あたし真風羽華代。タバコ吸えなきゃ地球滅ぼすんで。何ヒーローって? 勝手に決めんじゃねぇよ死ね死ね死ね 作:やまいこ
唐突に襲われた
よく分からない女子高生が自分を救ったかと思えば
同年代であれば絶対に譲れない矜持を示しているところ。
それなのに圧倒的ともいえる存在感によって普段は――呆然と佇むこと――しない失態を犯していた。
(なんなんだ、こいつは)
その言葉が何度も内に湧いては響いていく。
まず彼がしなければならないことは助けてくれたことに対する謝礼である。しかし、自尊心の塊ともいうべき爆豪にそんな気持ちは皆無に等しい。
ただただ自分の出番を奪った相手が許せない。こいつは俺が倒すべき敵だ、と。
――いつもであればすぐにでも突っかかっていくところだ。特に
(……どうして液状化した身体を掴める? それが奴の『個性』なのか?)
表情は怒りに近いが内面は至極冷静であった。
状況分析も大事だが対処法を自分でも考えておく。それは
それは自分が『ヒーロー』になるために必要だと思っているからだ。
大事なことは相手に負けない事。勝つのはついでだ。
自分の能力の弱点くらい把握している。それが爆豪少年であった。
先程から
能力自体は至極単純な
特殊な光線やら飛び道具類は見かけない。
(油断はしたが爆発の能力が通じねえ相手でもねえ。……しかし、取り込まれていればヤバかったのは事実だ)
外見的には向う見ずに見られがちだが爆豪は反省できる人間だ。それが発揮されるのに少し時間がかかるだけで。
「金が無いならおまわりさんが来るまで大人しくしてもらおうか。あたしの服を汚しておいてさようならは常識を疑っちゃうなーあぁ?」
凶悪な表情で
威圧感はあったけれど恐怖するほどではないと爆豪は判断する。
彼女の目標はあくまで
「適度に痛めつけておかねーとなぁ、おい」
ガスガスと泥を踏みつける。
いくら物理的な攻撃とはいえ大して通用しないのでは、と思ったものの反撃は今のところ無い。効いているのかは疑問である。
先程から
黙って見ているだけではいけないと思い返した爆豪は近くで様子見をしていた一般人に警察などを呼ぶように言った。
それから程なく『プロ』ヒーロー*1が現れる。
駆けつけたヒーローと警察機関によって現場検証が
先程まで暴力の権化が居たはずなのに今はどこにでも居そうな
真風羽は素行に問題はあるが敵が居なければとても大人しい子である。ただし、タバコを吸っていなければ
「ちょっと~。この人のせいで服が汚れたんですけど~。クリーニング代は誰が出してくれるんですかぁ~」
(あとタバコ吸いてえ。めっちゃタバコ吸いてえ。ヤニタイムはもう限界に近い)
「んっ? そういうのはちょっと……」
「暴力を受けたり、辺りの損壊程度によっては保証金が出るかもしれないけれど、単なる衣服の汚れは……自己責任かな」
「チッ」
真風羽のあからさまな不満にヒーロー達は苦笑した。
警官の方は素行の悪そうな女子高生の態度に不満を覚えつつも淡々と仕事をこなしていく。
この世界の警察は『個性』を悪用する
事情聴取をしようにも不満顔の真風羽に恐れをなした警察。同じくプロヒーローも近づき難い印象を持った。
かといって事件を起こした
それから――真風羽よりは素直な爆豪が分かる範囲で応えていたが、彼もやはり謎の女子高生の存在を気にしていた。
(……不本意だがこの女は強い。しかも何らかの『個性』を持っている気がする。態度から俺達の事なんて眼中にねーようだが……)
そもそも爆豪を助けようとしたわけではなく、
そう考えれば単なる正義感で
自分の知るどのヒーローとも違うようだし、もしかすれば別の地方から出てきた『ヒーロー志望者』かもしれない。
(……だが、情けねえ姿を晒しちまった。今の俺じゃあまだ力不足なのか……)
爆発力には自信がある。だが、ただ単に飛び散るだけでは駄目だと思い知った。
相手はそんな事でも動じないタイプだった。であれば次はどうするのか――
爆豪は過信しない。
己が一番のヒーローとなる為に。憧れの存在に認めてもらえるように――いや、
強い想いを抱く彼とは対照的に真風羽はイライラを募らせていた。早くタバコが吸いたい、と。
一向に開放してくれない事で真風羽の顔は少しずつ険悪になり、地面にヒビが入っていく。それを宥めようにも彼女の機嫌は直らない。
一見、不良娘の様な彼女だが警察や法律を――一応――遵守する気持ちがある。
『アタスンモ』なる化け物は問答無用で肉塊にするほどだが。
「君の言う住所が全く見当たらないんだが……」
「知るかよ、クソポリ公が」
そう言って地面に唾を吐く真風羽。もはやいつ怒りが爆発してもおかしくない。
最初に見かけた時よりも邪悪な顔に変化し、爆豪は一歩後ずさる。いや、他のプロヒーローすらも。
真風羽は聞かれた質問に全て答えた。それなのに警官は疑いの目を向けている。
あまり信用されていない事は自覚している真風羽だが犯罪者を捕らえた自分を長時間拘束してくる警察のやり方が理解できない。
先程から言葉の端々に出てくる『個性』とは何なのか。
普通に殴って捕まえた。それが通じないのであれば他に説明のしようがない。
(あー、めんでえ。めんでえ。めんでえ)
ぶっ殺そうかな、という考えが過ぎるが殺人が良くない事は理解している。
警察官をぶっ飛ばせば更に面倒ごとが増える事も。
(そういや。
彼女を『魔法少女』にした――らしい――
本当に殴り殺せたのはアタスンモだけなのでいまいち実感が湧かない。けれども試す気も無かった。
面倒ごとは嫌いだし、タバコさえ吸えれば
「彼女の言葉が本当だとして……、この携帯端末はどう説明する?」
そう言ったのは側に居たプロヒーローの一人。真風羽に頼んで操作してもらった。
素直に従ってくれたので意外だと驚いた。
最新機種である事を除いてスマホ自体におかしなことはなく、操作にも特に――
彼女の使い慣れた操作によって出された住所は警官立ち合いで確認すると確かに見知らぬ地名ばかり出てきた。
ネットを介した情報は遮断されており、ローカルに保存されている情報だけとはいえ真風羽の言葉に嘘が無い事は理解した。だが――
(現住所はこちらだと道路の上だったり、住宅街になっている。それと電話番号も通じない)
留守ではなく使われていない番号だった。
それ以外で真風羽の保護者を特定する情報は出てこなかった。
(つまり……どういう事だ? 嘘ではないが本当でもない?)
「……で、あたしの情報が無い場合は捕まるの? 犯人を捕まえた正義の人を公務員は何の罪で捕まえるの? 住所不定無職罪?」
敵意剥き出しで真風羽は警察に詰め寄る。
可愛らしい容姿を歪めた威嚇は中々に迫力がある。
(……警察のデータベースにも無いならあたしはどうすりゃいいっての。頼れる知人が居るわけもなし)
学校に友人
少し興奮気味ではあるが思考は鮮明に物事を分析していた。
ここは似て非なる世界だ。
そんな予感がした。
見覚えがあるようで様々な違いがある。まず『個性』を持つ人間による活躍など真風羽の知る日本には無い。それとアタスンモが今も出てこない。
いつもは潰されにすぐ出てくる都合のいい敵だが、今もって現れないところを見ると居ない世界に来たとしか言いようがない。
(そもそも圏外になるほど遠出はしちゃいないし。通信が遮断された事なんて無かった)
情報化社会においてスマホは必需品だ。それが使えないのは残念だが。
それにもまして今一番の懸念は――タバコを吸えない事だ。
一向に進展しない状況に真風羽は彼らの相手をするのはやめようかなと思い始めた。
知らない土地であるならば何をしても問題は無い。いっそ世界も潰してしまおうか、とまで――
普段であれば小うるさい珍生物が色々と手を回してくれるのだが、今は真風羽ただ一人。とても危険である。――世界にとって。いや、地球にとって。
(タバコが吸いてえ。タバコが吸いてえ。タバコが吸いてえ)
面倒な手続きに付き合うのも我慢の限界だ、と言わんばかりだ。
そんな彼女の鬼気迫る迫力は既に周りにも伝播している。確実に――真風羽を長く留めるのは危険である、と。
しかし、公務員である警官達はすんなりと開放するわけにはいかない事情がある。
税金を貰って仕事をしているので。だが、正直に言えば扱いに困っていた。
住所不定の女子高生を引き留めるにしても解放するにしても。しかも連絡手段は断たれている。
一時保護をして保護者か知人を捜索するとなると長く拘留することになる。だが――
(……めんでえが……。その前に……。お腹が空いてきた)
魔法少女としての能力を十全に発揮していないとはいえ運動すれば腹が減る。特に真風羽は育ち盛りの女の子である。
周りに聞こえるくらいの音が腹から響き渡った。
家に帰れば充分な食糧を得られるが、ここではそうはいかないと理解する。であればほぼ無一文同然の現状をどうすればいいのか――
無銭飲食は想定していない。適当な『
そんな現状を見ていた爆豪少年は気を利かせて助けよう――という気持ちは湧かず、ただただ驚いたり呆れたりしていた。それは他の者も同様であった。
プローヒーローが揃って突っ立っている。警察も
真風羽はただ無意味な問答を強いられている。
もはや何を言われても右から左へ流れるが如く。
そこへ颯爽と現れる救いの手が――
しかし、都合よくそんな存在が現れる筈もなく、警官の尋問はしばらく続いた。
ただ、物陰からなんとかしようという気配があり、真風羽達の会話の内容も大体聞かれていた。しかし、それでも一歩前に出る事が躊躇われていた。
何故なら
そう自分に言い訳をしている
元はと言えば――
(……どうしよう。かっこよく登場しようにも事件があっさり解決しちゃった今はとても出づらい)
それに体調も良くない今は療養が先決である。それと責任が自分にあるとはいえ手柄を横取りするような真似をしては印象が悪くなる。――どちらにしても印象が悪くなる事には変わらないのだが――
そんな事を考えているのは病的なまでに痩せた人物だった。