兄はここまでの道を切り拓くため、力を使い果たして倒れた。
大いなる神にたった一人で立ち向かうことを選んだ英雄は、
比類するものがない力に恐怖を感じないわけはなく、しかし臆することはない。
人の英雄は恐怖総てを飲み干すほどに蒼く、
深く澄んだ海をその瞳に湛えていた。
しかし、大いなる神はお前と戦う価値などないと、
英雄の真実を告げる。
―――本当に疑問に思ったことがなかったか?
今まで、この世界は自分に都合が良いと思わなかったのか?
今まで幾たび神の力で救われたと思っている?
お前が家族に疎まれ、幼い頃、森へ捨てられたのも。
幼い脆弱な体で生き延びることができたのも。
原初の精霊へと出会い、絶大な力を手に入れたのも。
お前が今まで成した全ては、神が気まぐれによって起こした娯楽。
お前の真実は、
「なぜ心が折れぬ……
大いなる神は目の前の取るに足らない存在に、
違和と不快を同時に感じていた。
今までの自分を否定され、心の拠り所も全て砕いてみせた。
守るべき者も戦う理由も全ては偽りだったのだと示した。
――なのになぜ、神を恐れているはずの弱者が、
絶対な強者である己に立ち向かえるのか。
「ウラーノス。たとえ神に操られた結果だったしても。
俺はこれまでを恥じたりしない。」
「始まりが全て、神の意志だったとしても。
救われて嬉しいと思った感情は、決して嘘じゃないから」
「今までこの手で救えたものは、決して無意味なんかじゃないから」
「その力を、きっかけをくれたのが神だって言うのなら、俺はアンタに感謝しよう」
「ありがとう。家族と、出会わせてくれて」
「―――」
何を言っているのかわからなかった。
なぜ否定されたはずの過去を肯定し、あまつさえ感謝など告げてくるのか。
「既に教えたであろう。貴様の家族とやらは全て、我の操り人形であると」
……そうだ、これでいい。ここまで念入りに否定すれば如何に強い意志だとしても、
「それは嘘だ。アンタさっき言ったじゃないか。
「じゃあどうして、兄さんは魔の森で
「……ッ!」
そうだ。何故か、
創造主たる神の支配を逃れる術など、
唐突な行動で計画が乱れ、流れを修正するために骨を折ったこともある。
腹立たしい。不快で、不愉快だ。
極刑ですら生ぬるい。
神託は下った。逆らう愚を悔い改めぬならば。
「では、その兄もろとも消し飛ぶがいい」
星など、不快なものごと消したあとで
創世神の極限の
「いいや、
予想だにしない光景に、神の動きが止まる。
何故、力が防がれた?
出力に優れていると言うだけで、それを活かす才が足りず、
故に闇の精霊と出会うまで無能と評価されてきたはずだ。
精霊や、あの兄の力を借りるならいざ知らず。
そういった素振りが全く無く、しかし事実として神の力を防いでみせた。
今までの戦いで、そんな能力を見せたことはなかった。
出し惜しみなど不可能であったはずの、兄との戦いにおいてもである。
即ちそれは――
どうして神の攻撃を防げたのか、自分でもわからない。
わからないが、防げると知っていた。
体が勝手に動いていた。
こんなことは今まで――
――あった。兄さんに導かれた、あのとき。
紡ぐべき言の葉は、魂に刻まれている。
そうだ、鍵となるのはこの言葉。
「創生せよ、天に描いた星辰を───我らは煌めく流れ星」
朧気に、理解した。どうして自分は、カオスと出会うまで、
どんな属性を操ることもできなかったのか。
カオスと出会ってから……魔力の扱いを覚えてからも、
どうして兄さんと思いを共有してから、
「天躯翔の姫君たる女神よ、どうか私に教えてほしい」
「荘厳な
「あるいは何故、暗黒の
――光がなければ、漆黒の闇の中で貴方は
――闇がなければ、白銀の光の中で貴方は
全て、物語の始まりから記されていた。
気づいていない、だけだった。
"
あるいは"
"
「
「悠久の祈りを天鏡へ捧げよう」
「
裡に秘められた、女神が目覚める。
彼女こそは己の
あるいは、本来の自分の姿、とでも言うべきだろうか。
気がつけば空いていたはずの手に、剣が握られていた。
一方は、もっとも敬愛する兄の、白金の長剣。
もう片方は、最も見慣れた黒の直刀……
「カオス!」
「えぇ、私よ。待たせちゃったかしら?」
……最高の相棒。
しかし、久方ぶりに姿を見せたその美しい髪は、かつての漆黒から輝く銀へと転じていた。
「あぁ、
そのときに影響されちゃったみたい。今の私は半分貴方の分身みたいなものよ」
視線を感じたのか、その姿について説明してくれる。
見れば、ドレスやアクセサリーも今までの黒一色から、
白銀を散りばめたより豪奢なものへと変わっている。
「私としては貴方とお揃いなのも悪くないと思うんだけど、どうかしら?」
裾をつまみ、頬を赤らめながらそんなことを聞いてくる。
思わず、「どんな姿でも、カオスは最高に綺麗だよ」
なんて歯の浮くようなセリフが突いて出る。
「ふ…ふんっ!どんな姿でも、なんて褒め言葉としては落第よ?」
おや、手厳しい。
「次の機会には、勉強しておくよ」
「しょうがないわね。もう一度だけ、貴方にチャンスをあげましょう」
なんて、いつものように掛け合い。
「それじゃあ、次の機会のために」
「ええ、サクッと勝って終わらせましょう!」
――やはり、エンデュミオンに特殊な力など無い。
先程防いだ力は、覚醒めたカオスがその力で防いだのだろう。
いつの間にか握っている双剣から、闇の精霊の力を感じる。
力を開放した今でさえ、人の子の星辰は無色のままで。
むしろカオスに影響されてか、その左腕はわずかに漆黒に染まっている。
警戒する必要などなかったかと、わずかに落胆しつつも次なる手を用意する。
「創生"灼熱恒星"」
たった一つの言霊で、描き出されるのは太陽の熱量を遥かに上回る天体。
これこそ神の扱う灯――核融合の焔である。
青く染まり、近づくだけで星そのものすら蒸発しかねない熱量。
ましてエンデュミオンは肉体としてはただの人間である。
為す術もなくて当然……
否。
否否否、否である。
あの兄弟に一体幾度、予測を覆されてきた?
死んで当然、心が折れて当然、などという見立ては、
しかしその全てを覆して神の前にまでたどり着いたのだ。
果たして、絶火の収まったとき、眼に映ったのは全身を灼かれ、満身創痍であり。
然して未だ戦意を残す英雄だった。
星の熱量に対し、グレイが選べる手段はたった一つだった。
――避けたり、弾いたりしたらこの星が保たない。
真正面から、打ち克つ以外にない。
「カオス!」
「無茶言わないで!
この炎、私と相性最悪なのよ!」
そう言いながらも限界まで闇の出力を上げ対抗するが、
防げるのはあくまでも余波。
本命の焔に対し、カオスの力は届かない。
「くっ!」
せめても星辰を身に纏い、灼かれながらもその身を盾に僅かな時間を稼ぐ。
カオスの言うことは正しい。
かつてカオスを産んだ神が、カオスに勝つために採った手段だ。
彼女を対策していて当然。
カオスの力では、届かない。
なら、
言霊がこぼれ出る。
瞬間、躰が書き換わる。
「
「
灰色から、白と黒を取り出すこと――
それが、俺自身の能力。
そう、俺の星辰は"色"を持たない。
だから、どんな属性も扱えなかった。
しかし、その星辰を染め上げることができたなら?
染め上げる、手本があったのなら?
「行くよ、兄さん」
ここに居ないはずの相手を呼ぶ声に、
「待たせたな、英雄。」
虚空から
それは正しく、英雄の
実体化した、
「この身は所詮、極晃星の残滓に過ぎん。長くは保たん」
「わかってる。一撃で、決める。」
グレイの右腕に、黄金の星辰光が纏われる。
白金の長剣が輝き、無色の星辰を光で染め上げる。
それはまるで、いつかの極晃のようで――
「
その一閃は、あくまで模倣。
故に、原点ほどの力は持たず、ただ静かに消えていく。
だが、それでも。
やはり、やはりやはりやはり。
こちらの予測はもはや無意味に等しい。
――認めよう。人の成長は、既に我が掌中に無く。
其の力、侮ることはできん。
「やはり、貴様は危険だ、
「神の力を断つなど、許しておける所業ではない。」
「故に、我が最大の一撃にて争いの幕を引こう」
「[Great Wall]……銀河を束ねた城壁に、圧し潰されるが良い」
襲い来るは、星の奔流。
神の鉾たる銀河剣。
神代にも前例無き、絶滅の神具である。
「全く、この子ったら。いつでも兄さん、兄さんって、私だけじゃ不満だとでも言うのかしら?」
「ごめん、カオス。でも、二人が居て、初めて俺は自分を見つけられた」
「だから、最後まで三人で戦いたいんだ。」
「ほんとにもう、しょうがない子ね。」
「お前が望むならば、応えよう。」
「
「障害は全て斬り拓こう。お前の
今まで、何度も間違えてきた。
光に見せられ、闇に呑まれて。
焔に
でも、だからこそ。
そんな俺だからこそ、辿り着ける星がきっとある。
兄さんと描いた星は、全てを過去にし裁ち斬る、荒々しくて雄々しい光の極晃。
カオスと紡いだ星は、全てを
どちらも正しく、どちらも間違っているのかも知れない。
あるいは、正しいものなんてまだ無いのかもしれない。
けれど、もし。
そんな相反する二つの世界が、もしも共存できたなら?
雄々しくて優しい、そんな星を産み出せたなら?
それはとても素敵で、素晴らしい
―――そう。それは奇しくも、異世界で英雄が選んだ道。
境界線に立ち、光と闇を繋いでみせた。
しかし、それは彼のみの星。再現など出来ない――
――いいや、否。
光と闇は、相容れない。
それが世界の法則だとしても。
きっと隣り合い、助け合うことはできるから―――
光と闇を携えて。
「天来せよ、我が守護星―― 鋼の
「荘厳な
「天に煌めく神話こそ、今も気高きわが憧憬。
勝利の光よ、銀河を照らせ。清廉なる祈りとともに、新たな時代の幕が開く。」
「灰燼と化す
「
「されど今、響く悲しみの音色は何なのか。」
「魔性宿すその瞳。
「星天を統べるがごとく、銀河に輝け月の女神!」
「莫迦な!?その力は、神の――」
今度こそ、驚愕を隠せない。
極晃星に至った英雄は、一見特筆する点がない。
しかし、ウラーノスの目には正しく、彼らの纏う星が見えていた。
「星を斬るでは飽き足らず、星と成る……だとぉ!?」
人を外れ、星に至った英雄は、自らを核に無数の星辰を「累ねる」ことで、
理想郷たる星を作り出していた。
光も、闇も、相反するものもすべてが、核たるグレイによって
グレイという惑星を形作る「層」となる。
グレイの身体には光と闇が同居し、手にした双剣は
グレイが本来持つのは、望む形に姿を変える多様性のみ。
しかし同調するカオスが、銀河を受容する
ウルカヌスが彼方の星まで
結果、顕れる現在・過去の無数の星辰光。
紙の上に異なる絵具を重ねて一枚の絵画が描かれるように、
無数の星辰は総てが理想郷に生き、あるいは活かしている。
これこそが彼らの至った
誰もが許し合い、認め合い、助け合う共生の理想郷の創造。
それは正しく、神の行う「世界の流出」。
――しかし、所詮は惑星。
「神の領域を犯すとは不遜の極み。しかし、そうしたところで高々星が一つ。」
「数億の星の奔流に飲まれるがいい!」
「「いいや、まだだ!」」
「兄さん!」
「ああ!人々の幸福を未来を輝きを――守り抜かんとする限り、俺達は無敵だ!」
神星鉄の双剣から光が零れる。
星を"斬り拓く"
その出力は、先ほどの一閃を優に飛び越え、あるいは征奏にも届きうる。
――だが、届かない。
「先の光の刃を、星の出力で後押しするか。だが、無意味だ。
その程度の小細工で揺らぐほど、小さな天秤ではない!」
「いいえ、まだよ!」
「あぁ、まだだ!」
「――さぁ、お披露目よ?」
「女神の輝きを、今ここに!」
瞬間、極大化した星辰光は想像を絶する密度によって、刀身から流れ出る。
遠大な光の帯は、その果てが見えぬまま宇宙へと消えている。
「……Power、だと?」
その言葉は複数の意味を持つ。
力、権限、強い、多数の、そして神や悪魔。
しかしこの場において、もっとも相応しいとすれば――
「
「一つの星辰光に、カオスの持つ無数の星辰を累乗する――
小さな力も、
「これが、俺たちの至った、
混沌を掛け合わせた英雄の光は、1.0*10^25 mに渡って続く。
あえて言語化するとすれば、約10億光年となり、銀河系の直径のおよそ1万倍にまで至る。
それは、Great Wallにすら収まらず。
「この一撃が、俺達から神に贈る十字の幕引き」
如何なる力か、神の剣は残らず砕かれ、星々は四つに裂かれて散った。
神の身には麗しく凄惨な十字が刻まれ、幾ばくも保たぬのが見て取れた。
「さようなら、大いなる神。世界を生んでくれて、ありがとう。」
「……見事。ならばこそ、我への“勝利”を、その背に負って進むがいい」
「祝福しよう、
皮肉げにかけられた言葉は、しかし。
「光栄だ。強い光と共に、優しい闇と共に。きっと
そして、僅かに見えた微笑みは気の所為だっただろうか、
静かにその躰は崩れ去り。
荒廃した世界は咲き誇る花によって、
まるで、理想郷のように―――
なぜか筆が乗ったので仕上げちゃいました!
設定とかはそのうち追加したいです!
添削が不十分でしたらドシドシご指摘ください!