FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm   作:水天 道中

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私事ではありますが、遂に久しぶりの本文一万字超えを達成しました! わーぱちぱち。
それではラストバトル後編になる第11話、どうぞ!


第11話 スミレ山編[終章]暁光の()ずる地平に

 レンカはナツが吹き飛んでいった先を後ろ頭を()きながら眺める。

 ──もしかして、やり過ぎちまったかね?

 しかし直後、夜空の一点にキラリと光る物体を見つけ、レンカは不敵な笑みを浮かべて構え直した。ナツがその両手に、雷をまとった炎の尾を引きながら降り注いできたのだ。

 見開かれた(ひとみ)の中には、明らかな戦闘継続の意志。闘志(とうし)の炎。

「雷炎竜の──鳳翼(ほうよく)ぅぅああッ!!」

 技の勢いに重力加速度をプラスアルファした急降下爆撃(ばくげき)(ごと)き両拳が、隕石(いんせき)もかくやという勢いでレンカが両手で繰り出した掌打(しょうだ)と正面からぶつかり、辺りの大気、床材、岩盤、その他あらゆる障害物を、残らず吹き飛ばした。

 

 

      1

 

 

 アシュリーは、二人が激突(げきとつ)する寸前、とっさに防壁を展開し、二人をドーナツ状に囲む観客席全体を包み込んでいた。

 ──直後、アシュリーの予想を大きく上回る現象が起こる。

 二人がぶつかった衝撃(しょうげき)は、辺りの床材のみならず、それを取り囲む壁面すらも崩落(ほうらく)させたのだ。観客席がすべて崩壊し、観戦していた『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』メンバーとその仲間たち、そして大勢の妖精メイドたちが崩壊に飲み込まれる。

 ──試合はッ?

 落下の衝撃をやり過ごしたアシュリーが闘技場中央に目を()らすと、やがて白煙の中から二つの影が(あら)わになる。案の(じょう)というべきか、二人ともまだ倒れてはいなかった。依然として、目にも()まらぬ速さの攻防を続けている。

 しかしその戦闘は、ほんのわずかずつ一方的な展開を見せ始めていた。

 ──レンカが、ナツの猛攻(もうこう)に押されているのだ。

 ナツはレンカが(はな)った岩の球をすべて(かわ)すと、彼女の(ふところ)に潜り込まんと走り込む。

 レンカは立て続けに神速の手刀(しゅとう)を放つが、それらの軌道を読み切っているナツに当たることはない。白煙を切り裂きながら後方に抜けていく斬撃(ざんげき)には目もくれず、ナツは再び両拳(りょうけん)でラッシュをかける。

 その彼の身体の至るところには、いつの間にか(うろこ)のような模様が浮き上がっていた。アシュリーは、それを見て今度こそ瞠目(どうもく)する。

 自分は知っている。滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)と呼ばれる(りゅう)(ごろ)しの魔導士(まどうし)だけが、真に力を解放した時のみ見せる、あの姿を。

 文献(ぶんけん)からの知識としてしか触れたことはなかったが、アシュリーは直感的に、あれがそうなのだろうと理解した。

 ──(ドラゴン)と同じ力。ドラゴンフォース。

 

 

 レンカは、何度目にもなるナツの(こぶし)を受けながら、そこに宿る力の変化に本能的な部分で気づいていた。

 ナツの姿を見る。彼は真っ()ぐレンカを見据えながら、()るぎなく構えている。だがその体には、先ほどまでとは打って変わって鱗のような模様が浮き上がっていた。

 脳裏(のうり)に、過日(かじつ)鬼の魔術師(アシュリー)の言葉が再生される。

(ドラゴン)を倒すための魔法(まほう)滅竜(めつりゅう)魔法を習得した人間は、大きく分けて三種類いるの』

『彼らの共通点として挙げられるのは、膨大(ぼうだい)な魔力を取り込んだときや強い感情が爆発したとき、その真の姿を解放するということ。それこそが──』

「──ドラゴンフォース、ね……」

 レンカは思わず(ほお)を引きつらせて構えた。

 ──こりゃあいよいよ、ここいら一帯の自然エネルギー全部を使わなきゃ、さすがのあたしにも勝ち目が見えなくなってきたよ。

 レンカは静かに目を()せると、自分の心音に耳を()ませる。

 生命あるものはいずれは(ほろ)びゆき死に至り、再生循環を繰り返す。

 天の(ことわり)万物(ばんぶつ)の調和を保つ条理に心を致し、同化させ、自分を()ぎ澄ませる。

 脳裏を光芒(こうぼう)一閃(いっせん)し、カッと(ひとみ)を見開く。

 そして──橙鬼館(とうきかん)の面々をして驚愕(きょうがく)する程のオーラの放射が始まった。

 地鳴りが大地を()すり上げ、レンカの体に限界ぎりぎりまで、エネルギーが流れ込んでいく。直感的に、これが最後の大技の発動だとお互いが理解していた。

 レンカが両(うで)を振り上げると、周囲の地面の破片が浮き上がり、徐々(じょじょ)に巨大な岩の円盤(えんばん)を形成していく。同時に、ナツも(こし)を落として構えた。

天蓋(てんがい)崩落(ほうらく)ッ!」

「滅竜奥義(おうぎ)『改』紅蓮(ぐれん)爆雷刃(ばくらいじん)ッ!!」

 腕を振り降ろすと共に放った岩盤が、雷をまとった爆炎(ばくえん)奔流(ほんりゅう)を押し(つぶ)すように降りそそぐ。次の瞬間(しゅんかん)、両者の技が激突した。落雷のような轟音(ごうおん)を夜空に()き散らしながら辺りの大気を吹き飛ばす。

 やがて、降りそそぐ岩盤にヒビが入る。それはみるみるうちに全体に及び、紅蓮の業火(ごうか)がレンカの視界に映るすべてを焼き尽くした。

 だが、レンカの意中からはもうそんなことも()せていた。迷わず走り込み、炎の(とばり)の中から現れる桜髪の少年に向けて技を発動する。

 レンカの(てのひら)を中心に武力(ぶりょく)渦巻(うずま)き、あたりの瓦礫(がれき)を球状にまとめ上げた。同時にナツの右拳(みぎけん)を炎が包む。

砂礫球(されきだま)ッ」

火竜(かりゅう)鉄拳(てっけん)ッ」

 両者の技が交錯(こうさく)する寸前、東雲(しののめ)の空から(あふ)れ出した暁光(ぎょうこう)が、二人の視界を白く染め上げた。

『あぁーッと、ついに日の出を(むか)えたスミレ(やま)の頂上で、両者の一撃(いちげき)がぶつかり合ったあッ。果たして勝負の結果は──ッ?』

 

 

 ルーシィは、祈るような気持ちで戦局を見守っていた。

 ナツもレンカも満身(まんしん)創痍(そうい)の状況下でお互いの大技が正面から激突(げきとつ)し、さらに二人の一撃が交錯した。これではどちらが先に力尽きても不思議ではない。

 しだいに白煙の帳が晴れていき、ナツたちの姿が(あらわ)になる。結果は──ドロー。まだ二人ともしっかりと地に足を付け()ん張っている。

 ──しかしその時、ナツの体が(かし)いだと思ったら、どさりと背後に倒れ込んだ。(わず)かに遅れて、レンカも仰向(あおむ)けに倒れる。

「レンカッ」

「お(じょう)様ッ」

「「「「「「ナツ」さんッ」」」」」

 各々(おのおの)が各々の応援する者の名を呼びながら、(たま)らず我先(われさき)にと()け出した。

 ボロクズのように倒れ込んだナツにすかさずウェンディが駆け寄り、治癒(ちゆ)魔法をかける。

 彼は少しの間眠るように目を閉じていたが、すぐに「いッてて……」といってゆっくり(まぶた)を持ち上げた。

「ナツ、大丈夫!?」

「しっかりしろ、ナツッ」

 ルーシィとグレイの言葉に、ナツはゆるゆると視線を動かし、(みんな)の顔を眺める。

「試合は……どうなった……?」

 その言葉に全員が気まずげに彼から視線を外した。

 先ほど、確かにナツはレンカより先に倒れていた。あれでは、試合の結果は……。

 その時、カツカツ、という、下駄(げた)石畳(いしだだみ)()む音がして、ルーシィはそちらを見る。レンカが歩いて来ていた。

「いやぁ、感服したよ、ナツ・ドラグニル。この勝負はあんたら人間側の勝ちだ」

「え……? だって、最後は、ナツが、先に……」

 ルーシィの言葉に、レンカは後ろ頭を()く。

「確かに、倒れたのはそっちが先だ。けど、戦ってる時、一瞬(いっしゅん)あたしの動きが(にぶ)ったときがあったろ?

 どうにも不思議なことなんだが、あたしはあんたらよりもずっと前に(だれ)か強い奴と戦った気がするんだ。その時のことだろうが、ちょいと頭をよぎっちまってね。不甲斐(ふがい)ない話さ」

「──前にもそんなこと、言ってたわよね?」

 苦笑する彼女の後ろからミレーネが声をかけた。

「たしか……『紅白の巫女(みこ)服の少女の姿がちらつく』とか……。なんなの、あれ?」

 鬼の少女の問いかけにも、レンカは()め息混じりに軽くかぶりを振った。

「……わからん」

 

 

      2

 

 

 そこからは、(すさ)まじい勢いで館の修繕(しゅうぜん)作業が行われた。というのも、ラグリアが時間を巻き戻し、さらにアシュリーが復元の魔法をかける、という二段構えが図らずも完成していたからだ。

 館の修繕が無事終わると、今度は巨大な長机(ながづくえ)が用意され、盛大な祝宴(しゅくえん)(もよお)される。

 親善試合に参加したすべてのメンバーは、レインを始めとした水妖精(ウンディーネ)たちの手厚い看護を受け、問題なく動けるまでに回復していた。

 ルミネア率いる音楽妖精(プーカ)の楽団が、大広間の一角で上品なクラシックを奏でる。そんな中でも、グレイは冷静に状況を観察していた。

 人間、妖精、鬼、天狗(てんぐ)。ヒトとヒトならざるものが分け(へだ)てなく接することができるこの状況。大昔には当たり前のように広がっていたであろうこの光景が、いま目の前にあることを嬉しく思うべきか、それとももう見られないのではと(なげ)くべきか。

 自分は、前者でありたいと思う。少なくとも今は。

「ここ、いいかしら?」

「あぁ──ッて、え……?」

 反射的に返答してから質問の主を確認して、グレイは(つか)()固まってしまった。声をかけてきたのは、誰あろうミレーネだったのだ。

 しばし、居心地の悪い静寂(せいじゃく)が訪れる。

「……もう、落ち着いた、のか……?」

 気まずさを打開するべく(ほう)った問いは、ぎこちない響きを残した。

「えぇ、レンカに説教されたお陰で、だいぶ」

「そ、そっか……」

 そのまま会話の糸口が見いだせないでいると、今度はミレーネが口を開く。

「ねぇ……良かったら、あなたのこと、もっと詳しく教えてくれない?」

「え?」

 見ると、鬼の少女は体をひねり、こちらに軽く身を乗り出してグレイをまっすぐ見据(みす)えていた。

「あなたはなんで、悪魔の力を使えるの?」

 その言葉に、グレイは考え込む。

「そうだな……。どっから説明すっか……」

 グレイは(うで)を組むと、言葉を探しながらおもむろに口を開いた。

(おれ)たちは二年前、『冥府の門(タルタロス)』ってギルドと戦った。その中に、死体を操る呪法(じゅほう)を扱う奴がいたんだ」

「あぁ、知ってるわ」

「そうなのか?」

「えぇ、だって私達鬼は、一度悪魔との戦争に負けて故郷(こきょう)を追われてるからね。その悪魔っていうのが、今あなたの言った『冥府の門』よ。

 漆黒(しっこく)僧正(そうせい)キースのことよね? 死体を操る呪法、『死人使い(ネクロマンサー)』……。思い浮かべただけで()き気がするわね……」

「そうか……。あぁ、それで、俺達もそいつと戦ったんだが、そいつに操られてた死体の中に、俺の──親父(おやじ)がいたんだ」

「え……?」

「親父は、(イー)(エヌ)(ディー)っていう悪魔を倒すために自分から進んで奴の実験台になったって言ってた。そのために修得した魔法(まほう)がこの、滅悪(めつあく)魔法だ。そして、俺にその意志を(たく)した。ENDは、お前が倒せ、ってな。

 だから、俺は、親父の遺志を()がなきゃならねぇ。ENDは、俺の手で倒さなきゃいけねぇんだ……ッ」

 ちらりと視線を向けると、ミレーネは呆然(ぼうぜん)とグレイを見ていた。しかし、すぐに我に返ると前触(まえぶ)れもなく頭を下げてくる。

「ごめんなさい。あなたのこと、ろくに知りもしないであんなことしてしまって……私が悪かったわ……」

 その言動にグレイは(あわ)てて顔を上げるよう(うなが)した。

「あぁいや、それを言うなら俺だって、アンタ()鬼が悪魔を嫌ってるって聞いてから、この力は使わねぇよう気をつけてたんだ。それを結局自分から使っちまうなんて、情けねぇよな……。だから、その、なんだ。──アンタがそんだけ、強かったってことだな」

 グレイが笑ってみせると、ミレーネは束の間(ほう)けたようにこちらを見てから、不意に笑いを漏らす。

「フッ、ありがとう。あなたって、案外優しいのね」

 その言葉に、グレイはムッとして(こた)えた。

「『案外』は余計だ」

 再び訪れる静寂。しかし、今度は居心地悪くはなかった。

 会話が途切(とぎ)れ、二人で前を向いたまま(だま)り込む。

「──いやぁ、おアツいですねぇ。それで、初デートはどこになさるんです?」

 いきなり背後からかけられた声にびっくりして振り返ると、そこにはいつの間にか頭に赤い頭襟(ときん)()せた女性が立っていた。

「お前は……ッ。たしか……鴉天狗(からすてんぐ)の、疾風丸(はやてまる) (あや)、だったか」

「おぉ、まさかあのグレイさんに名前を覚えて頂けるとは、光栄です〜ッ。はい! (わたくし)、疾風丸 文、清く正しく、やらせて頂いておりますッ」

 グレイの反応に、文はグレイの手を持ってブンブンと振ると、その場でビシッと敬礼する。

 グレイは彼女のペースに流されそうになりながら、辟易(へきえき)しつつ口を開いた。

「けど、何だよ初デートって。俺たち、別にそういう関係じゃねぇぞ」

 そこでちらりと(となり)を見たグレイは、その場で(こお)りつく。ミレーネが、静かに横目で文を(にら)みつけていた。冷や汗がどっと吹き出す。

 マズい。非常にマズい。

 しかし、文はそんなグレイの言葉が聞こえていないのか、なおも饒舌(じょうぜつ)に独りごちる。

「それにしても、人間と鬼が付き合うことになろうとは……いやぁ、時代も変わりまし──がふぅッ」

 だがそこで文の言葉は途切れた。ミレーネがカップを手に持ったまま、反対の腕で思い切り彼女の腹に(ひじ)打ちを入れたのだ。

 文は体をくの字に曲げ、腹を押さえて口を開く。

「ゲホッ、ちょ、ミレーネさ……ゴホッ、実力行使はないですって……。骨、折れちゃいます……」

「あら、だからそうならないように、ちゃんとお腹を(ねら)ってあげたんだけど……──ひと思いに()り捨ててあげた方が良かったかしら?」

 愛剣・シラナミを出して(かか)げてみせるミレーネに、文はガタガタと震え始めた。

「ひッ、お、お助けええぇぇッ!」

 悲鳴を上げながら走り去った文に、ミレーネは吐き捨てるように言い放つ。

「まったく、(うそ)冗談(じょうだん)の区別もつかない奴は嫌いよ」

 グレイは(ほお)を引きつらせて苦笑しながらも、そこで彼女が持っているものが酒瓶ではなくティーカップであることに気づいた。

「あ、そういえば、アンタは紅茶なんだな」

 その言葉に、ミレーネも手元に視線を落とす。

「あぁ、これ? そうよ。私はお酒よりこっちの方が好きなの」

 なおもグレイが眺めていると、(するど)い視線がこちらを射た。

「別にお酒が飲めない年齢ってわけじゃないのよ?」

 グレイが降参を示すため手を軽く上げると、ミレーネは続ける。

「あなた、いま何歳(いくつ)?」

「えッ? あぁ、二十歳(はたち)だけど……」

 するとミレーネはフッと笑みこぼれた。

「私たち鬼は、みんな軽くあなたたち人間の百倍は生きてるわ」

「ひゃく……ッ?」

 ──じゃあアンタは、一体いま何歳なんだよ?

 ミレーネはグレイが固まっていることには気づかず「あら、レンカは三千歳いってるんだっけ?」と独りごちると、「あ」といって(なな)め前に向き直る。

「そういえばあなた、最初に会った時、どうやって私に攻撃(こうげき)してたの?」

 彼女のはす向かいに座るエルザは、紅茶のカップを降ろしてから平然と答えた。

「あの時お前が何をしていたのかは、ナツ達の様子を見ていてなんとなく分かった。攻撃については、すべて私の推理に(もと)づいた(かん)だ」

「勘……ですって……?」

 ミレーネが固まっていると、近くのテーブルの上で魚を食べていたハッピーが口を開く。

「エルザは(すご)いんだよ。『冥府の門(タルタロス)』との戦いで五感を操作する呪法を使う敵と戦ったんだけど……えーと、名前は……」

「五感を操作……隷星天(れいせいてん)キョウカのこと?」

 いまだ動揺(どうよう)しながらもミレーネの出した助け舟に、ハッピーはハッとして続ける。

「あ、それだ! そのキョウカっていう奴がエルザの五感を全部奪ったんだけど、エルザはそれでもそいつの位置をしっかり捉えて逆転したんだ!」

「えッ? な、なんッ……。えぇえ……?」

 余りにも大きな衝撃に連続で見舞(みま)われ、ミレーネは(なか)ばパニックになりながら、ハッピーとエルザの顔を交互に見比べる。

 グレイはそんな彼女の普段からは考えられないほど間の抜けた声と表情に、爆笑したい衝動(しょうどう)を独り必死に(こら)えていた。

 

 

「あ、ちょっとリドラッ? 私のソーセージ返しなさいよ!」

「代わりに人参(にんじん)やったろー!」

 隣で食材を取り合うシアンとリドラを眺めながら、ルーシィは知らず笑みこぼれていた。

 しかし、その微笑(ほほえ)ましい光景は長くは続かない。彼らの背後に立った水色の三つ編みの少年が二人の頭にげんこつをぶつけたからだ。

「食材で遊ぶな馬鹿(ばか)ども」

()った……。だってベル()ぃ、リドラが!」

「いーや、シアンがもたもたしてるのが悪いね」

「なんですってぇ!?」

()めろっつってんだろテメェ()。いい加減にしねぇと放り出すぞ」

「あはは……。この料理って、あなた達が作ってるんだっけ?」

 苦笑しつつルーシィが質問すると、少年、ベルクスはすぐに穏やかな表情になって答える。

「あぁ、確かにそうだ。料理は基本、(おれ)たち水妖精(ウンディーネ)が作ってる。出来はどうだ?」

「うん。とっても美味(おい)しい」

「そっか、そりゃどうも。──ホラ、お前等もこのお姉さんを見習え」

 なおもわめくシアン達をベルクスがなだめていると、彼の背後から黒いネコ耳に赤いおさげ髪の少女が寄ってきた。

「ベールくん♪」

「なんだよ今度は……。いま(いそが)しいって──なんだ、リリスか」

「えー、なにその反応。傷つくなぁ」

「じゃお前がこいつ等の相手しろよ」

「──やだ」

「……。テメェ、あのなぁ……」

 即答したリリスに、ベルクスが(ほお)を引きつらせる。

「それよりさ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんだよ?」

「いまここで、『水蛇突咬(ファングスラスト)()ってよ」

「……は? なに、お前? 遂にMに目覚めたのか?」

「違うよぉ、『遂に』ってなに!? あたいにじゃなくて軽くで良いから(から)撃ちしてって言ってるのッ」

 要領を得ない顔ながらもベルクスはルーシィ達から距離を取る。

「危ねえから下がってろよお前等。──『水蛇突咬』ッ」

 軽く突き込まれた大剣(たいけん)()っ先から蛇を(かたど)った水流が放たれる。しかしその勢いは(ゆる)やかで、安定していないのかふらふらしている。やがて、(おどろ)くべき現象が起こった。

「お〜、久しぶりだね()()()()()。元気にしてた?」

「「…………は?」」

 ルーシィとベルクスの声がハモった。水蛇(すいじゃ)はふらっと方向転換すると、リリスに向かってすり寄っていったのだ。

「よしよし、いい子だねぇ」

 ベルクスは固まっていたが、すぐに(てのひら)を突き出して「ちょっとタンマ」の姿勢を取ると、もう片方の手でこめかみを押さえて口を開く。

「おい、ちょっと待て。なんでこいつがお前に(なつ)いてる。いや、それ以前にこいつに意思なんてあったのかよ。てか勝手に名前付けんな」

 ひと通りベルクスがツッコみ終わると、リリスが答えた。

「いやぁ、あたい達で、その剣取りに行った時あったじゃん? その時あたいがその剣に触れて魔力(まりょく)が流れ込んじゃったらしくてさ。アシュリー様が言うには、『生物の形をとる魔法が突然変異を起こして魔法生物に変化したもの』らしいよ」

「なんだそりゃ」

 その時、水蛇改めサーペントがくるりと回頭すると大皿から唐揚(からあ)げを一つ(つま)み、今度こそベルクスは閉口した。

 ──だから、なんなんだよお前は。

 

 

「ねぇねぇ」

 バイキング制の食事を皿に取っていたカリンは、横合いから()けられた声にすぐに応じる。

「なにかしら?」

 紫髪の少女、ネフィリムは大きな(ひとみ)でカリンを見上げていた。

「あなたってトレジャーハンターなんだよね。セリナちゃんから聞いた」

 その言葉で、カリンは彼女の言わんとすることを察する。ベルクスの話では確か、彼女の種族は闇妖精(インプ)。そして彼女たちは暗中飛行と暗視能力に長けている他、主にトレジャーハントをしているはずだ。同業者としてカリンに興味を示しても何ら不思議ではない。

「そうよ」

「じゃあさ、いま宝石持ってる?」

「いまは無いけど、魔法(まほう)で出すことはできるわ」

 カリンが掌を差し出すと、その中に大粒のルビーが出現する。

「わぁ、綺麗(きれい)〜。──貸して」

「あッ、それは魔法で造ったものだから──」

 カリンの制止も聞かずにその手からひったくられたルビーは、ネフィリムの手に渡った数秒後、(はかな)い音と共に(くだ)け散ってしまった。

 ネフィリムはムッとした顔でカリンを見上げる。

「消えない宝石出してよッ」

「だからいまは無いって言ってるじゃない!」

 カリンが叫ぶが、ネフィリムはすぐに違うものに気を取られてそちらに走っていってしまった。

 カリンは大きな()め息をつくと、気持ちを切り()えて辺りを見回す。と、すぐによく見知った背中を見つけ、歩いていった。

「ラグリア、ちょっとあれ見て」

「ん? あぁ、あれね……」

 ラグリアはカリンが指差す先を見て(おだ)やかな微笑を浮かべる。

 ネフィリムの走っていった先にはセリナやルミネアを始めとした妖精達が集まっていた。

「セリナちゃん、前はあんなにヒトと付き合うのを怖がってたのに、いまはもうあんなに楽しそう」

「そうだね……。いままで本当に、よく頑張(がんば)ってくれたよ。本当に……」

 

 

「はい、またまたこのコーナーがやって参りましたッ。(わたくし)疾風丸(はやてまる) (あや)橙鬼館(とうきかん)メンバー紹介!」

「私は橙鬼館の門番をやってる、ミレーネ・カトラシアよ。よろしく」

「ミレーネさぁん、そんなに嫌そうな顔しないでくださいよぉ。スクープですよ? 今回の一面飾るんですよ?」

「やかましいわね……。私も(ひま)じゃないの。それ以上余計なこと言ってると帰るわよ?」

「あぁ、わかりましたすいませんって。……それでは今回はミレーネさんに、普段の警備の仕方について、(うかが)いたいと思います」

 

 

1、『水滴千里眼(ドロップスコープ)』で山の周囲を監視する。

 いつも仕事でやってることね。『水滴千里眼』は私が使う技の中でも特に消費する武力(ぶりょく)が少ないから昼休憩(きゅうけい)を一度入れたらまる一日でも見張ってられるわ。まぁそんなことしたら、レンカに『働き過ぎだ』って怒られちゃうけどね。一歩も歩かずに山全体を巡回できるなんて、便利でしょ?

 

2、侵入者を見つけたら、『濃霧帯(ホワイトアウト)』を発動して相手の様子を伺う。

 これには侵入者を動揺(どうよう)させるのに加えて、メープルたち警備員の姿を(かく)す意味もあるの。そして最も重要なのが次。

 

3、相手の戦闘(せんとう)能力を分析し、必要に応じて『霧衣迷彩(ミストローブ)』を発動して侵入者への警告に向かう。

 ここでようやく、私の出番ね。さっき『濃霧帯』で侵入者を動揺させるって言ったけど、そこで戦闘能力も分析する必要があるの。戦闘能力のない人間に無闇(むやみ)に『霧衣迷彩』を使ったって、武力の無駄(むだ)だしね。

 

4、侵入者が警告に応じない場合、(おど)かしたり、場合によっては攻撃(こうげき)してスミレ(やま)(ふもと)まで誘導する。

 これは私の仕事の中でも一番楽しい作業ね。視界がほとんど真っ白の状態で脅かした時の人間の反応といったら……フフッ。

 4番の説明は特にいらないわよね? そのままの意味だし。

 

 

「ざっとこんな感じね」

「はい、ご丁寧(ていねい)な解説、どうもありがとうございました!

 そして読者の(みな)さん、私達の出番は一度ここで終わりですが、また会えると良いですね! それでは、その時まで」

「「しーゆーあげいん」!」

 

 

      3

 

 

 橙鬼館(とうきかん)の面々と、(まぶ)しい朝焼けに見送られながら、ルーシィ達は後ろ髪を引かれる思いがしながらも館を後にした。

 どうやら昨晩の内に情報が行き渡っているらしく、山の中腹にいるはずのモンスターが飛び出してくるようなことはない。

「行きは大変だったけど、帰りは楽ちんだね」

 ハッピーの言葉に、ウェンディが応える。

「スミレ山、大きかったもんね」

「そういやこの依頼(クエスト)、失敗だったのか?」

 ナツの問いに、今度はカリンが答えた。

「いいえ、失敗どころか大成功よ。あなた達のお陰で、私達は期待していた以上のものを得られたもの」

(あら)たな関係を築くことも、出来たしね」

 ラグリアの言葉に、セリナが彼を不安そうな眼差(まなざ)しで見上げる。

「また、(みんな)と会えるかナ?」

 その問いに、ラグリアは笑って答えた。

「あぁ、セリナが望めば、きっとまた彼らは(こころよ)出迎(でむか)えてくれるさ」

「そっカ、良かっタ」

「ところで、報酬(ほうしゅう)はどうなるんだ?」

 グレイが言うと、カリンが再び口を開く。

「それについては、期待してくれていいわ。皆にピッタリな、とっておきのものを用意してるから」

「また変な料理だったり──みぎゃッ」

 何事か(つぶや)いていたハッピーの言葉に、彼の後頭部にスカルちゃんがかじりついた。

 

 

 山の(ふもと)に降り、霧が名残惜(なごりお)しそうに晴れたところで、ラグリアが『空間接続(ディストーションライン)』を発動。一気にカリンの家まで帰る。

「ふ〜、やっと着いた〜」

「そうか? 結構すぐだったじゃねぇか」

 ナツの言葉に、ルーシィはチッチッ、と指を振ってみせた。

「こういうことは、気分が大事だったりするものよ」

「それじゃ、私は報酬を取ってくるわね。入って待ってて」

 そう言って、カリンが一足先に自宅に戻る。

「報酬、何だと思う?」

「カネだけじゃねぇことは確かだな」

 ハッピーとグレイを落ち着かせるように、エルザが口を開く。

「報酬よりもまず、依頼を達成出来たことに感謝せねばな」

「難しいコト言いやがる」

「石頭だねエルザは」

「──なにか言ったか?」

 エルザがキロリと(にら)みつけると、ハッピーとナツはすぐに口を(そろ)えて言った。

「「ルーシィが」」

「えッ? なんであたし!?」

 ルーシィが(あわ)ててそう返したところで、カリンが報酬の入った小袋(こぶくろ)を人数分(かか)えて戻って来る。

「さぁ、皆の分あるから取っていって」

 見る限り内容物は同じようなので、各自で手に取り中身を(あらた)める。

 中には、いくらかの(ジュエル)が入っていた。

「これが報酬か? ただの金貨じゃねぇか」

 ナツの言葉に、しかしカリンは意味ありげな笑みを浮かべる。

「特別なのは、これからよ。──あなた、ちょっと」

 カリンに手招(てまね)きされたルーシィは、いそいそと進み出た。

「特別って言ったのは、これのことなの」

 目線で(うなが)され手を差し出すと、カリンが小さな物体を()せてくる。

 ルーシィは恐る恐る、閉じていた手を開き、それを見る。と、次の瞬間(しゅんかん)、ルーシィの身体がビクリと痙攣(けいれん)した。(あし)から力が抜けて、その場にへたり込みそうになるのを必死に(こら)える。

「ルーシィさん? どうしたんですか?」

「何か変なものだったのか?」

「ちょっとアンタねぇ……」

 ウェンディに続いて口を開いたナツを、シャルルがたしなめる。しかし、ルーシィにはもうそんな言葉も聞こえていなかった。

 閉じた手を開き、もう一度見る。何度見ても見間違いようがない。

 金色に輝く、美しい(かぎ)。それが、ルーシィがカリンから受け取ったものだった。

 しかしただの鍵ではない。この世にたった十二種類しか存在せず、ルーシィとともに数多くの激戦(げきせん)を戦い抜き、ついに『冥府の門(タルタロス)』との戦いで失われたはずの、家族に等しい鍵だ。

 気づけばルーシィの(ひとみ)からは澎湃(ほうはい)と涙が(あふ)れ、(ほお)を伝って(てのひら)の中へと(こぼ)れていた。そのまま濡れた手を胸の前に引き寄せ、やっとの思いでルーシィは(つぶや)いた。

 

 

「──おかえり、アクエリアス」

 




はい、ここまでで、スミレ山編完結となります。
これからの数話は、いままでに登場したオリキャラ達のサブストーリー集になる予定です。
それでわ、しーゆーあげいん!

〈加筆修正一覧〉
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