あたし真風羽華代。タバコ吸えなきゃ地球滅ぼすんで。何ヒーローって? 勝手に決めんじゃねぇよ死ね死ね死ね   作:やまいこ

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No.01みゅ - タバコ

 

 人は生まれながらに平等じゃない。

 事の始まりは――

 

「長ぇよゴミ」

 

 無感情に紡がれる言葉と同時に繰り出される拳。

 人に向けて放ってはいけないレベルの殴打は――しかし、()()に『魔法少女』の力を授けた小さき存在に向けられた。

 ()()は体長二〇センチメートルほどの生き物。地球上には生息していない未知の存在――

 名前は『ミュ』という。語尾もミュである。

 猫の様な――

 犬の様な――

 背中に白い羽が生えている不思議な生物。

 人語を介する以外は謎としか言いようのないもの。それが――今しがたコンクリート塀に穴をあける勢いで吹っ飛んでいった。

 それ(惨劇)を成したのは女子高生としか言いようがない何処にでも居そうな人間だ。

 見た目にも可愛いと言われる(たぐい)であり、決して筋骨隆々の筋肉ダルマではない。

 学校指定の制服を着用し、時より吹く風によって白いパンツが見えても気にしない。けれども見たものは必ず殺すと決めている。これは男限定である。

 金髪ドリルのツインテールでお嬢様風――

 清楚な容姿に平均的な太さの手足を持つ可憐な外観。

 

 彼女の名は『真風羽(まじば)華代(かよ)』という。

 

 ちなみに――名前に反して――成績は()()()優秀である。

 それが尋常ならざるパワーを発揮する人間とは到底思えない。しかも『個性』ではなく素のパンチでこうなのだから彼女の本気はどれほどのものか。

 

「ったく、ここ何処よ?」

 

 学校に向かう途中で『アタスンモ』という悪魔のような外観を持つ化け物と戦っていたら見知らぬ道に迷い込み、絶賛迷子中だった。

 学校をサボれる口実が出来たので別に大して困っていない。お腹が空くまでは――

 

「そういや小っこいのどこ行った?」

 

 先ほど吹き飛ばした生物が戻ってこない。数分ほど待ってみたが一向に現れないので真風羽は早々に諦める。

 居れば居たでうるさいだけだ。いつもは唐突に現れて襲ってくるアタスンモの姿も見かけない。

 

(……マジここ何処だ? 携帯も圏外みたいだし。ったく最近のスマホは使えねぇな)

 

 最新機種であるスマホ(スマートフォン)を操作するも地図情報は現れず、ネットにも繋がらない。当然、通話機能も――

 では何が使えるのか。

 

(事前にインスト(インストール)した機能は……ある程度使えるか……。電源入るだけマシか。……写メ(写真とメール機能)だけか? 充電と……、メールの送信は出来んのか?)

 

 送る相手が居ないので真偽を確かめることは出来ない。自宅宛てで試してみたものの――いつもは即座に返ってくる返事も今は一向に無い。

 近くの携帯ショップで聞けばいいのだが、その前に所持金を確かめる。と言ってもキャッシュレスの時代を先取りしている真風羽のサイフはとても軽い。ほぼカードしか無かった。

 現金は持ち歩かない。無ければ寄ってくる――自称――『ダチ()』から巻き上げればいい。

 そういう生活を続けてきた為、いざという時の対処に困惑してきた。

 

(……知っているところならまだなんとかなったのによ。めんどくせぇな)

 

 (おもむろ)にポケットに手を入れ、取り出そうとしたものは『タバコ』である。

 ポケットが空――タバコ以外の事は頭に無かった――だと分かるやいなや、あからさまに不機嫌となった。それはもう可愛らしい清楚さは何処へやら。今にも人を殺しそうな憤怒の形相(ぎょうそう)で――

 

「……チッ」

 

 最近は喫煙の規制が厳しくなり、購入もままならない。普段は親が――会社ごと――買い占めたタバコが大量にあったので新規に買う必要が無かった。しかし、今は手持ちが無くなったら購入せざるを得ない。

 未成年である真風羽に売ってくれる店は――おそらく――無い。であればどうしたらいいのか――

 

 

“Plus Ultra”

 

 

 当ても無く歩いていると真風羽の嗅覚に反応があった。それはとても馴染み深い匂い――タバコのもの――であった。

 反応を探っていると前方から歩いてくる一団を見つける。

 服装は何処かの学校の学生服。年の頃は中学生風が複数人。

 ガラの悪そうな男子生徒達だ。

 

「やっぱり爆豪(ばくごう)は『雄英(ゆうえい)高』に行くのか?」

お前らタバコはやめろっつってんだろ!

 

 三人居る中で一番の極悪人風の面構えの男子が友人――と思われる――が持っていたタバコを分捕(ぶんど)る。そして、即座に手元で爆発を(しょう)じさせて隠滅。

 思わぬ行動にタバコにロックオンしていた真風羽は驚愕した。

 運良く見つけたので平和的に分けてもらおうかな、と思った矢先の行動だったので激しい怒りが沸々(ふつふつ)と湧き起こる。

 自身は認めていないが、彼女(真風羽)の沸点はギネス級に低い。

 

「……お」

 

 い、と声をかけようとしたところへ別方向から得も言われぬ物体が男子達に襲い掛かった。

 通路は一方通行ではない。真風羽にも死角はある。その死角から現れたのは間違いなく化け物であった。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()であることを真風羽は知る(よし)も無かった。

 

 襲来者は俗に『(ヴィラン)』と呼ばれる者だ。

 

 『個性』を持て余した人間は正義か悪に分かれる。様々な事情があるにせよ、犯罪行為は容認できない。それゆえに『個性』の乱用は法律で規制されている。これは正義側であっても同じこと。

 己の『個性』を正しく使うためには免許が必要である。それを得るために学生達は(しのぎ)を削る。

 誰でも得られるわけではない狭き門となっていた。

 もちろん、誰もが正義のヒーローになれるわけもなく。はみ出し者が出てくるのは自明の理。

 悪側につきたがる者は多くないが正義から零れ落ちた『個性』の使い道は様々であった。

 例えば――一般人に襲い掛かる泥の塊と化した(ヴィラン)などは――

 

「こいつ……何処から……」

「隠れミノ見っけ」

 

 泥は(ヴィラン)であった。それが素早い動きで三人の一般生徒に襲い掛かった。

 身体は流動的。だが、それでも(ヴィラン)は化け物ではなく人間だ。

 姿の変容もまた『個性』の特色である。

 タバコを()()()()()()()()男子二名はすぐさま逃亡を図り、彼らを咎めた『爆豪(ばくごう)』という少年は不意を突かれ、泥を浴びる。

 (ヴィラン)は流動的な身体を利用し、相手の体内に潜り込んで操るすべを持つ。その能力でヒーローから、警察から逃げおおせた。

 

 しかし――

 

 今まさに一人の少年が餌食になるところだった、のだが――

 流動的で物理的に掴めない筈の身体が不意に動きを止めた。いや、()()()()()

 

「な、なんだ!?」

 

 泥の塊にしか見えない(ヴィラン)は振り返る。

 そこには悪魔が居た。

 正確には憤怒の形相で泥を()()()掴む女子高生(真風羽)だ。

 

「……おい。あたしの服が泥まみれなんですけど?」

 

 確かに言われてみれば女子高生の姿は泥水を浴びたように汚れていた。

 (ヴィラン)の身体を構成する水分が漏れ出ていたようだ。それが偶々(たまたま)通りかかった真風羽の身体に()ねたようだ。

 

「ああ? 今はそれどころじゃ……」

 

 と言葉の途中で泥の(ヴィラン)に襲い掛かる真風羽。

 尋常ならざる速度を乗せた拳を仇敵と認めた相手に繰り出す。一拍の呼吸音の後に衝撃波が発生し、爆豪を取り込もうとした泥が吹き飛んでいく。――ついでに爆豪も一緒に。

 真風羽は()()()女子高生なので器用に相手を選別することは出来ない。

 

 

“Plus Ultra”

 

 

 真風羽のパンチ(りょく)の影響によって泥の(ヴィラン)が近くの壁に叩きつけられる。それはいかなる『個性』なのか。

 (ヴィラン)は吹き飛んだが制服の汚れは取れない。

 不満を示しつつ飛び散る(ヴィラン)に無警戒に近づく真風羽。

 

「クリーニング代。……出せ。ついでにタバコもよこせ、いいな?

「……は?」

 

 得体の知れない相手に(ヴィラン)は一言を発するので精一杯だった。

 何なんだ、この女は、と泥の(ヴィラン)は恐怖した。

 新手のヒーローか、と危惧するも自分の知る情報に女子高生の姿は無い。であれば何者だと疑問符がたくさん浮かぶ。

 真風羽はポケットに入っていた唯一の所持品であるライターを点け、それを(ヴィラン)の飛び散った身体に当てて(あぶ)ってみる。

 

(なんでライターがあってタバコが()えんだよ。……ライターが無ければ火は点けられねーけど)

 

 このライターはどこの店でも手に入る一般的な物で、特別なアイテムではない。

 大部分が泥で出来ている為に熱自体は然程感じない。けれども容赦のない行動に恐怖を覚える。

 

「なあ、お前。犯罪者だよな? 悪人なら殺していい法律になってんだよな?」

「……いえ、立派な殺人罪に問われますけど……」

「ああ? てめぇのような化けモン殺してなんで殺人に問われるんだ? この国の法律はいつ改正したんですか?」

 

 と言いつつこめかみに太い血管を浮かべ、(にら)みを利かせて威圧しながら恐喝する真風羽。

 ある意味、(ヴィラン)以上に恐ろしい人間と言える。

 今もどこか潰せないかあちこち殴ったり、踏みつけたりしていた。そして、失敗する度に舌打ちする。

 これでも真風羽はれっきとした()()()()である。

 攻撃方法が己の肉体を使った物理攻撃*1なだけで――

 (ヴィラン)側も言われっ放しではなく、反撃の機会を窺っていた。しかし、何故か、流動する肉体を平然と掴む真風羽から逃げられない。

 

(液状を掴む『個性』か? 衝撃波が出る攻撃に説明がつかん)

 

 緊急事態の為に思考が定まらない(ヴィラン)ではあったが危機回避能力に秀でていた為、無暗な深入りは危険だと感じ取った。

 とにかく、この女とこれ以上の問答はヤバイと――

 だが、逃げようにも万力で固定されたかのように動かせられない。

 女の細腕如きと頭では思っている。それなのにだ。

 

(手持ちにタバコがあれば……。だが、あったとしても俺の身体はヘドロだ。すぐに駄目になる)

 

 自身の『個性』を今ほど悔やんだことは無い。

 タバコ以外に金だが――こちらも逃走中に落としたようで大して残っていなかった。

 今頃大半の金を――(ヴィラン)を追跡している別の『ヒーロー』連中に――回収されている筈だ。

 

 

“Plus Ultra”

 

 

 相手(ヘドロのヴィラン)が何も持っていないと感じ取った真風羽は泥で崩れている顔らしき部分を(おもむろ)に掴んだ。それだけで液状化していた相手の身体が元の人間風に形作る。

 (ヴィラン)といえど元々は人間として生まれた。それが『個性』の発現と共に(いびつ)に歪んだりする。

 先天的。後天的。遺伝的。

 要因は様々だが地球の総人口の八割は『個性』持ちと言われている。ヘドロ状の(ヴィラン)もその中の一人だ。

 

「金が無くてもクリーニング代だ。さっさと持ってこいゴミクズ

(……俺達(ヴィラン)より悪人面してやがる。本当に女子高生か?)

 

 (ヴィラン)は真風羽から解放された途端に逃げようとした。しかし、そのあとすぐに回し蹴りを食らい反対方向の壁に激突する。

 液状化した肉体に平然と物理的に攻撃してくる女子高生に戦慄を覚える。それと自身の丈夫さは運がいいのか悪いのか――

 (ヴィラン)の襲撃から救われた爆豪はただただ雰囲気に圧倒されて黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

*1
技は格闘ゲームで(つちか)った。

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