或いは、あなたが共にあれば   作:ぱぱパパイヤー

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お待たせしました! 感想、高評価ありがとうございます! 誤字脱字修正適応しました!! 推敲してくださるとか神かな?? 汚い誤字をお見せしてしまいすみません…。
なんかすごい読んで下さってる方が増えてた! 嬉しかったです!


第十三話 酩酊-念願

 オドン教会から上り、男は小さな塔を見上げる。塔の下は空洞で、どうやら何かの建造物があった名残があった。直観的に興味を引かれ、男は崩れた足場を伝い降りていく。この先に何かがあるような気がした。

 最下層へ近づくと、一つ立派な扉があることに気が付く。常人がたどり着くには厳しい立地ではあるが、ここに用のある人間も居たのだろう。男は扉を押し開き――そこで夢の香りの幻覚を嗅いだ。

 

 ――花が、咲いている?

 一瞬、マールムの鼻歌さえもが聞こえた気がしたが、男が我に返ると、そこには手入れもなく荒れた庭があるだけだった。だが、屋敷といい、人形といい、ここは夢の空間によく似ている。

 いや、ここを元に夢が作られたのか……。だとすれば、ここは最初の夢の狩人が使っていた工房なのだろう。

 

 祭壇の上の散乱した書類を漁っていると、不意に慣れない感触の物に触れる。書類のほかに妙なものが混じっている。手に取ってみると、瞳が複数付いた紐――のような物体だ。目が合う訳もなく、動くこともない。しかしなぜだろう――異様に惹かれるものがあった。

 男はそれを懐に仕舞うと、来た道を戻る。

 

 扉の前の足場から次へ飛び降り、やがて足がレンガの地を踏む。

 眠るように座っていた獣が、音に反応したように立ち上がる。この牛のような獣は、これまで見たどの獣よりも、最も獣性が強いように感じた。

 門番のような獣の背には、また扉があり、男は獣の死骸を跨ぎ、その先へと進んだ。

 

 耳障りな笑い声の聞こえる家屋と、何やら民族的な服装を身に着けた獣を数体殺すと、やがて見覚えのある地形に出る。どうやらオドン教会から大聖堂への道へ戻ってきたようだ。

 徒労を覚えたような気もするが、収穫はあった。男の直観、もしくは失った記憶が囁いた。

 ――この瞳の紐こそが、男には必要だと。

 

 

 

 

 聖堂街の上層へ上っていく。赤い月の上る空へ、男は一歩近づいた。

 男の出た小さな塔からは、塔を挟んで、その先へ中央の建物まで続く道が伸びている。小さな上位者の幼体があちこちに居り、それらが一心に、すべて同じ方向を見ていることに気づき、男の背に悪寒が走る。この幼体を見ていると、どうしてか怖気が走る。耳鳴りのような、甲高い音が聞こえる気がした。

 教会の使いが点々と徘徊していたが、中央塔の中に入ると、不気味な脳吸いと、青い目の獣ばかりである。転がる死体はみな聖歌隊の服を着ており、この獣たちの元は彼らだったのかもしれない。赤い月が現れるまでは。

 

 二階へ上り、全ての生物を殺し終えると、倒れた一体の脳吸いのポケットから、孤児院の鍵が覗いている。予想はしていたが、これもやはり人間だったのだと確信すると、血という物の、その進化の可能性を改めて思い知らされる。

 孤児院の扉を開くと、オドン教会の真上から見えていた、中央へ伸びる回廊に進める。こちらへ走ってきた青い怪物――曰く、星界からの使者というらしい――を、狭い空間でなんとか殺すと、開けた空間に出る。

 

 重そうな花弁を抱え、項垂れる花たちが月光から顔を逸らしている。花畑を囲う回廊に男は立っているようで、吹き曝しの空間を、男はアメンドーズなどが顔を出さないかと微かな懸念を思いながら、中央へと進んでいく。

 

 ――突如、燐光が現れたかと思うと、そこに星界の使者たちが現れる。空に――宙に近い空間だからだろうか。一斉に現れた使者たちの数は、これまでにないほどだった。

 何度切っても蘇る者のうち、やけに頑丈な個体が居る。濁った色の血を浴びながら斬り続けると、その個体は大きな体躯となって、手足を振り回し始めた。怯まず斬り続けると、頭から光る触手のようなものを伸ばし、彼方への呼びかけを使い始める。

 

 巨体であるが故に、腕は男の頭部より上にあり、しかし懐に入り込んで攻撃すれば、上を見上げることは難しい。足元を何度も斬るよりも、その腹や脳を斬り裂ければどんなに痛快だろう。アメンドーズ然り、真上から攻撃を降らせてくる相手とは、あまり戦いたいとは思えない……。

 最後の一閃と同時に、上位者の莫大な血の遺志が身に宿るのを感じた。取り巻きの使者が重力に潰されるように死んだのを確認し、男は散策を始める。

 

 男が始め立っていた回廊の反対側には、鍵のかかった扉があり、それ以外は何も見つからなかった。男は自分の立つ場所が、あの不気味な幼体の見つめる場所である以上、あれに縁の深い何かがあるはずだと確信しているが、それが見つからない。扉に合う鍵は、今は持っていない。出直すしかないのだろうか?

 

 男はふと、この花畑は、およそエミーリアの居た中央部に近いことを思い出す。そう、ちょうど、このガラス窓一枚を隔てたその先くらいに――。

 

 ガシャン、と華奢な音を立ててガラスが割れる。男は窓枠を乗り越え、幼体を殺し、ストンと降り立つ。下にはやはり、ローレンスの頭蓋のある祭壇が見え、先へ進むと、そこにはエレベーターがあった。

 スイッチを踏み下降すると、また幼体が居る。彼らはやはり同じ方向を一心不乱に見つめており――まるでそれは、月を見上げるあの少女のように――何かに焦がれているようだった。

 男は骸となった幼体の死体を蹴り転がし、その視線の先を追う。

 

 ――そこには、月光を浴びる星の娘が立っていた。

 白くやわらかな光が、彼女の肢体を照らす。か弱そうな羽が揺れており、その後ろ姿は、水に満ちた地面と相まって、厳かにすら思えた。恍惚として男は見惚れる。どうしてだろうか、足元がふらつく――気分が高揚し、彼女の魅力が、何度も何度も男の感じた好意を上塗りしていく。

 酩酊したように、男は白くつるりとした肌に手を伸ばす。その手袋に包まれた手が、一瞬触れた途端に、エーブリエタースは振り返った。

 

 深緑の瞳が男を見つめる。白い筒状の突起が無数に生えた顔に、しなやかな触手のような腕が数本。その体には人の要素などただの一つも無く、再誕者のようなまがい物とは全く異なる“上位者”らしい姿をしていた。

 更に、その瞳は濡れたように光っており、それは男のような矮小な人間風情でも分かるほどに――。

 

 ――美しい。

 

 ビュン、と飛んできたエーブリエタースの腕の薙ぎ払いを避け、男は素早く斧を取り出す。こちらに交戦の意志はなかったが、彼女はそうでないらしい。先ほどまでの、酔ったように魅了されていた頭はたちまち冷却されていき、男は雷ヤスリを斧へと滑らせた。

 

 ――ああ、ありがとう。美しき娘よ。私は貴公のお陰で、躊躇いを捨てられたよ。

 

 腐臭に満ち、他者に操られる身の上など、獣とどう違うというのだ。そんな醜い存在が、自身の目的だったのか? そして、そんな存在が――美しいマールムの番いになれるのかと不安になったことが、情けなかった。

 

 雷を纏った殴打に、エーブリエタースが悲鳴を上げる。キィイイインという耳鳴りが聞こえ、男は智慧ゆえにそれが歌声だと理解できた。

 痛みに喘ぐ彼女は、幾度も彼方へと呼びかけ、そしてそれに、誰も応えなかった。

 

 ――美しい歌声だった。もう少し、聞いていられれば……などと欲するのは、未だ人間の証か。

 

 男がエーブリエタースの祈っていた祭壇へ近づくと、そこには白痴の蜘蛛にも似た上位者の死骸があった。触れると強い神秘を感じる。今は必要のないものだが、いずれ使うこともあるかもしれない。

 祭壇には鍵が置いてあった。黒い鍵にはレンゲソウの彫刻が施されており、花畑の回廊の扉を開く鍵のようだった。

 

 男は自分の胸に期待が吹き込まれるのを感じる。この鍵を差した先には、もしや――。

 がちゃり、と錠を解くと、男は扉を押す。狭い階段があり、蝋燭が壁にかけられている。そう長い時間を必要とせず、男は開けた空間に出たことを感じる。

 その部屋は、一寸先も見えないほどの暗闇に包まれていたが、天井が崩れて月光が差し込んでいる部分がある。瓦礫が無造作に転がっており、故意的なものというよりも、盗人が入り込んだ後のように思えた。

 

 その証拠のように、暗闇の中には無数の新鮮な死体が転がっている。服装を見るに、ヤハグルの黒衣の人さらいたちが多いようだが、幾名か聖歌隊の者も居た。

 月光の差し込む場所には大きなレンゲソウのオブジェがあり、茎の根元の方から、掘られた床の溝に沿って――濁った灰色の血が流れている。どこへ落ちているのか追ってみると、それは壁際の床下へと滴り、パイプと伝って下層へと届けられているようだった。

 

 近づけば、その異様が露わになる。石で出来た花には血の跡がこびりついており、白骨化さえした死体たちが、まるで養分のように倒れていた。その仲間入りをしないよう、警戒をしながら梯子を上り、花の上に立つと、鎖が数本花弁から伸びて、何かを拘束していることが見て取れた。

 男が中央へ近づくと、その正体はすぐに分かった。

 

 そこへ居たのは、現世のマールムだった。

 




<●>75
捨て工房到達+2
使者撃破+2
えぶたそに謁見+3
えぶたそ撃破+3

捨て工房の下の街の、謎の文様の腰巻の獣なんなの?

正直エブたそは戦うまで美人って気づけなかったかもしれない。最初はウオッ!?となるんだけど、戦闘中清楚に口元抑えたり、痛みに悶えたり、彼方に呼びかけったりする動作が美しい。
そこから食べられた時とか、不意に瞳が意外と綺麗なことにドキンッってなって、気が付いたら…恋しちゃう…。
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