或いは、あなたが共にあれば   作:ぱぱパパイヤー

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青天の霹靂さん、見てらっしゃいますかね……?死ぬほどお待たせしましたがリクエスト履行しました!!!!!!
「第十七話 助言者-幼年期の始まりのアフターエンド、エロ無しのエッチな小説」です!


番外:第十七話のその後の話

 暖炉の火が室内の影を大きく伸ばす。男は微睡むマールムの影を踏みながら、彼女の背をじっと眺めていた。

 

「ふふ……そんなに見つめて、何かおかしなところでも? この子も、気になっているようだ……」

 

 振り返ったマールムは伸ばした手で男の手を握り、ゆっくりと腹に導いた。温かな肌を挟んで、臓器に命の眠る胎だ。そこには確かに、動く生き物の気配があった。

 男はその手を持ち上げ、マールムの頬を指で撫でる。柔い肉を辿り、頤を擽る。首筋を数度撫でると、彼女はくすくすと笑った。

 

 子を持った彼女は幸せそうで、男はその笑みを見る度、自身の不安定な体が蕩けるような心地になるのだ。ぐちゃり、と湿った音が響き、実際に四肢の輪郭が一部不定形になってしまったが、男は気にもせず、そのままマールムの背を覆いかぶさるように抱きしめた。

 

――可愛いお前、可愛い子。もう一人作ったならば、お前は嬉しいか?

 

「嬉しいとも! ああ……今だって、夢のようなんだ。私がずっと望んでいた夢が……紛いものの私が、本当に子を孕めるなんて……」

 

 そうっと腹を撫でると、マールムはうっとりと男に背を預けた。彼女の体も心も、今やこの月の魔物の抜け殻の世界に十全に存在する。

 彼女の上位者としての姿を、男は夜伽の際に目にしたが、あのように美しい体が現世では人型で腐り落ちていたのだ。年頃の娘にとって、腐った体と分かたれていたかつては、酷い屈辱だっただろう。彼女の苦しみは察するに余りある。

 

 その彼女を解放した上、こうして彼女に幸せを与えられていることが、男にとっての何よりの幸福だった。

 

「嬉しいよ、ありがとう、愛しいあなた……。だけど、できればもっと長く孕んでいたい。重たいこの子が腹に在ることが、どんなに私にとって幸いなことか……」

 

 上位者に未熟という概念はない。男然り、アリアンナの子然り、一夜で良い。ただの一夜で、この子は産まれる。マールムが孕んでから数日が過ぎていたのだが、彼女は大切そうに腹を抱えていた。

 それが彼女にとっての幸福ならば、無論男に反対の意志などあろうはずもない。人間の頃の残滓か、男の中の一部が嫉妬で狂いそうになっている気もしたが、理性と智慧で押し込んだ。

 

――そうか。では……次の満月が終わった頃なら、どうだ。その時にその子の顔を見せてくれ。

 

 月が満ち始め、それに伴い現世の境界が揺らぐ予兆を感じる。次の赤い月が何処に降りるかは分からないが、そこにはやはり、特別な赤子が居るのだろう。

 

「……? 満月の日では、ならないのか。確かに私は、この子を抱えていたいのだけれど……同じくらいに、もう一人、あなたの子も欲しい」

 

 マールムはそう言うと、甘えるように男の胸に頬を擦り寄せた。男は堪らず頤を持ちあげ、唇を合わせる。触れるだけの口づけを繰り返し、やがて男が柔く彼女の唇を食むと、マールムもゆるりと小さく口を開き応えた。

 

「ん……あなた、ぁ、ふ……」

 

 舌を触れ合わせ、異なる体温を擦り合わせる。真珠のように白い歯をなぞり、花の蜜のように甘い口内を舐めまわす。甘い声が吐息と共に漏れ聞こえては、男は悦びに目を細め、遂には彼女を強く抱き寄せた。なんと愛おしいのだろう。彼女は最早疑いようもなく、男のものなのだ!

 

 男が彼女を解放した。

 男は彼女の寵愛を受けるに値する存在になった。

 男は彼女の望みを叶えた。

 

 人間の頃の男がそう望んだように、マールムは男を愛し、自ら男のものとなった。愛するマールムに愛される喜びは、男にとって何にも代えられぬ幸福。彼女の心も、体すらも、全てが男のもの。そして男の心も、体も、全てがマールムのものだ。

 

 唇を離せば、マールムはぽうっとして男を見上げた。男は、母体に釣られたように活発に蠢く腹の子を撫でて宥めると、愛おしい少女に笑いかける。

 

――満月の夜は、獣狩りがやってくるだろう。彼らで遊び、殺し、血を浴びて……昂った俺を、受け入れてくれ。

 

 小さく頷いたマールムが微笑む。青い瞳が弧を描き、浮かべられた美しい笑み。男の愛したその顔は幾度でも彼の心を潤す。

 

「ああ、分かったよ――愛しい私の、旦那様」




書いてる途中で、マールムが嫁に行くことに謎の寂しさと「娘はやらん!」感、男が嫁をもらうことに対する感慨深さが同時に襲ってきてちょっと情緒が混乱しました。

二人揃って人外って何だか初めての境地です
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