FAIRY TAIL The Travelogues of Phantasm   作:水天 道中

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そういえば、第2話で登場した彼女の容姿についてちょっとしたこだわりがあることを述べていませんでした。
彼女の髪飾りは、VOCALOIDの初音ミクのように、(つつ)状のものを立てて使っています。形状は東方Projectの霊夢のものを想像してもらえるとわかりやすいと思います。
また、本作品は後々東方Projectの世界観とクロスオーバーする予定ですから、お楽しみに。

※今回、挿絵(さしえ)あります。


スミレ山編
第3話 スミレ山編[序章]森の中のハンター


「ホンット、アンタってよく食べるわよね」

「しゃあねぇだろ、ミラの料理が美味(うめ)ぇんだからよ」

 ここは『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の酒場の一角。向かいの席で皿に載った大量の──と言えるのか知らないが──炎を夢中でがっついているナツを、ルーシィは頬杖(ほおづえ)()いて眺めていた。

 いま彼が食べている炎は、それぞれ『ファイアチキン』『ファイアパスタ』といい、炎の滅竜(ドラゴン)魔導士(スレイヤー)であるナツのためだけに考案されたミラジェーン特製メニューだ。

 その時、ナツが大口(おおぐち)を開けてかぶりつこうとしていた炎が、まだ皿の上にある部分ごと赤い氷に包まれた。しかしナツはそれに気づくことなく、思い切り歯を氷に突き立てる。

 がりっという音と共に、氷が盛大に(くだ)けた。

「ガッ、(つめ)てッ。──おいグレイ、何しやがんだ!!」

 振り返った彼の視線の先に、椅子(いす)に行儀悪く逆向きに座り、こちらに片手を軽く()ばしたグレイがいた。先程の赤い氷は、彼が『氷の造形魔法(アイスメイク)』と並んで操る氷の滅悪(めつあく)魔法(まほう)──炎をも(こお)らせる絶対零度の氷の特徴である。

 グレイはナツを(にら)みつけたまま、悪そうに口角を()り上げる。

「ヘッ、昨日(きのう)お前がラグリアの料理食い過ぎたせいで、(おれ)は満足に食えなかったんだよ。それはそのお返しだこの野郎」

「お前まだ言ってんのか。あれはお前が食うのが遅かっただけだって言ったろ」

 二人は立ち上がると、(ひたい)を突き合わせて睨み合い始める。

「やかましい。俺が取っといた分まで食いやがって」

「あぁ? あったら食うだろフツー」

「なんだと?」

「やんのかコラァ」

 そこまでで、喧嘩(けんか)はついに(なぐ)り合いに発展する。

仕返(しかえ)しをしてなにが悪いってんだよ!」

「うるせぇ! 俺の朝メシ返しやがれ!」

「だったらあの氷でも食ってろよ!」

「お前の氷なんか食えるか!」

「あーあ、また始まった……」

 ルーシィが止めに入るべきか半ば本気で思案していると、すぐ横を緋色(ひいろ)の髪の女性が歩いていった。

()めんかッ!」

 エルザはナツとグレイの間まで歩いていくと、二人の髪を掴み、勢いよく頭同士をぶつける。

「「エ、エルザ……」」

 (にぶ)い音が(ひび)き、二人は完全にダウンしてしまった。

 

 

      1

 

 

 先ほどと何ら変わらないナツの食べっぷりを眺めていたルーシィは、そこで彼の後方、ギルドの受付(うけつけ)前に見憶(みおぼ)えのある二人組がいることに気付いた。

 カウンターの中のミラジェーンと何事か話していた彼等(かれら)も、ちょうどこちらに気づいたようだった。歩いてきながら、赤黒い髪にロングコートの男性が軽く右手を上げて挨拶(あいさつ)を寄越す。

「やあ、早速(さっそく)邪魔(じゃま)するよ」

 彼の(となり)を歩いていた金髪ツインテールの少女も両腕(りょううで)を水平に広げ、魔力(まりょく)を発動させて宙に浮かび上がる。

「あっそびに来たヨー」

 その時、男性がはっとした表情になる。

「あ、セリナ、ちょっと待った」

 しかし、もう遅かった。突然(とつぜん)セリナが空中で体勢を(くず)し、なにかに引っ張られるように加速し始める。

「うエッ? あわわわワッ」

 セリナは両手をばたつかせるが、そのままこちらに向かって()っ込んでくる。直後、彼女の(ひたい)が鉄クズを食べていたガジルの側頭部を直撃(ちょくげき)した。

「ぐおッ。()ッて……。なんだ?」

 食事の手を止めたガジルが、(あわ)てて魔力を解除して地面に降りたセリナの方を見たところで、ルーシィはようやく納得(なっとく)する。

「『鉄』と『磁場』……。ああ、そういうことね」

 ガジルが操るのは鉄の滅竜(めつりゅう)魔法。自身の腕や(あし)を鉄の武器(ぶき)に変えて攻撃(こうげき)したり、全身を鉄の(うろこ)に変え攻撃や防御(ぼうぎょ)を行う魔法だ。

 対してセリナの浮遊能力は、体の表面を帯電させて周囲の空間に磁場をつくり出し、磁力の反発によって宙に浮き上がるというもの。

 おそらくはセリナが発生させた磁場にガジルの鉄の体が引っ掛かり、体重差の関係で彼女の方が引き寄せられてしまったのだろう。

 セリナも痛かったらしくおでこをさすっていたが、すぐに顔を上げると笑って後ろ頭を()く。

「アハハ……。ごめんネ?」

「お、おう……」

 ガジルが困惑して金髪の少女を眺めていると、彼女はそそくさと男性の背に隠れる。

 その様子を見て、(となり)腰掛(こしか)けていたレビィが小さく笑いを漏らした。

「ガジル、なんか怖がられちゃったみたい」

「なんでだよッ?」

「はは……。セリナも悪気はないんだ。許してやってくれないか?」

「いや、別にいいけどよ……」

「それで今日(きょう)はどうしたんですか、ラグリアさん?」

 首を(ひね)りながら食事を再開するガジルを尻目(しりめ)にルーシィが見ると、ラグリアはこちらに向き直った。

「おっと、そうだった。皆(そろ)っているみたいでちょうど良かったよ。実は昨日(きのう)、まだ紹介していなかった友人がいてね。また一緒(いっしょ)に来てくれないかな?」

「私達は問題ないですが、ご友人の方は大丈夫なのですか?」

 エルザの言葉にも、ラグリアはあっさりと(うなず)く。

「うん、その辺りはあまり気にしない人だからね。きっと喜んでくれるはずだよ」

 先日と同じメンバーでギルドを出て、ラグリアの指示に従い一列に並ぶ。

「では、行こうか」

 ラグリアが右手を持ち上げ、(てのひら)をこちらに向ける。

「『空間接続(ディストーションライン)』」

 

 

      2

 

 

 風景がぐにゃりと(ゆが)み、一瞬(いっしゅん)立ちくらみがした後にルーシィ達が見た光景は、予想とは少しずれていた。

 目の前には無数の木が密生しており、ルーシィ達がいま立っている場所より少し薄暗い。ラグリアの口ぶりから、てっきり友人の家の前に飛ばされるものと思っていたが、家らしきものは見えなかった。

「え、なに、これ……?」

 ルーシィが思わず(つぶや)くと、背後から短いため息が聞こえた。

「やっぱり、こうなってたか……」

 振り返ると、ラグリアが困り顔で後ろ頭を()いていた。

「どういうことだ?」

 ナツの問いに、ラグリアは苦い表情になって答える。

「実は、(ぼく)の『空間接続(ディストーションライン)』にも限界があってね。目的地を目視出来ない場合でも飛ぶことはできるけど、その場所を知らなかったり覚えていなかったりすると失敗し易いんだ」

「てことは、つまり……」

 ルーシィの言葉に、ラグリアは一つ(うなず)く。

「あぁ、ここは本来飛ぼうとしてた場所じゃない。でも、安心して。友人の家は、この森の中にあるんだ。少し歩けばすぐ着くよ」

 そう言ってラグリアが歩き出し、ルーシィ達も薄暗い森に足を()み入れた。

 

 

 森の中は、想像していたよりも更に不気味だった。日光が密集した葉に(さえぎ)られているせいで晴天にもかかわらず辺りは薄暗く、気のせいか、空気も少し肌寒(はだざむ)く感じる。

「なんか、嫌な感じね」

 シャルルが(つぶや)き、グレイもわずかに顔をしかめる。

「気味が(わり)ぃな……」

 すると、少し先を歩いていたナツが笑顔で振り向いた。

「んなこと言って、本当に幽霊(ゆうれい)が出たりしてな」

「ひッ……」

 (となり)のウェンディが小さく声を漏らす。

「ちょっとナツ! そういうのやめなさいよッ」

 ルーシィが怒鳴(どな)るが、ナツは笑って応じる。

「あははッ、冗談(じょうだん)だって」

「まったくもう……」

 そこでふと前方を見ると、ラグリアは歩きながら、しきりに辺りをきょろきょろと見回していた。

「ラグリアさん? どうかしたんですか?」

 ルーシィの言葉にラグリアはなぜか一瞬(いっしゅん)動きを止め、微妙(びみょう)な表情で振り返る。

「……ん?」

 彼のその反応にとてつもなく嫌な予感をひしひしと感じながら、ルーシィは恐る恐る質問を重ねた。

「ま、まさか……迷った……?」

 ラグリアが引きつった笑みを浮かべる。

「あははは…………ごめん」

「そんなぁ……」

 ルーシィの情けない声に全員が一様に顔を強張(こわば)らせるのを見て、ラグリアは(あわ)てて顔の前で手を振る。

「だ、大丈夫だよ。こうなった時の考えも、ちゃんと用意してあるから」

 そう言うと、彼は右手の人差し指と中指を(そろ)えてこめかみに当てた。あれは思念(しねん)伝達(でんたつ)魔法(まほう)の一種、『念話(ねんわ)』の構えだ。

「聞こえるかい? 今日、是非(ぜひ)君に紹介したい人達がいて、一緒に来て(もら)ってるんだけど、ちょっと森で迷ってるんだ。……ああ、ありがとう。よろしく頼むよ」

 ラグリアは腕を降ろすと、こちらに向き直る。

「すぐ来てくれるってさ」

「よかった〜」

 一気に緊張の糸が(ゆる)み、ルーシィ達はそれぞれ近くにあった倒木や切り(かぶ)の上に座り込んだ。

「でも、どうやってここまで来るんだ?」

 ナツが見ると、ラグリアは切り株に腰を下ろしながら答える。

「彼女は手先が器用で、魔法(まほう)で動く人形をいくつも作ってるんだ。だから多分、その中のどれかを寄越してくれるんじゃないかな」

「人形を寄越すったって、この森、どれくらいの広さなんだよ?」

 グレイの問いに、ラグリアは少し考える素振(そぶ)りを見せる。

「そうだな……。『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の七、八倍ってところかな」

結構(けっこう)広いんだな……」

「ま、気長に待つしかないさ」

 ラグリアは微笑を浮かべると、コートのポケットから本を取り出して読み始めた。

 

 

 どの方向から助けが来るかわからないため、自分が首を動かして見える範囲に注意を払おうということになってから、すでにかなりの時間が経過していた。

 だが、いまのところ(だれ)からもなにか見つけたというような情報は挙がっていない。

 切り株に座っていたセリナが(しび)れを切らしたように足をばたつかせる。

「ねぇラグリア、まだなノ〜?」

「もう少しの辛抱(しんぼう)だ。危ないから、(ぼく)(そば)を離れないでくれよ」

「むぅぅ……」

「そういえばセリナちゃんは平気みたいだけど、怖くなったりしないの?」

 ルーシィが(たず)ねると、セリナはこくりと(うなず)く。

「うン。何回か来たことあるから、もう慣れちゃっタ」

「ふ、ふーん……」

 それでもこんな場所に長く居続ければ誰でも不安になってくるものだが、これもこの少女が生来(せいらい)持っている強さの一つということだろうか。

「はははッ。なかなか根性あるんだな、セリナ……は……」

「ん? どうかした?」

 ナツの声が不自然に途切(とぎ)れたのでルーシィが()を向けると、(なな)め後ろの倒木に(こし)かける桜髪の青年は顔を右に向けて小さく口を開けたまま固まっていた。

「おいナツ、聞いてんのかよ?」

 彼の左隣の切り株に座ったグレイが言うと、ナツはさらに一拍(いっぱく)おいてから、低く(しゃが)れた声を出した。

「おい……なんだよ、あれ……」

 ナツの視線を追って、ルーシィも首を一八〇度反対に戻す。直後、そこにあった光景を見て体が強張(こわば)るのを感じた。

「え……?」

「う、(うそ)だろおい……」

 後ろのグレイの声も、ナツ同様(かす)れている。

 ルーシィ達の視線の先には、いつの間に現れたのか、(なぞ)の小さな発光体があった。

 地面から一メートルほどの空中で風もないのにゆらゆらと揺れながら、静かな燃焼音(ねんしょうおん)と共に青白く輝くそれは、どう見ても──鬼火(おにび)。そうとしか形容できない外見をしている。さらに、事態はそれだけでは終わらなかった。

 鬼火が、ゆっくりとこちらに向かって近づいてきたのだ。

「なんか、こっちに来てませんか?」

「逃げといた方がいいんじゃ……」

 ウェンディとシャルルが顔面蒼白(そうはく)になって(つぶや)くが、動き出す者はいなかった。得体(えたい)の知れない恐怖で、体が思うように動かない。

 その間にも謎の発光体は空中を滑るように移動し、ルーシィ達の三メートル前方で突然その姿を変える。

 より正確には、煙のように炎が消え、中から立方体形の一つ目の頭蓋骨(ずがいこつ)のようなものが現れた。

「「「「「「「ぎゃああああ! 出たあああああ!」」」」」」」

 五人と二匹で一斉(いっせい)に飛び上がり、同時に絶叫。

「どどどどうしますか?」

 ウェンディが泣きそうな表情になり、ナツが腰を落として構える。

「とりあえず(なぐ)るか!?」

「──いや、その必要はないよ」

 ナツを手で制したのは、他でもないラグリアだった。

「これは幽霊なんかじゃなくて、友人が作った人形の一体だ。監視魔水晶(ラクリマ)を移動型に改良しているみたいだね」

 その台詞(せりふ)に思わず全員で安堵(あんど)吐息(といき)()らす。

「なんだ、そういうこと……」「びっくりさせやがる……」

 ルーシィとグレイが(つぶや)くのを、ラグリアは苦笑して眺めていた。

「まぁ、なにはともあれ、これで森から出られるわけだ。じゃあ、道案内よろしく」

 ラグリアの声が聞こえたかのように頭蓋骨のような人形はくるりと向きを変え、森の奥に向かって進んでいった。

 

 

      3

 

 

 奇妙な人形の後に続いて森の中を進んでいくと、唐突(とうとつ)に視界が開け、広い円形の空き地と、その中央に建つ小屋が見えた。横に長い母屋(おもや)の右側に何やら(とう)のような六角柱形の構造物がくっついている。

 頭蓋骨はルーシィ達を小屋の玄関まで案内すると、ドアの脇に()ける。

 ラグリアがノックしようとすると、中から女性の声がした。

「開いてるわよ」

「そ、そうか。じゃあ失礼するよ」

 ラグリアがドアを押し開けると、思いがけず目の前に一人の女性が立っていた。背格好はルーシィと同じくらいで、(とし)もそう離れているようには見えない。

 全体的に青いロングドレスの首に(ひじ)の上までを(おお)う白スカーフを()き、肩の上で切り(そろ)えたウェーブ気味の金髪を赤いカチューシャで()めている。

 女性は口をヘの字に曲げ、不機嫌そうな半眼(はんがん)でむっつり押し黙っていた。

「やぁ、カリン」

 ラグリアがぎこちなく笑みを浮かべると、カリンと呼ばれた女性は二、三歩(あゆ)み寄ってきて、大きなエメラルド色の(ひとみ)(あき)れたように彼を見上げた。

「また使ったんでしょ」

「え?」

瞬間(しゅんかん)移動よ。この魔法(まほう)の森は道がややこしいから使わない方がいいって、前にも言わなかった?」

「あ、そうだったかな。いや、いつも使ってるとどうしてもつい、ね。あはは……」

「まったく……。まぁ、いいわ。どうぞ入って。あんまり広くはないけど」

 カリンに(うなが)され入口をくぐると、室内は入ってすぐのところで二つに区切(くぎ)られていた。左の部屋は、玄関側の壁に向かう形で一組の(つくえ)椅子(いす)が置かれており、反対側の壁には一枚のドア。奥に本棚(ほんだな)があるところを見ると書斎のようだ。右の部屋はリビングで、中央に据えられた大テーブルを四脚の椅子が囲んでいる。

 一番奥の席に座ったカリンに続き、セリナが勝手知ったる様子でその左に楽しそうに腰を下ろしたところで、再びカリンが口を開く。

「で、どうするの? これじゃあと二人しか座れないんだけど」

「あぁ、それは大丈夫」

 そう言うとラグリアが軽く右手を振る。次の瞬間、複数の光の輪が(はじ)け、ルーシィ達の背後にリビングのものとまったく同じ形の透明な椅子が不足している分だけ出現した。カリンは(わず)かに目を見開いたが、すぐに失笑気味に笑う。

「あんたの魔法(まほう)って、ホントなんでもアリよね」

「まぁそうひがむなって」

 ナツとルーシィが残りの席に、ハッピーとシャルルがテーブルに、そして残りの面々がラグリアの造り出した空気の椅子に座ったところで、ラグリアは正面に座る人形のような印象の女性を差し示した。

「彼女が(ぼく)の友人で『宝石女王(クリスタライト・エンプレス)』の二つ名をもつトレジャーハンターのカリンだ」

「セリナちゃんの時も言ったけど、その紹介の仕方やめてくれない?」

 カリンが抗議(こうぎ)するが、その口元はあくまで微笑を浮かべている。

「で、こちらが魔導士(まどうし)ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の皆さん。名前は全員わかるかい?」

 「えぇ、大丈夫」とだけ言うと、カリンがこちらに向き直る。

「初めまして、トレジャーハンターギルド『光精の樹(アルフ・ツリー)』所属、カリン・ミナヅキよ。といっても、副業でやってる作家業の方が本業みたいになってきてるけど」

 名乗ると共に彼女が挙げた左手の甲には、木の実を意匠(いしょう)化したような緑色のギルドマークがあった。

 

【挿絵表示】

 

 ルーシィはカリンの後半の言葉に先ほど見た書斎を思い出しながら口を開く。

「カリンは、本も書いてるの?」

「えぇ。そういえば、あなたも時々小説書いてるのよね?」

 その言葉に、ルーシィは思わず苦笑する。

「まぁ、副業と言えるほどじゃないけど……」

 するとハッピーが、両手で口元を押さえながらにやにや笑いを向けてくる。

「全然売れなかったもんね」

「うっさい」

 ルーシィがぼそりと言い返したところで、ラグリアが再び口を開く。

「カリンの小説は僕も読んでいてね。実はうちにある小説の一部分はカリンの作品なんだよ」

「へぇ……。そうだったんですね」

「そ。この人が家に来るたびに面白い話を持ってきてくれるお陰で最近はあんまりネタには困らないけど、それはさっきも言った、作家業の方が本業みたいになってる原因の一つでもあるのよね」

「それって、大丈夫なんですか?」

 自分の()め息混じりの発言にウェンディが言わんとしたことを察したらしく、カリンは肩をすくめてみせた。

「別に。ウチはそこまでうるさくないから問題ないわ。ただ一昨年(おととし)大秘宝(だいひほう)演武(えんぶ)で『風精の迷宮(シルフラビリンス)』に負けたのがすごく悔しかったの。あの時はちょうど執筆の方に(いそが)しくて出場できなかったからね」

「『風精の迷宮』って、前になんかそんな奴いなかったか?」

 グレイの問いに、ルーシィも考え込む。

「えっと……あぁ、確かに。太陽の村で戦った三人組ね」

「へぇ、あなた達も戦ったことあるのね。しかもその三人って、ギルドトップクラスのヒロシ、ララ、ドレイクのことじゃない?」

「うん、多分そんな名前だった」

 ルーシィが(うなず)くと、カリンは盛大に嘆息(たんそく)した。

「そっか……。やな性格だったでしょ?」

 その言葉に思わず苦笑する。

「まぁ、確かに……」

「私もあいつ()とはそりが合わないのよねぇ。お宝を手に入れるためなら手段を選ばないところとか特に。だから余計に負けた事に腹が立つのよ。私にとっては不戦敗だったわけだし……」

 その時、グレイがおもむろに口を開いた。

「なぁ、一ついいか? さっきから聞いてると、作家としての仕事の方が忙しいみてぇだけど、なんで『宝石女王(クリスタライト・エンプレス)』なんて呼ばれてるんだ?」

 カリンは一瞬(いっしゅん)きょとんとした表情になった後、すぐに微笑を浮かべる。

「あぁ、そういうことね。それは、私が使う魔法(まほう)のことなの」

 カリンが右手を差し出すと、その(てのひら)の上に大粒のルビーが出現する。

「私が使うのは『結晶魔法(クリスタルマジック)』。氷や宝石といった様々な結晶を操る魔法よ。トレジャーハンターで魔法を使える人はほとんど居ないし、そういうところからも付いた名前でしょうね。

 宝石や財宝の中には(すご)い値段がつくものもあるけど、私はそういうのは抜きで、ただ純粋にアクセサリーとして綺麗(きれい)なところが好きだからこの仕事をしてるの。だから言ってしまえば、私にとっての宝物は"魔法"ね。これはジョークなんかじゃなくて、私の正直な気持ち。あ、ちなみに」

 そこで言葉を切ると、カリンは入り口に向かって手招きする。するとドアの脇にずっと控えていた頭蓋骨のような人形が空中を滑るようにこちらへ飛んできて、カリンの腕にすっぽりと収まった。

「このスカルちゃん一号機も、中に搭載されてる監視魔水晶(ラクリマ)を作るところから私がやったわ」

 ──へ? ちゃん?

 この頭蓋骨にしか見えない人形は、明るい室内で見てもカリンの腕に(かか)えられていてもやはりその不気味な印象はあまり変わらず、どう見てもそんな可愛(かわい)らしい名前が似合うものではない。

 名前があったことはともかく、冷静な雰囲気をまとうカリンのあまりに意外すぎる一言に、ラグリアどころかセリナまでもが困惑して押し黙ってしまった。

 カリンは(ほお)を染めると、()ねたような声を出す。

「なによ、みんなして。私が人形に可愛い名前付けたらなにか変?」

「い、いやいや、そういうことじゃないよ。ただちょっと名前が意外だっただけで」

 ラグリアが(あわ)てて顔の前で手を振ると、カリンは面白くなさそうに鼻を鳴らす。

「失礼ね、こんなに可愛いのに」

「……。あ、それで、一号ってことは、他にも作ってあるのかい?」

「えぇ、同じ形の人形が他に三機、常にこの森全体を巡回しているわ」

「同じって……その見た目にはなにか意味があったりするの?」

 ルーシィが言うと、カリンは肩をすくめる。

「別に。単なる遊び心よ。こうやって不思議な見た目にしておけば、初めて見る人は(おどろ)くでしょ? だからもし変な奴がいたらこの子を使って(おど)かすの」

「へ、へぇ……」

「じゃあなんであのタイミングで使ったんだよ」

 (くちびる)をとがらせるナツの問いに、カリンも不満そうな声になる。

「あの時はちょうどこの子しか使えなかったの。作品はいつも片付けてるから」

 そこでカリンはなにか思い出したのか、「あ、不思議といえば……」と(つぶや)くとスカルちゃんを傍らに置き、表情を改めてこちらに向き直る。

「あなたたち魔導士(まどうし)は、普段依頼(いらい)を受けて活動するのよね?」

「え? あ、まぁ……」

 話の流れが見えず、ルーシィが困惑しながら(うなず)くと、カリンは続けた。

「じゃあ私から一つ、依頼させてもらうわ。ちょっと待ってて」

 そう言うが早いか席を立ち、カリンは部屋の右側、外から見てちょうどあの(とう)のような構造物があった方向の(とびら)へと歩いていった。開け放たれた扉の向こう、短い渡り廊下(ろうか)の先の壁を本が()()くしているのを見る限り、あの中は書庫かなにかだったらしい。

 ややもせず戻ってきたカリンの腕には、一冊(いっさつ)の分厚いハードカバーの本が(かか)えられていた。

 カリンはテーブルの上に本を置くと、手を動かしながら再び口を開く。

「私達トレジャーハンターの仕事の形式も、あなた達とほとんど変わらないわ。私は色々なところに足を運んでは仕事ついでに小説のネタに使えそうなものを探してるんだけど、その中で、面白い、というか不思議な場所が見つかったの。それが……ここ」

 話しながらページをめくっていたカリンは、あるページの一つの図を指し示した。

 広い森の向こうに巨大な山がそびえ、頂上にはなにかの建物らしきものが見える。

文献(ぶんけん)によると、この山の名前は『スミレ(やま)』。頂上に建っている館には(めずら)しい宝石があるらしいわ。でも、なにかおかしいと思わない?」

「というと?」

 ラグリアの言葉に、カリンは曲げた指の背で図をこつこつと(たた)く。

「こんな山奥に、こんなに大きい建物が普通ある?

 しかも周りは一面森よ。もっと言うと、珍しい宝石があるって話はあるのに、取ってくるのに成功した話がどの文献を見てもないの。変でしょ?」

「確かに……」

「だから私、昨日(きのう)このスミレ山に行って来たの。そしたら更に奇妙なことが色々とわかったわ」

 そこで言葉を切ると、カリンは図の下の方、森が広がる部分を指差す。

「まずはこの森。ここには、人を(おそ)うような危険な怪物が沢山(たくさん)いるわ。とは言っても、私が一人で無事に行って帰ってこれたんだから、魔法(まほう)さえあれば特に問題はないはずだけど」

 カリンは森を差し示した指をまっすぐ上に滑らせると、スミレ山の上で止めた。

「そして、問題のスミレ山よ。結論から言うと、この調査は失敗だったわ。今回はラグリアがいればなんとかなったかもしれないけど、やっぱり一人で無茶すると良いことないわね」

「森より危険なモンスターがいたとかですか?」

 ウェンディが()くが、カリンは首を左右に振った。

「いいえ、そんな簡単に説明できる話ではないわ。まず、天候が変わった。私が行った日は晴れてたのに、山を登り始めてすぐに濃い霧が出たの」

「すぐに……?」

 エルザが繰り返すと、カリンは軽く(うなず)く。

「ええ、それもほとんど直後にね。山の天気は変わりやすいっていうけど、あの時は特別湿度も高くなかったし、さすがに不自然でしょ?

 それでもなんとか道を見つけて進んでいくと、今度は風もないのに周りの木が()れ始めたの。まるで立ち去れって言ってるみたいに。

 いつもなら気にせずに進むところなんだけど、情報が少なかったのと、なんとなくだけど嫌な予感がしたから、そこで(あきら)めて戻ったわ。そして、一番(おどろ)いたのがその後。私が山を下りた瞬間(しゅんかん)、立ちこめていた霧が一気に晴れたの。いままでいろんな遺跡のトラップを見てきたけど、さすがの私もあれにはぞっとしたわ」

「山自体が、侵入者を追い返したってこと……?」

 シャルルが言うと、グレイも(うな)るように(つぶや)く。

「だとしたら、不気味過ぎんだろ」

 そこで、(あご)に手をあて考え込んでいたエルザが口を開く。

「いや、それよりも気になるのは霧の方だ。カリン、その辺りで、他になにか気がついたことや、わかったことはないか?」

「残念ながら、あの霧については(なぞ)のままよ。ただ、あとひとつだけ。私も帰る途中で気づいたんだけど、スミレ山の上に建っている館は、現在も使われている形跡があるわ」

 ルーシィはぎょっとしてカリンを見た。

「それって、いま住んでいる人がいるってこと?」

「おそらくね……。でも仮にそうだとしても、まともな神経の人間なら長くいたいとは思わないはずよ」

「どういうことだ?」

 ナツの問いに、カリンはルーシィ達をまっすぐ見て、告げた。

「これまでに得た情報から私が導き出した答えはこうよ。あの館には、()()()()()()()()()がいる」

 (つか)()、場に不気味な静寂が満ちる。

「人間じゃない、なにか……」

 ウェンディが(つぶや)き、エルザが(うなず)く。

「なるほど。確かにそう考えると、色々とつじつまが合うな」

「人が住めないような場所に住んでるのは人間じゃないからで、それが宝石を守ってるから(だれ)も取って来れないってことね」

 シャルルが言うと、カリンは頷きを返した。

「ええ、私が体験したことになにか合理的な説明をつけるとしたら、これが一番だと思うわ。それで、話が長くなっちゃったんだけど、調査の続きをして、あの山になにがあるのか確かめて来てほしいの。それが私の依頼よ」

 カリンが話し終えた瞬間(しゅんかん)、ナツがやる気全開の笑みを浮かべ、椅子(いす)を鳴らして立ち上がる。

「そういうことなら簡単だ。(おれ)たちでいますぐにでも行ってきてやる!!」

「そうね、と言いたいとこだけど、まずは一旦(いったん)ギルドに戻って用意して来ないと……」

 ルーシィは苦笑したが、カリンは気分を害したふうもなく応じる。

「急ぎの用事でもないし、(あせ)る必要はないわ」

 その時、ラグリアが立ち上がった。

「よかったら、(ぼく)がまた送ろうか? そしたらギルドまで歩く手間は省ける」

「本当ですか? ありがとうございます!」

「何度もお手数をおかけしてすみません」

 エルザの言葉に、ラグリアは微笑を浮かべる。

「礼には及ばないよ。僕の『空間接続(ディストーションライン)』は、二地点間の距離を限界までなくす技だから、移動距離と魔力消費量が比例していなくてね。実はどんなに長距離を移動しても、ほとんど魔力(まりょく)を消費しないんだ」

 場に感嘆の吐息が漏れるが、カリンだけは彼の横に来ると意地悪く口の端を持ち上げる。

「また魔法(まほう)の自慢かしら?」

「いや、そういう意味じゃないよ」

 (あわ)てるラグリアの反応を楽しむように、悪戯(いたずら)っぽく笑うと、こちらに向き直る。

「あなたたちだけだとまた道に迷うでしょ? 戻ってくるまで、スカルちゃん一号を貸しておくわ。目的地さえ言えば案内するから」

「あ、ありがとう……」

 カリンが半分振り返って手をかざすと、テーブルの上に置かれたスカルちゃんの()鬼火(おにび)めいた青白い光が(とも)り、空中をこちらに向かって滑ってくる。

 ではやはり、ここに来る時のラグリアの言葉は聞こえていたのだろうか。そんなことを考えているとラグリアが退出しようとしていたエルザを呼び止めた。

「あ、ちょっと待った。言い忘れてたけど、わざわざ外に出なくても飛ぶことはできるんだ。前は周りの人を(おどろ)かせないようにしていただけだよ」

 そう言うと、その場でルーシィ達を一列に並べ、(てのひら)をこちらに向けて技を発動。

「これで大丈夫だ」

 その時、カリンがなにか思い出したように「あ」といってから口を開く。

「あなた達の昼食、待ってる間に作っておくわ。まだ食べてないでしょ?」

「あ、うん。どうもありがとう」

 ルーシィが言うと、今度はラグリアがカリンを見た。

「それなら、僕も手伝うよ」

「そう。ありがと」

 二人が歩いていこうとしたその時、セリナが走り寄ってくる。

「私も料理やりたイ!」

 その言葉に、ラグリアは苦笑した。

「駄目だ。今度また教えてやるから、今日は大人(おとな)しくしといてくれ」

「えエ〜」

「別にいいじゃない、今日教えてあげれば」

 不思議そうなカリンの言葉にも、ラグリアはとんでもないというように首を振る。

「いや、前に一度料理させてみた時に、セリナが魔法を使ったせいでうちのキッチンが爆発(ばくはつ)してるんだよ」

「え……?」

 これにはさすがのカリンも固まってしまうが、すぐにセリナに笑いかける。

「セリナちゃん、料理に魔法使わないって約束する?」

「あ、あれはもうやらないヨ!」

 いきり立つセリナから顔を上げると、カリンは微笑を浮かべる。

「という(わけ)で、決まりね。行きましょ、セリナちゃん」

「うン!」

「そ、そういう問題か……」

 困り果てた表情で二人の後を追うラグリアの背を眺めながら、ルーシィは知らず笑みこぼれていた。

「どうした、ルーシィ?」

 (となり)のナツが不審(ふしん)そうな顔で訊いてくる。

「こうして見ると、なんか本当の家族みたいじゃない?」

 その言葉に、グレイも(おだ)やかな笑みを浮かべた。

「確かに、言われるとそう見えなくもねぇな」

 ルーシィ達の視線の先では、書斎の奥にあったキッチンで、赤黒い髪の男性と彼になだめられながらもはしゃぐ金髪ツインテールの少女、その横で野菜を切る金髪ショートヘアの女性が楽しそうに料理をしている。

 その時、ハッピーがぼそりと()き舌風に(つぶや)く。

「でぇきてぇる。──みぎゃッ」

 後半の悲鳴は、いつの間にか背後に移動していたスカルちゃんが頭にかじりついたことによるものだ。

 その声でふと顔を上げたカリンは、なぜかにっこりと微笑(ほほえ)んだ。

「その子、私に変なこと言ったヒトに自動で()みつくから、気をつけてね」

「あうぅ……」

 頭を押さえて青くなるハッピーに思わずルーシィは()き出す。見るとウェンディや、セリナを(はさ)んでカリンの隣に立つラグリアも苦笑を浮かべていた。

「さぁ、私達も行こう」

 エルザの言葉に(うなず)きあい、体を半回転させると、ルーシィ達は新たな冒険への第一歩を()み出した。




はい、いよいよ本格的に盛り上がってきた第3話、いかがだったでしょうか。
今回登場した彼女について、容姿のイメージは東方Projectのアリス・マーガトロイド、年齢はルーシィと同い年です。
彼女の邸宅についてはとあるMMDer様が使用されていたアリス邸を参考に考えました。内装は上手く考えられている反面ややこしく、文字の説明だけではイメージしにくかったと思うのでここに見取り図を掲載しておきます。

【挿絵表示】

また、これまでは下書きが完成した状態で執筆作業を行っていたのですが、次回以降は中途半端にしか下書きができていない為、これまで以上に本格的に不定期投稿になってしまうことをここに宣言しておきます。
しかし、もうすでに頭の中を含めてかなりの量の設定を作ってあるので、次回以降も楽しみにしていて下さい。
それでわ、しーゆーあげいん!

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