ロキファミリアの首脳陣に月兎が混じり込むのは間違っている   作:はるみゃ

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2 縁

 

「ふぅ……こんなところか……あっ、身体に触れてしまってすみませんでした」

 

 数分後、撒いたと確信したのか、少年は俺を下ろして頭を下げた。

 

(いやいや、頭を下げるのは俺の方だ……)

 

「いえ、頭を下げるのは私の方です。ですから頭を上げてください」

 

 自動翻訳機でも付いているのか、俺が思った言葉は、そんな言葉に変換された。

 

(容姿だけじゃなく……自由に話す権利も無くなってしまったのか……)

 

 唖然としていると、少年は「その……」と声をかけてきた。

 

「家はどこですか? この街の人……ですよね? さっきみたいに変人がいないとも限りませんし……もしよかったら送ってきますよ」

 

 笑顔を向けてくる少年。

 

 善意が眩しい。

 

 いっそこの優しさに甘えて、本当のことをぶちまけて楽になりたい。

 

 さっきまで都心にいたんだけど気がついたら女の子になってここにいた――と。

 

「いえ……実は旅の途中でして…」

 

 だけど、俺は言葉を飲み込んで、適当に理由を見繕い、答える。

 

 少年とは初対面だし、そんなこと信じてもらえるとは到底思えなかったのだ。

 それに、もし信じてもらえたとしても、元男の女なんて知られたら距離を取られることは間違いなく、こんな知らない地で独りになることを考えると、言えるはずがなかった。

 

「え。そうなんですか!? 実は僕もなんです。冒険者になるためにオラリオに向かっている途中なんですよ。貴女はこれからどこへ向かうんですか?」

 

 オラリオ? 冒険者?

 

 本格的にここが地球なのか怪しくなってきた。

 

 もしかしたら別世界にいるのではないか……そんな疑問が生まれてくる。

 

「いえ、とくに目的はなくて……ある場所を探しているんです。……どこにあるか分からないんですけど」

 

 本当、どこにあるんだろうな、日本。

 

 女で一つでこれまで育ててくれた母さんに感謝の言葉一つも残せなかったのだ。

 未練がない、わけがない。

 

 戻れたら戻りたい。

 無論、身体も、だ。

 

 遠い眼で空を眺めていると、少年は「うーん」と腕を組み、提案してきた。

 

「……でしたら、一緒にオラリオに向かいませんか? あそこは大陸最大の都市。その場所の情報も入ってくるかも知れないですよ」

 

「最大の都市……ですか」

 

「はい」

 

 確かに大陸最大の都市ならば、情報が入ってくる可能性もある。

 

 その案を断る理由もなく、俺は少年の手を取って頭を下げた。

 

「よろしくお願いします……ええっと……」

 

 ここにきて初めて気づく。

 

 そういえば、俺、この少年の名前知らない、と。

 

 ダラダラと冷や汗を流しながら言い淀む俺に、少年は意図に気づいたのか、口を開き、ゆっくりと己の名を告げた。

 

「僕はフィン・ディムナ。フィンと呼んでください。それで……貴女の名前を教えていただけますか?」

 

「私の名前は――」

 

 何と言えばいいのだろう。男だった頃の名前か? それとも……。

 

「――鈴仙・優曇華院・イナバです。鈴仙とお呼びください」

 

 結局俺は、鈴仙と名乗ることにした。

 

 理由は単純で、男だった頃の名前は明らかに男って感じでこの身体には似合わなかったから。それだけ。

 

「良い名前ですね。では少しの間ですがよろしくお願いします、鈴仙」

 

「はい、よろしくお願いします、フィン」

 

 俺は、少し罪悪感に駆られながらも、ニコニコと笑みを浮かべ、手を差し出してくるフィンに応え、深く手を握り締めた。

 

 フィンとの関係がこの先数十年も続くとはまだ知らずに。

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