フェアリーテイルの終わり方   作:あんだるしあ(活動終了)

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 鍵 を めぐって


七幕 羽根がなくてもいいですか?(3)

「ユリウスさん!? どうして、イラート海停にいるはずじゃ」

「つい数時間前までいたとも、Dr.ジュード・マティス。目撃された場に長く留まるほど俺も馬鹿じゃない」

 

 ジュードが駆けつけて、フェイを下がらせて彼自身がユリウスの前に出た。

 ジュードとフェイが下がった分だけ、ユリウスが室内に踏み込む。ユリウスの背後で玄関ドアが無機質な音を立てて閉じた。

 

「メガネのおじさんは、何でココに来たの? ルドガー、いないのに」

「君と話すためだよ。フェイ」

「フェイが〈妖精〉だから?」

「いや。この際、君のそっちの〈力〉は関係ない」

 

 フェイに会いに来た。一番会いたい弟よりも、フェイに会うために来たのだと。しかも〈妖精〉でないフェイに。一連の言葉だけでフェイを舞い上がらせるには充分だった。

 

 〈妖精〉を求めて来る政治家や官僚、貴族は今までにもいた。だが、ユリウスはそれらとは違う。ちがうのだと分かる。

 もしかしたら、ルドガーではなくユリウスこそが、「いつか現れる誰か」かもしれないとまで思ったところで――

 

「君には〈妖精〉以上にもっと価値のある力があるからね」

 

 ――フェイの期待と感動は地に落とされた。

 

「数世代に一人しか産まれないと聞いていたのに、まさか姉妹で二人してとは。どんな精霊の気まぐれか知らないが、俺にとって幸運だったことに変わりはない」

「まさか、フェイもだっていうんですか」

「ああ。元マクスウェルを連れ帰った時に分かった。その子も同じ、〈クルスニクの鍵〉だよ」

 

(おじさんが欲しいのは〈鍵〉であって、フェイじゃない。フェイがスキだから欲しいんじゃないんだ)

 

 ――この人でもなかった。

 

 

 

 

 

 ジュードは緊張していた。相手はクラウンエージェント、戦闘のプロ。対する自分はただの医学者。

 ルドガーだけでなくフェイまで〈クルスニクの鍵〉だと発覚した今、どうすればフェイを渡さずにいられるか。

 

「行ってもいいよ。でも一つだけ、聞かせて」

 

 背中に庇っていたフェイが平坦な声を上げた。本当にフラットで感情の乗っていない声。

 

「何言ってるの、フェイ! そんなのルドガーもエルも望んでないよ」

「でも、どうしても聞きたいの」

 

 フェイは前に踏み出して、切なさを湛えてユリウスを見上げる。

 

「おじさんはフェイが〈鍵〉でなくなっても、フェイをスキでいてくれる?」

 

 ここでユリウスは明らかに返答に窮した。第三者のジュードにも分かった。ユリウスはフェイを〈クルスニクの鍵〉としか見ていなかったのだと。フェイという一個人には何も思っていなかったのだと。

 

「くれないんだね」

 

 フェイはユリウスをまっすぐ見上げた。

 

「フェイ、おじさんとは行かない。ここでルドガーとお姉ちゃん、待つ」

「……、そうか」

 

 すら。ユリウスが懐から抜いたのは、銃。

 ルドガーが同じものを使っていた。クランスピア社のロゴが入った支給銃。

 

「何をする気ですか!」

 

 ジュードは慌てて再びフェイを背にして立ちはだかる。

 

「説得に応じるようならよかった。事を荒立てずにすんだからな。だが、フェイ本人が付いて来ないと言うようなら、力づくで攫っていく」

「ルドガーは絶対許しません。ルドガーと本気で敵対する気ですか」

「お奇麗な兄貴でいたってあいつは守れないんだと、先日痛感させられたよ。それで弟が守れるなら、憎まれ役でも汚れ役でも喜んで買ってやる。先に忠告するが、俺は銃の成績もエージェント1だ。君の武術より、俺が引鉄を引くほうが速い」

 

 ジュードは緊張した。ユリウスの「忠告」は脅しではない、淡白な真実だ。

 ジュード・マティスではユリウス・ウィル・クルスニクには勝てないと、長年武道を修めた者の勘が告げる。

 

(だとしても、ここで折れるわけにはいかない。よく観察しろ。頭を回せ。どうすればフェイを守りきれるか。僕が銃弾を避けられても、後ろのフェイに当たる。一度食らう覚悟で飛び込むべきか。射線さえズラせば僕にも勝機は――)

 

 粘ついた沈黙を破ったのはジュードとユリウス、どちらでもなかった。

 

 ジュードが白衣に入れていたGHSに着信があったのだ。




 ユリウスさんの行動:イラート海停でわざと目撃される→シャウルーザ越溝橋を渡る→マクスバード/エレン港に行く→トリグラフへ行く
 健脚すぎですユリウスさん。
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