識別名:リーパー   作:兎秤

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死神は精霊の真実を知った

 メイド喫茶の後、裏紙さんに先導され、映画館にゲームセンター、ショッピングモールと様々なデートスポットを周りました。

 そして、次に来たのは天宮タワー。凛音の時にチラホラ名前が出ていた、30年前の南関東体育祭の後に建てられた総合電波塔です。内部には展望台があり、タワー周辺には様々な商業施設が立ち並んでいるため、観光地として認知されており、休日ともなればカップルや家族連れでよく賑わっている場所です。

 

 いざ行こうとした時、何故か六喰ちゃんが強く拒否反応を示しました。転香ちゃんに煽られて展望台に上がったものの、どんどん体調が悪くなり裏紙さんに連れられて女子トイレに行ってしまいました。

 私は六喰ちゃんの事は裏紙さんに任せて、士道と転香ちゃんと一緒に残ることにしました。士道はというと、落ち着かないのかチラチラと転香ちゃん見ていました。

 

「おい」

「な、なんだ?」

 

 その視線に気づい為か否か、転香ちゃんが士道に話しかけました。

 

「先程からーーーーーいや、以前から気になっていたが、貴様らが言う十香というのは私の名か」

「あぁ・・・・・そうだけど」

「私がーーーーーいや、こちらの私が自分でつけたのか?」

「いや。それは・・・・・俺が」

「・・・・・」

 

 士道が素直に応えると、転香ちゃんは士道の足を無言で踏みつけました。十香ちゃんの名前って士道がつけたんですね。知りませんでした。

 

「うあたっ!な、なんだよいきなり・・・・・」

「なんとなくだ」

「えぇ・・・・・お前には別の名前があるのか?」

「いいや。だから不本意だがその十香という呼び名で構わん」

「そっか。じゃあ、十香」

 

 士道が名前を呼ぶとまたもや転香ちゃんは無言で士道の足を踏みつけました。

 

「な、なんでだよ・・・・・」

「なんとなくだ」

 

 これは、酷い・・・・・傍若無人とはこのことですね。

 

「・・・・・なぁ、十香。お前は一体何者なんだ?反転っていうのは一体何なんだ?っていうか、そもそも精霊っていうのは・・・・・」

「反転、か。つまり、こちらの私から、私に変わる現象のことをそう呼んでるわけだな」

「ん・・・・・まぁ、そう・・・・・なるな」

 

 たしかに気になりますね。反転すると何故人格が変わるのかや反転とはそもそもなんなのか・・・・・私が反転について知っている事は多くないですし。あれ?そもそも反転したら普通人格が変わるものなのでしょうか?私の場合は特殊だとしても、折紙さんと二亜さんの場合は人格が変わった感じはしませんでしたけど。

 

「ーーーーーその言い方は好かぬ。元はと言えば私こそが霊結晶(セフィラ)の化身たる精霊なのだからな」

「え・・・・・?ど、どういうことだ?」

「始原の精霊が己の力を分割し霊結晶(セフィラ)を創り上げた時、その属性は貴様らの言う反転状態であったということだ。しかし、始原の精霊がそれを変形させ、今の状態にした。つまりは前提が逆なのだ」

「そんな、一体なんのために・・・・・?」

「こちらの世界の人間に適合しやすい形にする為であろうよ。もともと霊結晶(セフィラ)は現世のものではない、そのままの状態では人間の体を蝕みすぎるからな」

 

 つまり、反転した姿が本来の姿で普段の姿が人に合わせるためのセーブした姿という訳ですか。反転体の〈神蝕篇帙(ベルゼバブ)〉を使っているアイザックは化け物ですか・・・・・まぁ、人のこと言えないですけど。

 

「ち、ちょっと待ってくれ。理解が追いつかない。始原の精霊が人間に適合しやすいように?どういうことだよ、それ!」

 

 衝撃の事実に士道は思わず、転香ちゃんの肩を掴み問い詰めるようにしてしまいます。それを不愉快に思ったのか転香ちゃんは士道の胸ぐらを掴みあげました。

 

「ぐ・・・・・っ、あ・・・・・っ!?」

「調子に乗るな、人間。私が言葉を発したのは、貴様に請われたからではない。ただの気まぐれだ」

「転ーーーーー十香ちゃん、流石にこれは許容範囲外です。士道を離してください」

「貴様に命令される筋合いはないが?」

「腕ごと落とさなければ分かりませんか?」

 

 数秒間の睨み合いの末、転香ちゃんは士道を離しました。本当ならばこのまま終わるはずでしたが、タイミングが悪くその一部始終を六喰ちゃんに目撃されてしまいました。

 

「何のつもりじゃ、主様に手をかけるとは・・・・・」

「・・・・・ふん、貴様には関係あるまい」

「なんじゃと!?」

「ま、持ってくれ、六喰!俺なら大丈夫だから」

 

 士道が何とか静止させようとするも六喰ちゃんの耳には届いていないようで、六喰ちゃんはそのまま転香ちゃんに詰め寄ります。

 

「うぬは、むくから主様を奪おうというのじゃな?むくの愛する人を、むくを愛する人を、奪いおうと言うのじゃな!」

「知ったことか。鬱陶しい。離れんか、貴様」

 

 転香ちゃんはそういうと右手を手刀にして払います。六喰ちゃんの頬に傷が付き、そして前髪が一房切れて空気に舞いました。

 

「ーーーーー」

 

 六喰ちゃんは息を詰まらせ転香ちゃんから離れます。六喰ちゃんは切れてた頬を気にする素振りはなく、ただただ切られた金色の髪を見ていました。

 これは、不味い!

 

「あーーーーーあ、あ・・・・・っ!貴・・・・・ッ、様ァァァァァァァァッ!!!」

 

 咄嗟に士道の前に飛び出て霊装を展開させます。目の前では転香ちゃんが吹き飛ばされ展望台のガラス窓を突き破り外へ飛ばされていました。

 ガラスが割れた事で、パニックに陥った観光客が一斉にエレベーターに殺到します。吹き飛ばされた転香ちゃんはというと、なんともないように展望台の外壁に立っていました。

 

「貴様」

「ーーーーー許、さぬ・・・・・許さぬ、許さぬ、許さぬ・・・・・っ!!むくの髪を・・・・・切ったな。主様が、ーーーーーさまが・・・・・褒めてくれた、むくの・・・・・髪をっ!!」

「・・・・・!六喰!やめるんだ!十香はそんなつもりじゃ」

 

 士道が慌てて声をかけますが聞いておらず、六喰ちゃんは霊装を身に纏い、天使を顕現させました。そして、六喰ちゃんは〈封解主(ミカエル)〉の先端を自らの胸に向けて突き刺しカチリと回します。

 

「〈封解主(ミカエル)〉ーーーーー【(シフルール)】!!」

 

 それともに、霊装と〈封解主(ミカエル)〉本体が姿を変えました。〈封解主(ミカエル)〉は鍵のような杖から長大な戟へと変化します。見た目の変化に伴い霊力の量が爆発的に増え、まるでリミッターを外したようでした。

 

 そんな六喰ちゃんを見てか、転香ちゃんも不敵に笑うと霊装を展開し天使を顕現させました。

 

「もはや、もはや、許さぬ。塵も残さず無と消えよ!」

「いいだろう。かかってこい。その素っ首、落としてくれる」

 

 そして、強力な力を持つ精霊と反転した精霊が戦いを始めたのでした。

 

 


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