フェアリーテイルの終わり方   作:あんだるしあ(活動終了)

100 / 103
 妖精 の 最期


十二幕 これからはずっと一緒だよ(7)

「お姉ちゃん、キレイ」

 

 フェイもまた劇的な変化を遂げたというのに、幼い体を蝕む時歪の因子(タイムファクター)化だけは変わらず進行し続けていた。

 

「っ…フェイ!!」

 

 エルは蜜色の髪を振り乱してフェイを抱き締めた。長い腕。小さくなったフェイがすっぽり納まる両腕。

 

「ヤダ、ヤダよ! エル、せっかくオトナになれたのに。お姉ちゃんしててもおかしくなくなったのに! こんな終わり方ヤダぁ!」

「そんなふうに言っちゃだめだよ。コレが一番キレイで、一番ヤサシイ終わり方なんだから」

「ちがうよ! フェイはエルの妹だよ!? エル、フェイを時歪の因子なんかにしたくない!」

 

 ほとほと、とエルに抱かれたフェイの両目からいくつも涙の粒が流れ落ちる。でもそれは決して恐怖からではなかった。

 

「ダイジョウブ。ちょっとコワイけど、イタイの慣れてるから。ちゃんと最後の時歪の因子になって、パパとメガネのおじさんと、世界中の時歪の因子化してる人、治してあげるね」

 

 エルがフェイを抱く力がぐんと強くなった。苦しいのに、息ができないのに、この上ない幸福感が胸に溢れた。

 

 上手く言えない言葉に替えて、小さくなった手を姉の背に回した。

 

 

『マクスウェル、これが人なんだね』

「ああ。きっと人は、どんなことでも成せる」

「――信じがたいほど愚かなこともな」

 

 クロノスがカウンタードラムに入り、オリジンと並んだ。

 

『そうだね。でも、そんな魂の“負”こそ、人間の力そのものなんだ』

 

 オリジンは魂の“負”と瘴気の関係の真実を説く。そして、この〈審判〉が何を見定めるためのものだったのかを明かして――顔がみるみる黒く染まるフェイを見下ろした。

 

『でも、示し続けなきゃ意味がない』

「――はい。僕たちも証明し続けます。ルドガーやエル、ユリウスさんや、フェイのように」

 

 ジュードは胸に拳を当てて宣誓した。その手には、リングにしたネックレス。ミラとの誓いだけでなく、フェイからの小さな祈り。フェイはほんのちょっぴりの優越感にひたった。

 

『じゃあ、君たちの願いを叶えよう。――――全ての分史世界の消去を!』

 

 オリジンが四本の腕を掲げると、カウンターから凄まじい光が迸り、天で弾けた。

 燦々と光が降り注ぐ。

 

 ああ、これでようやく終わったのだ。

 

「エルさんのことは心配しないでください」

「わたしたちが付いてるから!」

「約束します」『約束するよー』

 

 それなら安心だ。何せここにいる人々は世界統合を成した英雄たちだ。エルの将来は明るい。

 

「ルドガーのことも心配しないで。これから先は何が起きてもルドガーの味方をするって約束する。今度こそ創るよ、『ルドガーの親友』として在り続けられる世界を」

「ジュード……」

「こいつらが過保護にならないよう、俺も見張っててやるからさ」

「一番、過保護になりそうなくせに」

 

 ミュゼに言われてアルヴィンは苦笑いを浮かべた。

 

「もうお前は卑怯者ではない。胸を張れ。志を貫いた、勇気ある娘よ」

 

 よかった。終わってしまう前にガイアスに認められて。これでフェイは間違った卑屈さや卑怯さと向き合っていける。それがほんの数秒後に終わる生でも。

 

「君のおかげで、また使命を果たすことができた。感謝する、フェイリオ・メル・マータ」

 

 フェイは無言で首を縦に振った。あの日堕ちていった〈ミラ〉を、もう悪夢に見ることはないだろう。

 

「……フェイ。何か欲しいもの、あるか?」

「ほしい、もの?」

「何でもいい。俺とエルにしてほしいこと、ほしいもの、ないか。あったら全力で叶えるから」

「何でもいいの?」

 

 エルもルドガーも半泣きで、それでも力強く笑ってくれた。

 だから、フェイも遠慮しないで気持ちを告げた。

 

 

「うたって?」

 

 

 ――カナンの地に二つのハミングが流れる。

 ルドガーとエル、二人の声を重ねた歌。

 

 証の歌。会いたくてたまらない相手への想いを込めた歌。

 クルスニクに伝わる、こころうた。

 

 ヴィクトルは一度もフェイのために歌ってはくれなかった。だから、一度でいいから聴いてみたかった。他でもないフェイだけのために奏でられる、そのメロディを。

 しかも今は、未来の父だけでなく、大好きな姉も一緒に歌ってくれている。

 何て、幸せ。

 

『さようなら、人と精霊たち。また会う日が、今日より少しだけ、いい日でありますように』

 

 重厚な音を立ててカウンタードラムが閉じてゆく。ミラもミュゼもすでに去った。その間もルドガーとエルの歌は続く。

 

 999999を示したカウンターが回る。

 カウント、000000。オールリセット。

 

 白光が炸裂し、フェイ・メア・オベローンだった因子は粉々に砕け散った。

 

 

 

 

 光が晴れた時、ルドガーとエルの間に横たわっていたフェイは、いなかった。

 

 可能性の中の、もう一人の愛娘。エルがパートナーなら、フェイはルドガーにとってまぎれもない「我が子」だった。守り、慈しむべき娘だった。

 

「フェイ――」

 

 エルが、今は彼女のものになったフェイの体を両腕で抱きしめる。ルドガーも、成熟した少女となったエルを強く抱いた。

 鼓動がある。体温がある。この体をエルが生かす限り、フェイは生きている。

 

 

「長い間独りぼっちにしてごめんね、フェイリオ。これからはずっと一緒だよ」




 オリ主の犠牲と共に、審判は終わりを告げました。
 ルドガーかエル、どちらかが欠けなければクリアできないストーリーで、両方を生き残らせるにはどうすればいいか。
 考えて、考えて、考えて。
 これが作者が選択した世界です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。