ロキファミリアの首脳陣に月兎が混じり込むのは間違っている 作:はるみゃ
かくして神の恩恵を手にいれたわけだが、正式に冒険者としてダンジョンに潜るためには、もう一つ必要な工程があるらしい。
それは、ギルドでの冒険者登録だ。
ギルドはダンジョンの管理や、モンスターを倒した際に手に入る魔石の買い取りを行っている巨大な組織で、そこを通さない限りはダンジョンに潜ることは許されないのだとか。
故に、翌日の早朝、ダンジョンに潜る前に、俺とフィンはリヴェリア、ガレスの案内の下、ギルドへ向かうことになった。
「――大体あのときもこの弱虫エルフが――」
「――あれは貴様が完全に悪いだろ脳筋ドワーフが――」
何が気に食わないのか、ホームからずっといがみ合う二人に連れられ歩くこと十数分。
目の前で延々と繰り広げられる口喧嘩に、こんな調子で、本当にダンジョンに潜っても平気なのだろうか。と真剣に疑い始めた頃。
噂のギルドだろう、白い大きな柱で作られたそれらしい神殿が見えてきた。
早朝だというのに、巨大な門からは無数の人が出入りしていて、如何にギルドという組織がオラリオに住む人にとって、重要な役割を果たしているのかが一目でハッキリと分かる。
当然と言うべきなのか、ギルドの中は人で溢れかえっていた。
「こっちの列が空いてるな」
俺たちは比較的空いてる列に並ぶ。
「……あのガレスさん?」
だが、そんな中一人だけ動こうとしないガレスに、疑問を持って声をかけると、ガレスは豪快に髪を掻いて宣った。
「……オレはこの辺をブラついて待っとく! あとは任せたぞ貧弱エルフ」
「おい、どこ行く気だ!? この馬鹿ドワーフ! この――」
あばよ、と背を向け手を振るガレスに、リヴェリアは怒りで身を震わせ、杖を片手にぶつぶつと呟き始めた。
俺にはそれが何なのか分からなかったが、フィンは即座に気づいたようで、慌てて止めさせる。
「待てリヴェリア! こんな人通りが多いところで魔法を使おうとするな!」
(え、魔法……!?)
バッとリヴェリアを見ると、どうやら本当にフィンの言うとおり魔法を使おうとしていたらしく、ばつが悪そうな顔で頭を下げた。
「すまない。つい頭に血が上って……」
「……反省してるならいいさ。次からは気を付けるように……って鈴仙、君は何故残念そうな顔をしてるのかな?」
「え、いや……気のせいですよ」
魔法が見れなくて残念だったとは口が裂けても言えない。
フィンの訝しげな目線に笑って誤魔化し、ふと考える。
(魔法と言えば……そういや俺も使えるんだっ
け……)
思い返すのは昨日「絶対に他の冒険者には話すな」とロキに念を押されながら見せられたステイタスの写し。
そこにはしっかりと魔法の存在が書かれていた。
(確か……指を銃の形にして"ロックオン"って言うんだっけ……)
右手の指で銃の形を作ってみる。
あとはただ"ロックオン"とさえ呟けば魔法が発動する。
そう聞いていたものの、科学が発展した日本にこれまで住んできた影響だろう。
魔法は実際に無いものと思っている自分が心のどこかにいて、いまいち実感が湧かない。
「――仙、鈴仙」
「――えっ、あ、はい?」
「次は僕らだよ」
と、そんなことを考えているうちに順番が回ってきたようで、慌てて銃の形にしていた指を崩すと俺は受付へと向かった。