「行っちゃった……何かあったのかな」
レイアが離れた座席を覗こうと席から身を乗り出している。ルドガーはエルに膝を貸しているので動けない。
その辺りはジュードとレイアに任せようと考えていると、寝ていたエルが薄く目を開けた。
「ごめん。起こしちゃったか――」
「……て」
「え?」
「いって、あげて。ないてる、よ」
エルは寝ぼけ眼のまま、されどルドガーをしっかり見て言った。そして、再び目を閉じて眠りの世界に戻って行った。
(行って、って言われても。膝枕中だし、やめた拍子に起こすのは気が引けるし。どうしたもんか)
膝で眠るエルと、フェイが去って行った通路を交互に見やって。
ルドガーはエルと座席の小さなスペースに腕を差し入れ、そっとエルの上体を起こし、膝枕を脱け出した。
「ルル。頼む」
「ナァッ」
ルルがエルの頭の位置に来て、ぽてっと横になる。エルの頭はルルのたぷたぷした腹に預けられた。
「これ、ルルは大丈夫なの?」
「無駄に体脂肪ついてないからな。なあ、ルル?」
「ナァ~!」
失礼だ、といわんばかりの鳴き声。だがルドガーは知るもんか、である。太らせたのは兄だ。ジュードもレイアも苦笑した。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
一つ手を振り、ルドガーはフェイが去った方向へ歩き出した。列車の揺れに気をつけながら。
デッキに出るが、フェイはいなかった。
アハルテケ号には展望室はないから、もっと先の車両に移ったのだろうと予想して車両を進んでいく。
最後尾の車両のホールデッキに出て、ルドガーはようやくフェイを見つけるに至った。
デッキの隅で項垂れているフェイに恐る恐る声をかけてみた。
フェイははっとしたように顔を上げてルドガーを見返した。ふり返った拍子に色のない髪が揺れて、赤い眼が一瞬あらわになった。
「パ……ルド、ガー」
「どうした? 気分悪くなったか?」
「分かんない。ココが、キリキリする」
フェイは自分の胸の谷間に手を当てた。
「胸の病気があるのか?」
「ない」
「列車で酔った?」
「ううん」
ルドガーは困って頭を掻いた。どこも悪くないのに不調を訴える人間が目の前にいて、どうしてやればいいのかの手がかりがない。
「――ルドガーは、列車着いたら、お別れ、なんだよね」
「ああ。いや、マンションまでは送ろうかと思ってるけど。会ったばかりの男に家知られたくないっていうなら、駅までで全然構わないけど」
フェイははっと顔を上げた。前髪がずれ、赤眼があらわになる。
その目は、棄てられる直前の小動物のようだった。
「いや、一人で帰るのが怖いならちゃんと送るからっ、うん」
「――ちがう。分かった。イタイ、理由」
フェイは再び両手を胸に当てて、痛ましい表情で俯く。
「この列車がトリグラフに着いたら、お別れしなきゃいけない。エリーゼとも、ローエンとも、……エル、とも」
フェイの表情はみるみる歪んでいき、ついには赤い目から涙が落ちた。
「フェイ」
「ヤダ、ヤダよぅ…あんな優しくしてもらったの、はじめてなのに…〈妖精〉じゃないフェイに笑ってくれた人、はじめてなのに……サヨナラ…ヤダっ…」
両手を胸に押しつけ、ほとほとと涙を流すフェイ。
ルドガーは彼女の肩をそっと掴む。フェイはルドガーの胸に頭を押しつけ、嗚咽を上げた。
「列車、停まんなきゃいいのに……このまま走り続けたらいいのに!!」
フェイが叫んだ直後、ルドガーをもはや馴染みになった感覚が襲った。あの妙な世界に引きずり込まれる時の感覚。
ルドガーはとっさに、はぐれないようにフェイを抱き寄せた。
エルの悲鳴がトリガーなら、同じく彼女の悲鳴もトリガーになりうる。してその意味は?
エルが「行って」と言ったなら行くのが今作のルドガーさん。今作ではルドエルを全力でプッシュします。ルルは賢い猫ww
今作のオリ主は結構周りを置いてけぼりにして自分だけ納得して自分で悩んでしまうタイプかなあと書いてる作者も新発見。前のオリ主は周りに諭されてようやく自分の気持ちが分かる子だったんですが、今回のは自分でやっときながらオリ主の台詞バランスが難しいです(-_-;)