FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm   作:水天 道中

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さてさてさーて、遂に新章の始まり始まり、です!
なんとか投稿に至りました。長らくお待たせしてしまってすみません!
それでは、どうぞ!


※今回、挿絵(さしえ)あります。


変革の翼竜編
第17話 竜との邂逅(かいこう)


 しとしとと雨が降り続く曇天(どんてん)の下。

 暗い色のフーデッドコートを羽織(はお)った複数の影が暗躍(あんやく)していた。

 『彼ら』が目指す先には、空を突くほどに巨大な()ち果てた一本の(とう)

 (リバイブ)システム、別名、『楽園の塔』。

 これは十数年前、(やみ)(とら)われた一人の魔導士(まどうし)が完成させた、禁忌(きんき)魔法の一つだ。

 『彼ら』はその(ふもと)まで辿(たど)り着くと、(くず)れ落ちて瓦礫(がれき)の山となり果てた塔の残骸(ざんがい)の中から、一際巨大な魔水晶(ラクリマ)の破片を見つけ出す。そして目深(まぶか)に被ったフードの中同士で目配(めくば)せを交わし、一つ(うなず)いた。

 

 

 その日、フィオーレ王国王都クロッカスの空も、分厚(ぶあつ)い雲に(おお)われていた。

 街の至るところに()く花々すらも寝静まる、ひとけの絶えた大通り。『彼』はそんな中、足音を殺して早足で歩いていた。

 やがて目的の場所に辿り着き、『彼』は足を止める。正面には、破壊された巨大な(とびら)状の構造物。

 異なる二つの時代を(つな)ぐ扉、『エクリプス』である。

 これはかつて、ゼレフの魔法(まほう)星霊(せいれい)魔法を融合させることにより完成された、王国が(かか)える負の遺産だ。

 『彼』はその残骸の中から、手ごろな大きさのものを見繕(みつくろ)うと、一つ拾いあげる。

 その時、常人ならば聞き逃すほどの微音(びおん)とともに、自分と同じくフーデッドコートを羽織った集団が高速で背後に近づいてきた。

 『彼』が振り返ると、巨大な魔水晶を運んできた『彼ら』はそれを(かたわ)らに置き、その場で一斉(いっせい)(ひざまず)く。

 それを見て、『彼』は静かに口を開いた。

「首尾よくこなせたみたいだね」

「はい。すべてあなた様の差配通りです、()()()()

 影の一つが即答する。

「よくやった。こちらもたったいま、手筈(てはず)通りに例のものを入手したところだ。これから一度帰って、作戦を最終段階に移行、引き続き進行する」

 一拍(いっぱく)おいて『彼』は鷹揚(おうよう)に手を広げると、続けた。

(みんな)、これまでよく()え、ついてきてくれた。もうすぐ我らの悲願は達成される。世界の正しき在り方を知らしめよう、()()()()()()()()()

 

 

      1

 

 

 翌朝(よくあさ)

 魔導士ギルド『剣咬の虎(セイバートゥース)』の若きマスター・スティングは、ギルド内に敷設(ふせつ)されたプールの中で、今日(きょう)も元気にはしゃぎ回っていた。

「いやぁ、やっぱりプールは良いなぁ、レクター!」

「ハイ、楽しいですねスティング君!」

 近くで泳いでいた相棒(あいぼう)の赤いエクシード、レクターも満面の笑みで答える。

 そんな様子を眺めながら、ミネルバは不思議な感慨(かんがい)と共に口を開いた。

「まさか(わらわ)の知らない間に、ギルドの中がこんなことになっていようとはな」

 その言葉に、近くにいた水色の髪の女性、ユキノが話しかけてくる。

「そういえばミネルバ様は、このプールは初めてでしたね?」

「あぁ、話には聞いていたが、ここまで本格的なものとは知らなかった。レジャーと鍛錬(たんれん)の組み合わせというのも、なかなか悪くないではないか」

御嬢(おじょう)がいなくなって、スティングがマスターになってからすぐ、あいつが(おれ)たちギルドの皆のためにと、施設の大改造を計画してくれたんだ」

 長めの黒髪をくくりながらローグが言うと、近くで浮き輪に身体を預け優雅(ゆうが)に浮いていた、目元に赤いマスクを着けている青年、ルーファスも口を開く。

「御嬢も記憶しておくと良い。こんな素晴らしい施設のあるギルドなど、この世に二つとないことを」

「この施設を使いこなしてこそ、俺たち『剣咬の虎』は最強だぜッ!」

 ギルドいちの体格を(ほこ)るオルガが、感情の(たか)ぶりに任せてマイク片手に絶叫した。

 

 

 朝の遊泳もとい鍛錬が一段落すると、私服に着替(きが)えてさっそく仕事に取りかかる──ということはなく、まだ皆思い思いの場所に陣取って(さわ)いでいた。

 スティング達が他の仲間たちと談笑に(きょう)じている間に、ミネルバやオルガなど一部のメンバーは、早くも依頼(クエスト)に行くといってギルドを後にする。

 そうしていつも通りの平穏な一日が始まってしばらくして、不意にギルドの(とびら)が開かれた。

 (だれ)かが忘れものでも取りに帰ってきたのか、そう思って何気なく顔を上げたスティングは、そこで(まゆ)(ひそ)める。入ってきたのは、見慣れない二人組だった。

 一人はコバルトブルーの髪に詰め(えり)に似た(こん)色の服を着込んだ少年。もう一人は、逆立った金髪にレッドアイ、顔の周囲を簡素な金属製の防具で固めた長身の青年だ。

(だれ)だ、お前ら?」

 

 

 同日同時刻。『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』にて。

 活気に満ちたギルドの中でも特に元気一杯な青年、ナツは、(かたわ)らの椅子(いす)でドリンクを飲んでいたグレイの些細(ささい)な一言に逆上し、例によって(から)み始めた。

「んだとグレイ、もっぺん言ってみろ!」

「ったく、暑苦しいっつったんだよナツ。大体テメェはなんでいつもそうやかましいんだ? 今日(きょう)は天気も悪いってのに、余計気分が悪くならぁ」

「あぁ? やんのかコラ」

「やんのかコラ」

「やっちゃえナツぅ!」

「まったく、いつもいつも、元気があり余ってるって感じね」

 少し離れたテーブルの上で、小躍(こおど)りしながら(はや)し立てるハッピーと、冷静にコメントするシャルル。

「炎と氷の魔導士(まどうし)、ですもんね」

「ま、仲良くニコニコ、とはいかんだろうな」

 困り顔で笑うウェンディに対し、(しぶ)い声でシャルルと同じく冷静なコメントをするのはパンサーリリー。鉄の滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)ガジルの相棒の黒いエクシードだ。

「まーたあの二人は……。どうする、エルザ?」

(ほう)っておけ、そのうち静かになるだろう」

 (あき)れたルーシィの問いに、エルザはケーキを食べる手も止めず、落ち着き払った態度でそう返す。

 確かに、このまま誰も止めなくてもほとんどの場合落ち着くところに落ち着くのがいつものパターンなので、ルーシィも()め息をひとつつくと、それ以上は関わらないことにした。

 ナツとグレイは互いに(ひたい)を突き合わせて(にら)みあい、子供じみた口喧嘩(くちげんか)を続けている。そのうち(なぐ)り合いになるのは目に見えているため、ルーシィは努めて気にしないようにしながら朝食にありついた。

 ──しかしエルザの言葉は、(だれ)も予期せぬかたちで現実のものとなる。

 ナツ達二人が殴り合いに突入しようとした、まさにその時、突如(とつじょ)として大音声(だいおんじょう)とともにギルドの扉が爆発(ばくはつ)したのだ。

 (つか)の間、ギルド中が水を打ったように静まり返る。

 濛々(もうもう)とたち込める砂塵(さじん)の中から一つのシルエットが浮かび上がると、白煙(はくえん)を両手で()きわけながら大きく一歩進み出てきた。

「『妖精の尻尾』ってのはここだなぁッ!」

 荒っぽい大声と共ににやりと獰猛(どうもう)な笑みを浮かべたのは、逆立った茶髪にファー付きのベストを着込んだ少年だった。

「まったく……。あなたはどうしてそう(おさ)えが利かないんです。穏便(おんびん)に事を済ませるということが何故(なぜ)できないんですか?」

 呆れた声がして、少年の後ろから一拍遅れてもう一人現れる。こちらは紺色の詰め襟にコバルトブルーの髪の少年だ。

「あぁ? ぐだぐだ考えていつも遅いテメェよかマシだろうが」

「物事には順序というものがあります。あなたは行動が早いのではなく、単にそれを無視しているだけですよ」

 そういうと、青髪の少年がこちらに向き直る。

「申し訳ありません、このバカがとんだご無礼(ぶれい)を」

 礼儀正しく一礼すると、少年は続けた。

「僕の名は、フェニクス・リーヴェル。こちらはアトラ・バクレイといいます。以後お見知りおきを」

「何(モン)だ、テメェ()?」

 いち早く切り替えの早さをみせたのはグレイだった。その言葉にも、フェニクスと名乗った少年は泰然(たいぜん)と返す。

「これは失礼。我々は、魔導士ギルド『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』。この度は(おり)いって皆さんにご相談があり、()せ参じました」

 

【挿絵表示】

 

 『変革の翼竜』。聞いたことのないギルドだ。フェニクスの礼儀正しさとは無関係に、何故だかものすごく嫌な予感がする。

「『変革の翼竜』だ? 聞いたことのねぇギルドだな」

 ルーシィから少し離れた位置にいたガジルが言うが、フェニクスは依然(いぜん)飄々(ひょうひょう)とした態度を(くず)さない。

「当然でしょう。最近発足(ほっそく)したギルドですからね。

……さて、相談の内容ですが、単刀直入に申し上げましょう。

 ナツ・ドラグニル、ガジル・レッドフォックス、ウェンディ・マーベル、ラクサス・ドレアー。──以上の四名に、我々のギルドへの移籍をお願いしたい」

「「「なッ?」」」

 衝撃(しょうげき)のひとことに、真っ先に噛みついたのは、ナツだった。

「ふざけてんじゃねぇぞ。なんでそんなことしなきゃいけねぇんだよ?」

「まぁ落ち着いて下さい。僕達は、全員が滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)で構成された特殊なギルドです。しかしその特性ゆえに、いかんせん同士がなかなか集まらない。そこで、有力な滅竜魔導士であるあなた方のお力をお借りしたいのです」

「協力して、俺たちになんのメリットがある?」

 バーカウンターに背を(あず)け、腕組みしたラクサスの問いを、だが少年は薄笑いで受け流した。

「我々『変革の翼竜』は、自然を破壊し過ぎた人間達に代わり、(ドラゴン)を頂点とした完全で新しい生態系をつくり直すことを目的としたギルドです」

 そこでアトラが続きを引き取る。

「マスターはある方法で竜をこの時代に(よみがえ)らせることができる。けど、復活させた(ドラゴン)どもがみんないうことを聞くわけねぇよな? そこで俺たち、滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)の出番ってわけだ」

「聞き分けのない竜を制圧する。その抑止力となり得るのが僕たち、というわけです」

 ルーシィは、側頭部をハンマーで一撃(いちげき)されたような衝撃を受けた。つまるところ、彼らが言いたいことを要約するならば──世界征服、ということになる。

 ──その時、ゴッ、という音がして、ルーシィは顔を上げた。ナツが遂に我慢(がまん)の限界に達し、魔力(まりょく)を爆発させたのだ。

(だま)って聞いてりゃあごちゃごちゃ言いやがって……もうアッタマきたぞォッ!」

 そう叫ぶと、彼は止める間もなくフェニクスに(なぐ)りかかっていった。しかし、青髪の少年は薄笑いを張りつけたまま動かない。

 その理由は、すぐにわかった。

 ナツの炎をまとった(こぶし)がフェニクスの顔面を捉えた直後、彼の上半身が水飛沫(しぶき)を上げて爆散したのだ。

「なッ?」

 ──水の滅竜(めつりゅう)魔法(まほう)ッ?

 たちまちフェニクスの身体が水のシルエットとして再生し始めると、彼は愕然(がくぜん)と目を見開くナツを(あわ)れむような(ひとみ)で眺めていた。

 ナツが舌打ちと共に大きく退(しりぞ)くと、今度はいままで事態を静観していたはずのラクサスが、フェニクス達の背後上空から奇襲(きしゅう)をかける。

「だったらこれでどうだよ? ──雷竜(らいりゅう)方天戟(ほうてんげき)ッ!」

「──無駄です」

 ラクサスが巨大な方天戟の形にした雷を振り下ろすが、その行動を完全に予測していたとばかりにフェニクスが素早(すばや)く右手を跳ね上げる。

 直後、二人の少年をドーム状の()()バリアが包み込んだ。雷の(ほこ)は吸い込まれるようにバリアに激突し、雷鳴音(らいめいおん)と共に(むな)しく(はじ)け飛ぶ。

 その現象に今度こそルーシィは驚愕(きょうがく)した。その気持は、ラクサスとても同じだったのだろう。

「テメェ……水の滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)じゃねぇのか……ッ?」

 バリアがゆっくりと溶け(くず)れるように消滅し、(あらわ)になったフェニクスの表情は、こちらをあざ笑うような邪悪な笑みに変わっていた。

 

 

      2

 

 

 一方その頃、『剣咬の虎(セイバートゥース)』の面々も()()()()()()()()()()()()()同じ趣旨の説明を受け、怒りをもって彼らと対峙(たいじ)していた。

 もう一人の青年の名は、ルーク・スレイト。フェニクスの言葉が本当ならば彼も滅竜魔導士ということだろうが、恐らくそれ以前に、彼は恐ろしく強い。先程から伝わってくる圧倒的なプレッシャーと存在感に、スティングは気圧(けお)されそうになっていた。

 その気持ちを振り払うように(うで)を振り、スティングは一歩進み出る。

「ふざけんなよ。テメェ()みてぇなギルドに貸す人材なんて、ウチのギルドにはこれっぽっちもねぇ」

「交渉決裂、ということですか?」

(おれ)たちとテメェ等の間に、決裂する交渉すらない」

「では仕方ありませんね。あなた方はここで僕たちが排除します」

「その言葉、そっくりそのまま返すぜッ」

 スティングは叫ぶと、同時に合わせた両の(てのひら)を引き(しぼ)って構えた。

 白き(りゅう)の輝きは万物を浄化せし──

「ホーリーレイ!」

 まばゆい光に包まれた両手を()き出すと、そこから無数の閃光(せんこう)が相手に殺到(さっとう)する。

 スティングが操るのは(せい)属性の滅竜(めつりゅう)魔法(まほう)。白竜バイスロギアより受け()がれし白き光を操る魔法だ。

 しかし、彼らは直前でそれらを緊急回避(かいひ)。当然初撃(しょげき)(かわ)されるのはこちらも折り込み済みのため、ローグと二人で一気に間合いを詰める。

 こちらの相手はルークだ。スティングは右拳(みぎけん)に光をまとって(なぐ)りつけるが、彼はそれを片手で受け止めてみせた。

 ルークはつまらなさそうに口を開く。

「聖属性の魔法、スティング・ユークリフ、か」

「ハッ、だったら何……──ッ」

 ルークがおもむろに息を吸い込むと、スティングの放った光を取り込んでいく。

 ──コイツも聖属性か……ッ。

 歯噛(はが)みしたスティングは、だがすぐに不敵な笑みを浮かべた。相手が自分と同属性の滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)ならば、攻撃(こうげき)を吸収できるのはこちらも同じということ。後は影の滅竜魔導士であるローグに流れ(だま)がいかないよう引きつけていればいい。

 しかし、その慢心(まんしん)は数秒と()たなかった。

 こちらの行動を読んだルークの姿が、たちどころに()き消えたのだ──速い。

 攻撃が(おそ)ってこないことを確認するや、スティングは危険を知らせるべく振り返った。しかしそれよりも(いち)刹那(せつな)(ぶん)早く、ローグが叫ぶ。

「そっちにいったぞスティングッ」

 ──えッ?

 (つか)の間(こお)りついた思考を立て直した時には、ローグの背後にルークが現れていた。

「ローグ──」

「──お仲間の心配をしている場合ですか?」

「──ッ」

 歯噛みしながらも無理やり意識を背後に集中させ、再び拳を振り抜く。

 しかし、スティングの後ろに出現した青髪の少年の身体は、水飛沫(しぶき)を上げて移動した。

 ──こっちは水の滅竜(めつりゅう)魔法……ッ。

蒼竜(そうりゅう)翼撃(よくげき)ッ」

 回り込まれたと思う間もなく、少年の両(うで)から発生した水の(うず)がスティングを()き飛ばす。

「ぐあああああ!」

 

 

 ──スティング……ッ。

 ルークの攻撃を紙一重(かみひとえ)でかわしながら、ローグは彼を助けにいきたい衝動(しょうどう)と必死に戦っていた。

 悔しいが、『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』のメンバーは自分たちより一枚も二枚も上手(うわて)だ。

 ローグは基本的に自分の身体を影と同化させ、フェイントを織り()ぜて相手を撹乱(かくらん)する戦法をとる。だがあのフェニクスという少年にはあまり通用せず、瞬時(しゅんじ)に作戦の穴を見抜かれ、あまつさえ相性の良い相手と入れ()わる(すき)まで与えてしまった。ここでもし、自分がスティングと再び入れ替わる隙を作ろうとすれば、それこそ相手の思うつぼだ。

 たとえ有利ではない相手でも、いまは目の前の敵に集中するしかない。

影竜(えいりゅう)斬撃(ざんげき)!」

 しかし、ローグの()き出した右手をルークはいとも容易(たやす)くかわしてみせる。

(えい)属性の滅竜魔法、ローグ・チェーニ」

 ぶつぶつとルークが(つぶや)いた次の瞬間、彼の手の中に(まば)ゆい光が出現する。

 マズいと思った時には、腹部に衝撃(しょうげき)。繰り出されたのは、ルークの右手に出現した(やり)からのレーザー攻撃(こうげき)だった。

 ──換装(かんそう)魔法、だと……ッ?

 成すすべもなく吹き飛ばされ、ギルドのテーブルのひとつに背中から激突──息が詰まる。

 一体、何なんだこいつらは。

 激痛に顔をゆがめながら片目を開くと、至近距離でルークが槍を掲げていた。

 (あわ)ててテーブルから転げ落ちて、影に同化しようと魔力を発動させるが、ルークは構わず技名を呟く。

「闇を払え、ダーク・リパルサー」

 直後、鮮血のように赤い光が槍の()っ先から(ほとばし)り、ローグの全身を包み込んだ。

 

 

 スティングは、目の前に立ちはだかる青髪の少年の特殊能力に攻めあぐねていた。

 フェニクスの操る水の滅竜(めつりゅう)魔法(まほう)には自己再生能力があるらしく、こちらの攻撃(こうげき)がかすった程度ではすぐに再生されてしまう。かといって、ローグの得意とするフェイントが簡単に通じる(はず)もなく、ダメージらしいダメージがまるで通らない。

 これでは(らち)が明かない。

 スティングは両の(こぶし)でラッシュをかけると、今度は相手の腹めがけて魔力を発動させた。

 一定のリズムで攻撃し続けていたことが功を(そう)し、スティングの放った一撃は苦もなくクリーンヒット。

 ──白き竜の(つめ)は聖なる一撃。聖痕(せいこん)を刻まれた体は自由を奪われる。

 異常に気づいたフェニクスが驚愕(きょうがく)の表情を浮かべるのを見て、スティングは内心でほくそ笑んだ。

「これが(おれ)の、必勝パターンだぁッ!」

 光をまとった拳を、今度こそ当たるという確信と共に振り抜く。しかしスティングの予想は、またも裏切られることとなった。

 繰り出した拳がフェニクスにヒット。だがその瞬間、彼の身体が水飛沫となって爆散したのだ。

 反撃の予感に身構えるが、いくら待ってもフェニクスの気配は消えたまま。つまり、これは──。

「──分身、だと……?」

 スティングはハッとして振り返ると、今度はローグを()みつけにしている金髪の青年に突進する。

「ローグを離せやコラアアアァァッ!」

 しかしスティングが辿(たど)りつく前に、彼の身体が(まばゆ)い光のオーラをまとい、ギルドの正門から外ヘと消えていってしまった。

 敵をとり逃したことに歯噛(はが)みするが、無理やり思考を切り替えると倒れ伏すローグを助け起こす。

「おい、しっかりしろ、ローグッ」

「……ぐ……、奴等(やつら)は……?」

「敵は逃げた」

「そう、か……」

 まだなにか言いたげなローグは、ゆるゆると右手を持ち上げる。

「マズいぞ、スティング……。奴等の(ねら)いは、滅竜魔導士だ。この国で滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)がいるギルドとなれば、あとは……ッ」

 そこでスティングもハッとして顔を上げ、ギルドの正門方向を見やった。

 

 

 ──ナツさん達が(あぶ)ねぇ……ッ!

 

 

      3

 

 

 ラクサスはこれ以上の追撃(ついげき)は危険と判断したのか、すぐにフェニクスから距離をとる。

 皆を代表して、剣を構えるエルザが口を開いた。

貴様(きさま)ら、いったい何者だ。滅竜魔導士ではないのか……?」

滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)ですよ。しかし、そこの皆さんとは少し違う」

 フェニクスは悠揚(ゆうよう)(せま)らざる態度で両手を開き、続ける。

「僕達『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』のメンバーは、全員が第三世代の特徴をもち、かつ『騎士(きし)聖水(せいすい)』という魔法薬(まほうやく)の効果により、膨大(ぼうだい)魔力(まりょく)ともう一種類の魔法の獲得、そして滅竜魔法とそれの同時使用を可能とした次世代の魔導士……。()わば、()()()()滅竜魔導士です」

「第四世代……ッ?」

 そこでフェニクスは何かを感じ取ったのか、ちらりと背後を見やり、(つぶや)く。

「どうやら、いらしたようですね」

 フェニクスが(わき)()けて独自の敬礼のポーズをとると、その背後から三人目の侵入者が歩いてくる。だがそのシルエットには、明らかに異質なものがあった。

 ルーシィは最初、黒魔導士(まどうし)ゼレフの姿を幻視した。しかしすぐにそれが、漆黒(しっこく)(よそお)いに身を包んだ無造作(むぞうさ)な黒髪の少年であることに気付く。

「フェニクス、この様子だと、彼らは……」

「はい、交渉は決裂致しました。『幻影(ファントム)』の反応が消失したため、あちらも同様かと」

 (なぞ)の少年はその言葉に少し残念そうな顔をした。

「そうか。まぁいい、よくやったね」

「有り(がた)きお言葉です、マスター」

 少年はそのままゆったりと歩いてくると、フェニクス達とルーシィ達のちょうど中間付近で立ち止まる。

「初めまして、『妖精の尻尾』の諸君。僕の名はリゼル・イグドレ。コードネームはネメシスだ。どちらでも好きに呼ぶといい。ここにいるアトラとフェニクスのギルド『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』のマスターをやっている」

 そこで彼はナツに向き直った。

「僕の弟が色々と世話になったみたいだね、ナツ・ドラグニル。……あぁ、(だれ)のことかって? ──アクノロギアのことさ」

 その一言で、室内に戦慄(せんりつ)()け抜けた。

「アクノロギアの兄、だと? 何ワケわかんねぇこと言ってやがるッ?」

 グレイが言うと、リゼルは(おだ)やかそうな笑みを浮かべたまま続ける。

「事実だよ。まぁ、といっても、正確には義理の弟、ということになるか。

 ──僕はアクノロギアに滅竜魔法を授けた(ドラゴン)、滅竜ダークアクノロギアに育てられた人間だ」

「「「な……ッ?」」」

「考えてもみなよ。史実ではどうやら、義弟(おとうと)が竜を滅ぼし、闘争(とうそう)の果てにその身を(ドラゴン)ヘと変化させたということになっているらしいが、本当にそう思うかい?

 彼は確かに強い。でも、アースランド中のあらゆる竜を殺し尽くせるほどの力はもっていないんだよ。君たちが知っている史実の裏には、義弟とは別々の場所で数多(あまた)(ドラゴン)を殺した四頭の竜がいる。

 ──爆竜(ばくりゅう)グランディアス、蒼竜(そうりゅう)コバルティア、閃竜(せんりゅう)シュルティアール、そして僕の育て親、人呼んで滅竜ダークアクノロギア。……あぁちなみに、これらの(ドラゴン)はそれぞれ、僕たち『変革の翼竜』メンバーの育て親だ。まぁ、もうみんな死んでるけどね」

「まさか、テメェ()……ッ」

 ナツがそう絞り出すと、リゼルは続けた。

「あぁそうだよ、ナツ。僕たちはそれぞれがそれぞれの育て親を、自分たちの進化のために手にかけた。(りゅう)(ごろ)しを体験した真の意味での滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)だ。だから皆の身体の中には『(りゅう)魔水晶(ラクリマ)』があるんだよ。

 これでよくわかっただろう? 僕たちは根本的に、君たちとは滅竜魔導士としての格が違う。戦いが生むのは君たちの(むくろ)だけだ。そこにそれ以上の意味は存在し得ない」

「テメェ……ッ」

 そこでリゼルは一転して声を張り上げる。

「よく聞くんだ、諸君! 我ら『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』は次の満月の夜、(ドラゴン)を現代に(よみがえ)らせ、人類の殲滅(せんめつ)作戦を実行する!

 我々の助言を拒否した君たちに、もはや選択の余地はない。存分に残された時を過ごし、絶望に(ふる)えて眠れ。いくよ、二人共」

 それだけ言うと、リゼルは(きびす)を返した。

 去り際、彼はアトラに軽く下知(げち)を送る。すると彼だけは爛々(らんらん)と目を輝かせてこちらに向かってきた。

「マスターからお達しだ。派手にぶっ壊せってな」

 そういうと彼はその場で床に両手を突き、叫ぶ。

「爆竜の地雷衝(じらいしょう)!!」

 次の瞬間、彼の周囲一帯に連鎖的な爆発が発生。その衝撃(しょうげき)と爆風はルーシィ達『妖精の尻尾』メンバーのみならずギルドの壁面を残らず吹き飛ばし、城ほどもあるギルドをまたたく間に倒壊させた。




はい、ということで、不穏な始まりとなった今回、いかがだったでしょうか!
では今回登場したオリキャラ、『変革の翼竜』のメンバーについての説明に移ります。
アトラのイメージは、NARUTOの犬塚(いぬづか) キバと、るろうに剣心(けんしん)相楽(さがら) 左之助(さのすけ)
フェニクスのイメージはブラック・ブレットの巳継(みつぎ) 悠河(ゆうが)を青髪にした感じ。
ルークのイメージはNARUTOの千手(せんじゅ) 扉間(トビラマ)を金髪にした感じ。
そして最後にネメシスことリゼルのイメージは劇場版NARUTO THE LASTの大筒木(おおつつき) トネリを黒くした感じです。
それでわ、しーゆーあげいん!

〈加筆修正一覧〉

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