FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm 作:水天 道中
それではオリキャラ達による裏話集第1弾、どうぞ!
第12話 赤髪の
時はX七九二年、フィオーレ王国で『
フィオーレ王国の東側に位置する森の中で、少女が独り、
不意に全身を
もう、どうすればいいのかわからない。少女には、帰る場所がないのだ。
目を閉じると、最初に思い返すのは、騒がしくも温かい笑い声。
そう。少し前まで、少女もごく普通の家庭の一員だった。
しかし、ある日を境に、その生活は一変することとなる。
空一面が雲に包まれ、雷が鳴る中。それでも少女は元気一杯に外を走り回っていた。少女には、雷の鳴る音にある種のスリルを覚え、
だが、それがきっかけとなり、少女を不幸が
家の前の広い草原で走り回っていた少女の頭上で
そこから何が起こったのか、少女は知らない。目が覚めると右
彼らが動き出すことは、もう二度となかった。
それから少女は家を飛び出し、街に向かった。
しかしそこで、少女は
街中で少女が近づいたもの、触れようとしたものすべてが
恐怖に
目つきが悪くなった。
落ち延びた先々で、生きるために殺人以外のありとあらゆる犯罪をして命を
人を信じることをやめた。
それからどれくらいが
その時、背後に立つ木から一羽の小鳥が舞い降り、少女の目の前の地面にとまった。
その愛らしい姿に、少女は思わず手を伸ばす。
しかし直後、空から一筋の閃光が降り注ぎ、無慈悲にも少女の目の前に落ちた。
少女は再び
少女の
──どうして、こんなことになったんだろウ? 私はただ
1
X七九二年、
青年、ラグリア・オズワルトは王国政府からの通達を受け、
室内には
「魔導士、ラグリア・オズワルト」
魔法評議院新議長にして事実上の序列一位、イシュガルの四天王の一人でもある男性、ハイベリオンの
「貴君はその
その場にいた一同が
「ラグリア・オズワルト。貴君はこの決定を受けるか?」
ラグリアはその場でひざまずき、答えた。
「──はい、喜んで」
自宅ヘと帰る道すがら、ラグリアは右手を持ち上げ、視線を落とした。
──この僕が、聖十大魔道とは、ね……。
『貴君はその類まれなる才能を以て──』
才能。自分の最も得意とする
ラグリアがこの魔法に出会ったのは、まだ魔法学校にいた
当時、自分はなにをしても平々
筆記、実技試験の首位通過。更には私生活でも何度となくこの魔法に助けられた。
ここまでを客観的に見るなら、自分は『素晴らしい才能をもった優秀な
それに、自分は目立つ行動を取るのが嫌いだ。それはもて
リスクという点では、この魔法を嫌う理由についてもう二つほど挙げられる事実がある。一つ目は、この魔法を手にしてからというもの、様々な
自分はなにもしたつもりはないのに、周りが勝手に妬み、又は
もう一つは、この魔法の特性である。自分は一度、この魔法の真の力を試そうと思って、両手での使用を練習したことがある。しかしそれが、間違いの始まりだった。
この魔法、『具体化』にはただ一つ、恐ろしいデメリットが付きまとう。それは簡潔にいうと、『全力での発動が出来ない』ということ。より詳しく言えば、この魔法を百%の力で使ったが最後、脳に
自分はまだ運が良かっただけなのかもしれない。
話を戻そう。先ほどの話に付け加えていうならば、この一年を思い返しても、なにかハイベリオンの言うような特別なことをしたという自覚はない。読書をしながらのらりくらりと過ごし、思い出したように運動がてら遠くの街まで散策に行き、そうして自分の一日は過ぎていく。そして気付いた時には一年が過ぎていた。それだけのことだ。
これから先、また自分はそうして過ごしていく。それで本当に良いのだろうか?
「おいコラ、どこ見て歩いてんだテメェッ」
ラグリアを際限ない自己否定と責任感の
見ると路肩の木の陰で、へたり込んだ十歳前後の金髪ツインテールの少女に、不良のような三人の少年が
普段の自分なら関わることを嫌っただろうが、幸か不幸か近くには自分の他に
ラグリアは一つ
とりあえず親呼べや、といって足で少女を
「あぁ、こんなところにいたのか! やっと見つけたよ!」
不愉快そうな顔で振り返る少年達を無視して、彼らの間に割って入ると、「さぁ、来るんだ」といって
「おい待て、テメェが保護者か?」
強引に立ち去ろうとしたラグリアを、案の
ラグリアは努めて冷静に混ぜ返す。
「あぁそうだ。正確にはこの子の
まんじりともせずにラグリアが少年を見ると、少年はわずかに
その背中を見送ってから、ラグリアは少女の手を
見ると少女は、
ラグリアは少女を刺激しないように、
「……
少女はラグリアを睨みつけたまま答えない。
「どこから来たのかな。街はまだずっと遠くのはずだけど」
少女は答えない。
「
「…………」
ラグリアは処置なしと鼻からひとつ息を吐き、少女から視線を上げて遠くの街を見やった。
「……そうか。それならひとまず、僕の家に──」
その時、少女がいきなりラグリアを突き飛ばして
不意を突かれた驚きに立ち
例によって『無意識に』動いたのだろう右手には、小さな電流が走っていた。
「これは……魔法……?」
ラグリアが手を開閉しながら
少女は、ラグリアから数メートル離れたところで、糸の切れた人形のように倒れてしまっていた。
気を失う直前に頭に浮かんだのは、『もう苦しまなくても良いんだ』という
死ぬことに対して、恐怖がないといえば
しかし同時に、
助ける、といえば、先ほど自分が突き飛ばした男。彼がまだ近くにいたはずだ。しかし、自分は差しのべられたその手すらも振り払って逃げてしまった。
人を信じることをやめてしまった自分に、安らかな死に様など与えられるはずもない。
そこまで考えて、ようやく気付く。
強烈な
ゆっくりと
自分は大きなソファに
キッチンらしき作業場でこちらに背を向け、何かを
男性は脇に置いていた器に目の前の大
「あぁ、良かった。気がついたんだね」
「…………」
少女が押し
「……なんデ」
そこで初めて声が出ることに気づき、少女は続けた。
「なんデ、助けたノ?」
青年は
「
そんな理由だけで、人は初対面の他人を助けるものなのか。ましてや少女が突き飛ばした時、彼も自分が持つ『力』に気付いたはずだ。それでもなお救いの手を差しのべてくる以上、そこに何かしらの下心があると考えるのが自然なのではないか……。
「まぁそんなことより、食べると良い。お腹が
次の
青年は穏やかに目を細めてその様子を見守っていた。
「うんうん。それだけ食べられる元気があるなら、ひとまず安心だね」
少女は食器を置くと、再び口を開く。
「どうしテ、こんなことしてくれるノ?」
「ん? はっきりした理由は、済まないが
あくまで穏やかな笑みを
「そうだ。そもそも、名前も名乗らない知らない人からいきなり助けられて、信用しろという方がおかしな話か」
青年はこちらに手を差し出しながら苦笑気味に笑う。
「僕の名は、ラグリア・オズワルト。改めて聞かせて欲しい。君の名前は?」
差し出された手をしばらく見つめた後、少女も恐る恐るその手を
「……セリナ。セリナ・ロゼルタ……九歳」
「セリナちゃん、か。良い名前だね。しばらくは、ウチでゆっくりしていくと良い。これからもよろしく」
それが少女──セリナ・ロゼルタと、
2
それから数日は、セリナの体力の回復を待つことにした。
セリナはあまり自分の事について語ろうとはしなかったが、ラグリアと会うまで何日も、あるいは何週間とあの森の周辺をさ迷っていたのは聞くまでもない。
そうしてセリナが外出できるまでに回復した、ある日。
ラグリアはセリナを連れて、自宅からほど近い──というにはやや距離のある十キロほど離れた森の中を歩いていた。
行き倒れていたセリナにいきなり長距離を歩かせるのは忍びなかったが、頼れる人物が一人しかおらず、
と考えている間にも、案の
「聞こえるかい? 実はいま、君の家を目指して森を歩いてたんだけど──」
『──また迷った、と』
ラグリアの数少ない知り合いの一人、カリンの
「そういうわけなんだ。でも、今回はちょっと事情があって、アレは使っていない。単純に道に迷って困ってるんだ。いつも通り、頼めないかな?」
ラグリアの
『……。……わかったわ。すぐに
「すぐに助けが来るよう手配したから、安心していいよ」
ラグリアは努めてゆったりとした動作でセリナの
セリナは辺りの木々を眺めながら何か考え事をしているようだったが、少しして不意にラグリアのコートの
「それ何?」
「この本かい? これは……」
読んでいる
「そうだね……。セリナくらいの女の子と暮らす学生の男の子が主人公の、バトルアクションものの小説、だね。暗くて怖い部分もあるし、セリナにはまだちょっと難しいかな」
「そっカ」
それから特に話す言葉もなく、ただひたすらに時間だけが流れた。
しばらくして、
「ん?」
「ねぇ、あレ……」
セリナが指差す先を見ると、果たしてそこにはラグリアの予想した通りの光景が広がっていた。
地面から一メートルほどの空中で風もないのにゆらゆらと
このまま放置してもなにも問題がないのはわかっていたが、現にセリナが恐怖を感じている上、これ以上彼女のトラウマを増やすわけにもいかないので、ラグリアはすぐに明るい声を出す。
「あぁ、あれが僕の呼んだ助けだよ。ちょっとここで待っていてくれるかい? すぐに終わる」
セリナが不安そうに
「助けに来てくれてありがとう。……ところで、こちらの声は聞こえてるんだろう? その、言いにくいんだけどさ、この人形のデザインは、どうにかならないものかな?」
そう。これは、小説家でありトレジャーハンターであり、さらに
ラグリアの言葉に
「ホント、あなたって失礼なコト平気で言うわよね。あのねぇ、前にも言った通り、私はこのデザインが気に入ってるんであって、なにも
苦笑と共にラグリアがこくこくと頷くと、カリンは続けた。
「まぁいいわ、その代わり、後でみっちり説教してあげるから
「あぁ、それなんだけど……」
ラグリアは声のトーンを落として告げる。
「君からは見えないだろうけど、僕の
「それは……どういう……?」
「頼む。僕もまだ状況がよくわからないから君に相談しに来たんだ。いまは何も聞かずに案内してくれないかい?」
カリンはすぐに表情を改めると、
「じゃあ合図を送るから、ちょっと見ていてくれ」
「わかったわ」
カリンが通信魔水晶から離れてしばらくしてから、頃合いを見計らって、ラグリアは
ラグリアの拳から放たれた日光は、その強い光で昼空にもはっきりと花火よろしく
少しして、カリンが戻って来た証拠に、彼女の顔が通信魔水晶に映り込む。
「たったいま、サインを確認したわ。そこからなら、私の案内なんてなくてもすぐに着くわよ?」
「それじゃあ、方向と行き方だけ聞いて良いかな?」
「すぐ近くに、小さな倒木があるでしょ? そこから左にまっすぐ行って、三本並んだ木を通り越したところよ」
「本当にすぐだったね。君の案内がなくても
「仮定の状況を想像する
カリンのキツい一言に、苦笑するしかないラグリアだった。
ラグリアがカリンの家の戸をノックして開ける間、セリナはずっとラグリアの後ろに隠れていた。
近づいてきたカリンもその事に
「この
「あぁ、ついこの間、行き倒れになっていたところを偶然助けてね。名前はセリナだ。セリナ・ロゼルタ、まだ九歳らしい」
「ふーん」
カリンは
「初めまして、怖がることないわ。私はカリン・ミナヅキ。この人の友達よ」
良いものあげるわ、といって、カリンは
「これはアメジスト。触っていれば、気分が落ち着いて楽になるわよ」
セリナが恐る恐るそれを受け取ると、少ししてわずかに緊張が
「ありがとう。君に会わせて正解だったよ。こんな芸当、僕には絶対に出来ないからね」
ラグリアの言葉にカリンは得意そうな笑みを浮かべると、そのまま無言で入室を
セリナに右手のリビングに行くようにいうと、ラグリアはカリンを追って左手の書斎奥の戸をくぐった。彼女は宝石や
自分と出会うまで彼女が一体どういう食生活をしてきたのか料理好きなラグリアとしては
今日の昼食はハンバーグにしようと決まり、ラグリアはハンバーグを、カリンは副菜の付け合わせを用意することにした。
料理が無事完成し、心細そうに席に着いていたセリナの下に運んでいく。
「さぁセリナちゃん、今日のお昼はハンバーグよ!」
いつになくテンションの高いカリンが皿をセリナの前に置いた、その時だった。
セリナが顔をしかめたかと思った
「「え?」」
二人して
見ると、付け合わせの野菜
カリンが肩を震わせ始める。恐らく、泣くのを
「わ、私の……私の野菜炒め……」
「か、カリン、しっかり……。セリナ、何をやったのかな?」
責める口調にならないように気をつけながらラグリアが問うと、セリナはボソリと答える。
「私……野菜嫌イ……」
「だからって、人から出されたものをいきなり焼くのはいけないよ……」
二人の間に
3
カリンとの相談の結果、ラグリアの家でセリナを静養させるのが最善だろうという結論に至り、しばらく
ラグリアがいつも通りキッチンで
「ん? どうしたんだい?」
「私も……何か作ってみたイ……」
「ほう! それは素晴らしい心がけだね。しかし、セリナが作れるものとなると……そうだね、カレーでも作ってみようかな?」
ラグリアが見ると、セリナの
「私……カレーは大好キ……」
「そうか……。よし! そうと決まれば、まずは材料の下ごしらえからだね」
ラグリアが野菜を並べ始めるとセリナがあからさまに不機嫌になったので、なんとか言いくるめながら準備を進める。
野菜の切り方を覚えた後のセリナは、心なしか楽しそうに見えた。
「これを切って……そう、押さえる手には気をつけてね。それが終わったら、こっちに入れるんだ」
ラグリアの指示通り具材を
──私ももうちょっとお母さんと過ごせたら、こんな事もできたんだろうナ……。
「次に、火を
「いいノ、私がやル」
ラグリアはセリナを見てから、すぐに身を引いた。
といっても、セリナもどうすれば良いのかわかっているわけではない。料理をやりたいと言ってしまった手前、最後まで自分でやってみたいという好奇心が、セリナにいまのような
改めてキッチンの設備を見て、軽く後悔する。
恐らくあのカリンという女性が造った火を点ける為の装置なのだろうが、セリナの目の前にはいくつものスイッチらしき突起が並んでいたのだ。
セリナの家は特別
とりあえず、火を点けるだけだ。簡単なことじゃないか。そう自分に言い聞かせながら、おそるおそる手を伸ばす。
まずは一つ目。なにかが作動したのはわかったが、自分はいま何をしたのだろう。
二つ目。変化なし。
三つ目──を触る前に、セリナの
数週間前、カリンの家を訪ねて食事を振る舞われた際、セリナは野菜炒めを電流で
あの『力』の使い方が、そのまま使えるのではないか。
セリナは一歩下がると、両手を振り上げた。
──火を点けるだケ。それだケ……ッ。
「えイッ」
直後、セリナの予想を完全に裏切る現象が起きる。
セリナが放った電流がすべて装置内部の着火機構に吸い込まれ、見事なまでに『力』が暴発。装置が故障
「うワッ! ──えっト、み、水、水……ッ」
「──大丈夫」
「エ……?」
ラグリアの落ち着いた声に振り返ると、セリナは
燃え広がった炎の動きが、完全に停止していた。まるで、キッチンの周辺だけ時間が止められたような光景に、わけもわからずセリナは
ラグリアはキッチンの
「これが僕の
「簡単に言うと、僕の能力で炎が広がるのを止めたんだ。あとは、このキッチンの周りの空気をどければ……」
ラグリアがパチン、と指を鳴らすと、炎が何事もなかったように消える。
「燃やすものがなくなって、炎は消える」
セリナが目をぱちくりさせていると、ラグリアは苦笑した。
「まぁ、この魔法の効果を説明するのはちょっと難しいかな。ところでセリナ、僕と出会う前と後で、君の周りで何か変わったことがなかったかい?」
そう言われて、セリナはここしばらくの出来事を思い返してみる。そこで、あることに思いいたり、顔を上げた。
「私の『力』が、弱くなってル」
ラグリアは一つ
「うん。正確には、君のその『力』が暴走しないように、リミッターを付けさせてもらった」
「リミッター……?」
「そう。僕の魔法……『力』はね、形のないものや目には見えないもの……例えば炎とか、空気とかを自在に操ることができるんだ。
セリナの『力』、つまり魔法は、『
セリナの魔法はとても強力だけど、代わりに大きな危険が付きまとうものだ。それは、魔法を使っている君自身が一番よくわかっているだろう」
セリナが頷くと、ラグリアは続ける。
「そこで僕は、君の
これは目に見えるものじゃないし、
なにも
ラグリアが
セリナは必死でそれを
「ラグリア、ありがとウ」
思えばこれは、セリナが自宅を飛び出してから、初めて見せた笑顔だっただろう。
はい、今回は第1、2話に登場した彼らの出会いの物語でした。
セリナのバックグラウンドのイメージとしては、命の重みを忘れていない時のゼレフと、ブラック・ブレットの
FTのギルドメンバーは何かしら暗い過去を抱えているという初期の設定を意識して創り上げました。この想いが読者の皆さんに上手く伝わっていれば幸いです。
それでわ、しーゆーあげいん!