ロキファミリアの首脳陣に月兎が混じり込むのは間違っている 作:はるみゃ
これは夢なのだろう。
俺は目の前の光景にそう思った。
煉瓦造りの家が無数に並び、馬車が行き交うといった現代日本の首都にはありえない光景。
それに加えて俺はつい先程まで都心を歩いていたはずだ。
夢か幻覚じゃなければ説明ができない。
気がかりなのは頬を引っ張っても夢が覚めないことだが、まぁそんな夢もあるだろうと傍観していると、不意に強い横殴りの風が吹いた。
俺の髪の毛が風に乗って靡く。
「って、え?」
風に靡くほど俺の髪の毛は長くなかったはずだ。
それに俺の声はこんなに高くない。
慌てて確認すれば、足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪が俺の頭から垂れていた。
変わっていたのはそれだけではない。
上は白のブラウスに赤いネクタイ。その上に羽織っている紺色のブレザー。
下は薄桃色のミニスカート。そこから覗く白い太腿。
足元は白の三つ折りソックスに茶色のローファー。
そして、申し訳ない程度に胸が膨らんでいた。
ゴシゴシと眼を擦って再度見る。
やはり何度見ても胸が膨らんでいた。
ふぅ、小さくため息。
(いや、まさか女の子になる夢を見るなんてな……)
「おい嬢ちゃん」
夢だから何でもありとはいえ不思議なこともあるものだ、と達観していると後ろからトンと肩を叩かれた。
振り返ってみれば、下衆な表情を浮かべた小汚ない男がいた。昼間から飲んでいるのか、その顔色は赤い。
(チンピラに絡まれる夢を見るなんてな……見るからにモブっぽいし)
「はい、なんですか?」
「さっきから足をチラチラチラチラ晒しやがって、それにその服装。誘ってんだろ?」
そう言って男は下品な笑い声を上げる。
更にモブっぽさに加速をかける振る舞いに俺は思わず笑ってしまった。
刹那だった。
腹に衝撃が走ったのは。
「おいなに笑ってんだコラ」
見れば男の拳が俺の腹へと入っていた。
「けほっ……え……」
遅れて痛みがやって来て、俺はたまらずその場に膝をついて咳き込んだ。
(なんでこんなに苦しいのに覚めないんだ……もしかして……これは夢じゃないのか……)
「おい立てよ」
そんな俺の思いも露知らず、男は下品な笑いと共に俺に近づくと、髪を上に引っ張ってきた。
「痛……」
痛みから逃れるため、言う通りに立ち上がった――時だった。
「ぶへっ!?」
俺の髪を掴んでいた男が、どこからともなくやって来た金髪の少年の蹴りを食らい、吹き飛んだ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございます……」
差し出された手を取りながら、ゆっくり立ち上がると同時。吹き飛ばされた男が呻き声をあげながら立ち上がろうとしていた。
「テメェ……よくもやってくれたな」
「ごめん。ちょっと触るよ」
「え……」
少年は俺をヒョイっと抱き上げると、そのまま怒声を上げる男に背を向けて走り出した。
そのスピードは速く、町並みが次々と変わっていく。
(え……)
そんな中、俺の眼は、何かの店なのだろう。一枚のガラスに引き寄せられた。
いや、正確にはそのガラスに映った、金髪の少年に抱き抱えられる一人の少女の姿に。
見えたのは一瞬だったが、あの姿、見間違えようがなかった。
鈴仙・優曇華院・イナバ。
某シューティングゲームのキャラクターに俺はなっていた。