FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm   作:水天 道中

3 / 30
第1話で登場した彼について。
イメージは某忍者アニメの主人公の父、年齢は25歳です。
あれ? そういえば本書の時間は原作の最終回のその後、ということは主人公達と彼の年齢の開きが思ったより……。まぁ、その辺りはご容赦下さい。
ちなみに本シリーズの主人公はもちろんナツとルーシィですよ?


第2話 天空(そら)翔ける電光

      1

 

 

 ラグリアは自宅のドアノブを回すと、ゆっくりと押し開けた。

「ただいま。セリナ? いる──」

「──おかえリぃぃぃッ‼」

 どたばたという足音がして、いきなり中から小さな影が飛び出してきた。ラグリアがさっと(かわ)す。

「おわッ」「ふぎゃッ」

 直後、ラグリアのちょうど真後ろにいたナツにぶつかり、ハッピーも()き込んで吹き飛んだ。

「な、なに!?」

 ルーシィが見ると、倒れ込んだナツの上に一人の少女が乗っていた。歳は十歳くらいだろうか。黄緑色のおしゃれなドレスにミニスカート。長い金色のツインテールを(つつ)状の髪留(かみど)めでまとめている。

「ッてぇな、何しやがんだ!」

 ナツが上体を起こして怒鳴(どな)ったが、少女はただ悪戯(いたずら)っぽく笑っているだけだった。

「にしシッ。……あれ? ラグリアじゃなイ」

 そう言って辺りを見回すと、こちらを見て満面の笑顔で手を振ってきた。

「あ、いタ。おかえリー」

「まったく、『あ、いタ』じゃないよ。早くそこをどくんだ」

 えへへ、と笑って少女がナツから離れると、こちらに向かって歩いてくる。

「えっと……この子が、ラグリアさんの?」

 ルーシィが見ると、ラグリアは(あき)れた、というように右手で顔を押さえていた。

「そう。一人で出かけて帰ってくるとよくこうなるんだ。お(かげ)でだんだん慣れてきたよ」

 ルーシィが苦笑していると、少女がぱっちりしたライトブラウンの(ひとみ)でラグリアを見上げる。

「ラグリア、この人達は(だレ)?」

「お客さんだ。魔導士(まどうし)ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の皆さんで、こちらから順にルーシィ、グレイ、エルザ、ウェンディ、シャルル。そしていまセリナが(ぼく)と間違ったのがナツだ」

 セリナと呼ばれた少女がこちらを見るのに合わせて軽く(うなず)く。

 と、そこでまだ呼ばれていないエクシードがいるのに気付き、ルーシィは辺りを見渡す。

 するとハッピーは先ほどのセリナの突撃(とつげき)で吹き飛んだナツの更に二メートルほど後方でうつ()せになって倒れていた。たしかナツの左手で顔面を強打していたのだったか。

「あ、ハッピー、大丈夫?」

 ルーシィの呼びかけから一拍(いっぱく)おいて、ハッピーは震える右手を持ち上げた。

「あい……なんとか……」

「まったく、だらしないわね」

 シャルルのきつい一言に、ウェンディが苦笑していた。ラグリアも苦笑してから口を開く。

「まぁ、とりあえず中に入って。一旦(いったん)落ち着こう」

 

 

 ルーシィ達は以前にも一度、聖十(せいてん)大魔道(だいまどう)の家を訪れたことがある。

 序列四位、ウォーロッド・シーケンの家。

 無類の植物好きである彼の家は大小様々な鉢植(はちう)えが所狭(ところせま)しと並べられ、家自体からも樹木やコケが()えていたので、はっきり言ってボロい印象が強かった。

 しかしラグリアの家は対照的にインテリアの(たぐい)はそれほど多くなく、こざっぱりとしていた。そして、広い。ウォーロッドの家は鉢植えのせいでいまいち広さがわかりづらかったが、同じくらいの規模だとは考えにくかった。

「まぁ(たい)したものは置いていないけど、ゆっくりしてくれ」

 ラグリアの言葉に、部屋の中央の大テーブルを囲むように並べられた三脚のソファーに全員が座り、セリナもルーシィの(となり)にちょこんと(こし)を下ろす。

「セリナ、これを」

「ン?」

 そう言って、ラグリアはポケットから観賞用魔水晶(ラクリマ)を取り出すと、セリナの前のテーブルに置く。今日の午前中に彼が盗賊(とうぞく)団から取り返してきたものだ。

 それを見た瞬間(しゅんかん)、セリナの表情がぱっと明るくなった。

「あ、私の魔水晶! ラグリア、取り返してくれたノ!?」

「うん。遅くなって済まない」

「ううん、ありがとウ!」

 魔水晶を大切そうに抱きしめるセリナを微笑を浮かべて眺めていたラグリアは、そこで彼女の肩をポンと(たた)く。

「それじゃあセリナ、改めて皆さんに自己紹介を」

 上機嫌で一つ(うなず)くと、セリナはこちらを見る。

「私はセリナ。セリナ・ロゼルタ、十歳。よろしくネ!」

「うん。よろしく、セリナちゃん」

 ルーシィが言うと、他の皆もそれぞれ返事を返す。ただ、ナツとハッピーだけは微妙な表情を浮かべていた。

「さて、自己紹介も済んだことだし、なにか作るよ。君達、昼食がまだだろ?」

「それなら、なにかお手伝いをしましょうか?」

 エルザの言葉に、だがラグリアは軽く右手を上げて辞退する。

「いや、君達はお客さんだ。そこの本でも読んで待っていてくれ」

「本?」

 思わずそう聞き返して振り返ったところで、ルーシィは感嘆の声を上げていた。

 部屋の一角に巨大な本棚(ほんだな)が置かれ、(かべ)の一部を完全に(おお)い隠している。『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』にも小さい図書館があるが、その半分くらいの量はあるだろうか。近づいてみると、週刊誌から小説、料理本に魔法書(まほうしょ)と、種類もかなり豊富である。

「ありがとうございます!」

 ルーシィが振り返ると、ラグリアは(すで)にキッチンで料理の支度をしていた。

 

 

 思い思いの本を手に取り、待つこと数十分。

「はい、お待ちどうさま」

 キッチンから戻ってきたラグリアがテーブルに料理を並べ始めた。

「ありがとうございます。……うわぁ……」

 ルーシィは大皿の上に盛られた料理を見た瞬間(しゅんかん)、再び感嘆の吐息(といき)をつく。出されたのは豪華(ごうか)な肉料理だった。早速(さっそく)ナツとグレイ、そしてハッピーがいそいそと食べ始める。

「それと、セリナにはこれ」

 そういって、ラグリアはもう一枚の大皿をセリナの前に置いた。

「ラグリアのカレーダ! わーイ!」

「なんで、セリナちゃんだけ別なんですか?」

 ルーシィが()くと、ラグリアはセリナの(となり)に座ってから答えた。

「セリナはこう見えて結構(けっこう)(から)いもの好きでね。(みんな)の口に合わないだろうと思って分けたんだ」

 ラグリアの言葉に改めてセリナが美味(おい)しそうに食べるカレーを見ると、確かに見るからに辛そうな色のルーがたっぷりかかっていた。

 それからしばらくはラグリアが作った料理の美味しさに皆ものも言わず、ただ黙々(もくもく)と食べ続けた。

 食事がもう少しで終わるというところで、ナツがなにか思い出したように「そういや」といってセリナを見る。

「お前、魔法(まほう)は使えるのか?」

「魔法? うん、使えるヨ」

「じゃあ後で(おれ)と勝負しようぜ、勝負」

 いきなりのナツの放言にセリナがなにか言う前に、ルーシィは(あわ)てて間に割って入った。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよナツ。アンタの力じゃ、セリナちゃんに怪我(けが)させちゃうでしょ」

「大丈夫だって。ちゃんと手加減(てかげん)はするからよ」

「なにが大丈夫よ。去年だって熱だけで大魔闘演武(だいまとうえんぶ)の会場半分溶かしちゃったくせに」

「確かに、ナツの力では手に余るだろう。私もルーシィの意見に賛成する」

 エルザの言葉に、シャルルが皆の顔を眺め始める。

「そうね。だったらこの中では、ウェンディが妥当(だとう)かしら。年齢的にも」

「そういうことでいいですか?」

 ウェンディが見ると、ラグリアは楽しそうな笑みを浮かべていた。

「あぁ、問題ない。セリナもそれでいいかい?」

 セリナもこくりと(うなず)きを返す。

「じゃあ決まりだね。言っておくけど、セリナは強いよ。この(ぼく)が保証する」

 

 

      2

 

 

 試合はラグリア宅前の草原が広がる広場で行われることになった。

「うわー、楽しみだなぁ。ねぇ、この試合、どうなるんだろ?」

 ルーシィが車寄せ(ポーチ)の手すりにもたれながら左を見ると、グレイは二人の方を向いたまま答える。

「ま、フツーに考えたらウェンディの勝ちじゃねぇか?」

「ウェンディー、頑張(がんば)ってーッ」

「どっちも負けんなーッ」

「あい!」

 シャルル、ナツ、ハッピーも声援を送るなか、ただ一人、静かに笑っている人物がいた。

「どうしたんですか?」

 見ると、ルーシィの右隣(みぎどなり)に立つラグリアは、笑顔のまま答える。

「いや、こういうのっていいなと思ってさ。皆いつもこんな感じなのかい?」

「はい。とっても楽しいですよ」

「そうか……。お、始まったみたいだね」

 

 

「ではこれより、ウェンディ・マーベル、セリナ・ロゼルタの試合を始める。両者は前ヘ」

 審判(しんぱん)役を買ってでたエルザの指示に、ウェンディとセリナはお互い一歩前に出る。

「決着は、どちらかが戦闘(せんとう)不能、または戦意喪失(そうしつ)した場合とする」

 エルザの説明が続くなか、十メートル前方に立つセリナが笑いかけてきた。

「いっぱい楽しもうネ!」

「よろしくお願いします」

 ウェンディも笑顔で(こた)えると、表情を引き()めて横合いからかけられる声援を意識から閉め出す。

 両腕を広げて(こし)を落とし、セリナから見て気持ち(なな)めに構える。対するセリナは笑顔のまま棒立ちになっており、特に構えを取る気配も見せない。

 その外見からはなんの圧力も感じ取れないが、直感が油断してはならないと告げていた。

「始めッ」

 エルザの合図に、先に仕掛(しか)けたのはセリナだった。

「いっくヨーッ」

 右腕を高々と上げ、振り降ろす。ウェンディは構えを()き、(かん)任せに横に大きく跳躍(ちょうやく)

 次の瞬間(しゅんかん)、たったいまウェンディがいた位置に上空から一筋(ひとすじ)閃光(せんこう)が降り注ぎ、轟音(ごうおん)と共に地面に浅い(あな)穿(うが)った。

 ──落雷……ッ?

 さらにそれは一度に(とど)まらず、セリナがこちらに向かって腕を振り降ろす度に次々と襲来(しゅうらい)し、ウェンディがいた辺りの下草を徐々(じょじょ)に地面ごと(えぐ)っていく。

 ──これがこの子の魔法(まほう)……。それなら……ッ。

 何度目かの落雷に合わせて大きく()んだ直後、ウェンディは空中でモーションを開始した。

天竜(てんりゅう)咆哮(ほうこう)!!」

 ウェンディの口から放たれた竜巻(たつまき)のブレスが、(ねら)(あやまた)ず次の攻撃(こうげき)の予備動作に入っていたセリナに向かっていく。

 しかしその直前、セリナが上げていた腕を垂直に振り降ろした。雷はセリナの目の前に落ち、その衝撃(しょうげき)で竜巻が相殺(そうさい)される。

(すご)ーイ! だったら次はどウ?」

 そういって、セリナが両腕を引き(しぼ)る。()いで()き出された両手から放たれたのは、網目のように水平に拡がる放電攻撃だった。

 頭上に意識をやっていたのが災いして一瞬(いっしゅん)反応が(おく)れるが、なんとか後方に()んで回避(かいひ)

 しかし、ウェンディにとっての不運は、回避の瞬間にわずかに足下を見てしまったことだった。

「『飛雷針(ひらいしん)』ッ」

 はっとして顔を上げた時には、セリナの右手がなぎ払うように振られた後だった。一瞬の(ひらめ)きが見えたのと同時にバシッという雷鳴音(らいめいおん)(はじ)け、体の動きが(ふう)じられる。

 ──えッ?

 なんとか首を曲げて自分の体を見下ろすと、胸の中央に黄色く発光する十センチほどの(くぎ)のような物体が刺さっていた。しかし、痛みはない。

 しまった、スタン効果のある攻撃……!?

 見ると、セリナは(てのひら)の上に電気の球をつくり出し、いままさに放とうとしている──マズい。

「『雷榴弾(プラズマグレネード)』ッ!」

 セリナの右手が突き出され、電気の球がウェンディめがけて飛んでくる。

 ──しかしその直前、ウェンディの身体を黄緑色のベールが包み、体の(しび)れが消滅(しょうめつ)した。

 十全に余裕をもって風をまとった腕を振り、飛んできた電気の球をあさっての方向に弾き返す。

「えッ、なんデ!?」

 瞠目(どうもく)するセリナに、ウェンディは静かに告げた。

状態(じょうたい)異常(いじょう)回復、『レーゼ』。私に状態異常系の魔法は効きません。皆をサポートするのがお仕事だから」

 そこまで言ったところで、ウェンディは信じられないものを見た。

 先ほど自分が弾いた電気の球が、ラグリアの家の横手にある林に向かって飛んでいく。次の瞬間(しゅんかん)、直径約三メートルもの範囲を巻き込む白い爆炎(ばくえん)()き上がったのだ。

 背筋(せすじ)氷塊(ひょうかい)を入れられたような悪寒(おかん)(おそ)う。あんなものをまともにくらっていたら、痺れるどころでは済まなかったかもしれない。

「うーン、もうちょっとだったんだけどナー。やっぱり強いネ、アナタ」

 ウェンディはなんとか平静を(よそお)いながら、両腕を広げて再び構え直す。

「セリナちゃんだって、十分強いと思うよ」

「フフッ、ありがとネ。じゃあ……これならどうかナ?」

 セリナの動きに意識を集中し、身構える。一瞬(いっしゅん)後、ウェンディは三度驚愕(きょうがく)する羽目になった。

 両腕を広げたセリナの体が、ふわりと宙に浮き上がったのだ。

 ジャンプしたのではない。不可視の羽をはばたかせたかのように移動し、一メートルほどの高さでぴたりと静止した。

「そんな……ッ」

「アハハッ。電気の力ってホント便利だよネー。こーやって空を飛ぶことも出来るんだヨ?」

 

 

「な、なにあれ……!?」

 ルーシィが叫ぶと、(となり)のラグリアは静かに告げた。

「『電磁浮遊(エレクトリック・フロート)』……。あれもセリナの技の一つだよ。体の表面を帯電させることで、周囲に磁場を発生させて浮いているんだ。でも、セリナにここまでさせるとは……。さすが、と言うべきだろうね」

「どういうことですか?」

 見ると、ラグリアはセリナに視線を向けたまま微笑を浮かべていた。

「そのままの意味だよ。セリナは雷や放電だけでほとんどの相手と戦えるから、あの技を使うことは少ないんだ。つまり、セリナも本気を出し始めてるってことだね」

 

 

 セリナが次々と降らせてくる雷を、ウェンディは必死で()け続けていた。

 彼女が使う電撃(でんげき)の魔法はラクサスの雷の滅竜(めつりゅう)魔法に比して一撃(いちげき)の破壊力が低い反面、攻撃(こうげき)のインターバルが非常に短くて済む。

 更に雷の方は予備動作を始めた後も軌道(きどう)を変えられるため、攻撃の時はもとより防御時にも猛威を振るうだろう。加えて、セリナのあの反射神経。つけいる(すき)がまったくと言っていいほどない。

 せめて、少しでも()を作ることができれば……。

 刹那(せつな)、起死回生の一手が電撃的に脳裏をよぎる。

 セリナが放った電気の球を、ウェンディは体を回転させ、できる限り小さい動作で回避。同時に交差させていた腕を、セリナに向けて大きく広げた。

「天竜の翼撃(よくげき)ッ!」

 ウェンディの両腕から発生した風の(うず)がセリナに殺到(さっとう)する。

「わわわワッ」

 セリナは(あわ)てて横に移動して渦から逃れるが、ウェンディの真の(ねら)いは攻撃(こうげき)を当てることではなかった。セリナに攻撃を(かわ)()()()ことで発生する、(わず)かな間。

 直後に思い切り地を()り、空中のセリナを目がけて大きく跳躍(ちょうやく)する。

「天竜の砕牙(さいが)ッ!」

 指先に風をまとわせた右手を、全力で振り抜いた。

 しかし、セリナは体勢を(くず)した格好(かっこう)のまま、しかも先ほどとは反対の方向に移動する。

 必殺の一撃(いちげき)を躱されたことに(おどろ)きながらも、ウェンディはなんとか着地に成功。素早く身体を反転させ、再び構えを──。

 ──その時、ウェンディの目に、あり得ない光景が飛び込んできた。

 セリナの顔が、()()()()()()()()()()()

「な……ッ」

 馬鹿(ばか)な。つい瞬刻(しゅんこく)前までウェンディと彼女の間には確かに三メートルほどの距離があったはずだ。それを一体どうやって……。

 そんなことを考える間もなく、セリナの掌打(しょうだ)がウェンディの胸に据えられる。

 次の瞬間(しゅんかん)、バシィッという雷鳴音(らいめいおん)と共に一瞬(いっしゅん)体が浮いた。セリナの(てのひら)から放たれた電流が全身にビリビリと強い(しび)れを広げ、思わず片目をつぶる。

 続けてセリナは左拳(ひだりけん)を振りかぶった。ウェンディは防御しようとして、そこで初めて、体が少しも動かせないことに気づく。スタンだ。

 ──回復が間に合わない……ッ。

 掌打を据えられたのと同じ箇所に(こぶし)が打ち込まれた瞬間、少女のものとは思えない怪力にウェンディは吹き飛び、肺から空気が(しぼ)り出される。

 違う。これは拳の威力ではない。セリナは拳を打ち込む瞬間、接触面で電撃(でんげき)炸裂(さくれつ)させたのだ。

 全身を(たた)衝撃(しょうげき)に顔を(ゆが)めながらウェンディが片目を開けると、セリナは右手の五指(ごし)(そろ)え、腕を引き絞った姿勢で空中を滑るように追撃(ついげき)してきていた。その右手が、(まば)ゆい光に包まれる。

「『御光の手(ブリューナグ)』ッ!!」

 ()き込まれた右手から放たれた雷が、ウェンディの視界を白く染め上げた。

 

 

「そこまで! 勝者、セリナ・ロゼルタ!」

 エルザの判定(ジャッジ)が入り、セリナは満面の笑顔で軽くジャンプする。

「わーイ! やっタ!」

 ルーシィ達は、ラグリアただ一人を除き、全員が残らず絶句していた。理由は三つある。

 一つ目は、ウェンディの敗北を(だれ)も予想していなかったこと。加えて、セリナの戦闘(せんとう)センスである。

 猛攻(もうこう)に次ぐ猛攻でウェンディに反撃の隙をほとんど与えずに勝利をもぎ取ったこともさることながら、ウェンディが治癒(ちゆ)魔法を一度使っただけで最後の三連撃(れんげき)によるたたみかけを思いついたあの対応力は──ラグリアが自己防衛の為に稽古(けいこ)をつけている可能性を()まえても──見事の一言だ。

 しかし、これらはむしろ大きな問題ではなかった。

 三つ目は、セリナが最後に三連撃を繰り出す直前、信じがたい現象が起きたことだ。

 彼女はウェンディの攻撃を(かわ)した直後、まるでコマ落としの映像のようにウェンディの背後に移動していたのだ。あまりの速度に、一瞬(いっしゅん)理解がついていかなかった。

「ラグリアさん、さっき、セリナちゃんは一体……」

「──よっしゃあッ!」

 ルーシィがラグリアの方を見たその時、反対側で叫び声が上がった。

 ぎょっとして声の方を見ると、ナツが車寄せ(ポーチ)の手すりを跳び越え、セリナに向かって勢いよく走り始めたところだった。その彼の拳を、炎が包む。

「今度は(おれ)が相手だ! 火竜(かりゅう)鉄拳(てっけん)‼」

「ちょっとナツ! アンタなにやって──ッ」

 ルーシィは叫ぶが、すでに間に合わなかった。()っ込んでくるナツに気づき、セリナも慌てて上空に逃れようとする──。

 直後、ルーシィ達は再び瞠目(どうもく)する羽目になった。

 ナツの炎をまとった(こぶし)がセリナに触れた瞬間(しゅんかん)、彼女の体が眩ゆい光を()き散らして爆発(ばくはつ)したのだ。いや、したように見えた、というべきか。

 ほどなくしてセリナがラグリアの(となり)に着地する。

「ふぅ、びっくりしタ〜」

「え、えッ? なんだったの、いまの?」

 思わずセリナが先ほどまでいた場所と彼女の顔の間で視線を往復させていると、そうこうする内に()き上がっていた土煙(つちけむり)が晴れ、中からナツの姿が現れる。

「あが……が……ッ」

 彼は黒焦(くろこ)げになってうつ()せに倒れ、完全に気絶していた。

 

 

      3

 

 

 ナツはソファーのひとつに(こし)かけたまま、脱力して大テーブルに()()していた。桜色の髪は、彼の体が電気を帯びているせいで普段より一層(いっそう)ツンツンと逆立っている。

「くっそ〜、まだ(しび)れんぞ〜」

「回復、しましょうか?」

 苦笑しながらウェンディが言うが、その提案をシャルルがあっさり一蹴(いっしゅう)する。

「ほっときなさいよ。自業自得(じごうじとく)なんだから」

「そうね。子供相手に不意打ちなんかした罰よ」

 今回はルーシィもシャルルの意見に賛成した。腕を組んで(となり)のナツを横目で軽く(にら)む。

「んだよ、ひでぇなぁ」

「どっちがよ。セリナちゃん、怪我(けが)してたかもしれないじゃない」

 そこでルーシィは、セリナが見せた不可解な現象の事を思い出した。しかしその事を口にする前に、ナツがテーブルに突っ伏したまま、首だけ動かしてラグリアの隣に座るセリナの方を見る。

「つぅかさっきのあれはなんだったんだよ? お前の体、パンチがすり抜けたぞ」

「えぇ!?」

 (おどろ)いてセリナを見ると、ラグリアが口を開いた。

「それは(ぼく)が説明するよ。セリナが使う魔法(まほう)、『電流(エレクトリシティ)』は、強力な電流で攻撃(こうげき)やパワーアップをする他に、体を電気のエネルギー体に変えることもできるんだ。電気になったセリナは稲妻の速度で動き、基本的に物理攻撃が効かなくなる。ちなみにさっきの爆発(ばくはつ)はその副作用みたいなもので、強い衝撃(しょうげき)を受けるとああなるんだ。危険過ぎるから、実戦でもよほどのことがなければ、()ける時だけ使うように言ってるんだけどね」

 苦笑するラグリアの言葉に、場に感嘆の吐息(といき)が漏れた。

「そっか……。最後のあれは、そういうことだったんですね……」

 様々な感情が()り混じったウェンディの(つぶや)きを聞きながら、ルーシィも軽く苦笑する。

「でも本当にびっくりしました。まさかウェンディが負けるなんて……。魔法は、ラグリアさんが教えたんですか?」

 そのことを口にした瞬間(しゅんかん)、なぜかセリナがぎくりとした。

 ラグリアは彼女の背にそっと手を回し「この人たちなら大丈夫だよ」と、優しく(さと)す調子で言う。それが駄目押しになったらしく、セリナはドレスの右の(そで)(まく)った。

 右腕は、前腕(ぜんわん)部がアームカバーですっぽりと包まれている。セリナはそれにゆっくり手を()けると、取り去った。

 室内に静かな驚愕(きょうがく)(ふく)らむ。

 セリナの手首から(ひじ)にかけて、巨大な稲妻形の傷跡が走っていた。ラクサスの右目の上にもほぼ同じ形状のものがあるが、あまりに大きいせいで痛々しい印象が強い。

「これは……?」

 ルーシィが顔を上げると、ラグリアは深刻そうな顔で言った。

「実は、セリナは僕と出会う前から魔法を使うことができていたんだ。なんでも、雷に打たれてこの腕の傷を負ってから、電気を操る能力が身についたらしい」

 コンプレックスでもあるのか、セリナはラグリアが説明する間に、アームカバーも袖も元に戻してしまっていた。グレイがソファーに寄り掛かったまま気のない声を出す。

「魔力を持たねぇ人間は、雷に打たれりゃ大抵は即死するっていうけど、運良く助かったと思ったら魔法を発現していたってわけか」

 その言葉に、ラグリアは一つ(うなず)く。

「ああ、セリナはこの力のせいで周りから疎外されていてね。そのせいで、僕と出会った時も人間不信に(おちい)っていたんだ」

「そうだったんですか……」

 見るとセリナは、いつになく難しそうな表情で(うつむ)いていた。先ほどまでの明るい表情とのあまりの差にしばし言葉を失うが、ルーシィはなんとか言葉を探し、出来るだけ(おだ)やかに切り出す。

「セリナちゃん、魔法を使えるようになる方法はなにも人に教えてもらうだけじゃないし、不安になることはないよ」

「ルーシィの言う通りだ。誰かに教わって使えるようになる者、自分で学ぶ者。そしてなにかがきっかけで魔法を発現するセリナのような者も、決して少なくはない。私もそうだったからな」

 エルザに続き、ようやく回復したらしいナツも笑って親指で自分を指差す。

(おれ)やウェンディなんて、(ドラゴン)に教えてもらったしな」

 呆然(ぼうぜん)としていたセリナの顔が、不意にくしゃっと(ゆが)む。セリナは俯いて素早く(そで)で目元を(ぬぐ)い、再び顔を上げた時にはいつもの明るい笑顔に戻っていた。

「うん、そうだネ。(みんな)ありがとウ。私はもうだいじょーブ!」

 ラグリアも安心したように静かに笑うと口を開く。

「セリナを君達と会わせることができて本当に良かった。僕からも改めて礼を言うよ……。それにしても、君達を見ていると楽しんでいるのがよく伝わってくるよ。僕はギルドに所属した事はないんだけどね」

「えッ、そうなんですか?」

 ルーシィが()き返すと、ラグリアは苦笑して続ける。

「何度か誘われた事はあるけど、全部断ったんだ。うるさいのはどうも苦手でね。でも、君達は違う。なんというか……温かい。不思議と落ち着くんだ。君達のギルドなら、本もゆっくり読めそうだよ」

 ラグリアらしい言い回しだと思いながら、ルーシィはふと思いついた提案を口にした。

「あ、それなら、ウチに来ませんか? よかったら、セリナちゃんも一緒(いっしょ)に」

 しかし、ラグリアは(さわ)やかな笑顔は(くず)さず軽く首を振る。

「いや、それはいいよ。その代わり、といってはなんだけど、またギルドに顔を見せに行ってもいいかな?」

「はい、それは勿論(もちろん)!」

「いつでもいらして下さい」

 ルーシィに続き、エルザも笑って答えた。

「それはよかった。君達も、またなにか困った時はいつでも声を掛けてくれ。できる限りの全力で(こた)えよう。それと、また近くに来ることがあったら顔を見せに来てくれると(うれ)しいな。セリナも喜ぶだろうし」

 ラグリアが見ると、セリナは満面の笑顔を浮かべて大きく(うなず)いた。

「また遊ぼうネ!」

「でも、迷惑になりませんか?」

 ルーシィの言葉に、ラグリアは再び微笑を浮かべる。

「セリナと仲良くしてくれるなら、僕は大歓迎するよ」

「はい、勿論です! ありがとうございます!」

 (だれ)からともなく笑みこぼれ、場に穏やかな空気が流れる。

 と、その時、ナツがなにか思いついたように「あ」といってセリナを見た。

「んじゃあセリナ、ウェンディとも戦ったことだし、今度は(おれ)ともう一勝(ひとしょう)ぶッ!」

 その言葉が終わる前に、ナツの言葉はゴッという重い音と共に途切(とぎ)れる。(となり)のソファーに腰掛けていたエルザがナツの頭を髪ごと鷲掴(わしづか)みにしてテーブルに(たた)きつけたのだ。

 エルザは(あき)れたように目を伏せたまま口を開く。

「いい加減にしろナツ。お前の力ではセリナに怪我(けが)させるどころかこの家自体が()き飛びかねん。さっきも説明しただろう」

「う……ッ」

「まったく、もう(あきら)めなさいよ」

 ルーシィの言葉にウェンディが苦笑していると、シャルルが紅茶のカップから顔を上げ、小馬鹿(こばか)にしたように少し笑ってから横目でナツを見る。

「ていうか、アンタ最初に吹き飛ばされたままなのが(くや)しいだけなんじゃないの?」

「ぐッ」

「うわ、大人気(おとなげ)ねぇなぁ」

「ナツもまだまだ子供だね」

 ナツの反応に、グレイが面白がってシャルルの尻馬(しりうま)に乗り、ハッピーもそれに便乗する。

「く……ッ。うッ、うるせぇ──ッ‼」

 ナツが上体を起こして両の(こぶし)を勢いよく突き上げたところで、ラグリアやセリナを含むその場にいた全員の笑い声が、部屋中に(ひび)き渡った。




さて、第2話も終わり、そろそろストーリーも盛り上がってくる頃となりました。
これまでの話で登場したオリキャラ達は、ブラック・ブレットの蓮太郎(れんたろう)延珠(えんじゅ)がベースとなっています。2話で登場した彼女の服は、延珠の服の黄緑色版、といった感じでしょうか。
ちなみに彼女の言葉について、音声的な特徴は考えておりません。読者様のご想像にお任せします。
え? ブラック・ブレットのサブヒロインの『彼女』はどうしたって?
ご安心を。ちゃんと次回出しますよ。お楽しみに。
それでわ、しーゆーあげいん!

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