FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm   作:水天 道中

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前回宣言した通り、今回と次回はちょっと工夫を凝らしたつくりになっています。期待して読んでやって下さい。
それではいよいよスミレ山編ラストバトルになる第10話、どうぞ!


第10話 スミレ山編 山妖式戦闘術

『スミレ(やま)人妖対抗親善試合ッ。盛り上がってきたこの大会も、早くも最終ラウンドを(むか)えましたッ。ここまでの成績は両チーム共に一勝一敗、この第三試合にてすべてが決まります! ──えー、それはいいんですが、これ、外して(もら)えませんかね?』

 元気に司会をしていた(あや)だったが、唐突(とうとつ)に語調が弱まる。それもそのはずだ。文はミレーネの手により、ロープでぐるぐる巻きにされて司会者席に座らされていた。

 ミレーネは目を閉じて(うで)を組んだまま口を開く。

「駄目よ。アンタはちょっと油断すると何しでかすかわからないからね。カメラもいまは没収」

『えぇ〜。じゃあ──』

「──メープル、絶対にロープ、外さないでよ?」

 即座に先手を打たれた文が固まり、(となり)のメープルが苦笑する。

「文さん、無理みたいです……」

 文は盛大な()め息をつくが、進行の役目を思い出したのかすぐに気持ちを切り()えたようだった。

『対戦するのはこの方々! 『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』チーム、竜炎(りゅうえん)の王・イグニールに育てられし炎の申し子、ナツ・ドラグニル選手ッ!!』

 闘技場右側から桜髪の青年が現れると、妖精メイド達が歓声を上げる。

『そしてッ、遂にこの方の登場です! この親善試合の主催(しゅさい)者にしてスミレ山チームメンバー最後の(とりで)! 『暁の地平を()べる鬼神』こと、レンカ・ハーネット選手ッ!!』

 反対側から彼女が現れた瞬間(しゅんかん)、いままでとは比べものにならないほどの爆発的な大歓声が巻き起こった。

 レンカはゆっくりと歩いて来ながら口を開く。

(ようや)くあたしの出番かい。いよいよ大詰(おおづ)めだねぇ」

 立ち止まったレンカは、おもむろに顔を上げると、観客席のアシュリーを見上げた。

「アシュリー、この闘技場にかかってる防御用の術式を(はず)せ」

「えッ? でも、それじゃあ試合が……」

「あたしの武法(ぶほう)はお前も知ってるだろう? どうせ試合が始まれば、この館は()たない」

「……。ハァ……、わかったわ」

 彼女は(あきら)めたように(こた)えると、開いた本から無色透明な魔法石(まほうせき)を展開し、口の中で何事か唱える。すると闘技場の(かべ)全体を(おお)っていた不可視の防壁が消えていくのがわかった。

 レンカはそれを見届けるとナツに向き直り、右前腕(ぜんわん)のマークを見せつけるように腕を突き出して構えた。

「さぁ、戦場は整った。お互い、盛大にいこうじゃないか」

 そこでルーシィはおや、と思う。彼女は強気な言葉とは裏腹に目を()せており、まるで瞑想(めいそう)しているようにも見える。

 ナツはそれを好機と取ったか、にやりと笑うと小細工なしに真っ正面から突っ込んだ。しかし、レンカは動かない。

 ──と、次の瞬間。いくつかの出来事が、立て続けに起こった。

 ナツが走り始めた直後レンカが腰を落とす。そして彼を十分引きつけると、刮眼(かつがん)。左右の手の位置を入れ替えるように上体を(ひね)り、(こぶし)を繰り出した。その一連の動作は、ルーシィには彼女の身体全体が(かすみ)()かって見えたほどに素早(すばや)く行われていた。

 打ち合わされたナツとレンカの拳打(けんだ)に、闘技場ごと震動。衝撃波(しょうげきは)が二人の周囲の大気を吹き飛ばし、建材がパラパラと降り注ぐ。

 

 

 グレイは天井(てんじょう)を見上げ、呆然(ぼうぜん)(つぶや)いた。

「おいおい、たった一撃(いちげき)にこの震動……本当に大丈夫なのかよ?」

 その言葉に、アシュリーは二人に視線を向けたまま答える。

「大丈夫……とは言い切れないわね……」

 ルーシィが見ると、鬼の魔術師は(あや)しい笑みを浮かべていた。

「だってあんなに楽しそうなお(じょう)様、私達も久しぶりに見るもの」

 

 

      1

 

 

 打ち合わせた拳を引き戻したレンカは、内側に折り(たた)んでいた左手と、右(あし)を連続で()ね上げる。

 ナツがそれらをかわすと、彼女は上体を沈め、振りかぶった左拳(ひだりけん)を打ち降ろした。(ねら)われたのはナツではなく、床。再びフロア中に走る激震に、床面が大きく割れ飛び巨大なクモの巣状のひびが入る。

 ナツはなんとか()(とど)まると、大きく後方に()んで距離を取った。

 レンカは足下の床面を()りつけ、そのまま脚を振り抜く。次の瞬間(しゅんかん)、鬼の膂力(りょりょく)によって床材が粉砕され、数百数千の破片となってナツめがけて(おそ)いかかった。

岩津波(いわつなみ)ッ」

「がああああッ」

『早速出ましたッ。レンカ選手の操る山妖式戦闘(せんとう)術の奥義(おうぎ)の一つ、『岩津波』!』

 (あや)の実況の中、レンカは追撃の掌打(しょうだ)を振り上げる。しかし、ナツとの距離が十メートルはある中、彼女はいったい何をしようというのか。その疑問は、すぐに氷解した。

 レンカが直角に曲げた(うで)を大振りかつ俊敏(しゅんびん)な動作で振り降ろした直後、彼女の腕全体から炎が(おうぎ)状に展開されたのだ。

 

 

「炎ッ?」

 ルーシィの叫びに、(となり)に立ったアシュリーはすぐに答える。

「『業火扇(ごうかせん)』。あれもお嬢様が編み出した体術のひとつよ。腕全体と空気との摩擦熱によって炎を生み出してるの」

 

 

 腕を振った勢いで発生した突風を受けてか、炎は更に燃え上がりながら進んでいく。しかし、同じく炎を扱う魔導士(まどうし)であるナツに、この技が通じる道理はなかった。次の瞬間、思い切り息を吸い込んだナツの胃に取り込まれていく。

「フゥ……。結構いけるじゃねぇか」

 口元を(ぬぐ)いながらにやりと笑うナツを見て、さすがのレンカもわずかに目を見開いた。

「へぇ……炎を食べるとは(おどろ)いたねぇ。こいつを何発打っても無駄ってことかい」

「なんならもっと食ってやってもいいぞ?」

 その言葉に、レンカも不敵な笑みで応じる。

「なかなかやるじゃないか。こりゃ久々に楽しめそうだ」

 レンカが正面に伸ばした手を床面にかざすと、床材の破片が浮き上がり、球状にまとまった。それは彼女が(てのひら)をナツに向けた途端(とたん)(はじ)かれたように桜髪の青年に向けて飛んでいく。

砂礫球(されきだま)!」

 ナツが炎をまとった(こぶし)で難なくそれを(なぐ)(くだ)くと、レンカは掌を合わせ、祈るようなポーズを取った。

「あたしの武法(ぶほう)岩武踊(いわぶよう)』は、大地の力を(かて)に土や岩を武器(ぶき)とする能力。精神を()()まして大地と一体となることで──より大規模な技を使えるようになるのさッ」

 レンカが両(うで)を開くと、彼女の頭上の周囲に複数の岩の球が浮き上がる。その数、九つ。

「ハアッ!」

 掛け声とともに彼女が解き放った瞬間(しゅんかん)、それぞれが大きく弧を描きながらナツに殺到(さっとう)した。

 ナツはそれらの軌道を読むと危なげなく(かわ)し、または炎をまとった両の(こぶし)で砕いていく。しかし、それを見て、レンカはにやりと笑った。

「聞いてなかったかい? そうやってあたしの操った岩を砕いちまうとねぇ……」

 レンカの言葉に呼応するように、ナツの周囲の破片が浮き上がる。

「……ッ」

「──それも武器に出来ちまうんだよッ!」

 直後、ナツを取り巻いていたすべての破片が、吸い寄せられるように彼の体中を殴打した。

「ぐあああぁぁッ」

 

 

「ナツッ!」

 グレイが叫ぶと、エルザが(けわ)しい表情で口を開く。

「まずいな……」

「え……?」

「あの武法、つまりは自分の周囲にある、すべての土や岩を武器にできるわけだろう? ──闘技場の床を見てみろ」

 エルザの言葉にグレイが視線を戻すと、すぐに彼女の言葉の意味するところを理解する。

 ナツたちの戦う闘技場の床面は、(たび)重なるレンカの攻撃によって、その半分以上の面積が滅茶苦茶(めちゃくちゃ)に破壊されていた。あれではレンカの武器がそこらじゅうに落ちているのと同じことだ。

 ナツの置かれている状況は、限りなく最悪に近い。

 

 

      2

 

 

 ナツは、レンカの恐ろしいまでの戦闘センスに翻弄(ほんろう)され、苦戦を()いられていた。

 基本的に単純な(なぐ)り合いが得意なナツにとって中・遠距離攻撃を主体とするレンカの戦法は、相性が悪いと言わざるを得ないのだ。

礫機銃(つぶてきじゅう)ッ」

 レンカが腕を水平になぎ払うと、彼女の周囲に浮き上がった破片が紡錘(ぼうすい)形に形成されて降り注ぐ。

 ナツは、彼女から見て真横に走って()けると、立ち止まりざまにモーションを開始した。

火竜(かりゅう)咆哮(ほうこう)!!」

 しかしレンカはガードするでもなく、ナツが口から放った炎のブレスを真っ向から受ける。

 ブレスがレンカに直撃するが、巻き上がった白煙は彼女が振った(うで)によって軽々と吹き払われた。

 余裕(よゆう)の表情で手招きするレンカに、ナツは正面から走り込む。

「かかって来なッ」

「火竜の鉄拳(てっけん)ッ」

 しかし、レンカはナツの(こぶし)に自分のそれを合わせるでもなく構えた。

 ナツが拳を振り抜くと、見事な体捌(たいさば)きの受け身で腕を巻き取り、後方に投げ飛ばしながら()りつける。

 ぎりぎりの体勢でそれをブロックしたナツに、続く左拳(ひだりけん)を受け切る(すべ)はなかった。

 腹にめり込んだ鬼の拳に、ナツは病葉(わくらば)同然に吹き飛ばされて二階の一角に激突、貫通する。

 

 

「あぁッ、お(じょう)様そっちは私のワインセラーッ」

 悲鳴を上げるバーナの肩に、小さな手が優しく乗せられた。

 振り向くと、ミレーネがすべてを(さと)った表情で軽く首を振る。

(あきら)めなさいバーナ。レンカがああなった以上、もうこの場であのヒトを止められるのはあの桜髪の炎(つか)いだけよ」

「そんな……。私のコレクションが……」

 がくりと項垂(うなだ)れたバーナにミレーネは心底同情したが、同時に至って冷静に戦局を眺めていた。

 ──といっても、私だってレンカが負けるとは思っていない。

 ──とりあえずアシュリーに言って、どうにかして観客席ヘの被害だけは()けないとね……。新聞(ブン)屋の方は……まぁ、いいか。

 

 

 レンカは圧倒的優位に立ちながら、ナツの戦闘(せんとう)センスに舌を巻いていた。

 初めは人間相手だからとタカをくくっていたが、彼は明らかにレンカの動きに徐々(じょじょ)に順応してきている。特に先ほどの一撃(いちげき)はレンカの動きを確実に捉えた上で放たれており、自分でなければ十中八九、間違いなく顔面に一発もらっていただろう。

 そんなことを考える間にも、桜髪の少年が白煙の(とばり)を切り裂いて飛び出してきて、レンカをわずかながら(おどろ)かせた。

「火竜の劍角(けんかく)!!」

 (ひたい)に炎をまとって真っ()ぐ突っ込んできたナツの顔面を咄嗟(とっさ)鷲掴(わしづか)みにし、床に(たた)きつけつつ追撃(ついげき)の拳を振りかぶる。

 しかしナツは、それをすんでのところでブロック。靴跡を引きながら後退した。

 ──これはどうやら、あたしも本腰(ほんごし)を入れて戦った方がいいかもしれないねぇ。

 レンカは久々の強者(つわもの)の登場に自分の中でカッと闘志の炎が燃え上がったのを感じ、口角を()り上げた。

 ──いいだろう。鬼神の本領を見せてやるよ。

 ナツが拳に炎をまとったのを見て、レンカは再度、受け身の構えを見せる。

「火竜の鉄拳ッ」

「ハアッ」

 再び打ち合わされる拳打(けんだ)に周囲の大気が吹き飛び、いよいよ耐えかねた闘技場の一部が崩壊し始めた。

 拳を焼く炎の熱にも、レンカはまったく動じる様子をみせない。それどころか、彼女はこうして強者と拳を(まじ)えられることに得がたい(よろこ)びを感じていた。

 レンカはそのまま両拳(りょうけん)でラッシュをかけ、それらをフェイントにアッパーカットから流れるような動作でナツを()び越しざま、()りに(つな)げる。

 そして彼がたたらを()んだのを見届けてから、着地と同時に武力(ぶりょく)を発動させた。

「大地の衝角(しょうかく)!」

 すると、彼の背後の床面が巨大な円錐(えんすい)形に隆起して少年を(なな)めに突き上げる。

「うおッ」

 一撃目を皮切りに連続で放った武力は、彼の足下の床面を次々と盛り上げ、粗削(あらけず)りの剣山のような地形が顕現(けんげん)する。

 しかし、彼の反応は素早(すばや)かった。即座に(とげ)のひとつを(なぐ)(くだ)くと反動を利用して大きく跳び上がり、武力の範囲外に移動する。

「ラアアアァァッ」

 ナツの拳は、炎をまとっておらずとも人間離れした驚異的な膂力(りょりょく)と破壊力を発揮し、破壊した剣山の破片を盛大に巻き上げた。

 目くらましだと気づいた直後、レンカは視界の端に動く影を捉える。そこを逃すレンカではなかった。

「甘いねッ」

 武力を発動し瓦礫(がれき)紡錘(ぼうすい)形の弾丸(だんがん)ヘと変化させる。と、それらを空中に(とど)めたまま拳を繰り出した。

破空拳(はくうけん)ッ」

 レンカの右拳(みぎけん)はいとも容易(たやす)く音速を越え、パァンという衝撃音(しょうげきおん)と共に空気を圧縮して()ち出す。

 ナツはレンカの思惑(おもわく)通り、瓦礫のみに意識を向けている。そして、彼がそれらをかわそうと動いた途端(とたん)、巨大な空気の壁が彼を捉えた。

「な……ッ」

 顔に驚愕(きょうがく)の表情を()り付けたまま吹き飛ぶナツを見届けながら、レンカは決着の予感に静かに目を伏せて残心(ざんしん)する。

 直後に彼の体は(すさ)まじい倒壊音と共に闘技場の壁を貫通し、壁材が(くず)れ落ちた。

『ああッと、これは強烈な一撃が入りましたッ。ナツ選手、大丈夫でしょうかッ?』

 レンカはナツが戦闘不能になったことを確認しようと歩き出したところで、すぐに足を止めた。

 ──様子がおかしい。

 ナツが沈黙(ちんもく)しているのは、状況的に(げん)()たない。レンカの(かん)もそう言っている。

 しかしいまの静寂は、そんな雰囲気(ふんいき)ではなかった。

 

 

「──力を貸してくれ、ラクサス」

 

 

 本来聞こえるはずはないが、レンカは確かに煙の中からかすかにそんな声がしたのを聞いた。

「──モード、雷炎竜(らいえんりゅう)……」

 今度はよりはっきりと声がする。そして。

「──雷炎竜の咆哮(ほうこう)ッ!!」

 一気に煙が吹き飛ばされ、その中から雷をまとった巨大な炎の波が押し寄せてきた。

「……ッ!」

 レンカが顔をガードしてそれを受け切ると、やがてその向こうから、一人の少年が歩いて来る。その体の表面には、無数の小さな電流が流れていた。

 

 

「やったあッ、いけー、ナツぅッ」

「そんな、(うそ)よ……」

 拳を突き上げて跳びはねるハッピーとは対照的に、ミレーネは呆然(ぼうぜん)と目を見開いていた。

「レンカの『破空拳(はくうけん)』を受けて無事に立っていられる人間がいるなんて……彼は、一体……」

 その言葉に、ルーシィは得意になって答えた。

「『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』いちの問題児、ナツ・ドラグニル──滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)よ」

 

 

      3

 

 

「雷をまとった炎かい。なかなか強そうじゃないか」

 レンカが言うが、ナツは静かにこちらを(にら)み据えただけだった。

 不意にナツが爆発(ばくはつ)したように突進してくる。それを見て、レンカは(うで)を上げて防御姿勢を取った。

 がっぷりと両者の腕が組み合わされ、衝撃波で辺りの床材を吹き飛ばす。そこからは、余人には目にも()まらぬ速さの攻防が行われた。

 凄まじい手数の技を繰り出し回避しながら再び繰り出す演舞めいた攻防。一秒間にお互いが打ち合う手数だけが気が狂わんほどに多い。

 そんな中、レンカは久しく感じたことのない思考の加速感を味わっていた。ナツと攻防を数合繰り広げる度に脳の回線の回転数が一段階ずつシフトアップしていく。

 ナツは数十合にも及ぶ攻防ののち、反動を利用して一度距離を取る。

 

 

 ──その時。

 

 

 ──レンカの中で、不思議な現象が起こった。

 

 

 右腕を振りかぶる桜髪の少年の拳を、雷をまとった炎が包む。その姿が、紅白の巫女(みこ)服をまとった黒髪の少女と重なる。

 その奇妙な既視感(デジャヴ)はすぐに消えたが、しかしその現象は、レンカの思考回路を(つか)の間ショートさせるのに十分な効果をもたらした。

「雷炎竜の撃鉄(げきてつ)ッ!」

 放たれたナツの拳は、確実にレンカの顔面に吸い込まれていく。そしてインパクトの瞬間(しゅんかん)、レンカの体を雷を伴う炎の奔流(ほんりゅう)が包み込んだ。

 その強烈な衝撃(しょうげき)に、レンカの体は靴跡を引きながら十メートルも吹き飛ばされる。鬼である自分にとってこれは信じられない出来事だった。

 ナツは追撃に走り込むと、両拳(りょうけん)でラッシュをかけてくる。

滅竜(めつりゅう)奥義(おうぎ)『改』紅蓮(ぐれん)雷炎竜(らいえんりゅう)(けん)ッ!!」

 一瞬(いっしゅん)の精神の(ほころ)びを突かれたレンカに、それらの攻撃(こうげき)を防ぐ(すべ)はなかった。

 すべての拳を全身に受け、更に十メートルほど下げられる。しかし、このまま終わるレンカではない。

「く……ッ。無刀(むとう)居合(いあ)い!!」

 その名の通り居合い抜きの要領で放たれたレンカの手刀(しゅとう)を、ナツは体勢を低くしてくぐる。と、彼の(はる)か後方の壁面に巨大な斬撃痕(ざんげきこん)が刻まれた。

 鎌鼬(かまいたち)。そうとしか形容できない一撃(いちげき)

 レンカが長年の経験から編み出した体術、山妖式戦闘(せんとう)術における絶技のひとつである。当たればナツに致命的なダメージを与えてしまう事は言うまでもないため、いままで意図的に(ふう)じていたのだ。

 砲弾がぶち当たったかの(ごと)轟音(ごうおん)と共に、館全体が激しく震動。

『めッ、メープルさん、あれは……』

『『無刀・居合い』……。私も自分の剣術の参考にさせていただいている、レンカさんの技です。久々に目にしましたが、どうやら以前より射程距離が伸びているようですね』

 続く二撃目は垂直に振り降ろす。ナツが横に()んで()けると、先ほどレンカが()り出した剣山を両断していた。

 (ふところ)に潜り込もうと走り込むナツを、レンカは(こし)を落として(むか)()つ。

「雷炎竜の──ッ」

「山妖式戦闘術──ッ」

 ナツが振りかぶった拳を再び雷をまとった炎が包む。ほぼ同時に、レンカは下からすくい上げるようなアッパーを放った。

「撃鉄ッ!」

破空拳(はくうけん)ッ」

 人間離れした膂力(りょりょく)をもったナツの拳と、そこから(ほとばし)る雷をまとった炎の奔流(ほんりゅう)、そしてレンカの超音速の拳により発生した巨大な空圧が、真っ向から激突。周囲を真昼のように染め上げる。

 ぶつかりあった両者の技の均衡(きんこう)は、すぐに(くず)れた。

 レンカの拳が、前方に強く押し込まれる感触。耳を(ろう)する破裂音と共に振るわれたアッパーが空気の壁をせり上げ、桜髪の少年の体を打ち上げる。ナツは何が起こったのかわからないような顔をしていた。

 空高く打ち上げられたナツの体は、闘技場の天井(てんじょう)にぶち当たり陥没(かんぼつ)、貫通させる。

『ああッと、レンカ選手の一撃により、闘技場の天井が大きく崩れ落ちたーッ!』

 

 

「なんというパワーだ……」

 戦慄(せんりつ)しながら(つぶや)いたエルザに対し、今度はミレーネが得意げに口を開いた。

「当然よ。(むし)ろ私達からしたら、あの技を(じか)に受けて無事なあの人の方が信じられないわ」

 

 

 レンカはナツが吹き飛んでいった先を後ろ頭を()きながら眺める。

 ──もしかして、やり過ぎちまったかね?

 しかし直後、夜空の一点にキラリと光る物体を見つけ、レンカは不敵な笑みを浮かべて構え直した。ナツがその両手に、雷をまとった炎の尾を引きながら降り注いできたのだ。

 見開かれた(ひとみ)の中には、明らかな戦闘継続の意志。闘志(とうし)の炎。

「雷炎竜の──鳳翼(ほうよく)ぅぅああッ!!」

 技の勢いに重力加速度をプラスアルファした急降下爆撃(ばくげき)(ごと)き両拳が、隕石(いんせき)もかくやという勢いでレンカが両手で繰り出した掌打(しょうだ)と正面からぶつかり、辺りの大気、床材、岩盤、その他あらゆる障害物を、残らず吹き飛ばした。

 

 

「はい、レンカさんとナツさんの素晴らしい試合、(みな)さんいかがでしたでしょうか!

 ……ッと、申し遅れました。(わたくし)、スミレ山の新聞記者、疾風丸(はやてまる) (あや)といいます!」

「私は、橙鬼館(とうきかん)メイド長兼地下図書館の司書、バーナ・トールスです」

「ここでは試合の模様は一旦(いったん)お預けにして、やや遅ればせながら、橙鬼館に勤めるバーナさんの技の数々を紹介、説明していこうと思います! バーナさん、今回は取材に応じて頂き、ありがとうございます」

「はい、よろしくお願いします」

 

 

千本刀(サウザンド・ブレード)

 自分の周囲に浮かべた無数の小さなマグマの球からナイフを造り出して一斉(いっせい)に放つ、私の基本技ですね。技のモデルは、東方Projectの十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)さんの投げナイフだそうです。

 

熔炎の鎧(バーニング・スケイル)

 体の各所にプレートタイプの防具をまとう、防御系の技です。エルザさんの攻撃を防いだ時は自分でも(おどろ)きました。まさか後から斬撃(ざんげき)(おそ)ってくるなんて……思い出すだに恐ろしいです。

 あんな風に防具の表面をマグマに戻すことで、直接攻撃をした相手に逆にダメージを与えることも出来ます。

 

灼熱の光環(ブレイズベール)

 立っている地面が溶けるほどの熱波を体から放射して、水分を含むあらゆる魔法(まほう)等の技を無力化する攻防一体の技です。エルザさんの無数の剣を変形させるのに使った技ですね。

 また、この技は掌や口から放つことも出来ます。

 ちなみに豆知識なんですが、名前の「光環」というのは太陽のコロナのことだそうですよ。皆さんは知ってましたか?

 

火炎の一薙ぎ(フレイム・リーパー)

 表面をマグマに戻した三節棍(さんせつこん)を振って対象を切断する技です。

 ちなみにエルザさんとの試合で棍が伸びた原理ですが、私の武法(ぶほう)の特性はレジスチルというポ○モンをモデルにしているらしく、そこから取ったそうです。あの腕、伸びるんですよ。金属なのに不思議ですよね。

 あ、あと余談ですが、レンカ様の髪を切ることができるのは私の武法で造った(はさみ)だけです。えぇ、あのヒト、体だけじゃなくて髪まで鋼みたいに、いや、それよりも丈夫なんですよ。

 

烈火岩鎚(ボルカニック・ボム)

 造り出したメイス系武器(ぶき)の頭部表面をマグマに戻して、振り降ろした勢いで(つか)から切り離して飛ばす、私の一番の大技です。まぁ、エルザさんには通じませんでしたが。

 

 

「……以上で、私の説明は終わりです」

「はい、ありがとうございました! そして読者の皆さん、試合はまだまだ続きますので、これからも楽しみにしていて下さいね。ではまた次回お会いしましょう!」




はい、ここからが本当の後書きです笑
自分は度々プロの作家さん方が創り上げた作品のお世話になっているのですが、いやはや、小説を書くというのは楽しい反面、思った以上に大変なものです。というのも今回までの数話とその前書き、後書きで期待値を上げ過ぎてしまったことを痛いほどに思い知らされたからです。
改めて、本職の作家さん方の凄さを実感しました。
それでわ、しーゆーあげいん!
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