あたし真風羽華代。タバコ吸えなきゃ地球滅ぼすんで。何ヒーローって? 勝手に決めんじゃねぇよ死ね死ね死ね 作:やまいこ
人は生まれながらに平等じゃない。
事の始まりは――
「長ぇよゴミ」
無感情に紡がれる言葉と同時に繰り出される拳。
人に向けて放ってはいけないレベルの殴打は――しかし、
名前は『ミュ』という。語尾もミュである。
猫の様な――
犬の様な――
背中に白い羽が生えている不思議な生物。
人語を介する以外は謎としか言いようのないもの。それが――今しがたコンクリート塀に穴をあける勢いで吹っ飛んでいった。
見た目にも可愛いと言われる
学校指定の制服を着用し、時より吹く風によって白いパンツが見えても気にしない。けれども見たものは必ず殺すと決めている。これは男限定である。
金髪ドリルのツインテールでお嬢様風――
清楚な容姿に平均的な太さの手足を持つ可憐な外観。
彼女の名は『
ちなみに――名前に反して――成績は
それが尋常ならざるパワーを発揮する人間とは到底思えない。しかも『個性』ではなく素のパンチでこうなのだから彼女の本気はどれほどのものか。
「ったく、ここ何処よ?」
学校に向かう途中で『アタスンモ』という悪魔のような外観を持つ化け物と戦っていたら見知らぬ道に迷い込み、絶賛迷子中だった。
学校をサボれる口実が出来たので別に大して困っていない。お腹が空くまでは――
「そういや小っこいのどこ行った?」
先ほど吹き飛ばした生物が戻ってこない。数分ほど待ってみたが一向に現れないので真風羽は早々に諦める。
居れば居たでうるさいだけだ。いつもは唐突に現れて襲ってくるアタスンモの姿も見かけない。
(……マジここ何処だ? 携帯も圏外みたいだし。ったく最近のスマホは使えねぇな)
最新機種である
では何が使えるのか。
(事前に
送る相手が居ないので真偽を確かめることは出来ない。自宅宛てで試してみたものの――いつもは即座に返ってくる返事も今は一向に無い。
近くの携帯ショップで聞けばいいのだが、その前に所持金を確かめる。と言ってもキャッシュレスの時代を先取りしている真風羽のサイフはとても軽い。ほぼカードしか無かった。
現金は持ち歩かない。無ければ寄ってくる――自称――『
そういう生活を続けてきた為、いざという時の対処に困惑してきた。
(……知っているところならまだなんとかなったのによ。めんどくせぇな)
ポケットが空――タバコ以外の事は頭に無かった――だと分かるやいなや、あからさまに不機嫌となった。それはもう可愛らしい清楚さは何処へやら。今にも人を殺しそうな憤怒の
「……チッ」
最近は喫煙の規制が厳しくなり、購入もままならない。普段は親が――会社ごと――買い占めたタバコが大量にあったので新規に買う必要が無かった。しかし、今は手持ちが無くなったら購入せざるを得ない。
未成年である真風羽に売ってくれる店は――おそらく――無い。であればどうしたらいいのか――
当ても無く歩いていると真風羽の嗅覚に反応があった。それはとても馴染み深い匂い――タバコのもの――であった。
反応を探っていると前方から歩いてくる一団を見つける。
服装は何処かの学校の学生服。年の頃は中学生風が複数人。
ガラの悪そうな男子生徒達だ。
「やっぱり
「お前らタバコはやめろっつってんだろ!」
三人居る中で一番の極悪人風の面構えの男子が友人――と思われる――が持っていたタバコを
思わぬ行動にタバコにロックオンしていた真風羽は驚愕した。
運良く見つけたので平和的に分けてもらおうかな、と思った矢先の行動だったので激しい怒りが
自身は認めていないが、
「……お」
い、と声をかけようとしたところへ別方向から得も言われぬ物体が男子達に襲い掛かった。
通路は一方通行ではない。真風羽にも死角はある。その死角から現れたのは間違いなく化け物であった。しかし、
襲来者は俗に『
『個性』を持て余した人間は正義か悪に分かれる。様々な事情があるにせよ、犯罪行為は容認できない。それゆえに『個性』の乱用は法律で規制されている。これは正義側であっても同じこと。
己の『個性』を正しく使うためには免許が必要である。それを得るために学生達は
誰でも得られるわけではない狭き門となっていた。
もちろん、誰もが正義のヒーローになれるわけもなく。はみ出し者が出てくるのは自明の理。
悪側につきたがる者は多くないが正義から零れ落ちた『個性』の使い道は様々であった。
例えば――一般人に襲い掛かる泥の塊と化した
「こいつ……何処から……」
「隠れミノ見っけ」
泥は
身体は流動的。だが、それでも
姿の変容もまた『個性』の特色である。
タバコを
しかし――
今まさに一人の少年が餌食になるところだった、のだが――
流動的で物理的に掴めない筈の身体が不意に動きを止めた。いや、
「な、なんだ!?」
泥の塊にしか見えない
そこには悪魔が居た。
正確には憤怒の形相で泥を
「……おい。あたしの服が泥まみれなんですけど?」
確かに言われてみれば女子高生の姿は泥水を浴びたように汚れていた。
「ああ? 今はそれどころじゃ……」
と言葉の途中で泥の
尋常ならざる速度を乗せた拳を仇敵と認めた相手に繰り出す。一拍の呼吸音の後に衝撃波が発生し、爆豪を取り込もうとした泥が吹き飛んでいく。――ついでに爆豪も一緒に。
真風羽は
真風羽のパンチ
不満を示しつつ飛び散る
「クリーニング代。……出せ。ついでにタバコもよこせ、いいな?」
「……は?」
得体の知れない相手に
何なんだ、この女は、と泥の
新手のヒーローか、と危惧するも自分の知る情報に女子高生の姿は無い。であれば何者だと疑問符がたくさん浮かぶ。
真風羽はポケットに入っていた唯一の所持品であるライターを点け、それを
(なんでライターがあってタバコが
このライターはどこの店でも手に入る一般的な物で、特別なアイテムではない。
大部分が泥で出来ている為に熱自体は然程感じない。けれども容赦のない行動に恐怖を覚える。
「なあ、お前。犯罪者だよな? 悪人なら殺していい法律になってんだよな?」
「……いえ、立派な殺人罪に問われますけど……」
「ああ? てめぇのような化けモン殺してなんで殺人に問われるんだ? この国の法律はいつ改正したんですか?」
と言いつつこめかみに太い血管を浮かべ、
ある意味、
今もどこか潰せないかあちこち殴ったり、踏みつけたりしていた。そして、失敗する度に舌打ちする。
これでも真風羽はれっきとした
攻撃方法が己の肉体を使った物理攻撃*1なだけで――
(液状を掴む『個性』か? 衝撃波が出る攻撃に説明がつかん)
緊急事態の為に思考が定まらない
とにかく、この女とこれ以上の問答はヤバイと――
だが、逃げようにも万力で固定されたかのように動かせられない。
女の細腕如きと頭では思っている。それなのにだ。
(手持ちにタバコがあれば……。だが、あったとしても俺の身体はヘドロだ。すぐに駄目になる)
自身の『個性』を今ほど悔やんだことは無い。
タバコ以外に金だが――こちらも逃走中に落としたようで大して残っていなかった。
今頃大半の金を――
先天的。後天的。遺伝的。
要因は様々だが地球の総人口の八割は『個性』持ちと言われている。ヘドロ状の
「金が無くてもクリーニング代だ。さっさと持ってこいゴミクズ」
(……
液状化した肉体に平然と物理的に攻撃してくる女子高生に戦慄を覚える。それと自身の丈夫さは運がいいのか悪いのか――