フェアリーテイルの終わり方   作:あんだるしあ(活動終了)

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 妖精 の 訣別


九幕 湖畔のコントラスト(15)

「何度やっても同じだ。お前たちでは私には勝てない」

「『知ってるよ。一度殺されたんだ。ルドガーが強いのなんて、僕が一番知ってるんだから』」

 

 ルドガーはジュードの背中に瞳を凝らした。ミラもローエンもそうだ。

 今の台詞は、この世界の〈ジュード〉の立場でなければ言えないそれだった。

 

「『エルが絡んでるなら尚更。僕らが束になっても敵うわけなかった。現に僕らも、ビズリーさんの連れてきた部隊も、全部一人で片付けちゃったもんね』」

「――貴様は誰だ」

「僕は僕、ジュード・マティスです。ただ」

 

 ジュードはヴィクトルを見据えたまま、片腕を水平に上げて湖を指さした。

 

「あの水底で悲劇を見続けた、あなたの親友の想いを預かって来ました」

 

 

 

 

 ――ジュードが時間を稼いでいる間に、フェイは大規模精霊術の準備態勢に入る。

 

「……お前は〈ジュード〉じゃない。いくら〈ジュード〉らしい口を利いても、私は止まらないぞ」

「『それでも僕は君に訴えるよ。お願いだ、ルドガー。これ以上罪を重ねないで。その手を血で染めないで』」

 

 イメージする。地水火風のマナを頭上で圧縮。ぎゅっと、ぎゅっと、ぎゅうっと。自分が抱き締められなかった分を込めて。

 

 

(ここに来るまで10年かかった。今まで回り道ばかりしてきた。回り道だって、人に言われなきゃ気づかないくらい、わたしはヒクツでヒキョウモノだった)

 

 

 不可視の高圧縮マナを隕石として、ヴィクトルに照準を合わせる。

 

 

(わたしは先に行くよ。王様の言ったヒキョウモノのわたしのままでいたくないから。パパをちゃんと分かるまで何度でもチャレンジしたかったけど、それじゃお姉ちゃんもジュードたちも無駄にイタくなるだけ)

 

 

 フェイを中心に、上下左右に金青色の巨大陣が展開する。

 

「ジュード!!」

 

 呼ぶや、ジュードはヴィクトルの正面から離脱する。ヴィクトルも気づいたが――遅い。

 フェイは腕を振った。隠していた隕石が現れる。

 

 

(あんなに大事に想ってくれる人たちを自分で殺して、お姉ちゃんまで消して、ひとりぼっちになってまで、パパはどんな〈カナンの地(らくえん)〉へ行きたかったんだろう)

 

 

 地上に隕石が降り注ぐ。全ての隕石が狙い違わずヴィクトルに命中した。そして再び舞う土煙。

 

「ぐああああああああっっ!!」

「パパぁ!」

 

 エルの悲痛な声が胸を抉る。いっそ耳を引きちぎりたい。だが、もう少しだ。

 

 

(もう聞くことはできないけれど)

 

 

 走り出す。一直線に。さながら生き別れの親と再会した子供のように、その人の胸に飛び込むことだけを目指した。

 

 鈍い音がして、白い腕が黒い服の心臓部に沈んだ。

 

 

「さよなら、パパ。愛してた――――愛してるわ、今でも、これからも、ずっと」

 

 

 フェイはヴィクトルの、因子化した黒い右頬にキスをした。

 

 ヴィクトルの胸からフェイの腕が引き抜かれる。

 血まみれの手には、時歪の因子(タイムファクター)と、最後の〈カナンの道標〉。黒いほうの歯車がフェイの手の中で砕けた。

 

「あ、ああ…! パパ、パパぁ!」

 

 エルがヴィクトルに駆け寄り、崩れ落ちた。ルルもヴィクトルの頭の横にやって来る。

 フェイは入れ替わりにヴィクトルから離れた。

 

 ヴィクトルは泣き濡れるエルの頬に触れ、息も絶え絶えに、証の歌をハミングし始めた。

 

(お姉ちゃんのためだけの、特別な子守唄)

 

 こうして聴こえる場所に立っていても、この唄はエルだけのものだ。ヴィクトルの優しいまなざしも最期の旋律も、全てエルにだけ注がれている。

 

 二人と一匹だけが世界で、そこに3人目は存在しない。

 

(最後までわたしは分からず屋でバカな娘でしかいられなかった。パパ、ごめんなさい)

 

 黒煙となって消失した父親の姿に、姉は天まで貫かんばかりの絶叫を上げた。

 妹はただ、黙って佇んでいた。




 妖精が決めた覚悟の悲しい行く末でした。
 父親という楔から解き放たれるため、あえて彼女自身に父を殺す場面を担ってもらいました。

 ジュードが〈ジュード〉を演じるシーンはもう少し長くなる予定だったのですが、あえてカットしました。尺を取るという以上に、これまでの話でヴィクトルは2回も己の意思を貫くという描写をしましたので、これ以上は(メタ的には)必要ないと判断しました。
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