FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm 作:水天 道中
それでは、どうぞ!
宝石。それは、何十種とある鉱物の内、美しく輝くものを指す言葉だ。
古来より人はその輝きに神秘的なものを感じ、独自の解釈によって
例えば
緑、といってまず思い浮かぶ宝石の一つとしては、エメラルドがあるだろう。名誉の象徴とされるこの石には、危険を察知すると色がくすむという魔力がある。
同じような能力をもつ石に、ルビーが挙げられる。これは幸福の印。さらに、そこから派生して恋愛運を引きつけるともされている。また、所持する者に病気や毒に対する耐性をわずかだが与える力もある。
七色に輝く希望の象徴オパールは、触れた者に時折未来の
宝石の王者ともいえるダイアモンドは、純潔と力の象徴。その
以上のように、宝石と呼ばれる鉱物の中には、
1
トレジャーハンターの女性、カリンの朝は早い。日の出頃には目を覚まし──この
カリンの身支度はまず、装備の確認から始まる。貴重品入れからずっしりと重みのある特注品の金属のベルトを取り出してきて、
今日の気分から
カリンの操る『
精神の安定を与えてくれるアメジストとトパーズは両端に、その内側には傷や毒を
一つ
カリンが暮らす魔法の森には、一日にほんのごく
しかし、そんな時の助けこそが、カリン愛用の警備員たちだ。
まっすぐ前方、目の高さに右手を突き出してコマンドを発声。
「さぁスカルちゃん。来て、私のかわいい使い魔」
やがて薄暗い森の中から、青白い火の玉がカリンの元へとやってきた。
スカルちゃん。カリンが製造、命名した忠実な魔法人形だ。彼らは一号機から四号機までがあり、それぞれ通信、通話、監視、警備と目的に
カリンが呼び寄せたのは、監視や
「目的地、トレジャーハンターギルド『
再び、今度は道案内用のコマンドを音声入力すると、ややもせずスカルちゃんは森の外へとカリンを導き始めた。
「おッ、プリンセスのお出ましだぜ」
「ホントだ、珍しいな、カリン」
「私は
ガラの悪い男連中の冷やかしをすまし顔であしらうと、カリンはギルドの一角に座る。
「あ、カリンじゃん、久しぶりー。元気にしてた?」
横合いからかけられた声に顔を上げると、カリンはハッとして軽く目を見開いた。
「サラじゃない。身体の方はもう大丈夫なの?」
サラ・ヘンドリックス。さらさらとした銀髪を一つの三つ編みに束ねて肩から垂らし、白いブラウスを着込んだお
彼女はやや病気がちなところがあり、カリンとはお互いあまり人混みが好きではないこともあって、なかなか顔を合わせる機会がないのだ。
サラは人見知り気味な笑みを浮かべて答える。
「うん、もう
「
目線で着席を促すまでもなく、サラはいそいそとカリンの目の前の席に座ると、両
「それで、今日はどんな仕事にいくつもりなの?」
「ん〜? そうねぇ……」
カリンは言いながら手の上に
少しして目星をつけると、サラを引き連れて歩いていった。
「これかしらね」
カリンは一枚の紙を
「あぁ、ハンティングね。確かに簡単そう……ってちょっと待ってカリン。ホントにこれで良いの!?」
「え?」
サラが目を
「ハァ!? 報酬十二万J!? どうなってんのよコレ!!」
思わず大声を上げてしまいギルド中の視線を受けて首をすくめながら、もう一度視線を落とす。
見ると獲物の絵はなんだか不気味な悪魔のような姿の怪物が描かれており、依頼の詳細説明にも『正体不明の怪物が
しかし、カリンはすぐに気持ちを切り
「そういうことね。大丈夫よサラ。どうせこの村の人達が話を盛って、ちょっと報酬を釣り上げてるんだわ」
サラは
仕事が決まれば、あとはやることは決まっている。ギルドの受付で依頼書を提出し、簡単な事前説明を受けるとギルドを後にした。
しばらく汽車に
カリンは駅から少し歩いたところに広がる光景を見て、すぐに違和感に気づく。一面に広がる畑は、その半分ほどが激しく荒されていたのだ。
畑の一つに近づき
家の一つを訪ね、話を聞くことにする。
住人達は、口を
この村には夜ごと、小悪魔が来る、と。
一見気味の悪い話だったが、ただのモンスターが突然変異したものを思い違いしているだけ、ということも充分有り得る。
カリンは村人達を安心させるべくあくまで気丈に振る舞うと、
ベルトをみると、案の
一歩
おそらく手を降ろした際、偶然オパールに触れたのだろう。カリンの目の前に、
──なんだ、これは?
竜のような巨大な怪物と
予知はすぐに消えてしまったが、それが近い未来に起こり得る事実であることは痛いほどに理解できた。
──恐れるな、私。
カリンは自分にそう言い聞かせると、あえて予知を頭から追い出し、視界の
カリンは、
坑道の中は、その
しばらくして、十字路のような場所に出た。スカルちゃんのまとう炎のわずかなゆらめき具合から、更に奥に進む道は左側と判断する。
と、少しして、足が水
カリンはすぐに情報をまとめると、考えうる最善の手を打つ。
「
叫ぶと同時にカリンの右掌が白い霧に包まれ、雪の結晶の形をした複数の小さな氷の
一つ
更に何度となくあった曲がり角を、道なりに曲がりながら進んでいくと、何時間か経過したところで今度は一気に視界が開けた。
簡単にこの光景を言い表すなら、天然の地下
人工物ならざる天然の石柱が頭上から伸び、地面から生えた石柱と連なったものが無
しばらく進んでいくと、どこからか、何やら鼻歌のようなものが聞こえてきた。タイミング良く大きな岩の
鼻歌は
カリンがベルトを確認すると、ルビーとエメラルドの輝きがほとんど失われていた。ここまで色がくすんだのを見るのは何ヶ月ぶりだろうか。その反応は確実に、自分が大きな危険に向かって近づいていることを
気をつけろ。そう自分に言い聞かせながら飛び出そうとした、その時だった。
いきなり背後から
目を白黒させていると、口を開くよりも早く口元に立てた人差し指が当てられる。相手の顔を見て、カリンは今度こそ目を見開いた。
赤黒い長めの髪に、白いロングコートを
──予知で見た男性だ。
線の細いその顔の
「静かに」
男性はごく小さな、しかし強い口調でそう言うと、カリンが
「
一拍置いて、男性は小声で続けた。
「君、名前は? なんでこんな所にいるんだい?」
カリンはなんとか思考を立て直して、相手に敵意がないことを確認すると口を開く。
「私は、カリン・ミナヅキ、トレジャーハンターよ。ここには、この岩の向こうにいるモンスターを捕まえに──」
「──いけない」
「え……?」
「ここは、君みたいな人が来て良いところじゃない。いますぐ元来た道を帰るんだ」
「あぁ、君が言いたいことはよくわかる。あのモンスターに
カリンは必死で自制し、声を
「全然わかってないじゃない。トレジャーハンターが皆
「そんなつもりで言ったんじゃない。ここに僕以外の人間がいるのは具合が悪いんだ」
「……。詳しく、説明してもらえる?」
男性は一瞬耳を
「僕の名は、ラグリア・オズワルト。一ヶ月ほど前からとある事情で、ここの監視をある施設から任されていた。ここで何が行われているのか探る為に、また、ここに人間が来ないように」
「つまり、どういうこと……?」
「ごめん、これ以上詳しく言うと、君も巻き込んでしまう可能性がある」
「べつにいいじゃない。ここに来た目的は違っても、要するに、この先にいるモンスターを倒せばいいんでしょ? だったら私も戦う。私だって、丸腰でこんな所まで来るわけないと思わない?」
その言葉に、ラグリアは処置なしと鼻からひとつ息を
「わかった。そこまで言うなら協力して
「
「頼む。理由を説明できないのが本当に残念だけど、それがいまできる限りの最善の策なんだ」
「…………。……わかったわよ……。私は外に出ていれば良いんでしょ?」
「そうしてくれると助かる、ということだ。決して、君を足手まとい呼ばわりしているわけじゃない。そこだけは理解しておいてくれ」
カリンが
しかし、カリンは動かない。当然だ。こんなわけのわからない理由だけで、どこの馬の骨ともわからない奴に
2
カリンがそっと岩陰から首だけ出すと、ラグリアは足音を殺してスタスタと歩いていく。
彼の歩いていく先を見て、カリンは顔をしかめた。
岩でできた天然神殿の
そしてその足元には、何かの機械を操作する一人の怪しい影。カリンが目を
どうやら
耳を澄ませると、あの
「ファファファファファ。あとはここをこーしてぇ、あれをこーやってぇ〜。あー、楽し〜」
「──楽しそうだね」
突然背後から掛けられた声に、少女がぎょっとして振り返る。
「
すると少女は、ニヤーっと
「あんれぇ〜? ここは一応関係者以外立ち入り禁止なんだけどね〜? 何? イケメンがこの天才科学者ラミー様になんか用?」
「別に
ラグリアが
「ファファファファ、道に迷った? この地下研究所はかなり頑張らないと見つけられないように設計されてるんですけど。道に迷ったぐらいじゃ弱っちい人間どもなんて、どっかで行き倒れて終わるはずなんですけど、ファファファ」
──研究所?
それにいま、あのラミーという少女は気になる事を言った。
弱っちい人間、と。
つまりあの少女は、人間ではなく、後ろに
「そうか……
ラグリアが肩をすくめると、ラミーは小馬鹿にしたように笑う。
「ファファファファ、当たり前でしょー。このラミー様の前でデタラメ言ったってムダムダ……ん?」
ラグリアがおもむろにコートのポケットから一冊の本を取り出す。と、次の
「評議員ラグリア・オズワルトより、研究員ラミーに警告する。いますぐにその研究を中止し、おとなしく
カリンはその言葉に、耳を疑った。
カリンはわけがわからなくなっていた。ラグリアの
それでは、あのラミーという者は──。
ラミーもわずかに目を見開いたあと、必死に平静を
「ファッ、ファファファッ。なに言ってんのこのイケメン。いきなり現れて意味わかんないこと言い始めたかと思ったら、今度は評議員気取り? ファファッ、ファファファファ……。
そッ、そんなヤツにはぁ、この新型ドラゴノイドのエサになってもらうしかぁないねぇ〜。ファファファファッ」
ラミーが手元にあったコンソールにコマンドを打ち込むと、彼女の背後にあった
──触手から解き放たれた意思なき竜が、しっかりと地に足をつけ全身を
マズい。そう思った時には矢も
「ラグリアッ!」
ラグリアがハッとして振り返り
ラミーがあからさまに嫌そうな顔をする。
「ハァ? まだ人間がいたのぉ? ラミー、ブスにはキョーミないんですけどぉー」
カリンはその言葉に、唇を引きつらせた。
「それはお
カリンは右手を突き出して魔力を発動させる。
「
しかしそれを合図にしたように動き出した竜の
「ファファファファ、無理無理。このドラゴノイドは人間に倒せるよーには設計されてませぇん。ブスはブスらしく、
カリンが歯噛みすると、ラグリアがこちらに背を向けたまま叫ぶ。
「この骨の
「そんなこと、言われなくてもわかってるわよ……ッ」
ラグリアが手を突き出すと、骨の竜は身を低くして苦しそうな
それを受けて
「
カリンが
「ギャンッ」
ラミーはそれを
カリンは小さくガッツポーズをしたが、その
回転を停止したラミーの身体には、傷ひとつついていなかったのだ。
「ファーファファファ。私の
「く……ッ。それなら……ッ」
カリンは両手を上げると、再び
「お……?」
「氷結の陣──」
カリンが両腕を振りおろしながら目の前で交差させると、ラミーの周囲に
「雪時雨ッ」
次の
「ファーッ! …………ファファファ、ファファファファファッ。アンタ馬鹿ねぇ。こんなんでこのラミー様に効くとでも? 全然効かないんですけどぉ」
「いちいちうるさいのよこのウサ耳女ッ。
カリンが地面に手を突くと、ラミーの足元から生えた巨大なサファイアの柱が彼女を突き上げる。
「ごふぉッ」
3
ラグリアは骨の
相手は大した
なんとか空気の刃を放って応戦するが、相手はあのラミーという
そうこうしている間にも骨の竜は再び
「く……ッ。『
ラグリアが
「君の相手は、こっちだと言っているだろう」
一方その
カリンの操る『
さらにラミーは自分からはまったく攻撃してこないくせに──科学者と名乗っていたので、恐らく非戦闘員なのだろう──無駄にすばしっこく、フェイントを折り混ぜてもなかなか攻撃がヒットしない。しかも前述の通り彼女に飛び道具系の技はほぼ意味を成さない為、無理に攻撃しようとしてもこちらが体力と魔力を
「く……ッ。はぁ……はぁ……。この……ッ」
「ファファファファファ、どーするよ人間。アンタの魔法じゃ、このラミー様には
カリンはそこであることを思いつき、不敵な笑みを浮かべた。
「それはどうかしら?」
「ファ……?」
「
するとわずかな地鳴りの後、ラミーの周りを三本の水晶の柱が
ラミーは
「……プッ、ファファファファ! なにそれ、こんな結界ごときで私を捕まえたつもり? こうすれば降参するとでも? ファファファファファッ」
「──確かに、それは難しいかもね」
「ファ……?」
カリンはスタスタとラミーに向かって歩いていくと、結界に一瞬だけ自分が通る分の穴を開け、彼女の前に立つ。
「でもねぇ……」
カリンは腰を落として構えると、両手に
「──アンタなんかが私を降参させる方が、百年早いからッ!」
「グッフォォオアァッ」
ラミーは軽々と吹き飛ぶと「グヘッ」といって背後の結界に背中からぶつかる。
ずり落ちてきたラミーは、しかしまだ
「ファファファファ、何やってんのよこのブス。私にはどんな物理攻撃も意味を成さない……ん?」
そこで、ラミーが見下ろした彼女の身体に、変化が訪れる。
──緑色に輝く宝石の結晶が、ラミーの腹からどんどんと面積を拡げていっているのだ。
「ファッ? 何コレ、何コレ怖い!」
ジタバタともがくラミーを冷ややかに見下ろしながら、カリンは静かに告げる。
「──
やがて、ラミーの胴部は完全にエメラルドの結晶に包まれ、彼女は
カリンの操る技、『翠玉の陣・岩礁の爪』。両腕に装備したエメラルドの
カリンは、足元に転がるラミーに、
「アンタ最初から、私のことブスブスって連呼してたわよね?」
ラミーはなんとか
カリンは両手の指をポキポキと鳴らしながら、
「散々コケにしてくれたツケは、しっかり払って
ラグリアはぎりぎりの防戦を続けながらも、冷静に状況を分析していた。
恐らくいま、ラグリアを追い回している
──この程度ならば、勝機はある。
竜の噛みつきからの二回連続の
──重力操作──ッ。
ラグリアの両
ラグリアには、この一撃を決められるという確信があった。この骨の竜は確かにラグリアを
「『
今度はラグリアの左手を中心に重力場が変形。
ラグリアの重力場をまとった拳はいとも
ラグリアは反動を利用して跳び
そこでハッとして、この場にいるもう一人の人間、トレジャーハンターのカリンがいた辺りを眺める。
ラグリアの見解ではあのラミーという悪魔に負ける程度の力量ではないように見受けられたが、勝敗の
「カリン! だいじょう──。……うわ……」
ラグリアがカリンを視認した時最初に頭に浮かんだイメージは『コスプレ少女を痛めつけるイジメっ子の不良
「──ラグリア、終わったわ。これで良かったのよね?」
緑色の結晶に包まれて
3
ラグリア達は事後処理を終わらせる為、村へと向かおうとしていた。カリンの
入り口まで戻ってくると、
「さて、と。これで仕事は終わりね。じゃあ改めて、何で
「……やっぱり、言わないと駄目かい?」
「当たり前よ。あんな簡単な説明だけで、
ラグリアは少し考える
「わかったよ。カリン、君はバラム同盟、という言葉を聞いたことがあるかい?」
カリンは小首を
「確か、闇の
「あぁ、その通り。
一拍置いて続ける。
「その中で、ただひとつだけ、構成員の人数、容姿、規模、使う魔法……すべてが
カリンはそれを聞いて、ゴクリと
「彼らについてわかってる事は本当に少ない。その中で、僕が手に入れた情報は、彼らが使う能力が
「つまり、人間じゃない? ──ッて、あ……ッ」
カリンが声を上げて口に手をやったのを見て、軽く
「あぁ、僕も聞いた。あのウサギ耳の少女・ラミーは、自分の能力を『滑りまくる
ラグリアはカリンをまっすぐ見ると、告げる。
「恐らくラミーが所属しているのだろう『冥府の門』は──ゼレフ書の悪魔を所有、または改造して飼い慣らしている」
カリンが、体をブルリと震わせた。
「そんな……ッ」
彼女もそれを聞いてようやく自分の犯しかけた
不老不死にして最凶最悪の黒魔導士・ゼレフ。彼が魔道の研究の末
ラグリアは決して口には出さなかったが、実はもう一つ気づいたことがある。
それは『
カリンを見ると、
怖がらせてしまったかと思って口を開きかけた、その時だった。カリンが不意にフッと笑みこぼれると、すぐにいつもの
「カリン……?」
「まさか、軽い気持ちで受けた依頼が、こんな大事に発展するなんてね……」
「え?」
カリンはついいままでから一転し、晴れ晴れとした表情で伸びをする。
「あーあ。せっかくオイシイ仕事見つけたと思ったのに。やっぱり世の中そんな甘いもんじゃないわねー」
ラグリアが
「そういえばラグリア、
「ん? なんのことだい?」
「アイツらよ。貴方、私とあのラミーってヤツが戦ってたとき、私を
そこでラグリアは、ようやく思い出した。骨の竜の注意がカリンに向きかけた際、自分は空気の壁で
「あ、あぁ、骨の
その言葉に、カリンは苦笑した。
「もう、そこは
ラグリアより五つは歳下であろう金髪の女性は、かなり強めに背中をバシンと
村の人々に事のあらましを伝えると、彼らは
毎年、ある決まった時期になると、得体の知れない怪しい人影が複数であの坑道に入っていき、しばらくすると何事もなかったかのように立ち去るという。
彼らの容姿はおろか身長以外の情報はまったくわからず、村の人々に危害を加えるわけでもない為、あまり気にしたことは
ただ不気味だったのは、その者達が現れるのが決まって新月の夜で、彼らと目を合わせた者は心を病むということだった。
カリンはもうラグリアの話だけでそのテの話題は聞き飽きていた為あまり重要視しなかったが、ラグリアは真剣にその話を聞き込み、細部までメモを取ると、評議院に持ち帰るといった。上層部も『
しばらくして、ラグリアとカリンは村を
あまり自分の能力をひけらかすのは好きではないのだが、カリンは自身が小説家でもあることを明かし、そのネタに使えるかもしれないから、というよくわからない理由で付き合わされることになる。
「……じゃあ、よく見ててくれよ?」
カリンがまじまじと眺めてくるのに内心
「『
十メートルほどの距離を
「へぇ。それが貴方の技なのね。魔法を見るのは久しぶりだから、なんか新鮮な感じがするわ。……ちなみに、どれくらいの種類の対象を操れるの?」
ラグリアはその言葉に困り果てて後ろ頭を
「さぁ……。この魔法は、
「ふーん。ねぇ貴方、よかったら、今度ウチに来ない?」
「え?」
ラグリアが聞き返すと、カリンはハッとして、いきなり挙動不審になる。
「あッ、いえ、別に変な意味じゃないわよ? 貴方の魔法って面白そうだから、改めて時間を取って会って話せないかなって……。ホントにそれだけなの、それだけ!」
ラグリアはしばし考えると、すぐに笑ってみせた。
「あぁ、君が良ければ、またたくさん話したいな」
すると、カリンは
何かまずいことでも言ってしまったかと思っていると、カリンはぼそぼそと口の中で
「……ありがとう」
「……?」
「なんでもないわ。あ、そうだ」
そう言って、カリンはウエストポーチのポケットをまさぐると、なにかを取り出してラグリアに
手を開くとそれは、
「そんな、
「──いいの、私からの
「それに?」
「なんでもない」
先ほどから
それから二人で
夕映えのためか、去り際に見たカリンの横顔は赤かった。
後の
二人の共同戦線はほんの
──この出会いが、いずれ世界の命運を左右する、重要な