミネアのイメージはブラック・ブレットの壬生(みぶ) 朝霞(あさか)。
疾風丸のイメージは東方Projectの射命丸(しゃめいまる) 文(あや)。
メープルのイメージは同作品の犬走(いぬばしり) 椛(もみじ)です。
以上、長くなってしまいましたが、悪しからず。次回の後書きもこんな調子になるんだろうなぁ……。
それでわ、しーゆーあげいん!

〈加筆修正一覧〉
3、4、18
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