FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm 作:水天 道中
前回に引き続き、今回もバトル回です。
それでは第8話、どうぞ!
最初に聞こえてきたのは、チュンチュンという鳥の鳴き声だった。
なにか、とても柔らかいものにくるまれている。温かくて心地いい。
沼の底から
目を開け、視線を宙にさまよわせる。見慣れた木製の
ジュビアはぼやけた思考をまとめようと、頭を回転させる。自分はどうしてこんなところにいるのだろうか。
確か昼、家に帰ってきたグレイを出
その時、ジュビアの顔が耳まで真っ赤になった。
思い出した。ジュビアはグレイを見送るために戸口に立ったところ、振り返った彼の余りに
──つまり、グレイ様はジュビアをお姫様
『まったく、しょうがないな、ジュビアは』
『それじゃあ、行ってくるぞ』
そういって、グレイが気を失ったジュビアの
「〜〜〜〜〜」
ジュビアは体を半回転させてうつ
──あー! あーッ!
と、そこではっとして顔を上げる。
自分はどれだけ眠ってしまっていたのだろう。いま
時計を見ると、時刻は午後の二時を指していた。
1
『さあッ。一試合目から早速盛り上がってきたスミレ山人妖対抗親善試合! 続いて登場するのは一体
──まずは『
闘技場右側から黒髪の青年が現れると、妖精たちの一部から歓声が上がる。どうやら、先ほどのエルザとバーナの戦いで、少なからぬ数の妖精メイドが『妖精の尻尾』の
「おしッ、やってやるぜッ」
『……続いてスミレ山チーム。二番手にしてこのヒトの登場だ! 彼女の警備が破られたのは未だたったの一回!
闘技場反対側から彼女が現れた
「ミレーネさーん、頑張って下さーい!」
ルーシィの横で、
「アンタ、さっきまで戦ってたのに、休んでなくていいの?」
バーナの身体を包むメイド服は、先ほどのエルザとの戦いを受けてボロボロになっており、右腹部の赤い山のマークが
すると彼女はむっとしてこちらを見る。
「心外ですねぇ。私だってこう見えて、れっきとした鬼なんですからね?
「あら、それはごめんなさい……」
ルーシィが
「まぁ、別にいいですよ。……ミレーネさん、応援してますから──」
──その時、ゴキッと嫌な音がして、バーナの体がよじれる。
「
「…………
彼女の向こう側に立っていたアシュリーが、
「私はレンカと違って遊びで戦うことはあんまりしたくないけど、やるからには簡単に負けるつもりはないわよ」
その言葉に
「──上等だ。どっからでもかかってこい」
2
ミレーネは特に構えを取る様子も見せず、再び口を開いた。
「あなたには、一度手の内を説明してしまってるわね」
「フン、それがどうし……──ッ」
不意に、鬼の少女の周囲に濃い霧が立ち込め、彼女の姿を
「──でも、その程度のことで私に勝てるとは思わないことね」
ミレーネを包んだ霧はすぐに闘技場全体にその範囲を拡大していき、一気に視界が悪くなった。
──眼で
もどかしい
目を閉じ、触覚と聴覚に全神経を集中させつつ思考を巡らせた。
相手は霧に
しかし、たとえ姿が消えても実体までなくなるわけではあるまい。
「
グレイは両手を床に突き、
直後、ミレーネが立っていた位置のはるか横から、どさりとなにかがくずおれる音がした。
──そこかッ!
「氷造形、『
グレイが放った無数の氷の
ミレーネは曲芸めいた動きで
「まさか床を凍らせてくるとはね、やってくれるじゃない。霧の中で私を捉えたのはあなたが初めてよ?」
「へッ、そりゃ
「じゃあ、これならどうかしら?」
そう言うと、
「見
その言葉に、グレイは不敵に笑った。
「あぁ、あのゴキブリを退治した技か。なんだよ、
グレイの嫌味に、ミレーネも
「そうじゃないわ。こんな使い方も……」
不意にミレーネが
「──あるってことよ──ッ!」
霧の球は彼女の足下に投げつけられた
しまッ──。
「──氷造形、『
可能な限りの高速で造形を終え放った槍は、しかしわずかに間にあわず、発生した霧を拡散させるだけに
「さぁ、あなたの実力、見せてもらおうかしら」
ミレーネの声は闘技場のあちこちに
「せっかくだから、私のもうひとつの技もいま教えてあげる。『
「ご
ぶっきらぼうに言い放ちながらも、グレイは絶望的な戦力の差に意識が遠のきかける思いだった。
『床』による転倒という作戦を使ってしまったいま、グレイの動向に対するミレーネの警戒レベルは限りなく高くなってしまったとみて良い。加えて彼女の言葉通り、目視で捉えようにも、霧の動きを見ることすら封じられた。どうすればいい。どうすれば。
その時、背後で
──氷造形──ッ。
「──遅い」
つまらなそうな声がすぐ後ろで聞こえたかと思うや、
「ガッ」
無理矢理体を
ルーシィは
『あぁーッと、これは一方的な展開! グレイ選手、なすすべもなくミレーネ選手の
「勝負あったわね」
3
もう何度目にもなる斬撃に、グレイは遂に
「あら、もうお
ぐうの
「他人をいたぶる
再びいずことも知れぬ
マズイ、この感じは──ッ。
「蒸発」
次の
「がああああああッ!」
グレイを包んだ霧が一気に
しかしその刺激は、かえってグレイを奮い立たせる結果となった。よろめきながら立ち上がり、笑う膝をなんとか立たせる。
「あら、まだ立てるの? まぁ、そうじゃなくちゃ
絶望に歯を食いしばりながら、顔を上げて前方を見る。辺りに視線を巡らせるが、やはりミレーネの姿は
──
グレイが氷の剣を取り落とすと、落ちた剣は
──そっちがその気なら、
「そうねぇ……。私としてはこのまま楽に終わらせてあげたいんだけど、降参してもらうわけにもいかないし……」
ぶつぶつと余裕
勝機。
グレイが右
──油断大敵、だぜ……ッ。
「
グレイが叫ぶと同時に、辺り一帯が赤い氷に包まれた。当然、勝利を確信して完全に
グレイは再び魔力を発動させる。
「
グレイがその肩に出現させた巨大なランチャーから放たれた氷の
『おぉっと、これは強烈な一撃! 氷漬けになったミレーネ選手を見事吹き飛ばしたーッ!』
観客席から歓声が上がるのを、グレイは目を伏せて聞いていた。
「やったッ」
ルーシィが叫ぶと同時に、
──そう思いながら得意絶頂になってそちらを見たルーシィの表情は、
「あれは……」
レンカは、見たこともないような
スミレ
『鬼には色んな特徴があるわ。まず基本的に酒と勝負事が大好きで、
『ちなみにウチにはあと何人か鬼がいるけど、彼女達の前では悪魔の話は基本タブーよ、気をつけてね』
グレイが先ほど状況を打開すべく使った、広範囲を氷漬けにする技は、氷の
彼の行動は、いままで自分達を客人として自然に受け入れてくれていた彼女たち鬼の
しかつめらしい顔で黒髪の青年を見ていたレンカの口元は──しかし、不意に
「まぁいいだろう。仮にもあいつはあんた
その言葉にルーシィは内心で
「なによ、
レンカは気まずそうに、ぎこちなく苦笑する。
「……けど、あいつは……」
「?」
ルーシィが視線を追うと、彼女の視線は、闘技場の中央、鬼の少女に向けられていた。
「──まずいわね……」
「え、なにが……?」
嫌な予感をひしひしと感じながら振り返ると、アシュリーも先ほどのレンカ同様に厳しい
アシュリーは、ことさらに暗い声を出した。
「私たち鬼が、嘘や悪魔を嫌ってるのは知ってるわよね? あの子はね、あの悪魔みたいな
目を開けたグレイも、すぐに異変に気づいた。
──ミレーネの様子がおかしい。
「…………力を……」
「あ……?」
「──なんで、悪魔の力を使えるの?」
そのひとことで、グレイも状況をすべて理解した。だが戦っている手前
「あぁ、これか? 実はちょっと訳あって、昔戦った奴からもらってな──」
「──……が……」
「なに……?」
「人間が、悪魔の力を使える訳がない。もし、あなたが私に……
ミレーネはなおもぼそぼそと口の中で
それは
しかし、その形状は氷の
グレイはミレーネが新たなアクションを起こす予感に、警戒しつつ氷の
しかし。
それよりも圧倒的に早く。
ミレーネの姿が
「ぐ……ッ」
「私は、絶対にあなたを許さない……ッ‼」
『おっとミレーネ選手、いきなりの
──このまま試合を続けるのは危険だ。
しかし同時に、もう一つ理解していたことがある。
それは、ここで試合が中断されることはないということ。なぜならその瞬間にこの親善試合の
──グレイ独りの力で、切り抜けるしかない。
「
もはや怒りすらも通り越したのか、静かに
「『この世に高圧の水ほど硬い物質はない』。それが私の
ミレーネの姿が再び
「ぐああああぁぁぁ‼‼」
「──この言葉を、あなたの
「グレイ様ぁ……愛してますぅ……。──ハッ」
夢と
──なにか、嫌な予感がする。
ジュビアの『グレイ様レーダー』に
これは何か、もっと……そう、もっと邪悪な……。
外を見ると日は
時刻は、午前三時前を指し示していた。
グレイは、
「こ、の……野郎ォ……ッ」
もう、なりふり構っていられなかった。
グレイはその行動が火に油を注ぐようなものと理解しながらも、再び魔力を発動させた。
「いきなりすばしっこく、なりやがって……これでも食らいやがれ……ッ」
グレイが弓を引く構えを取ると、その手の中に赤い氷の弓矢が出現する。グレイは残る全魔力を注ぎ込んで、矢をミレーネに向けて放った。
「
しかし、またもミレーネの姿が
彼女がゆっくりと走り込んでくると同時に、高速で放たれたはずの矢が同じくゆっくりとミレーネの胸に吸い込まれていく。
だが、矢が当たる直前、彼女の左手が動いた。
「
永遠のような
──しまった、こいつは水だけじゃなく、氷まで──ッ。
その時には、赤い氷の矢はボシュッという音と共に蒸発し、ミレーネの放った突きが
「──止まれミレーネッッッ‼‼」
グレイは、固い
ミレーネの放った、超高圧の水の刀身による神速の突き込みは、グレイの
ルーシィがびっくりして耳を
『えー、し、勝負の結果は……』
「──
『あ、ハイ……』
有無を言わせぬレンカの
レンカはバルコニーの手すりに右手
着地
「おい、どういうことだミレーネ。いまの
ミレーネはそれでも動かなかった。しかし、やがて右腕を降ろすと、シラナミを消して
「どこに行く。おい、ミレーネ……ッ」
レンカの制止も聞かず、鬼の少女は一人、闘技場の奥ヘと消えていってしまった。
レンカはしばらく黙っていたが、すぐに二階バルコニーを見上げてよく通る声を出す。
「済まない、
そう言うが早いか、彼女もミレーネを追って闘技場の奥ヘと走っていってしまう。
その様子を、誰もが