FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm   作:水天 道中

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少々遅刻しましたが、ハッピー・バレンタイン!
大変長らくお待たせ致しました。丸二年と四ヶ月ほどのブランクを乗り越え、遂に新章リスタートです。
活動報告でも一度お知らせしましたが、休載期間中に前回17話の描写を色々と変えているので、ストーリーの流れを思い出すためにも是非、読み返してから今回のお話に入ることを推奨します。

そして今回から本作のタイトルを変更し、新たな作品『FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm』として再出発します。新タイトルの和訳は『幻想冒険奇譚』というところですね。新タイトル自体とその意訳、どちらもしっかり悩み抜いて名付けたので、どうか今後もよろしくお願いします!

それでは、本編スタートです!!


第18話 神罰執行への布石

 フィオーレ王国の東方に、魔法(まほう)も盛んな商業都市として古くからある街・マグノリア。この街で最大の勢力を(ほこ)魔導士(まどうし)ギルドこそ、ルーシィたちの所属する『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』だ。

 幾多(いくた)の戦いを乗り越え、ついに王国最強、ひいては大陸最強にまで登りつめたこのギルドは、しかしいまや瓦礫(がれき)の山と()してしまった。

 ある日突然(とつぜん)現れた(なぞ)の魔導士ギルド『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』の手によって。

 

 

 跡形(あとかた)もなく(くず)れ落ちた、『妖精の尻尾』のギルド内。積み重なった瓦礫の山から(うで)が一本伸び、建材を()き分けて顔を出したのは(うろこ)模様のマフラーに桜髪の青年だった。

「くっそォ、アイツら、よくも(おれ)達のギルドを……」

 まだ瓦礫の山に半ばほども()もれているナツを一瞥(いちべつ)してから、ルーシィも途方(とほう)に暮れて視線を宙にさ迷わせる。

 確かに、こんな経験は一度や二度ではない。

 自分たちはこれまでにも、何度となく様々な強敵と戦ってきた。その中で、経緯(いきさつ)はどうあれギルドが破壊されてしまったことも何度もある。

 それでもやはり、自分たちの(ギルド)がこうして変わり果てた姿になるのを見るのは、いつになってもそう簡単に慣れるものではなかった。

 その時、明後日(あさって)の方向から金属音がする。見ると、緋色(ひいろ)の髪に(よろい)姿の女性が、持っていた(けん)を地面に()き立てたところだった。

(みな)、無事か!? 各自点呼を! 負傷者がいたらすぐに知らせてくれ!」

「問題ない!」「こっちも大丈夫だ!」「ジェットは、マスターにこの事を知らせに行ってるよ!」

 ギルドのあちこちからいらえが返り、エルザはほっとひとつ息をつく。

「ひとまず、大事に至った者はいないようだな。良かった……」

「──なにも良いことなんかねぇだろ」

 ぶっきらぼうにそう言い(はな)ったのは、上裸(じょうら)に黒髪の青年──グレイだった。彼は苛立(いらだ)(まぎ)れに(こぶし)を傍らの瓦礫(がれき)(たた)きつける。

「なんだったんだよアイツらは!? いきなり乗り込んできてナツ達に移籍しろとかなんとか(さわ)いで、おまけにギルドをこんなにしていきやがって……」

「グレイ様……」

 (となり)に立つ青髪の女性、ジュビアが気遣(きづか)わしげに彼の肩に手を置くと、グレイは口の中で「チクショウ」と(つぶや)き、(ひたい)に手を当てて続ける。

「それに、一番わからねぇのはあのリゼルって(やつ)だ。『アクノロギアの義兄(あに)』とか、まずハッタリだとしても笑えねぇ」

 アクノロギア。『妖精の尻尾』の聖地・天狼島(てんろうじま)で九年前に行われたS級魔導士(まどうし)昇格試験の(おり)、ルーシィ達が遭遇(そうぐう)した漆黒(しっこく)(ドラゴン)。その魔力(まりょく)は異常なまでに強大で、当時のルーシィ達では(かす)り傷ひとつ付けることさえも(かな)わず、たった一発の咆哮(ブレス)に島ごと消されかけた。

 初代マスター・メイビスが天狼島を凍結封印しなければ、ルーシィたちは今頃(いまごろ)この世の人ではなくなっていたに違いない。

 『妖精の尻尾』の面々にとってアクノロギアとは、『死』そのものにも等しい存在なのだ。

 そこでルーシィは、(あご)に手を当て口を開く。

「それにしても変なのよね……」

「ルーシィさん?」

 近くにいた青髪ツインテールの少女、ウェンディの顔をちらりと見やり、続ける。

「ほら、去年あたし、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』が解散したあと、皆をもう一度集めるんだーっていって、情報を集めて回ってたのは話したよね? その時、いろんなギルドについても調べたんだけど……『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』なんていうギルド、できたって話を聞いたこともないの」

「簡単な話だ」

 ルーシィからはやや離れた位置にいた、肩まで伸ばした(あら)い黒髪の青年・ガジルが、顔じゅうに鉄ピアスをつけた強面(こわもて)()き捨てるように言った。

「アイツらが(やみ)ギルドだってことだろ? そう考えれば何も不思議(ふしぎ)な事ァねぇじゃねぇか」

「でも、あんなに強い奴らなのよ? いくらなんでも評議院が(ほう)っておくはずがないわ」

「──ま〜たハデにやられたのう」

 その時、ギルドの入り口方面から聞こえた声に顔を上げると、白髪(はくはつ)白髭(はくぜん)の小柄な老人が見えた。その隣では、茶髪を頭の後ろで(くく)った青年が両手を(ひざ)に置いて肩で息をしている。

 ギルドいちの駿足(しゅんそく)(ほこ)るジェットが、自身のスピードを高める魔法(まほう)神速(ハイスピード)』でマスターに事態を報告し、そのまま送り届けてくれたのだろう。

「マスター!」

 エルザが()け足で老人の下まで向かうと、その場で悄然(しょうぜん)(うつむ)いた。

「マスターの留守(るす)を守れず、申し訳ありません」

「あぁ()い良い。建物なんぞ(いく)らでも建て直せる」

 謹直(きんちょく)なエルザに対し、マカロフはひらひらと片手を振って応じる。

「ひとまず、何があったか、ワシにも詳しく聞かせてくれんか?」

 その言葉に、全員で顔を見合わせて(うなず)きあった。

 

 

      1

 

 

 崩壊(ほうかい)したバーカウンターの手前で、ひと通りの事情を聞き終えたマカロフは難しい顔になる。

「なんとも要領(ようりょう)()ん話だのう……。して、其奴(そやつ)らはいま何処(どこ)に?」

 マカロフの問いにも、エルザは首を横に振った。

「見当もつきません……。魔導士(まどうし)ギルドを名乗るからには、何かしらのかたちで本拠地があるはずなのですが……」

 そこで言葉を切り、顔を上げたエルザの視線を追うと、ギルドの仲間たちの姿が目に飛び込んでくる。

 傷の手当てを受ける彼らの中で、独りタブレット端末(たんまつ)型の魔水晶(ラクリマ)を操作していたアンテナのような髪型の男性、ウォーレンはこちらを見て首を横に振った。

駄目(だめ)だ! 魔導(まどう)レーダーの追跡を読まれたらしい。反応が消えちまったよ!」

「……いかがなさいますか、マスター?」

 エルザが視線を戻すと、マカロフは(うな)る。

「ふぅむ……。家族がここまで傷つけられたんじゃ。いますぐにでも反撃(はんげき)に打って出たいところだが、肝心(かんじん)の居場所が掴めんとなるとなぁ……」

「──事はそう単純ではありませんよ、八代目」

 声は、ルーシィ達の後方から聞こえた。

 振り返ると、そこに立っていたのは薄い桃色(ももいろ)のフリル付きロングドレスに裸足(はだし)、耳のような羽飾りを頭に着けた少女だった。

「おぉ、これは初代」

「単純ではない、とは、どういう意味です?」

 エルザの問いに、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』初代マスター・メイビスは、幼い容姿に似合わない静かな(ひとみ)でルーシィ達を見回す。

「はい、順を追って説明しましょう。──まず第一に『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』などというギルドは存在しません」

「いや、だからそれは(やみ)ギルドだってことじゃ……」

 グレイが困惑した表情で口を(はさ)んだが、しかしメイビスは重々しく首を振る。

「いいえ、違います。現在、魔法(まほう)評議院ではあらゆる手を()くして現存する闇ギルドの名前をリストアップしているそうなのですが……。最低でも過去二年間、そこに『変革の翼竜』という名前が記されていたことは無いのです」

 評議院は現在『イシュガルの四天王』を議長に据えて活動しているが、その中には元『妖精の尻尾』創成期メンバーの一人・ウォーロッドもいる。メイビスの(たの)みとあらば、彼が特別に情報を提供していたとしてもおかしくないだろう。

「でも、現にこうして(やつ)らが(おそ)ってきた以上、評議院が見落としてるってことなんじゃないの?」

「いや、恐らくだがそれはねぇ」

 シャルルの問いに答えたのは、左眼(ひだりめ)の下の十字傷が特徴的な男性、メストだった。彼は記憶操作の魔法(まほう)駆使(くし)して評議院に潜入し、ドランバルトという偽名で二重スパイのような活動をしていた時期がある。

 メストはルーシィたちの近くまで歩いてくると立ち止まり、続ける。

「評議院の諜報(ちょうほう)部にも、数は少ないが俺みたいな奴(ドランバルト)を始めとした魔法を使える職員がいる。まして『イシュガルの四天王』が指揮を()ってる現評議院に見落としなんて、万に一つも無いと思うぜ」

「じゃあ、どういうことなんですか? 本来なら存在しないはずの闇(?)ギルドが突然(とつぜん)現れて襲ってくるなんて……」

 困り顔のウェンディの言葉に議論が暗礁(あんしょう)に乗り上げかけるなか、メイビスがひとつ(うなず)いた。

「はい。私も、初めはそこがわかりませんでしたが、考察を進めるうちにその矛盾(むじゅん)を解消する(かぎ)となるものに思い至りました」

「その『鍵』とは?」

 エルザの問いに、メイビスは(つか)()逡巡(しゅんじゅん)する素振(そぶ)りをみせた後、居住(いず)まいを正して告げる。

「みなさんは、二年前の大魔闘(だいまとう)演武(えんぶ)の後に起きた事件を覚えていますか?」

 その言葉を聞いた途端(とたん)、全員が表情を(くも)らせ、苦々しい顔になった。

 無論、ルーシィも鮮明に覚えている。あの地獄は、そう簡単に忘れられるものではない。

 二年前。七年後の未来から来たというローグの計画により、王都クロッカスは混乱の(うず)(たた)き込まれた。

 彼は初め、王女ヒスイに近づいて言葉(たく)みに彼女の信用を勝ち取ると、王国に襲来(しゅうらい)する一万の(ドラゴン)の群れを迎撃(げいげき)するためといってエクリプスの扉を開かせることに成功する。しかし、彼の(ねら)いは初めから王国の危機を救うことなどではなかった。

 四百年前、つまり竜がいた時代と現代を(つな)ぎ、自分は扉から現れた彼らを操ることで人類を駆逐(くちく)、世界の覇権(はけん)を握ること。

「てことは、あいつらも未来人……?」

 ルーシィの(つぶや)きを、しかしメイビスは肯定(こうてい)も否定もせず続ける。

「それは私にもわかりません。過去と未来、どちらの時間(じく)からやって来たのか。ですが、少なくともエクリプスを使ってやってきた別時代の人間。そうでなければ彼らの存在そのものに説明がつきません。そして未来ローグと同じく、竜を利用してこの世界を手中に収めようとしている」

 エルザが、愕然(がくぜん)と目を見開いた。

「では、ネメシスと名乗ったあの男、リゼルの目的は、未来ローグが招いた惨劇(さんげき)の再演だと……!?」

「けど、エクリプスはあの時、ナツがぶっ壊したろ。どうやって現代に(ドラゴン)を呼び出すっつぅんだ?」

 グレイが問い(ただ)すと、メイビスは我が意を得たりとばかりに力強く(うなず)く。

「そこです。ギルドを襲った二人組の説明では『呼び出す』ではなく『(よみがえ)らせる』という表現を使っていました。もちろん、彼らがエクリプスを修復し、再利用を企てている可能性は捨て切れませんが、まず未知の手段で竜を復活させてくるとみていいでしょう」

「確かに……。王宮の(おく)に隠されているエクリプスの残骸(ざんがい)を、わざわざ持ち出してきて修復するのは目立ちますからなぁ」

 腕組みして(うな)るマカロフを尻目(しりめ)に、エルザも(あご)に手をやり考え込んだ。

「となると、やはり問題なのは(やつ)らの潜伏(せんぷく)先か……。それに、出来れば残る一人のメンバーの能力も、いまのうちに掴んでおきたいところだが……」

「──それなら、(おれ)たちが知ってるぜ」

 その時、不意に横合いから掛けられた声にそちらを見ると、そこには見知った顔ぶれが並んでいた。

 黒髪の青年に肩を貸して立つ金髪の青年と、その(となり)には長い黒髪を二つの団子(だんご)状にまとめた女性。さらに彼らの後ろには水色のショートボブヘアーの女性と、二匹のエクシードの姿まで見える。

 魔導士(まどうし)ギルド『剣咬の虎(セイバートゥース)』。二年前の大魔闘(だいまとう)演武(えんぶ)で『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』と大陸最強の座を争った、一騎当千のつわもの達だ。

「お前たち、ボロボロじゃないか。いったい何が──いや、あえて()くまでもないな。お前たちもやられたのか、『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』に」

 エルザの言葉に、金髪の青年──スティングは苦笑した。

「さすがエルザさん、話が早い。あぁ、そりゃあもう好き放題やられたよ。情けない話だ」

 そこで黒髪の女性、ミネルバが口を開く。

(わらわ)とユキノはその時、依頼(クエスト)に行っていてな。手早く片付けて帰ってみれば、二人が傷だらけになっていて(おどろ)いたぞ。それでも、スティングがどうしてもと言うから、妾の『絶対領土(テリトリー)』でこうして運んできたというわけだ。さすがにひと息にここまでとはいかず、多少の時間は掛かったがな」

「とにかくお二人の手当てをお願いできませんか?」

 切迫(せっぱく)した表情のユキノが言うと、スティングたちに(あわ)てて()け寄ったウェンディが悲痛な顔になった。

「酷い怪我(けが)です。すぐに治療(ちりょう)しないと」

 そのまま、スティングの肩からローグを(あず)かろうとするので、すかさずエルザが手を貸す。続いてグレイがスティングにも介助(かいじょ)が必要か(たず)ねたが、彼は軽く手を上げて辞退(じたい)し、エルザたちに続いて歩いていった。

 

 

「いやぁ、ホントすみません。ただでさえ大変なことになってるのに、俺たちまで世話になって……」

「気にするな。困ったときは何事も助け合いだ」

 『妖精の尻尾』地下一階。今回のようにギルドが機能不全に(おちい)った場合は仮設本部も置かれるフロアの一角で、傷の手当てを受けながら後ろ頭を()くスティングに、エルザが笑って対応していた。

「やっぱり、ここもやられたんだな……。この辺から煙が上がってるのが遠くからでも見えたんで、御嬢(おじょう)に『急いでくれ』って頼んだんだけど……間に合わなかったか……」

 (うつむ)く彼に、ルーシィも微笑(ほほえ)みかける。

「アンタが気にすることないわよ。あたしたち、こういうの慣れてるし」

 スティングは力なく笑みを返すと、心配そうにルーシィの背後、ベッドの方を見やった。

「ローグの容態は?」

「傷の回復はもう終わりましたから、しばらく安静にすれば動けるようになると思いますよ」

 静かに胸を上下させるローグの横から、回復に当たっていたウェンディが即答した。

「そっか、よかった……」

 ()せていた視線を上げたスティングは躊躇(ためら)いがちに口を開く。

襲撃(しゅうげき)に来たのは、どんな(やつ)だった……?」

 その問いに、グレイが状況を簡潔に説明した。

「……んで、そのアトラってやつが爆炎(ばくえん)魔力(まりょく)を発動させやがって、一発ドカンでこのザマだ」

「なるほど……」

「では、こちらからも質問させてほしい。お前たちを襲ったのはどんな奴だったんだ?」

 エルザの言葉に、スティングは「あぁ」といって、静かに語り始めた。

(おれ)たちのギルドを襲ったのも二人だった。片方は逆立(さかだ)った金髪に赤い目のルークって奴だ。使う滅竜(めつりゅう)魔法(まほう)(せい)属性──俺と同じだな。戦ってるときに俺の魔法が食われたから間違いないよ。で、もう一人が──フェニクス。ここを襲ったっていう、水の滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)だ」

「えッ?」

 『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の面々から、驚愕(きょうがく)の声が漏れる。

「スティング、それは確かか? もし本当なら、奴は同時に二つの場所にいたことになるんだぞ」

 エルザの問いに、だがスティングは重々しく(うなず)いただけだった。

「俺だって信じられねぇよ。ただ、奴は分身ができるみたいで、ウチに来たのは分身体の方だった。だから多分、こっちにいたのが本体……ってことかと」

 そこまで聞き、エルザは(うで)を組んで(うな)った。

「なるほど。あの言葉はそういう意味だったか……」

 顔を上げ、ルーシィたちを見回しながら続ける。

「お前たち、フェニクスがリゼルと話していた内容を覚えているか?」

「えっと、確か……」

『フェニクス、この様子だと、彼らは……』

『はい、交渉は決裂致しました。『幻影(ファントム)』の反応が消失したため、あちらも同様かと』

 ルーシィは口に手を当て「あッ」と漏らした。

「そうだ。奴はあの時、分身がやられた事を感知していたんだ。しかし、そうなるとかなり厄介(やっかい)だな……」

「どういうことですか?」

 ウェンディの問いに、グレイが答える。

「あのフェニクスって奴は、自分とほぼ同じ戦闘(せんとう)能力をもった分身を自在に出せるうえに、本体から分身がマグノリア(ここ)クロッカス(セイバー)ぐらい(はな)れても、その状態を長時間維持(いじ)できる魔力があるってことだよ。おまけに本体はその間でも平気で戦えるときた」

「そして、こちらは現状、相手が分身か(いな)かを見た目だけで判別する(すべ)がない、という点も脅威(きょうい)だな」

 ミネルバの言葉を、再びエルザが引き取った。

「さらに言えば『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』のメンバーは第四世代滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)。『騎士(きし)聖水(せいすい)』なる魔法薬(まほうやく)の効果で膨大(ぼうだい)な魔力を有するとも言っていた。そのレベルの分身を、果たして何体同時に生成できるのやら……」

 苦い表情をしてエルザがかぶりを振ると、場に重い沈黙(ちんもく)が降りる。

 あとには、フェニクスという名前の魔導士(まどうし)に対する冷たい恐怖だけが残った。

 

 

      2

 

 

 フィオーレ王国、某所(ぼうしょ)

 人目につかない丘の上で、四つの影が並んで立っていた。

「良い眺めだね」

 その中の一人、リゼルはひとこと(つぶや)くと(かたわ)らの青年に問いかける。

「例のものの製造は(はかど)っているかい?」

 すると金髪の青年、ルークは重々しく(うなず)いた。

「あぁ、いまのところは順調だ。しかし欲をいえば、落ち着いて作業に取り組める環境が欲しいな」

「では、マスター」

 フェニクスの言葉に、リゼルもひとつ頷く。

「そうだね、そろそろ始めようか。何しろ()()()()()()()()()()()。いままではそれでも問題なかったが、戦争を始めようというのにこの状態では、戦う相手にも礼節を欠くというものだよ」

 リゼルはそこでゆったりと(うで)を持ち上げると、なぎ払うように振った。

「──岩窟(がんくつ)(りゅう)の大地切断」

 

 

 魔導(まどう)レーダーの受信機に視線を落としていたウォーレンが、不意に驚愕(きょうがく)の声を上げた。

「なんだ!? 西の方角に、巨大な魔力反応が複数! 十、十二……い、いや、どんどん増えてる!」

「敵の部隊かッ?」

 エルザの問いに、しかし彼は困り顔で首を振る。

「わからねぇ。ただ、タイミングから考えて多分そうだろうとしか……」

「──たッ、大変だぁぁッ!!」

 (さけ)びながら、地下への階段を転げ落ちるように()け降りてきたのは、茶髪に狐顔(きつねがお)の男性だった。

「お前ら、外に出てみろ。ヤバい事になってる!」

 マックスの言葉に、ルーシィ達は(たが)いに顔を見合わせると、急いで階段を駆け上がる。

「なんだ、ありゃあ……ッ」

 スティングの(つぶや)きに、ルーシィの視線も空の一点に釘付(くぎづ)けになる。

 そこには(いく)つもの巨大なシルエットが寄り集まり、さらに巨大な構造物を生み出そうとしていた。

「岩が……飛んでる……」

 呆然(ぼうぜん)とした顔のシャルルに続き、エルザも戦慄(せんりつ)して口を開く。

「これが、第四世代の力だというのか……ッ」

 

 

 天変地異。

 リゼルの魔力(まりょく)によって発生した現象を形容する言葉が、果たしてそれ以外に存在するのだろうか。

 不意にフェニクスたちの数十メートル先に、ボッと音を立てて光の柱が二本()き立った。すぐにその二十メートルほど先にまた二つ、光が垂直に伸び上がる。そしてもう一組。さらにもう一組。

 だが、事態はそこで終わらない。

 ボンボンボンッという連続音と共に、広大な平地に(いく)つもの光の柱が突き立つさなか、その周囲の大地に光が巨大なサークルを複数描いた。かと思うや、円形内部の地面が地響(じひび)きを立てつつ浮き上がる。

 地表から分離した円盤(えんばん)たちがゆっくり寄り集まっていくとともに、光の柱があった箇所から岩盤が円柱状に引き抜かれ、徐々(じょじょ)に空の一点に集まっていく。

 やがて複数の円盤は円柱状の岩盤を支柱にして円錐(えんすい)台形に積み重ねられ、巨大な浮遊城を形作った。

 フェニクスは、大規模な魔力の行使を()の当たりにした法悦(ほうえつ)に、微笑を浮かべて拍手する。

壮観(そうかん)ですね。お見事です」

「さしずめ、空飛ぶ要塞(ようさい)、といったところか。確かに素晴らしい魔法(まほう)だ」

 満足げに笑うルークに続き、アトラが両の(こぶし)を打ち合わせて火花を散らした。

「さぁてとぉ、これから思いっ切り暴れられるわけか。(うで)が鳴るなぁ!」

 (ひとみ)をぎらつかせて獰猛(どうもう)な笑みを浮かべる茶髪の少年に、リゼルは苦笑する。

「残念だけど、すぐには()めてこないよ」

「あぁ!? なんでだよ!?」

「準備を整えるのに少なくとも二、三日は掛かるはずだ。仮にも大陸で一、二を争う魔導士(まどうし)ギルドが無策で()っ込んでくるとは思えない。それに、作戦の実行は次の満月の夜なんだ。(あせ)ることはないだろう」

 リゼルは浮遊城を見上げると、芝居がかった調子で両腕(りょううで)を開いた。

「さぁ、雑談もここまでだ。──ただいまをもって、この浮遊城を我らがギルドとする」

 

 

 浮遊城の最上層まで登ると、リゼルは再度、魔力を発動。足場が隆起して岩の宮殿(きゅうでん)をつくり出す。

 内部に足を()み入れて少し進んだところで、リゼルは肩ごしに振り返った。

「ルーク、家具の用意をお願いできるかな?」

「承知した」

 ルークが腕を突き出して魔力を発動すると、床面の中央に巨大な魔法陣(まほうじん)が展開。なにもなかった部屋の中に円卓と、それを囲むように配置された四脚の椅子(いす)が出現する。

 リゼルが一番奥の席に(こし)を下ろすと、全員が自然にそちら側を上座(かみざ)としてそれぞれ席に着いた。

 と、アトラがいきなり卓を(たた)いて立ち上がる。

「とにかくなぁ、(おれ)は暴れ足りねぇんだよッ。大体、コンビ組む必要あったか? 俺一人ならあんな腰抜けども、速攻(ソッコー)で片付けてきたのによぉ──あ、そうだ。おいフェニクス」

 (わめ)きながら指先を()きつけてくるアトラを、正面に座るフェニクスは(あき)れつつ(にら)み返した。

「なんですか、(やぶ)から(ぼう)に」

「『なんですか』じゃねぇよッ! テメェ、さっき奴らが攻撃(こうげき)してきた時、なんで俺まで守った? おかげでカウンター入れ(そこ)ねたじゃねぇかよ」

「あなたに任せると一人で突っ込むでしょう」

「だから、それのどこが問題なんだよ?」

「僕たちは移籍の交渉に向かっただけです。最終的に戦闘(せんとう)になるのは構いませんが、彼らを(つぶ)すことが目的ではなかったんですよ」

「じゃあギルドぶっ壊して従わせりゃ良かったろ」

 フェニクスは盛大な()め息をひとつ()く。

「話のわからない人ですね。それでは何も始まらないと言ってるんですよ」

「んだとコラ。そもそも、テメェがうだうだ言ってるからちっとも暴れ足りねぇって話なんだがなぁ?」

「それは僕とは関係ありませんね。あなたが暴れ足りないと言うのはいつものことでしょう」

「何が関係ないだぁ? テメェ、一回ぶっ飛んでみるかオイ!」

「──二人ともその辺にしておけ。いつまでも会議が始められん」

 組んだ手に(あご)を落としたルークの言葉に、アトラは(つか)()動きを止め、彼をキロリと睨んだ。しかしすぐさま毒気(どっけ)を抜かれたように大きく舌打ちすると、苛立(いらだ)たしげにどっかと座り直す。

 事の成り行きを見守っていたリゼルは、そこでふっと()みこぼれた。

「ありがとうルーク。じゃあまずは、情報の確認からいこうか。事前情報に間違いは無かったかな?」

 その問いに、ルークはこゆるぎもせず即答した。

「あぁ、こちらは問題ない」

「こちらも同じく。ですが、ひとつ意外だったことを挙げるなら、滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)以外の者が動かなかったことでしょうか。大陸で一、二を争う魔導士(まどうし)ギルドと(うかが)っていたので、それなりの苦戦を覚悟(かくご)していただけに、正直あれには拍子(ひょうし)()けしましたね」

 フェニクスも(こた)えると、リゼルは静かに笑う。

「不自然ではないだろう。滅竜(めつりゅう)魔法(まほう)は本来、竜迎撃(げいげき)用の魔法。そんな力をもった人間同士の戦いに第三者が下手(へた)に介入すれば最悪、足を引っ張ってしまう。僕はむしろ、彼らがそれほどの実力者だからこその適切な判断だと思うね」

 フェニクスは面白(おもしろ)くなさそうに鼻を鳴らした。

 その様子に苦笑してから、リゼルは表情を改める。

「さて、これから僕たちは決戦の日までに万全(ばんぜん)の態勢を整えなければならないわけだが……その前に、特に注意すべき点について改めて話しておこう。皆は二年前の大魔闘(だいまとう)演武(えんぶ)の決勝戦を覚えているかい?」

「はい。確か『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』が優勝し、大陸最強の座に返り()いたとか」

 フェニクスの返答に、リゼルはひとつ(うなず)く。

「その通り。だが問題は、そこに至るまでの過程だ。彼らは試合開始後、しばらく経ってから行動を開始。(ねら)()ましたように次々と接敵(せってき)してポイントを(かせ)いでいった。これは彼らの中にそれ(ほど)の計算力と戦略眼(せんりゃくがん)をもつ者がいることを示している。──もしかしたら、僕たちが四百年前の人間だという事も、(すで)露見(ろけん)しているかもしれないね」

 その言葉に、アトラが腹を抱えて笑い出した。

「おいおい、冗談(じょうだん)キツいぜマスター。いくらなんでもそりゃねぇだろ」

「アトラ、いい加減(かげん)に──」

「いいよ、フェニクス。さすがに僕もその点はアトラに賛成する。ただ、厳重に警戒(けいかい)しようという話さ」

 そこでルークがすっと挙手する。

「ではマスター、(おれ)は作業に戻っても?」

「そうだね。いい出来を期待しているよ」

御意(ぎょい)に」

 そう言ったルークの身体を(まばゆ)い金色の光が包むと、瞬時(しゅんじ)に退席していった。

「次にアトラ、君は今後、作戦当日までこの城の中で過ごしてもらう。なに、君が退屈しないように対策は(いく)らか考えてある」

「おう、そこはよろしく(たの)むぜ」

 アトラが頷くと、リゼルはこちらに向き直る。

「フェニクス、君にはいまから指定するポイントに別の拠点を構えてほしい。しばらくの間、そっちで羽を()ばすといいよ。君の役目は、作戦当日まで敵にプレッシャーをかけ続けることだ」

 その言葉に、フェニクスは不敵な笑みを浮かべた。

「なるほど、そういうことならお任せを。ここからは(むし)ろ目立つように動け、というわけですね」

「あぁ。これより始まるのは(たが)いの心の(けず)り合いだ。僕たちの準備が不完全なことは決して(さと)られてはならない。……とはいっても、彼らに知られた情報はごく少ない。いかに優れた洞察(どうさつ)力の持ち主でも、この段階で僕の能力に気づくのは不可能なはずだ」

 リゼルはその漆黒(しっこく)双眸(そうぼう)に静かな闘志(とうし)の炎を燃やしながら、胸に手を当て薄笑いを浮かべる。

現代(いま)を生きる魔導士(まどうし)諸君のお手並み拝見といこう。『滅竜魔水晶(ドラゴンリンク)』がある限り、僕たち『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』に敗北はない。やがて(きた)るべき滅亡(めつぼう)の日まで、せいぜい足掻(あが)いてみせるがいい」

 

 

      3

 

 

 ルーシィたちが浮遊城を呆然(ぼうぜん)と見上げていると、突如(とつじょ)背後から盛大な爆裂音(ばくれつおん)雄叫(おたけ)び。続けてどさどさと何かが(くず)れるような音が聞こえる。

 振り向くと、ナツが魔力(まりょく)爆発(ばくはつ)させて周囲の瓦礫(がれき)()き飛ばし、直後に他のギルドメンバーに取り押さえられたところだった。

「戦争だああッ! イノシシとワインだか何だか知らねぇが、あんな(やつ)らいますぐぶっ(つぶ)してやるあぁッ」

「落ち着けナツッ」「気持ちは(みんな)同じだ!」「つぅか『変革の翼竜(イノベートワイバーン)』だよッ」

「うるせぇ、名前とかどーでもいいんだよッ。たった四人で『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に喧嘩(ケンカ)売るたァ良い度胸してんじゃねぇか! まずはあの城ぶっ壊してやるッ」

「──待ってください、ナツ」

 怒り心頭のナツを、メイビスが引き止める。

「不確定要素が多い現段階で乗り込むのは危険です。せめて一度、情報を整理してからでないと」

「あの……」

 そこでスティングが、おずおずと手を挙げた。

「その意見には賛成だけど……アンタ、(だれ)?」

 彼の言葉に、ルーシィはハッとする。彼女は『妖精の尻尾』メンバーにしか認識できない思念体(しねんたい)と別に、アルバレス帝国との戦争の中で生身の身体を取り戻している。外見には違いが無いので気づかなかったが、先刻(せんこく)から話していたのは後者の彼女だったらしい。

「そういえば、『剣咬の虎(セイバートゥース)』のみなさんには自己紹介がまだでしたね」

 メイビスはひとつ咳払(せきばら)いをすると、にっこり笑って告げた。

「私の名前はメイビス・ヴァーミリオン。詳しい事情は話すと長くなってしまいますが、『妖精の尻尾』初代マスターです」

「「「「「初代マスター!?」」」」」

 『剣咬の虎』の面々が一斉(いっせい)に叫び、スティングが(あわ)てて頭を下げる。

「失礼な口()いてすみませんでしたッ。(おれ)が『剣咬の虎』マスターのスティングです!」

「あぁ、顔を上げてください。気にしていませんよ。あなたたちの事は、二年前の大魔闘(だいまとう)演武(えんぶ)(ころ)から見ていましたし」

「……。……マジで?」

「はい、(おお)マジです」

 さらなる驚愕(きょうがく)にスティングは顔だけ持ち上げた姿勢で固まるが、そんな彼に対してメイビスは悪戯(いたずら)っぽく笑って(うなず)いた。

「あの、初代……そろそろ説明の続きを……」

 マカロフの言葉に、メイビスは表情を改める。

「そうですね。私のことは一旦(いったん)置いておくとして、話を先に進めましょう」

 そこで一度言葉を切ると、メイビスはすっと右手を持ち上げて浮遊城を指差した。

「まず重要なのは、あの城が本当に敵のギルドか(いな)かという点です。──ウォーレン、魔導(まどう)レーダーの反応はいまどうなってますか?」

「ほいきた! 現在、あの城の中に魔力(まりょく)反応は四つ。反応の大きさからいって、まず間違いなくさっきの(やつ)らだろう」

「ということはやはり、あの浮遊城が『変革の翼竜』のギルド……」

 (あご)に手をやり考え込むエルザの言葉に被せるように、再びナツが叫ぶ。

「なら決まりだな、いますぐ皆で突撃(とつげき)だ!」

 しかし、メイビスは重々しく首を振った。

「いいえ、まだです。ここで問題なのは、レーダーの反応を本当に信じて良いものかということ」

「「「?」」」

「先の戦争で、私たちは敵からの強力なジャミングを受け、レーダーを無効化されました。それにより敵の侵攻を許し、窮地(きゅうち)(おちい)ったことがあります。それに、あのリゼルという者の魔力。皆さんは、なにか気づきませんでしたか?」

 その問いに、ルーシィは(うで)を組んで(うな)る。

「そう言われても……。あいつを見てすごく嫌な感じがしたとしか……。あ、そういえば、魔力はあんまり感じなかったかも」

「それにさっき、レーダーの反応が消えたって……」

 シャルルの(つぶや)きに、メイビスはひとつ頷いた。

「はい。これらの情報からわかるのは、リゼルがなんらかの方法でこちらからの魔力感知を正確にできなくしているということです」

「じゃあ、いまレーダーに映ってるマーカーは……」

 ハッピーが言うと、グレイも苦い表情になる。

「まずなにかのトラップだってことか」

「おそらくは。そして、それにもいくらか考えられるパターンはあるのですが……中でも最悪なのは、あの城そのものが(おとり)だというものです。敵は滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)。ならばその弱点も当然熟知しているはず」

 ガジルが(あご)()でながら口を開いた。

「要するに、連中があの城の中にいたら酔ってなきゃおかしいって話か」

「確かに、あれが大きな乗り物だと考えたら──()()()()()戦闘(せんとう)どころじゃないですね、うぷぷ……」

「ちょっと、想像しただけで酔わないのッ」

 ハッとしたウェンディが不意に両手で口を押さえ、シャルルが彼女の背中をさすり始める。

「そういうことです。そして、最も恐ろしいのはその先。敵は、(ドラゴン)を戦争の道具として利用すると宣言しました。私が彼らなら、邪魔(じゃま)な滅竜魔導士の早期排除を真っ先に考えます。城に()めてきたところを閉じ込めれば、竜に(あらが)(すべ)を簡単に(うば)えます」

「んじゃどうすりゃいいんだよッ!?」

 (いま)だ仲間に取り押さえられたままのナツが叫ぶと、メイビスはルーシィ達を見渡した。

「リゼルが指定した次の満月の夜まで、まだ約二週間の時間があります。それまでに何としても準備を整えなければなりません。私の方でも、(すで)にいくつか策を考えてあります。皆の勇気と(きずな)を力に()えて、立ち向かいましょう」

 その言葉に、各々(おのおの)が力強く(うなず)いた。

 そこで視線を上げたルーシィは、すぐ横でミラジェーンが配達員と何事かやり取りしているのに気づく。

 ギルドが崩壊(ほうかい)しているのも意に(かい)さず職務をこなす配達員に感心していると、受け取った封筒(ふうとう)を確認したミラジェーンが怪訝(けげん)な顔をしてマカロフの下に持っていった。

「マスター、何でしょう、これ?」

 マカロフがそれを受け取り開封すると、メイビスも横から(のぞ)き込む。

「むぅ、なんじゃこれは? 差出人(さしだしにん)も書いとらん」

「……あッ、これは……」

「? 初代、どうなさいました?」

 不思議そうな表情のマカロフを尻目(しりめ)に、メイビスはにこやかな笑顔でこちらに手を振ってきた。

「ルーシィ、ちょっと来てください」

 首を(かし)げつつ小走りで駆けていくと、マカロフから手紙を受け取る。

 一読して、ルーシィも思わず()みこぼれた。

「あぁ、これ、あのヒト達からだ」

 ルーシィがギルド内に視線を巡らせると、(みな)空気を察して押し(だま)る。

『ごきげんよう、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の魔導士(まどうし)諸賢。なんて言ってる場合じゃないのか。ちょいと見ない間に、何やらとんでもないことになってるみたいだね。ギルドが爆破(ばくは)されたらしいじゃないか。あたしも耳を疑ったよ。

 わかるよ、なんで知ってるんだって顔してるね? 丁度いい機会だ、顔合わせできてない他の仲間のためにも教えておこう。

 ウチに疾風丸(はやてまる)っていう新聞記者がいたのは覚えてるかい? あいつは人間界の情報も色々と集めてるんだが、なにしろその速度が頭抜(ずぬ)けててね。本気を出せば音速(おと)超えも軽い。そんなわけで(だれ)にも姿を見られずに活動できるんだ。その(あや)(めずら)しく泡食って飛んでくるもんだから何事かと思えば、これだよ。

 ともかく、本題に入ろう。要件は単純だ。是非(ぜひ)ともあんたらの力になりたい。力を合わせて、あんたらを(おそ)った(やつ)らにわからせてやろうじゃないか。どれだけ恐ろしい相手に喧嘩(けんか)売ったのかってことをね。

 ただ、それには大きな問題がひとつある。あたしらを知らないそっちの仲間たちにどう受け入れてもらうか、って話だ。そこで、あたしらを知ってる奴同士でなんとか他の仲間を信用させてほしい。勝手な要求なのはわかってる。だけど、あんたらも味方は多い方がいいだろ? ここはひとつ、よろしく(たの)むよ』

 『親愛なる同胞たちへ、心を込めて』と締め(くく)られた手紙を読み終える(ころ)には、ルーシィの胸に様々な思いが渦巻(うずま)いていた。

 手紙の筆者がレンカであることを疑う余地はないが、この文面からは、如何(いか)にして(ねら)った読み手にのみ意図を伝えるかという苦悩が()み取れる。

 当然だろう。スミレ(やま)の住人たちは、そのすべてが、ヒトならざる妖怪(ようかい)である。いかに彼らが人間に友好的といえど、人間側からすれば『人間(ヒト)ではない』というだけで恐怖や忌避(きひ)の対象となってしまう。最悪、姿を見られただけでもパニックが起こりかねない。

 だからこそ彼らはいま()れている。危機に直面したルーシィ(どうほう)たちを助けたいという思いと、衆目に触れることへの不安の間で。

 この手紙は『妖精の尻尾』全体に向けたものを(よそお)っているが、まず間違いなくルーシィたちに向けて書かれたものだ。肝心(かんじん)な情報が抜け落ちた乱雑な文体も、焦って書いたからというより、わかる者にのみ伝わるように気をつけた結果だろう。

 ここは差出人(レンカ)の頼み通り、自分たちがなんとかしてやらねばなるまい。

「……それで? 読んでくれたはいいが何なんだい、その手紙は?」

 しかめっ(つら)のカナの声で我に返ると、ルーシィは(まなじり)を決して顔を上げた。

「実は、あたしたちからみんなに、伝えておかなきゃならない話があるの」

 ルーシィが、先日の依頼(クエスト)一緒(いっしょ)にスミレ(やま)に行ったメンバーに視線で合図を送ると、彼らも心は決まっているようだった。

 

 

 ルーシィたちが先日の依頼での体験をひと通り語り終えた時、仲間たちが発していたのは困惑(こんわく)のざわめきだった。

「つまり、ルーちゃん達は鬼や妖精(ようせい)と会って、しかも戦ったってこと?」

 目を丸くする小柄な青髪の女性・レビィの問いに、ルーシィはひとつ(うなず)く。

「うん。でも、全然悪いヒトたちじゃないの。あたし達と戦ったのだって、力比べみたいなものだし。そもそもスミレ山の妖怪(ようかい)たちはみんな、人間のことを仲間だと思ってる」

「でもなぁ、鬼ってアレだろ?」「こう、角があって、デカくて、怪力で……」

 いまだ(しぶ)い表情のマカオやワカバの(つぶや)きに、なんといって説得したものか考え込んでいると、(となり)のナツが酒樽(さかだる)に片足を()せて口を開いた。

「大丈夫だ。アイツらは怖くなんかねぇ。(むし)ろすげー良い(やつ)らなんだぞ? 戦った(おれ)たちが言ってんだ、間違(まちが)いねぇ」

「けど、会ったことも無いのに突然(とつぜん)『助けてやる』って言われてもな……」「やっぱ不安だよ、俺」

「ま〜、()いではないか、此奴(こやつ)らを信じてやっても」

 ジェットとドロイが言うなか、助け舟を出したのはマカロフだった。

「仮にこの七人の話が間違っているなら、こうして無事に帰ってきとることに説明がつかん。実際にその者たちに会ってみないことにはなんとも言えんが、家族の言葉は信じるのが、ギルドってもんだろう」

 すると、カナが軽く手を上げる。

「私はマスターの意見に賛成だし、ルーシィたちの話も疑っちゃいないが、あんたら一つ大事なことを忘れてないかい? その手紙に返事を書いたとして、(だれ)がどうやってその山まで送るのさ?」

「あ、そういえば……」

 スミレ(やま)の位置ならルーシィたちが知っているが、それもラグリアの転移(てんい)魔法(まほう)で道のりを省いたからこそ一日で行って帰ってこれたのだ。

 確かカリンの話では、スミレ山は彼女の家から(およ)そ三千キロ。仮にギルドから徒歩で向かうとして、往復に掛かる時間は如何(いか)ほどになるだろうか。

「──そこは(おれ)が引き受けよう」

 そういって進み出てきたのは、メストだった。

「俺の『瞬間移動(ダイレクトライン)』なら、山の座標さえわかれば問題ない。正確な場所はわかるか?」

 その問いに、エルザが簡潔に答える。それを聞いたメストは、眉根(まゆね)を寄せて(うな)った。

「意外とあるな……。一回の『瞬間移動』で限界まで距離(きょり)を稼ぐとしても、俺の魔力(まりょく)()つかどうか……」

 しばし考え込んでいたメストだったが、やがて軽く首を振り、顔を上げる。

「いや、考えても仕方ねぇ。少し時間は掛かるだろうが、できるだけ早く帰ってこれるよう努力しよう」

 話がまとまりかけた──その時だった。

「うわー、何こレ、滅茶(めちゃ)苦茶(くちゃ)だヨ」

「待って。あんまり先に行くと危ないわよ」

 聞き覚えのある声にそちらを見ると、金髪ツインテールの少女が歩いてきていた。後ろには青いドレス姿の女性と、さらにその後ろに赤黒い髪にロングコートの男性が続く。

「あれ、セリナちゃん? カリンにラグリアさんも」

 ルーシィの言葉に、ラグリアは足元の瓦礫(がれき)をどかしながら(ひとみ)に同情の色を浮かべた。

「いやぁ、(ひど)有様(ありさま)だね。見たところ、ギルドの皆は無事なのかな?」

「はい、なんとか。ところで今日(きょう)は、皆さんお(そろ)いでどうしたんですか?」

 ウェンディが答えると、ラグリアは意外そうな表情になる。

「あれ、こっちには話が通っていないのか。てっきり知ってると思ってたんだけど」

 そういってコートのポケットをまさぐると、一枚の封筒(ふうとう)を取り出した。

「僕たちも手紙を受け取ったのさ。『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の皆を助けよう、という呼びかけの手紙をね」

「ラグリアさんたちも?」

 ルーシィは聞き返しながらも、ようやく理解する。先ほどミラジェーンに手紙を届けた配達員。届け先の建物が崩壊(ほうかい)しているというのにやけに(きも)()わった人だと思っていたが、考えてみればそれ以前に差出人(さしだしにん)宛名(あてな)も明記していないものを、なんの疑念も(いだ)かずに正確に届けるなど不自然だ。ミラジェーンに手渡す際にひとこと声掛けをしてもおかしくないだろう。

 そして同じような内容の手紙がラグリアとカリンの家にも届いていた。とすると、ここから導き出される答えはひとつ。

 あの配達員こそ、スミレ(やま)の新聞記者・疾風丸(はやてまる) (あや)そのヒトが変装した姿だったのではないか。

 この短時間にラグリアとカリンという、(はな)れた場所に住む二人に手紙が届いていることも、彼女が本気を出せば音速さえ超える飛行速度を出せるというレンカの話で説明がつく。

 こちらの内心など知る(よし)もなく、ラグリアは表情を改めると、続けた。

「だいたいの事情は手紙で読ませてもらったよ。今回の一件、僕たちも力を貸そう。なにか手伝えることがあったら何でも言ってほしい」




今回も、今後の作中での描写にも影響するということで活動報告があります。

まずは細かい部分から。自分はこれまで、作中で扱う『白っぽい髪色のキャラ』をすべて『銀髪』と表現してきました。しかしよくよく調べてみたところ、ここまで大雑把(おおざっぱ)な区分けではイメージを伝え切れていないことに気づきました。
よって『スミレ山編』に登場させた白狼(はくろう)天狗(てんぐ)の髪色の描写を『銀髪』から『白髪』に変更。さらに『剣咬(セイバー)の虎(トゥース)』のユキノも『銀髪』から『水色の髪』に改良しました。ちなみに後者はwikipediaで調べた情報プラス、アニメの色合いを参考にしています。

続いて二つ目は、アシュリーのレンカに対する三人称です。
彼女のモデルが東方Projectのパチュリーですから、彼女のレミリアに対する口調に引っ張られて自然と名前呼びをさせていましたが、今回『お(じょう)様』に修正しました。
そもそも、レンカを名前呼びするのはミレーネだけということで特別感を出していたのに、彼女まで名前で呼び始めると不自然だったんですよね。


さて、今回は色々な設定が複雑に絡み合い、執筆活動も一進一退でしたが、構想自体はある程度まとまっていたお陰で、最終的にはそこそこ納得のいくかたちに落ち着けることができました。
ちなみに次回以降は、長期プロットや描きたいシーンの構想はいくつもあるのですが、細かい描写に未定の部分が割と多いため、相変わらず超絶不定期投稿は改善できそうにありません。
しかしそれでも、自分の思い描く物語をかたちにしたいという意思を強くもって、今後も精進したいと思います。
今回も結構なボリュームになってしまったように思いますが、読者の皆さんは楽しんで頂けたでしょうか?
皆さんのご感想、心よりお待ちしています。

それでわ、しーゆーあげいん!

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