フェアリーテイルの終わり方   作:あんだるしあ(活動終了)

89 / 103
 全力 で 踊る



十一幕 野ウサギが森へ帰る時(2)

 

 一階に降りるや、ホールに展開するエージェントが小砲でルドガーとフェイを狙い撃ちした。

 

 赤黒い磁場の球。覚えている。ペリューン号でフェイを苦しめた、携帯版〈クルスニクの槍〉。

 フェイ自身はとっさに避けられなかったが、ルドガーがフェイを抱えてホールに飛び出し、床に転がった。二人してすぐ起き上がる。

 次々に撃たれる磁場の球をルドガーが双剣で斬り捨てる。

 

「ルドガー! フェイ!」

「ジュード! 何なんだよこれ!」

「騒ぐと警備を呼ぶ、とヴェルに言われてな。それでも居座ったらこのザマだ」

 

 ジュードとミラも、通常攻撃をミラが、携帯版〈槍〉の砲撃はジュードが捌いている。

 正しい分担だ。全身がマナで出来た大精霊など、一撃でも喰らえば臓器が消し飛んでしまいかねない。

 

「ここは通行止めだ、ルドガー副社長」

「定番すぎるセリフで申し訳ないけど、社長命令は守らないと」

 

 立ちはだかるエージェントの中心に立っているのは、イバルと、リドウ。

 

「どいてくれ、イバル。いくら巫子のお前とはいえ、容認できぬことがある」

「ミラ様……俺のことをまだ巫子だと……?」

「任を解いた覚えはないぞ?」

 

 ミラは不敵な笑みを浮かべた。

 

 そこで、エージェントの包囲の一画が崩れた。

 

 刀を振るって鞘に納めるガイアスと、いつでも精霊術を放てる態勢ながら優雅に飛ぶミュゼが、そこに立っていた。

 

「迎えに来たぞ」

「アースト――」

「王様だっ」

 

 ガイアスが拓いてくれた空白を駆け抜け、フェイとルドガーはようやくジュードたちと合流することができた。

 

「あーあ。面倒なお方が来ちゃったなあ。けど、こっちもルドガー君を止めないとヤバイんだ。――命が懸かっててね」

 

 リドウがここに来て、フェイにも分かるほど明確な殺意を呈した。

 フェイは確信した。自分が前に出るべきはここだ、と。

 

「わたしが残る。パパたちはお姉ちゃんのとこに行ったげて」

 

 

 ――フェイの中で泣いていた小さなウサギは死んだ。

 ここにいるのはフェイ・メア・オベローン。あの籠の中で生まれた、ひとりぼっちの野ウサギ。

 精霊に憎まれて体をボロボロにされ、そして今は掌を返した精霊の力を得て――牙を剥く。

 

 

「フェイ、けど…!」

 

 〈クルスニクの槍〉は〈妖精〉のフェイにとって天敵だ。ペリューン号での〈ミラ〉を巡る戦いでルドガーにも知られている。

 

 それでもフェイは肯いて見せた。

 

「今度は、ダイジョウブ。――下に外に通じてる道があるの、感じる。分かる。みんなはそこ通って、行って?」

「地下の試験会場か……フェイ、絶対に大丈夫なんだな?」

「うん。約束する」

 

 「約束」というワードにルドガーはわずか痛みを浮かべたが、すぐにジュードたちをふり返った。

 

「フェイに任せよう。俺たちはエレベーターに」

「本当にいいの、フェイ?」

「ヘーキ。だからジュード、わたしのもう一人のパパをオネガイ」

 

 エレベーターが閉じるまで、フェイは微笑んでルドガーたちから目を逸らさなかった。

 そして、リドウたちに向き直った時、その顔から笑みは消えていた。

 

 

 

 

「さあて。どう楽しませてくれるのかな、〈妖精〉サン」

 

 フェイは一度だけ自身を抱くようにして、勢いよく体を広げた。

 

 エントランスホールに空色のドームがぶわっと広がった。

 ドームは携帯版〈クルスニクの槍〉の磁場を打ち消し、あるいは携帯版〈槍〉そのものを爆発させた。「今何をした」「何が起きた」などと叫ぶエージェントたち。

 

 これもまた〈妖精〉になるまでの過程で身につけた特殊スキル。――どんな属性も付加しない、フェイの体内の純粋なマナの「放出」。

 

 

 ――自らマナを剥ぎ取って放出するなど、少し前までのフェイなら絶対にできなかった。できても錯乱していた。

 それができるようになったのは、今日までの多くの積み重ねがあるから。

 

 

「〈クルスニクの槍〉の基本構造はマナを吸い取る装置でしょう。ならパンクするまでマナを吸わせれば自壊する。携帯版じゃ、吸ったマナを溜めとくパックの容量も大したものじゃない」

「それだとお前の命に関わるぞ! 人間のマナだって精霊と同じで有限だ、放出すればお前の体が…!」

 

 イバルが怒鳴る。それがイバルの優しさからのものだと今のフェイには分かる。

 彼はクランスピアの人間なのに、非情に徹しきれない。きっとミラはそんな彼だから巫子にしたのだろう。

 

 

「本気出したの、ミラさまと戦った一度きりだから、わたしもどうなるか分からないけど」

 

 

 フェイはダンスの誘いに応えるように手を挙げる。

 実際こうなったフェイには視えているのだ。フェイを舞闘にいざなう精霊たちが振り撒く、煌々しいマナが。

 

 

「わたしのぜんぶを、出すね」




 ついに妖精が本気を出しました。
 ここに宣言します。チートにしないようにする宣言をここに撤回することを。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。